※今回のお話は皆様が危惧するような展開は御座いません。ご了承ください。
さて季節は冬。
馬鹿三人組の松田がなにやら…
「再三の確認だ……本当に、無いと言っていたんだな…!?」
「月始め、数日前、今日。小刻みに三度聞いたが予定は無いと、確かに」
「下調べも俺と元浜で回ってきた。男二人でデートスポットを行くのは辛かったが…おかげで抜かりはねェ!!」
「お前らの支援あってこそだぜ…ダチ公!! ありがとうよ…!!」
彩られた紅葉を楽しむ季節は過ぎ去った。
今日は12月22日。クリスマスも間近に迫った本日、ある男達の計画が動き出そうとしていた。
兵藤家、一誠の自室。
そこにはいつもの三人の姿があった。
その中で携帯を握り締める男、松田は獣のような荒々しい呼吸をしながらあることを実行しようとする。
「往くぞ…」
「応ッ…!!」「応よ!!」
画面に映る名前は『美咲姉さん』。
呼び出し音を押すとそのまま耳に押し付ける。
コール音が、一回、二回、三回―――
「………ゴクッ」
「………」
「………」
松田の唾を呑む音が響いた瞬間。
コール音が中途半端に途切れる。
そして―――
『もしもし、……松田か?』
その冷静な女性の声が電波を通して届いた。
元浜と兵藤が二人揃ってガッツポーズをする。
彼女が電話に出た、まず条件が揃う。
「え、えと…どうも、美咲姉さん……夜にすいません」
『……まだ7時、気にする時間ではないが』
「そ、そうっスね」
ぼすっ、と兵藤が軽いボディブローを叩き込む。
(時間なんて今気にする事じゃないだろボケェ!!)というツッコミだ。
『…で、何の用だ。世間話の為にかけたという訳でもないんだろう』
ドクン、と三人の胸が同時に高鳴る。
「あ、あのですね…」
『ああ』
「その………」
『………』
脇二人が早く、早く、とジェスチャーで松田に伝えてくる。
(黙っちゃってる、向こうも黙っちゃってるから!!)と元浜が松田に軽いボディブローを何発も叩き込む。
「に…24日、なんですけど……」
『ほう、24日』
その日に、その日に、と脇二人が口パクで彼に伝えてくる。
松田の震えが大きくなっていく。
「その日に…い、一緒に………」
『……ふむ』
舌が渇く。
生唾を呑み込む。
一拍置いて、告げた。
「ま、町をあるk―――」
『まあ、24日は今さっき予定が出来てしまったが…』
―――固まった。
三人ともが、固まった。
「え、だ、誰との…予定スか…?」
『――――木場だが』
――――今日、ここに哀戦士(バーサーカー)が生まれた。
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「アイスティー、おまたせしまし、たっ☆」
「………?」
12月24日、木場に呼び出された日。
待ち合わせは5時と冬なら日が暮れきった時刻に指定された。
その指定場所である近場の喫茶店。
その窓際の一席に自分は座っていた。
「……ンフフッ☆」
…先程注文の品を運んできたウェイトレスが何故か同士を見るような目で此方を見てきた。
一体何の同士に俺を見ている。
何となくそのウェイトレスを見ていると、注文で呼ばれたのかちょうど俺の横の席へとやってきた。
その席には、一目で分かるような中学生程の年齢のカップルが―――
「―――ケッ」
その席に行った瞬間、ウェイトレスの顔が『鬼』と化した。
…少し、察した。
こんな日に一人でいる自分にシナジーを感じたのだろうが…年下にまで嫉妬を燃やすのは少し大人気ない。
普通に微笑んで立っていた時は男性客に色目を使われていた程に綺麗であったというのに。
ウェイトレスが注文を取り終えて戻ろうとする時、もう一度此方にパチコン☆、とウィンクを飛ばしてきた。やめろ、みっともない。
と、そこで腕時間を見ると『16時50分』、そろそろ来てもおかしくはないが―――
「―――いらっしゃ………あ」
その時、ウェイトレスの挨拶が中途半端に止まるのを聞いた。
腕時計から目を移すと、待ち人の姿があった。マフラーを外してウェイトレスに微笑みかけている。
ウェイトレスが目を輝かせて質問しているのが分かった。見てくれは一応美男子なのだからそれも当然だが。
「お一人様ですか!? ですよね!?」
「いえ、人を待たせているかもしれないので―――あ、いました」
「………ご案内します」
彼が此方を指差すと、ウェイトレスが明らかに消沈しながら近付いてきた。一々疲れないのだろうか。
「……ご注文は」
「ホットコーヒーと、ショートを二つ」
「かしこまりました、ごゆっくりどうぞケッ……」
視線を天敵でも見るような眼に変え、ウェイトレスは去っていった。
軽く溜め息を吐き、改めて目の前に座った男を見直す。
「待たせたかな」
「五分待った」
「…それはそれは」
いつも通りだなぁ、と男――木場裕斗が呟く。
いつも通りでない言動をする必要が何処にあるというのか。
「外見てみなよ、雪が降ってる」
「…そうだな、これから話すことに一切関係無いがな」
「もう…」
仕方ないな、といった雰囲気で木場が苦笑いをしているとちょうどホットコーヒーが運ばれてきた。
「あと木場、コーヒーと一緒にケーキを頼んでいたがあれは何のマネだ」
「ん、もう少しこの喫茶でお話したいかなと思ってね」
「……目的の話はこんな場所で出来るような内容か?」
ホットコーヒーにのんびりとミルクとシュガーを混ぜる木場。完全にしばらく居座る気だ。
「いや、今からする話はただの世間話さ……この店から出たい?」
「……」
正直を言うと居辛い。
何せ日付が日付だけに店内の七、八割が男女のペアなのだ。
そういうのは柄ではない。
「まぁ…じゃあ少ししたら出ようか」
「…それでいい」
―――自分は悪魔が嫌いだ。
だからこそ悪魔には、積極的には関わらないと決めていたのに。
しかし今自分は目の前の悪魔と皮肉にも談笑している。
自分は―――
「―――そういえばこないだの井上さんとの昔の話を途中までしか聞かせて貰ってなかったね」
「…地方プロレスの映像を持ってきて困惑したという話だったか」
「そう、それそれ」
結局その後、雑談で一時間程居座り、外の雪が止んだのを頃合いに喫茶店を出た。
ちなみに最後まであのウェイトレスは俺を睨み続けていた。
「さて、元浜さんの話も楽しんだしそろそろ重要なお話をしてもいい頃かな」
「最初からそうすればすぐに終わっていただろうに……どこで話す」
「……そうだな、選ばせてくれるというなら―――」
店を出ると既にアーケード街のイルミネーションに明かりが灯っていた。
生え揃った街路樹、入ったことのない洋服店、ファーストフードのチェーン店。その全てがクリスマスイブの町を彩る一つの要素となっていた。
横に並んで歩くカップルを邪魔に思いながらも木場に着いていく。
しばらくして彼はある細い路地の前で止まった。
「―――ここかな」
木場はすいすいとその細い路地を進んでいく。それに付いていくこと約数分。
ある店の前に辿り着いた。
「………ダーツバー『AfterDark』、こんな店があったのか」
「できたのは割と最近らしいけどね」
そう言うと木場はシックな外装のドアを迷いなく開けて、中へ入っていった。
自分も続けて店内へ入ると―――
「―――いらっしゃいませ…って木場じゃないか。どうしたんだ、開店時間直後に来るなんて珍しい」
「どうもマスター、今日は少し静かな場所で話がしたくてね…一番奥のテーブルを借りるよ」
―――不思議な雰囲気のする場所だった。
ライトが一部、外のイルミネーションのような派手さを持っているにも関わらずに落ち着いている。広めな空間に客が誰一人いないこと、BGMが1970年代のピアノジャズであることも関係はあると思うが。
「で、そちらのお嬢さんは誰かな? いつもの一緒に来ている大学生の姉さんではないみたいだが…」
「……マスター、まるで僕を『違う女性を引っ掛けて遊んでいるような馬鹿』みたいに言うのはやめてくださいよ」
「おや…違うのかい?」
木場を弄ぶカウンターに居る人物。
一目見たときは男性かと思ったが、声質と膨らんだ胸部から見てボーイッシュな女性のようだった。
バーテン服に身を包み、腕組みをする姿は短めのボブと相俟ってかなり凛々しく見える。
その人物が俺に向かって声を掛ける。
「ダーツバー『AfterDark』へようこそ。私の名前は―――この店に短期間で三回以上来た奴にだけ教えてるから…今はマスターと呼んでくれ」
バーテン服の女性、マスターは一物抱えてそうな黒い笑みを浮かべた。
「…じゃあ、マスター」
「なんだい?」
「何故短期間で三回以上来た客にしか名前を教えないんだ?」
「……この店に初めて来る奴はね、少し雰囲気と自分に酔った奴が多いのさ。しかもそういう奴等に限ってこの店を楽しめずに二回目以降は来ない……そんな奴等に名前を中途半端に覚えて貰ってもねぇ…まぁ、単なる私の流儀だと思って貰えればいいさ」
そこまで話すと彼女は一番奥の席を指差し、小さく「どうぞ」と言った。
それに従い、この店で一番奥のテーブルへと移動した。
「飲み物は…僕と同じでいいかな」
「お前は何を飲むんだ?」
「炭酸のジンジャー系、気に入ってくれると嬉しいけど…」
「甘過ぎなければ何でもいい」
木場がカウンターのマスターへと流し目をすると、会話が聞こえていたのか彼女が何かを準備し始めた。
…これからする会話を彼女に聞かれていいのだろうか。それにこの店だって時間が経つにつれて他の客が続々と入ってくる筈だ。
「……ああ、ちなみにマスターは一応裏関連、悪魔とかそういう話は知ってるよ。他の客だって内輪の話に夢中になれば他人の話なんて耳に入らなくなるさ」
此方の心を透かしたかのように答えた木場、彼がダーツボードが取り付けられた機械の前に行って何かをするとダーツボードが点灯した。
「さて元浜さん、ダーツのルールは如何かな?」
「経験は無い、ルールは知っているが…」
生意気な様子の木場がテーブルに戻ってくる。
木場が持ってきたダートを一本奪い去り、間髪入れずに数m先のダーツボードへ向けて投擲した。
俺の投げた赤いシャフトのダートは直進する。
そしてそのまま吸い込まれるように中心円の直上、すなわちトリプル20に突き刺さった。
「…こうするだけのゲームだろう」
「…なるほど、それじゃあそうだな―――」
木場も同じようにダートを手に取り、狙いを付ける間もなく投擲した。
木場が投げた青いダートは―――
―――俺の投げた赤いダートのシャフトに連なるように刺さった。
「―――お互い利き目禁止、利き腕禁止で」
「―――元浜さんはさ、『化物』の定義ってどんな風に考えてる?」
手元が狂った。
明日の方向へと飛んだ赤のダート。
辛うじてヒットするがダブルリングの6という微塵の点数となった。
背後の木場に抗議の視線を送る。
「ごめんごめん……で、どうかな」
木場は微笑みながら先程届いた『ウィルキンソン辛口マスターブレンド』を啜っていた。
何故そんな事を聞いてきたのか。
こんな事で手元が狂う自分も自分だが。
「さぁ…少なくとも話も聞かずに部下に攻撃を命じる
「…貶すなら部長じゃなくて僕にしてほしいなぁ」
「あの女が俺の弟と恋仲になる許可を土下座で頼んできたら考えてやる」
「…多分一生無いんじゃないかな」
「俺もそう思う」
向き直り、今度は特に妨害も無いままにダートを投げた。
ブルに近い位置の18に刺さった。
「おしい」と木場が大して惜しんでもいないような声音で呟くのが聞こえた。
「―――先に僕が話そうか、『化物』の定義」
木場がドリンクを置き、テーブルに軽くもたれ掛かる。大して気にもせず改めてラインの前に立った。
左手の中で赤いダートを弄びながら、集中を高めていく。
「話すといい」
「じゃあ失礼して……僕が思うに『化物』っていうのは―――」
ダーツバーを構える。
先程と違って集中を乱すことなく、ブルを射抜くビジョンを浮かべる。
自分の中で三拍数え、そして投げ―――
「―――人間のように、『心』を持った生物が『化物』だと思う」
―――手元が、狂った。
投げて思わずすぐに振り返る。
木場は、また一本取ってやった、といった顔をしていた。
彼がドリンクを持っていない方の手で俺の背後を指した。
自分の投げた赤色、そのシャフトが指す得点は、1のトリプルラインで3点。
大外れ。
軽く指を鳴らしながらボードに近寄り、自分が投げたダーツを回収していく。
テーブルに戻ってくると真っ先に問い掛けた。
「何故、だ。逆ではなく、か?」
「……なるほど、何でそんなに動揺したかと思ったら…ちょうど僕と逆―――『心を持たない生物が『化物』だ』と言いたかったのかな?」
「………非常に残念な事に大当たりだ」
【心を持たない生物が『化物』だ】
まさにそうではないか。
慈悲も道徳も感情もなく相手を蹂躙する存在。
誰かが抱く希望を幾百と纏めて擂り潰す存在。
それを『化物』と言わずして何を『化物』と言うのか。
それに事欠いて、【人間のような心を持った生物が『化物』】だと。
「…何を根拠に」
「うーん、何処から話そうか……じゃあさ」
木場が残った炭酸を全て胃に注ぎ込み、入れ換わるようにしてダーツボードの前に出る。
俺と同じように左手でダートを弄り、考え込む動作を見せる。
「元浜さん、君はさっき冗談で悪魔を『化物』だなんて言ってたけど…僕達悪魔のしている仕事がなんだか分かる?」
「仕事……悪魔のイメージからすれば、契約、聖職者への悪事だが」
「前者がアバウトだけど当たりかな」
彼の手から青色が放たれた。
話していたにも関わらず、最後まで集中が途切れてはいなかった。
18の、トリプルライン。54点
「人間の求めうる欲望を叶え、その対価を支払ってもらう…まぁ、契約だね」
そう言いながら木場はポケットから小さく折り畳まれた紙を取り出す。
奇妙にもそれを回転させるように投げてきた。
落とさないように受け取り、八折りの紙を開く。
内容は『あなたの願いを叶えます!』、そんな謳い文句が書かれた胡散臭いチラシだった。
「それを人間に渡すことで僕達悪魔は契約を何人もの人々と結んでいく」
「……これでか? 悪魔本人が言うのだから本物という事は信じるが…何も知らない一般人は信じないだろう」
「駄目で元々、とかそういう人も多いけどね」
話しながら木場がダート投げていく。
20、7のトリプルライン。安定して点数を稼いでいた。
木場がダーツを回収していくのを見ながら、辛い炭酸に柑橘系の果物が数種類飲み易いようにブレンドされた手の中のドリンクを飲み干す。
「さっきマスターが入店時に、いつもの女子大生じゃないのか、みたいな事を言っていたけど……実はそれも契約者の一人でね」
「……契約者の女性と一緒にダーツバーで遊ぶのか」
「まあ、そうして欲しいという契約だからね」
「…ホストだな」
「部長に言われ慣れてるよ」
戻ってきた木場が空の両方のグラスを見て、そのままマスターに何かを注文し始めた。
メニューも見ずにすらすらと注文しているのを見て、改めて木場がこの店の常連だと確認させられた。
「ちゃんとその相手の女性も対価を払って、僕とここで遊んでいるんだよ。まぁ、さっき元浜さんが言ったみたいに少し不純な関係に聞こえるかもしれないけど……」
「『対価を払って悪魔と夜に遊ぶ』と言えば少し不純どころじゃないがな」
「それは置いといて……まぁ、それでも僕や、他の悪魔達はそうして人間達の願いを叶えていってるんだ―――契約者は皆大体満足そうな顔をしてくれるよ」
そこまで言うと彼は感慨深そうに目を閉じた。
「―――でもだからこそ思い返さずにいられない。僕が、悪魔に転生する直前に味わったあの焼けるような『悪意』を」
そう言った瞬間、木場が
店内に木場の冷たい怒気が広がる。
まるで綺麗な水溜まりに一滴の黒絵具を垂らしたかのように店内が静まった。
周りの客も本能のような何かで冷気の源を感じ取ったのか、一番奥のこのテーブルに目を向けた。
「―――木場ぁ…次やったら退場な。ほれ、砂糖漬け焦がしトーストと苦味増しカプチーノ」
冷気を滲ませて佇む木場の頭に、ぼすりと飲み物類が載ったプレートが置かれた。
当然の如くマスターであった。
プレートをテーブルに置き直すと木場の頭に軽い制裁をもう一発。なんでもなーいなんでもないから皆さんダーツに戻ってねー、と少し陽気なテンションでマスターはそのままカウンターに帰っていった。
木場は少し毒気を抜かれたように溜め息を吐いたが、すぐに近くのテーブルに軽い謝罪の言葉を掛けていった。
「………えー、あー…ごめん」
「…どうでもいい事だ。それより木場、悪魔に転生とはなんだ」
「…そう言えば元浜さん、三勢力関連の話は基本的な事しか知らなかったね」
木場はばつが悪そうにしながらも、運ばれてきたカップを勧めてきた。
手に取りながら話に耳を傾ける。
「簡単に言うとね、部長のような上級悪魔は『
「…それによって転生悪魔は生まれる、と」
「その通り……僕の場合は本当に死ぬ寸前で転生させてもらったからね、僕にとって部長は文字通り『命の恩人』だよ」
リアス・グレモリーは木場の命の恩人。
たとえその命の器を変えられたとしても、彼女をそう思える理由が木場にはあるのだろうか。
それとも、ただ単に生き永らえた事への感謝なのか。
カップの中身の熱い液体がやけに苦く感じる。
「先程は『悪意に殺されかけた』などと言っていたが」
「……そのままの意味さ……こんな場所でする話ではないけど…」
木場が苦虫を噛み潰したような顔しながら続ける。
「僕はね…ある教会で行われた特殊な神器の計画、その被験者の一人だったんだよ」
「……教会、という事は天使の陣営か」
そう言われて浮かんだのは、胡散臭い笑みを浮かべるいつかの堕天使嫌いの天使。
狂気を感じさせるような視線と思考、相手を逆撫でする事を目的としていたかのようなあの言動。
ロクな者ではなかったという事実ばかりが思い返せる。
「ああ、奴等は居もしない頭の中の虚像にすがり付く馬鹿共だよ」
吐き捨てるような口調、そして沸き上がる憎悪。
例えるならば、木場の心の奥深くに根付く『憎悪』が彼の苦悩を吸って成長している、といったような表現。
「被験者か、あまり良い響きではないが」
「……響きどころじゃない、中身も最悪さ」
木場の瞳はとっくに曇り始めていた。
彼が、今まさに彼でなくなっていくかのように見える。
「計画の要である神器との適合実験、それに関わる狂信者や妄信者の神父、そして適応に失敗した被験者達の末路―――その全てが最悪で最低の『悪意』に包まれた物だった」
『悪意』―――木場が、心を持った生物こそが『化物』だと考える、その根本的な原因。
「適応に、失敗した被験者は」
「―――処分さ。『
「………
「ああ、ゴミさ」
狂信者に妄信者、彼らもまた人間であった筈。
ならば何故、何処からそのような『悪意』を生み出したのか。
「神父共がね、僕や他の被験者を処分する時、僕は奴等のような人間が『化物』にしか見えなかったんだ」
「…………」
「…元浜さん、簡単に辿り着く結論だよ。人間は心を抱くが故に『悪意』を生む、だからこそ―――」
「―――心を持った生物は、『化物』でありうると僕は思うんだ」
「追い出された、な」
「いやごめん、ホントにごめん」
俺と木場は小雪が積もった住宅街のアスファルトを行っていた。
あの後、憎悪が昂りきった木場に飛んできた物はお勘定のボードだった。
投げた主は当然マスター。
親指を出入口に突き付けて、木場にジェスチャーで「退場」と伝えていた。
自分はあ、と一瞬呆けた木場に蹴りを叩き込んで正気に戻すとすぐに店の外へ連れ出したのだった。
「そろそろいい時間だ、俺は帰るが」
「あー…」
気付けば既に22時過ぎであった。
街にいた健全なカップルは解散し、そうでもないカップルはまだ遊ぶか少し早いが宿泊できる場所に行くか、そういう時間帯だった。
木場が話し出すのを、足が雪を優しく踏み砕く音を聞きながら待つ。
「…もう少しだけ、もう少しだけ話に付き合ってくれない?」
「……どのくらい」
そう尋ねると、木場は偶然通り掛かった自販機の前で止まった。
そしてそこで温かい缶コーヒーを買うと、こちらに投げた。
「君がそのコーヒーを飲み終わるまで」
「安い」
「…じゃあもう一本いる?」
「………」
「冗談だよ」
溜め息を吐きながら、立ち止まる。
人工的な光を放つ自販機に、木場と同時に背を預けた。
「で、今更何の話だ」
大して固くもない缶コーヒーの口を開けると、その小さな口から湯気が立ち上った。
飲もうとして口に近付けて。
「―――『虚』という存在について」
止まる。
が、何事も無かったかのように口を付けた。
隣で木場がまた困ったように微笑むのが見える。
「どこまで知ってる」
「ソースがいつかの君と野上先生の会話だけだからね、何一つ知らない」
「…そうか」
缶コーヒーの中身は4分の3ほどに減った。
「……人を喰らう化物だ。恐らくこの世界にはいない」
「そっか、じゃあ何で君はそんな化物の事を知ってるの?」
「何故そんな事を聞く」
「答えてくれないかな、僕としては君の飲むペースが予想以上に早くて焦ってるんだ」
缶コーヒーの中身は2分の1まで減った。
「……かつてそうだったからだ。今は人間だがな」
「そうか、なら君のあの黒い光線や黒い弾丸は虚とやらの技術なのかな」
「その通りだ」
缶コーヒーが4分の1まで減った。
「じゃあ、君は……今ここでその虚に
「………」
「…元浜さん」
―――空になったスチール缶を握り潰す。
異様な音と共に異様な形になったそれをゴミ箱に放り込む。
「時間切れだ」
「……無理して飲んだでしょ」
「そうして何が悪い」
「…君はホントに……」
木場が呆れたように息を吐き出す。それは白い空気となって宙に消えた。
自販機から背を離す。
「今度こそ解散だ」
「…元浜さん」
「なんだ、もう一回は無いぞ」
「『美咲さん』って呼んでいいかな」
「………」
動き出す気配の無い木場を背にしたまま、話す。
「…まさか貴様、この程度で仲良し気取りか」
「いや、そこまでは言わないけどさ……君に剣を向けたあの時から今までで通算百回以上の謝罪と弁明をしてる計算にもなるんだよ?」
「何にせよ悪魔は嫌いだ」
「悪魔じゃなくて個人としての僕は?」
「普通だ」
「……だったら、ダメかな?」
「………」
振り返る。
気付けば木場が目の前に立っていた。
「木場」
「なんだい」
「……お前は、
「…それでいいよ」
「………」
「……ありがとう、美咲さん」
とりあえず、一度蹴った。
「したの!? ゴールインしちゃったの姉さん!?」
「阿呆か」
「痛"!? でも姉さん木場のこと今まで避け気味だったじゃん!? なんで急に一緒に出掛けたりしてんの!?」
「………"友人"ならば、そのくらいは普通ではないのか?」
「……父さーん!!母さーん!!姉さんに(自称)男友達ができたー!?」
「「何ィィィィィィィィィッ!?」」
……木場とだけは和解する、って話の意味が伝わっただろうか?
まあ2人がくっつくとかじゃないって伝わればいいかな…と
ちなみにこの木場の行動群はエクセルで行先リストを適当に作ってからランダムにして選びました
一度くらいはそんな感じにしてもいいやってな感覚で
【『喫茶店』】【『ダーツバー』】【『自販機前』】
…『オカマバー』と『愛人の家』が上下にあってヒヤッとしたのはナイショ
ドルドーニ「我輩は?」
鉄パイプ「次回からです」
ドルドーニ「!?」
【今回の要約】
個人:トモダチ 悪魔:テキタイ
木場との仲はこんなになりました
え、三人組? パーリナイしましたよ?(すっとぼけ)