Q.じゃあ何が得意なの?
A.ホラーテイスト
美候くんはね、転校しちゃったの
窓の外が闇に包まれた。
軽減されたエンジン音が反響しながら、その他全ての音を押し潰す。
肩肘を付いてじっと外を眺めていると、瞬時に過ぎ去る幾つもの橙色のライトのせいで目頭が少し痛んだ。
「――え――左――窓――らん――下さい――」
運転席の父が声を上げたのが聞こえたがその音も掻き消されてイマイチ聞こえなかった。
特に気にせず右側の窓から外の景色を眺める。
徐々に進行方向から光が洩れ始め、暗闇に少し馴れた目を細める。
そして完全に視界が光で覆われた瞬間、耳障りな反響する音が消失した。
視界が完全に明るんだ先にあった光景は―――
「………?」
青々と繁る針葉樹で溢れた山だった。
時折見切れる錆び切ったトタン板の小屋や野性動物らしい狐、想像していた景色とは毛色が違う。
「あはは……美咲ちゃん、こっちこっち」
くすくすと笑う隣の友人の声。
そしてすぐに背後でボックスカーの窓が開放される音が耳に届いた。
車内に磯の香りを含んだ強い風が吹き込んでくる。
「来たぜ―――!!!」
「俺達の―――!!!」
「スゥアァァマビィィィィィチ――――ッ!!!」
先程と同レベルの耳障りな雑音が最後部のシートの三人組から聞こえる。
友人の方を振り返るとそこには文字通りの青い海、黄色い砂浜、そして快晴の青空が広がっていた。
「やはー、朝早いのに人多いねー」
着替え終わった荷物を手に持った水着姿の井上がとてとてと前を走っていく。
父は男性陣に荷物運びと場所取り、女性陣には今の内に更衣室で水着に着替えてくることを命じた。
今頃、三人組は目を付けた場所にひいこらと汗水を垂らしながらパラソルを立てている事だろう。
ちなみに今日は母は用事で来ていない。海に浸かれないなら代わりにスパで温泉に浸かってやる、と恨みがましく嘆いていた。
「…日光強いから日に当たりたく無いのは分かるけど…その格好暑くないの」
「生地は薄いから平気だ」
現在自分は白と黒の一般的なホルターネックのワンピースタイプ、動き易いセパレートの水着を身に付けて、更にその上に大きめのラッシュガード生地の白いパーカーを着た格好である。
暑くないかと聞いてきたのは恐らく最初からフードを被っていたからだろう。
井上の格好は暖色のリボンビキニにショートパンツ、とこがとは言わないが大迫力である。他にも似たような格好の女性は見掛けるがそれより隣に誘蛾燈が置いてあるかの如く視線が集まっているのが分かる。
「美咲ちゃんは美肌なんだからもっと周りにアピールすればいいんだよ」
「そう言うお前は曝し過ぎだ」
上げきっていたパーカーのジッパーを腹の辺りまで下ろすと、見馴れた黒い線の円と火傷の面影一つ無い肌が現れる。
数ヶ月前に木場に肌を焦がされた痕は何一つ残っていない。これも超速再生の一つなのか、治癒術師の腕が余程良かったのかは分からないが周囲に不要な心配を抱かせずに済んだ点は素直に喜ぶべきだろう。
当の本人の木場はあれ以来何度も此方に接触して謝罪をしたり誘いを掛けてきているが、余程の緊急時以外は全く関わる気が無いので何かしろの誘いは軽い会話で流し、業務的な報告はそれ相応の態度で受け答えしている。
他の悪魔も何回か接して来たが、井上とおおよそ良好な関係を結んでいる支取蒼那以外は殆んど雑な受け答えのみで会話を済ませている。
本来ならその支取ですら関わり合いたくはないが、何分彼女は井上真紀の友人。
今では木場や支取達が『駒王学園の生徒』として接してくるか『悪魔』として接してくるかで人前での対応を使い分けている程であった。
「さて…あそこかな?」
しばらく歩いた末に見付けたのは見覚えのあるビーチパラソルの下でせっせとビニールシートを敷く父。
三人組は入れ替わりで着替えだろう。
「おじさーん!!」
「お、お帰り。いやぁ、似合ってるねぇ…ナンパには気を付けなよ?」
敷き終えたビニールシートの上に座った父。こちらに向けてクーラーボックスから出した二本のスポーツドリンクを投げてきた。
自分も井上も取り落とすことなくキャッチし、そのままそれに口を付けた。
喉を通る冷たい液体の濃い甘味。
暫くして口を離すと、吐息が洩れた。
「三人も着替えに行ったけど…男の子だし多分すぐに帰ってくるよ。あ、浜辺の美人に見蕩れていなかったらだけど」
そう言うと父は席を譲るかのようにビニールシートから立ち上がり、そのまま準備体操を始めた。
井上が空いたビニールシートに座り込み、またスポーツドリンクに口を付けた。
ぷはぁ、と満足気な声を出して、井上が父に尋ねる。
「早速泳ぐんですか」
「そうだね、海なんて久々だから年甲斐もなくウキウキしちゃって…」
肩や腰からポキポキと体に悪そうな音を鳴らしながらラジオ体操第一をこなしていく。
どうでもよいがあのポキポキという音は骨の音ではなく、骨と骨の間の関節にある特殊な液体で生まれた気泡が割れる音らしい。医学書によると実際体に悪いらしいのだが、いくら注意しても暇あらば鳴らすので既に諦めている。
「財布はそこの黒い鞄に入ってるから何か小腹が空いたら買ってくるといいよ」
そう言うと父は海に向けて歩き出す。
もうすぐ50歳を迎えると思えない体だ。
「じゃあちょっと―――」
父がこちらに振り返り、2本指の敬礼をし。
「―――沖まで」
その敬礼の手を放った。
そのまま父は競泳選手のようにダッシュで海に飛び込んだかと思うと、一目散に綺麗なS字かきクロールで浅瀬を離れていった。
すぐに姿が豆粒程になるが、混雑した海水浴場の中でもその水を掻き分ける音が微かに聞こえた。
「……美咲ちゃんのお父さんって、スイマーだっけ」
「違うな、結婚以前はよく海外へ行くことがあったと言っていたが…その際に付けた技術だろう。海に飛び込まざるをえない状況によく出遭ったんじゃないか?」
「……こないだはプロ顔負けのリフティングとドリブルシュートをしていなかったっけ」
「南米の方ではサッカーは良いコミュニケーションツールだったと言っていたから、それはそのせいだろう」
「お、おう…」
そのまま自分もシートに座り込む。
それから三人組が来るまで、井上との間に会話は無かった。
「俺は、先に逝くだろうから、その前にお前らには
「「も、元浜ァーッッッ!!!」」
急に後方から邪念の篭った視線を感じた。
ノールックで近くにあった物を投擲すると騒がしい三人組の声が聞こえた。
振り向けば俺の投げた白い物体がちょうど口の中に詰まった
「……今、何投げたの?」
「そこの砂に埋まっていた海月だ」
ちょうど掴みやすい質量のある物体だったのだが、
「少しここを離れる」
立ち上がり、後方に向けて歩き出す。
日光で熱された砂が足の裏にしゃりしゃりと快感と不快感を同時に伝えてくる。
自分の視界の先で
大分近付いた辺りで二人が俺に気付いた。
同時にわたつき始め、此方を宥めようとするかのような表情である。
ちなみに三人組が来るまでに既に三十分は掛かっている。父の予想通り、他の女性を眺めていたのだろう。
公衆の面前で知り合いのバストサイズを晒すような輩だがその言い訳は果たして―――。
「弁明があるなら言ってみろ」
「残念だけどナイスおっぱい!!」
(彼も悪気があった訳じゃないんです!!)
「パーカーから覗くへそがエロい!!」
(そうなんです許してあげて下さい!!)
「「………あ」」「………」
無言のままパーカーのジッパーを首まで引き上げる。
その数十秒後、砂浜の上に三つの変死体が出来上がった。
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黄色い砂の散らばったコンクリートの駐車場。
満車になり観光客の車が窮屈そうに詰め込まれたその横を二つの影が歩いていく。
すれ違う誰もが横を通り過ぎる彼等を振り返る。存在感がまるで違っていた。
「こうして海に来るのも……というか、人間の前に出てくるのもどのくらいぶりだろうな」
「……待て、度々研究室から消えるのは一体何処に行ってるからだ?」
「秘密だ。明言するならば『神器に関する事』とだけは言っておこう」
ダークグレーの髪に青色の眼を持つ落ち着いた雰囲気の青年。そして黒髪で悪党の雰囲気を全身から滲み出させている浴衣姿の男。
その濃い印象から通り過ぎる人々は
『凄いオーラ出てるけど芸能人かな?』
『…怖いし近寄らないでおこう』
『黒髪のお兄さん、なかなかのイケメンだなぁ…』
『にしても男二人で海水浴場って…』
等と思い思いの感想を抱く。
「そういえばアザゼル、先程"仕事"は終えたと言っていたが…さっさと帰らないのか」
「いや、今ここにいるのは単なる俺の暇潰しだ。いいじゃねぇか、たまにはこうして海を見に来るのもよ」
「………はぁ」
「なんだ、帰りたいなら帰れ。ほら、折角の潮風が苦くなるだろ」
かっかと笑いながら浴衣姿の男が楽しげに歩いていき、その後ろを灰髪の青年が渋々と着いていく。
その浴衣の男、名をアザゼルと言った。こんな場所を気楽に歩いてはいるが『
そしてその背後を行く青年、ヴァーリ。今代の『白龍皇』と呼称される神器の器であり、天界冥界人間界の実力者を並べれば上から数えて数十番目に名前が並ぶほどの強者である。
「うんイイねぇ、この雰囲気!!油の跳ねる音、香ばしい熱気、その横で差し出される冷たいかき氷!!後は看板娘が水着エプロンで迎えてくれたら星三つだな」
「食いたいのか?」
「その為にワザワザ海の家まで来たんだよ、ヴァーリもなんか食うか?」
「…遠慮するよ」
時刻はお昼時の少し前。アザゼルが向かう海の家には既に幾人もの人影で列が出来上がっていた。
アザゼルは口笛を吹きながら浴衣の袖口に腕を突っ込む。そこから取り出したのは浴衣と同様に本人の雰囲気にそぐわないガマ口の財布。
「ちょっと行ってくるから…暇だったら可愛い女の子か強い奴捕まえとけよ」
「前者はともかく俺が求めるような強者がこんな場所で、しかも片手間で見つかる訳が無いだろう」
「……まぁ、そうだがな…暴れる相手くらいは見付かると思うぜ?例えば――」
そこまで言うとアザゼルは面白いものを見付けたように並ぶ列のある部分を指差した。
「――あの辺とか」
『割り込んでねぇっつってんだろザッケンナコラー!!』
チンピラのようなドスを効かせた声が列の途中から聞こえる。
アザゼルの差す指の先で、いかにも知能の低そうな男共が騒いでいるのが目に写った。
その汚い男の怒声を聞いた瞬間、ヴァーリの顔が呆れたような表情になる。
「アザゼル、今のは冗談で言ったんだろうな。俺にあのゴミを片付けろと?」
「そっちに目が向いてたらその隙に割り込めるかもしれない、プラスで人助けして感謝される。一石二鳥だろ」
「…いいか、アザゼル」
列の中腹、そこで気弱そうな女の子三人が金髪タトゥー、肌黒サングラス、鼻ピアススキンヘッドといったいかにもな三人組に絡まれているのが分かる。
どうやら男三人組がその少女達の前に割り込みをしたらしかった。
『なあそこのオッチャンさぁ、俺ら割り込んだの見えたか?見えてないよなァ?ほら無反応じゃん、見てないって事っしょ』
依然、男達は迷惑を周囲にバラ蒔いている。
女の子達は既に泣きそうになっている。
「――今のお前の根性はアイツらと同レベルだ」
「……あー………なんかスゲェ申し訳無い気持ちになってきた」
列に割り込もうとするガラの悪い男。確かに字面だけ見ればあの場所で騒いでいる男共と同じレベルである。
何でこんなにちっちぇえ事で頭抱えなきゃなんねぇの、と思いつつも悩むアザゼル。
ヴァーリは少しニヤつきながら、穏便な方法を考える彼に面白いものを見るような視線を向けていた。
「……わぁったよ、助けるよ。適当に威圧したら気絶くらいで済むだろ―――」
「―――そこな不良達っ!!」
その前に列の後方から橙色の影が声を張り上げた。
あ"?と声を洩らしながら男三人はそちらに振り返った。
同時にヴァーリとアザゼルの目もそちらに移る。
「女の子にお痛はいけないと思いますっ!!」
厳つい男供の前に躍り出た人物は、高校生程度の女の子であった。明るい茶髪に細い肉付きの手足、そしてその場全員の視線を釘付けにした
近付こうとして面食らったが、アザゼルは彼女を見て軽い口笛を吹いた。
「いいオッパイだ…おお、揺れる揺れる……しばらく静観してみるか」
「チッ」
「なんだよ文句なら買うぜ、なんならお前があの女の子に加勢しに行けよ」
彼女が出た事で少し雰囲気が変わる。そこに面白い空気を感じ取った二人はすぐに近くの階段に座って完全に観戦モードになった。
二人の視線の先では、腕を組んで堂々とチンピラ達と対面する女の子。何か策があるかのように自信満々である。
チンピラ達は彼女の身体をじっくり眺めた後、外衆な笑いを浮かべて近寄り始めた。その間は5m。
「姉ちゃんイイ身体してんなぁ…何?俺達に満足させて欲しいワケ?」
「ぐ…ぐぅ……覚悟していたとはいえやはりセクハラ発言が……」
ジリジリと近付くチンピラにジリジリと遠ざかる茶髪の女の子。どうみても腰が引けている。
だが彼女は急に覚悟を決めたように深呼吸をする。
吸って、吐いて、吸って、吐いて、そして叫ぶ。
「婦女子に悪行を働く行為、赦すまじ!!天誅!!」
突然の大声に少し身体をびくりとさせるチンピラ達。
彼女は彼等を指差し、更に続けた。
「美咲ちゃん、やっておしまいっ!!」
「――オレは犬か、それともお供か?」
――刹那、モノクロの人影が彼女の背後から飛び出した。
その影は失速する事無く、一番彼女に近付いていたチンピラ――金髪タトゥーに飛び掛かった。
「う、うおっなん―――ガッ!?」
人影はその細い太股で金髪タトゥーの顔面を挟み込み、首を折る勢いで身体を捻って、金髪タトゥーを砂の大地に勢い良く叩き付けた。
下は天然のクッションとはいえ、全身を強打した金髪タトゥーはその一撃で悲鳴を上げて気絶した。
「一匹―――」
一瞬にして一人を鎮圧し、その気絶したチンピラの顔に乗ったその影が顔を上げる。
翡翠色の石を嵌め込んだような目を持つ端正な顔立ちの女の子であった。
「おお、格ゲーみたいな技だな。弱コマ投げとかその辺」
「確かに何かしろの格闘技をかじっているようだな」
「…あの女の子が何秒で場を鎮圧するか賭けでもするか?」
そのアザゼルの問いにヴァーリは欠伸で返事を返す。
技は鋭いが人間の粋を出ない闘いには興味が湧かないらしかった。
いとも簡単に男を捩じ伏せた彼女の視線が、残った二人を貫く。
「マ、マサを一瞬で…クソっ!!」
仲間一人がやられ、焦った様子の鼻ピアススキンヘッド。ダッシュで近寄り、金髪タトゥーの顔面に乗ったままの彼女を掴もうとする。
拳を握ろうとしない辺りは彼なりの良心か、それとも女性を殴るのに決心が付かなかっただけか。
「―――ふッ……!!」
「え、えっ…!?ちょ、ぐおぉぉぉぉッ―――!?」
鼻ピアススキンヘッドが彼女の服を掴んだ瞬間、一瞬でそのパーカーを脱いでその服で鼻ピアススキンヘッドの両手首を拘束。
起こった事に戸惑った彼の背後に回り込み、左腕を首に右腕を股間から太股に通し、締め上げながら背中で勢い良く持ち上げた。
ゴキリゴキリメリメリと悲鳴を上げる鼻ピアススキンヘッドの腰と首と股関節、その痛みに彼の口からも悲痛な声が洩れ出す。
「痛い痛い痛い痛いッ――ナニコレナニコレッぶふォッ―――!?」
ゴキュリと音が鳴り、彼の抵抗が止まる。首を締め上げてオトしたのである。
ダラリと脱力する背中の上の人物をしっかり確認すると、彼女は担いでいた鼻ピアススキンヘッドをまるでゴミでも扱うように金髪タトゥーの上に投げ棄てた。
彼女が見せたカウンターに今度はヴァーリが口笛を吹いた。
「……バルログタイプかと思ったらザンギエフタイプだった」
「メキシカンバックブリーカー…メキシコ式の背骨折り技か、なかなかにエグいな」
「そんなに嬉しそうに――――あ?」
「…どうしたんだ?」
呆れたように女の子を眺めていたアザゼルが急に顔を険しく、何かを観察するかのような研究者のモノに変えた。
声を掛けても返事が一切無くなる。
「……チッ」
疑問を覚えながらもヴァーリは場に目を向け直した。
予想外の女の子のエグい技に場は静まっている。それもそうだ、まさか身長も体格も並程度の女の子が本格的なプロレス技を使うなど誰が予想出来ようか。
だがその静まったギャラリーの中心、そこではボーダーのワンピース水着の女の子と黒肌サングラスのチンピラが静かに闘志を燃やしていた。残ったチンピラの黒肌サングラスには何か格闘技の心得があるらしい。
その空気にドン引きで静まり返っていたギャラリーに緊張が走り始めた。
黒肌サングラスが少女との距離を少しづつ縮めていく。少女は動かない、待ちの姿勢だ。
「………!!」
そのまま互いの距離が3mを切った瞬間、黒肌サングラスが全力で駆け出した。
身を低くし、両手を半開きで顔面の前に持ってきてのタックル。
フットボールを連想させるような勢いのそのタックルが猛牛のように細い身体の少女へと迫る。男が食い縛った歯を剥き出しに地面の黄砂を強く巻き上げていた。
容赦の無いそのタックルが少女にぶつかる――――
「―――遅い、遅過ぎる」
「なんだとッ―――ぼばァッ!?」
少女はまったく動じなかった。
当たるかに思われた剛速のタックルを紙一重でかわす。
そして過ぎ行く男の身体、正確には頭を瞬時に捉えて小脇に抱え込んだ。
自らが真後ろに倒れ込む勢いを利用し―――
脳天を地面に叩き付けた。
「…DDT……クハッ、ハハハッ!!女の子が使う技じゃあ無いなぁ…!!」
目や鼻や口、股間などの急所を狙うと考えていたヴァーリは思わず腹を抱えて笑う。
そのレベルの低い戦闘自体に興味は無いが、今の彼にとってそれ(DDT)は予想外過ぎて笑いを堪えられなかったのだろう。
その場に三つの気絶したチンピラの身体が転る。その中心に立つのは高校生になったばかり、というような年の女の子。
鎮圧が終わると彼女は男の手からパーカーを取り戻すと、その命を出した茶髪の女の子の元へとさっさと戻っていく。
「―――おつかれ!!まさかホントにこないだ見せた『King of Shikoku 決勝ラウンド アンセスター高木VSエンニチマスクライガー』の技を再現してくれるなんてっ……!!感激っ!!」
「―――時々お前という人間が分からなくなる、というか何故あのような映像を持っていた」
ギャラリーも解散し、二人が姦ましく話しながら去っていく。
解散の雰囲気を醸し出す場にヴァーリも立ち上がる。
「取るに足らない闘いかと思えば愉快なモノが見れた、俺はもう満足だが―――」
言葉を止め、座ったまま顔を険しくしているアザゼルに向けて言う。
「―――アザゼル、何を見付けた」
彼の顔から更に険しくなる。
その視線の先には当然、先程の女の子。
茶髪の女の子と肩を並べて此方に背を向け、人混みに紛れていく。
話すその声も周囲の人間達の雑音で埋められていく。
「ヴァーリ、パーカーの方の娘の胸元を見てみろ」
「……アザゼル?」
「見てな」
そう言うとアザゼルは立ち上がる。
そして軽く息を吸い込んで。
―――全力で威圧を放った。
空気の流れが変わる。
これこそが、重圧と言わんばかりの威圧感が場を支配した。
何も知らない周囲の人々の背中を氷点下に放り出されたかのような怖気が駆け上がる。
一瞬にして騒がしかった海水浴場の一角が謎の沈黙で包まれた。
怖気を感じた人々が立ち止まり、その原因を探して周囲を見回し始める中。
「―――――ッ…!?」
件の少女のみが動き、振り返ってそのまま真っ直ぐアザゼルとヴァーリを睨み付けていた。
彼女が茶髪の友人を庇うような動作で手を突き出した時、ヴァーリの目がパーカーの隙間にあるものを映した。
「……黒い円」
「ああ、そうだ…見たところまだ発現はしていないようだが、ありゃ多分神器だ」
「知っているのか?……オレ自身は見たことも聞いたことも無い。それに『白き龍』の過去の所有者の記憶にもあんな奇妙な魔力を発する物は無かったが」
「いやオレも詳しくは知らねぇ、だが耳に届いた話だと『
アザゼルがヴァーリの反応を見て威圧を止めると、周囲の人間はまた何事も無かったかのように動き出した。
但し、深緑色の眼の少女の視線は彼等を捉えて離さない。
「あー、いや…『
「似たような力の持ち主がか?」
「下部の方のグループに所属していたせいか大して話した事も無いがな。名前はなんて言ったっけか、確か―――っと?」
その時、人混みを掻き分けてゆっくりと翡翠色の眼の少女が近付いて来るのが見えた。
「ヴァーリ、行くぞ」
「…回収して調べるなりしないのか」
「調べるなら『
「はいはい、了解」
人混みを抜けた彼女が彼等に向けて走り出す。砂の上とは思えない程の早さで無表情が駆けてきた。
だがそれに見向きもせずにアザゼルとヴァーリは踵を返す。
アザゼルが浴衣の手元に手を突っ込み、一つの変わったブレスレットを取り出した。
「―――起動」
その言葉に反応したブレスレットが淡い光を放つ。光は瞬時に二人を包み込む。
そしてそのまま彼等の姿が人混みに紛れた瞬間、彼等の反応はその場から一切合切消え去っていた。
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「い、今の寒気って……?」
「…少し身体を冷やしたんだろう、大人しくしておけ」
上腕を擦る井上、やはり一般人があれほどの威圧を浴びる事は普通起こりえない。
あの浴衣の男が自分に向けて威圧を放っていた。そしてあの時に一番傍にいた人物は井上。
自分でさえ冷や汗をかくほどの重圧に晒されたのなら体調が悪くなるのは仕方の無い事だろう。
「兎に角休め、すぐに良くなる」
「そうかな…じゃあ戻ろうか」
昼間の太陽の下では井上の顔が少し青くなっているのがよく分かった。
あの威圧感の主は一体何者だったのだろう。
探査回路には引っ掛からず、威圧を受けた後で本人の気配を感じ取ろうとしても出来なかった。
雰囲気は確かに人外のものであったが、それが天使なのか堕天使なのか悪魔だったのか。
少なくとも只者では無さそうではあったのだが―――気配や存在を極限まで抑え込む技能や道具を所持していたのだろうか。
加えて、奴の視線は間違いなく自分の胸元――孔の痕を捉えていた。
孔の痕から目を逸らさず、脇にいた同じく只者ではなさそうな灰髪の男と話していた所を見ると此方に興味を抱いていた事実は言うまでも無いだろう。
非常に面倒だ、そう考えると自然と肩を落としていた。
何が面倒かと言うと浴衣の男と灰髪の男について知ろうと思えば確実に駒王学園の悪魔共を頼らなくてはならないからだ。
独自に調べるのは身体的にも立場的にも大きな危険が伴うが、奴等に頼むなら小規模の立場的な不利が発生するだけで済む。
だが現状でさえ『保護』という名目で立場を下に置かれているというのに、その上手助けまで求めればどうなるのか。
「…………」
「大丈夫?美咲ちゃんも気分悪そうだよ」
「…いや心配は無い」
嗚呼、心配させては駄目だ。
何も今、先程の二人組の件で頭を悩ませる事は無いのかもしれない。
彼等がもう一度現れれば別だが、この海水浴場には気分転換の意も込めて来ているのだ。
一先ずは頭の中から消し去ろう。
「―――姉さん!!真紀ちゃん!!」
思考を一区切りした辺りで、丁度駆けてくる愚弟を見付けた。
「何かさっき『海の家で女の子が不良に絡まれてる』って話を偶然聞いて……その、大丈夫だった?」
「うん、全然大丈夫。全部美咲ちゃんが鎮圧したから」
「鎮圧て……」
いつも通りか、とため息を吐く。
まるで心配して損したと言いたげであった。
そしてその辺りで愚弟の背後から走り寄る二人に気付く。
「元浜ー!!二人とも無事かー?」
「真紀ちゃん、何か顔色悪くないか…?」
「ああ、コイツは気分が悪いそうだ。連れていってやれ」
そう兵藤と松田に伝えると二人は井上を囲んでワタワタと慌て始める。
宥める彼女に心配する野郎共、そんな光景を横目に荷物を置いたパラソルへと向かおうとする、が。
「…姉さん、気のせいだったらいいんだけどさ…今日一回でも海に入った?一回も見掛けてないんだけど…」
「………いや、入ってないな」
井上が浜辺ではしゃいでいるのを見ているだけで半ば満足していたので、入っていない事に今気付いた。
「―――ほぅ」
「―――それはそれは」
「―――損だねっ!!」
それを聞き付けたのか、瞬時に三人プラス愚弟に四方を防がれた。
先程の態度は何処へやったのか。
「よし、この際だから海に放り込んじゃおう、バッシャーンって!!」
「つまり美咲お姉さんの身体を合法的に触っていいと!?」
「なるほどうらやまけしからんッ!!むしろ率先してやるッ!!」
「一応一目も人気もあるから大人しめになー…よし、やる」
井上、兵藤、松田、愚弟。
四人が各々呼応して飛び掛かってくる。
井上、貴様は無理をするんじゃない。
「このッ――」「ブッ…!?」
兵藤の腹にフックがめり込む。
「どいつも――」「ボッ…!?」
松田の顎をアッパーが打ち抜く。
「こいつも――」「ッ――!?!!?」
愚弟の股間に全力の蹴りが突き刺さる。
「大人しくしろ」「痛いっ!?」
井上の頭を軽いチョップが襲う。
「いいや、はしゃぐね!!」「!?」
鎮圧し終えたと油断した瞬間に後ろから誰かに抱え上げられた。
「おおっ、軽い軽い! これなら――」
嬉々とした声を出しながら自分を抱える人物―――父が両腕を振り被る。
「投げられるねッ――!!!」
そして、海へ投げた。
躊躇い無く投げた。
思い切り投げた。
「ふざけ……―――ッ!?」
咄嗟に抵抗しようと父の身体を掴む。
が、その手が掴んだのは―――海藻。
――何故身体に海藻が巻き付いている
――沖まで行って何をしてきたんだ
――というか今まで海に潜伏していたのか
――そんな、そんな阿呆な事が
そんな思考の下、海へ落下した。
上がる水飛沫、初めて味わう海水、「イエーイ」という父達の声、お互いにハイタッチする音。
口から出ていく気泡を見上げながら、静かに思う。
―――あとで潰す、絶対
赤龍帝と白龍皇、ひそかにニアミス
日常シーンは原作始まる前に書いとかないと。
え、なんでかって?
原作始まったら急転直下で余裕が出来なくなるからさ。
あと今回出た内容についての再三注意です。
現状でハイスクールD×Dに出てくるBLEACHの能力はD×Dの解釈に当てはめてオリジナル要素を加えた物となります
「これ、~じゃない?」「これ理論的に無理」などの設定に批判的な意見は控えて頂くようお願いします。
※訂正
志鳥→支取
何で間違えてたのかね、コレ
【今回の要約】
青春のページを増やしていくウルキオラさん。
だがその内に秘めたる力とは一体何なのか。
『胸に穴を空けて闘う神器』?
『神の子を見張る者』に所属する同類?
フラグはますます立って行く。