ウルキオラさんがTS転生していく話   作:鉄パイプ

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ら、来週投稿してくれる…だろう…?
『NO! NO! NO! NO! NO!』
じゃ、じゃあ来月…?
『NO! NO! NO! NO! NO! 』
き、今日ですかああああ~!?
『YES! YES! YES! YES! YES! 』
もしかして今からですかぁ~ッ!?

『YES! YES! YES! ''Present for you''』



というわけで投下デース


ウルキオラさん、護り守られ

 

「…大体、終わりかな」

 

 

日の落ち切った街中で木場は呟いた。

日課となっているチラシ配りは今しがた終わった。

あとは軽い見回りに向かわせた使い魔が帰ってくるのを待って、部室に戻るだけであった。

 

 

「あの子なら僕が歩いていても追いついて来るかな」

 

 

使い魔を気にかけながらも身を返して、駒王学園へと歩き出す。

 

チラシ配り、一概に言えば悪魔主義(サタニズム)の布教である。

『悪魔を崇拝し悪を以て善を討つ、そして世界を支配し暗雲へ突き落す』

そのような黒々しいモノではなく、悪魔と人間の間に簡単なギブアンドテイクの関係を結ぶだけである。

悪魔側が1つ願いを叶え、人間側はそれに見合った対価(タマシイ)を差し出す。

周辺地域で悪魔の知名と友好度が知れ渡るため、悪魔にとってもメリットは多い。

人間は望みを叶えてもらえるので言わずもがなである。

 

 

 

「あ、来た。おかえり」

 

 

小さな羽ばたきと共に小鳥が木場の肩に舞い降りた。

木場が手を近付けるとその小鳥の使い魔は頭を傾げるように手へ向けた。

その行動を愛しく思うように、木場は中指の腹で優しく撫でる。

傍目に見ればなんと絵になる光景だろうか。

 

ひとしきりのスキンシップを終えると、木場は使い魔を肩に乗せたままでまた歩き出した。

駒王学園は既に視界に入っている。五分と経たずに着くだろう。

 

 

「元浜さんは多分起きてるし、今頃お話し中かなぁ…」

 

 

木場が思い浮かべたのは昼間に戦闘した1人の女生徒。

 

元浜美咲。

半年ほど前から悪魔関係者の注意リストに入り、駒王学園に入学したことで一気に警戒リストに入れられ、軽い警戒包囲網が組まれた人物。

注意のリストに入れたのは現生徒会副会長、支取蒼那改めソーナ・シトリー。

本人も、間違いであればいい、といった程度の気持ちで注意リストに名前を加えたらしいが、調べれば調べるほど出てくる本人のキナ臭さ。

実際どうなのかは知らないがやれ神器保有者だの、やれ天界からの裏切り者だのと様々な推論から尾ひれが付いた。

 

 

「神器保有者っていうのは間違ってない、筈だけど…」

 

 

彼女が使った黒い光線と黒い弾丸、それと高速移動。

木場はそれが『神器』の力によるものであると、確信できていなかった。

 

 

「何か、何か違うような気が…」

 

 

入学以前に行われた魔力の調査で彼女が『彼女自身の魔力以外にも別の質の魔力を保持している』と判断されたので神器保持者という仮定が成されたのだろう。

だが今思い返せば、調査は恐らく細かく行われたものではない可能性が高い。

 

だからといってあの光線、弾丸、瞬間移動、身体能力強化が彼女の技能によるものだと言われても木場は到底信じる事は無いのだが。

 

 

「…痛ッ…何処からが何処までが人間で、何処からが人外と言えるのか」

 

 

木場が先程使い魔を撫でた方とは逆の腕を持ち上げ、そして制服の袖を捲った。

 

そこには腕が手の甲から肘にかけてテーピングされた光景があった。

痛々しい、とまでは言わないが普通に生活しているだけではしそうにもない怪我。

 

言わずもがな、元浜美咲が付けた傷であった。

蹴りによる手の甲の強い痛み。

雨の如く迫り来た黒い弾丸による下腕部の痛み。

最後に放たれた黒い光線は燃焼剣でほぼ完全に防いだのでそれに関しては心配はいらなかった。

 

 

使い魔がその腕の指先に飛び移り、心配そうに手の甲を優しく突っついた。

 

 

「大丈夫だよ、もう治癒魔法も掛けて貰ってあるから」

 

 

使い魔の気遣いに微笑みがこぼれる。

実際これらの打撲は、腕を無理して使わない限りは1週間以内に治まるらしい。

 

木場にはこれ程の攻撃を平然と加えてくる彼女が少なくともマトモには見えなかった。

 

 

「さて、様子は如何かな…っと」

 

 

校門を通り抜け、まっすぐ旧校舎へと向かう。

オカルト研究会の部室、グレモリー家の悪魔の根城、そして木場の『家族』の待つ場所。

 

古ぼけながらも清潔さを保つ廊下を抜け、ある一室の扉の前に辿りつく。

この中から三つの存在を感じとれる。耳をすませば二人分の話し声が聞こえてくる。

木場はノックをし、止まる会話をしっかり耳で感じ取った後でその扉を開けた。

 

その先には―――。

 

 

 

「―――そうして現在はその四人が最強の悪魔として冥界に君臨しているわ、おかえり」

 

「髪、少し痛んじゃってますわ…一体どんな攻撃をしたのかしらね、おかえり」

 

「…話もいいがさっさと駒を動かせ」

 

 

チェスをしながら悪魔の情勢を話しているリアス。

少し苛立った様子でその相手をする元浜美咲。

その彼女の髪をブラシで梳いている姫島。

 

木場が予想すらしてない光景があった。

 

 

「…何してるんですか」

 

 

 

###

 

 

 

「で、その怪我は…何がそこまでアンタを駆り立てたの?」

 

「うっせぇ、単に転んで壁にぶつかってこうなったんだよ」

 

 

元浜家のリビング。

其処にはガーゼや包帯を身体のあちこちに付けて不貞腐れた息子とそれをからかって弄くる母親の姿があった。

 

 

「だって尋常じゃないわよ、顔に首に背中に手首…それと脚も痛めたんだったかしら」

 

「ぐぅ…」

 

 

壁に正面衝突、そのまま他二人ともみくちゃになりながら階段から落下。14段の階段を一段一段痛みを伴いながら丁寧に転げ落ちた。

それにも拘らず松葉杖を使わないで済む事自体奇跡らしく、保険医からは『丈夫に産んでくれた~』等のうんぬんかんぬんの常套句を言われた程であった。

 

 

「全く、喧嘩みたいな甲斐性見せるような怪我ならまだしもね……噂だと他二人も同じ感じに怪我したらしいじゃない」

 

 

まったく、といった風な態度の母。

正直、正論過ぎてぐうの音も出ない。

 

少し苛立ちながらもそんなやり取りを繰り返す。

すると暫くして玄関扉が開く音が響いた。

 

どすどすと重い足音と共に現れたのは父親であった。

 

 

「ただいま―――何したんだいその傷」

 

「心配が先じゃないのかよ親父」

 

「ふふっ、じゃあお父さん帰ってきたし、夕飯を出す準備をしてくるわね」

 

 

父が少し皺の付いたスーツを脱ぎながら椅子に座り、母はキッチンへと消える。

自然と父親の会話の矛先は息子へ向けられる。

 

 

「また女の子でも追いかけ回してたのかい?ほどほどにしないと嫌われるぞ」

 

「ごッ…!?」

 

 

父の何気無い一言目が容赦なくクリティカルヒットした。

「女の子を追いかけ回していた」というのも当たらず遠からずで、「嫌われるぞ」というのも既に校内の女子のヘイト値を上げ続けている彼にとって耳の痛い話だった。

 

 

「それに高校生になったんだから彼女の一人や二人探してみたらどうだい。兵藤君にも松田君にもいないから、なんて安心してたら案外すぐに先を追い越されたりするんだから」

 

「……まだ二週間しか経ってないのに彼女はできねぇよ」

 

「いやぁ…できる人はすんなりできるもんだよ、彼女って。僕だって中学時代は―――」

 

 

父がつらつらと説教のように言葉を発する。

本当に頭の痛い内容であった。

二年前の玉砕以来、恋愛に対して「がっつくとロクな事がない」と考えていた彼にとってこの話題は思考を蝕む毒のように思えた。

 

 

まぁ、学校にお気に入りのお宝DVDを持っていく事が果たしてがっついていないのかどうなのかはこっそり思考の外に捨て置くとして。

 

 

 

 

「で、美咲はなんでいないのかな?」

 

「知らないよ、なんか昼間に体調崩したって真紀ちゃんから聞いたけど」

 

「……え、体調崩した?あの子が?本当に?」

 

 

珍しいなぁ、と神妙に頷く父親。

そういえば一度もそんな姿を見たことが無いことを彼も思い出した。

姉のあの仏頂面の鉄面皮が頭痛や腹痛、生理痛等で歪む様が思い浮かばなかった。

 

 

「美咲が帰ってこないのはその体調不良と関係あるの?」

 

「いやだから知らないって。でも何か体調不良とは関係無さそうな気もするけど」

 

「…じゃあ…彼氏?」

 

 

父親はそれを何となくで言ったのだろうが、それを聞いた彼の頭になんとなく一人の男が浮かんだ。

 

 

「…木場、祐斗ねぇ」

 

「ん、誰だいそれ」

 

 

心をもやのような物が覆い始めた。

何故昼間、姉は木場と共に歩いていたのだろうか。

何故姉は二人で屋上へ向かおうとしたのだろうか。

聞こうにも本人の姿は無し。

気にすれば気にするほど悶々鬱屈としてくる。

 

 

「……まあ誰だろうと並大抵の男にはあげないけどね!!」

 

 

にこやかな顔でまだ見ぬ「木場祐斗」に殺気を放つ父。

返答しなかった為に勝手に自己完結したようであった。

 

それから何も話す事が無くなり、沈黙が始まった。

キッチンで母が夕飯を盛り付ける音とテレビのバラエティ番組の音だけがこの家の数分を支配する。

 

肘を付いて息を吐くと、偶然父と目があった。

そして父が言う。

 

 

「…もし何かあったらさ、ちゃんと姉さんを守ってあげなよ」

 

「…そんな日は来ないと思うけどなぁ」

 

「いや、きっと来るよ。姉さんが助けて、って言ってくる瞬間がさ」

 

 

どの場面かは浮かばないけど、とだけ付け足して父はまた黙り始めた。

 

 

それから数分して母が夕飯を抱えてキッチンから出てきた。

 

その日の夕食、姉の席に置かれた裏返しの茶碗が使われる事は無かった。

 

 

 

###

 

 

 

所変わって駒王学園。

旧校舎のオカルト研究会の部室内には現在、妙な空気が漂っていた。

 

こつ、こつ、こつ、かつこつ、こつ。

 

 

「天使、堕天使、悪魔の三陣営が頻繁に接触し、戦闘しているという訳ではないのか」

 

「そうね、警戒はし合っているけどそのトップは争うことに対しては消極的よ。で悪魔のトップは先程話した四名」

 

「では表面下で起こる争いは大体が私情か――」

 

「各勢力内部で分裂した過激派、もしくは敵対組織に取り込まれて意図的に戦争を起こそうとするゴミクズね」

 

 

未だに少し苛立った様子の美咲と余裕の態度を崩さずに話すリアス。その二人がさも当然のように、それこそ呼吸のように躊躇いなく盤上の戦争を続ける。片方が駒を動かせばもう片方はほぼ一秒後に次の一手を指す。

ノータイム。二人の脳内で枝分かれした戦術の選択肢がノンストップで絡んでぶつかり合う。

兵士(ポーン)が、騎士(ナイト)が、僧侶(ビショップ)が、戦車(ルーク)が、女王(クイーン)が、盤上でその小さな世界の争いを作り上げる。

 

 

「そして当のお前は現最強悪魔の一人の妹だと」

 

「サーゼクス・ルシファー、冥界では言わずと知れた四大魔王その一角。私の自慢のお兄様よ、っと」

 

「…チッ」

 

 

雑談が気軽に空を飛び交う中、地上での闘いが小さくリアスの優勢に傾く。

斬り込む戦車(ルーク)に逃げ道を磨り潰す女王(クイーン)

リアスの戦略が行う動作や話題の内容、僅かな言葉遣いの変化と共に美咲へプレッシャーとしてのし掛かる。

 

 

「…チェスはちょっとした心得ぐらいしか無いんですが、これって…」

 

「凄いですわね、元浜さん。ノータイムで気を削ぐリアスに対してああも巧く立ち回るなんて…レベル的に見たならセミプロでもやっていけそうな程です」

 

 

木場は扉の近くで、姫島は切り揃えたばかりの美咲の髪にまだ触れたまま二人の対局を見続ける。

 

だがリアスと美咲はそんな二人の目線や会話がまるで聞こえていないかのように闘う。

 

 

「『滅びの力』といったな、お前ら兄妹が持つ強大な力は」

 

「ええ、爵位持ちの純血上級悪魔が名を連ねる72柱、その最上位に位置するバアル家のみが持ちうる特殊な力…まぁ、今代ではバアル家次期当主が力を受け継げなかったからトンデモなく敵視されてるのだけどね」

 

「それは面倒な事だ、な」

 

「…あら」

 

 

美咲が盤上で作り上げた駒の陣形の盾を捨て、迅速に攻め入った。

ここでリアスが後手で防衛に回らざるをえなくなり、不利に陥る。

微かにリアスの余裕が崩れ、少し駒を動かす音が荒くなる。

 

かつこつ、かつこん、かつこつ、かつこん。

 

 

「早い…それにその戦法…!!」

 

「問題は無い筈だ、個人的な嫌悪を向けられても困る」

 

 

美咲が突き出した槍がリアスの防衛で少しずつ削れていく。だが勢いは収まらない。

 

 

「嫌悪…そうね、貴女の使うスタンスは私がこの世で一番嫌いなモノだったわ」

 

「そうか、御愁傷様だ―――」

 

 

美咲の持つ白の女王(クイーン)が一際力強く置かれた。

 

 

 

「―――チェック」

 

 

「………ダメね、参りました」

 

 

終結。対局は美咲に軍配が上がった。

リアスが息を吐いてソファーに凭れ掛かった事で場の空気が糸を切ったように弛む。

 

 

「見事です、リアスに勝てた人なんて久々に見ましたわ……あら、髪の方終わりました」

 

「ボードゲームから気迫が伝わってくるなんて体験は初めてでしたよ」

 

 

二人の軽い拍手を背に、美咲が話し出す。

 

 

「お前は捨て駒にする事を気にし過ぎだ。実際の戦争やそれさながらの図上演習ならまだしも、これはただのボードゲーム。遊び(ゲーム)だ。」

 

「そうね…でも、駄目よ。犠牲(サクリファイス)は」

 

 

リアスがまた大きく息を吐き、美咲に向き直る。

 

 

「軽い息抜きのつもりが随分本気になっちゃったわね、さっさと本題に戻すわ」

 

「……ああ」

 

 

そう言ってリアスが姫島に目配せすると、盤上で黒が追い詰められきったチェス盤が瞬く間に片付けられる。

 

 

「貴女の処遇を一言で纏めると―――」

 

 

チェス盤と入れ替わりで出された紅茶を片手に、言葉を続けた。

 

 

「―――保護ね」

 

「「……はぁ?」」

 

 

美咲と木場の気の抜けた声が重なった。

美咲が苛立っていたのは格上の人物に囲まれたこの状態を抜け出す打開策が見つからなかったから。

木場が戸惑っていたのは自ら戦った敵対者かもしれない人物が、その命を下した自分の(キング)と仲良く(?)チェスをしていたから。

その上にこの処遇なのだ。二人がこのような反応を示すのも当然だと言える。

 

 

「保護とはなんだ、貴様ら悪魔がこちらに仕掛けてきたんだろう」

 

「ええそうよ、そしてそれによって貴女が三勢力やそれ以外のどの勢力にも属していないただの一人の学生である事が『完全に』判明した」

 

「それが、何なんだ」

 

「つまり此方(ウラ)から、三勢力から見た貴女の所属は『悪魔の管理する駒王学園』。よって私達には貴女を駒王学園の学生の一員として保護する義務ができたのよ」

 

 

無茶苦茶であった。

監視はまだ判別する際の前提なので理解は出来る。だがそれなら木場をけしかけてきた意味は何だったのか。

 

 

「先輩…じゃあ僕が元浜さんに―――」

 

「必要ない」

 

 

木場の発言を意図せず遮った。

そのまま机を強く叩いて立ち上がる。机を叩いた際に美咲の全身に巻かれた包帯の下の火傷に響いた。治癒魔法という物をかけられていたとはいえ痛みは残る。

 

そのままリアスに背を向けて扉に向かおうとする。

 

 

「……本当に必要ないかしら、この学園の生徒となった事で貴女は微量だけど他勢力に関わってしまう厄介事に遭う可能性ができたのよ?……貴女が神器持ちだということも相乗効果になってるけど」

 

 

『この学園の生徒だから、裏との関わりを持つ事になるかもしれない』

これを聞いて、美咲は思わず立ち止まった。扉の横に立つ木場と目が合う。

少しの困惑、そして謝罪と懇願が込められたような目だった。

 

 

「……俺以外の生徒を護る事に集中しろ。自分の身は自分で護る」

 

「その『俺以外』っていうのは1-Bの元浜君と兵藤君と松田君と、1-Dの井上さんの事かしら」

 

 

美咲は思わず振り向いた。

リアスの手には駒王学園の校章が描かれた一つの黒いファイル。

そのファイルを見ながらまたリアスは続ける。

 

 

「守るわ、守るに決まってる」

 

 

ファイルを閉じながらリアスも立ち上がり、美咲へと向いた。

 

 

「貴女の言う『俺以外』も、それに入らなかった生徒も、この町の人々も、そして貴女自身も」

 

 

美咲を見据える淡い青色の眼。リアスの身体から確固とした王の風格が発される。

グレモリー家の悪魔は人間を守り抜く。

その言葉に姫島が頷き、木場が息を吐きながら微笑を浮かべる。

 

 

「………貴様らに護れるものか」

 

「いいえ、守ってみせる」

 

「…一人の人間を複数の人間で護り抜く事でさえ難しい。その逆は言わずもがな不可能に近い」

 

「そんな風に思うのならあなたも協力してくれないかしら。その四人を守るのも、それ以外を守るのも」

 

「断る」

 

 

リアスの発言に断固として賛成しない美咲。

家族にさえ鉄面皮とまで呼ばれる美咲だが、今この瞬間は青筋が出来上がりそうな程に額に皺を寄せていた。

 

そして踵を返し、扉から出ていこうとする。

 

 

「…元浜さん、貴女も保護の対象に入っている。それだけは自覚しておいて」

 

「もう話すことは無い、失礼する」

 

 

それ以上の言葉は無かった。

荒々しく閉じられる扉。その横に立っていた木場はその振動で治癒魔法のかかった腕が痺れるのを感じた。

そして遠ざかっていく足音。

 

 

「朱乃、明日から巡回を強化するわ。ソーナにも伝えてちょうだい」

 

「分かりました」

 

 

そう言うとリアスは再び席に付く。そして静かに木場に視線を移した。

 

 

「部長、改めて聞きますが僕が彼女に襲い掛かった意味は……」

 

「祐斗、ごめんなさい」

 

「ッ…!!」

 

 

木場が普段のイメージに似合わず、頭を掻きむしった。

 

 

「体裁で言えば『乙女の柔肌を無慈悲に焼いた悪魔』になりますものね。全身、ボロボロでしたもの」

 

「…どうやって元浜さんにお詫びしたらいいんだろう」

 

「元浜さんの友人と一緒に会食に誘ってみてはどうかしら、別に一対一でも構いませんが…」

 

「からかわないで下さいよ……」

 

 

姫島が木場をからかい始める。

それを止めるようにリアスが尋ねた。

 

 

「で、どうだったかしら。彼女の神器は」

 

「あ、はいはい。少しお待ちを…」

 

「……?…………あっ…!!」

 

 

何か打ち合わせをしていたかのように、姫島が手に付けていた指輪(・・)を取り外した。

木場も最初は疑問符を浮かべていたが、その指輪を見て約数秒。思い出したかのように声を上げた。

 

 

「それ、確かどう処分しようか迷っていた魔力測定用の魔装具じゃないですか?」

 

「当たりよ祐斗、よく覚えていたわね」

 

 

姫島が掌に載せた簡素な外形の指輪にゆっくりと魔力を込め始める。

すると流された魔力が指輪の輪を通り、手の上で小さな風船のような球体と化した。

その球体の表面が二色の色で染まり上がる。

その二色とは、白と黒。

今、その球体は丸めた白い紙に少しの墨汁を垂らしたような姿であった。

 

 

「……これは私達には視覚化しかされていないけど、朱乃にはちゃんと中身の質まで伝わっているのよね」

 

「そうですね、元浜さんが内に秘めていた魔力が反映されているのを感じますわ」

 

 

この指輪型魔装具、名を『対面の球体(エッグミート)』と言い、特定の人物の魔力の質を計る為の物であった。

使用すれば対象人物がどのような心情を内面に抱えているかや対象人物がどのような性質の魔力や神器を持っているか等を詳しく判別出来るという、字面だけを見ればなかなかに便利な物であった。

 

たがこれを手に入れた経緯というのが『他家の悪魔に有効活用の方法が無いからと押し付けられた』からであり、当然他人に押し付けるような物が便利である訳が無かった。

 

条件として『対象に触れ続ける、もしくは対象と約1ヤード以内の距離を保つ』必要があり、更にその対象の内包する性質の入り組み様によっては軽く20~30分はその条件をクリアし続ける必要まであった。対象範囲も1メートルではない辺りが余計に面倒臭さを漂わせている。

 

要するに使い所が極端過ぎて活用法が無い、という事だった。

 

 

「祐斗が髪を斬ったり焼いたりしたから初めてそれを使う機会ができたのだけど……」

 

「…改めて罪状を聞くと大変な事してますね、僕」

 

「乙女にとって髪は命と言いますし、髪自体がもともと『神の気』と人物の波動を表す単語だったとも聞いた事がありますから……重罪ですわね」

 

 

美咲の頭が微妙な髪型になっていたのを整えたのは姫島であった。その時点から既に『対面の球体(エッグミート)』を発動させており、チェスの対局の20分程の間に美咲の魔力の質を計っていたのだった。

 

 

「ちなみに…先輩方はもし髪にそんな事されたりしたら―――」

 

 

髪は乙女の美貌の源の一つである。

そんな問いはリアスと姫島にとって愚問であった。

 

 

 

「――消すわ」「――燃やしますわね」

 

 

 

何も知らない人物なら怯む事間違いなしの威圧感が2方向からのし掛かった。

謎の肩の重みの中、木場が頭でお詫びをどうするか改めて考え直し始める。

 

 

「……誘う…いや、そもそも……謝罪して仲良くなってから………でも……」

 

 

「朱乃、今の祐斗は放っておいて報告をお願い」

 

「はいはい」

 

 

木場を後目に姫島が手の上に浮かぶ球体を指でゆっくりと2つに割った。

白黒斑の球体、その中身に二人は視線を向ける。

 

 

「……真っ黒じゃない、腹に抱えてる神器がそれほど邪悪な物だとでもいうのかしら」

 

 

元浜美咲の内面性を表した魔力球。

その中身は数センチの白い分厚い層と黒に濃い黒を溶かし込んだような闇の球体で構成されていた。

 

リアスの咄嗟の見解に姫島が訂正を入れる。

 

 

「リアス、直接触って調べたから分かりましたけど…元浜さんが抱えているこの『黒色の中心部』は神器ではありません」

 

「神器じゃない?」

 

 

疑問の声を上げたのは木場。

 

 

「じゃあ彼女の使った力は何なんですか?光線に弾丸に瞬間移動、あと見間違いじゃなければ空中に立ってもいましたよ」

 

 

木場は確かにその身で味わったのだ。

速さに自信を持つ自分より速く動く歩法、数十にも及ぶ硬い弾丸が剛速で発される技、そして『魔剣創造』を使わざるをえなくなったあの光線を。

 

どれを取ってみてもただの人間が出来る事では無い。

 

 

「そうですわねぇ……形自体は神器に近いけれど神器とは似て非なる存在、って言うのが私からすれば一番しっくり来ますわ」

 

「…似非神器って所ね」

 

 

姫島曰く、ベクトルが違う。

本来は神器が持つ属性、炎であれ、氷であれ、衝撃であれ、治癒であれ、どれ程神器が弱い物であったとしても神器自体には安定した属性の力、そしてプラスイメージが存在している。

火炎を纏う武器の神器があるとするならそのプラスイメージは火山が如く盛りたぎるような力強い魔力。氷雪を纏う武器があるとするならそのプラスイメージは銀世界が如く反射し吹雪くような美しい魔力。

そういったように神器は己が持つ属性毎に何かしろのプラスイメージを持っている筈だと言う。

 

 

「ですがこれは……」

 

「……見事に黒い中心部でマイナスイメージが渦巻いているわね」

 

 

元浜美咲が内包する魔力は何処からどのように見てもプラスでは無かった。空虚な黒を焼いて煮て蒸して漬けて沈めたような凝縮された闇。

姫島が神器では無いと判断した点はそこであった。

 

聴衆のリアスと木場の頭が考察でフル回転している最中、姫島が更にややこしそうな考察材料を投げ込む。

 

 

「…そういえばこの魔力、どこかで感じた事があるような気が……それと他にも違う種類の魔力がありますわね…」

 

「何種類抱えているっていうのよ……本人の魔力に似非神器の魔力に…また別の魔力?」

 

 

彼女は普通の生い立ちだったはずじゃあないの、と心で小さく愚痴を言う。

リアスが隣を見ると木場がお手上げといった風に首を傾げていた。諦めたようだ。

 

それを見てため息をついたリアスも一時は諦めたのか、姫島の手の上に浮かんでいた魔力球を風船のように両掌で叩き潰した。

気の抜ける空気の音が耳に届く。

 

 

「データは後で生徒会の方に回しておきましょう、ちゃんと後日報告をくれるわ。それにこれ以上疑問が増えると今日の仕事を浮かない気分でしないといけなくなるわ」

 

「…そう、ですね」

 

「祐斗、あなたには元浜さんにデータを取らせてもらった事と互いの関係は望み通りほぼ相互不干渉だという事を伝えておいてほしいの」

 

「保護という名の『超消極的協力関係』ですわね」

 

「私も彼女には後日色んな点で謝罪をする事になりそうね、そもそも話をしてくれるかどうか、だけど」

 

 

そんな台詞を背中に受けながら、木場は扉を開けて廊下へと出た。

頭に彼女との戦闘シーンが浮かんで、思わずまた溜め息を吐いた。

 

 

 

「彼女何者だろうね、まったく」

 

 

 

怒れる仏頂面の彼女の表情を解き解す方法は、浮かんではいなかった。

 

 

 




汚いな流石悪魔汚い
交渉がどうなっても情報だけは頂く隙を生じぬ二段構え

今のウルキオラさんの悪魔に対する好感度は『会ったついでに唾を吐く』レベルです
リアスはどうしてこうなった、フシギ!!保護するならけしかける前に何かしろ話せよってね
木場くんの『ア(ク)マガミ』美咲ルート、現在はテキタイです


次回は楽しい楽しい(予定)夏休みの話になります



【今回の要約】
男ってのは女の為に強くなる生き物なんだよ、アル。
でもその女の子が強かったら守る意味ないよ、バーニィ
いいか、『人間』てなぁどこかしら弱さがあるんだ、それを支えてやらなきゃ。
僕にはよく分からないよ。
いいさ、アルにもきっと分かる日が来る。それまではちゃんと見守ってやれよ!

あ、悪魔との関係は『相互不干渉』になりました。

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