定員割れなのに落ちたのでアカデミアぶっ潰します 作:家臣さん
※別小説の息抜きに好き勝手書いたものです
※リアル事情と別小説事情により、更新スピードはお察しです
※息抜きなのでかなり短めで完結すると思います
※息抜きなので伏線とかないです。鼻ほじりながら見る感じの小説だと思って頂ければ幸いです
それでは本編をどうぞ。
『拝啓、“
このような文面からスタートする一通の手紙を握って、“加賀 千里”はとある試験会場の前に立ち尽くしていた。前方から吹き抜ける風は肌を打つように冷たいが、彼から吹き出る冷や汗を散らすには丁度いい助けになっている。
千里は一切視線をずらすことなく、首を垂れて手紙を凝視する。止まぬ風が手紙を捲り上げ、文字を読み進めることを妨害していた。それでもなお石像のように身動き一つ取らない。動くのは両の眼のみ。
『貴方はこの世界に転生されることに相成りました。ただし、記憶は前世で貴方が死亡する時点の年齢から再開しています』
“転生”とは魂をそのままにして生まれ変わる事をいう。鏡があればもっと詳しく確認しようと思うが、現時点で判明している体の箇所だけを見れば今までと何ら変わらない。中肉中背の男だ。
『貴方の年齢からスタートさせた方が都合がいいと判断したので。重ねての勝手、お許しください』
やたらと遜った文章で、加えて達筆だ。その頓珍漢な内容に目を瞑りさえすればスラスラと読める。
『一つ、この世界で貴方に果たして頂きたい任務があります。詳しくは別紙に記載しておりますので、何卒よろしくお願いします』
手紙を支えていた親指と人差し指を滑らすと2枚目の紙が後ろ側から姿を見せる。比べ物にならない分量で、正直に言うと読む気が失せた。
それよりも目に留まったのは1枚目の文末に書かれた送り主と思われる名前だった。
『――神』
送り主はきっと重度の中二病を患った哀れな者である。達筆であることも手伝って吹き出しそうになってしまったが、周りには何らの違和感もなく道を歩く同年代の人々がいるので我慢することにした。
「デュエルアカデミア入学試験受験票?」
誰にも聞こえないようなボリュームで書かれている文字の羅列を音読した。そのワードは何時か何処かで耳にしたことがある。千里が住んでいた世界で人気を博していた遊戯王デュエル・モンスターズのアニメ内に登場するデュエリストの為の専門学校だ。
とても信じられる話ではないため、千里は今一度、1枚目の手紙を読み直す。
「……前世で死んだ? 俺が?」
確かに
「なんで俺こんなに冷静なんだろう」
実感が沸かないからに違いない。行動している内に状況の整理も出来るだろう。
満を持して2枚目の用紙に目を通す。通しながら、漸く石像だった足は動き出した。同じ方向に歩いている者達はきっと目的地を同じくしている者達、すなわちアカデミアの入学志望者。
「いち、に、さん、し……あれ、少なくね?」
アニメでの設定はプロに進むために重要な超名門校だった筈だが、彼が目にした光景はやけに閑散としている。祭りの後のような虚しさと言えば適格かもしれない。
小さく嘆息交じりのため息を吐いた後で行動を再開しようとしたその刹那、後ろから聞き覚えの無い声が届く。天使のような澄んだ美声――
「あ、すみません……あなたも受験者ですか?」
「ああ。そうみたいですけど」
「良かった……ここであってるみたいですね」
ふんわりとした桃色の巻き髪からは、冷たい風に乗って甘い香りが届く。ぱっちりとした青い瞳は彼女の澄みきった印象を際立たせ、ほんのりと赤らむ唇と頬が色気を小出しに演出する。制服からは自己主張の強い胸が目立ち、袖から覗かれるのは細い指――
と、3行に渡って描写を行ったが、つまるところの絶世の美少女。
「自己紹介まだでしたね。“
「“加賀 千里”です」
身長差からあらわれる彼女の上目遣いは、千里の心を一瞬にして鷲掴みにした。こんなイベントが用意されているのなら、転生も悪くないではないか。
「一人で不安だったんです……あの、もしよかったら一緒に向かいませんか?」
「ああ、いいですよ」
斜に構えた反応をしたが、内心千里は心躍っていた。これはもしかすると、転生に伴う神様からの特典なのではないか。所謂“ヒロイン”なのではないか。神様ありがとう。
「その手紙は?」
「え? えーっと……親が激励の手紙を」
「ふふ……優しい親御さんなんですね」
笑った表情もまた輝かしい。が、そちらに気を取られすぎる前に神とやらに託された手紙を読み進めていく。
『もうお分かりかと存じますが、転生先の世界は
『すなわち、著しいレベルの低迷です。そしてそれが最も顕著なのが、そこアカデミアです』
『貴方には前世で培われたD・Mに関する知識やプレイングを駆使して頂き、アカデミアの水準向上に貢献して頂きたく思っております』
『貴方が使用する初期デッキはケースの中に入っております。入学試験についても、よほどのことがない限り合格できると思われます。それでは、ご検討をお祈り申し上げます』
――要約するとこのような形だ。
一人に頼むようなものではない気がするが、転生事情も何か一考するものがあるのだろうか。つまるところ自分はこの世界でアカデミアデュエリストの平均実力を底上げしろというのだ。
(……滅茶苦茶だ)
受験者がやけに少ないのも頷ける。最早ここは千里が見た誉れ高い名門校ではない。言うなれば、廃校寸前の弱小校らしい。
「どうしました?」
千里の呆気にとられた表情を察したか、下から覗き込むように久留巳が声をかけた。
「いや、ちょっと疲れで目眩が……」
「ええ?! 大丈夫ですか?! 大変、どうしよう……」
この子もこの世界では腕のあるデュエリストではない部類――
「あー。大丈夫です。そろそろ試験時間みたいだし、またあとで会いましょう」
「そ、そうですか? 分かりました……お互い頑張りましょうね!」
その一言を最後に、2人は一旦別れることになった。兎も角彼女に現を抜かす場合ではない。今はすべきことをせねばならない。
* * * * *
「出席番号40番で間違いないね?」
「はい」
総受験者数は何人なのだろう。辺りを見回しても、ギャラリー席は本当に疎らな人数しかいない。定員割れを疑うほどの寂れっぷりだった。
怪訝な表情を隠せない千里に対し、試験官は言葉を続ける。
「すまないな。形式上試験は実施しなければならないんだ」
「そ、そうですか」
彼の口ぶりを見ると、これはやはり定員割れを起こしている。“よほどの事が無い限り勝てる”という言葉の意味はこういうことだ。
早速気が楽になった千里は、慣れない手つきでデュエルディスクを展開した。
「「デュエル!!」」
千里 LP4000
試験官 LP4000
「俺の先攻です」
初期ライフ4000はアニメ準拠なのに、先行ドロー無しはOCG準拠と。エクゾディアデッキを使う身としては強烈な追い風だ。しかしどん底にまでアカデミアのレベルが落ちたというのが本当ならばこの程度のハンディキャップは痛くもかゆくもない……と信じたい。
「永続魔法《凡骨の意地》発動」
「ほう。いいカードを使うな」
デッキからカードをドローしたときにそれが通常モンスターならば更に1枚ドロー出来る永続魔法。これでエクゾディアを一気に引き込む戦術なのだろう。
(運ゲーかぁ……大丈夫かな。まぁ【エクゾディア】は大体運が絡むんだけど)
しかし今の手札にはすでに《封印されしエクゾディア》――つまり頭パーツが握られている。残りの四肢は全て通常モンスターであるから、《凡骨の意地》ですべて引ききる事も不可能ではない。
「よし。モンスターを裏守備でセットしてターン終了」
「私のターン。《シルバーフォング》を召喚する!」
「し、しるばーふぉんぐ?!」
銀色に煌めく毛並を持つ美しい牙獣……と言えば聞こえはいいが、実際は何の効果も持たない攻撃力1200のモンスター。まず普通のデッキには入らないカードだ。
(これってレベルが落ちたっていうよりカードプールが前時代なんじゃぁ……)
少しずつこの世界の全貌が露わになっていく。想像以上に酷い有様として。
「《シルバーフォング》で裏守備モンスターに攻撃!」
軽い足取りで、裏守備として表示されているカードに向かって突進していく。しかしその鋭い牙は見るも無残に砕けていった。
「俺がセットしていたのは《岩石の巨兵》。守備は2000です」
「む……やるな」
試験官 LP4000→3200
(なんだろう。この虚しさ。勝ってるのに)
千里の瞳には深い哀愁が籠っていた。健気に突進した《シルバーフォング》と、その攻撃力を信じて向かってきた試験官が哀れに思えてならない。デュエリスト養成所の入学試験でありながら、やってることは初期も初期の殴り合いだ。前世で繰り広げられたソリティア展開の応酬は、最早見る影もない。
「私はこのままターン終了」
「……俺のターン、ドロー」
だが、この世界に対する同情などしている余裕はない。自分に課せられた役割はこのアカデミアに入学し、前世で培った知識を使って名門校へと押し上げること。そのためにはこの程度の試練は軽くあしらわなければならない。
「引いたのは《プチリュウ》。更にドロー。《封印されし者の右腕》。ドロー。《砦を守る翼竜》。ドロー。《封印されし者の左足》。ドロー。……」
千里が最後に引いたカードは2枚目の《凡骨の意地》。2枚発動すれば2枚分のドローが可能になる。これはもう勝ったも同然だ。
「2枚目の《凡骨の意地》を発動し、モンスターを守備でセット。ターン終了」
「私のターンだ。……むぅ。その《岩石の巨兵》が突破できないな」
「まじかよ」――という言葉は試験官に聞こえてしまっただろうか。最早負ける要素が見つからない。この築き上げられたフラグを折るイベントも想像がつかない。
「このままターン終了しよう」
相手はエクゾディアを目にして焦っている筈だ。だがこの強固な壁(守備2000。効果なし)のおかげで千里のライフに傷一つつけることはできない。
「ドロー。引いたカードは《セイントバード》。更にドロー。《封印されし者の右足》」
――これで、あと1枚。確認はしていないが、デッキからして通常モンスター以外はほとんど入っていない筈であろうから、相当に運が悪くなければこの追加ドローでゲームエンドだ。心なしか試験官も諦観の表情。千里が試験官の立場であってもきっとデュエルディスクを床に叩き付けているに違いない。
「ドロー、ドロー、ドロー、ドロー、ドロー……」
言うなればこれは終焉へと向かうカウントダウン。いつ
そしてこの世界のデュエリストのレベルはしっかりと理解できた。自分一人で成せるとは思えない任務だったが、少しくらいならば貢献できそうである。それくらい酷いレベルだ。
折角この知識を使ってこの世界の英雄になるのならヒロイン候補とイチャコラする展開だって神様も許してくれるだろう。住みやすい世界で第二の人生を歩むことが出来るのならば、存外前世よりも幸せだ。
(そう思うとこれから楽しみになって来たな……)
「ドローッ!」
デッキが薄くなってきたところで、ついに目的のカードを引き当てた。今後の輝かしい未来に期待しながら、高らかにドローしたカードを宣言する。
「俺が引いたのは《封印されし者の右腕》だっ!」
「……」
「……」
「“右腕”?」
まず最初にそう言ったのは千里自身だった。そして復唱するように試験官も。
「みぎうで……と言ったかい?」
今一度確認しておくと、一部のポ○モンを除いて生物に“右腕”は二本存在しない。エクゾディアも例外ではない。
そして、エクゾディアのパーツは全て“制限カード”だ。デッキに入れられるのは1枚ずつ。
さて、長くなってしまったが、これが“加賀 千里”による超絶ハードモード人生の始まりとなるのであった。
カ○リキーネタは分かりづらかった。後悔している。
1話目は導入なので話が展開してません。2話目からそれなりにぶっ飛んだお話を入れる(予定)ので、なにとぞ。