ウルキオラさんがTS転生していく話   作:鉄パイプ

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~本日のコラム~
「抑圧される青少年と異常発達した性知識」

近年、性欲と知識を間違った方向へと伸ばしてしまっている青少年の話をよく耳にする。小学生にして稚拙な言葉とは違う、いわゆる隠語を容赦無く口にしている事だって珍しい事では無いかもしれない。原因は当然、インターネットの世界的発達。何かワードを打ち込めばそれだけで情報が得られるネットは、少年少女とさえ呼べてもおかしくはない者達に中途半端な性知識を与え続けた。さらに、それに加えて異性に対する積極性までも中途半端に得てしまった彼らは、微妙なタガの外し方をしてしまい、異性間の交遊から一歩離れた生活を送ってしまう事が多い。青春時代にセックスパートナーを得られないまま成人し、ちょうどその辺りで消極的になってしまった人物こそが「少子化問題」の一角を背負っているのだと述べよう。だが若年より吸収した性知識を抑圧され続けた人物の中には、希にそれを爆発させてしまう者が現れる。犯罪紛いの事を平気で為し、妙な方向に情熱を向ける。
その例として、現役高校生三人にスポットを当てて、考えてみようと思う。


(一部抜粋)




ウルキオラさん、高校入学

『皆さん、入学おめでとうございます――』

 

 

桜舞う四月の春先。俺は駒王学園に入学した。

 

今年度の一年生の生徒数、総勢394人。男女内分比率は約三対七、数値にして113人と281人。数年前までは百合の花咲き誇る女子校だった名残はしっかりと残っている。

校内には体育館、剣道場など様々な施設があるが中でも気になったのは新校舎の裏に存在する旧校舎。基本立ち入ってはならないとの指定で、それを聞いた馬鹿三人がうずうずしていたのをよく覚えている。

 

 

『この高校が信条とするもの、5つあります。何か分かりますか――』

 

 

五人各々が真新しい駒王学園の制服に身を包み、学園へと向かった先で通されたのは体育館。悪魔の支配下にある学校といえど、入学式は体育館にて行うというのは変わらないようだった。

 

周りを少し見回す。俺の座る位置は全体から見ると左前辺りだ。その席から3つ右へ行った所に。

 

 

「すげぇ…!!美人ばっかりだし…あ、あの壇上の女教師おっぱいデカい…!!」

 

 

早速、妙な事を興奮しながら呟いて周囲の女子にドン引きされている兵藤(クズ)。そしてその幾つかの後ろの席には。

 

 

「そ――女の―――の―V女優―似――ね――わいい―な――」

 

「確か――てる――で―あっちの――くね――?」

 

 

忙しなく周囲の女生徒に目を配りながら遠目でもろくでもない会話をしているのが分かる愚弟(ゴミ)松田(カス)。こちらも間違いなく周囲から避けられている雰囲気が漂う。

 

コイツらは女性と仲良くなる気は無いのか。

 

 

『あなた逹のこれからの学園生活一日一日が良い日となる事を願っています――。』

 

 

学園長が話し終えて、会場全体から拍手が上がる。

そんな中で壇上に座っていた生徒会らしい上級生の1人が立ち上がる。

あの人物が生徒会長か、と意識を向けると偶然その隣の人物と視線がかち合った。

 

 

「……!!」

 

 

知的なイメージを発するレッドフレームの眼鏡。艶やかな黒髪を首元で切り揃え、その顔に貼り付けたるは威厳の二文字。適度に膨らんだ胸部とすらりとスカートから伸びた脚が異性からの視線を惹き付ける。気品、ルックスは上々だが厳しそうな表情が受け付けない等と思う人物も、時折向けられる微笑に骨抜きにされる。

薄桃色の目が一瞬こちらを睨んだかと思うと、その顔がすぐに周囲に向けていた作り上げたような笑顔になった。

確実に警戒している態度だ。

 

 

『続いては生徒会長からの挨拶です――』

 

 

あの女は生徒会長のすぐ隣の席に座っている。つまり彼女は生徒会でもそれなりに高い地位、それこそ「副会長」程の地位という事だ。

生徒会長が何か話し始めたが、気に止めずにその女に探査回路を集中させる。若干靄がかかったように見えるが、その魂の形は確実に人間の物とは違っていた。

勘違いなどではない、彼女が『悪魔』だ。

 

 

「支取、か」

 

 

彼女の名前をぼそり、と呟きながら更にその隣の女性に何気無く視線を移すと。

 

何となく予想は出来た光景があった。

 

 

悪魔。悪魔。悪魔、悪魔悪魔悪魔。

 

現在壇上にいる駒王学園の制服を着ている生徒会メンバー全員から、同じ波長を感じた。

 

(……覚悟はしていた、が…本当に巣窟とはな)

 

今の状況、例えるなら知識を持った賢い鰐(わに)達の巣の中に居座るような感覚。

最初から取って食うような考えをしているワケでは無いとはいえ、新しい学校への入学の門出を人外で囲まれたりしたならば怪しまざるをえない。

 

 

『部活動も沢山ありますし、生徒会への加入も歓迎します。どうか学校生活を楽しんでください――。』

 

 

入学式をそんなありきたりな一言で締める。

学園長と同様に生徒会長は拍手に迎えられながらも椅子に着席した。

新入生が教員の指示に従って動き始める。

 

この入学式の後は、発表された各々のクラスに行っての面合わせだと書いてある。

 

 

 

 

 

「遠いよっ!!せっかくの同じクラスなのに~!!」

 

「大人しく座れ」

 

1学年10クラス、1クラス40人弱。

意図的か偶然か、自分と井上、愚弟(ゴミ)兵藤(クズ)松田(カス)がそれぞれ同じクラスに分けられた。

過ごす場所が同じ、と張り切って1-Dの扉を潜った彼女を待っていたのは教室の端から端ほどまで離れたお互いの席の位置。

 

 

「名字の頭文字を見ろ、近い方がおかしいだろう」

 

「……でも…」

 

 

席順は名前の頭文字で決められる以上、あ行とま行の自分達には絶対的な距離ができる。

 

机に伏せて動かなくなる彼女。そして聞こえる鼻をすする音。

 

 

「その程度で泣くな。餓鬼か、お前は」

 

「だって心細いし!!同じ中学の人、美咲ちゃんしかいないし!!」

 

「他の連中にも声をかけてみろ」

 

 

ぶうたれながら机を叩く彼女を止めて、そんな助言を与える。

渋々周りを見渡すその口元は尖っていて、納得がいってない事を表していた。

教室内に出来上がったグループを順番に見回していく。

自分達と同じ様に中学からの知り合いらしい4、5人の女子の集まり。

肩身が狭い中、気の合った仲間を見つけたかのような2、3人の男子陣。

気力が切れたのか、机に突っ伏す男女数名。

そして―――

 

「ねぇ、美咲ちゃん。あそこ何の集まりだろうね?」

 

「少なくとも近寄るべき集団では無いな」

 

「でも…あの女子の集団に囲まれてるの男子だよね」

 

 

自分達の後方、見目麗しい可愛らしい女子から養豚場の豚のように肥太った女子まで様々な容姿の女子8人が一つの席を中心に円を作っている。

こちらに背を向ける脂肪の塊のせいでその中心がよく見えないが、金色の髪が隙間からちらと見えた。

 

 

「あー、あそこに混ざる…?」

 

「お前一人で行ってこい」

 

「じゃあ行かないっ」

 

 

その時、教室前方の扉を開けてスーツ姿の初老の柔和そうな男性が入ってきた。

それを確認した教室内の生徒逹が指定された自分の席へと戻って着席していく。

 

 

「むー、じゃあ後でね」

 

 

その言葉を背に後方の自らの席に戻ろうとする。

その際、先程多数の女子に囲まれて見えなかった人物が視界に入った。

 

 

笑顔。それも満面の。

 

 

ヘタをするとそこらの女性よりも指通りの良さそうな純粋な金髪をもったその人物。

そんな人物が線を三本書くだけで出来そうな爽やかな笑顔をこちらに向けていた。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

横を過ぎ去るが、言葉は無い。

だが、俺はその人物の名前を自身の中で呟いた。

 

 

(――木場、祐斗)

 

 

教室に入る前には既に気付いていたその人物の存在。

名前は気付いた直後に名簿で確認した。隣の教室からそれぞれ幾つかの『悪魔』の存在を感じ取ったが、この教室内では唯一、人間という種族から外れた霊圧を探査回路が示している。

 

自分が着席すると、初老の教師の賛辞の言葉が始まった。

 

その間も奴の視線を何度か感じた。

 

監視、或いは動向の調査を命じられているのだろう。接触もそう遠くは無い。

 

 

 

牽制と挑発。

自分は敵意を、彼は笑顔。

教室で、廊下で、通学路で。

 

会う度、それらを互いに飛ばしあって「早2週間」。

 

やっと事態が動いた。

 

 

 

###

 

 

 

「祐斗、どうかしら?ソーナから来た報告にあった生徒の行動は」

 

「動向に異常はありませんよ。誰かに不審な連絡をした形跡もないですし」

 

「彼女自身に何らかのおかしな点はあった?」

 

「…彼女、勘がやけに強いんです。僕が彼女に視線を向けようものなら、一秒もたたずにこちらに気付いて睨み返してきました。あとは……」

 

「あとは?」

 

「……気のせいのような気もするんですが、彼女が僕の役割に気付いているような気がして」

 

「監視って役割に?つまり祐斗はソーナの報告の通り、グレーだと?」

 

「いえ、学園での態度だけを見るなら、彼女は間違いなくシロですよ」

 

「どういう事?」

 

「…纏めるなら、彼女自身や交流関係は何も問題がありませんけど、無駄に勘がいいせいで僕に反応してしまって…何か余計に誤解を生んでいるような……」

 

「そう…発見して報告したのがソーナだから間違いは万に一つ無いと思うのだけど…」

 

「まあ、数ヶ月も前の報告ですからね。報告の通り『暗示にかかっていた』のなら、もう解けている可能性もあります」

 

「そうね………祐斗」

 

「はい」

 

「ソーナからは『調査は慎重且つ可及的速やかに』なんて言われたけど、両立なんて難しいと思うの。だからね――」

 

「――『速やかに』ですか」

 

「ええ、こうした方がグチグチ悩まなくて済むわ。そろそろソーナが途中経過を聞きに来る予定だけど、構わないわ」

 

「具体的な方法に何か注文は?」

 

「無いわ、好きにやってちょうだい」

 

「分かりました、リアス先輩。行ってきます」

 

「ええ任せたわ、私の『騎士(ナイト)』―――」

 

 

 

 

「――『速やかに』……ね」

 

 

 

###

 

 

 

「こ、これってやっぱり…!?」

 

「な、なぁイッセーさん?お、お、俺ら避けられてないことございませんでしょうか……ッ!?」

 

「や、やだなぁ~そ、そんな事……」

 

 

震え声のまま三人揃って、空いていた中庭のベンチに腰掛ける。

と、同時に隣のベンチに座っていた読書中だったらしい文学少女が、急に立ち上がって、何処かへと早歩きで去っていった。

その少女がある程度まで距離を取ると、急に駆け出して校舎の中へと消えていくのが見えた。

見えてしまった。

 

 

「「「………」」」

 

 

三人が同時に、両膝に両肘を載せて頭を抱える。

ベンチに、脂汗が落ちる。

やけに大きな音をたてて。

 

 

「……なぁ、元浜、松田、俺らが何やったか、振り返ってみようぜ…」

 

「「…おう」」

 

 

三人が同時に顔を上げる。

 

見上げた空は皮肉なことに快晴である。

雲一つ無い大空に心が洗われていくような感覚を覚え、アルカイックスマイルを浮かべる三人。

そして回想が始まる。

 

 

「入学式、当日」

 

「「入学式、当日」」

 

 

「俺らは、同じクラスになった事を心から喜んだ」

 

 

「同時に、周囲の女子のルックスのレベルの高さに大声を上げて喜んだ」

 

 

「思わず、『女子校サイコーォッ!!【自主規制(ピー)】サイコーォッ!!』……と」

 

 

三人の一銭の価値にもならないスマイルが濁る。

鼻と顎が尖って、背後でざわめきが聞こえ始めた。

当然、幻聴に幻覚だが。

 

彼らの回想が次のシーンに移動する。

 

 

「新入生クラス内オリエンテーション」

「「オリエンテーション」」

 

 

「クラス内でグループを作って趣味の紹介をしあう事になった」

 

 

「そして出番はあっと言う間に回ってきてしまった」

 

 

「みんなの前で何か無いかと焦って鞄をひっくり返して出てきたものは、『熟女のこくまろミルク』と書かれたDVDが、三本」

 

 

三人の顔から光が消えた。白眼を剥き、軽い痙攣を発症し始める。

その光景を、昼休みの部活動でランニングをしていた女子数名が偶然見つけ、遠くから悲鳴があがる。

 

だが三人は気付かない、気付く気力が無い。

 

 

「本日」

 

「「本日」」

 

 

「魔が差して―――」

 

 

 

「女子更衣室を―――」

 

 

 

「のぞきました―――」

 

 

最後の元浜の告白の次の瞬間、ゆっくりと、ゆっくりと、三人は同時に地面に崩れ落ちた。

どしゃあ、と砂埃が立ち上る。

 

そして、兵藤が涙ながらに呟いた。

 

 

「―――……バレました」

 

 

 

彼らの希望という名の社会的地位は、本日、シュレッダーにかけられた。

残ったのは、『ゴミ』と『クズ』と『カス』。それと、女子の冷たい視線のみ。

彼らの目から涙と不純物の混じり合った何かがこぼれ落ちる。

 

 

「……なぁイッセー」

 

「……なんだ」

 

「……これからどうやって生きる?」

 

「……死ぬ」

 

「……そうか、頑張れ」

 

 

会話すら成立しない。が、彼らはその事にも気付かない。

今、この瞬間も他の女子生徒に三人が倒れ伏して寝言のように呟く場面を見られている。

陰口と、悲鳴が彼らの耳に入ってくる。

 

 

「……ほら、松田、お前騒がれてるぜ?」

 

「……ははっ、モテすぎてツラいね」

 

「……松田、あの子辺りに告白してみろよ」

 

「……すまないね、俺は心に決めた人がいるんだ」

 

「……そうか、頑張れ」

 

 

彼らのそんな会話モドキはその後、10分ほど続いた。

 

 

 

 

校内に戻った兵藤、元浜、松田の三人は、とぼとぼと自身の教室に戻っていく。

意気消沈、そんな四字熟語を背に抱えて三人は二階の廊下を行く。

沈黙の中、元浜が口を開いた。

 

 

「午後最初の授業…なんだっけ」

 

「確か、倫理」

 

 

松田もまた、呆然としながら答える。

そっかそっか、と首を振りながら適当に返答する元浜だが、その時彼の真横を女子生徒が駆け足で過ぎ去っていった。

 

 

「ん?」

 

 

何気なくその女子生徒に視線を向けると、幾分か先で彼女もまた、こちらを向いていた。

元浜に見られている事に気付き、ひっ、という軽い悲鳴を残して彼女は小走りで随分先に見える教室に駆け込んでいった。

 

廊下を進む三人の脚が、また止まる。

 

 

「なあ、松田」

 

「なんだよ」

 

「もう慣れた」

 

「哀しきかな、人間の性だな」

 

 

そうとだけ呟くと、彼らは何事も無かったかのように歩き出した。

 

この学校内で今の彼らを認める女生徒がどれほどいるだろうか。

駒王学園現一年生の男子生徒の評判を崖から落ちるような速度で貶めている彼らの事を。

 

 

(姉さん、と……真紀ちゃんは…どうだろうな)

 

 

元浜の頭に浮かんだ二人は、同じことを考えた他の二人と全く同じ人物だった。

 

彼らからは、厳しくありつつも気にかけてくれてきた姉的存在と、無償の善意を常に此方に向けてくれるアイドル的存在の彼女達は救いの光も同然だった。

入学して早2週間、ほぼ毎日のように肩を並べて下校してくれる二人の女子。

 

彼女達がいるだけで、まだまだ彼らの学園生活は暖かい色を保ったままでいられる。

 

 

何気なく溜め息を漏らすと、偶然隣の二人の溜め息と重なった。

思わず顔を見合せ、小さな笑いが込み上げた。

姉達だけではない、隣の二人のような悪友だっている。

 

 

「ははっ……教室に戻るか!!」

 

「そうだな!!」

 

「また先生に目を付けられるのも御免だしな…!!」

 

 

肩を叩きあって、笑顔で慰め合う。

彼らの『前科(ノゾキ)』が無ければ、そこには美しい男同士の友情があったと言えよう。

 

ちょっかいを掛け合って、ふざけながらまた廊下を歩いていく。

 

 

 

これで、彼らの友情のお話は終了―――

 

 

 

 

 

「――……お、あれ美咲お姉さんじゃないか?」

 

「…ホントだな、声掛けようか」

 

 

三人の歩く先の階段、そこを昇っていく翡翠色の目をした黒髪の女子が見えた。

松田が気付いて上げた声を筆頭に他の二人も気付く。

 

 

「おーい!!姉さ―――」

 

 

 

手を挙げて、声を掛けようとした次の瞬間、気付いた。

 

 

 

彼女の隣を歩いていた、金髪の、イケメンに。

 

 

 

「「「…………」」」

 

 

それぞれの体勢で固まる三人。ビシリ、と石の固まるような効果音まで聴こえてきそうな、見事な固まり具合だった。

 

そして、二人が階段を昇って上の階へと消えていってから約10秒後。

 

 

「あれ木場じゃね」

 

「あれ木場だな」

 

「間違いなく木場だな」

 

 

先程のように三人の視線が混じり合う。

 

彼のイケメンの事は既に三人の間を伝わっていた。

数日前に井上が話に出していて、一度その面を拝みにいったことがあるからだ。

後光が見えそうな程の眩しいスマイルを直視出来なくて、すぐに退散したが。

 

そんな校内1のイケメンとして崇められる男子が、元浜美咲と隣り合って歩いていたのか。

その理由を、彼らは知る由もない。

 

だが、彼が、元浜美咲と隣り合って歩いているだけで、彼ら三人の心は一分のズレもなく合致した。

 

 

 

―――イケメン死すべし、慈悲は無い

 

 

 

 

「追えェェェェェェェェェいッッッ!!!」

 

「逃がしたら殺すッ、逃がさなくても殺すッ!!」

 

「タマぁブッ潰せェェェェッッッ!!???」

 

 

三人は同時に剛速で駆け出す。

両腕を脚と共に振り切る短距離スプリンターの走り方。

彼らの上靴が硬質ゴムの地面を蹴る度に、タッタッタッタッ、と弾くような小気味の良い音を廊下に響かせる。

追跡者、猛禽類のような目をした男子三人が、同じポーズで廊下を駆け抜けていく。

それはまるで獲物を追い掛けるチーターのようであったが、三人が同時に脚を上げて走るという点が気味悪さと不気味さと一種の美しさを醸し出していた。

 

彼らが地面に『2』と書かれた階段に辿り着く。

が、そこに目的の男の姿は無い。

彼らは同時に歯軋りを立てる。

 

 

「階段目の前、12段。折り返して、11段」

 

「「応!!」」

 

 

松田の冷静な分析の声に、二人は揚々と返事を返す。

また同時に動き出し、階段を駆け上がる。

二段、二段、二段、二段。快調に間の段差を飛ばし、全力ダッシュのスピードのまま、一階の踊り場へと出る。

そのままの勢いでは踊り場の壁へとぶつかることは免れないが、彼らに恐れる気持ちは無い。

それどころか、ぶつかる気すらない。

 

 

「「――――ッ!!!」」

 

 

外側を走る兵藤と中側を走る元浜が前に躍り出た。

速度は極力殺さない。

前へ突き出した二人の右足が、踊り場の中央を力強く踏み締める。

 

その一歩。

その一歩で次の階段へと跳び移るべく、右足が限界まで曲がっていく。

 

 

まるで、アルファベットの「V」のように。

 

 

限界まで引き絞られた右足が、爆発する。

その右足の爆発は二人の狙い通り、左足を次の階段へと発射した。

それと同時に内側を走っていた松田が豪快に手摺を飛び越え、また三人の肩が何事も無かったかのように並ぶ。

二段、二段、一段ととばしてその階段を昇りきる。

 

そして、三人は地面に『3』と書かれた階層へと出た。

(イケメン)の姿は、無い。恐らく屋上へ向かったのだ。

 

三人が、上の階層への階段を仰ぎ見る。

 

 

「階段目の前、12段。折り返し、14段。踊り場に5名の女生徒を確認」

 

 

二度目の松田の分析、それを聞いた二人は跳ねられたように動き出す。当然松田も二人と同時に階段へと脚を伸ばした。

 

二段、二段、二段―――。

 

そこまで行った所で、踊り場で楽しそうに話す集団が見えた。

見事なまでに進路を塞いでおり、彼女達の間の僅かな隙間を通り抜けるのは至難の技、否、ほぼ不可能に近い。

 

だが彼らは止まらない。それどころか走る速度を上げている。

 

そして、外側二人の脚が二度目の踊り場の床を踏み締めた。

その瞬間。

 

 

「イッセー!!スライスインッ!!元浜ァ!!ヒッチッッ!!」

 

 

指示が飛んだ。

 

それはあるスポーツの走行ルートを示した単語であった。

聞いた兵藤と元浜の脳内に記憶と電気が流れる。

松田の指定した走行ルートが二人の頭の中に光の道となって浮かぶ。

 

 

刹那、その踊り場の空間の流れが遅く見えた。

松田が、先程のように手摺を両足で飛び越える。

元浜が、体勢を低くし、手摺にもたれ掛かる一人の女子の下腹部の寸前を抜ける。

兵藤が、中央の女子二人の眼前をジャンプしながら飛び抜け、奥の女子の周囲を高速で周って抜ける。

 

何かが飛び込んで来て驚く女子達、その顔が非常に可愛らしく、撫でて揉んで写真を撮りたくなったが、今はそんな場合では無い。

 

 

加速が終わる。

三人が残りの14段の階段に辿り着いた時、やっと5名の女子が自身の周囲を通り抜けた者の正体に気付く。

が、もう遅い。

 

彼女らが悲鳴をあげて階段を下っていく頃には、三人は最後の階段を昇り終えていた。

 

後は、目の前の屋上へのドアを開くのみ。

 

 

 

(姉さん――姉さん―――姉さんッ!!)

 

元浜は姉の安否を心配する。校内1のイケメンと歩いていただけなのに。

 

 

(イケメンスレイヤーとしての仕事はただ一つッ!!)

 

松田はこの扉の向こうにいる筈の(イケメン)に殺意を向ける。

 

 

(…ノリで付いてきたけど、どうしよ、退き所を完全に見失ったし)

 

兵藤は、その場のノリに乗ったことを後悔していた。

 

 

 

三人は違う思いを抱えながら走る。

その半開きのドアの向こうへ。

行くのだ。今行かねばいつ行く。

 

ドアノブへ、手を伸ばす―――

 

 

 

「がッ!!???」

 

「もべッ!!!??」

 

「ぺぽッ!!!????」

 

 

が、その手は見えない壁に防がれ、三人は勢いそのままそれへと衝突した。

 

衝撃に耐えきれず、床に倒れていく。

 

そして、仲良く気絶した。

 

 

 

###

 

 

 

「何か、今悲鳴が聞こえた気がしたけど…まあいいか」

 

「……」

 

「見えるんだね、この結界が」

 

「……」

 

 

昼休み、目の前のこの男に「話がある」と連れ出された。

その時、教室内がやけに騒がしくなった気がしたがそんな事はどうでもいい。

 

 

「うん、人払いも済んだし…本題、いいかな?」

 

 

そう、結界。

強固そうな練り上げられた薄い魔力の壁が屋上の出入口からフェンスまで全体を覆っていた。

虚閃でも壊れない、ましてやタックルなどでは傷一つつかないような結界。

 

 

そして人払い。

俺を単体で呼び出し、そんな大層な物を使って屋上内で半拘束状態にする。周囲の目立った反応はこの男だけらしいのだが。

 

 

「帰りたい、と言ったらどうする」

 

 

完全に仕掛けて来ている。

 

そう話すと、男――木場祐斗は困ったように首を傾げ、笑顔で挑発してきた。

 

 

「やだなぁ……ソッチも乗り気だったクセに…」

 

「仕方無いから付いていってやっただけだ、勘違いをするな」

 

 

互いの距離は5m程度空いており、武器でも無ければこの男に先制の手は無いだろう。

右足を半歩下げ、拳を握る。

即座に首を取る、とまではいかないがこれで正面からの攻撃には対応できる。

 

 

「女の子にしては喧嘩っぱやくないかい?もうちょっと穏便に、さ」

 

「ならば、何の為にここに呼んだ。世間話をしにきた訳でもないのだろう」

 

 

ぶっきらぼうにそう返して、相手の神経を煽る。

ペースを掴まれていると察したのか、木場はまた困ったようにしながら息をふぅ、と吐いた。

 

 

「……じゃあ、率直に聞くよ。君は誰から指示を受けてここに居るのかな?」

 

 

そう言いながらこちらを睨み付ける。

その顔には、笑顔は無い。冷たい、射抜くような視線だった。

 

悪魔達はどうやら、俺が別の何らかの勢力に属している可能性を探っているようだった。

そんな質問、ハッタリをかます価値もないのだが、誰が正直に伝えるものか―――

 

 

「――俺には何の事か分からないな」

 

「……!!」

 

 

木場の眉が何かを訴えるようにつり上がる。

その脚が、こちらに一歩近付く。

 

 

「……ここが、悪魔の領域(ナワバリ)だと知っているのかい?」

 

 

話す木場は少し苛立ったようにも見える。

 

 

「当たり前だ、そんな事に気付いていないと思ったのか?(ゴミ)が」

 

「……」

 

 

煽れば煽るほど、敵は怒りに身を任せ、こちらに手を出したくなる。

手を出させれば、後は簡単だ。

響転(ソニード)によるカウンターを叩き込んでやればいい。

 

 

「話は終わりか?俺はもう行くぞ」

 

「……」

 

 

そう言って背中を向けて去ろうとする。

結界がある以上は脱出は難しいが、今は煽る事に意味がある。

 

何でもいい、相手がこちらに明確な危害を加えようとさえすれば―――

 

 

「――いい加減にしてくれないかな」

 

 

木場に、突然肩を掴まれた。

それも前に現れて、眼前から掴まれた。

思わず身を引こうとしたが、肩を掴んだ手がそうはさせない。

奴の浮かべている笑顔がやけに悪意を含んだモノに見える。

 

高速移動、だが瞬歩よりは遅い程度の速度だった。

これがこの男の持ち味なのだろう。

驚異的な速度を見せて、ある程度の反抗精神を削ごうなどという算段だろうか。

 

 

(まぁ、無意味だがな)

 

 

響転(ソニード)を使って、木場の背後に移動する。

そして奴が気付くと同時に奴の頭蓋を軽く掴んだ。

みしり、と少し軋ませながら話す。

 

 

「その程度か?」

 

「………!!」

 

 

今度こそ驚愕する木場。

だがそれもほんの一瞬で、すぐに平淡な顔に変わる

一周して、彼は逆に落ち着いたような様子で話し始めた。

 

 

「……驚いた。君の、その力は神器(セイクリッドギア)なのかな?」

 

 

神器(セイクリッドギア)。一度だけ耳にした事はある。

いつかの天使が持っていた派手な装飾が付けられた槍のような物質の総称なのだろう。

だが、その近辺の情報は皆無なのだ。

 

答えようが無く、黙り込む。

 

 

「……君はホントに人をからかうのが上手だね」

 

「お前は人じゃないだろう?」

 

「違いない……ねっ!!」

 

 

木場の手元が一瞬光るのが見えた。

そして、風を切る音と銀色の反射光。

咄嗟に頭から手を離し、奴から離れる。

 

「…君、ホントに人間かい?色々人間を超越してるんだけど」

「失礼な男だ、どこから見ても人間だろう」

 

木場が振り返り、得物を確かめるように振り回している。

その正体は、西洋剣。

刃渡りは約1m程あって、片手で取り回せる程の重さのようだった。装飾と相まって軽い美術品のようだが、潰された刃が台無しにしている。

 

「うん、じゃあ君が神器(セイクリッドギア)を持っているのが分かった所で…」

 

木場は静かに剣先をこちらに向ける。

 

 

()ろうか?」

 

 

依然としてその顔は、笑顔。

 

 

 




今回、真剣な戦闘回の前の話なのにやけにギャグが多い話になってしまった。
き、気付いたらドアに衝突するくだりまで書いてたし…。

なんとか原作キャラからヒールな雰囲気を出してもらいたいのだが、やはり難しい。


コラムは適当に浮かんだ単語を並べただけなんで、(一部抜粋)も単なるギャグです。
だから問題ないよ!!



【今回の要約】
風雲悪魔学園に入学したウルキオラさん。
だが、そこで仕掛けられる一人目の刺客、木場祐斗。
次回、戦いの火蓋が切って落とされる。
あ、頼むから三人組はおとなしく寝てなさい。



※訂正
384人→394人
木場君→祐斗
早急に→速やかに


※訂正2
181人→281人
ッ~~~~(バンバンバンヒィッ
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