機皇帝ワイゼル∞インフィニティ・ストラトス 作:王・オブ・王
朝、プラシドは椅子に座ったまま寝ていたことに気づいてハッ、と起きる。
座ったまま自分は布団がかけられていて、すでに敷布団も畳んであり、自分だけが取り残された感覚が否めない。
だが昨日のデルタアクセルができたという感覚を思い出せば、妙に手が震える。
ようやく、念願の新たな力を手に入れることができたのだ。
「よし、今日は……銀の福音じゃないか?」
そうつぶやいて片手を頭に当てて考えていた瞬間、襖が開く。
「プラシドさん、織斑先生が専用機持ちは集合だと……あと篠ノ之束博士が」
「あの女がきただと!?」
即座に
近くに立てかけてあった剣を取るとISスーツを即座に装着。と言っても着るに近いものだ。
だがセシリアの横を通って常人とは違い運動能力をもってしてプラシドは旅館から走り去ってしまった。
まったくなんなのだと思いながらも、セシリアは織斑千冬に言われた通りに集合場所へと向かうこととする。
場所は海近くの岩場。
プラシド以外の専用機持ち、織斑千冬、そして篠ノ之箒が集まった。
合計人数は7人、そして頷く千冬。
「よし、専用機持ちは“アイツ”以外全員揃ったな」
「ちょっと待ってください。箒は専用機持ちじゃないでしょう?」
鈴の言葉に箒がわずかに狼狽するが、千冬が説明しようとする。
しかし、それより大きな声に千冬以外の面々はビクッと跳ねた。
「ヤッホォォォォー!!」
大きな声と共に現れたのは篠ノ之束。
頭につけたウサ耳に見合うだけのジャンプ力をもってして千冬へと跳んだが、千冬は軽くその頭にアイアンクローで返す。
特に力は入れてないからこそ、今は余裕の表情なのだ。
そして束が何かを言おうとした瞬間、轟音が聞こえる。
「篠ノ之束ぇっ! 貴様には色々と聞かせてもらうぞぉ!」
自らのD・ホイール、
これにて全員集合だと、千冬は束の方を見れば箒に殴られている。
大きなため息をついてプラシドに降りろと顎で指図した。
中身はもうプラシドからホセに戻ったのか素直だ。
「自己紹介ぐらいしろ」
「え~面倒くさいなぁ。そんな興味ない子達になんで挨拶なんて」
「束、そういう態度は良くないと言っているだろう」
プラシドからの言葉に、面倒な表情をしながらも専用機持ちたちの方を見る。
本気で目の前のメンツ全員に興味がないわけではないのだろう。
「私が天才の束さんだよ! ハロー♪ 終わり!」
嵐のような女だと、プラシドと千冬は同じタイミングで頭を抱えた。
実に言われたことしか忠実にやろうとしない。
興味のないものにはとことん興味のない彼女らしいが、ルチアーノの方を見て笑い。
セシリアの方を見て目を細めた。
すぐにいつものように戻る束は空に手を向ける。
「さぁ、大空をご覧あれ!」
大空から落下してきた銀色の箱。束のリモコンのボタン一つでその銀色の箱は粒子化し、中身である紅のISが姿を現した。
このメンバーの中でそれを知っているのは束とプラシドぐらいのものだろう。
全員その壮絶さに声も出ない様子だ。
『まったく、この女は毎度余計な騒動を』
―――お前がいうか、お前が。
『なに?』
―――なんでもない。
箒はいつの間にやら紅椿に搭乗していて、束が勢い良くパネルを叩いている。
まったくもってろくなことにならないと思いながら、すぐに束の作業は終わり紅椿が飛び立つ。
スピードは従来のIS以上だが、エネルギーを貯めた状態のワイゼルのスピードには匹敵しないだろう。
ワイゼルのスピードは光を超えるが、通常それに耐えられる人間もその速度を出す必用も無いので、紅椿は純粋にすべての性能が異常なのだ。
「刀からビームが出たり、まるでスーパーロボットだな」
「プラシドが言うの?」
シャルロットからの指摘に、確かにと思いながら頷く。
しかし紅椿のステータスは総合評価するならばワイゼル以上であるのは間違いない。
束によって放たれるミサイルを、ひきつけた後に一撃の斬撃ですべてを破壊する。
ラウラが感嘆の声を上げるが、あれは箒だからこそというのもあるだろう。
「インチキ技術もいい加減にしなさいよ!」
「鈴の龍砲も大概だよ」
ツッコミ疲れしかねないと、シャルロットはため息をつく。
ほかの面々の武装に比べればシャルロットはずいぶん普通である。
『やれる。この紅椿なら!』
―――なにをやれるというんだか……。
通信を通して聞こえてくる箒の言葉に、呆れたように笑うプラシド。
やはりまだまだ15歳ということだろうと頷く。
「大変です! 織斑先生!!」
走ってきた麻耶から端末を受け取る千冬。
来たかと、目を細めて束を見るプラシドだが、彼女は『?』という表情をする。
すぐに白をきる彼女のことなのでそこまで信用はないのだが、今回ばかりは違う気がした。
理由などいらない。ただたんにそう思ったのだ。
「特命任務レベルA……現時刻より対策を始められたし……」
そう呟いた後、千冬は専用機持ちたちに視線を向ける。
「テスト稼働は中止だ。お前たちにやってもらいたいことがある!」
「あれ、こちらの方は?」
「篠ノ之束だ」
「うぇええぇぇぇっ!?」
明らかに狼狽し、おもしろいリアクションをする麻耶を見て、プラシドは少しばかり安心した。
◇◇◇◇◇◇
旅館内の一室はもう完全にブリーフィングルームそのものだった。
PCの画面には小難しい情報ばかりが並べられていて、畳の上に開かれているモニターには
そして銀の福音に搭乗するナターシャ・ファイルスとの通信もできずにいるらしい。
「衛生による追跡の結果、福音はここから2キロ先の海上を通過することがわかったが……問題はその周囲に建設途中の高速道路があるのだが、ほぼ迷路と言っていいその高速道路を高速で走り回る影があり、それがどうにもおかしいらしい。いや、というよりおかしいのだ……間違いなく福音はその場所を目指している」
プラシドが目を細めた。
「それも調べて欲しいそうだ……」
「ふん、まるで便利屋だな」
そうつぶやいたのはプラシドであり、千冬もそれに反論することはなかった。
IS学園自体各組織でそこまで好かれているものではない。
ならば当然というものであろう。
まずセシリアが情報の公開を求め、それに応えて千冬が情報を公開。
代表候補生である面々とプラシドは、目を細めてそれなりの覚悟をした。
質問が飛び交う中、ラウラが質問。
「偵察は行えないのですか?」
「超音速飛行を続けている。アプローチは謎の影のところに行く前に一度だけだ。合流させてしまえば逃げられかねない」
「アプローチが一度だけなら、一撃必殺の威力をもった機体で当たるしかないですね」
麻耶の言葉に頷く面々。
一拍置いて、一夏が驚愕する。
「あんたの零落白夜で落とすのよ」
「それしかありませんわね。ただ問題は……」
鈴とセシリアの言葉に、シャルロットがそちらを見た。
「どうやって一夏をそっちへ運ぶか、エネルギーは全て攻撃に使わないと難しいだろうから……移動をどうするか」
「目標に追いつける速度のISでなければいけないな。嫁のワイゼルはどうだ?」
ラウラの言葉に首を横に振るプラシド。
「トップスピードは一番だと宣言してもいいがその速度を持続できない。速度で言えばルチアーノの方が早いが……」
「装甲を削ってあの速度を維持してるから、一夏君を運んでっていうのは難しい。超高感度センサーも必要になる……よね」
そう飛び交う言葉の数々に、ついていけていない一夏本人。
「ちょっと待て俺がいくのか!? プラシドの方が適任なんじゃ!」
「バカかお前は、高速道路の影を追うならば俺のT・666が一番に決まっているだろ。それにグランエルで攻撃をしかけても逃げられたりすればそれで終わりだ」
全員が同時に頷く。
一夏が不満そうな表情だが、千冬はそんな一夏を見て静かに一言。
「織斑、これは訓練じゃない、実戦だ。もし覚悟がないなら、無理強いはしない」
そんな言葉に一夏はハッ、と表情を変えた。
拳を握り締め、しっかりと現実、命をかけた戦いということを見据えて振返る。
「やります。俺が、やってみせます!」
その言葉に千冬は頷いた。
今の話からして最高速を出せるのはルチアーノだが、それでは一夏を運べない。
プラシドは下に行くつもりのようだが、いざとなれば一夏を運んでもらわなければならないのだ。
「ちょっと待った!」
天井が外れ、そこから降り立つのは篠ノ之束。
「ここは断然紅椿の出番なんだよ!」
その言葉に、千冬やその他の面々は目を細めた。
もちろんプラシドもだが、自分が言って箒の浮かれ具合がどうなるとも思えない。
しかし実際なんとかなるだろうと思い若干なりともプラシドは安心するのだった。
◇◇◇◇◇◇
結局、作戦は正史通りに紅椿と白式の一撃必殺作戦。
しかし不審な点もいくつかある。そのひとつを解消するチームがプラシドを含めて二人。
プラシドのT・666の後ろに乗っているルチアーノ。
高速道路を走るプラシドだが、後ろのルチアーノが腰を掴む手を強くする。
「間違いない。俺を……いや俺たちを呼んでいるようだな!」
最高速で走れば、プラシドの視線の先には黒いバイクとそれにまたがる黒ずくめの男が映る。
逃すわけにはいかないと、プラシドがさらにスピードを上げるがいつぞやに学園を襲撃してきたゴーレムが現れた。
「プラシド、ボクはこいつらを片付けてからいく!」
「頼んだ!」
「誰に言ってんだよ! ヒャハハハハッ!」
ISを纏ったルチアーノが笑いながらゴーレム二体を相手に飛ぶ。
それに目もくれずに走るプラシドだったが、前を走る相手には一向に追いつけない。
だが突然、相手は速度をゆるめてプラシドの隣を走る。
「待っていたぞシグナー」
「やはりダークシグナーか!」
そこに浮かび上がるのは間違いなくダークシグナーである証。紫色の
想像していたのと、いざ目の前にそれがいるのとでは大きく違う。
それにより目つきは変わり、シグナーとしての痣は消えてしまった。
「ふん、俺が潰してやる!」
「お前に興味は無いが……」
「どうでもいいことだ。現れろ、機皇帝グランエル∞!」
その言葉と共にプラシドの背後から現れるグランエルのパーツはすぐに合体して機皇帝へと姿を変えた。
無敵にして強大なその姿を見ても、フードをかぶる男は唯一見える口元に笑みを浮かべるのみだ。
「現れろ、地縛神
その声と共に現れるシャチの地縛神。その巨体とグランエル∞が空中にて戦いを開始しようとするが、プラシドは男を追うのみだ。
最高速であればワイゼルの方が早いだろうけれど、速度を保つならばT・666の方がいい。
それ故にT・666で走っているのだが、徐々に男に距離を離されていくプラシド。
「どうしたシグナーの片割れ、遅いぞ!」
その馬鹿にした態度とともに、男は大きく笑い声を上げた。
黙っているプラシドが、その表情に苛立ちをあらわにしている。
D・ホイールに乗りながら、立ち上がったプラシド。
『やめろプラシド!』
そんなホセからの通信も切り、プラシドは男に指を指して剣を抜き放つ。
「貴様に俺の本当の姿を見せてやる!」
T・666の前方に穴が開きそこに剣を差し込むプラシド。
それと共に飛び上がると、プラシドの下半身が機械のように変形し、D・ホイールも変形。
先端部分に合体すると、伸びたパイプが背中につながる。
「うおぉぉぉっ!!」
そして、いつもの決めポーズ。
スピードは上がり、すべての性能が格段にアップ。
高笑いするプラシドと、初めて口元に焦る様子を見せた男。
「これが俺の究極体だ。この姿を見て生きて帰れると思うなよ!」
そう言うと、プラシドは左手を男に向けた。
「スピードカウンターを10個取り除くことで相手のモンスター1体を破壊する! はぁ!」
左手から放たれる紫色の光弾を男はなんとか避けるがスピードが減速してしまう。
ちなみに『スピードカウンターうんぬん』は必要ないだろう。
今のを外すとは、と笑みを浮かべるプラシドはこの圧倒的な有利ゆえだ。
迷路のようにいりくんだ高速道路の道。
男を先に行かせ、プラシドはその後ろを走りながら先ほどの道を逆走する状態になった。
道の先にグランエルと
「く、よく避ける!」
そう言いながら腕から光弾を出すプラシド。
究極体だからこそ放てる攻撃なのだろう。
「いけ、グランエル!」
プラシドの言葉に、ホセは応えてグランエルのキャノンを
だがグランド・スローター・キャノンを撃つことはまだ可能であり、男へと銃口を向けるホセ。
「止まれ!」
グランエルから響くホセの声に、男は笑い声を上げるだけだ。
自らの地縛神を破壊され狂ったのかと思われたが―――違っていた。
彼の右腕の痣は消え、その代わりフードの上から男の背中にコンドルの地上絵が浮かび上がったのだ。
「なに!?」
「いけ、
その声と共に上空から降り注ぐ光弾。
それを放ったのは一夏と箒が相手にしていたはずの銀の福音。
思ったより早かった。ホセにとってはソレだけの話なのだが敗因には充分すぎるものだった。
グランエルの左腕、グランエルAが破壊されグランエルの下半身であるグランエルCもボロボロである。
「なにをやっているホセ!」
叫ぶプラシド。ホセがブレード・ガンナーへと変わろうとするがもう遅い。
もう一度放たれた銀の福音の光弾。
今度は半分がグランエル、半分がプラシドへと……。
「なにっ!?」
その光弾の直撃を受けたグランエルは落ちていき海へと落下、水しぶきをあげながらむなしくその姿を海へと消した。
そしてプラシドも避けようとするが不可能。
爆発と共にその光弾の直撃を受け叫び声を上げる。
「ぐああぁぁぁぁっ!!」
叫びながら、バイクは転倒。そしてそれだけでは済まず。
バイクは爆発してプラシドの上半身がバイクから千切れ、地面を転がってその場に落ちる。
同じく剣もそのままプラシドの隣へと転がってきた。
プラシドは顔は酷く、死んでいるというのは一瞬でわかる。
普通の人間であれば、の話だが……。
「ふんシグナーでないお前に用はない」
そう言うと男は高速道路を走って去っていく。
プラシドに意識はないのは確かで、高速道路を走ってくる音が聞こえた。
それは第二のD・ホイール、ホイール・オブ・フォーチュンで、乗っているのはなぜか束ではなくセシリアだ。
「プラシドさん! 大丈夫ですか!?」
そう言ってかけよるセシリアには見えていなかったのだろう。
近くに言って初めてわかった。
上半身と下半身が分かれていること、そしてプラシドの中身が機械であるということも……。
あとがき
今回は繋ぎ、という感じでござるな。
そしてとうとうプラシドが究極体に! と思った瞬間『腹☆筋☆崩☆壊』!
次回、プラシドの正体を知った彼らはどうするのか、プラシドはどうなるのか!?
では、次回をお楽しみにしてくだされば、まさに僥倖である!!