機皇帝ワイゼル∞インフィニティ・ストラトス   作:王・オブ・王

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第二十一話 新たなシグナー登場 迫る驚異と臨海学校!

 わけがわからなかった。俺にはもう、わけなんてわかるはずがなかった。

 休み時間、教室はざわついているなんてレベルでは無く。もう祭り状態だった。

 ラウラからの熱烈なキッスを受けたプラシドことホセこと俺はげっそりとしている。IS学園に着てここまでげっそりとしたことはない。普段ならきっと人を寄せ付けなかったことだろう。

 まぁ、あくまでも普段ならの話だ。

 

「ねぇねぇプラシドくん!」

 

 シャルルとの風呂の件はなんとかその時間帯はセシリアと決闘していたということにしたが、問題はラウラとのことだ。前方の席で若干二名の恐ろしいオーラを纏う女二人のせいで一夏には詰め寄る女子生徒はいない。しかしそのぶん俺に詰め寄る女子生徒が山ほどいるということだ。

 シャルル、いやシャルロッテのことを聞いてくる女子生徒はいないが、ラウラとのことばかり聞いてくる女子生徒たちに一言だけ言うことにした。

 

「俺にもわけがわからないんだ」

 

「なぜだ嫁よ。私はお前を嫁にすると決めたのだ」

 

 女子生徒に囲まれていたのにどこから現れたのか、ラウラが目の前に現れて俺の膝の上に乗る。ああ、やらかい……がっ! まったく嬉しくないのである。いや、嬉しくないと言えば嘘になるがただ現状では混乱を生むだけだからやめてほしい。

 ―――だけどやっこい。

 

『貴様はその浮ついた考えをやめろ』

 

 ―――無理だ。女性に触れる機会などそうそうないのに!

 

『いつでも作れるだろうが……』

 

 作れたら苦労するかって話である。俺はそこまでガッツリと行くタイプではないし、むしろ行けないタイプだ。ラウラは俺の膝の上に乗りながらクラスの生徒からお菓子をもらっている始末。あぁこぼれてる。ホームパイは溢れるって!

 だがそんなことを言う気力も俺にはない。完全にこれは好かれているぞ、俺は鈍感でも唐変木でもないからわかる。これは完全に好意を寄せられているのだ。

 まぁキスされて気づかない馬鹿はどこにも……あぁ、前の席にいた。

 

「ところでラウラ、少し教官殿の元に行く必要があるからどいてもらえるか?」

 

「わかった嫁よ。帰ってきたら決闘(デュエル)をしよう!」

 

 膝から降りてそう言うラウラは……実に可愛いとは思う。

 

「帰ってきたら時間無いと思うぞ」

 

「なら昼だな!」

 

「おう」

 

 俺は疲れながらも軽く跳んで女子生徒たちを超えると、走って逃げる。後ろから俺を追ってこようという猛者はいないようでさすがに逃げ切ることに成功した。

 フハハハハッ! 女子生徒共、本当のランニングというものを教えてくれる!

 もうなにを考えているのかいまいちわかっていないが、とりあえず保健室で休んでからにしよう。わずか数十分にて俺のライフポイントは100ぐらいだった。

 

 

 

 女子トイレの個室にて、セシリアは顔を苦々しく歪めている。さっさとプラシドを問い詰めたいというのにこんな時に本国からメールが届いていたのだ。

 内容を簡単に説明するならば、トーナメントでのあの赤くなった現象とシステムについてだ。そんなものを詰んだという報告もなければなにもない。それもそうだろうとは思ってもシグナーが、なんて言えるはずもない。

 だからこそ詰みである。

 

「まったくもう、どうすれば良いのですの!?」

 

 外から女子生徒の小さな悲鳴が聞こえ、落ち着く。

 この学園のシグナーは現在知っているだけで三人である。自分とプラシドと一夏、しかしまだシグナーはいるらしい。話によればシグナーは5人か6人。

 そして、シグナーが持つデュエルモンスターズのドラゴンのカード。それがレッド・デーモンズ・ドラゴン。一夏のスターダスト・ドラゴン。だがプラシドは?

 相変わらず謎だらけの彼だが、そこがまた良いと思ってしまうあたりセシリアはプラシドに―――。

 

「完璧にやられちゃいましたわね」

 

 どこかおかしそうに、そう言うセシリア。

 それにしてもラウラが今朝やったことを思い出すと早くプラシドの元へと行かなければと思う。

 こんなところで油を売っていては不味いことになる。ラウラ、強敵が現れたものだとため息をついた。

 

 

 

 

 プラシドは織斑千冬と共にいた。別になにがあるというわけでもないのだが、ただ改めて話してみたかっただけだ。プラシドがというのもあるが、織斑千冬の方も、である。

 友人である束に聞いたところでまともな答えが返ってくる保証もないので、本人に聞いたほうが良い。

 小さな部屋にて、机を挟んで座るプラシドと千冬の二人。

 呼び出したのは千冬の方なので先に話を切り出すのが妥当だと思いながら口を開こうと思ったが、先に話を始めたのは意外にもプラシドの方だった。

 

「先日のラウラの件、任せてくださってありがとうございます」

 

「ああ、気にするな。お前に任せて正解だった……」

 

 そう言って、珍しく生徒を褒める千冬だったがそう言うだけの意味はある。なんだかんだ言ってプラシドとはこうして話をしたこともなかったから丁度良い。

 

「それは良いとして、お前のISだが……他のどのISともまったく違うがあれは第何世代なんだ?」

 

「束、いや篠ノ之博士から聞いたことによれば俺のISは“普通のIS”とは違う派生をたどったISだということです。どちらかと言えばクラス代表戦にて襲撃してきたゴーレムに近いものかと」

 

「なるほど、各国が作っているISとはまったく違う派生のISでありながら他のISを凌駕する能力……それともお前が異常なのか、とりあえず今わかることはお前のIS機皇帝は一機のISではないということぐらいか」

 

 その言葉にプラシドが目を細めた。表に出たのは本物のプラシドということだろう。

 それに焦りを覚えながらも、冷静にプラシドを諌めようとするホセ。

 ―――余計なことするなプラシド。

 

『ふん、少し黙っていろ。お前にこの女を相手にさせるわけにはいかない』

 

 どう言う意味かはわからないが、今回は任せることにしてみた。

 プラシドも冷静な声にホセは黙っている。

 目つきが変わったプラシドを見て、織斑千冬も目を細めた。

 

「俺の専用ISである機皇帝とはワイゼル、グランエルの二体を差す」

 

「ワイゼルは“お前もあっちも”使えるようだが、グランエルは“あちらの方”しか使えないということまでは大体わかる」

 

『ほぉ、人間のくせによくやる』

 

 ―――俺のことを気づいているのはさすがとしか言えんな。

 

「二重人格で人格の片方をISに移す。どういう技術を使っているのかなんて予想もできないが、あの天災のことだ。説明されても理解できないことばかり言うのだろう」

 

 さすが友人わかっているようだと、ホセは束のことを思い出す。

 出会った頃からそうだった。いつも説明を求めても大抵わけのわからないことばかり。そして巻き込まれるのは周りばかりで……直させようとしたのだがどうにもそうはいかなかった。

 まったくもってとんだ女であると思う反面、興味がそそられることや面白いと思ったことならやりきる。おかげでプラシドはいろいろと巻き込まれもしたがありがたいことに今ここにいられるのだ。

 

「まぁこの話はここまでで良い。私が聞きたいのはでゅえるのことだ」

 

 ―――はい?

 

決闘(デュエル)のことだと?」

 

「そうだ。最近学園でちょっとした騒ぎになっているようなので気になってな。今朝ボーデヴィッヒからお前に聞いたほうが早いと聞いた」

 

 ―――な、なるほど……。

 いささか不味いと思う反面、教えなければと思う。だがたかがカードゲームと呼ばれればそれまで、ホセは葛藤していた。

 だがそんな中、最初に話をはじめるのは千冬でもホセでもない。そう、今織斑千冬の前にいるのはホセではなくプラシドだ。

 

決闘(デュエル)を知らずに貴様この学園にいたというのか……!」

 

 ワナワナと手を震わせるプラシド。

 ―――勘弁してくれプラシド。やめろ、やめて、やめよう。だめだ、相手が今までの問は格が違う。

 

『この女は決闘(デュエル)も知らないのにこの学園にいたというのだぞ!』

 

 ―――まぁIS学園だからね! チェンジを要求する!

 

『良いだろう』

 

 やけに聞き分けがいいプラシドに疑問を覚えながらも織斑千冬からの怒りをかうことを阻止したホセ。

 そして織斑千冬のプラシドの中身はホセへと変わる。

 安堵の息をついて、ホセは千冬の方に目をやる。

 

決闘(デュエル)自体を見たことはないと?」

 

「ああ、見たことは無いとは思うんだが、直訳すると決闘になるわけだがどういうことだ?」

 

「まあカードゲームの戦いのことをそう言うんです。ていうかほんとに知らないんですか有名ですよ」

 

 そう言ってからハッ! と気づく。今の言い方はまずくなかったろうか? と思うも千冬は特に何をいうでもない。

 彼女自身ISと弟と生徒のこと以外にあまり興味が無いのでカードゲームかと若干落胆しているも、生徒や弟がやっているのだから確認しておきたかった。

 

「カードゲームとはあれか、よく学園でも見る」

 

「ああそれです。それが決闘(デュエル)です。見たことはあるみたいで安心です」

 

 なるべく当たり障りのないようにと必要以上に気を遣うのは彼女が怖いから。

 

「なるほど、あれが……」

 

「一夏も夢中になってますよ」

 

「知っている」

 

 ―――なるほど、それで気になったか?

 プラシドはなんとなくだが納得することができた。

 だがあのカードゲームが決闘だとは思わなかったわけだな……詳しく説明したほうが良いのか?

 

「詳しい説明は、必要ですか?」

 

「いや、ただのカードゲームならばいい」

 

 そう言って、千冬は部屋を出ていこうと立ち上がる。扉を開いてから、立ち止まった千冬。

 

「ボーデヴィッヒのことだが、頼んだ。あいつはまだまだ子供だ」

 

「はい」

 

 織斑千冬は部屋を出て行く。一人残ったプラシドは少しでも疲れを癒すためにと、ホセからプラシドに変わる。

 精神的に疲れているホセがプラシドの中で眠り、表に出るのはプラシド本人。保健室で休もうと思ったが千冬とこうして話した後に千冬の授業をサボるわけにもいかない。

 

「ふん、IS実習か……急ぐ必要があるな」

 

 なんだかんだで学生らしく授業に送れないようにすると、プラシドも随分適応してきたようだ。それともどこかで学生など“そういうこと”に憧れを抱いていたのか……おそらく前者であろうけれども、なんだかんだでプラシドも本気でIS学園が嫌いなわけでもない。

 人間にだって“昔ほど”露骨な態度をとることは無くなった。

 

 

 

 グラウンドに現れるプラシド。

 すでに実習は始まっているようで、数機の打鉄を使いぎこちない動きをしている女子生徒たち。遅れてやってきたプラシドだが、堂々としていてまったく反省の余地もない。

 だが千冬がそれを咎めないのは自分が呼び出したのにも原因があるから、だろうけれど―――。

 

「遅れてきたのは責めないが、少しは反省している風にぐらいしろ」

 

 さすがに一言は言うことにした千冬。そんな言葉に、プラシドは視線を千冬に向けるだけだ。

 プラシドがいつものプラシドではないことに気づいてため息をつくと顎で生徒たちがいる方を差す。

 

「まったく」

 

 千冬のそんな言葉を聞きながら、プラシドは生徒たちの集まる方へと行く。打鉄を扱う女子生徒が手を振ってくるがプラシドは『ふん』と返事でもないような返事をするのみだ。

 辺りからは『プラシドくんがプラシドくんだ!』など『プラシドくんじゃない方!』などと言われている。

 

「あっ、プラシド君、今日の実習はみなさんにISでの攻撃の仕方などを教えてあげてください!」

 

「ふん、まともに動かせるようにはなっているようだな。山田麻耶、貴様が教えたほうが早い」

 

「えっと、専用機持ちの皆さんの義務のようなものだと……織斑先生が」

 

 その言葉に、プラシドは眉をひそめる。

 

「専用機持ちが二人一組で武装の扱い方を教えているので、プラシド君は織斑君と一緒にあちらの方をみてあげてください」

 

「……良いだろう」

 

 案外素直にいうことを聞いた“こちら”のプラシドに、山田麻耶は心底安心したという風に息をついた。

 プラシドが現れた生徒たちが黄色い悲鳴を上げるがそれはいつも通りだ。

 なんだかんだでプラシドも口は悪いがしっかり教えているようで安心と、麻耶は奇数で余った一夏の方に歩いていく。

 

 

 

 セシリアと鈴の二人も相変わらず二人一組にされ、二人で生徒たちにISの武装などを軽く説明して今は刀を振らせているが、プラシドの方をこまめに確認する。

 それを見て、鈴は苦笑するとセシリアの肩を叩く。少し驚いたのかビクッ、としてからセシリアは鈴の方を見る。

 

「行ってきてもいいわよ? 少しくらいなら」

 

「フッ、なにを言うのです鈴さん、これもまたノーブル・オブリゲーション(貴族としての義務)ですわ! サボるなんてもってのほか!」

 

「案外盲目じゃないのね」

 

 意外そうにそう言う鈴だったが、セシリアはチラチラとプラシドの方を見る。まぁ暴走しないだけ良い風な恋なのだろうと思う。

 一夏のことになると自分はすぐに暴走してしまう。ISで殴るのは“ともかく”としても、今日の龍砲はさすがにやりすぎだと思う半分、いたしかたない気もする。

 なんたって一緒に風呂に入ったというのだから……。

 

「そういやそれってノブレス・オブリージュじゃなかった?」

 

「それはフランス語ですわ。ノーブル・オブリゲーションは英語ですの」

 

「へぇ~」

 

 そう言ってISをまとったセシリアはプラシドのことを一端忘れて生徒たちへと教えることを再開する。

 メリハリのしっかりつけれるセシリアを見て、鈴は横に行く。

 突然自分の隣に着た鈴を疑問に思うが、鈴の方は笑っているだけだ。

 

「あんたのそういうとこ、結構好きよ」

 

「……わ、私そういう趣味は」

 

「あたしもないわよ!」

 

 セシリアの頭を自らのISでどつくと、セシリアの痛みを訴える声が聞こえるが知ったことではないと、自分も切り替えて他の生徒たちにISの扱い方を教えることにした。

 素直に言って損をしたと、鈴はため息をつく。教えている生徒が鈴のため息を自分のことかと想い不安そうになっているが、それを鈴が知るよしもない。

 得てせぬところで負の連鎖。まぁそこまで深刻なものではないにしろ、鈴とセシリアはいつも通りコンビ扱いである。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 時は過ぎ去り、昼休み。食堂にはいつも通りプラシドと一夏をはじめとするセシリア、箒、鈴、シャルル、ラウラ、ルチアーノの総勢八人。

 テーブルを囲むソファに座る面々。専用機持ちばかりが集うそこは注目の的と言ってもいいものだ。

 そんな視線にも慣れている面々だが、そんな中でも慣れることなく苛立ちを現すモノが一人。

 

「プラシド、なんか機嫌悪いの?」

 

「これが機嫌が良いように見えるならば貴様の目は節穴もいいところだな凰鈴音!」

 

「あたしに当たんないでよ」

 

 そう言って鈴はラーメンをすする。一夏を含めて全員苦笑するが、ラウラだけが首をかしげる。

 学年別トーナメントの時、ラウラは組むと決めた日からほぼ毎日プラシドとタッグデュエルをしてきたが、この“プラシド”が不機嫌な時など無かった気がする。いや、最初はどことなく不機嫌だった気がしないでもないが、慣れればそうでもない感じがした。

 むしろこんなプラシドはそうそうお目にかかれないレアな感じがするラウラ。

 

「また嫁の新たな一面を見ることができたな」

 

「ラウラさん、何をおっしゃっているのですか?」

 

 笑顔のまま青筋を浮かべて聞くセシリア。

 

「私は“あちら”の嫁の方が好きだがな」

 

 つまりはホセということだろう。実際ラウラを助けたのもラウラと手を組んだのもラウラとタッグデュエルをしたのもほとんどホセの方だ。

 

「ふん、それは“アイツ”に言うんだな」

 

 もうまったくの別人だということを隠すこともないプラシド。隠す必要がない面々だとわかっているからこそ言っているのだろう。

 

「そういやプラシド、タッグデュエルってどうやってたんだ? 噂も聞かなかったし……」

 

「俺の部屋には束が作ったデュエルマシーンがある。そいつとタッグデュエルでラウラと共にタッグデュエルをしていたというわけだ」

 

「姉さんがそんなものを……あの人はなにをやってるんだっ……」

 

 片手で頭を押さえて心底疲れたような顔でため息をつく箒。身内だろうがなんだろうが、あまり好きではないのは確かだろう。

 プラシドの中のホセは『できることなら二人のよりを戻してやりたい』と言っていたが、それができるかどうかは箒にかかっているのだろう。

 

決闘(デュエル)と言えばそろそろあたしと決闘しなさいよプラシド。一夏には勝てなかったけどあんたはボコボコにしてやんだから!」

 

「馬鹿だな鈴は、俺に勝てないでプラシドに勝てるわけ―――へぶっ!」

 

 脳天をどつかれた一夏は頭を押さえているが、鈴は気にせずプラシドに箸を向ける。

 それを疎ましくも思わずに、プラシドはその表情に笑みを浮かべて腰の剣を抜き放ち鈴に向けた。

 さすがにそれは不味いと思ったのかセシリアが『落ち着いて』と声をかけるが聞く耳持たず。

 

「ふん、いい度胸だ。放課後来るんだな……“アイツ”が相手をしてやる。俺よりは弱いから安心するのだな」

 

「それは挑発と受け取るわよ? 覚えてなさいよ、ボッコボコにしてやるんだから!」

 

 ここに決闘の約束がされたのだが、セシリアがついていけていない。あまりの勢いに鈴を止めて自分が決闘を申し込むことすらできなかった。

 だが少しホセの決闘も見たい気持ちもある。彼の決闘を見たことは山ほどあるが、一夏の言うアクセルシンクロというものも見てみたい。

 正直に言えば初見と同時に戦ってみたかったが、仕方ないので今回は鈴に譲ることにする。

 ここでラウラかルチアーノ相手ならば決死の覚悟で止めていただろうけれど、鈴ならば“どうでもいい”と言っていい。

 

「せいぜいプラシドさんにやられると良いですわ!」

 

「あんたはもっと私の味方しなさいよ!」

 

 先日のトーナメントで共に見事なコンビネーションを放った相棒はいとも簡単に味方につくのだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 放課後、決闘(デュエル)は人目につかない広大なIS学園の敷地内の一部で行っていた。

 食堂の、大きなスペースを使っても誰も文句を言うことは無かっただろう。むしろ『決闘が始まります。一般生徒は対比してください』ぐらい言われても良いぐらい今のIS学園は決闘(デュエル)一色なのだ。

 それでもプラシドと鈴が人目につかない場所で決闘を行うのは今度の大会に備えて、である。

 プラシド、いやホセと鈴の二人が同時に決闘盤(デュエルディスク)を装着した。

 結局、セシリアも連れてこずにここには二人。

 

「あんたと二人だけってのも新鮮よね!」

 

「ああ、一夏ぐらい連れてこなくて良かったのか?」

 

「今度の決闘(デュエル)大会のこともあるからね。呼べないわよ!」

 

「つまりは呼びたくはあったと」

 

「うっさいわね、さっさとはじめるわよ!」

 

 お互いが視線を交差させて、笑みを浮かべる。好戦的で不敵でそれでもって目の前の闘争を楽しまんとする決闘者(デュエリスト)の目だ。

 

「さぁはじめようか!」

 

「上等!」

 

 一夏にもセシリアにも負けた鈴だが、新調したデッキはまだ誰にも公開していないし誰とも戦っていない。いや、唯一ルームメイトのティナにだけは見せたがそれ以上は無い。

 まだ負けていないが、プラシドや一夏やセシリアは他の決闘者(デュエリスト)たちとは比にならない強さだ。

 特にプラシドはこの学園最強の男かもしれない。だからこそ今回、鈴は勝負を挑んだんのである。

 

「私の真紅眼(レッドアイズ)を……見せたげるわよ!」

 

「見せてみろ! 俺のとっておきのアクセルシンクロをお前に披露してやる!」 

 

 

 

 ―――決闘(デュエル)!!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夕方、鈴とプラシドの戦いが終わったことはいつものメンツや学園中に知れていた。

 だが学園に知れたのは勝敗のみ、どういう経緯で誰がなにをしたかは誰も知らないのだ。もちろん鈴の新しくなったデッキもプラシドのアクセルシンクロも誰も見ていない。

 いろいろな噂や話の中、寮内をかけまわるルチアーノの姿。彼女は走って寮の一室に勢い良く入る。

 

「どうしましたルチアーノさん?」

 

 何事かと思いながら冷静に言うセシリア。

 

「アイキャン、ヒアマイ、ハーッベル!」

 

「どうしたっていうの!?」

 

 明らかに動揺するルチアーノに動揺を隠せなくなったセシリア。

 持っていた飲み物を渡すとルチアーノが一気に飲み何度か咳をして冷静さを取り戻す。

 

「ぷ、プラシドが……負けた!」

 

「っ!? なにかの間違いではありませんの!?」

 

「いや、プラシド本人が言っていたんだ」

 

 その言葉に、わずかに後ずさるセシリア。彼のTGデッキとは戦ったことは数度しかないが、一夏を倒すほどの力を持つのは確かだ。

 ならばプラシドが勝つのは当たり前と思っていた。

 それほどまでに彼は強いはずだったのに―――なぜ?

 だがプラシドの心配ではなく、真に恐るべきは鈴の新たなデッキとやらだ。

 

「一体、なにが……!」

 

「わからないけど、ボクは鈴に備えてデッキの調整しておくよ」

 

 ルチアーノはそれだけ言うと出ていった。デッキを腰のポーチに入れると部屋を出る。

 寮の生徒たちは誰も彼もその話で持ちきりのようだ。

 そう思っていると、ふと織斑一夏が歩いてくる。

 

「セシリア、プラシドが呼んでる」

 

 プラシドが呼んでいるということ、一夏がやってきたこと、それら全ての要素を鑑みてことの理由は……。

 

「シグナーのことですか」

 

 間違いなくそのことだろう。

 だからこそ、一夏と共にセシリアはプラシドが呼んでいるというプラシドの一人部屋へと向かうことにした。

 ノックもなく扉を開ける一夏と共に、部屋に入ればいたのは二人。

 もちろんプラシド。

 それから―――鈴だ。

 

「鈴さん?」

 

 そんな言葉に、プラシドは頷く。

 

「あぁ、四人目のシグナーだ」

 

「えっ!?」

 

「どういうことだプラシド!?」

 

 一夏も知らなかったようで、心底驚いた様子だ。

 ため息をついた鈴は右腕の袖をめくって、その赤き龍の痣を見せる。

 まじまじとそれをみつめる一夏とセシリアの二人。それになんだか恥ずかしそうにする鈴はすぐに隠した。

 それは間違いなく赤き龍の足の痣だ。

 

「それで、あたしのシグナーの(ドラゴン)だったわね」

 

「いや、決闘(デュエル)トーナメントもあるわけだから見せなくてもいいぞ」

 

 そう言い見せようとする鈴を止める一夏。

 

「いいわよ、私だってあんたたちのエースカードは知ってるわけだし……なによりこの(ドラゴン)を見せたぐらいで私は負けないしね」

 

 笑みを浮かべる鈴に、セシリアと一夏は何かを感じる。

 彼女に勝てる気がしないほどの余裕と気迫、軽く言ったにも関わらず一夏とセシリアはその感覚を思い知った。

 

「これがあたしの竜」

 

 そのカードの名は―――『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』

 シンクロモンスターであり、プラシド(ホセ)が知っているシグナーの竜ではないカード。

 だが実際にそれがシグナーの証である(ドラゴン)であることは確実だ。

 

「シグナーについては色々聞いたからね」

 

 鈴は自らの煉獄龍オーガ・ドラグーンを腰のホルダーに入っているデッキに入れると二人に指を向ける。

 

「今度の決闘(デュエル)大会、シグナー同士だからって手加減はしないからね!」

 

 そんな言葉に、一夏とセシリアは面食らうもすぐに笑みを浮かべた。

 

「ああ、上等だ!」

 

「私が本気を出せば、一瞬ですわ!」

 

 売り言葉に買い言葉、三人のシグナーが仲良く話しているのを見ながら、プラシドは安心したように息をついた。

 これでシグナーが四人揃ったが、これはこれで問題があるのに気づく。

 世界になんらかの驚異がない限り赤き龍の痣が復活することはない。

 邪神か時間を越えた敵か、自分が知っているのはこの二つだ。

 そしてもう一つ問題を抱えていた。

 ―――この俺がアクセルシンクロを使った上で負けるとは……。

 

『ふん、とうとう来たようだな』

 

 ―――あぁ……俺は習得しなければならない。アクセルシンクロを越えたシンクロを……。

 

 彼が心の中に思い浮かべるのはTGの未知のモンスター。“彼”が使った最強のモンスター。

 この世界に迫る驚異、進化したシンクロ、さらに間近に控えた臨海学校。

 数々のことを目の前にしながら、プラシド(ホセ)はできる限り先のことを予測しながらも、自らのカードを思い出す。

 

 そして今、優先すべきは―――トップ・クリア・マインド。デルタアクセルを習得することである。

 

 

 

 

 

 




あとがき

さて、今回は酢ぶt、げふんげふん、鈴のシグナーとしての覚醒!
シグナー竜は知ってる人は知っている煉獄龍オーガ・ドラグーンでござる!
そして、プラシドに決闘で始めて勝ったキャラクターは鈴でござりましたな。地味に偉業を成し遂げていることに鈴は気づいてござらんでござる。

次回はIS本編で言えば一夏とシャルルが水着を買いに行く巻でござる。さてさて、プラシドはどうするかなど、お楽しみにしてくださればまさに僥倖!!
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