ウルキオラさんがTS転生していく話   作:鉄パイプ

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さて、本編投稿の前に注意。
・この1話前にプロフィールと閑話を投稿しています。
・この話は改変する可能性が非常に高いです。
・この話の改編に関するアドバイスが欲しい。




ウルキオラさん、悪寒です(前)

 

―――遠い記憶。

実際は存在していた時間より遥かに短い時間しか経っていない。

なのに、生まれ変わる前の記憶が数百数千もの時を越えて遠ざかっていくような感覚だった。

 

俺が消える前に触れたモノを忘れ去った、という訳では無い。忘れる訳が無い。

 

ただ、それは自分の記憶ではなくなっていくように。

登った山を下りて山を再確認すると、「こんなに高かったのか」と他人事の如く思うように。

 

 

しかし遠ざかっていく記憶を冷静に見つめ返すと、例も交えてあることに気付く。

 

『過去』――ウルキオラ・シファーが遠ざかっていっているということではない。

『現在』――元浜美咲自体が遠ざかっていっているだけだということに。

 

記憶は、『過去』は、在るだけ。

自身が、『現在』が、遠退いていく。

 

『過去』は、手を伸ばせば届く位置にあるのだ。

 

 

 

―――遠い記憶は、動かない。

 

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

 

はらり、とページが捲られた。

印刷物の物語の中では、ヒロインと共に洞窟に隠れた主人公が全身に蠅避けのローションを塗って洞窟外を歩く何者かをやり過ごす、といったシーンが描写されていた。

耳障りな蠅の羽音、外で紅く光る眼、そして下がりゆく彼女の体温。主人公は所持物の一つであるゲームブックを片手に、その場に留まる事を選ぶ。緊張からか、殺そうしていた筈の息が自然と荒くなっていく。

武器は無い、よって洞窟外の生物に立ち向かう術は無いのだ。

 

見付かるわけにはいかない状況で、その選択肢は吉と出るか凶と出るか―――

 

 

 

 

 

 

「―――なに読んでんの、元浜?」

 

 

 

次のページに移ろうかという時、唐突に声が掛けられた。

ここ一年で聞き慣れた女友達の声。その声の主はそんな発言と共に俺の頭に片手をぽんと載せた。

 

 

 

「…これだ」

 

「んー、なになに―――貴志祐介の『クリムゾンの迷宮』……へぇ、どんな堅苦しい本読んでるのかと思ったら…結構娯楽性のあるモン読んでるのね。アンタの事だから…哲学チックな読物でもしてるのかと」

 

「俺の事だから、か」

 

「何よ、実際そんなイメージでしょ? 新しく入ってきた一年生だって、クールとか、頭良さそうとか、小難しそうとか、姉が弟の真面目成分を全部吸い取って産まれてきただとか、思ってる筈よ」

 

「実はお前が考えたものだったりするんじゃないだろうな―――桐生?」

 

「そんなことないわよ、ちゃんと聞いて回った意見を整頓した物よ」

 

 

 

 

年が明けて冬が過ぎ、そして春までもが過ぎ去ろうとしているこの5月末の気候。

駒王学園に新一年生が入学し、我々元第一学年は第二学年へと押し上げられた。

 

今は放課後。

第二外国語教室の窓から見下ろす校庭には、新しい制服を身に纏った新入生達が帰路に着こうとする光景が見られた。帰宅部か、それともまだ部活に入っていないだけか、どちらにせよかなりの数の生徒が帰宅している様子である。

 

手に持った文庫本は開いていたページに指を入れたまま閉じた。

目を軽く綴じて休ませると、改めて教室の中を見回す。

教卓で何やら帳簿を付けるドルドーニ。

ペンシルで額をつつきながら唸る井上。

先程まで井上に少し勉強を教えていた桐生。

 

そして窓際で本を読んでいた自分、計四人が第二外国語教室の中にいた。

 

 

 

「桐生さーん!! ココ、よく分かんないでーす!!」

 

「真紀、今教えたばっかりじゃん…」

 

「いやだって、何で微分したら三乗が二乗になるのかとか理屈がよく分かんないし…」

 

「あー、イメージがよく湧かないって感じかな」

 

「それそれ」

 

 

 

そんなやり取りをする井上と桐生。

珍しい事に井上は本日の数学の授業の内容があまり頭に入ってこなかったらしい。

特に変わった事があった訳ではない、ただの五月病だと本人は言っていた。心配するような事も無いだろう。

 

桐生は本からすっかり興味を失い、井上に勉強を教え始めた。少し耳を傾けてみると、三次元を微分すると?等という阿呆な質問をしている。放っておこう。

 

 

ともあれ、自分は読書に戻る―――

 

 

 

 

 

「―――彼女が欲しいぃぃぃぃいいッ!!!!」

 

「一年生の女の子ォォッ!! ダイブミー!!!」

 

「ついでに木場はくたばれェェェェェッ!!!!」

 

 

 

「…」

 

 

 

聴覚が、そんな声を微かに掴んだ。

 

本に栞を挟んで閉じ、すぐさま窓を開けて外を見渡した。

グラウンド近くの芝生の上にある三人組の姿を捉える。

少し遠い、距離にして50m以上はあるだろう。

目を細めると三人は勿論、校門を潜る一年生や部活動をする生徒から奇異の眼で見られていたのがなんとなく分かった。

 

 

 

「…ドルドーニ」

 

「む、ん? 急に何かね」

 

「何か書くものを寄越せ」

 

「構わんが…」

 

 

 

立ち上がって教卓のドルドーニへと近寄ると渡されたボールペンに加え、ペンケースの中から適当に二本のペンを取り出した。…何か一つ高そうな物が混じっていたが深くは気にしない。

ペンを三本も握り締めた自分にドルドーニが何やら不思議そうな顔を向けていた。

 

その三本のペンを片手の指の間に一本ずつ挟み込んで準備完了。

 

 

 

「あとは―――」

 

 

 

開いたままの窓に向き直る。

そこから豆粒ほどの塵共が微かに見えた。

 

そして、そのまま助走を付けて―――

 

 

 

「―――シッ」

 

 

 

―――ペンを窓の外へ投擲した。

 

ペンが指先を離れ、窓の外へと消えていく。

 

一、二秒後。地面が軽く弾けるような、ターンという音が三つ分、耳に届いた。

狙いは上々、勢いも善し。

京土産の万年筆がぁぁぁああッ、という声が後ろから聞こえたが気にせず窓の外へ向けて耳を澄ませた。

 

 

 

 

「―――狙撃ッ!? 狙撃だッ隠れろォ!!」

 

「ど、どどどっど、何処から撃ってきたッ!?」

 

 

 

三人の背後の土が投擲したペンを中心に三ヶ所弾け跳んだのを見て、馬鹿共は焦りながら近くの小さな草むらに飛び込んだ。三人には何が彼等に襲い来たのかも分からなかっただろう。

 

隠れているつもりか分からないが普通に見えているし、もう一度投げれば当たる。

 

 

 

「元浜ァ!! 松田ァ!!」

 

「現在地ッ」「現在地ぃ!!」

 

「後ろの森だっ、近い上に隠れる場所も多い!! あと剣道部の更衣室がある(ボソッ」

 

「今、時間的に部活開始前の着替え中か―――」

 

「そして、その場所は既に隣倉庫から覗けるように加工済み―――」

 

 

「「「―――そこで合流だなッ!!」」」

 

 

 

そう言って近くの木々の隙間に散り散りになって消えていく馬鹿共。

 

三人組の言動と行動の一部始終を見ていた少しの生徒達がドン引きしている。

 

 

 

………。

 

 

 

「………虚弾(バラ)―――!!」

 

「待ちたまえ  待  ち  た  ま  え 」

 

 

 

いつの間にか近寄ってきていたドルドーニに肩を掴んで止められた。

 

 

 

「また三人組が何かしてたのかね?」

 

「離せ、殺る」

 

「…弟君達の馬鹿を止めるならいつも通りもっと穏便に済ませたまえ」

 

「……響転(ソニード)―――」

 

「何故目立とうとするッ!?」

 

 

 

ゴミとクズとカスの背中が完全に木々の隙間に消えていった。

早く鎮圧せねばまた厄介事を起こすだろう。

 

 

 

「別に目立つつもりは無い」

 

「じゃあ後で普通に叱れば―――」

 

「目立たなければいいんだろう、じゃあ跳んでも大丈夫だ」

 

「なんだその謎の自信は」

 

「何の話か分からないけど朝の占いで美咲ちゃんは今日1日隠し事が上手くいく、って言われてたよ?」

 

「君は数学の勉強をしていろ……というかいつの間に近付いたのだッ!?」

 

「………―――」

 

「窓枠に足を乗せるんじゃない、下からスカートの中身見えてしまうぞはしたない」

 

「おー、何か分からんけど頑張れー美咲ちゃーん」

 

「煽るな、戻りなさい」

 

「三階の窓から飛び出すくらいいいじゃん!!美咲ちゃんだし多分(?)心配ないでしょーが!!それにスカートの中だのなんだの……このエロドーニっ!!」

 

「エロドっ、……語感悪ッ!?せめて『ドルドーニ・アレッサンドロ・エロ・ソカッチオ』にし―――いやいやいやいや、何を言ってるんだ我輩はッ!?」

 

「五月蝿い、もう行くぞ―――(ソニ)

 

「待っ、というか何故我輩がツッコミに回っているのだァァァァッ!?」

 

 

 

 

 

「……どうでもいいけどただでさえ私達『変態三人組』の関係者なのにこれ以上騒ぎ立てたら三人組と同レベルのアホに捉えられちゃうんじゃないかしら」

 

 

 

 

 

 

そんな、無駄に賑やかな新学年の1ページ。

もしかしてこの調子でいけば今年も色恋沙汰などは目立った事も特に無く終わるのかもしれない。

というより、女っ気ゼロのゴミクズカスを見ていると色恋だのなんだのと阿呆らしくなってくる。

 

駒王学園二年生になってから目立った戦い事、面倒事は一つも無い。

あの忌々しい紅髪の女が視界に入るわけでもなく、支取蒼那が悪魔として目立った行動をしたのを見たわけでもなく、堕天使に天使に悪魔の勢力争いを見たわけでもない。

 

『数ヶ月前にドルドーニからこの世界における『虚』の力の説明を受けた』が、そもそも今年に入ってからは響転と探査回路しか使っておらず、強制的に教えられた戦闘用の知識が無駄になってしまっている感覚すらある。

 

でも、それでよかった。

それでもよかった。

あの四人や周囲の友人達に何も無ければそれでよかった。

 

日々の小さな変化1つが大きな変化を及ぼすこともヒトになって理解したから。

 

 

 

だから、だろうか―――

 

 

 

 

『イッセーに彼女ができた』

 

 

 

 

―――そう聞いた時、自分は祝いの気持ちよりも胸騒ぎが先に立った。

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

 

兵藤一誠―――それが俺に付けられた名前だった。

私立駒王学園に通う高校二年生、男、彼女持ち。

 

彼女持ち。

彼女持ち。

彼女持ち。

…もう一回言っとこ、彼女持ち。

 

そうワタクシ兵藤一誠は、何を隠そう数日前に彼女が出来たばかりなのです。

凄くね?凄くね?

…ある程度コミュ力があったら普通?

いや、だってスゲー美人なんだぜ?

凄くね?凄くね?

…あ、ウザい、って…スンマセン。

 

 

まぁとにかく俺は彼女ができたばっかりで…それを聞いた俺の悪友達は―――

 

 

 

「―――シィィィィィィィッッ!!!」

 

「―――ダァミィッッッッッ!!!!」

 

 

 

何故か英語で嫉妬を叫びながら襲い掛かってきた。

フハハァッ!!ハイになっている今の俺に攻撃が当たるかなァ!?アイキャンフライッ、ワナビアセ○クスッ!!

 

そのあと俺と元浜と松田は無駄にガガガッ、と音を経てながら拳を交わしあった。

当然、元浜姉さんの仲裁(鉄拳)が入ってすぐに終わったけどな。

鎮圧(物理)されて暫くすると頭の冷えた元浜と松田に「まぁ…お前の恋だし、頑張れよ」と励まされた。やっぱりアイツらは友達、ダチ公だ。あばよダチ公、俺は先に大人の階段を登ってやる、上で待ってるからよ!!

 

ちなみに彼女ができた旨はちゃんと女性陣にも伝えた。

元浜姉さんは珍しく目を剥いて驚いていた、俺だってやれば彼女の十人二十人はできる男なんスよ。

真紀ちゃんは何故かめでたいと言って一本締めを一人でやっていた、締めてどうするんですか。

桐生は…『アンタのモノはまあまあだから相手もソコソコ満足できんじゃないかしら』と……まあまあってなんだよ!!

 

 

と、まぁそんなワケで俺は幸せ絶頂期の中にいるわけですよ!!

 

 

そしてそのまま時が過ぎ、初デートの日。

 

 

 

 

「ま、まずは洋服屋にでも入ろうか」

 

「ふふ、じゃあ私の服を選んでもらっちゃおうかな」

 

 

 

 

俺の事が好きだと言ってくれた娘、天野夕麻ちゃん。

可愛い、カワイイ、カワイイヤッター!!

 

ツヤのある長い黒髪に口元に浮かべたかすかな微笑みにスレンダーだけどラインは豊満な体にすらっとのびた太ももとふくらはぎに……やっべ可愛すぎて鼻血出る。

 

俺が何か言う度に面白いと笑ってくれて、俺が少し呆けたりしてると大丈夫?と顔を近付けて心配してくれて、俺が手を伸ばすと恥ずかしげにその手を握ってくれて。

 

洋服屋でお互いに何が似合うか見て回った。小さな小物の店で硝子細工の動物をお揃いで選んで買った。お昼のファミレスで話しながら楽しく食事もした。

 

 

楽しい。

凄く楽しい。

とっても楽しい。

 

楽しかった。

凄く楽しかった。

 

 

………筈だったんだ。

 

 

 

 

 

「―――楽しかったわ。…まあ殺すけど」

 

「あ………え、え………?」

 

 

 

夕暮れの公園で、その別れ際。

 

夕麻ちゃんはお願いと称して、それを俺に向けた。

光が集まってできた槍、文字通りのビームサーベルのようなモノを。

 

それを投げ、痛い。

 

痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ!!!!!!

腹が焼けるように熱くて痛い!!!!!

 

見れば、いつの間にか夕麻ちゃんの持っていた光の槍が俺の腹を貫いていた。

血が溢れる、真っ赤な真っ赤な血が溢れる。

 

 

 

「―――ね。――――たち―とって危―因子―――ら、――めに始末―――もらっ――わ。」

 

「ア、ア、ゥグギ、あ……………ッア…!!」

 

 

 

声が聞こえない。

声が出せない。

 

そのまま仰向けに倒れ込んでしまう。

体を見下ろすとピンク色の丸みを帯びた物体が少し見えた。

何か分からない、何かは分からないけど、理解したら血と共に胃袋の中身を全部出せる自信がある。

 

 

 

「恨―――、そ―身に神――――せた神を――でちょうだ――」

 

 

 

頭が回らなくなる。セイ、なんだって?

 

そこで突然、ポケットの携帯電話が震える感覚が伝わってきた。

痛い、痛い、バイブレータで激痛が走る。

誰だ、誰かは分からない。誰でもいい。この状況から助けてくれるなら。

 

と、そこで夕麻ちゃんが倒れ込んだ俺に再び近寄ってきた。やめろ来るな。

 

 

 

「……誰かし―――、私達のデートの時間―邪魔する――て」

 

 

 

そう言いながら俺のポケットをまさぐり始めた。

痛い、痛い、痛い痛い痛い、コイツ痛みを与えるためにわざと強く身体を揺らしているのか。

激痛をそのままに30秒。やっと取り出した真っ赤に染まった携帯は当然コール音が止まってしまっていた。

 

が、折り返し掛けてきたのか再び携帯が着信音をかき鳴らしながら震えだした。

思わず手を伸ばした。

偶然にも俺の携帯に掛けてきたその人物に助けを求めるように。

 

 

誰か、助けて。

 

 

 

 

「―――残念♪」

 

 

 

その一言と共に携帯が地に落ち、夕麻ちゃんの靴の踵で踏み割られた。バキッ、という砕け散る音だけが耳を貫く。

 

そう呟いたのだけが耳に届いた。

それ以上は、それ以降は、笑い声と足音しか耳に届かなかった。

カツリ、カツリと朝はあんなに待ち遠しかった足音が今はこん、なにもこ、わくかんじ、る。

 

さむい、ちが、ちがたりな、い。

じめんに、ひろ、がるしゅいろ、のじゅうたん、これぜんぶおれのち、ち、ち。

ぶわぁ、とひ、ろがって、はらにもどそう、と、して。

も、ゆびを、すりぬけ、て、てを、よごすだ、け。

 

 

 

 

あー。

 

 

 

 

あかい。

 

あかい。

 

 

赤い。

 

 

赤い。

 

 

赤い。

 

 

 

 

 

 

 

―――紅いなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

「―――よりにもよって…貴方だというの、兵藤一誠」

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

 

なんだと?

 

『どう思う』って…主語を付けたまえ、主語を。…ああ、『兵藤一誠の彼女』になったという人物の事か。なんだね、近くにいた男の子が急に気になるお年頃かね?

……謝罪する、謝罪するからその手を下ろしてくれ。我輩とて女性の手形を頬に付けたまま帰りたくはない。…最近は冗談も言うようになったかと思えばこうなのだから、ハッキリしたまえよ。ハッキリと。

何、前世の序列?慎み深かった我輩は何処に行ったのかって?

……気にするなと言ったのはお嬢さん(セニョリータ)の方ではないか。敬語混じりだったのは会ってから一、二ヶ月程だけだろう。言っておくが我輩がどれだけその一、二ヶ月の間苦労したか分かるかね?

会えば体の動きが勝手にぎこちなくなり、話す言葉もピンポイントに君と話すときだけ敬語混じりになり……いつだっただろうか、『ドルドーニは元浜による折檻プレイを楽しんでいる』とかいうアホな噂が流れただろう。

む、原因は、桐生…?年末に流れた『元浜木場カップル説』も彼女の仕業………というかそういうタイプの妙な噂は彼女が大元だという事が多いのか。よし分かった、叱っておこう。

 

で、『兵藤一誠の彼女』についてだったか。

君は会った事がないのか。…入れ違いで一度も会えなかった、それは残念。

ああ、我輩は名前も顔も把握しているとも。学校の生徒なれば関わりが無くとも我輩の生徒だからな。

2ーC、出席番号2番。天野夕麻。部活動無所属、クラス内でも他の生徒とは一線を画した雰囲気の持ち主で誰にでも人当たりがよい上に成績も優秀。その美しいルックスと合わせてまさに絵に書いたような美人。

と、まぁこれがクラスの生徒、一般教職員から見た評価だよ。

…重要なのは我輩の評価かね。

分かった、イメージを率直に言おう。

 

 

 

彼女は―――やけに存在感が無かったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉さん、風呂沸いたってさ」

 

「―――、そうか…分かった」

 

 

 

弟のドア越しの声で現実に戻ってくる。

頭の中で反芻していたドルドーニの言葉が瞬時にして吹き飛んだ。

座っていたベッドから立ち上がる。

 

今日は兵藤が彼女と初デートだ、と騒いでいた当日。そして今既に外は夕方になっている、その初デートとやらもそろそろ終わる時刻なのだろうが。

 

廊下に出ると目の前に愚弟がいた。

 

 

 

「もうそろそろイッセーの初デートも終わりだろうなぁ……いいよなぁ」

 

「それを言うためにドアの前に立ち止まっていたのか、どけ、邪魔だ」

 

 

 

そう言うと愚弟は、あーあ、天野さんかぁ…、と呟きながら部屋へと戻っていこうとした。

 

そういえば愚弟は天野夕麻と何度か対面したと言っていたか。

 

 

 

「おい、ゴミ」

 

「なんか慣れきったわ、その呼び方…なに?」

 

「天野夕麻をどう思う」

 

「85、61、81で着痩せするタイプ」

 

「殴るぞゴミ」

 

「も"ッ、……言いながら殴られたんですが」

 

 

 

黙殺。

 

 

 

「天野さん……天野さんねぇ、美少女だって噂には聞いてたんだけどイメージとは違ったかな」

 

「イメージ?」

 

「『笑顔が可愛い』とか『存在感がある』とか『天使みたい』とか、そんな感じの噂を耳にしたんだけど―――」

 

 

 

愚弟は、少し唸ってこう続けた。

 

 

 

「笑顔は、可愛いとかそういうのじゃなくて妖艶とか腹に何か抱えてそうな感じで―――」

 

「存在感も、あれだけの美貌と性格のわりにはどちらかといえば無いし―――」

 

「何よりそのイメージ自体が『天使』というより―――」

 

 

 

「小悪魔、あわや堕天使、みたいな?」

 

 

 

俺はあんまり好きなタイプじゃないなー、とだけ言って愚弟は部屋に戻っていった。

 

 

………………………。

 

 

その場で、しばらく固まる。

 

『イッセーに彼女ができた』という話を聞いた時の胸騒ぎが、また起こった。

 

 

 

気付けば携帯電話を手にしていた。

 

 

 

兵藤の電話番号を打ち込み、コール音が鳴り出すのを待つ。

 

 

一回。

 

二回。

 

三回。

 

四回。

 

五回。

 

 

留守番電話だった。

 

 

 

「………」

 

 

 

自室に、ゆっくりと足を戻す。

そのままベッドの前まで来ると、しゃがみこんでベッドの下へ腕を深く入れた。

 

だが、何も掴まない。腕を戻しもしない。

あと数回掛ける。その数回の内に兵藤が出ればそれでいい。

 

再コールのボタンを片手で押す。

 

 

一回。

 

 

二回。

 

 

三回。

 

 

四回―――――。

 

 

 

 

―――コール音が、少しのノイズと共に途中で途絶えた。

 

 

 

「―――ッ…!!」

 

 

 

漂っていた予感が自分の中で収束した。

 

掴む。ベッドの下からそれを引き摺り出す。

 

そしてそれを握り締めたまま、窓を開けて飛び出した。

 

 

薄いタイツを履いた足が隣家の屋根を踏み締める。

そしてそのまま、また隣の家の屋根へと跳び移っていく。

次の家へ、次の次の家へ、次の次の次の家へ。

裸足ではないだけマシにせよ、恐らくこのタイツは使い物にならなくなるに違いない。だがそんなことはどうでもよい、重要じゃない。

 

 

 

 

「俺が一度も見たことも無かった同学年の女子―――」

 

 

 

 

探査回路が近くの公園に何かを感じ取る。

そちらの方へ、スカートをはためかせながら跳躍する。

 

 

 

 

「ドルドーニと弟が言う『存在感の無さ』―――」

 

 

 

 

知らない家の屋根に付いたアンテナを掴んで、一旦停止。

 

そして、響転(ソニード)

視界の中の景色がブレていく。

 

 

 

 

「確実性などない、だが―――」

 

 

 

 

探査回路(ペスキス)が、前方に何かを捉える。

 

それは結界。

堕天使の魔力が練り込まれた、推測を結論付ける結界。

 

 

 

 

「―――天野夕麻が、何らかの道具で気配を消した人外であるという可能性か」

 

 

 

 

片手に持ったそれ(・・)――――刀に手を掛ける。

抜き去れば、鈍い輝きが夕陽を微かに反射した。

 

二階建ての家の黒い屋根を強く踏み締め、結界目掛けて空高く跳ぶ。

 

 

 

 

 

 

見えた。

結界の中に人影が。

 

赤、否、紅が二つ。

 

 

片方は、もう既に半年以上も目にする事のなかった特徴的なストロベリーブロンドの持ち主。

 

もう片方は、もう、片方、は。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――紅い血で染まった、兵藤一誠。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刀を振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――眼下で公園を包む直径300m以上の結界が一刀の下、真っ二つに裂けた。

 

 

 

 

 

 





スゲー微妙なところで切ったけど「ココで切るのは流石に無い」と思う意見が合ありましたら後編となんとか合体させます。


さて、今回はイッセー君死亡シーンまで。
原作にして約8P分くらい、短いッ。

でも、主要キャラの死亡シーンを他者からの視点で描こうとするとこんなもんじゃないっすかね。

イッセーを語り部にして原作のような話の運び方をしてみましたけど…うん、これやりにくい。


あと『数ヶ月前にドルドーニからこの世界における『虚』の力の説明を受けた』とか言ってますけどこのシーンの描写はまだないです。回想で後に出します、ハイ。


ドルドーニの活躍? 敵が来たら、もしくは回想シーンであるよ、ウン。



【今回の要約】
2年生へと進級したウルキオラさん、原作開始。
イッセー君は謎の美少女Lさんにお腹をブッスリ♥
ぶっ倒れるイッセー君の横で、次回、火花が散る…?
後編を待て。




クリムゾンの迷宮(貴志祐介):税込¥700
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