ウルキオラさんがTS転生していく話   作:鉄パイプ

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ヒャッハートウコウダァーォ

1ヵ月以内には投稿できました。
う、うん、当初の予定通りだし…うん。

ちなみにですが今回のお話、おそらくすぐに訂正が入る事になります。
自分で書いて違和感を感じる箇所があるのですがそこに気付けないのですよ。

だからいっぺん「読み手」視点に回って違和感を感じ取ろうと思います。


ちなみに前話の訂正は明日の晩に入れます。



ウルキオラさん、騎士と戦う

 

「……リアス、貴女…」

 

「ソーナ、この件は大体終息するわ」

 

「いや、そういう問題じゃないのよ…」

 

 

オカルト研究部。

駒王学園旧校舎を拠点とした胡散臭げな部活。

その部室と言える調度品の揃えられた端正で落ち着いた部屋で二人の悪魔が向き合う。

 

 

「いい事?貴女は私が掛けた半年を一日にして潰しかけているのよ…?」

 

 

ソファーの背凭れに疲れたように後頭部を載せる女性、支取蒼那。

腕と脚を組み、堂々とした態度で支取と向き合う女性、リアス・グレモリー。

当然とも言うべきか波風を立てずに調査をしてきた支取は長年の付き合いの赤髪の女性に怒った。昔から大胆な所は度々見掛けていたが、今ここで大胆にならなくても、と静かに怒りを燃やしていた。

しかし一度は興奮して怒鳴り付けようとしたものの、気疲れからかそんな気も失せたようであった。

 

 

「片手間で、でしょ?」

 

「確かに片手間だったけど…忙しかったんだし、雑兵並の扱いの人間に四六時中本気で監視を向けられる程私たちは暇では無いでしょ?」

 

 

ジト目で視線を反らすリアスに支取の青筋かピキリ、と立てられるが押し込んで返答する。

 

 

「暇じゃぁ無いけど……やっぱり慎重すぎるわ。石橋を十分叩いて確認してから渡るのは結構だけど、そんなんじゃ調べるのに一生掛かるわ」

 

「だからといって、安全な鉄橋を作るために毎回わざと石橋を壊しに行く貴女の思考の方が分からないわよ……ちゃんと大人しく、大胆に行ってちょうだい」

 

「……ごめんなさい、意味分からないわ」

 

 

噛み合わない意見。

落ち着く為に二人してテーブルに置かれたティーカップに手を伸ばす。が、中身が無いことに同時に気付いて顔をむっ、としかめた。

リアスが部屋を見回すが、求める人物は見当たらない。何か他の物を用意しに行ったのだと判断し、空になったティーカップを弄びながらその人物を待つ。

 

 

「……リアス、貴女なりにバックの敵勢力の分析を聞かせてくれないかしら」

 

 

ドアをちらちらと見ながら追加の紅茶を待つ支取が言う。そしてリアスが特に気にする様子も無く答えた。

 

 

「…貴女は、彼女を叩いたことで不用意にバックの勢力に攻められる事を防ぎたいのでしょう。だったら安心して平気よ。あの元浜とか言う生徒には、『何の勢力も付いていない』」

 

「どうしてかしら?」

 

「そう聞かれると、半分は勘と答えざるをえないけど…まぁ根拠は送ってくれた報告書の近辺情報と、最近のこの街の外勢力の調査と、祐斗自身からの報告ぐらいね」

 

 

リアスが乱れ一つ無い髪をかき上げる。男が見たらそれだけで見蕩れる色気のある動作だが、生憎この部屋には女性しかおらず、近しい男性もこの程度の事には全然反応しない。

 

 

「出生は至って普通。それに少し異常なのは身体能力程度で、それも神器を持っていると取れば別段怪しいことでも無い。張本人の戦闘能力だって神器を持っている事を考慮に入れても祐斗に勝らないと予測するわ。それに…」

 

「それに?」

 

「彼女は完全に、組織の一員として動いている感覚がゼロよ。監視を警戒しているといえばいいかもしれないけど、鉄砲玉人員が無理せず潜んでるなんて私達に飼い慣らされたいと言っているも同然じゃない」

 

 

そこまで話したところで、二人の耳に足音が届く。片目だけを開いてウィンクしながら顔を見合わせる二人。

もう少しで紅茶が来る。

 

 

「………まあ、予想は私と同じ『シロ』と。バックの存在が私と生徒会の勘違いというのも同じという意見か。……というか貴女、よく考えたらシロだと半ば確信しているのにわざわざ木場君にちょっかい掛けさせたのね。木場君とその辺りの議論はしなかったの?」

 

「ん、ちゃんとしたわよ。でもわざとシロかクロかぼかして彼女の元へ向かわせたわ」

 

「……わざと、って」

 

 

そこまで聞くと、リアスは親指を除いた四本の指を立てた。

 

 

「怪しいと認識して、近辺調査をして、議論材料を集めて、最もそれらしい仮説を立てて……今ここよね?これで大体推理の完成度は80パーセントくらい。別にこのまま例の生徒が怪しいかどうかの推理を終了しても良いのだけど……残りの20パーセント、折角なら埋めて確定情報にしたくないかしら」

 

「本人に聞いて完成、ということ?そんな無茶苦茶な……」

 

「貴女は毎度慎重すぎるわ。仮にその80パーセント(シロ)がハズレで敵勢力が付いていたとして、更にそれらの勢力がここに攻めて来たとしても落とせる訳が無いでしょう?ここを誰のお膝元だと思っているのよ」

 

 

ティーカップを弄んでいた手を再び胸元で組んで自信を表現する。腕を組む度にグラビアのようにその巨乳が自慢するように押し上げられて、制服が悲鳴を上げているように見えるのだが、本人に自覚があるかどうかは不明である。

一段と疲れたような動作で支取が言う。

 

 

「『王に必要なのは慢心に届く程の自信、そして三手先と最悪を想像できる頭。』と言うことね」

 

「………誰の受け売りよ、そのダサいの」

 

「生徒会で押収したある男子の軍略漫画の脇役。意外と面白かったわ」

 

「貴女、忙しいとかどの口でほざいたのよ」

 

「……ちょっとしたユーモラスよ」

 

 

支取も同じように腕を組むが、その胸は一部を残して押し潰された。彼女もちゃんと胸はあるし、その光景も魅力的なのだが、何分周囲の女子の脅威、或いは胸囲が良い意味で酷い。

そうして空気が和らいだ頃、聞こえていた足音がようやく部屋の前まで来て、止まった。

 

 

「…でもリアス、流石に戦闘能力が木場君より低いと言ったのは予想外だったわ。確かに鉄砲玉だけど……それでも彼女、恐らく神器持ちよ?」

 

「あら、ソーナ」

 

 

リアスが可笑しな物を見たように笑う。

 

 

「私は、確かに『相手側になかなかに強力な神器がある』『日中に悪魔は少し身体能力が落ちる』という事を考慮に入れた上で祐斗の方が強いと言った筈よ?」

 

 

扉がコツコツとノックされる。

だがリアスは少し数秒黙って少しだけ話を止めるとまた話し出す。

入ってよい、とのサインなのだろう。

 

 

「それにソーナ、貴女が言ったじゃない。『王に必要なのは慢心に届く程の自信、そして三手先と最悪を想像できる頭。』だって。彼がどれ程不利な状況に追い込まれたって、心配することは無いわ」

 

 

扉を開き、ティーポットとスコーンの載ったトレーを片手に載せた女性が現れる。

馬の尾の様に結んだ黒髪、大和撫子と言い表せるかのような上品な雰囲気、リアスとも並べられる程に膨れ上がった豊かな胸。

 

 

「彼は私の『騎士(ナイト)』だもの、ね?」

 

 

リアスが入ってきた女性にウィンクと笑みを飛ばす。

本当に心配の欠片も無い、その心で言い放った。

 

女王(クイーン)』は返すように優しく微笑んだ。

 

 

 

###

 

 

 

(―――此方に武器は無い。いつかの天使は武器こそ持っていたが半分以上冷静さを失っていたから手玉に取れた。だが―――)

 

 

逐一、反応できる様に身体をゆらゆらと動かしながら思考する。

春先の昼過ぎの屋上は日差しが中途半端だが晴れ空の下で、しっかりと暖かさを持っていた。

そんな天候の中、自分は目の先に立つ男を注視し続ける。先程から隙あらば懐、手元、目元、顎などの有効部位へ拳を叩き込もうと考えていたのだが。

 

 

「………」

 

 

微動だにせず、ただ西洋剣を構える木場。例えるなら澄みきった水面、張り詰められた弦。過度な興奮もせず、殺気立てもせずにいるその姿には一人の戦士としての風格があった。

 

リーチでは相手に分があるのだから、基本的には大振りの攻撃をかわして行動不能になる程の一撃を叩き込む事を狙いたい。

だが、木場は待ちの一手。隙を微塵も見せずに武器と併せ持って広い制空圏を作り上げながらこちらを待っている。

 

 

(……『戦ろう等と言った割には臆病だな』とでも煽った方が良いだろうか)

 

 

睨めっこは続く。視界の中心から木場の好戦的な笑みがなかなか動かない。

考えていた事を実行に移そうか、と考えた時、不意に木場が苦笑を漏らした。

 

 

「『戦ろうなんて言った割には臆病』とでも言いたげな顔だね」

 

 

見透かしたようにそんな言葉を言う。

いや、もしかしたら顔に出ていたのかもしれなかったが、少し不愉快に感じた。

 

 

「まあこうしているのも飽きたし、ね」

 

 

言うが早いか、木場は西洋剣の柄を両手で握り直し、そのまま下手に構えた。

仕掛けるのだと確信し、自らも小さくファイティングポーズを取る。

 

そして、木場が動く。

構えた得物をそのままに強く地面を蹴りだし、こちらに襲い来る。

 

下手に構えられた迫り来る銀色が光を反射した時、ふと思った。

 

 

(少し、遅いな)

 

 

木場のポテンシャルを全て知らない自分だがその動きはやけに緩慢に見えた。

 

 

―――た、た、た、たんっ

 

 

一際力強い足音と翻りを見せる木場の手の中の銀色。

手が届かない、剣の間合いから迫る木場の攻撃。

 

一本目、下から上へ振り上がる木場の剣線。一歩後ろに跳んで危なげ無く回避。

二本目、振り上げた鋒が弧を描くように襲い掛かる。半身を反らしながら横に跳んで回避。

三本目、避けた自分を追うように横薙ぎが迫る。身体を捻りながらまた背後に飛び退いて回避。

 

そして四本目は――――突き。

 

 

「―――馬鹿が」

 

 

得物を手にした腕を引く動作をした木場に思わず呟いた。

後退すべく入れていた両方の太股から力を抜き、咄嗟に脹ら脛と踵に全力を込める。力を入れた脚で地面を噛んでいると自然と前傾姿勢になっていく。

木場の腕と自らの脚が引き絞られ――

 

そして、突きが放たれる。

 

その瞬間、両腕に霊力を込めながら、突きの正面へ飛び込んだ。

木場が想定していなかったかのように目を見開く。

当然ながら凶器は自分の身体へ直進するが、当たってやるつもりは微塵も無い。

 

空気を裂いて突き出された剣を身体を捻るだけで避け、更に一歩。

それと同時に顔面の横を走る剣筋に、撫でるように手を添えた(・・・・・)

もう木場との距離は、歩幅一歩強。

 

 

「―――ッ!?」

 

 

更に踏み込んだ。木場から息を呑む音を聞く。

剣身に添えた手で側面を撫でながら押し飛ばす。これで反撃の芽は潰れる。

素早く空いた拳を握り込む。あとは簡単だ。

 

 

「持っていけ」

 

 

霊力で硬化した拳で、全力で顔を殴り抜いた。

拳が一瞬、肉を打つ生々しい感触を覚える。

 

 

「ぐ…っ!?」

 

 

木場が吹き飛び、地面にたたらを踏みながら数m先に着地した。

だが、剣を手放さないのは流石というべきか。

 

 

「痛いなぁ…」

 

 

殴った筈のその顔に何故か痕は無かった。

木場がこちらを向く。その表情には焦りのような呆れたような、苦笑いが浮かんでいた。

剣を手にしていない方の手を握ったり放したりしているのを見たところ、その手で辛うじて受け止められたようであった。

 

 

「……ホントのホントに人間?」

 

「人間だと言っている」

 

 

前世は人外だったが、と内心で呟く。

落ち着いたのか木場はまたその手の中の長剣を構える。

 

 

「刃が潰してあるとはいえ、剣に真っ直ぐ突っ込んでくる程の精神力を持った人間って……ねぇ、今まで見たこと無いよ」

 

「……」

 

 

それが自分には隙に見えただけだ、とまた内心で呟いた。

確かに『突き』は、向けられる側からは線ではなく点にしか見えない。それに出せるスピードも威力も高い。

だが、槍ならいざ知らず西洋剣で突きをされても大して驚異には見えなかった。

突きにおいて恐れるべきは、手数。避けても避けても糸口の見つからないまま次なる連撃が襲い掛かり、最終的には身体に穴が増やされる。

西洋剣での突きは、その重さ故に手数が多いという点を生かせない。

突きを次の技の布石にすると言うなら別だが、今のこの男。

 

 

「…木場」

 

「なんだい?」

 

「まだ小手調べのつもりか?」

 

「……君はあれか、『全力で戦わないと萎える』なんて理不尽な人種なのか?」

 

 

木場は溜め息を吐いた。

予想の通り、まだ本気では無かった。

動きが遅く見えたのも、高速移動を使わなかったのもそれが理由らしかった。

 

 

「…まあ僕の役割は『監視』だからね。対象を傷付て重傷に追い込んじゃったら本末転倒だし…」

 

 

だったら何故監視対象にわざわざ接触したというのか。

その疑問の答えはすぐに返ってきた。

 

 

「とはいえ僕のこの役割も君との接触を終えたら恐らく終了なんだけどね」

 

「……終了?」

 

「元浜さんの実力の調査。君が全然戦闘能力らしいモノを見せてくれないから、もう見てこい、だってさ」

 

 

そう言うと木場はまた構える。

だが、その雰囲気が先程と少し違う。

全身の筋肉に力が込められ、更に得物を肩より少し高い位置に構えた様子から得られるイメージが『静かに佇む猛獣』に変わった。

スイッチが入ったのだろう、先程のは軽いウォームアップだと言わんばかりの闘気だった。

 

 

「ほら、構えなよ。うっかり重症を負わせてしまうかもしれない」

 

「本気を出すのか」

 

「嫌だったんだろう?手加減されるのは」

 

「………」

 

「いいよ、君もある程度の無茶は省みないみたいだし、それなら―――」

 

 

木場が、身体を屈めた瞬間。

 

姿が消える。

 

 

「―――無茶、させてあげる」

 

 

探査回路が、己の背後に反応を示した。

そして風切り音。

 

咄嗟に背後に視界を広げつつ、風切り音の元をしゃがんで回避。

しようとした。

 

 

振り返った先の視界。木場が既に剣を振り抜き終えていた。

束ねていない自らの黒髪が拡がって、そして。

 

落ちた(・・・)

 

 

「―――ッ」

 

 

瞬時に響転でその場から離れた。

自分が先程までいた位置に目を向ける。

タイルにばさりと落ちる中途半端な斜めの切り口の髪。両肩を見ると斜めに斬られたせいで右側から左側に行くにつれて髪の長さが短くなるという微妙な髪型になってしまっていた。

 

 

「髪を切り落とすつもりじゃなかったんだよ、ごめんね」

 

 

木場は謝りながらも平然と此方を追い掛けてくる。

憤りが微かに起こったが唸りを上げて振るわれる剣の前ではすぐに吹き飛ばされた。

髪を一刀のもとに切り落とせるなら刃潰しの意味は一体なんだったのか。

 

 

「避けていなかったら死んでいたぞ」

 

「ほら、そこは避けてくれると信じて、ッね!!」

 

 

空気を裂く鋭い音を載せて剣が振るわれる。

悲鳴を上げる程に身体を軋ませながら、全力でかわす。

自分が回避行動に移ればその後、一瞬の間も置かずに木場の斬撃は通過していく。

移動速度こそ辛うじて此方が上だが、奴の得物を振る速度がその差を埋め、更に此方に無茶を強いてくる。

かわす度に見える木場の表情が先程の攻撃は様子見であったのだと語っていた。

 

自分の響転、木場の高速移動、そして風切り音。

木場が駆ければ此方が逃げ、それを追い掛け木場がまた駆ける。

数を重ねていく内に一種の鼬ごっこが展開された。

 

隙など見つからない。

探している暇も木場の行動が続く内は無かった。

 

 

「君の神器は速く動けるだけかッ!!」

 

 

木場から声が飛ぶ。

声のトーンとは裏腹に、表情も動きもその剣線も冷静なままであった。

 

確かに指摘された通りだ。

此方の攻撃らしい攻撃は最初の拳のみで、それ以外は全て実行に移す前に抑えられている。

素手の相手に対する対処に慣れているのか、隙を突くのがかなり難儀なのだ。

剣さえ手から弾き落とせばあとは勝つ打算があるのだが、それも隙自体が無ければ実行には移せない。

 

 

「―――チッ…!!」

 

 

今こちらの隠し札は『虚弾(バラ)虚閃(セロ)』と『霊子を固めて空中に立てる事』の二枚。

ただし現在の威力の低い虚閃や虚弾を単体で使っても隙など大して出来ないだろう。

それに霊子を固めて空に立つ、というのも悪魔という翼を持った種族に対してでは有効なカードとは言い難いだろう。

 

『組み合わせ』『確実に隙を作り』『木場の剣を弾き落とす』方法を探さなくてはならない。

 

 

「シッ!!!」

 

 

木場の剣が制服の袖口を裂き、ボタンを弾いた。リズムは変わっていない。あちらが動き、剣を振るい、こちらが避ける。

なのに徐々に木場の攻撃が身体の節々を掠り始めている。

自分では分からないが、木場から見ればこちらの速度が落ちているように見えるのだろう。

 

太股に触るとかなりの熱を持っていた。

響転という身体が軋む程の動きを人間の身体でしていたのなら当たり前かもしれないが。

 

 

「………!!」

 

 

また避ける。

木場に対して正面を向きながら背後に跳んだ。その瞬間、胸ポケットが、かさり、と鳴る。何か小物が擦れあうような音。

 

そしてそれを聞いてある事を思い出した。

 

 

(……胸ポケットに入った物、使えるか?)

 

 

咄嗟に思い、木場に向き合いながらその胸ポケットに手を入れた。

木場がそれを見て、やっとか、といった表情になった。そして怪しげな行動に対処すべく身構えて停止した。

 

胸ポケットにはそれが五つ入っていた。

そして、ある事を思い付く。

 

 

(これで油断を誘えたなら、力を叩き込み易くなるか)

 

 

浮かび上がる穴だらけの打開策。実行に移すには懸念材料が多いというのに頭を渦巻き始める。

まだ見せてはいない二枚のカードも使う事になる、不確定要素の多い策であった。

 

場の空気が滞る。

木場は停止したまま、此方の指先を睨付ける。

双方が一歩も動かずに互いの一挙一動を見逃すまい、と固まって見つめる。

 

 

 

胸ポケットに感じる五つの感触の内、三つを握り込んで取り出す。

 

そして、それらを投擲した。

 

 

「飛び道具…!!」

 

 

元より構えていた木場は、焦りもせずに自分に向かい飛んでくる三つの物質を切り落とした。

パパパキッ、という木場の剣の速度を知らしめる、ほぼ繋がったような切り落とした音。

だが、切り落とした三つの物質から桜色の破片が幾つとなく吐き出された。

 

 

「神器、じゃないのか?魔力を感じない」

 

 

飛び散ったそれを目で追う木場。

今度はその背後に回り込みながら、ポケットの中の残りの二つに手を伸ばした。

 

 

木場がそれの発する微かな甘い香りに気付く。

 

 

「飴か…!?何故……」

 

「正解、オマケをやろう」

 

 

アセロラ味の桜色の飴。

連続して響転をしている最中にやたら胸元でカサカサと揺れたその存在。

井上が昼食後に「健康に良い」などと言って毎日押し付けてきた物であった。

毎日食べて飽きたので数日前から食べずに胸ポケットに保存していた物をここで使った。

 

叫びながら振り向く木場に刺さるような速度で投擲する。

だが、そこに当然隙など生まれていない。

 

 

「…けど飴なんか牽制にもならないよ」

 

 

より一層冷静に、飛び来る赤い包を弾き落とす。また桜色の飴の破片が木場へと降り掛かる。

 

その瞬間に、この闘いで初めて空中へと跳んだ。

 

木場の頭上10mの地点まで一気に跳ね上がると、昼時の太陽が背中一面に降り注ぐ。

そして木場の口元が動いた。

 

 

 

「―――馬鹿だね」

 

 

皮肉だろうか、先程の自分の言葉とトーンが同じだった。

何も入っていない(・・・・・・・・)ポケットに手を入れながら、ああ当たり前だな、と思う。

確かに空中は戦術的に有利な場所と言える。敵対者の行動の全容を把握でき、更に飛ぶ術を持たない者に対しては一方的に攻撃が出来るだろう。拳銃だって上から下に撃つのと下から上に撃つのでは当然前者の方が当たり易いと思える。

 

だが、自分の相手は『スピードを得意とする人外の剣士』である。

優位など無いに等しい。

 

 

「ワザワザ避け難い空中に逃げるなんて」

 

 

木場もまた空中に跳ぶつもりであろう、身体全体を少し屈めた。

 

 

ここ。ここが一つの分水領。

 

ポケットの中で握り込んだ拳を、振りかぶらずに突き出した(・・・・・)

 

 

「……そうやって馬鹿の一つ覚えのように投げて、意味があると思って―――」

 

 

木場がもはや牽制など無視、といった風に腰の高さで剣を構えた。

 

それは俺が『また飴を投げる』のだと思い込んでいるようで。

今までの行動からして弾くまでもないと判断しているようで。

 

 

恐らく、成功した事を確認する。

 

 

木場が跳ぼうとする一瞬、突き出した腕に霊力を集中させた。

 

そして、手を開く。

 

 

虚弾(バラ)――ッ」

 

 

手から放たれたのは、明るい赤の玉ではなく塗り潰すような濃い黒の弾。

それが飴玉の十数倍の速度で木場へと降り注いだ。

それを見た本人の顔が、頭で思い描いたような虚を突かれた表情と化す。

 

 

「飴、じゃ、ないッ――!?神器かクソッ――!!」

 

 

咄嗟に初弾を切り落としたがそれ以外に二、三十発はある虚弾を初見で全て受け切るなど到底不可能。

木場が迫り来るそれらから身を守るため、腕を頭の上で組んで耐えようとする。

 

 

「…神器など知らないと言ったがな」

 

 

空中の霊子を固めてその上に立ち、直下を眺める。

丁度木場の腕や地面に虚弾が着弾するのが見えた。今のあの木場の状態、隙が出来且つ剣を持った手を突き出していて且つ、自分が攻撃を叩き込める。

これが突然の思い付きで出来上がった猿の浅知恵の先に描いた理想だった。

成功要因が『五秒に満たない時間の内の同行動による木場の判断ミス』という馬鹿げたものであったが、成功したなら目をつむろう。

 

重力に従って捲れ上がるスカートを抑えながら、霊子の足場を蹴った。

 

直下に見える剣を持つ木場の手。

それを攻撃する事で狙うことは一つ。

 

縦に回転を加え、遠心力のついた踵を木場の手の甲へと振り下ろした。

 

 

「ぐッ…!?剣が……!!」

 

 

木場の手を蹴る強い衝撃が踵に走る。

そして数拍置いて地面に剣が突き刺さる音が響く。

 

敵は武装を失った。遠慮と注意は既に不必要。

 

木場の至近距離に降り立つと同時に再び腕に霊力をかき集めた。

一瞬にして掌に凝縮された虚の力が出来上がる。

 

 

間髪入れずにその手を木場の胸に叩き込み、そして放つ。

 

 

虚閃(セロ)――ッ」

 

 

叩き込んで木場に密着した手の先から濃厚な無のエネルギーが膨れ上がった。

 

 

「がッ、ぐっ――!?」

 

 

放たれた力の奔流が木場を巻き込んで屋上の一角を黒く染め上げる。

質量の波の隙間から木場の悲鳴が漏れ出てきた。

 

体内の霊力をここに全て注ぎ込む、とまでの力をこの虚閃(セロ)に込めた。

 

そして放った虚閃は地面を焦がしながら結界へと衝突した。

 

虚閃を放ち終えた時、視界は屋上の地面のコンクリートを削ったことで舞い上がった砂埃で埋め尽くされていた。

 

 

「………死んではいない筈だ、が」

 

 

軽い息切れのような症状に曝され、呼吸を乱す。

今、木場に零距離で撃ち込んだのが現状で出せる限りの力を込めた虚閃であった。

威力は低い。半ば確信はしていた事だが、木場の張ったらしい結界を壊せなかったのだ。

威力は下級大虚(ギリアン)の放つそれを遥かに下回っている。この身体に宿る霊力や放った虚閃(セロ)に込めた力自体は下級大虚の数倍はあった筈だが、その癖なのは人間の身体だからなのだろうか。

 

だが威力が低いとはいえ、至近距離で撃ち込んだのだ。

気絶、もしくは意識を辛うじて保っている状態にはなっている筈。

 

 

「意識があるなら完全に落ちる前に悪魔について尋問を―――」

 

 

探査回路を前方の土煙に集中させる。

 

その瞬間、声が響いた。

 

 

 

「―――焔よ」

 

 

 

業火の音を聞いた。

 

屋上を覆い隠していた砂埃が気流に乗ったかのように切り裂かれ、大空へ舞い上がる。

そして切り裂かれた砂埃の先でゆらりと渦巻く炎と風。

 

木場が、悠然と立っていた。

その手に脈を打つ心臓の如く炎を刀身から吐き出す剣があった。

 

 

「……使う気はなかった、これは人に向ける為に在るものではないから」

 

 

距離がそれ程離れている訳でもない筈なのに、我奴の間に陽炎が立ち上る。

 

 

「でも、これを使ってさっきの光線を防いでいなければ軽傷以上重症未満、といったところだったよ」

 

 

放たれる熱気に息が詰まり、呼吸の間隔が狭くなる。

その熱気の元を持つ木場は傷あれど、汗一つかいていなかった。手に持つあの奇妙な剣を完全にコントロール下に置いている。

 

 

「その息切れの具合からして今の光線が君の本気、かな」

 

 

木場が残った僅かな土煙を奇妙な剣で振り払った。

切り裂く風、巻き上がる砂、そして唸る爆炎。

 

 

「元浜さん、重ねてごめんね。君に『神器を使え』『本気を出せ』なんて言っていたのに、僕自身はまだ君に対してこれを全力で使おうと思わなかった」

 

 

脈打つ刀剣を突き出し、その刀身に手を添えた。

すると一層脈は速くなり、吐き出された蠢くような炎が剣と腕を覆った。

 

 

「―――『魔剣創造(ソードバース)』、僕の神器の名前さ。この剣もその神器の能力で造り出したもの」

 

 

魔剣創造(ソードバース)』。

文字通り、魔の剣を創造できる能力なのだろう。

口振りからすると奴が今、手に持っている膨大な圧力を放つ剣も造り出せる物の一つという事なのか。

 

警戒して魔剣を注視していると、木場が気付いた。

 

 

「ああ、この剣の名は『燃焼剣(フレアグランド)』と言ってね…って―――」

 

 

木場が説明を始めた瞬間、背後に跳んだ。

その先にあるのは、先程木場の手から弾き飛ばした刃潰しされた西洋剣。

コンクリートに突き刺さっていたそれを引き抜き、木場に構えた。

 

奴がまだ実力を隠しているというなら抵抗手段は、もはや片手の指の数にも満たない。

 

 

「……そうか、まだまだ戦意があるんだね。構え方からして元浜さんは剣を得物として使えるみたいだし、もう少し打ち合ってもいいんだけど……」

 

 

木場が足音を起てながら此方へ近付く。

一歩、一歩、と歩が進む度になまくらの剣を掴む手に込める力が増す。

 

互いが大きな数歩で斬り込める位置まで来た時、木場が此方に空いた手を向けた。

 

 

「多分実力は測れたし、時間を考えても丁度だから―――」

 

 

言葉を止めた瞬間、突然手の中の感触が無くなった。

剣を握っていた筈の手に目を向けると、自分が掴んでいたなまくらが白い粒子となって分散していた。

 

得物を、消された。

 

 

「終わりにしようか」

 

 

その言葉と共に熱風が吹き荒れた。

熱源には、木場の『燃焼剣』。

今まで以上の熱量を孕んだ剣がそれを業火として木場の周囲を覆い始めた。

 

思わず両腕で顔とスカートを抑える。

 

木場が再び刀身に手を添え、その剣の能力を解き放った。

 

 

「―――燃え尽きろ」

 

 

その言葉を待っていたかのように、剣は赤の奔流を螺旋状に放った。

空気を揺らしながら此方を呑み込まん、と赤い螺旋は迫り来た。

 

 

「…………糞」

 

 

溜め息と共に漏らした小さな一言。

 

 

 

その直後。

 

赤に呑まれ、意識を手離した。

 

 

 

 

 

 

 

始業のチャイムが鳴り響く。

五時限開始の鐘であった。

 

教室の窓側に一番近い列、前から二番目の席に座る人物が息を吐いた。

 

 

「来ないなぁ……体調でも崩したのかな」

 

 

振り向けど友人の姿は目に入らない。

お腹でも壊したのか、と考え始めるとその友人が体調不良で休んだ所を一度も見たことが無いことに気付いた。

 

 

「珍しいなぁ……飴ちゃんだってあげたのに……」

 

 

顎に手を当てて考えていると、丁度教室に数学担当の女教師が入ってきた。

教師が会話を止めて静まり返った教室を眺めると、その友人の空席を見付けた

名簿を覗き込んで一言。

 

 

「元浜さん、なんでいないか分かる人いるー?」

 

 

女教師と同時に彼女も教室全体を見渡す。

 

すると一人が手を挙げた。

 

 

「体調が悪いそうなので保健室に連れていきました、先生」

 

「ホント?昼御飯が何かが当たったりしたのかしら」

 

 

男性にしては少し高く綺麗な声。

その声の主は木場祐斗。昼休みの間に友人に声を掛けて何処かへ連れていった人物であった。

 

 

(体調不良か、あとで保健室にお見舞いに行かないと)

 

 

数学教師が名簿を書き終え、何事も無かったかのように授業が始まった。

 

 

空席を一つ作りながら。

 

 

 




…うん、納得できない人手を上げなさい。先生怒らないから。

今回もっとも書きたかったことは『人間と悪魔の身体のスペック差』です。
現状の彼女だと『殺意の波動に目覚めた』状態でないと、人外たちとは相打ちにすらもっていけない事を表現したかったのです。
それだけを明確にイメージしながら書いていたら、気付けばこんな負け方になっていました。

今回の彼女の戦闘、かなり不本意だとお思いの方、我慢して呑み込んでいただければ幸いです。


あと誤字脱字はヨロコンデー!!ですが先の展開を予想して書き込むのはホントに勘弁してください(震え声)
気付いたら糞みたいなネタバレをしていそうですので…



【今回の要約】
悪魔の陣営が何やら考察をまとめ始めました。
だが結論は出ないままにウルキオラさんと騎士が衝突。なんと負けてしまう。
そのまま「酷い事する気で(ry」となってしまうのか。頑張れ踏ん張れ美咲ちゃん。



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