機皇帝ワイゼル∞インフィニティ・ストラトス 作:王・オブ・王
暗い……暗い……俺の意識は覚醒しているのか?
いや、もう目を覚ましたのかすらわからない。目の前はずっと闇だ……。
失明しているだけかもしれないが、どちらにせよ目の前は真っ暗な絶望だ。
負ける気はしなかったさ……自らの力を過信していたといえばそうで、油断していたといえばそうだ。だが、まさかここまで呆気なくやられるとは予想外だった……。デルタアクセルを習得したことにより浮かれていたせいだ、くそっ! これでは篠ノ之箒を注意しようとしたが立場がない! これが……永遠のこの闇が死というなら、死とは辛いものだな。
―――起きてください。
なんだ? 眩しい。この空間はなんだ? 真っ白だ……俺の体は、プラシドなのか……先に誰かいる? 男か?
―――貴方はまだ死んではいけません。まだ貴方は成し遂げていない。
俺に何ができる。俺はこのまま死ぬことぐらいしか……。
―――いいえ、貴方は死なない。貴方たちの『絆』が死なせない。
俺に、絆?
―――そうです。貴方が紡いだアポリアとの、いやプラシドやこの世界の人々との絆。
しかし、その絆に報いることなく俺は……っ。
―――絆は報いるなどということではなく、お互いを思う心です。貴方は沢山の仲間たちに囲まれている……それだけで充分ではありませんか、仲間たちがいれば絶望する必要なんて、ありません。
絶望の必要がない? 仲間たちに……?
―――そう、貴方の仲間たちです。貴方を信じている者たちです……その中には、私も含まれています。
お前、いや……君も?
―――フッ―――それでこそ私の仲間、イリアステル滅四星の一人である
俺が……認められている?
―――もちろんです。でなければ貴方に“彼ら”が託したモノも意味をなくす。貴方はプラシドでありホセでありアポリアであり“イリアステル三皇帝の四人目”でありイリアステル滅四星の五人目であり四人目。
俺は……。
―――そしてアンチノミーと同じデルタ・アクセルの力を手に入れ滅四星の二人の力をすでに自らのものにしてしまった。貴方は彼らであり貴方である……
君や彼らが私の仲間……っ、まて! どこに行くんだ!
―――これ以上、言葉は必要ありません。貴方には仲間がいる……今を生きる仲間が……。
待て、待ってくれ―――!!
「
◇◇◇◇◇◇
勢いよく上半身を起こしたのは―――プラシドだった。
肩で呼吸をしながら起き上がった彼は、布団に寝かされていることに気づいて彼はあたりを見渡す。
間違いなく自分に割り当てられた旅館の部屋であり、自分の荷物も部屋の端にあるが、最後に見たときとはだいぶ違っていた。
自らの体には複数のコードが“接続”されていて、大量のコンピューターが自分の周りに配置されている。
そして、そのコンピューターを制御していたと思われる彼女と目があった。
「やあやあプラシドくん、起きたみたいだね! こんなこともあろうかと予備のパーツを量子化させておいて正解だったよ!」
相変わらずのハイテンションの彼女が、寝起きのプラシドに抱きつこうとするがプラシドは彼女の頭を掴む。
「あのセッシーが『プラシドさんが!』とか泣いて帰ってきた時は何事かとおもったよ! せっかくホイール・オブ・フォーチュンを貸したのになんの実りもなかったし!」
束が人の名前を覚えるなんて珍しいと思う。
その経緯を聞くのも面白そうだが、それは“彼”がいるときで良い。そう思った。
ふと、気になったので聞いてみる。
「ホセはどうした?」
「いやいや! 天才束さんでも君の“心の中の存在”がわかるわけないじゃないか、起きている状態なら精神の波長でなんとか人格が変わったというのもわかるんだけどね。寝ている状態じゃ」
笑う束だが、ホセが居ないということに別に心配している雰囲気はない。
「ふん、アイツがそう簡単に死ぬわけがない」
思い出せば最後に見たのは海上で撃墜されるところだ。
「信頼かな?」
「ふん、誰が……」
プラシドはそう言いながらも、ホセが死んだとはまったく思っていなかった。
同一人物として生きているからだとかそんな理由ではない。
ただ彼が“ホセ”という名前でイリアステルの三皇帝の一人であるからこそだ。
人はそれを“信頼”と呼ぶのだろう。
外は夕方、夕日が差し込むブリーフィングルームは息の苦しくなる空気が満ちている。
嫌な雰囲気なのは確かで、山田麻耶も織斑千冬も、ほかの教員たちも全員黙ってモニターを見るのみだ。
だがそんな静かな空間に入ってきたのは、意外でもなんでもないがプラシドだった。
彼はどういうことかどこから持ってきたのか車椅子で部屋に入ってくる。
「プラシドくん!?」
起きてきた彼に驚愕する麻耶。
束から事情を聞こうにも『本人から聞いてくれ』の一言により誰もプラシドのことについては聞けなかった。
だからこそ彼が起きてから事情を聞こうと思ったものの、そんな状況ではないのが明白。
「銀の福音は、あの男はどうなっている!」
そんな言葉に、千冬は冷静な表情だ。
「あれからずっと沈黙状態だ。男と福音の距離はおよそ5キロ、確実に誘っているからこそ……お前にも専用機たちにも仕事はまだ与えない。本部からの情報を待つ」
「ふざけるな! あの男を倒すのは“俺たち”のするべきことだ。この俺が脆弱な人間ごときにっ!」
「……もう一人はどうした?」
その言葉に、プラシドが押し黙り千冬は目を伏せた。
実質この戦いでの、任務失敗での犠牲者は二人となったわけだ。
頭が痛くなってくると思いながらも、モニターを見る千冬。
「お前は外の連中と話でもしていろ」
そう言って千冬はプラシドの後ろに回り込みその車椅子を押してブリーフィングルームから追い出す。
文句を言って抵抗しようにも足が動かないことにはどうしようもない。
追い出されたプラシドは車椅子を押して少し離れた場所にいる五人の元へと向かう。
プラシドのもとまで話は聞こえてくるが、やはりほかの専用機もちとラウラとでは心の持ち用が違うと思い知らされる。
「おい!」
声をかけて近づくプラシドに驚く五人だが、すぐに笑顔を浮かべた。
起きて良かったということだろうけれど……。
「お前たちの望む俺ではないがな」
「そんなことはどうでもいいのよ。友達が二重人格とかどっちが起きたとか、とりあえず無事でよかったって……」
そういう鈴はいささか重い雰囲気をしているが、彼に聞いていたプラシドは予測していた。
彼はこれを止めることができなかったが、今はどうでもいい。
そんなことよりも目の前の五人は説明を求めていた。
「お前たちの察しの通り俺はサイボーグだ。ただ感情があるだけのな」
「サイボーグっていうと未来から来て核戦争止めたりする?」
あながち間違いでもないが、この世界のプラシドに対しその説明は間違いだ。
この世界でのプラシドはまったくのイレギュラーであり、ただ束が修理しただけの存在。
明確な存在理由はない。
「あの、下半身が取れてても大丈夫でしたの?」
そんなセシリアの言葉に、足を動かしてみようとするがうまくいかなかった。
「まだ神経系統が自動接続できていないようだから下半身はうまく動かないが一日もすれば充分動く」
安心したように微笑む面々を見て、少しばかり目を細めたプラシド。
何が言いたいかということはわかる。なぜ動かないのか? 戦わないのか? ということだろう。
だが『戦わない』わけではない。
まだ『タイミングではない』だけだ。
「……俺は他人に希望を与えるのは得意じゃない、どちらかというと絶望を与える方が会っている。だからお前たちにどうこう言う気はない」
それだけ言うと、プラシドはまた車椅子を押して五人の前から去ってしまう。
なにかのトリガーだったのか、それを期に表情に輝きが戻るセシリアとラウラとルチアーノの三人。
残りの二人こと鈴とシャルルはあまり表情が晴れない。
「箒さんに喝を入れるのはお二人のお仕事ですわね」
楽しそうにそういうセシリアを見て、ため息をつく鈴と少し驚きながらも頷くシャルル。
アレに勝つためにも、自分たちには彼女が、彼が、みんなが必要なのだ。
だからこそ五人の少女と一人の男は今ここで立ち上がったのだから……。
◇◇◇◇◇◇
それから少しした後、旅館から少し離れた場所にプラシドがいた。
車椅子の彼の横に立つのは束であり、たった今ルチアーノが軽く走ってきたところだ。
先ほどと同じ、いや一人が足りない状態であの男に挑もうとプラシドはしている。
「箒ちゃんは大丈夫みたい」
そんな言葉に、頷く束。
「ふん、でなければこちらが困る」
「行かなくてよかったの?」
そんな束の言葉に同意と言わんばかりの表情で頷くルチアーノだが、プラシドはいつものように不敵に笑うだけだ。
何かおかしいことを言っただろうかと思うルチアーノだが、プラシドはそういう人間なのだから気にする必要もない。
こちらのプラシドにも慣れてきて、ルチアーノもその他の生徒たちも扱いには困らない。
「アイツに言葉をかけるのは俺じゃなく“織斑一夏”だ。そして言葉をかけることがあってもしてもそれは“俺じゃない”のは間違いない」
そんな言葉に、頷いたルチアーノと束。
振り返った束が腕に
二人の視界に映るのは束の背中のみだ。
「頼んだぞ束」
「任せといてよ。早く終わらせたらご褒美もあげるからね♪」
「それはホセに言え。いくぞルチアーノ!」
「ああプラシド!」
プラシドの目の前に量子化されていたD・ホイールことT・666が現れる。
壊れるのを見越してもう一台作っていた束には感服せざるをえないだろう。
しかしそんな暇はない。プラシドは下半身を変形させるとT・666と合体する。
「うおぉぉっ!!」
いつも通りのポーズと共に合体したプラシドが走りさり、そのあとをスキエルを纏ったルチアーノが追っていく。
そこに残るのは束と『ローブをかぶった一人の男』のみだった。
腕に浮かぶのは『猿の地上絵』をかたどった痣。
時間稼ぎ? 違う。束はこの命懸けの
究極体となったプラシドは上空のルチアーノと共に男の元へと向かう。
高速道路へと上がり、速度をどんどんと上げていけば男の後ろ姿が見えた。
プラシドに追い抜かされる前にスピードを上げる男だが、究極体のプラシドの方が早い。
遠くでは箒たちと銀の福音が戦っているのが何度も閃光が見える。
「懲りない男だな、プラシド・イリアステル!」
「貴様ごときに負けたというのではイリアステルの三皇帝の名折れだからな、貴様ごとき倒すことなど造作もない! いけスキエル!」
そんな声と共に、スキエルがプラシドの上空を飛び、先と同じくゴーレムと戦う。
命懸けのレースをする男とプラシドを尻目にスキエルにて上空を飛び回りゴーレム二機を相手に飛ぶ。
二機のゴーレムが攻撃を放つがスキエルの機動性をもってすれば避けるのは苦もなく、軽く体をひねって攻撃を避けながらも、左腕のスキエルA3にて敵を撃つ。
その攻撃は充分な威力であり、ゴーレムの腕を撃ち落とした。
これならば大して時間を取ることもなく箒たちの援護にいけそうだと、笑みを浮かべた。
海上の高速道路を走るプラシドと男の二人。
男を追いながらプラシドは手より光弾を放つが当たることはない。
だからこそプラシドは、左腕にワイゼルAを纏った。
さらにスピードを挙げて男の右側にまわると腕を振るう。
「ふん!」
男は右腕につけた
バイクを運転しながら戦うという奇妙なことをする二人だが、バイクと合体しているプラシドの方がよほど奇妙である。
何度も刃を振るうプラシドだがすべてはことごとく防がれていく。
『プラシド!』
ルチアーノからの通信。すでにゴーレムを片付けて箒たちの援護に向かったのだろう。
攻防を一端やめてから、プラシドが通信に出る。
「なんだ!」
『
「貴様らだけでなんとかならんのか!」
『なったら通信なんかしてないっつ~の! うわぁっ!』
それにて通信が切断された。
目の前の男を倒さなければこれからさらなる災厄すらも降りかかるだろう。
しかし、不毛な戦いを続ければルチアーノたちが危ない。
それでもプラシドは男との戦いを続けるという選択肢を選ぶのか……。
「ふん、これを使わせるとはな……」
そう言うと、プラシドと男の真下に∞の模様が浮かび上がる。
それを見た男は明らかな動揺を見せた。
笑みを浮かべるプラシドが左手に
プラシドが出した答えは肉弾戦などではなかった。
正真正銘、真っ向からの―――
◇◇◇◇◇◇
日本の領空、そこにいくつもの閃光が奔る。
一方は銀の福音ことシルバリオ・ゴスペル。
そしてもう一方は紅。
「はあぁぁぁっ!」
ふた振りの刀を振るう紅椿を駆る箒と、それに相打つ銀の福音。
「一夏、今だ!」
「おう!」
少し離れた場所から飛んでくるのは先ほどやってきた一夏。
白式のセカンドシフトである雪羅にて銀の福音を落とそうと飛ぶが、それを察知した銀の福音は即座に箒から離れて一夏と距離を取ろうと離れる。
しかし逃さないと言わんばかりのスピードで銀の福音を追う一夏。
セカンドシフトの銀の福音は6枚の翼からエネルギー弾を放つが、それらをさばいて一夏は銀の福音と何度もぶつかり合う。
「ラウラ、頼む!」
そんな声と共に、下にある小さな島からレールガンを放つラウラだが、避けられた。
しかし目的はそちらではなく、あくまでも陽動であり、だからこそ銀の福音がラウラの方を見ただけで良いのだ。
その一瞬の隙をついて斬りかかる一夏だが避けられ、ラウラのレールガンも放たれようが避けられ、挙句に銀の福音の反撃までくらってしまう。
次はセシリアがスターライトmkⅢにて銀の福音を何度も撃つ。
「私はここにおりましてよ!」
「ヒャァハハハハっ!」
笑い声と共に放たれるビームが銀の福音へと放たれるがかするだけで大したダメージにはならない。
さらには龍砲まで放たれるが、それでも落ちることはないのはそれほどの性能だという証。
皮肉にも従来の性能を圧倒するというステータスは正銘されている。
「一夏、今よ!」
そんな鈴の声と共に、銀の福音は大量のエネルギー弾を放つ。
エネルギーの雨に飲み込まれそうな鈴を助けたのはシャルロットだった。
「一夏急いで! もうもたない!」
海上にはエネルギー弾のせいで水蒸気。
一切の音がやんだかと思われた瞬間、風を切る音が聞こえ銀の福音はそちらを向く。
飛ぶのは一夏であり、右腕を振りかぶり銀の福音へと飛ぶ。
「今度は、逃がさねぇ!!」
銀の福音は寸前のところでその腕を回避。体を逸らして避けたので一夏都銀の福音は至近距離。
少しばかり離れようとする一夏だが、翼にエネルギーが溜まっていくのがわかる。
もう、終わりかと思われた瞬間、一筋の光と共に銀の福音の翼が切り裂かれた。
「フハハハハッ! 油断したな、この俺がいるこをと忘れていたのが貴様の運の尽きだ!」
そう言いながら翼を斬った本人ことワイゼルを纏ったプラシドは上空へと上がる。
つまりはそういうことだろうと、理解した一夏はすぐに右腕を振りかぶり銀の福音へとぶつけ、そのまま加速する。
銀の福音のシールドエネルギーが削られていき、そのまま島の浜辺へと銀の福音をぶつける。
「うおおぉぉぉっ!!」
シールドエネルギーが減っていく中、一夏の首へと銀の福音が腕を伸ばすが、その腕は飛んできたプラシドが切断した。
見事にIS部分の腕だけ切り裂いたプラシド。これで手が一夏へと届くことなく、シールドエネルギーはゼロ。
立ち上がる一夏と、隣りのプラシド。
降りてきた箒たち。
「終わったな……」
「ああ……」
瞬間―――銀の福音が再び動きだした。
驚愕する面々が同時に背後へと飛ぶと。
浜辺に立ち上がった銀の福音から排出されるように浜辺に倒れるナターシャ・ファイルス。
そこに立つのはただの機械、なのだが独特の威圧感があった。
突如、紫色に色を変える銀の福音。
「まさかダークシグナーがなにか!」
そう言ったプラシドの方を見る一夏。
「これが終わったら説明してやる。今は距離を取るぞ!」
プラシドの言葉に面々はその銀の福音から距離をとった。
再び飛び上がった銀の福音はその紫色のビームの翼の形を変える。
翼に誰もが見覚えがあった。知らないものはいないであろうナスカの地上絵。
そのコンドルの地上絵の翼だった。
黒と紫の二色へと変わった銀の福音は翼を広げて再び先ほどのようなエネルギー弾を撃つ。
「くっ!」
一夏やプラシドたちが同時に散開して攻撃を避けるが、もう一度銀の福音を倒すだけのエネルギーが彼らには無かった。
「だけど、こんなところで終わってたまるかあぁぁぁぁぁぁっ!!」
最高速度を出して、一夏が飛ぶ。
「うおぉぉぉぉっ!!」
ビームの雨をかいくぐる一夏だったが、銀の福音が正面にエネルギーの凝縮された玉を作る。
「一夏!」
箒やシャルロットの声に耳をかしながらも、ここで引くわけにはいかないと飛ぶ一夏。
だが瞬間、彼の意識は一瞬だけ消える。
先ほど、起きる前に見た夢のような、そんな空間に立つ一夏。
たった今まで戦っていた自分がなぜこんなところにいるかわけがわからなかった。
落とされた記憶はない。
―――恐るな。自分の
ふと、声が聞こえた。
「風とひとつ?」
―――そう、できるはずだ。
一瞬―――目の前に映る光景は、エネルギーの玉をチャージしながらも後方へと下がっていく銀の福音。
そして自分は加速しどんどんと速度を上げていくが、彼が銀の福音へと到達するよりエネルギー砲が放たれる方が早いだろう。
それでも加速した一夏。
彼の右腕に赤き龍の痣が浮かび上がり、輝。
同時に、白式の姿は以前のようにスターダスト・ドラゴンのように変わっていく。
「一夏下がりなさい!」
「一夏ァ!」
鈴とシャルロットの声も無視して、そのまま彼は―――消える。
「消えたッ!?」
驚愕する箒だが、銀の福音のエネルギー砲が放たれた。
それは誰にも当たることはない。もちろん消えた一夏にも当たらず、銀の福音は周囲を見渡す。
プラシドも、誰も動くことはない。
笑みを浮かべるプラシド。
昨晩のプラシドのように、空間を裂いて現れる一夏。
驚愕する面々。一夏の姿はスターダストよりも機械っぽい形へと変わっていた。
背中から伸びる二つのウイング。白式のセカンドシフトと相まって神々しさすら感じるフォルム。
「見えた……水のひとしずく」
そうつぶやいた一夏が、飛ぶ。
銀の福音がビームを放つ。大量のそれらを見て、回避するために加速する一夏だがその速度は紅椿と同じかそれ以上。
プラシドと一夏が同時に銀の福音へと攻撃をしかけようとするが、急加速して避けようとする銀の福音の加速先にシャルロットがマシンガンを乱射する。
止まった銀の福音を一夏が捉えようとするが、翼から放たれるエネルギー弾に再び足止めされた。
「行きますわ! レッド・ティアーズ!」
そんな声と共にセシリアのブルー・ティアーズが赤へと変わった。
「えぇい! 私だってシグナーなんだから!」
鈴の右腕の痣が輝き、甲龍のは黒へと変わり機械の翼が生える。
龍砲が消えて、翼に龍砲が装備されることによってその姿はスリムになった。
シグナーたちの変わりように驚きながらもそれを使えぬ自分たちに焦りを覚えるシャルロットやラウラやルチアーノ。
だが今は戦うだけだと援護に徹することにした三人は銀の福音へと射撃を開始する。
箒もまた第四世代だがあの四人に任せようと撃つ。
「行くわよ!
龍砲から放たれた炎を二枚の翼でガードしながらも下がっていく銀の福音。
翼を広げた瞬間、プラシドが腕のブレードにてその翼の一枚を切り裂く。
「フハハハッ! この程度か!」
「アブソリュート・パワー・フォース!!」
叫ぶような声と共にセシリアがその炎を纏った拳にて銀の福音を吹き飛ばす。
殴られたことによって吹き飛ばされ海へと落ちようとする銀の福音はなんとか体勢を整えると飛び上がる。
今までのエネルギー弾の数とは比にならないほどのエネルギー弾が放たれて、全員がそれぞれあたってしまう。
再び劣勢へと立たされる面々だが、一夏の受けた攻撃は少なく、ほかの面々よりも動ける。
「まだだ、まだ確実に攻撃を当てられる状況じゃないと!」
そう言い飛ぶ一夏だったが、銀の福音は先ほどと同じくエネルギー弾を一夏へ向かって撃つ。
先ほどのエネルギー弾は拡散してそれぞれに当たったが今度は一夏だけを狙っている。
直撃コースとして撃たれたその攻撃。
だが―――そのエネルギー弾が当たることはなかった。理由はかき消されたからだ。
「え?」
困惑する一夏だが、ほかの面々も同じである。
大量のエネルギー弾をかき消したのは巨大なビーム。
そして、かき消したその巨大なビームが放たれたのは海からで、あり―――この中の面々に撃てるだけの者はいない。
だが一人だけ、一夏や皆は知っている。
そんな超強力な攻撃を撃てる仲間を……。
海の中から現れるのはオレンジ色の巨体。
―――機皇帝グランエル∞
声と共に現れたのは―――間違いなくグランエルでありホセ。
全員の表情に笑みが浮かび上がり、新品同然となっているグランエルにてホセは左腕のキャノンを撃つ。
銀の福音がそれを回避するが、背後から迫ったプラシドがもう一枚の翼を切り裂き、これにて攻撃は少なくなる。
―――機皇帝ワイゼル∞
再び生え変わる二枚の翼。
それでも充分だ。動きを遅くすることには成功したのだから……。
上空から放たれたビームに、銀の福音の翼が再び破壊される。
撃ったのは上空にてスキエルA5を装備したルチアーノ。
―――機皇帝スキエル∞
そして、その銀の福音へと飛ぶ一夏。
輝きを増したその姿は、五つへと変わった。
プラシドは目を細める。
その姿はまさしく彼のライバルとも言える存在、不動遊星が使ったシューティング・スター・ドラゴンの姿に類似していた。
「シューティング・ミラージュ!!」
叫び声と共に、五人の一夏が銀の福音へとその右腕を叩きつけた。
バラバラとまではいかないものの手足を失い胸を貫かれた銀の福音は機能を停止どころか、動かない。
重要な部分は破壊していないと思いたいが、破壊していてもこの際どうでもいい。
グランエルが上空へと上がり、その姿を消す。
『ふん、どこで油を売っていた……』
―――少しばかり、友に会っていたよ。
『……そうか』
そう言って彼は近くの島の浜辺に降りる。全員が浜辺に降りた。
昏睡しているナターシャ・ファイルスを抱える一夏。
ボロボロの銀の福音を持つシャルロット。
シグナーたちの機体も元へと戻った。
「終わったな」
つぶやいたプラシド。
「ようやくな……」
まだダークシグナーとの戦いは終わってなどいない。
プラシドも決闘で決着をつけたが、あのダークシグナーが消滅しただけだ。
そしてあのダークシグナーは自らが倒されることを考慮して銀の福音を強化していた。
これからもダークシグナーと叩うということを思うと、プラシドはまだまだ気が重くなる。
でも、それでも今回の件は……これでおしまいだ。
◇◇◇◇◇◇
朝、旅館前にて専用機持ちが計八人が立っていた。
そしてその八人の前に立つのは千冬と麻耶。
「作戦完了! と言いたいところだが、お前たちは重大な重大な違反を起こした」
全員が揃って返事をする。
覚悟はできていたことだと全員理不尽は感じない。
待機命令無視で突っ走ったのだから当然。
「帰ったらすぐ、反省文の提出だ……懲罰用の特別トレーニングも用意してあるから、そのつもりでいろ」
そんな千冬に麻耶が物申す。
「あ、あの織斑先生、もうそろそろこのへんで、みんな疲れているはずですし」
「……ふむ、しかしまぁ……良くやった」
千冬の言葉に、全員が意外そうな表情をする。
わかっていたプラシドことホセだが、やはり驚いてしまう。
というより褒められるのが妙に嬉しく感じる。
意外、というのがわかっているのか千冬は視線を逸らす。
「あぁ、全員よく帰ってきたな……今日はゆっくり休め」
そんな言葉に意外すぎて全員それから数分ほど動かなかった。
これにてまさしく一件落着、全員気を張ることなくのんびりとできる。
専用機持ち六人が食事をする中、その周囲には生徒が集まっていた。
銀の福音のことを聞きたいのだろうけれど、専用機持ちが話すことは一切できない。
谷本癒子、布仏本音、相川清香、鷹月静寐が色々と聞くが、ラウラの『監視がつく』の一言でそれぞれ散る。
だが残っている鷹月静寐は『それでもいいかも』とか言っているが、プラシドの言葉に下がっていった。
「結局いろいろとわからないままですからね」
ダークシグナーやシグナーのことを報告するわけにもいかず。
結局いろいろと『不思議なことが起こった』でことと次第は終了である。
そもそも話したところで信じられないだろう。
それでも疑問はいくつか残る。
銀の福音の暴走を起こしたのはおそらくダークシグナーだけの仕業ではないということ、彼らにも協力者がいるということ……。
「まったく、これから大変だな」
「本当ね。帰ったら帰ったで、反省文か~」
鈴がため息をついて、シャルロットが苦笑する。
ラウラは『当然だ』と言っているがそれがわかっていても面倒なものは面倒なのだ。
「そういえば一夏さんと箒さんはどこに?」
わずかに空気が凍る。
プラシドは『これが覇気か……』と鈴とシャルロットから出る空気を感じ取った。
しかしこんな空気の中、食事とは酷なものよとプラシドは真実話すことにする。
「一夏はわからないが、箒は束と話をしているのだろう。俺が少し話をしろと言っておいたからな」
そんな言葉に空気の圧はなくなりまたわいわいとしだす。
ふと、プラシドは色々思い出した。
聞いていないことは山ほどある。
◇◇◇◇◇◇
海岸にて、篠ノ之箒と篠ノ之束の姉妹二人。
呼んだのは箒の方であり、理由は姉妹二人で久しぶりに話したかったから、とかいうわけではない。
ただたんに友人であるプラシドから『たまには話したらどうだ?』と言われたからだ。
別に話題もなにもないのに誘ってしまい、今では後悔している。
だが、束はそれをわかっているというように笑うのみ。
「紅椿は箒ちゃんのお願いで持ってきたものだよ」
「……は、はあ」
突然なにを? と小首をかしげて返事をする箒。
「今日は箒ちゃんの誕生日でしょ? だからこれをあげちゃうのだ!」
そう言って束が何かを飛ばした。
受け取った箒には飛んできた時点でそれがカードだということがわかっていて、渡されたそのカードを見る。
驚愕と共に、束を見たが彼女はただ笑顔を浮かべているのみ。
「これは?」
「世界に4枚しかないカードの内の3枚だよ! それと、そのカードのためのカード! 誕生日プレゼントだよ♪」
そう言った束、そしてそれを受け取った箒はそのカードを見る。
古臭いカードだが、不思議と使ってみたいと思う。
そして箒は束の方を見たが、すでにそこに束は居なかった。
彼女は少しだけ頬を綻ばせて笑うと、踵を返してその場から歩き去る。
プラシドが夜、旅館から出て海岸へと向かった。
砂浜の上に立つウサギのようなシルエットを視界におさめて彼は歩いてその隣りに立つ。
別に久しぶりというわけでもない二人だが、やけに久しく会うような気がしてしまった。
数ヶ月前まではいつも一緒にいたのだから数日会えないだけで久しく思うのは当然かもしれない。
「今回の件に関しては多分だけど私の隠れ家を襲撃した人達が一枚噛んでるね! しっかりと調べないとねぇっ!!」
「なんでそんなに嬉しそうなんだ?」
「そりゃあねぇ、みんなげ協力して何かを叩き潰すなんて嬉しくない方がおかしいよぉ♪」
その場でウサギのようにピョンピョンと跳ぶ束。
「さて、とりあえず私は色々調べなきゃならないから……これはセッシーにあげてよ。量子化してあるホイール・オブ・フォーチュンの待機フォーム」
そう言って渡されたのは白いネックレス。
「セシリアに? というよりなんでそんなセシリアに興味が……」
「そりゃ本当のホイール・オブ・フォーチュンの乗り手と同じ、龍の痣とシグナーの龍を使うセッシーには興味も出るよ。シグナーになりたいね私も」
「シグナーじゃなくても良いのさ、誰もが
そう言ってただ海を見る彼を、少し驚いたような表情をした束は、少し間を空けて笑い出した。
「ぷっ……ハハハハハッ! アハハハハハッ! 似合わな~い!」
大爆笑する束から顔を逸らすプラシド。
「そ、それでもお前はダークシグナー一人をもう倒したんだからな」
自分でも思っていたからこそ、紅い顔で気まずそうな表情なのだろう。
こういうキザな台詞をいうのはプラシド担当だ。
「なあ束……?」
すでに、束は居なくなっていた。
声をかけたプラシドは浜辺に一人きり、彼は剣を抜き放ち、空に掲げた。
銀色の刀身は月光を反射する。
「揃った……とうとう揃ったぞプラシド!」
『ずいぶん嬉しそうだな』
「あぁ、これでいい。全てが揃ったんだ。ダークシグナーを倒すさ、必ずな!」
そんな宣言と共に、彼は彼のままはじめて剣を振るった。
その一閃は空を切り裂き地を抉る。砂浜の砂はその質上すぐに元通りになるが、プラシドにとってはそんなことはどうでもいい。
彼の剣には彼自身であるグランエルも宿っている。
「フッ、ゴーレム事件も銀の福音事件もすべては第三者の仕業というわけか、ならば我々の敵は自然と見えてくる。敵はダークシグナーとそれに協力する者たち、さあ、全てをこの機皇帝で破壊してみせよう」
『ふん、言われるまでもないな、お前も覚悟しておけよホセ』
彼は口元に笑みを浮かべながら月を見て笑う。
その姿はまさしくイリアステルの三皇帝というにふさわしく、不敵で大胆、未来を守るため、新たな幸せな未来を築くために戦っていた彼らの仲間といえるだろう。
彼は彼の守るべき友を守るために戦い、彼の相棒と言える存在は未来のために戦っていく。
絆で結ばれた仲間のために、彼は
あとがき
銀の福音終了と共に、アニメ版は終了でござる!
こっからどうするか悩みどころでござるよ。
まぁとりあえず決闘大会や箒の新カードなど消化待ちのものばかりでござるからな!
では、次回もお楽しみにしていただければまさに僥倖でござる!!