ウルキオラさんがTS転生していく話   作:鉄パイプ

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先日ランキングに載ったよ!!
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今回の前半、彼らがまだ小学四年生だという事を忘れてはいけませぬ。
違和感が凄いから。


ウルキオラさん、成長期です

 

 

おれには二年前に姉ちゃんができた。

 

新しいお父さんと会いに行くとお母さんが知らない家におれを連れていった時に初めて会った。

お父さんは表裏の無い優しそうな人だった。

姉ちゃんは、可愛いというか綺麗というか何というか、でもなんか警戒心の強いカラスみたいな印象だった。

 

暮らし始めた最初は何だか取っつきずらかったけど、それでも二年間、それだけ姉ちゃんと一緒に暮らしていれば少しくらいはどんな人なのか理解はできる。

 

 

 

「姉ちゃん、走るのついていっていい?」

 

「好きにしろ」

 

 

こんな感じで姉ちゃんのしているランニングについていこうとした時があった。それも少しだけでも姉ちゃんの心に近付きたかったからした事だ。

 

『元浜』とある表札の前で身体をポキポキと鳴らす真っ白けなジャージを着た姉ちゃん。

おれは自分が「少なくとも姉ちゃんよりは体力があるし、走るのも早い」と思っていたので姉ちゃんを追い抜いてからかってやろうなんて事を考えていた。

 

動きを止めた姉ちゃんはふっ、と軽く息を吐き出したかと思うと次の瞬間。

 

 

「着いてこい」

 

 

おれが見たことも無いような物凄いスピードで駆け出した。

 

 

「え!?ちょ、姉ちゃん……速ッ!!何あれ速ッ!!」

 

 

クラスで一番速いやつよりもっと速かった、いやもしかしたら車にも追い付けるんじゃないかというぐらい速かった。

 

買い物帰りに通る川辺、その買い物をする場所の商店街と駆けていくが一向に追い付けない所か、商店街を抜けた辺りですぐに見失ってしまった。

 

コースが分からないと迷子になってしまう可能性もあったから仕方なく来た道を倍くらいの時間を掛けてトボトボと引き返したのだが、家に辿り着いてみると……。

 

 

「何だ遅かったな」

 

 

分身が出そうな速度で木刀を振り回す姉ちゃんがいた。

 

 

その時、おれは「あ……姉ちゃんと普通の人を比べちゃいけないんだな」と悟った。

正直言うとドン引きだった。

 

もしこの一連の事を姉ちゃんに恋をした人が見たらそれが千年の恋であっても凍り付いていた程だと思う。

想像してみて欲しい。

好きな人が自動車に匹敵する速度で走り、ブロック塀が砕けそうな勢いで木刀を振り回す。

おれだったらトラウマモノだと思う。

 

その後、お父さんから聞いたのだがあれはどうやら張り切り過ぎて本気が出てしまったとの事だった。それでも酷いモノだと思う。

 

結局、ランニングに付いていった事から得られた姉ちゃんのイメージは「残念な女の子」であった。

 

 

 

お母さんに姉ちゃんが女の子らしくないと話すと、クスッと笑われた。

 

 

「あの子の部屋を覗いてごらん、きっと女の子らしい所が見つかる筈よ?」

 

 

そんな謎の自信を持って話すお母さん。

後で姉ちゃんを連れて買い物に行くからその隙に覗いて、との事で、その会話から30分後にお母さんは姉ちゃんと出掛けていった。

 

全く乗り気じゃなかったけど仕方が無いから、と心に言い聞かせて姉ちゃんの部屋のドアの前に立つ。

お母さんが勝手にかけたであろう『美咲の部屋』とポップンに書かれたプレートが本人と死ぬほどそぐわっていない。

 

姉ちゃんとのランニングで完全に消沈した女の子について調べるという好奇心を奮い立たせて、勢いよくドアを開ける。

 

途端に空気が冷え込んだ気がした。涼しい、というには少し息苦しさを感じる。寒いの方が合っている。

家具はベッド、勉強机、本棚だけという物寂しいレイアウト。

部屋全体を白黒の閉塞空間へと染め上げるモノクロのカーペット、カーテン、壁紙諸々その他。

部屋の隅の椅子の上に置かれた恐らく母がプレゼントしたであろうテディベアが絞首刑を待つ囚人のような雰囲気を醸し出す。

 

 

 

「……これはひどい」

 

 

女の子とかへったくれの問題じゃなかった。

 

 

「姉ちゃん……どうやったらこんな趣味になるんだ……」

 

 

この部屋に唯一存在する趣味を表す家具である天井を貫きそうな程に大きな本棚。そのラインナップを見てみる。

 

一番下の段にはお父さんが突然おれとねぇちゃんにくれた子供用の百科辞典。これは分かる、だっておれの部屋にもあるから。

下から二段目には背表紙には何も書いていない本。表紙には『スペイン語辞典』と書かれてあり、同じ段には他にもスペイン語の単語張や会話の本等がギッチリ詰まっていた。……スペインに行きたいんだろうか。

三段目にはこれまたお母さんが渡したであろうファッション雑誌、以前に友達の真紀ちゃんに渡されたというマンガが申し訳無い程度に一緒に置かれている。本来はこういった物をたくさん置くべきなのに…。

四段目にはこれまたカラーがホワイトのCDコンポが、横にはあまり聞いた事が無いような名前のアーティストのCDがいくつか置いてある。「Thee Michelle Gun Elephant」って読み方すら分からない。とりあえず小学生が聞くようなモノじゃないというのは分かる。

五段目には医学書、心理学の本が並べられている。何か操りたい生物でもいるんだろうか。

六段目より上は大して使う事が無いのか埃をかぶった本がまばらに置かれていた。

 

本棚の横のテディベアの置かれた椅子は上の方の本を取るためにあるらしく、テディベアは置く場所が無いからそこに一応置いただけらしい。お母さんが知ったら泣くんじゃないだろうか。

 

机には学校行事の連絡や教科書が几帳面に置かれているだけで面白い物は無い。

 

 

「あとはベッドだけだけど……ん?」

 

 

部屋の最後の家具、ベッドを見ようとした時、ベッドの下に何かが光ったような気がした。

嫌な予感がして、冷や汗が流れるがそうなると逆に気になるのが人間というもの。

 

恐る恐る床に伏せてベッドの下を見てみる、と。

 

 

 

 

 

―――刀があった。

 

 

 

……とりあえず無言で立ち上がり、無言で部屋を出て、無言で立ち尽くす。

 

何故、小学生が刀を持っているとかそういうツッコミはいらない。とりあえず。

 

二度と入らない。そう心に誓った。

 

 

 

 

「なぁ元浜!お前って真紀ちゃんが好きなんだろ!?」

 

「よし松田表に出ろ」

 

 

姉ちゃんの部屋を見た後、友達の兵藤と松田が家に来た。

 

上がるなりなんなり二人は居間にある新しい家庭用ゲーム機を起動、三人で適当にピコピコとやっていたのだが、急に松田がそんな事を言った。

なんとなく動揺して操作を止めてしまってその隙をついた松田に撃破される。畜生。

 

 

「前に可愛いとか言ってたじゃん、あのぽわぽわした感じが」

 

「それだけで決めつけるな……オラッ!!」

 

「あっ!!」

 

復活したキャラクターで迂濶にウロウロしていた松田を狙撃して撃破する。浮かべていたしてやったり顔が悔し顔に変わり、思わずニンマリする。

 

真紀ちゃんは…アレだ、好きというか、姉ちゃんとおんなじ感覚であって別に好みなんてモノじゃ……何かモヤモヤしてきた。

 

「そういうお前はどうなんだよぉぉぉぉぉ!!」

 

「乱射しながら近付いて来るんじゃねぇよ!!クソッ!!」

 

画面の中でおれのキャラが暴れまわるがすぐに弾切れになり、松田にやられる。

 

「んー、俺ねぇ……そうだな……お前の姉さんなんか可愛いんじゃないか?」

 

「江ッ!?」

 

松田がまたしてやったり顔を浮かべて言い放つ。

……別に姉ちゃんが誰を好きになったっていいけど何となくコイツは嫌だ。

 

「てかさっきからイッセーが見当たらないんだが……おわっ!?」

 

「汚ねっ!?」

 

さっきからずっと無言だったイッセーが闘っていたおれと松田に横槍を入れ、そのまま二人ともやられる。

そしてそのまま時間切れになった。その後のリザルト画面のトップにはイッセーのキャラがあった。

 

「うわーイッセーに良いとこ取りされてるし……イッセーは誰か好きな子とかいんの?」

 

「……うーん、担任の先生とか?」

 

少し悩む動作を見せたイッセーの口から出たのはそんな言葉。

 

「あの口うるさいのの何処がいいんだよ」

 

「だって胸に素晴らしい物がついてるじゃないか!!アレは芸術だと思わないか?」

 

「……えーだってアレおれらのお母さんと同じ年齢だぜ」

 

「ババアじゃん」

 

イッセーが顔を凛々しくさせて答える。

何故こんなにイッセーはおっぱいが好きなのかは知らないがとりあえず気になるのは一体何処でそんな情熱を学んできたのかという事だ。

 

「最近あまり見ないけどなぁ……『旧公園』に面白い紙芝居を見せてくれるじいさんがいるんだよなぁ…」

 

元気かなぁ、と残念そうにしているイッセー、その様子からかなりそのじいさんを尊敬しているみたいだった。

 

『旧公園』と聞いた時、松田が思い出したように言う。

 

「そういや『旧公園』の新しい遊具、もう触れるようになったらしいぜ?」

 

「あ、マジで?じゃあ行こうぜ!!」

 

イッセーが応じて立ち上がる。

張り切る二人と共におれは『旧公園』へと向かった。

 

 

 

「は、いいものの……なぁ?」

 

「……何だ、文句があるなら言ってみろ元浜。イッセーにな」

 

「文句はお前ら二人とも抑えてのみ込め…」

 

 

夕日が、あんまり綺麗じゃない空の下、三人並んで帰り道を歩いていく。

遊具は…何かぐるぐる回るデッカい穴空き地球儀みたいなのが唯一つ増えただけだった。遊んでて最初は楽しかったものの、あっという間に飽きた。

他にできる遊びは無いかと模索したが、特に無く、日が暮れて肌寒くなったので帰ろうという流れになったのである。

 

「じゃあ、俺らコッチだから」

 

「またなー元浜ー!」

 

二人がある曲がり角で離れていく。そして寒いと二人でぼやいて身体を擦りながら走っていく。

 

賑やかさが無くなり、急に寂しく感じておれも家に向けて走り出す。

流石に冬場に長袖Tシャツ一枚は寒すぎた。

 

そう考えながらさっきの二人と同じ様に身体を擦りながら駆けていると前方に人影が見えた。

遠目でも分かる程に鮮やかな緑色をした瞳を持つ黒髪の女の子がこちらに歩いてきてる。

 

「姉ちゃーん!!」

 

向こうはとっくにおれに気付いていたらしく、返事も何もせずにいる。

 

そしてそのままお互いが触れそうな距離まで来た所で姉ちゃんがおれのジャンパーを押し付けてきた。

 

「お前を連れ戻してこい、と言われた。さっさと帰るぞ」

 

ぶっきらぼうに言うと姉ちゃんはさっさと踵を反して歩いていく。

渡されたジャンパーを素早く着て、姉ちゃんの横まで走って追い付く。

 

こういう所は優しいのに、何だかその無表情で損している気がする。

姉ちゃんが笑ったところなんか一度も見た事無いんだもの。

 

 

 

うん、まあでもやっぱり。

凄くて強くて可愛くて綺麗なのがウチの姉ちゃんなんだな、って思った。

 

 

###

 

 

 

 

 

 

 

親が再婚して4年が経った。

 

俺と弟はそのまま地元中学校へと進学していった。

小学校を卒業した、という事でまたもや父が感慨深く感じていたが、別にただ単に学習する場所が変わるだけで感じ入る事など何もない。中学校から高校に進学する時なら何か思う事が有るのかもしれないのだが。

 

この見慣れたモノクロの自室の外から桃色に染め上がった山肌の一部が見える。

あの辺りに群生するソメイヨシノは地元ではかなりの花見スポットとして伝えられているが、自分は少しだがこの部屋から見えるのでそれで満足している。

 

 

それはさておき、現在自分は着替えの最中である。

かぶった服の横脇に付いたファスナーを下げて締め、最後にネクタイを着ける。

 

小学五年生の時に母によって部屋に設置された鏡に振り向く。

 

 

 

そこにはセーラー服を着た俺の姿があった。

 

白百合の紋章のついた黒い襟元に入った白い三本線、そして襟と同じ色をした長めのプリーツスカート。

 

制服、と呼ばれるこの服は中学校に入った人間は必ず着用する物だ。理由は集団としてのケジメをつけるだとか、集団としての意識を決定付けるだとか色々あった筈だが、まぁ興味は無い。

これが中学校に通うなかで必要不可欠であると言うならばコレを拒む理由も無い。……だが。

 

「スカートは、やはり……な」

 

慣れない、本当に慣れない。

下から股に入り込む風に不安を覚えざるを得ない。

 

『精神は身体に左右される』と聞いたが、幾千の時を人以外の男性体で過ごした俺の精神がたったの十数年で身体に揺さぶられるものなのか。そんな事は起こり得ない筈だ。

だがこうして自然に服装に疑して文句を考えるようになっている、確実に。……少し、俺の精神も人間に近付いていってるという事なのだろうか。

 

 

とりあえず新品の制服を着た姿を父に見せてくれと言われたのでさっさと見せに行くことする。

自室を出て、スカートが捲れないように階段をかけ降りて居間に入る。

 

父は出来上がった飯の前でソワソワしながら録画した小学校の卒業式をテレビで見ていた。

テレビが放つ大音量の拍手の音で聞こえなかったのか父はこちらに気付いていない。

 

何気なく反対側の席に座る、とやっと父が気付く。

 

「あ、美咲来た……あっ着てる!?美咲、立って!!ほら撮らせて!!」

 

俺の格好を見た父は机の下から起動済みの一眼レフカメラを素早く取り出し、立ち上がるように急かす。

 

「……食後でもいいだろう」

 

「駄目ッ!!今ッ!!」

 

ひたすら断り続けようとしたが父の行動が拒否するにつれて子供っぽくなっていき、最終的に折れざるを得なくなった。

 

結局、父は自分の納得がいくまで俺の制服を撮り続け、その頃には飯もすっかり冷えていた。

 

 

 

 

「はは…いやー満足!!美咲はそういう可愛い格好をしたがらないからね!!」

 

妙に艶々した顔の父が再度レンジで加熱したスーパーの惣菜を口に放り込む。

一度、殴ってみてもいいだろうか。

 

自分もトレーに乗った油っこい唐揚げを掴んで食べる。だが視線は父からずらさない。

 

「すまなかったって、美咲…お礼になんかしてあげるから!!」

 

非難の目線が堪えたのか父の笑みが苦笑に変化し、そして折れる。

だがまだ無視して凝視する。

 

「…なあ…美咲?」

 

「…」

 

むしゃむしゃ。

 

「……みさ…」

 

「……」

 

むしゃむしゃ。

 

「………」

 

「………」

 

 

完全に会話が途切れた。

父が箸でご飯の入った茶碗をコツコツつつき始める。

 

 

「何か……聞いてくれるんだな?」

 

「…!!うん、お願い事何でも聞いちゃうよ!!ドンと来い!!」

 

会話のタネとしては……これで十分だろう。

 

 

 

「そうだな……『お母さん』について…教えてくれ」

 

 

ピシッ、と一瞬空気が固まるような音を聞いた気がした。父もカップに入った安物のコールスローサラダを口にしようとしたまま一緒に固まっている。

空気を読んで何となく自分も動かずにいるが、二秒で飽きて動く。

 

父がもうちょいノってよー、とマヨネーズのべったりついた箸をこちらに向けるがまた無視して食べる。

 

「うーん…それはニュアンス的に昔の『お母さん』って事だよね」

 

「そうだ」

 

箸の反対側で顎をつつきながら父が問い掛けてくる。

 

今の母の事は彼女が自ら話してくるからどのような人物かは分かる。

だが、昔の母は未だに「今から五年前に死んだ」「容姿が自分と似ている」事ぐらいしか知らないのだ。

話すことは多く無くとも少なくはない筈。

 

 

「うーん、何処から話したら……やっぱり僕と彼女の出会いから話せばいいかな」

 

父はよし、と一人合点して語り出した。

 

 

 

「美咲の昔のお母さんはね、貴族だったんだよ。そ、童話なんかでよく出てくるドレスを着て頭を盛りに盛るようなあの貴族。彼女から聞いた話だと母さんはその代の長女。母さんの代は長男がいなかったそうだった上に母さんはなかなかの大物だったらしいんだ」

 

「ん?なんで母の実家の事を詳しく知らないかって?そりゃ行ってないからだよ。母さんは実家がヨーロッパ圏だとか言ってたけどそれも怪しいくらい。行かなかった理由は色々あるけど一番は母さんが断固として反対したからかな。いや、母さんに実家に行こうって言えば『屋敷の裏で逆さ十字に貼り付けにされて業火で焼かれて晒される』と毎回、脅しをかけられて押し通されたんだよ。普段は凄く優しかったのに…」

 

「まぁ、僕も行きたくなかったからそれでいいかと思えちゃったんだよね…。だってよく考えてみなよ美咲。貴族家庭の女性と一般家庭の男性が恋をして、結婚したいと思ったならどうする?ドラマなんかじゃよく有るけど現実は難しいよね」

 

「そ、駆け落ち。母さんと一緒に日本に隠居したんだよ。母さんは元々放浪癖があって、箱入りのまま育つのが嫌だと実家に置き手紙を残しては世界各地をまわってた。そして偶然僕と出会って両思い。これで一組のカップルの出来上がりさ。その後、彼女は実家から荷物を纏めて出ていく。色々反発もあったみたいだけど母さんの権力で無理矢理抑えて飛び出したって言ってた。そして日本に住み着いてそのまま美咲が産まれたって流れなんだよ」

 

「まあ、そんな訳で彼女の実家とは絶縁状態になり、幸せに……暮らしていく筈だったんだけどなぁ……知っての通り、母さんは死んだ。美咲が小学校に上がったばっかりぐらいの時にね。彼女が死んだ原因は…………事故死、そう事故死だよ」

 

「……ッ!!………ああ、大丈夫だよ美咲、ちょっとだけ目眩がしただけだから…。母さん、血、いっぱい、お腹、穴、血……」

 

 

 

「おい、しっかりしろ」

 

父は気付けば顔面蒼白、全身の軽い痙攣、異常な呼吸を引き起こしながら茫然としていた。

何を思い出したのか、それとも何も思い出せないのか、まだ心配させまいと顔を手で覆って何かを呟く父。

 

「なんか……ね、母さんの事を思い出そうとすると頭がピリピリするんだよ、警告されているみたいに…」

 

顔をゴシゴシと手のひらで拭き、無理矢理笑顔を浮かべる父。茶碗やコップを持って立ち上がり、振り返って覚束ない様子で台所へ向かって行った。

 

……頭がピリピリとする、『お母さん』の腹に穴、そして血。

何か、頭に引っ掛かる感覚がする。とても大事な事のような、自衛する上で欠かせない事だったような。

……少し待て、自衛?一体何から身を守るというのか。

自分は何かを忘れている?いや、分からない。

 

………頭に、むず痒い電気のようなモノが通る感覚が―――

 

 

 

「美咲、食器頼んでいいかな」

 

また、ハッとする。見ると父はまだ気分が悪そうで自分が問われたそれを了承すると、寝室へとゆっくり歩いていった。

 

机の上の余った惣菜に目を向けながら、まだむず痒い後頭部をゴツゴツと握って軽く殴る。

だが治らない。治まらない。痛くは無いが苛立ちがつのる。

 

食欲が一気に失せ、余った惣菜を一つのトレーに移す。今は遊びに行ってる弟がどうせ食べるだろう。

 

 

 

その後、洗い物をしている最中も、木刀を振ってる最中も、頭のむず痒さは続いた。

 

 

『お母さん』に穴、血。

……あな?穴?『孔』?

 

いや、それは流石に…無い、のか?

 

 







【今回の要約】
弟は姉を可愛くて綺麗な化け物と見た。
姉から弟?知らん。
そして中学校進学だよ、やったねウルキオラさん。

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