ウルキオラさんがTS転生していく話   作:鉄パイプ

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昨日の夜投稿しようとしたら寝落ちした、スマソ。


さて今回のお話は、夏休みが終わって二学期。
平穏な駒王学園にある一人の男がやってくる。


ウルキオラさん、元同胞ですよ

「ソーナ、少し聞きたい事があるのだけど……先日学園で講師として採用したこの人物って…」

 

「ああ、スペイン語教師として採用したあの…」

 

「で、どうなの?必要書類には『裏との消極的関与アリ』と書いてあるけど」

 

「ああ、その人はね。以前シトリー家で保護した人物なのよ。私が助けたわけでは無いから詳しい事まではハッキリ言えないけどね」

 

「どういった経緯で関わったの」

 

「何処かの陣営のはぐれが作り出した魔獣と戦闘していた所を保護、だった筈よ」

 

「……戦闘、ということは何か技能もしくは神器を所持しているのかしら」

 

「ええそうね、詳しくは教えられないらしいけれどそれなりの戦闘向けの神器だって本人は」

 

「その人はこの駒王学園の戦力に含めても?」

 

「一応含めましょう。彼の着任はシトリー家に対する恩返しだと本人から聞いているし……あ、でも彼自身は争い事を好む質では無いから無理には駆り出さないでほしいわ」

 

「…まあ、そもそもシトリー家に対する恩返し、って言うならグレモリー家が積極的に関わるべきでは無いかしら」

 

「良識的(?)だし、性格も良し。恐らく彼は『極力非常時以外は真っ当な教職員』という立場にいてもらう事になると思う」

 

「分かったわ。……しかしソーナも以前から紳士的で品行も良さそうと言っていたし、どのような御仁か気になるわね」

 

「………そこは…ちょっと」

 

「え?」

 

「……その、欠点というか」

 

「欠点?」

 

「……ええ」

 

「…どんな?」

 

「…話していると、疲れるわ」

 

「…そのくらいなら別に」

 

「疲 れ る わ」

 

「………そ、そう…」

 

 

 

###

 

 

 

二学期がスタートした駒王学園。

 

新校舎三階、その一室には自分や井上を含めた十数人の生徒が集められていた。

教室の名は第3外国語教室。そして廊下に並ぶように同じ構造の教室が幾つか存在している。

【選択制第二外国語】、これらの教室にいる生徒達はそんな名前の授業を受ける準備をしている。

 第一学年の時点で既にそれらの授業があるというのは驚きであるかもしれないが、駒王学園のパンフレットにも書いてある「売り」なのだという。

その中でも自分たちが選んだのが、このスペイン語専科。

 

 

 

「美咲ちゃん、スペイン語なんて興味あったの」

 

「無かったらこの授業を選ばないだろう。……興味ないのか?」

 

「うん」

 

「せめて言い澱め馬鹿」

 

 

そもそもスペイン語には幼少時から自室に辞典と単語帳を置くくらいには興味があった。

その理由は意外な所にある。

 

手元にスペイン語辞典があったなら試しにスペイン語表記での「鉄」という単語を引いてみてほしい。

その結果、「鉄」は『hierro【イエーロ】』となる筈。

他にも「音」は『sonido【ソニード】』、「剥ぐ」は『arrancar【アランカル】』、「剣」は『espada【エスパーダ】』等々。

色々と身周りで思い当たる節が大量に出てくるという興味深い事を見付けたのである。

その謎の関連性は当時幼少といえる年齢であった己の知的分野を擽った。

確かに"興味"の範囲にしか収まらないのだが、その興味だけでも手を伸ばす価値はあると思えたのだ。

 

そういう風に自分には明確な理由はあったのだが。

 

 

「まあ、来る新任の先生もカッコいいとか言われてるし別にいいかな」

 

 

彼女は本当に何となくで選んだらしい。

それでいいのか井上。

 

 

と――そこで彼女の背後に忍び寄る影を見つける。

手が節足動物のような忌避を覚えるような動きをしている。

ジェスチャーで人差し指を唇に当てるその影、無防備な井上に悪戯をする気らしい。

 

そしてその影が彼女の真後ろに到着した瞬間。

 

光速でその豊満な胸を握り締めた。

 

 

「Eカップ―――ゲットだぜッッッ!!!」

 

「―――!?!!? ぎゃあああああああっっ!!???」

 

「ちょ、井上、それ女の子の悲鳴じゃない」

 

 

そう言いながらも影はその掴んだ巨乳を全力で揉みしだき、楽しむように彼女の耳に息を吹き掛ける。

 

 

「ひぃぃっ!!?? やめ、や、ちょ、桐生さ、わひぃっ!?!!?」

 

「んー? 感じてるのかしらこのエロ娘めーフフフッ」

 

 

酔った中年のような雰囲気で胸をテクニカルに弄くりまわす影―――桐生。

頬を染めて女性の胸を揉む彼女は他人から見れば色狂いのレズビアンにしか見えない。

そんな脳内桃色の官能大好き女だが弟達三人組が女だったらこのような性格になっていたに違いない。

 

 

「おうおうおう、またデカくなってるんじゃない?」

 

「……その辺りで止めにしておけ」

 

「何よ、元浜も揉みたいの? でもアンタ昔から一緒なんだし揉んでるんじゃないの、この桃源郷メロンをさ」

 

「………」

 

「…チッ、反省してまーす」

 

 

約三十秒にも渡った愛撫が終了する。

解放された井上は息を荒げ、身体を抱き締めて頬を染め、淫靡な気配を醸し出す。

近くにいた人物は切なげな呼吸のリズムに気分がもどかしくなっている事だろう。

 

 

「いやうん、ここまで色気があると羨ましいを一周回ってムラムラしてくるわね」

 

「桐生さんっ!?」

 

 

桐生の発言にツッコむ井上だが、身体から溢れるその色気がこの教室内の数少ない男子を惑わせる。

具体的言うとモゾモゾさせて、目を逸らさずにはいられなくさせる。

 

 

「しかしこのバストは何人の男子の目に焼き付いているんでしょうね? ……ねぇ、どうよ」

 

 

気が済んだのか満足気な顔で最も近くにいた男子に絡み始める桐生。見境無しだった。

絡まれた男子も話題に出される井上も顔を真っ赤にして桐生を睨め付ける。

 

 

「もうスペイン語教師が来るだろう、戻れ」

 

「はいはーい、じゃあまた昼ご飯の時にねー二人とも」

 

「うう………」

 

 

これまた満足したように彼女は教室を出ていった。

そういえば桐生は中国語の授業を受けると言っていたのを思い出す。奴はわざわざ胸を揉みに隣の教室に来たのか、阿呆らしい。

 

 

「…大丈夫か」

 

「大丈夫、じゃ、ない」

 

「…机に伏せておけ」

 

 

聞くが早いか井上は、わふっ、と小さく呟いて突っ伏した。授業が始まるまでには回復しているだろう。

 

会話を止めて改めて教壇に向き直すと、急に教室が沈黙した。

そして廊下側から聞こえてくる大きな足音。

自分達以外はみな、既に足音を耳にしていたのかもしれない。

 

 

「井上起きろ。来るぞ」

 

「名前で、呼んでー…」

 

 

忠告はしたが返事はいつもどおりであった。

顔を上げようとしなかったので仕方なしに扉の方を向く。

 

扉のガラスからは既に教員の黒スーツが見えていた。だが動かない。

手を何やら動かしているのを見ると、何かを準備しているらしい。

 

 

「………ふぅ……あれ?まだ先生来てない…」

 

「いや、扉の前に立っているが―――」

 

 

井上の気の抜けた質問に答えたその直後。

 

 

 

扉の隙間から白い球が数個教室内に投げ込まれた。

ぱぁん、と軽い破裂音と共にそれは大量の煙を吐き出した。

瞬時にして教室の前部分が白い流動的なカーテンに隠される。

 

 

「うぇっ!? 何これっ!?」

 

「煙幕……」

 

 

井上も他の生徒も咄嗟の事に混乱する。

生徒間でざわつきが生まれ始めるが、それを遮るようなタイミングでバンッ、と力強く教室の扉が開けられた。

 

 

「――ほぅ、君達が吾輩の生徒かね」

 

 

ガタイの良いシルエットが煙の中を突き進む。

 

 

「――吾輩は高校生に物事を教えるのは初めてだが」

 

 

教壇に辿り着くと、キュキュィ、と靴底で地面を鳴らす。

 

 

「――安心したまえ、皆吾輩のセンスで染め上げてやろう」

 

 

そしてシルエットのまま謎のポーズを決めると、一気に煙を振り払った。

 

 

「ヘイッ!!!! 坊や(ニーニョ)お嬢さん(セニョリータ)…吾輩のことは"先生(マエストロ)"、もしくはッ―――!!」

 

 

掻き分けられた煙の先から此方に向けて指が突き出される。

堀の深い教師の顔が現れ出た。

 

 

「―――ドルドーニ、そう呼びたまえ」

 

 

 

自信満々の名乗りに、教室が沈黙に陥るが―――

 

 

 

 

自分は、奴の存在に目を剥いていた。

 

 

 

 

###

 

 

 

初授業。そう、初授業。

『ドルドーニ・アレッサンドロ・デル・ソカッチオ』として初めて人間に物事を詳しく教え、教育した。

 

前世で人間の魂を喰らい殺す立場であった我輩が今度はその人間を育んで成長させる立場に立つなど如何にも冗談がキいていると思わないか?

育てた後は美味しく食べる、等という最高にアホらしく最低にくだらないジョークになっても可笑しくはない。傑作だろう。

誰がそんな事をするというのだ。我輩と答えた輩がいたならソイツには是非こう申し付けよう。

 

 

「物事はちゃんと見極めてから言え呆け糞(トンチィータ)

 

 

…だがまぁそうは言ったものの、仮に元同胞が現れて我輩の事を笑ってなじっても、大して怒りは感じないだろう。

 

我輩が教育員として働く動機はただ二つ。

我輩を命の危機から救った恩師、その方の御家に対する恩返し。そして『教える』という行為自体に興味を覚えた為だ。

故に教えた生徒自身にあまり愛着は無い。

そういったものは過ごす時間が多ければ多いほど、そして彼等が我輩に対して好感を覚えれば覚えるほどに増えていくもの、要はペットと同じだ。

 

彼等ははたして我輩に興味を持っただろうか。

そして我輩が戦い以外の楽しみを『教える』という行為に見つける事が出来るのだろうか。

それは彼等、選択制第二外国語スペイン語選択者28名に掛かっている。

 

 

嗚呼、気になる。

今すぐ彼等の内の誰かを捕まえて我輩の授業の感想を聞きたい。

だから、早く、早く―――

 

 

 

「何処の世界に初授業で教室に煙幕を投げ込む先生がいるんですか」

 

 

 

「――早く解放してもらえないだろうか」

 

 

「先生、貴方に反省の色が見られたら解放しましょう。『このようなくだらない事をして申し訳ありませんでした』ハイ、復唱」

 

「い、いや、だがあれはこれからの教員生活における大事な一歩を踏み出すのに必要不可欠でしてな……」

 

「自重という言葉を辞書で引いて深く海馬に刻み込んで下さい」

 

「…だ、だが吾輩はッ」

 

「ドルドーニ先生……否、『野上大五郎』先生?」

 

「ッ!?」

 

「…何か喋って下さい」

 

「謝罪する、心からの謝罪を。…だから本名で、本名で呼ぶのだけは勘弁を―――ッ!!」

 

 

ソーナ・シトリー。

綺麗で性格も良くこちらの事を気に掛けてくれる、我輩の恩師である御方の如く素晴らしい女性である。

 

…だが、これでは、まるで我輩の母親のようではないか。

それにここは人通りの多い廊下で…ほら、視界の端で生徒がこちらを見ながら何やら話しているのが見える。恥ずかしい、非常に恥ずかしい。

 

 

「生徒会メンバーが気付いてすぐに窓を開けていなかったら火災報知器が作動していた可能性だってあったんです。それに―――」

 

「わ、分かった…ミスシトリー、深く心に刻んでおく…」

 

「その台詞は何回目なんですかね、野上先生」

 

 

ハイライトの消えた美しい瞳が非常に我輩の被虐心をくすぐる、なんて事はない。恐ろしい、普通に恐ろしい。

 

それと、この身体に付けられた名前は嫌いだと何度も言っているというのに遠慮無く呼んで来る辺りに彼女に怒り具合が見て取れる。

 

 

「く、クソッ…何故この身体には『野上大五郎』なんて名前が付いて……」

 

 

無駄な事を口走りながら、抑まらないミスシトリーの視線のレーザービームを味わっていると。

 

 

急に何かを感じた。

 

誰かの鋭い視線。

そして探査回路(ペスキス)がチリつく一瞬の感覚。

 

 

「…!! 今のはッ…!!」

 

「先生、話を逸らそうとしたらビンタします」

 

「!?」

 

 

咄嗟に探査回路(ペスキス)を向けられた鋭い視線に集中させようとするが、その瞬間、口元だけが笑っているミスシトリーの顔と彼女の両掌が我輩の視界に入った。

湧き出た冷や汗と共に身体が固まる。

 

掌に彼女の魔力が集まっていくのが分かる。

 

 

「ま、待て、今ちょっと気になるこt」

 

 

「―――先生は大人ですし、お尻は恥ずかしいでしょうから」

 

 

威圧感に思わず後退ろうとするが、ミスシトリーの上履きが我輩の足の甲を踏みつける。更にそのままネクタイを掴まれて引寄せられぐぇ

 

 

「――代わりに顔で♪」

 

 

 

――久々に気絶というものを味わった。

 

 

 

 

 

 

 

「野上先生、お疲れ様です…どうしたんですその顔?」

 

「い、いや、何でもない…」

 

 

眼を醒ますと既に昼休みも終わりかけとなっていた。

職員室に行くと心配そうに隣席の女性数学教員が聞いてきた。

 

 

「それより早く昼食を済ませてしまわないと、終わってしまいますな」

 

「そうですね、午後の授業の準備なんかもありますし。…わぁ、バスケットにサンドイッチが…これ全部野上先生が作られたんですか!?」

 

「ふ、ふむ? まぁこのくらいなら片手間で手軽に作れる物ですから」

 

 

小型の新品バスケットに詰められた手製のサンドイッチを素早く口に運んで行く。

 

 

「それから…御婦人(セニョリータ)? 我輩の事はドルドーニと呼んで頂きたいのだが」

 

「えっ、えーと…でも野上先生の方が呼び易いですし…」

 

 

談笑をしながら、時にサンドイッチを一つ彼女に分け与えたり、冗談を含んだ口説き文句を飛ばしたりしていると。

 

 

「ムッ…!?」

 

 

また先程と同じ。

誰かからの鋭い視線と探査回路(ペスキス)がチリつく感覚を感じた。

 

すぐさまサンドイッチを呑み込み、周囲に探査回路(ペスキス)を広く伸ばした。

人間、人間、人間、悪魔、人間。

探査回路(ペスキス)が素早く周辺の人物の魔力を汲み取って行くが、悪魔以外に目立って異常のある魔力、霊圧その他諸々は読み取れない。

 

 

「…何故引っ掛からんのだ」

 

 

そんな事を考えている内に気付けば鋭い視線が無くなっていた。

 

残ったのは首を傾げる女性教員の疑問の声とヒリヒリと残る頬の痛みだけであった。

 

 

そして、その時ちょうど昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………来て、いない、のか?」

 

 

帰路の最中、ふと呟く。

 

あの視線とチリつく感覚を先程から感じているような感じていないような、錯覚が我輩を襲っていた。

 

日の早くなった冬の空が薄暗く黒に染め上げられている。

その空の下、最寄駅までの距離を探査回路(ペスキス)で周囲を警戒しながら歩いて行く。

 

 

「我輩を追っ掛けている者は突っ込むラインと引き際のラインを見極めるのが非常に上手いようだな」

 

 

ふと歩いてきた道を振り返ってみるが、幽かに我輩の影が射すだけで、何も無い。

 

 

「………」

 

 

明日、少し謀ってみるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨーシ!!今日のスペイン語の授業はこれで終わりなんだが……所で我輩特製のサンドイッチを食べたいってな坊や(ニーニョ)お嬢さん(セニョリータ)はいるかね」

 

「おお、サンドイッチとな!!」

 

「君は…井上だったかね」

 

 

翌日、朝から度々同じ視線を受けている内に我輩の追っ掛けが我輩の行動や言動を探っていることに気付いた。

 

何故そんな事をするのか。せめてそれだけは見極めなければならないが…。

 

 

「欲しいならばあげようじゃないか、職員室まで取りに行ってくるから暫し待ちたまえ」

 

「早めに取ってきてねードルドーニせんせー!! 美咲ちゃんも、ほら待機待機!!」

 

「……ああ」

 

 

その声を背に教室から飛び出す。

 

まだ確証は掴めないが、彼もしくは彼女が我輩の行動を知りたいと思っているならば。

 

さぁ、我輩の追っ掛けよ。我輩の新しい行動パターンだ。さっさと付いてくるがいい。

 

 

そう考えながら探査回路(ペスキス)で周囲の魂の情報を読み取りながら人通りが極力少ない廊下を選んで駆けていく。

 

 

視線とあの感覚は―――今来た。

 

 

「――まったく誰だか知らないが…躾が足りていないのではないかね」

 

 

廊下の角を一つ曲がり脚を止めると、その時探査回路(ペスキス)が―――捉える。

近くも遠くもない距離に、動かずにいる一人の人間。いや、人間というには何かが混じっているような魔力もしくは霊圧。

 

今立つ廊下の前方に人影が無いことを確認し、振り返る。後ろにも人影はない、だが探査回路(ペスキス)が一人の存在を伝えてくる。

先程曲がった廊下の角。

 

 

「……出てきたまえ、ストークとはあまり褒められる趣味ではないぞ」

 

 

声を掛けるが、反応は無い。

廊下の角に留まったまま動かない。

 

 

「まぁいい。出てこずとも――」

 

 

響転(ソニード)

磨かれた廊下を靴底が滑る。

視界が加速し、瞬時に角に立つ。

そこには―――

 

 

「我輩から行くが―――何…?」

 

 

誰も、いない。

直ぐ様探査回路(ペスキス)で探るとその人物が更にその先の廊下の角を曲がって逃げていくのを捉えた。

 

 

「……探査回路(ペスキス)をすり抜けながら瞬間移動した…だと?」

 

 

それではまるで――などと考えて、すぐにその一人の霊圧だけに探査回路(ペスキス)を集中させる。

その人物は今人気の多い廊下を全力疾走していた。完全に我輩の視界から消えているというのに、まるで我輩が眼以外で存在を捉える術を持っていることを知っているかのように。

 

 

「………面白い、ではないか。いいだろう」

 

 

彼の存在が使ったものが響転(ソニード)だと言うなら。

彼の存在に混じる霊圧が『虚』だと言うなら。

 

元同胞との逢瀬も悪くない。

 

 

 

「――鬼ごっこだ。捕まったなら、たっぷり話を聞かせてもらおうか」

 

 

 

探査回路(ペスキス)を全開に、彼の元同胞が何処へ瞬間移動しようとも逃がさない。

『狩り』とも軽く言えるこの状況に、意図せず闘争心が沸き上がる。

最近はご無沙汰であり、さらに戦闘があっても敵は闘争心が沸き上がらないような獣や弱者であった。

 

彼の元同胞がこちらを撒こうとしているところを見ると、積極的に闘おうというつもりでは無いらしいが。

 

 

「―――クハ、ハハハハッ!! 行くぞッ―――!!!」

 

 

響転(ソニード)。人のいない廊下を抜け。

 

響転(ソニード)。階段を一つ降り。

 

響転(ソニード)。人だかりのある廊下を抜け。

 

そこで元同胞もこちらが高速で追い掛けている事に気付いたのか、人間では有り得ないような距離を瞬間移動し始めた。

 

 

「―――やはり、間違っていないようだな!!」

 

 

今まで何故気付けなかったのか。

元同胞の虚の霊圧がやけに薄いから?

我輩の探査探査回路(ペスキス)が鈍っていたから?

 

挙げるならば前者なのだろうが、今はどうでもよかろう!!

 

 

「―――さあッ!! 追い付きそうだぞ、もっと素早く逃げたまえ!!」

 

 

反応と同じ一直線の廊下まで追い付く。

視界の先には、並んだ窓の中で唯一開けられた窓、そして上に向かって跳び上がる影。

間違いなく響転(ソニード)を使っている。

 

こちらも響転(ソニード)で窓まで来ると枠に掴まり、真っ直ぐ校舎の上を見上げた。

 

そこに、元同胞の姿を見た。

 

 

「…!!」

 

「……君か、元浜くん」

 

 

小柄な身体つき。

風に靡くスカート。

此方を見据える翠の瞳。

少し強張った整った顔。

 

我輩の生徒の一人であるその娘が我輩の遥か上、屋上のフェンスに掴まっていた。

 

彼女は軽く舌打ちすると我輩目掛けて『虚弾(バラ)』らしきものを放ち、そのまま屋上に消えた。

 

 

虚弾(バラ)か―――いやなんだコレは…?」

 

 

少し身構えたが、一発弾くと驚くほど虚の霊圧が薄い事に気が付いた。

思わず首をひねり、疑問の声が口に出る。

 

 

「彼女はヴァストローデではなくアジューカスだったのか…それとも――」

 

 

――彼女が、まだ『解放』していないのか。

 

 

「…まあ本人に聞けば済むことだがな」

 

 

窓から飛び出し、校舎の壁に沿いながら宙を蹴って屋上まで駆け昇る。

そして落下防止用のフェンスを掴み、屋上のタイルに着地する。

 

元同胞の彼女の姿は無い。

 

 

「さて何処に隠れ――――!?」

 

 

間近で一歩分の足音。

視界の脇に、揺れる黒髪。

 

速い。

反応する前に手首を後ろに回され、足払いが掛けられた。

 

寝技で抑え込むつもりなのだろう。

 

 

「―――なかなかテクニカルではあるが…」

 

 

踏み留まり、強引に腕を振りほどく。

 

 

「チッ―――」

 

「パワーが足りんよ、お嬢さん(セニョリータ)

 

 

振りほどかれたが早いか彼女はすぐに屋上の地面から離れ、空中へと逃げる。

 

まぁ大人しく捕まってもらうがね―――!!

 

 

「逃がさんッ――!!!」

 

「…!!」

 

 

間髪入れずに彼女の直下に 響転(ソニード)をする。

宙に立つその足を掴まえる。

 

 

「さぁ鬼ごっこは終わりだが―――痛"ッ!!蹴るなッ!?痛い痛いッ!! え、スカート……知るかッ!!」

 

 

空中であることなどお構い無しに我輩の顔面に蹴りが飛来する。

スカートの中身だと? どうでもいいわッ!!

 

だがガッスガッスと叩き込まれる蹴りが緩まる気配は無い。

 

 

「お痛が過ぎるぞお嬢さん(セニョリータ)ッ!!」

 

「グ……!!」

 

 

何か落ち着いて話をできる状況にするには、と考えてある事を思い付く。

 

彼女の脚を掴んだ腕を振りかぶる。

視界の端に緑を捉えた。

 

あそこに―――!!

 

 

「―――ぬおおおおおおおぁぁぁッ!!」

 

「―――!?」

 

 

敷地内の森に向けて。

その身体をブン投げた。

 

 

彼女の身体が声にならない悲鳴を出しながら森へと消えていくのが見えた。

そしてガサガサと木々に突っ込む音。

 

…我輩自身でしておいてなんだが文字通りぼろ雑巾のように吹き飛んでいった。

 

 

「……これで少しは大人しくなっただろうか、いやはや近頃のお嬢さん(セニョリータ)はここまでやんちゃなモノか…?」

 

 

フェンスの上に降り立つ。

 

上履きの底の跡が上質なスーツの肩部分に大量に出来ているのを見て思わず溜め息が出る。

櫛を取り出して髪を整え、更に靴底の跡を手ではらっていく。

 

暫くして、大方それが済むと先程彼女をブン投げた森の、比較的木の葉が少ない場所目掛けて飛び降りた。

 

 

「……そう言えば、一般人の目撃者は…まぁ少ない筈だからミスシトリーが手を回して処理してくれるだろう」

 

 

気を付けていなかった訳では無いが…それでも目撃者はいるだろう。

大体は昼間の学校の運営を任されている駒王学園生徒会、最近その会長となった彼女に任せれば済む筈だ。

 

 

と――そこで落葉だらけの地面へと着地する。

息を吐き、周りを見渡すと丁度木から降りてきた彼女の姿があった。

 

あちこちに木の葉を付け、木に片腕を付き、「―――馬鹿じゃないのか、奴は」と肩で息をしながら呟いていた。

 

……申し訳ない気持ちが無いわけではないぞ、ウン。

 

 

「さてお嬢さん(セニョリータ)、話をしようじゃないか」

 

「―――!? またッ…」

 

 

我輩に見付かっても依然、木に片腕を付いたままの彼女。

予想以上に消耗したのだろうか。

 

どちらにせよ話をする必要はある、と彼女に近寄っていく。

 

 

「君も色々と気になる事があるだろう、元同胞。安心したまえ、我輩もだよ」

 

「……やはりキサマも元虚か…」

 

「流石にこれだけ響転(ソニード)で追い掛けっこをすればお互い厭でも気付くさ」

 

 

ある程度近寄っていくとようやく彼女も普通に立ち、此方を睨み付けた。

日々ミスシトリーの絶対零度の視線を浴びている我輩からすれば屁でもない。悲しいことに。

 

 

「じゃあ早速我輩から質問だが―――君はアジューカスだったのかね」

 

「……その質問の意図が読めないが、答えならノーだ」

 

「そうか…なぁに、これから入る本題に大いに関係ある事さ。気になるだろう―――」

 

 

ああ、そうだ。

元浜美咲、君の虚の霊圧を我輩が会ってすぐに感じ取れなかった事、そして君がさっき放った貧弱な虚弾(バラ)にも関わる事だ。

 

 

「―――君の中の虚の存在が薄弱なことがね」

 

 

………待て何故首を傾げる。

まるで…その、話が食い違っているような。

 

あ、ああ、ひょっとして。

 

 

「ひょっとして君は自分の中の虚が薄いのでは無く、我輩の虚の霊圧が濃いと思っていたのかね?」

 

 

彼女が小さく頷く。

 

我輩の解放すらしていない状態で濃いと思うなど…彼女は本当にヴァストローデだったのか?

 

 

「残念ながらそれは違うな。我輩はお嬢さん(セニョリータ)以外に元同胞に会ったことが無いから分からんが……恐らく元同胞の誰もが口を揃えて『君の虚の霊圧は薄い』と言うだろう」

 

「………じゃあ、逆に何故キサマは人間としてよりも虚としての霊圧の方が濃い?」

 

「―――ああ、それが一番大事な質問だ。簡単さ、君が―――」

 

 

『解放』。

我輩はこう呼んでいたが、これだと『帰刃(レクレシオン)』と意味が混同するかもしれんな。

 

この『解放』とは、あくまでその前の状態を指すのだから。

 

 

ならばここで代わりに出すべき適切な呼び方は―――少しあの坊やとかぶるがこれが良い。

 

 

 

 

「―――君が、『虚化』していないだけさ」

 

 

 

 

###

 

 

 

「あの馬鹿ッ……!! っと、お前は確かグレモリーの…」

 

「…? 君は、シトリー眷属の…」

 

 

廊下を歩いていると、寒いというのに窓を開けながらキョロキョロして焦っているシトリー眷属を見つけた。

 

…どうかしたのだろうか。

 

 

「私は会長を呼んでくるから…この場で何かあったら鎮圧してくれッ!!」

 

 

長い黒髪を翻し、ブルーフレームの眼鏡を掛けた彼女が走り去っていった。

 

生徒会長――ソーナ・シトリーを呼び出す必要があるレベルの事なら状況説明くらいはしてくれてもいいのに…。

 

とにかく、昼間に裏関連の問題を起こす輩がいるというなら意識を切り替えないと。

 

 

「……さて、何が起こったのか―――」

 

 

先程のシトリー眷属が立っていた開かれた窓まで近寄る。

 

そして、窓から外に眼を向けたその時―――

 

 

 

 

―――森へとなかなかの速度で落下していく知り合いを目にし、唖然とした。

 

 

 

 

「…………えー、今のは……元浜さん?」

 

 

混乱して思考が停止しかけたが、その直後。

 

 

「―――何とか――――処理してくれる――――」

 

 

見たことも無い、濃い顔の黒スーツの男が元浜さんの落下地点近くに向けて降りてきた。

 

 

「…奴は、なんだ?」

 

 

黒スーツの男は侵入者だろうか。こんな昼間に?

即座に気を引き締め、窓から飛び出す。

 

森へと入っていき、校舎から見えない位置まで来た所で―――

 

 

「『魔剣創造(ソードバース)』―――」

 

 

その手に剣を創造していく。

魔剣は作らない。アンブッシュするため、念を入れて魔力の発生は極力抑える。

 

木の幹を足場にし、落下予測地点へと急ぐ。

そして、聞き覚えのない男の声が微かに耳に届いた瞬間に移動を止め、そのまま木陰に身体を隠した。

 

 

「……会話しているのか?」

 

 

男がゆっくりと元浜さんへ近寄っていくのが見える。

何故彼女はあの男と戦い、会話しているのか。

 

 

 

 

「……『虚化』……だと…?」

 

「黒崎一護が使っていたものとは意味が全然違うが―――というかそもそも知っているかね」

 

 

 

 

……虚? クロサキ?

一体何の話をしている?

 

 

 

 

「じゃあ…何だ? 『虚化』…とは…」

 

「そのままさ、『虚と化す』―――我々の身体を『人間を食らう化物』へと一時的に戻すのさ」

 

 

 

 

―――…一体、何の、話をしている。

 

頭が追い付かない。

あのシトリー眷属は僕にどうしろと言った。いや、待て、今は関係ない。違う、大いに関係ある。じゃあ僕はどうすればいい。この場を鎮圧、してどうする。

 

今は―――

 

 

 

 

瞬間、辺り一帯に強烈な威圧感が走った。

 

 

僕と元浜さんと黒スーツの男、三人ともが一斉に身震いをした。

特に黒スーツの男は悪寒まで感じているようだった。

 

この魔力は、分かる。

空気全体が肩にのし掛かるかのような凄まじい重圧。

部長にも匹敵する程の強大な存在感を持った魔力。

 

―――誇り高き現魔王四家に名を連ねるレヴィアタン家、彼の家名を支配せしめた

 

 

「シトリー家の魔力―――生徒会長か…!?」

 

 

剣が重く感じる程の重圧に息ができない。

それは草木の向こう側にいる彼女達も同じようで―――。

 

 

 

「なんだ、この、重圧、は」

 

「…お嬢さん(セニョリータ)、すまないが時間切れのようだ」

 

「何が、時間切れ、だ」

 

「我輩とお嬢さん(セニョリータ)先生(マエストロ)生徒(エストゥディアンテ)、つまりこれから君に何かを教えていく機会も増える、という事だ……また、今度に、詳しく―――」

 

 

 

足音が響いた。

音はそれほど大きくないというのに。

一歩、一歩と近付いてくる。

 

冷や汗が、止まらない。

 

威圧の矛先が向いているらしい男は、既に歯を鳴らしていた。

 

 

そして、声が響く。

 

 

 

 

「 ノ 」

 

 

 

ざりっ。

 

 

 

「 ガ 」

 

 

 

ざりっ。

 

 

 

「 ミ 」

 

 

 

ざりゅっ。

 

 

足音が止まる。

姿が見えた。

 

 

「………我輩は…103だ」

 

「………何?」

 

「………最後に、君の番号を、教えてもらえるかな」

 

 

………最後、と付けたのは何か深い意味があるのだろうか。

 

そう考えながら、姿の見えた生徒会長に目を向ける。

 

 

「………フフッ」

 

 

掌に魔力を集中させながら、無表情で笑う(・・・・・・)彼女の姿があった。

 

 

 

「………俺は」

 

「………ああ」

 

「………4だ」

 

「……………ん?」

 

「4だ」

 

「え、いや、ちょ、ま―――」

 

 

 

 

―――その瞬間、生徒会長の姿がブレた。

 

 

 

 

そして僕が瞬きをする間に轟音。

そう、表すなら『パン』ではなく『バァン』、文字通りの轟音が鳴り響いた。

 

0.1秒にも満たない瞬きを終えた次の時には―――

 

 

「………あれ、あの男は…?」

 

 

目を剥いた元浜さん。

掌を振り抜いた体勢の生徒会長。

 

ただそれだけが視界の中にあった。

 

 

生徒会長の振り抜いた掌から上がる謎の蒸気(!?)を見ながらふと思う。

 

 

 

 

 

―――鶏を絞めたらあんな音なんだろうな。

 

 

 




←あの辺にドルドーニ

そしてサンドイッチを待つ井上は犠牲になったのだ。



さて、2人目のBLEACHキャラ「ドルドーニ・アレッサンドロ・デル・ソカッチオ」さん。
名前長い。打つの疲れる。

彼は…ええ、友好的関係に置いて相方ポジ…に、なる、のか?

まあ本編入ったら分かるわ、サム



※訂正
セニョール→セニョリータ
友人ブッ殺
レヴィアタン家→シトリー家
本編で何度も『ミスシトリー』って言ってるだろうがアンポンタン

※訂正2
ある読者の方より指摘を受けた
11ヶ所中9ヶ所を直させていただきました、アリャリャーッス!!
…勝手にHN載せてごめんね!!
ちなみにその他2ヶ所の指摘ですが
「さぁ、我輩の追っ掛けよ」→これは追っ掛けに対する呼びかけ
「アンブッシュするため、」→忍殺語使いたかったんや…見逃してや…


【今回の要約】
夏休み終わっちゃったね、どうでもいいけど。
…それと元同胞との遭遇、彼は強敵でしたね…
それに『虚化』とは具体的には一体何なのか? 奴が使っていたモノとは違うようだが…
え、過去形? ドルドーニは…シトリーさんの10トンビンタで粉々に…(震え声)

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