機皇帝ワイゼル∞インフィニティ・ストラトス   作:王・オブ・王

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第八話 新たな転校生 プラシドの心眼と鬼っ子

 翌日、学園にて一組の教壇に立つ山田真耶。

 静かになった生徒たちを一瞥する織斑千冬は頷いて廊下側を見る。

 プラシドはわずかに眉を潜めた。

 ―――転校生? 些か早すぎないか、確か転校生は代表候補戦が終わってからじゃ……。

 そんなことを考えていると、山田真耶が口を開く。

 

「今日はなんと、転校生を紹介します!」

 

 そんな声と共に、入ってきた一人の―――少女。

 赤い長髪をなびかせて、本当に同い年かと思うほどの小柄な少女がIS学園の制服をまとって現れる。

 ―――なん……だと……?

 プラシドに憑いている彼は驚愕のあまり、動揺を抑えきれていなかった。

 もちろん、体の中にいるプラシド本人も同じく、という感じだ。

 

「ルチアーノ・トレントです。よろしくお願いします」

 

 軽く一礼して笑顔を見せる転校生『ルチアーノ』を見て、立ち上がったのは彼ではなく“プラシド”だった。

 クラス中の全員、真耶と千冬の視線を浴びたまま、プラシドは自分以外全てが見えていないようにルチアーノの前に立つ。

 しっかりとその表情を見ると、その表情は怯えているようにも見えるが“プラシドたち”の知っているルチアーノはそんな表情は見せない。

 自分たちの知っているルチアーノと違う所と言えば、前髪を下ろしてるというところと、女性の服装をしているということだろう。

 

「貴様……本当に女か?」

 

 顔を近づけたプラシドが、そう聞いた。

 瞬間、頬を張られる。

 

「ひ、ひどいよ……たしかに胸とかないけど、ボクはしっかり女の子だよ」

 

 プラシドを睨みつけるルチアーノ。

 

「貴様ッ……」

 

 ―――馬鹿、いきなり聞く奴があるか!

 

『黙っていろ!』

 

 プラシドはルチアーノのことを睨みつけるが、直後、後頭部を殴られた。

 背後からの強襲、鈍痛に膝を地に付けるプラシドが背後を向くと、そこにはいつも通りの表情である千冬。

 初めて彼女にぶたれたのであろうプラシドはその痛みに顔をゆがめる。

 

「今のはお前が悪いな」

 

 プラシドの襟首を掴み立ち上がらせる千冬は、そのままプラシドを席へと座らせる。

 そしてため息をつくと、クラス中を見渡す千冬。

 唖然としていたクラスの雰囲気は決して消える事はない。

 とりあえずプラシドのことは置いておくしかあるまいと、千冬はルチアーノの隣に立つ。

 

「さてこの後は三組との合同IS実習だ。各自着替えて第一グラウンドに集合、ルチアーノの面倒は鷹月、お前が見てやれ」

 

「はい」

 

 プラシドの後ろの席にいる鷹月 静寐(たかづき しずね)の返事を聞くと、頷く千冬。

 ルチアーノの席は鷹月静音の横の席、つまりプラシドの斜め後ろだ。

 そして、千冬は手を一度叩く。

 

「解散!」

 

 そして、全員が時間内に第一グラウンドに集合するために集まるために着替えを開始しようとする。

 先ほどから表に出ているプラシドは相変わらずの鋭い目つきで一度ルチアーノを見た。

 恐るように着替えの入ったバックを胸に抱くルチアーノ。

 それに気づいてか、一夏がプラシドの腕を掴んで引っ張る。

 

「女子が着替え始める前に行くぞ!」

 

「待て、俺は奴に話が! おのれっ!」

 

 一夏に連れて行かれるプラシド。

 

 

 

 アリーナの更衣室に着くまでは離してくれず、結局プラシドはアリーナの更衣室まで来ることになった。

 

「なぜ邪魔をした織斑一夏!」

 

「これ以上アイツに絡むなって、お前かなりえげつないまねしたぞ」

 

 それはきっと、女子生徒の制服をきてどこからどう見ても女子生徒にしか見えないルチアーノのことを女か疑ったからだろう。

 あげくに、殴られた後に睨みつけて、怯えさせるという所業に出たという、とてもいつものプラシドとは思えない行為ばかりだ。

 

「ふん……」

 

「どっからどうみてあの子が男に見えたんだよ」

 

「似たやつを知っているだけだ」

 

 こういう時のプラシドにしてはやけにシリアスな雰囲気をしていることに気づいて、一夏は軽く笑みを浮かべる。

 別にただ喧嘩を売るとかいうわけでなく、なにかを思っているというのは一夏にだってわかった。

 けれど、あまりあのルチアーノに関わらせるのは良くないだろう。

 そう理解した一夏はなるべくプラシドの暴走をとめようと思った。

 学園で唯一の男友達なのだから……。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 実習は今回もいつもと同じように数機のISを用意して、順番に使用することになる。

 専用機持ちは一組だけで四人、代表候補生であるセシリア、一夏、プラシド、そしてルチアーノだ。

 この四人は専用機持ちとして分かれて各自他生徒へとISを教える義務がある。

 チーム分けされ、四人+千冬の計五チームで分かれた。

 だからこそ四人はそれぞれ授業中に会話することもできないが、それといって問題はないと言える。

 

「さて、チームの人数がずいぶんまばらだな」

 

 織斑千冬の言葉だが、事実だった。

 一夏の所には十数名、織斑千冬の所にもそれより少し少ないくらいだが十名ほどで、ルチアーノの所もそれなりに多いが、プラシドのチームはいささか少ない。

 まぁ、それも全て“今日のプラシド”が纏っている空気などにもよるのだろう。

 真の意味での“プラシド”がそのISスーツを纏っていれば完全に“あのプラシド”である。

 それも全て、プラシドの中にいる彼ぐらいにしかわからないのであろうけれど……。

 

 実習が始まると、各チームはそれぞれ練習を初めて行く。

 プラシドが立ち上がったままの打鉄の隣に立つ。

 

「さぁ、踊って見せろ!」

 

 ―――馬鹿、そんな言い方があるか!

 

『まったくやかましいやつだ。お前はいつもうるさいなホセ』

 

 色々な意味をふくめての言葉だろうけれど、彼と彼とでは別人だ。

 とりあえず、プラシドが彼へと変わると、プラシドの周囲にあった棘棘しい雰囲気はなくなった。

 ふぅ、と一息をつくプラシドはなんとなくだが、周囲から見れば爽やかな風にも思える。

 

「さて、今のは忘れて……ゆっくりやろう」

 

 そんなプラシドの声と共に、先に前に出たのは鷹月静寐だった。

 彼の“かつての記憶”から言わせれば、彼女は確かクラスのしっかりもの。それでいて一夏にいろいろ教えていた記憶がある。

 ―――とりあえず打鉄に乗ってもらわなければならないが、どこのどいつだ。立ったまま打鉄を降りたのは……。

 次に乗る相手のことを考えてしゃがんだままISを渡すのが量産型ISの基本である。

 ワイゼルの本体である胸部とワイゼルC(キャリア)だけを出現させて、彼は生身の手をかるく静寐に差し出した。

 静寐は頬を赤らめながらプラシドの手を取ると、彼は彼女を勢い良く持ち上げてお姫様抱っこ。

 彼がそんな行為を気にもせずやっているのは目の前の打鉄を立ったままにした誰かへの苛立ちのせいであった。

 

「よっと」

 

 そんな掛け声と共に静寐を打鉄に搭乗させる。

 最初のうちはよくやる失敗で、プラシドも束にISの練習をさせてもらっていたときによく言われていた。

 ―――さて、これで歩いてもらうわけだが……。付き添ったほうがいいか、危なっかしい。

 

「じゃあ、歩いてみるか」

 

「あ、うん」

 

 静寐がゆっくりと歩き出すが、ぎこちない歩きに対して、隣のプラシドはスムーズに歩いていく。

 隣を歩くプラシドが、迷ったような表情をしながらも聞く。

 

「ルチアーノって、女だったか?」

 

 一緒に着替えただろ? と言わなくても静寐は理解したのだろう。

 苦笑しながらも、頷いた。

 

「そうか……」

 

「でも、なんで?」

 

「昔の男友達にそっくりだったんだ……」

 

 そんな言葉に、驚きながらも攻めるような目をする静寐。

 意味を理解しながらも、プラシドは何も答えられずにいる。

 何かを答えなければならない状況なのは彼自身も理解していただろう。

 

「だったら後でしっかりルチアーノちゃんに謝らないとね?」

 

「わかっている」

 

 そう、つぶやいた彼だったが、それだけで充分という風に静寐は頷く。

 ―――なんだ、短時間でずいぶん気に入られたようだな、ルチアーノ。

 クラスメイトとそんなにも早く打ち解けられた“彼女”を微笑ましく思い、彼は笑みを浮かべた。

 それを至近距離で見ていた静寐には、いささか破壊力が高かったとかなんとか……。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 クラス代表候補戦が近いにもかかわらず、一夏の強化をしなくても良いのだろうか?

 まぁ俺のちょっとした愚痴である。こんな時にそんなことをしている暇などあるのだろうか?

 正直、一組として舐められるわけにもいかないから俺はさっさと一夏を強化したい。

 強化しなくてもあまり心配していないというのも事実だが『進化する獣』にも無茶のしすぎは良くないだろう。

 だが、とりあえずは今やるべきことを思い返す。

 今日の授業が終わり、俺は織斑先生にお願いされたプリント運びを手伝い、その後、クラスメイトからルチアーノの居場所を聞き、第二アリーナへと向かうことになり……俺は第二アリーナへとやってきた。

 

「ルチアーノ・トレント、少し良いか?」

 

 そう声をかけると、俺に声をかけられた赤い髪の“少女”はどこか驚いたような、怯えたような様子を見せる。

 まったくもって“俺たち”の知っているルチアーノとは正反対の性格であった。

 こんな子がアイツのわけがない。

 一緒にいた鷹月静寐も俺が謝罪しようとしているとわかってか笑顔で頷く。

 

「あのさ、ルチアーノさんに言いたいことがあるんだ。その……」

 

 少し深呼吸。こうして面と向かって謝罪するというのは小っ恥ずかしい。

 

「お前を斬る。ISを用意しろ!」

 

 ―――おいぃぃィィッ!!?

 俺の意思を反して、プラシドが勝手に出てきて勝手に宣言しやがった。このバカチンがぁっ!

 あぁ、もうだめだぁ。おしまいだぁっ!

 

『黙れ!』

 

 ―――黙ってられっか畜生め! この下っ端! 下っ端! 腹筋崩壊!

 

『黙っていろと言っているのがわからんのかこのムシケラが!』

 

 俺はなんも言えない。ここまで綺麗に逆ギレされては俺は何も言えない。

 じゃあこれをなんとかしてくれるよね。このプラシドくんはさ!

 俺なりに、考えて無理だ。これは俺あれですね……イジメが起きるフラグ。

 見てみろよあの鷹月さんの顔、死んだ魚みたいになってんじゃん……。

 

「さぁどうした! 貴様も専用機もちの端くれだろう!」

 

「ぼ、ボクだってわかってないんだよ。なんで“こんなIS”が家に送られてきたのか、黒い服着た人が沢山着て、それでいつのまにかIS学園に入学させられて……」

 

 なに? なんだかきな臭くなってきたぞ……これは。

 ―――プラシド、今回はお前の好きにするがいい。

 

『今のはホセっぽかったぜ』

 

 ―――やかましい、嬉しくないわ。

 珍しく軽口を叩くプラシドをいさめて、ルチアーノを俺たちは見る。

 鷹月静寐は自分の立ち位置に困っているようだが、今更どうしようもないのはわかっているようだ。

 さぁ、早くISを取れ……ルチアーノ!!

 

「……ッ、スキエル!!」

 

 ルチアーノはその名を叫び、ISを展開した。

 輝き、一瞬の内に現れたのは青い装甲をまとったルチアーノだった。

 青い装甲はしっかりと従来のISのように手足を纏っているが、あきらかに異質なのはその胸部装甲。

 俺たちのIS“機皇帝”のワイゼルやグランエルと同じように、その胸には銀色の∞という装飾。

 背中には青い翼があり、頭部にも青いヘッドギア。そして青い尻尾のようなもの……その姿が彷彿させるものは、俺もプラシドも同じだ。

 

「機皇帝、スキエル!」

 

 これで判明した。コイツをつくって彼女の家に送りつけたのはこの世に一人しかいない。

 そして、なぜ彼女かは俺たちが説明した容姿と似ていて、名前が同じだったからとかそんな理由に間違いない。

 だが、雰囲気がおかしいことに気づくまでに時間は要さない。

 彼女が両腕を使って前髪をかきあげた。オールバックで少しだけたれた前髪、そしてプラシドの右目とは反対側、左側に装備された∞のマークが描かれた端末。

 

「ひぃやっははははッ! 威勢が良いじゃん!」

 

 ごめん、アイツそっくりのキチっぷりでした。

 ―――なんだこれはっ!! 全く意味がわからんぞ!

 

「やはりそれが貴様の本性か!」

 

 いや、本性だとはわかってたわけじゃないだろ。と言ってもプラシドは聞く耳持たずなのだろう。

 俺から言わせれば、驚愕というか意外というか、なんだ、これはいったいどうなっている!

 

「女、今からここは戦場になる。巻き込まれたくなければ逃げるんだな!」

 

 プラシドが叫ぶと、鷹月さんは我を取り戻し走ってアリーナを出て行く。

 まぁそれが正しいだろうな、今のプラシドもルチアーノも、危険なオーラしかしないから……。

 

「お前をライフ0にする!」

 

 プラシド、それ違う人の台詞! と言っても聞こえないだろう。

 ともかくライフってなんの話しだ。シールドエネルギーだろ? 

 てか、シールドエネルギー0になれば両方止まってくれるよな、そうだよな、そうだって言ってくれ。

 俺の願望も虚しく、戦いが始まるのかプラシドもワイゼルを展開して構える。

 

決闘(デュエル)!」

 

「ひぃやっハっハッハっハッ!」

 

 そして、双方が動きだした。

 鷹月静寐はすでに教員に報告に行ったんだろうぜ。

 それを意識している“俺”だが、プラシドにもルチアーノにも伝える気がなかったのは、どこかこの戦いの結末というのを期待していたからなのだろうと思う。

 どちらが勝つか、その結果どうなるか、なにがどう変化するのか、まったく退屈しない日常の中、それ以上の刺激を求めてしまうのはきっと……“人間”としての本能だ。

 闘争本能自体もまた然り、けれどプラシドはきっと気づいていない。

 アイツが一番人間らしいということに……。

 

 

 

 




あとがき

さて、現れました転校生ルチアーノ!
とりあえず、これ以上語ることはなし。
では、拙者は続き執筆ということで、これにて!

次話をお楽しみにいただければ僥倖ッ!
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