もしドラ~もしもドライグが早く目覚めていたら~   作:ショウゴ

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連続更新第11弾です。

昨日も日間ランキング40位にランクインできました。
読者の皆様には感謝の言葉しかありません。

それでは、本編をお楽しみください。


12 婚約者襲来

部長がなんらかの目的を持って俺との性行為に及ぼうとした翌日。眠い目をこすりながら、俺はアーシアと共に通学路を歩いていた。

 

「イッセーさん、大丈夫ですか?」

「ああ。少し寝不足ってだけだからそこまで心配しなくていいよ、アーシア」

 

実際はあの時の感覚を思い返しながら部長が迫ってきた理由を考えていたので、一睡もしていない。

 

しかも手がかりになりそうなのは昨日部長が両親を説得する時に花嫁について何か考えていた事とグレイフィアさんが現れてから俺の部屋で話をしていた時の内容だけであり、情報が圧倒的に足りなかった。

 

正直言うとかなり眠いのだが、アーシアを心配させないためにそう答えておく。

 

「早朝のトレーニングをしなかったので、何かあったのかと心配したんですよ?」

 

アーシアは心配そうな面持ちでそう言ってきた。

 

あんな事があって気まずいからかグレイフィアさんとの話し合いが長引いていたのかは知らないが、いつものトレーニング開始時間の少し前に俺のケータイに部長からの連絡があり、今日のトレーニングは中止になった。

 

早朝トレーニングはアーシアが部長の眷属になってから毎日続けていた事なのでアーシアが心配するのもわからないではないが、その理由を話そうとすると昨日の事を教えなければならないため話すに話せなかった。

 

「今日は部長の都合が悪かったみたいだから、また明日には再開すると思う。それに、たまには休息日を設けないと体に悪いからな」

 

オーバーワークにならないよう計算されているとはいえ、体を休めて筋肉を回復させるのも重要なことだろう。

 

「そうなんですか? 詳しいことはわかりませんが、(つら)いようだったら遠慮なく言ってくださいね。治療は得意分野ですから」

「わかった。そうなったら言わせてもらうよ」

 

そんなことを話しながら少々おぼつかない足取りで通学し、教室へと向かっていく。

 

「イッセェェェェェッ!!」

 

その最中、松田が憤怒の形相で廊下の先から俺の方に向けて駆け寄ってくる。どう考えても『ミルたん』を紹介した報復だろう。

 

「死ねぇぇぇぇぇ!!」

 

反対側から元浜も駆け寄ってきており、こちらも松田と同じく怒りを隠そうともしていない。

 

「ひっ!? な、なんですか?」

 

アーシアは松田と元浜の大声に驚いたので自然と俺から離れていき、二人もアーシアが離れたのを確認するとラリアットの体勢に入る。

 

 

ドゴッ!!

 

 

その直後に俺の首を挟むようにして二人のラリアットが直撃し、一瞬息が止まる。

 

「い、イッセーさん!?」

 

当然それを見たアーシアは俺に駆け寄ろうとしてくるのでそれを手で制し、首元を押さえながら咳き込む。

 

「ふ、ふざけんなぁぁぁぁ!!」

「イッセー、お前って奴は!!」

 

松田は慟哭し、元浜は俺の襟首を掴みながら殺意のこもった瞳で睨みつけてくる。

 

「期待してたお前らには悪いと思ったけど、自分達が女子にどれだけ不快な思いをさせてたかは理解できただろ?」

「荒療治すぎるわ!! なんだよあれは!! どう見ても格闘漫画に出てくる強敵みたいな(おとこ)じゃねぇか!! しかもなんでゴスロリ着てんだよ!! 最終兵器か!?」

「しかも、おまえ!! お友達とか言って『ミルたん』と同じようなのが複数集まってたんだぞ!! 怖かったよ!! 正直死ぬかと思ったぞ!!」

 

そういえば電話で『友達を紹介する』って言ってたな。あれは『同好の士』を紹介するって意味だったのか。

 

「それは想像したくない光景だな。……うん、マジメにすまんかった」

 

松田と元浜が見たであろう光景を想像し、そのあまりのインパクトに謝るしかない。

 

「俺らが女子連中にどれだけ不快感与えてたかは理解させられたし、自重って言葉も覚えさせられたけどよぉ、あんな(いか)つい連中の中に放り込むことねえだろうが!!」

「しかも帰り際に『二人とも、これだけ教えて女の子を不快にさせたら……呪うにょ』とか言ってたんだぞ!! 呪うよりその拳で殴られる姿を想像した方がよっぽど怖いよ!!」

 

松田は慟哭を続け、元浜は怯えを(あらわ)にしながら昨夜の出来事の一部を伝えてきた。……この反応を見ると二人はスケベ根性のコントロールを覚えてきたようだが、それと同時に悪夢も見てきたようだ。

 

「あー、今度お前らと気が合いそうな女の子と知り合ったら紹介してやるから許せ。その時は昨日みたいに騙さねえから」

「絶対だぞ!! 可愛い子だと思わせて(おとこ)を紹介したら本気で怒るからな!!」

「昨日のような事は二度としないでくれよ、イッセー? また同じ事をされたら、いくら俺達でもキレるからな?」

 

昨日のあれは緊急措置なので、二度とやる気はない。これで日頃から戦国武将のような甲冑を(まと)っているスーザンさんあたりを紹介したら二人とも本気でブチ切れるだろうから、紹介する女の子は今後の二人の言動や行動を見て決めさせてもらうとしよう。

 

「……えーと、皆さん? そろそろ教室に移動しないと、遅刻になってしまいますよ?」

 

俺達の寸劇を間近で見ていたアーシアの言葉を聞いて時間を確認すると予鈴の鳴る1分前になっており、俺達は急いで教室に向かうしかなかった。

 

 

 

 

 

―○●○―

 

 

 

 

 

特にこれといった問題が起こる事なく時間は流れて放課後。

 

「やあ、イッセー君。部活に行くんだろう?」

「そりゃな。……そうだ、木場。一つ聞きたいんだけど、部長に婚約者かそれに近い人っていると思うか?」

 

アーシアと共に旧校舎の部室へ移動している最中に木場が合流してきたので、移動中の話題の一つとして部長に関する質問を一つしてみる。

 

休み時間に昨日の出来事を考えてみた結果、俺の中で出た結論は『部長には婚約者かそれに近しい人物がいるのではないか』というモノだった。

 

グレイフィアさんは家にやって来た直後に破談がどうとか言っていたし、あの口調からすれば部長のご両親並びに現魔王と同名のサーゼクスなる人物の意向が絡んでいる可能性は高い。

 

一方の部長はご両親を含めた周囲の思惑をぶち壊しにするためにああいった行動に出たようなので、仮に昨夜の部長の思惑が成功した場合に破談となる選択肢は自然と限定されてくる。

 

そこにアーシアのホームステイを説得している時のあの表情を加えてみると、部長には婚約者かそれに近い人がいるとしか考えられなかった。

 

木場は俺よりも長く部長の眷属として仕えているので、そういった事も聞いているかもしれない。

 

「僕はそういった話は聞いた覚えが無いけど、いると考えた方が自然だと思うよ。なにせ部長は『グレモリー』、旧七十二柱(きゅうななじゅうふたはしら)の由緒ある御家(おいえ)の次期当主だからね。おそらく他の上級悪魔の御家で、家督を継がない方を婿として迎え入れるんじゃないかな?」

 

だが、返ってきたのはなんとも曖昧な、それでいて現実味のある答えだった。

 

木場の言う『旧七十二柱』というのは紀元前から悪魔としての爵位を持ち、現在までその血を残している純血悪魔の一族の総称だ。

 

当時は一族ごとに何十もの軍勢を率いていたが、3勢力戦争で悪魔の全体数が減った事によって現在までに半分以上の御家が断絶してしまったそうだ。

 

部長の家は3勢力戦争を生き残った一族の一つであり、実力以上に家柄や悪魔としての等級を重視する傾向のある悪魔の上層部からすれば今でも無視できない存在らしい。

 

『旧』と付いている理由も3勢力戦争後の小競り合いで御家断絶をしてしまった一族が多く出た事に加えて、悪魔全体の数が減った影響でそれまでの軍勢を率いる形から悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を利用する形に移行した事、レーティングゲームが爵位に与える影響が強くなった事で序列にかなりの変動があったため、自然とそう呼ばれる形になったようだ。

 

「やっぱその可能性が一番高いか。……そこらへんの事情は朱乃さんの方が詳しいよな?」

 

女王(クイーン)』は盤上最強の駒であると同時に(あるじ)の副官でもあるので、朱乃さんならばそこらへんの事情にも詳しいだろう。

 

「朱乃さんは部長の懐刀だから、僕達よりは詳しい事情を知っているのは確かだろうね」

 

教えられてもいないのにこちらから部長の事情を聞こうとするのはヤボだとは思うが、昨夜(ゆうべ)ああいった形で中途半端に関わってしまったので変に気になってしまう。

 

部長に関係を迫られた事を誰かに話すつもりは毛頭ないし、話したら部長だけでなく様々な人たちに影響が出てしまうだろう。

 

(まあ、何か問題が起きたらそれを解決するために全力を尽くすとするか)

 

木場やアーシアとそんな話をしながら昨日の問題に関するスタンスを決めて部室の扉の前に立つと、どこかで察したことのある気配が感じ取れた。

 

「……僕がここまで来て初めて気配に気づくなんて……」

 

どうやら木場もこの気配を感じ取ったらしく、顔を強ばらせていた。

 

「あの、イッセーさん? 入らないんですか?」

「ああ、すまない。今開けるよ」

 

アーシアだけはこの気配に気づいていないのかいつもどおりに話しかけてくるので、一言謝ってから扉を開ける。

 

室内には部長・朱乃さん・小猫ちゃんの3人だけでなく、昨夜部長を迎えに来たグレイフィアさんも待機していた。

 

部長は機嫌が悪いことを隠そうともせず、朱乃さんの表情は表面上いつもどおりのニコニコ顔だが纏っている雰囲気は冷たく、明らかにグレイフィアさんを歓迎していない。

 

だが、グレイフィアさんは二人の表情などどこ吹く風と言わんばかりにクールな様相を保っており、小猫ちゃんはそんな3人と関わりを持ちたくないとばかりに部屋の隅で椅子に座っていた。

 

当然ながら会話など行われるはずもなく、張り詰めた空気が部室の中を支配している状態だった。

 

「まいったね」

「ああ、こいつは厳しい」

 

この緊迫した空気を感じた木場が俺の後ろで小さく呟いたので、それに同意しておく。

 

部室の中に入ってもオカ研メンバーの誰からも声をかけられず、それだけ余裕のない証拠のように思えた。

 

アーシアは不安気な表情で俺の制服の袖口を掴んでおり、こういった場の空気に慣れていないのが丸分かりだった。

 

「全員揃ったわね。では、部活を始める前に少し話があるの」

 

少々気恥ずかしいがアーシアを落ち着かせるために彼女の頭を撫でていると、部長が口を開く。

 

「お嬢様、私がお話しましょうか?」

 

部長が口を開いた事に反応してグレイフィアさんが何かを話そうとするが、その申し出をいらないとばかりに手を振っていなした後、部長はもう一度口を開く。

 

「実はね――」

 

だが、その瞬間に転移魔方陣が展開される。

 

しかし、魔方陣の色と中央に描かれている家紋は見慣れたグレモリーの物ではなかった。

 

オレンジ色の魔方陣から転移時独特の光が溢れ、その直後に魔方陣が炎に包まれる。

 

「――フェニックス」

 

近くにいた木場が炎に覆われる前の転移魔方陣に記されていた家紋を読み取ってそう呟いた。

 

しかもそれと同時に魔方陣中央に人影が現れるが、その人物は暑がる素振りを全く見せずに腕を横に薙ぐと、それだけで魔方陣を覆っていた炎が振り払われる。

 

「ふぅ、人間界は久しぶりだ」

 

突然転移してきた赤いスーツを着崩した男はそう呟くと部室の中を見回して部長を捉え、口元をニヤけさせながらこう言った。

 

「愛しのリアス。会いに来たぜ」

 

男の見た目は二十代前半。整った顔立ちをしているがどこか悪ガキっぽい雰囲気をしており、着崩したスーツと合わせてどこかのホストのように見えてくる。

 

だが、木場の呟きが確かならこのワル系のイケメンホストは部長と同じ旧七十二柱の一つ、フェニックス家の関係者ということになる。

 

部長はフェニックス家の男を半眼で見つめており、どう考えても歓迎しているようには思えない。

 

もっとも、そんな部長の気持ちなどどこ吹く風といった雰囲気で男は部長に近づくと、腕を掴みながら口を開く。

 

「さて、リアス。早速だが式の会場を見に行こう。日取りも決まっているんだ、早め早めがいい」

 

どうやらこの言動を見る限りではこの男が部長の婚約者のようだが、部長は不快感を隠そうともせずにこう言った。

 

「……放してちょうだい、ライザー」

 

今まで聞いた事がない位に低く迫力のある声が部長の口から発せられ、怒りを隠そうともせずにライザーと呼ばれた男につかまれた手を振り払う。

 

そいつは部長からそう言われるのが慣れているのか苦笑するだけで、手を振り払われた事など微塵も気にしていないように思えた。

 

(つら)の皮厚すぎだろ、コイツ)

 

部長は明らかに嫌悪しているというのに、そんな事はどうでもいいとばかりに自分の意思を押し通そうとする目の前の男に腹が立ってきた。

 

「……失礼ですが、お名前を伺ってよろしいですか?」

 

正直言うとブーステッド・ギアを展開して殴りかかりたいところだが、それをやると大問題に発展する可能性が高いので声をかけるだけにしておく。

 

「あ? 誰、お前?」

 

部長に話しかけていた時の甘い声とはまるで違う不機嫌な口調と見下した目、おまけとばかりにこちらに対して嫌悪感を丸出しにしており、ますます腹が立ってくる。

 

「……申し遅れました。リアス・グレモリー様の『兵士(ポーン)』、兵藤一誠です。転移時の家紋からフェニックス家の方とお見受けしましたが、お名前を聞かせていただけますか?」

「ふーん、あっそ。……ってかリアス。俺の事下僕に話してないのか?」

 

普段通りの声色を意識して自己紹介をするが、男は興味なさそうな反応をした直後にこちらの質問に答えもせず、部長へ質問を飛ばす。

 

「あなたの事を教える必要がないから話していない、それだけよ」

「あらら、相変わらず手厳しいねぇ。ハハハ……」

 

目元を引きつらせながら男は苦笑するが、相変わらずこちらの質問に答える気配がない。

 

「兵藤一誠様」

「……なんでしょう?」

「この方はライザー・フェニックス様。純血の上級悪魔であり、フェニックス家のご三男でグレモリー家次期当主の婿殿であらせられます」

 

本気でぶん殴ってやろうかと思い始めた瞬間にグレイフィアさんが口を開き、イケメンホストの紹介をしてくれた。

 

「……つまり、リアス様の婚約者って事でいいんですよね?」

「さようでございます」

 

いい加減気づいてはいるが、一応の確認を取るとグレイフィアさんはそれを肯定した。

 

「お互いの素性も理解できたようですし、今お茶をお淹れしますわ。少し待っていてくださいな」

 

グレイフィアさんの肯定の言葉の後、話題転換も兼ねて朱乃さんがそう告げた。

 

正直言ってこんな礼儀知らずに対してわざわざお茶を振るまう必要性を感じないが、それはそれで問題があるのだろう。朱乃さんは一人で給湯室へ向かっていった。

 

 

 

 

 

―○●○―

 

 

 

 

 

10分ほどで全員分のお茶の準備を終えた朱乃さんが戻り、一応の客であるライザーにお茶を振るまう。

 

「いやー、リアスの『女王(クイーン)』が淹れてくれたお茶は美味しいものだな」

「痛み入りますわ」

 

ライザーがお茶の味を褒め、朱乃さんも表面上はいつも通りの笑顔で返事をするが、「あらあら」や「うふふ」が言葉に含まれていない時点で目の前の男を快く思っていないことは明白だった。

 

もてなす側の礼義として部長はソファに座ってライザーの相手をしているが、もてなされる側のライザーは礼儀などどこ吹く風とばかりに部長の隣に座り、軽々しく部長の肩を抱いている。

 

ライザーの事をよく思っていない部長は何度も肩を抱く手を振り払うが、ライザーはそんな部長の反応すら無視して肩やら手やら髪やらを遠慮なく触っていて、馴れ馴れしいことこの上ない。

 

(あるじ)の会話に割り込むのは失礼なので、部長の副官である朱乃さんを除いた俺達下僕一同はいくらライザーの事をよく思っていない状態だろうと2人から少し離れた席に集まって様子を見ることしかできない為、非常に歯がゆい。

 

出来る事ならライザーを思いきり睨みつけ、ブーステッド・ギアで強化した一撃をその顔面に叩き込みたいところだが、それをやると部長に迷惑をかけてしまう可能性が高いので自制する。

 

「いい加減にしてちょうだい!!」

 

そうして苛立ちを募らせながら部室の片隅で待機していると、髪や手を無遠慮に触られ続けた部長が怒りをあらわにしながらソファから立ち上がり、ライザーを鋭く睨みつける。

 

「ライザー、以前にも言ったはずよ!! 私はあなたと結婚なんてしないわ!!」

「ああ、以前にも聞いたよ。だがリアス、そういうわけにもいかないだろう? キミのところの御家事情は意外に切羽詰まっていると思うんだが?」

「それ位あなたに言われるまでもなく自覚しているわ!! 婿養子だって迎え入れるつもりだけど、あなたを婿にするのだけは絶対に嫌!! 私が次期当主なのだから、婿の相手くらい自分で決めるつもりよ!! 私は私が良いと思った思ったものと結婚する。古い家柄の悪魔にだって、それ位の権利はあるわ!! 第一、父も兄も一族の者も皆急ぎすぎなのよ!! 当初の話では、私が人間界の大学を出るまでは自由にさせてくれるはずだったじゃない!!」

 

フラストレーションを爆発させながら、部長は自分の意見を口にする。

 

だが、ライザーとしてはその発言は気に入らないものだったらしく、それまでのニヤけた表情を一変させる。目元が細まり一度舌打ちをすると、明らかに不機嫌な声色でこう言った。

 

「ああ、確かにキミは基本的に自由だ。大学に行ってもいいし、下僕も好きにしたらいい。だがな、キミのお父様もサーゼクス様も心配なんだよ。御家断絶が怖いのさ。ただでさえ先の戦争で純潔悪魔が大勢亡くなり、既に『七十二柱』と称された御家の半数以上が断絶している。家系によっては『力に溢れている』というだけで転生悪魔と通じる旧家もあるが、純潔の悪魔を途絶えさせるわけにもいかない事は理解しているだろう?」

 

ライザーはそこで一度言葉を区切り、部長と俺達下僕一同に向けて敵意と殺意を放ちながら言葉を続ける。

 

「それに、俺もフェニックス家の看板背負った悪魔なんだ。この名前に泥をかけられるわけにもいかないし、グレモリー卿とサーゼクス様の期待に応える必要もある。……ここでキミが俺との結婚に同意しなければ、キミの下僕を全員燃やし尽くしてでもキミを冥界に連れて帰るぞ」

 

そこまで言い切ると、ライザーは自分の周囲に炎を駆け巡らせて臨戦態勢に入る。

 

「ひっ!?」

 

ライザーの発するプレッシャーに当てられ、小さな悲鳴を上げながらアーシアが俺の腕に抱きついてくる。

 

腕に伝わる震えはアーシアが恐れている事を如実に表しており、今まで荒事とは無縁の生活を送っていた事を考えれば当然の反応といえるだろう。

 

かくいう俺も体中の毛穴がざわつき、背中に冷たいものが走っているし、廃教会でレイナーレを消し飛ばした時には感じなかった緊張感が体中を駆け巡っているので、いつ戦闘が始まってもいいように臨戦態勢に入る。

 

それは俺よりも実戦経験を積んでいる木場、小猫ちゃん、朱乃さんも同様らしく、臨戦態勢に入りながらライザーの一挙手一投足を見逃さないようにしている。

 

部長も部長で紅の魔力を身体全体に纏っており、完全に臨戦態勢に入っていた。

 

部長が臨戦態勢に入った事を認識したライザーは周囲に駆け巡らせていた炎を体に纏わせ始めると、それだけで凄まじい熱気が部室の中を包み込む。さらにその炎は奴の背中に集まって鳥類の翼を模した形となり、ライザーがフェニックス家の悪魔だと否応なく理解させられる。

 

感じ取れる熱量から察するに、生身の状態でくらったら確実に大ダメージを受けるだろうし、『鎧』を纏った状態でもノーダメージとはいかないだろう。

 

「お嬢様、ライザー様、落ち着いてください。これ以上やるのでしたら、私も黙って見ているわけにもいかなくなります。私はサーゼクス様の名誉のためにも遠慮などしないつもりです」

 

そんな事を考えていると、静かながら迫力のこもった声でグレイフィアさんが介入してきた。

 

部長もライザーもグレイフィアさんの言葉を聞いた瞬間に表情を強張らせ、各々に向けていた敵意と身に纏っていた紅の魔力と炎を即座に霧散させる。

 

「……最強の『女王(クイーン)』と称されるあなたにそんな事を言われたら、俺もさすがに怖いよ。バケモノ揃いと評判のサーゼクス様の眷属とは絶対に相対したくないからな」

 

一度深く息を吐き、(かぶり)を振りながらライザーはそう呟く。

 

この反応と言動を見るとグレイフィアさんは見た目に反してかなり高い戦闘能力を備えているようだが、殺気やプレッシャーの類を一切感じない事を考慮すると、俺とグレイフィアさんの間には隔絶した強さの差があると考えるべきだろう。

 

「こうなる事は旦那様もサーゼクス様もフェニックス家の方々も承知しておりました。正直申し上げますと、これが最後の話し合いの場だったのです。これで決着がつかない場合を予測し、最終手段を取り入れる事としました」

 

室内に充満していた一触即発の空気が完全に消え去ると、グレイフィアさんがそう言った。

 

「最終手段? どういうこと、グレイフィア」

「お嬢様。ご自分の意志を押し通すのでしたら、ライザー様と『レーティングゲーム』にて決着をつけるのはいかがでしょうか?」

「――ッ!?」

 

グレイフィアさんからの意見は部長だけでなく眷属である俺達も驚かせるものだったが、レーティングゲームは成熟した悪魔でなければ参加できなかったはずだ。

 

だが、俺の疑問を払拭するようにグレイフィアさんは説明を続ける。

 

「お嬢様もご存じのとおり、公式の『レーティングゲーム』は成熟した悪魔しか参加できません。しかし、非公式の純血悪魔同士のゲームならば、半人前の悪魔でも参加できます。この場合、多くが――」

「身内同士か御家同士のいがみ合いよね」

 

グレイフィアさんの言葉を(さえぎ)りながら部長は口を開き、嘆息しながら言葉を続ける。

 

「つまり、お父様方は私が拒否した時のことを考えて、最終的にゲームで今回の婚約を決めようってハラなのね?……どこまで私の生き方をいじれば気が済むのかしら…っ!!」

 

明らかにイラついた様子で部長は殺気をみなぎらせている。

 

「では、お嬢様はゲームも拒否すると?」

「まさか。こんな好機はないわ。ゲームで決着をつけましょう、ライザー」

 

非公式とはいえレーティングゲームへ参加する事を了承する部長の言葉を聞き、ライザーは口元をにやけさせながらこう言った。

 

「へぇ、受けちゃうのか。それは構わないが、俺と俺の眷属は既に公式のゲーム経験もあるし、今のところ勝ち星も多い。それでもやるか、リアス?」

「やるわ。絶対にあなたを消し飛ばしてあげるわ、ライザー!!」

 

ライザーの問いに対して、部長は勝気な笑みを浮かべて勝利宣言をする。

 

「いいだろう。万が一キミが勝ったら好きにするといい。だが、俺が勝ったらリアスは俺と即結婚してもらう」

 

その言葉を聞き、ライザーも部長を睨みつける。その視線を受けて部長もライザーを睨みつけ始めたので、壮絶なガンの飛ばしあいになる。

 

「承知いたしました。お二人の御意志は、私、グレイフィアが確認させていただきました。ご両家の立会人として、私がこのゲームの指揮を執らせていただきます。よろしいですね?」

「ええ」

「ああ」

 

だが、それもグレイフィアさんの意思確認の言葉で一区切りとなり、部長もライザーもグレイフィアさんの言葉を了承した事で、非公式ながらレーティングゲームの開催が決定した。

 

「かしこまりました。ご両家の皆様には、私からお伝えいたします」

 

二人の意思確認を終えたグレイフィアさんは一礼すると、そのまま部屋の片隅まで移動していく。一見何もしていないように見えるが、おそらくは魔力を利用して冥界側と連絡を取っているのだろう。

 

そんなことを考えているとライザーが俺達全員を一瞥し、嘲笑を浮かべてこう言った。

 

「なあ、リアス。念のために確認しておきたいんだが、キミの下僕はこの面子で全てなのか?」

「……手に余ると言われて封印されている『僧侶(ビショップ)』の子を除けば、全員揃っているわ。それがどうしたの?」

 

部長の返事を聞いたライザーは何がおかしいのか笑い声をあげる。

 

「これじゃ話にならないんじゃないか? 見たところ、キミの『女王(クイーン)』である『雷の巫女』くらいしか俺の下僕に対抗できそうにないな」

 

そう言いながらライザーが指をはじくと、再びフェニックス家の転移用魔方陣が展開され、その中に続々と人影が浮かび上がってくる。

 

(1…2…3…おいおい、何人いるんだ?)

 

ぱっと見10人以上の悪魔が一度に転移してきていた。新たに転移してきた悪魔が全員ライザーの眷属だと仮定した場合、数で劣る俺達はかなり不利な戦いを強いられることになる。

 

「と、まあ、これが俺のかわいい下僕達だ」

 

堂々とした態度で部長にそう言うライザー。この言動からすると、転移してきた悪魔は全員こいつの下僕なのだろう。人数を改めて数えてみると、総勢15人にも及んでいる。

 

どうやらライザーの眷属には俺のように駒を複数消費した下僕は一人たりともいないらしい。

 

(おまけに全員女かよ。見た感じ今の俺より強い奴らばっかだし)

 

ライザーの下僕は外見年齢の差こそあるが、全員が女性だった。自然発生させているオーラの量から判断すると素の状態の俺より強い人物が10名以上いる上に、美女・美少女揃い。服装も様々で、戦いになる事が前提なのか、鎧を身につけながらもある程度動きやすそうな服装をした人もいれば、昔のRPGに出てきそうな踊子風のきわどいビキニのような衣装を着た人や、胸元が大きく開いたチャイナドレスを着た人のように露出度が高い服を着ている人もいるし、十二単風のかなりしっかりとした和服を着ていて、肌の露出が殆どない人もいる。

 

あまりにバリエーションが飛んでいるので、どう考えても狙っているとしか思えない。

 

「……いくつか質問させてもらっていいか?」

「何かな、下僕君?」

「あんたの眷属はハーレムかなんかか? 下僕が女性しかいないってのはあまりに不自然なんだが」 

 

故に、この女性達の主であるライザーに問いかけてみる。

 

「もし、そうだと言ったらどうするんだ? 俺の眷属はあくまでも俺のモノ。下級悪魔にどうこう言われる筋合いはないはずだが?」

「質問に答えろよ。どうなんだ?」

「……そういう側面があることは認めよう。だが、それがどうしたというのだ?」

 

どうやらライザーは相当の女好きのようだ。

 

(羨ましい気持ちもあるが、気に入らないな)

 

1人の女好きとしてはハーレムを作っているライザーを尊敬したい部分もあるが、それ以上の不快感があった。

 

「今のは単なる確認で、本命の質問は今からする方だよ。ハーレムっつーなら、肉体関係持ってる人もいるんだろ? 部長と結婚した後も、その関係は維持するつもりなのか?」

「たとえそうだとしても、下級悪魔に俺と下僕のスキンシップにまで口を出される覚えはない。一体何が言いたいんだ?」

 

イラついた声色でライザーは質問を返してくるので、俺は自分の考えを口にする。

 

「単に女ったらしのあんたの事が気に入らないってだけだよ。今の内に言っとくが、どんな手段を使ってでもゲームには勝たせてもらう。それと、仮にあんた達のチームがゲームに勝ったとしても、そう簡単に部長と結婚できるとは思わない事だ。直接式場に殴りこんであんたをぶちのめすなり、部長をさらうなりして結婚は阻止させてもらう」

 

そこまで言うとグレイフィアさんが冷たい視線を向けてくるが、全力で無視して言葉を続ける。

 

「下僕としてじゃなくて、1人の知人として俺は部長には幸せになってもらいたいからな。双方が望まない結婚なんて不幸以外の何物でもない。ゲームの結果次第だが、そこんとこだけは覚悟しといてくれ」

 

『赤龍帝だからフェニックスに勝てる』と自惚れているわけではないが、部長の知人の1人としては何が何でも縁談を破談にもっていきたいところだ。

 

「……あまり調子に乗るなよ、下級悪魔風情が。でかい口を叩くのは一向に構わんが、貴様にそれができる根拠がどこにある?」

 

語気に怒りをにじませながらライザーが問いかけてくる。

 

「根拠ならしっかりあるさ。今見せてやるよ」

 

ゲーム前に手の内をさらす事はしたくなかったが、ライザー達を警戒させる意味も込めてブーステッド・ギアを展開する。

 

「赤い籠手だと?……まさか!?」

 

展開されたブーステッド・ギアを一目見て、ライザーはすぐに見当がついたようだ。

 

「改めて名乗ろうか。当代赤龍帝、兵頭一誠。リアス・グレモリー様の持つ唯一の『兵士(ポーン)』だ。以後お見知りおきを、不死鳥さん」

「……なるほど。神や魔王すら打ち倒すと言われる神器・神滅具(ロンギヌス)の一つを所有しているならその自信も分からないではないが、果たして上手くいくかな?」

 

俺の自己紹介を聞いたライザーはある程度納得したようだが、俺が悪魔の間でも伝説になっている『赤龍帝』だと知ってなお余裕を保っている姿はあまりに不可解だった。

 

「どういう意味だ?」

「なに、ブーステッド・ギアは『神や魔王すら打ち倒す事が出来る』と言われている神器だが、俺は実際にそれが成されたという話は聞いた事がない。その神器に本当にそれだけの力が宿っているのか疑問に思っただけさ」

 

……なるほど、言葉だけならどうとでも言える。実際にその力を見せてみろってことか。

 

《やるぞ、相棒。ここまで言われて黙っているようでは天龍の名折れ。禁手化(バランス・ブレイク)して2~3度(ほふ)ってやれば、やつも認識を改めるだろう》

 

冷静にそんな事を思っていると俺より先にドライグの方が我慢の限界に達したらしく、殺る気満々でそう言ってきた。

 

(落ち着け、ドライグ。ここで切札の『鎧』を使ったら、ゲームの本番で不利になるだけだろうが。今のところ、全開戦闘だと15分程度しかもたないってのはわかってるだろ?)

 

ドライグはプライドがかなり高いので、自分の事を(けな)されるとすぐに熱くなる傾向がある。こうなってしまうと宿主である俺の言葉にも耳を傾けなくなるので、明らかな怒気を声に含めたドライグを(たしな)める。相棒が熱くなっている分、俺が冷静に動かなければならない。

 

《戦況の不利など力ずくで覆せばいいだけだ。それが出来るだけの力がある事は自覚しているだろう!!》

 

ドライグはそう言うが、ここで俺がライザーの発言に乗ったところでメリットらしいメリットは一つもなく、あるのはブーステッド・ギアの詳細なスペックをライザー達に知られるデメリットだけだ。

 

「おやおや、いきなり黙ってしまった。噂に名高いブーステッド・ギアだが、看板に偽りがあったか?」

 

ドライグを落ち着かせるために自身の内面に潜っていると、ライザーが嘲笑を浮かべながら煽ってきた。

 

《不死鳥風情が粋がりおって!! 今すぐ消し炭にしてくれる!!》

 

その言葉を聞いたドライグが怒りのボルテージを一段階上昇させる。

 

このままだと勝手に禁手化(バランス・ブレイク)のカウントを開始しかねないため、こうなったらライザーの挑発に乗るしかない。

 

「……相棒の赤い龍の帝王(ウェルシュ・ドラゴン)と話をしてただけだよ。あと、実力を見せろって事なら試合形式で今すぐ見せてもいいが、条件がある」

 

タダで手の内を見せるのも(しゃく)(さわ)るので、ダメもとで条件を提示してみる。

 

「条件だと?」

「ああ。戦闘方法は俺一人対あんた達のチームの代表一人。あんたが直接戦うのか眷属の誰かが戦うのかはそっちに任せるが、『今から行う戦闘の勝敗に(かか)わらず、初めてレーティングゲームに参加する俺達に相応の修行期間を用意する』って条件をのむならやってやるよ」

 

相手が拒否して当然のとんでもない条件をふっかけていると自分でも思うが、こうでもしないと俺達はまともなゲームすらできないだろう。

 

なにせ何せ俺達のチームは『(キング)』の部長を入れても6人しかいない上に、レーティングゲームの詳細なルールや基本的な戦術の学習、各種コンビネーションの訓練すら行っていない。

 

この時点で圧倒的に不利だし、ゲームに参加する駒の数すらライザーチームの半分以下だ。何の準備もなしでは負ける確立が圧倒的に高い。そして、俺達がゲームに負けた時点で部長の結婚が確定してしまう。

 

それを防ぐためにも修行と相手チームの情報を収集する時間を作り、今の不利な状況を少しでも改善しなければならない。

 

こうしてとんでもない条件を提示するだけならタダだし、これをきっかけにして猶予期間の話し合いを進めることもできる。あとはライザーの出方次第だ。

 

「いいだろう。……マリオン、相手をしてやれ」

 

ライザー側が不利になるだけの条件なので難癖をつけてくると予想していたが、ライザーはそんな素振りを微塵も見せずに俺の提示した条件を少し考えるだけで承諾し、下僕の女性の名前を呼んだ。

 

正直予想外の展開だが、相手が承諾した以上は最大限に利用させてもらうとしよう。

 

「はい、ライザー様」

 

ライザーの指示を受けて出てきたのは、エプロンドレスを着た茶髪のおねーさんだった。

 

『ふん、あれだけでかい口を叩いておきながら部下頼みとはな。随分と腑抜けたフェニックスだ』

 

ドライグはライザー自身が出てくると思っていたらしく、この場にいる皆に聞こえるように発声しながら部下を出してきたライザーを挑発する。

 

「誰だか知らんが、安い挑発には乗らんよ。噂の赤龍帝の力、じっくり観察して対策を練らせてもらう」

 

だが、ライザーはその挑発には乗らず、俺と自分の下僕の動きが見える位置に移動していった。

 

「待ちなさい!! イッセー、あなた何を勝手に――」

「部長。叱責は後でいくらでも受けますから、今はやらせてください。……お願いします」

 

部長が勝手に事態を進めた事を咎めてくるが、ここで引き下がるわけにはいかなかった。

 

「そうよ部長。ここはイッセーくんに任せるべきですわ。今の私達には必要な事よ」

 

どうやら朱乃さんは俺の思惑に気付いているらしく、フォローを入れてくれた。

 

「負ける気はありません。信じてください」

「――わかったわ。でも、後でどうしてこんな事をしたのか説明してもらいますからね!!」

 

声には若干の怒りがこもっていたが、渋々ながら了承してくれた。

 

「わかってますよ、部長。グレイフィアさん、開始の合図だけお願いできますか?」

 

提案者の俺が合図をしたのではアンフェアなので、立場としては第三者のグレイフィアさんに頼んでみる。

 

「かしこまりました」

 

グレモリーの実家側の事情など考えずに好き勝手に動いていたので拒否されてしまう可能性もあったが、グレイフィアさんはあっさりと了承してくれた。

 

「それじゃあ()ろうか」

「倒させていただきます」

 

俺が声をかけると、マリオンと呼ばれたおねーさんは構えをとる。服装からは判断できなかったが、どうやら前衛の戦士のようだ。

 

「こっちもタダではやられないさ。ブーストスタート」

 

 

『Boost!!』

 

 

俺も自己強化を開始し、いつ戦闘が始まってもいいようにしておく。

 

「では…………始め!!」

 

 

『Explosion!!』

 

 

「…せいっ!!」

「ふっ!!」

 

二度目の強化が施される直前にグレイフィアさんの合図かかったのでパワーアップは単純倍化に留め、こちらに突撃してきた相手を迎撃する。

 

半ばすくい上げるような軌道の掌底がみぞおち周辺に襲いかかってくるのがかろうじて見えたので、サイドステップで回避する。

 

「らあっ!!」

 

さらに回避時の勢いを乗せて相手の脇腹目掛けてカウンターのミドルキックを放つ。

 

「くっ!?」

 

相手は俺のカウンターが見えていたようだが防御しきれなかったらしく、直撃を受けて勢いよくライザーのいる方向に吹き飛んでいく。

 

「マリオンっ!!」

 

ライザーは若干慌てた様子で自分の下僕受け止めると、怒りと敵意の混ざった眼差しで俺を睨みつけてきながら口を開いた。

 

「……僅かな強化でこの威力とはな。あながち伝説も馬鹿にできんか」

「そういう事さ。その人は意識が飛びかけてるみたいだし、俺の勝ちって事でいいか?」

 

エプロンドレスのおねーさんはライザーの腕の中で意識を失いかけており、とても戦える状態には見えなかった。

 

「いいだろう、貴様の勝ちだ赤龍帝。だが、ゲームも勝てると思うなよ。……リアス、ゲームは十日後に行う。その間に修行なり戦術訓練をするなりして少しでもゲームを知る事だ。――お前達、帰るぞ」

 

ライザーはエプロンドレスのおねーさんを抱えたままそう言うと、部長の返事も聞かずに魔方陣を展開して眷属の女性達と共に冥界へ帰還していった。

 

「それではお嬢様、私もご両家の方々への連絡やゲームフィールドの確保などがありますので、これで失礼させていただきます」

 

グレイフィアさんも事務的な態度でそう言うと、一礼した後に転移用の魔方陣を展開して部室を去って行った。

 

「……さて、どうして私に断りもせずライザーの下僕と戦ったのか、納得のいく説明をしてもらうわよ、イッセー」

 

そうして部室にいつものメンバーだけになると、部長は冷たい眼差を俺に向けながら、そう問いかけてきた。

 

「わかってます、部長。……俺があの場で戦ったのは、レーティングゲームで勝てる確率を少しでも上げるためです。仮にあの場ですぐにゲームが始まった場合、かなり高い確率で俺達は負けていたでしょうから」

 

試合の理由を説明すると、部長の視線に含まれていた冷たさが増す。

 

「どうしてそう言いきれるのかしら?」

「俺達自身がレーティングゲームに備えた事を何一つやってないからですよ。少なくとも俺とアーシアはレーティングゲームの詳細なルールを知りませんし、木場と小猫ちゃんと朱乃さんも俺とアーシアとの連携訓練は一切やってません。おまけに対戦相手のライザー達はゲームの経験があるみたいですし、向こうの方が駒数も多いです。数で劣っているなら質の差でカバーすればいいんですが、その質ですら現状の俺達ではライザーチームに劣っていると判断せざるを得ません。これでは到底戦えるとは思えなかったんで、それを改善するためにああいった行動をとったんです。……説明としては以上になります」

 

俺の意見を黙って聞いている部長の眼差しはどんどん冷たさを増していくが、一通りの説明を終えると部長は瞑目し、一度大きくため息をついてから口を開く。

 

「そんな事はない、と否定したいところだけど、私達の状況を客観的に見ればイッセーの言うとおりなのが悔しいわね。私自身ゲームに出場するまでまだ時間があると思い込んでいたから、ゲームの戦術に関する事は一切勉強していなかったし。……確かにあのままゲームを始めていたら、私達は何もできずに負けていた可能性は高い。修行する期間を得られただけでも儲け物と判断すべきね。よくやってくれたわ、イッセー」

 

そう言ってくれた部長の表情はいつもの笑顔そのもので、独断専行をした甲斐があった。後は実際のゲームで結果を出すために修行をするだけだ。

 

「そう言ってもらえたなら幸いです。何としても勝ちましょう、部長」

「ええ。あなたが稼いだ10日間。有効に利用させてもらうわ、イッセー」

 

部長は勝気な笑みを浮かべながらそう言うと、木場達の方に向き直る。

 

「皆、悪いんだけど今日の営業活動は中止。それぞれのお得意様に今日から10日間は召喚を控えてもらうように連絡を入れて。それが終わったら、朱乃は私の戦術構築の補佐を、祐斗達はすぐに帰宅して修行に行くための準備をしておいて。明日の朝迎えに行くわ。学園生活の方は使い魔に代行させておくのも忘れないようにね。使い魔を持っていないイッセーとアーシアは朱乃にフォローしてもらいなさい。それじゃあ、動き始めてちょうだい」

「「「「「はい!!」」」」」

 

部長の指示を受け、俺達はそれぞれのお得意様――俺の場合は森沢さんやミルたん、スーザンさんなどだ――に召喚を自粛してもらう連絡を入れて全員から了承の返事を得た後、俺とアーシアは朱乃さんに修業期間中の学園生活について相談。

 

朱乃さんから自分の使い魔である小鬼の持つ『分身能力』と『オーラを供給される事で供給者の姿に化ける能力』でフォローすると言われたので、俺もアーシアも10日分のオーラを朱乃さんの使い魔に供給しておいた。

 

「それじゃあ部長、俺とアーシアは一足先に帰って、修行の準備に入ります」

「お先に失礼します、部長さん」

 

そこまで済ませると俺達が出来る事は明日から始まる修行の準備だけになってしまうので、部長に帰宅の挨拶をしておく。

 

「ええ、お疲れ様。イッセー、アーシア。修行場所へ迎えに行く時間については後でメールしておくから、確認を忘れないようにね」

「了解です」

「わかりました」

 

部長に了解の言葉を返し、俺とアーシアは帰路に就いた。

 

 

 

 

 

―○●○―

 

 

 

 

 

帰宅して早々に俺とアーシアは修行へ向かう準備を終えて、時間は既に夜。

 

夕食も食べ終わって普段なら悪魔として動いている時間だが、今日は営業活動そのものを行っていない事もあって自室のベッドで横になっていた。

 

「……ドライグ、一つ訊いていいか?」

《『今の自分の実力であのフェニックスを倒せるか』か? 条件さえ整えば今の相棒でも確実にダメージを与えられるだろうが、倒すとなると何とも言えんな》

 

訊こうとした内容を一発で当てて即座に答えを述べてきた相棒に内心苦笑するが、返事としては何とも微妙な答えだった。

 

「ダメージは与えられるのに倒せるかはわからんって微妙な答えだな、おい。理由を聞いていいか?」

《ああ、それは説明するさ。まずダメージを与える条件だが、『女王(クイーン)』に昇格(プロモーション)を行い、即座に禁手化(バランス・ブレイク)。その状態で最大まで強化を施せば、攻撃力は相当なものになる。いかに不死性を持つフェニックスだろうと、この状態ならば確実にダメージを与える事が出来るだろう。フェニックスを倒せるかどうか答えが曖昧になった理由の方だが、相手の実力と不死性がどの程度あるのかが未知数であり、相棒が鎧を纏っていられる制限時間の間に相手を戦闘不能にするだけのダメージを与えきれるか今の俺には判断がつかんからだ》

 

あー、確かに俺達ライザー・フェニックスの実力については全く知らないから、答えは曖昧になるわな。

 

《そういう事だ。幸いあの男は公式のレーティングゲームにも出場しているようだから、何かしらの記録は残っているだろう。リアス・グレモリーがその手の情報を入手する事に期待するしかないな》

 

そこは部長と副官の朱乃さん、二人の手腕に期待するしかないか。

 

《まあ、ゲームで勝ちたければ明日から始まる修行に全力で(のぞ)むのが一番だ。今の内に言っておくが、修行が始まったら相棒にも赤龍帝としての力の振るい方を覚えてもらう。リアス・グレモリーの許可を取っておけ》

「手札が増えるのはいい事だが、加減だけはしっかりしてくれよ? 『大怪我してロクに修行ができませんでした』なんて、笑い話にもなんねーからな」

《それについては承知しているから安心しろ。俺から言えるのは、明日に備えてしっかり休んでおく事だけだ》

「了解。とっとと風呂入って寝るとするよ」

 

部長からの連絡は未だにないので何時に迎えに来るかはわからないが、明日から十日間はハードになる事は目に見えている。今の内に少しでも多く体を休めておくとしよう。

 

 

コンコン

 

 

「イッセーさん、おりますか?」

 

そんな事を思いながら風呂の準備をしていると、扉越しにアーシアが声を掛けてくる。

 

「ああ、いるよ。どうした、アーシア?」

「お風呂、お先に頂きました。あいているので入ってください。イッセーさんのお父さま達は後でいいとの事です」

「わかった。今準備してたところだから、すぐに入るよ。アーシアも明日は早いんだから、ゆっくり休んでおくんだぞ」

「はい。おやすみなさい、イッセーさん」

「ああ。お休み、アーシア」

 

アーシアに就寝の挨拶をしてから入浴準備を再開。風呂に入った後でケータイを確認すると部長から明日朝6時に迎えにくる事を伝えるメールが着信していたので、返信がてら修業期間中にドライグとのトレーニングを行いたい(むね)を伝える。

 

さほど時間をおかずに返ってきた部長からの答えは了承を伝えるものだったが、オーバーワーク防止のために具体的なトレーニング内容を教えておいてほしいと書かれていたため、ドライグにトレーニング内容を聞いてメールしておいた。

 

明日の集合時間は結構早い時間なので、メールを送信し終えた後は睡眠時間を少しでも多くするためにすぐにベッドへ潜りこみ、眠る事にした。




そんなわけで、今回はここまで。

テキスト量が過去最大になっていますが、これはにじファン・シルフェニア版における2話半ぶんの量を1話に詰め込んでいるからです。

次回も同じ時間に更新しますが、それがストックのラストなので、明日以降の更新速度については完全に未定となります。
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