もしドラ~もしもドライグが早く目覚めていたら~   作:ショウゴ

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連続更新ラストになります。前回のあとがきでも書きましたが、これが最後のストックなので次回の更新は未定となります。

それでは、本編をどうぞ。


13 修行開始 前編

翌日。昨夜連絡を受けた時間の5分前に部長が俺の家に訪れ、その後朱乃さん・小猫ちゃん・木場の3人が住むマンション――グレモリー家が所有する建物らしく、住人は全員グレモリーの関係者らしい。――の前で合流。魔方陣でグレモリー家が人間界で所有する別荘がある山のふもとまで転移した。

 

別荘まで直接転移しない理由は簡単。ゲームの最前線で戦う事が確定している俺・木場・小猫ちゃんの3名の基礎体力作りの一環として山登りをするためだ。

 

当然ただの山登りではなく、身体負荷を上げるために俺達3人はそれぞれの着替えや大量のトレーニング用の荷物が入った巨大リュックサックを背負った状態で別荘に向かうと言われた。

 

リュックの大きさもそれぞれの駒特性に合わせた物になっている。駒特性で特化する部分がないものの、ブーステッド・ギアの性質を考えて俺が荷物全体の2~3割ほどを持ち、木場も俺と同じサイズのリュックを背負っている。

 

残りの半分近くは体格的には最も小柄ながら『戦車(ルーク)』の恩恵で怪力を発揮できる小猫ちゃんが背負っており、見た目のインパクトなら一番だろう。

 

ゲームに向けた修行が目的なのでこうなる事は予想の範囲内であり、不満の類は一切ない。

 

もっとも急勾配の山道を長時間歩く際の体力消費はバカにならないもので、3時間も歩いていると息がきれ始めてしまい、同じように荷物を背負っている木場や小猫ちゃんに遅れないようにするので精いっぱいだった。

 

「イッセーさん、お水です」

「……助かるよ、アーシア」

 

何度目かの小休止の最中にアーシアが水筒を差し出してくれたのでそれを受け取り、水分を補給しながら俺と同じように小休止をしている木場や小猫ちゃんの様子を確認すると、木場は途中で脇道にそれて摘んできた山菜を部長達に差し出し、小猫ちゃんも平然とした表情をしていた。

 

「あの……やっぱり自分の荷物くらい自分で持ちます」

 

そうしているとアーシアが自分の荷物を持つ事を提案してくる。

 

申し出としてはありがたい部分があるのは否定できないが、基礎体力がそこまで高くないアーシアにとってはただ山を登るだけでそれなりに負担となっているはずなので、丁重に断っておく事にする。

 

「これくらいならまだ持てるから大丈夫だし、無理をするつもりはないから安心してくれ。一番デカイリュックを背負ってる小猫ちゃんに比べれば軽い方だしな。……それに、アーシアだって初めての山登りで疲れてるだろ? 無理はさせられないさ」

 

これだけの量の荷物を背負って山道を歩くのはそれなりに厳しいものの、今のペースでも何とかなる範囲なので出来る限り木場達のペースに合わせていくつもりだ。

 

「……わかりました。けど、辛い時にはちゃんと言ってくださいね」

「アーシアの言うとおりよ、イッセー。それに、別荘に着いたらすぐに修業を始めるつもりだから、ここで体力を消耗しすぎないように注意しておきなさい。自分の体力に合わせたペース配分を考えるのも修行の内よ」

 

修行の主催者である部長がこう言っている以上、本当に別荘に着いたら修業を始めるつもりなのだろう。別荘でどういった修業をするかは未知数だが、アドバイス通り歩くペースを落として少しでも体力の消費を抑えておいた方がよさそうだ。

 

「……了解です。少しペースを落とす事にします」

「もう少しで到着するから頑張りなさい、イッセー。……それじゃあ、出発するわよ」

「「「「「はい!!」」」」」

 

部長の合図を聞いて俺達5人は再び山道を歩き始め、30分後には目的地である別荘にたどり着く事ができた。

 

木造の別荘は今日から10日間は俺達が使用するのでその姿を現せているものの、普段使用しない時には魔力によって周囲の風景と完全に同化させる事で悪魔の存在を知らない一般の人々に対して隠蔽されるようになっているらしい。

 

別荘内のリビングでトレーニング用に持ち込んだ荷物を下ろし、水分補給をしながら男女で使う部屋の場所を決め終えると山道で部長が言っていた通りすぐに修行を始める事になったため、木場と一緒に指定された部屋でトレーニング用のジャージに着替えてからもう一度リビングに向かうと、部長を含めた女子メンバー全員は既にジャージに着替えて俺達が来るのを待っていた。どうやら俺達の方が遅かったようだ

 

「皆準備できたようね。それじゃあ外で修業を始めましょうか」

 

笑みを浮かべて部長がそう呟き、本格的な修行が始まるのだった。

 

 

 

 

 

―○●○―

 

 

 

 

 

俺は初めに木場を相手に剣術訓練をする事になったのだが、剣の振るい方などの基本事項は日頃の営業活動の合間に教えられていたため、修行内容もより実戦を想定した形式で行う事となった。

 

具体的に言えば木場が自分の神器で刃引きした剣を造り、それを使って模擬戦形式で修業をする事になった。

 

刃がついていないとはいえ魔剣である事に変わりはなく、当たり所が悪ければ骨折くらいはする事になるのだろうが、その場合は負傷者の治療を得意とするアーシアの出番だろう。

 

地力の強化が目的なので、ブーステッド・ギアの使用に関しては部長の許可がない限りは原則的に使用禁止となっているので、素の身体能力を駆使して木場と剣術戦を行う事になったのだが、内容としては(いさぎよ)い位に一方的な展開だった。

 

俺が打ち込んだ攻撃の殆どは容易に避けられ、たまに直撃させられそうな攻撃も紙一重で防がれてしまったのだが、木場はこちらの隙を的確に捉えた上で騎士(ナイト)が持つ最大の長所であるスピードを活かして俺が捌ききる事が出来ない速度での連続攻撃を何度も行ってきたため、かなりあっさりと倒される事になった。

 

おまけにジャージの所々は破れ、体中のいたるところに青痣を作ってしまったので踏んだり蹴ったりである。

 

「木場。素人相手に全力で襲ってくるか、普通? もうちょっと手加減してくれてもいいと思うんだが」

 

模擬戦は俺の負けで終わったので、体を起こしながら木場に文句を言う。

 

「威力はこれでも殺している方だよ。骨折となると、いくらアーシアさんでも治療に時間がかかるだろうからね。技量の事を言っているのなら、諦めてもらうしかないかな。イッセー君は喧嘩……言ってしまえば同等の身体能力を持つ人物との戦闘経験こそ豊富みたいだけど、一方的に勝ちすぎて打たれ慣れていないようだからね。この際、痛みを我慢しながら戦う方法も覚えた方がいいと思うよ」

「祐斗の言う通りよ、イッセー。加えて言うならゲームの本番ではこちらの方が駒数が少ない以上、無傷でいられる時間の方が短い事は簡単に予想できるわ。そうなった時の為に、ダメージを負った状態でもある程度動けるようになっておいた方がいいと思うの」

 

二人の意見は至極真っ当なものだ。まだ人間だった時にしていた喧嘩ではブーステッド・ギアの恩恵によってほぼ無傷で勝っていたので痛みに対する耐性はあまりついていないし、数で劣る俺たちはゲームの本番で戦闘中に負傷する確立が高く、負傷状態で連戦になる可能性はかなり高い。今の内に慣れておかないとゲームの本番で痛い目にあう事になるのは明白だった。

 

「……そこまで考えられてるなら、これ以上は何も言いませんよ」

 

そう言いながら立ち上がろうとするものの、そうやって動こうとするだけで体の節々が痛む。

 

だが、それに慣れる事を主目的としている以上、一々泣き言を洩らすのもかっこ悪い。痩せ我慢をしながら近くに転がっている模造剣を掴んで立ち上がり、剣を構える事でこのまま修業を続行する意思を伝える。

 

「痛いかもしれないけど我慢してちょうだい、イッセー」

「立てるようだし、もう一本行こうか、イッセー君」

「おう。せめて一撃くらいは当ててやるよ」

「それじゃあ…………始め!!」

 

部長からの掛け声がかかったので、再び模擬戦を開始する。

 

結果だけ言えば俺の負けだったし、その後も何度か模擬戦を行ったが、結局1勝もする事が出来なかった。

 

この日の模擬戦を通じて基礎を(かじ)っただけの俺の剣術は実戦で使用できるレベルに達していない事は嫌という程理解できたので、ゲームの本番では喧嘩の経験を少しでも活かせる素手による格闘戦を行った方がまだ効率的だと思った。

 

それは終始模擬戦を見学していた部長も感じたらしく、木場との修業の内容も素手で剣士と戦う時にはどういった点に注意すべきかを実戦で訓練していく方向で決まり、この日の木場との修業はお開きとなった。

 

 

 

 

 

―○●○―

 

 

 

 

 

木場との修業を終えた俺はアーシアに怪我の治療をしてもらった後、スペアのジャージに着替えてからアーシアと一緒に別荘内で魔力運用の修行準備を進めていた朱乃さんのもとへ向かう事にした。

 

アーシアが同行している理由はいたって簡単。俺と一緒に魔力運用の基礎を学ぶためだ。

 

「それじゃあ修業を始めましょうか。まずはイッセー君、おさらいも兼ねてアーシアちゃんに魔力の集め方を教えてあげてちょうだい」

「了解です」

 

基礎の基礎の復習も兼ねて朱乃さんがそう言ってくるので、了承の言葉を返してから魔力の集め方を説明する為にアーシアのいる方に向き直る。

 

「アーシア。今から魔力の集め方を説明するから、しっかり聞いていてくれ」

「わかりました。よろしくお願いしますね、イッセーさん」

「おう。まずは成功例を先に見せておくな」

 

具体例がないとアーシアもどうすればいいかわからないだろうから、ドラゴン波もどきを撃つ前準備で行っている魔力球の生成を実演する。

 

全身のオーラから魔力を集めていき、右手のひらに流れていくイメージを思い浮かべると、掌の上にピンポン玉とほぼ同じ大きさの赤い魔力の塊が浮かび上がる。

 

「成功すれば、こんな感じに自分の魔力の色で出来た球が出来るんだ。俺は魔力の才能はあまりないみたいだから全力で魔力球を作ってもこんな大きさだけど、才能があれば魔力球の大きさは自在にコントロールが出来るらしい」

 

営業中の待ち時間に朱乃さんがサンプルとして見せてくれた時にはビー玉程度の小さな物からバスケットボールよりも大きいサイズの物を同時に複数見せてくれたが、俺にそこまでの才能はないのでこれで我慢してもらうしかない。

 

「成功例も見せた事だし、魔力の集め方の準備から説明していくぞ。まずは自分の動きを邪魔しない透明な膜が体の周りを覆うように浮かんでいる姿をイメージしてくれ」

 

集中の邪魔になるかもしれないので、敢えて不自然な流れのイメージを浮かべる事で魔力球を霧散させ、本格的に魔力の集め方を説明していく。

 

アーシアがドラグ・ソボールを読んだ経験があるなら『気』や『オーラ』と説明してしまえば簡単なのだが、元教会暮らしでその手のサブカルチャーに触れた事はないだろうから比較的想像しやすそうなイメージを伝える。

 

「体を覆う透明な膜……ですね。やってみます」

 

アーシアはそう言いながら一度目を閉じて俺が伝えた通りのイメージを思い浮かべようと集中し始めたので、それが終わるまで待つ事にする。

 

「…………イメージできました。次はどうすればいいんですか?」

「その浮かんでいる膜は、自分の意思である程度動かす事が出来る。膜全体から少しずつ、ゆっくりでいいから自分が動かせる分だけ、なるべく自然な流れで手のひらの方に動かして、球の形にまとめていくんだ」

 

魔力を集める事に慣れていないと、この段階で自分の制御能力を超える量を集めようとして失敗したり、流れ方のイメージが不自然で失敗してしまうので注意する必要があるのだが、アーシアの手のひらに浮かび始めた淡い緑色をしたソフトボール大の魔力塊を見る限り、心配ないようだった。

 

「できました!!」

 

自力で集められるだけのの量の魔力を集めたアーシアは目を開くと、嬉しそうな笑顔を浮かべて魔力塊を差し出すようにしながら俺に見せてきた。

 

「一回で成功させるとは……すげぇな、アーシア」

 

先に挙げた失敗例は営業の待ち時間に行っていた小規模訓練中に俺が自分でやってしまった事なので、一度も失敗する事無くすんなりと成功させてしまったアーシアには驚かされるばかりだ。基礎の基礎でこの調子なら、今俺が手こずっている基礎項目もあっさりと成し遂げられるだろう。

 

「教え方が上手だから出来たんですよ。ありがとうございます、イッセーさん」

「お見事ですわ、アーシアちゃん。魔力の才能があるかもしれませんわね。イッセー君もアーシアちゃんの言う通り、上手な教え方でしたよ」

「二人からそう言ってもらえると、少しは自信がつきますよ」

 

あまり褒められ慣れていないので気恥かしいが、賛辞は素直に受け取っておく事にする。

 

「アーシアちゃんも普通に魔力を集められるようですし、次のステップとして集めた魔力を炎や水、(かみなり)に変化させられるように頑張りましょうか。これらはイメージから直接生み出すこともできますが、慣れないうちは実際の火や水を魔力で動かすほうが上手くいくでしょう。見本を見せてあげますね」

 

朱乃さんはそう言いながら机の上に置いてあったペットボトルの上に手をかざして魔力を送り込む。

 

 

ザシュッ!!

 

 

たったそれだけの動作で水が鋭い(とげ)と化し、ペットボトルを内側から破ってしまった。

 

「アーシアちゃんは次にこれを真似してくださいね。私はイッセー君の補助をしていますから、困った事があったらすぐに声を掛けてください」

「イッセーさんの補助、ですか?」

「ああ。俺も少し前からこの訓練をやってるんだけど、起こしたい現象を理論的に考えすぎててイメージ通りに行かない状態なんだ」

 

俺は『魔力をそのままエネルギーとして利用する』事は比較的簡単にできたのだが、次のステップである『魔力を用いて自分の思い通りの現象を起こす』事はかなり苦戦している。

 

最終的に発生させたい現象こそ即座にイメージできるものの、いざ魔力を発現させるとイメージした現象を縮小、ないしは大幅に小規模化させたものしか発生させる事が出来ない。

 

例えば、俺が先ほどの朱乃さんのようにペットボトルの中の水を棘状にして破ろうとして魔力を送ると、実際に発生する現象は調子がいい時でもペットボトルが内側から少したわむ程度で、基本的には内容物が動いた事でペットボトルが僅かに揺れるくらいに規模が縮小化してしまう有様だ。

 

しかも、苦労して発生させた規模の小ささに反して消費する魔力の量はかなりのものなのでどう考えても割に合っておらず、どこかで大幅に魔力をロスしている事は明らかだった。

 

おまけにイメージする規模を小さくすれば途中にロスする分で全ての魔力を消耗してしまい、結果として望んだ現象を発生させられない事も多いので非効率極まりないのだが、その原因は俺の頭の中にあるようだ。

 

全く意識していないのだが、俺は発生させたい現象をイメージするのと同時に『望んだ事象を発現するにはどうすればいいか』を頭の中で計算してしまっているらしい。

 

その計算している部分が魔力にイメージが伝わるのを邪魔している結果、『イメージした現象を縮小、ないしは大幅に小規模化させたものしか発生させる事が出来ない』という事態になっていると数日前の小規模訓練中に朱乃さんから説明を受けた。

 

「悪魔になって間もないイッセー君の中では、まだ『魔力』と『魔法』の定義が曖昧なのでしょう。その結果、今回のような事が起きているのだと思いますわ」

「魔力と魔法……その二つって、そんなに違いがあるものなんですか?」

「ああ、最終的に起きる現象こそ同じだけど、そこに至るまでの道のりが全く違うんだ。例えば――」

 

アーシアが小首をかしげながら魔力と魔法の違いを訊いてくるので、以前朱乃さんから教えてもらった二つの能力の違いについて説明していく。

 

魔法というのは『悪魔の持つ魔力を悪魔以外の存在が使えるようにしよう』という考えの基に生まれた能力の事で、術式や法式を常に計算する演算能力が重要になってくる。

 

当然、使用者のイメージ力が重要になる魔力とは必要とされる資質も変わってくるのだが、悪魔になって間もない俺の中ではこの二つの能力についての線の引き方が未だに曖昧な為、魔力を扱うのに必要のない演算を行ってしまい、結果として魔力の使い方が非効率的になってしまっているようだ。

 

「――魔力と魔法の違いについてはこんな感じだな。魔法の基礎を覚えて混同しないようにするのがベストなんだろうけど、朱乃さんも魔法に関しては門外漢に近いみたいだから、智恵を貸してもらいながら頭を使わずにイメージだけで出来そうな魔力を探すか作るかしようって事になってるんだ」

 

具体的には俺の『得意なもの』や『いつも想像しているもの』を利用してオリジナルの魔力を編み出すか、そこそこ有名な魔力を片っ端から使えるかどうか試していくつもりだ。

 

「……イッセーさんも大変なんですね。私よりいろいろな事を知っていますから、今からやろうとしている事も出来るものと思いこんじゃってました」

「評価してくれるのはうれしいけど、俺はアーシアが思っている程万能じゃない。出来ない事や不得意な事だって人並にはあるよ」

 

魔力の扱いについてはそういった『不得意な事』の一つだ。克服できるように努力はするが、失敗する確率が0でない以上は成功を約束する気もない。

 

「アーシアちゃんも魔力と魔法を混同しないように気を付けてくださいね。魔力の源流はイメージ。とにかく頭に浮かんだものを具現化させることこそが大事なのです」

「はい。何かわからない事があったら、声を掛けさせてもらいますね。イッセーさんも頑張ってください」

「そうしてくださいな」

 

朱乃さんの返事を聞いたアーシアは俺達が集中しやすいようにペットボトルをいくつか抱えて少し離れたテーブルに移動していき、一人で練習を始めた。

 

「それじゃあ、イッセー君も練習を始めましょうか。まずは、イッセー君が得意なものやいつも想像しているものを教えてくださいな」

 

『得意なもの』や『いつも想像しているもの』なら即座にイメージできて演算せずに済む確率が高いので、前回の小規模訓練が終わる直前に考えておくように言われていたのだ。

 

「腕っ節の強さについては少しは自信がありますね。いつも想像しているものは…………あるにはありますけど、魔力の発現にとっては間違いなく役に立たないものだと思いますよ?」

 

なにせ、『いつも想像しているもの』として真っ先に思い浮かんだのが異性の裸を筆頭にしたエロ関係全般、ぶっちゃけてしまえば妄想の(たぐい)だ。こういった場面でなくとも役に立つ確率の方が低い。

 

「それは内容を聞いてみない事には判断できませんから、教えてくださいな」

「……わかりましたよ。――」

 

朱乃さんは相変わらずのニコニコ顔で俺がいつも想像しているものの内容を訊いてくるので、仕方なく小声で耳打ちする。

 

「…………あらあら、イッセーくんも男の子ですわね。それに、役に立たないわけではありませんわ。イメージする内容によっては、魔力として発現させる事も十分に可能でしょう」

 

朱乃さんは聞いた直後こそポカンとした表情をしていたが、いつもの微笑みを浮かべてそう言った。

 

「マジですか!? なら、普通にやろうとしたらそれなりに苦労しそうなあんな事も…………やろうと思えば出来るんでしょうけど、絶対に顰蹙(ひんしゅく)買いますよ? 戦術的に見ればかなり有用だとは思うんですけど、ゲームとしてはあり…っていうか、やっていいんですか?」

 

魔力の持つ応用力の高さを聞いて理性のタガが外れかけ、瞬時に一つエロ技が思い浮かぶ。

 

ただし、魔力も対象となる女性に与えるショックも同時に想像してしまい、実現させていいものか悩んでしまう。

 

「一体どういった魔力を考えたんですか、イッセーくん? 教えてもらわないと、わかりませんわ」

「あ゛ー…………多分無理でしょうけど、軽蔑しないでもらえると助かります。――」

 

朱乃さんが思い浮かんだ魔力の内容を訊いてくるので、前置きとしてそう言ってから先ほどと同じように耳打ちで思いついた魔力の内容である、『触れた異性の服を破る』能力を教える。

 

「軽蔑なんてしませんから安心してくださいな。私は思春期の男の子らしくてかわいいと思いますよ? それに、せっかく思い浮かんだイメージですもの。イッセーくん独自の魔力として、しっかりとモノにすべきですわ。今、練習に必要な物を持ってきますわね」

 

朱乃さんは俺が思い浮かべた魔力の内容を聞いてそう言うと、修業に必要な物を持ってくるために一度部屋を出て行った。

 

《相棒。魔力が思い浮かんだのはいいが、触れた女の服を破くだけというのは少しばかり用途が限定され過ぎではないか? もう少し対象の幅を広げたらどうだ?》

(男の服も破けっつーならお断りだぞ。野郎の裸なんぞ見たって気持ち悪いだけだっつーの)

 

朱乃さんを待っている最中にドライグが思いついたばかりの魔力について意見を述べてきたので、言ってきそうな事柄を予想して釘を刺しておく。

 

《それについては最初から諦めているから安心しろ。俺が言いたいのは女の服だけでなく、敵の持つ武器も破壊対象に加えれば魔力の汎用性が高まるのではないかと思っただけだ》

(武器も一緒に、か。…………チャレンジはしてみるが、失敗しても文句は言うなよ?)

《俺も(はな)から出来るとは思っていない。どうせやるなら、少しでも戦闘の役に立つ方向でやってほしいだけだ》

(へいへい。……まあ、やるだけやってやるさ。イメージの仕方を考えれば、それ位はなんとかなりそうだしな)

 

そんな事をドライグと話していると、朱乃さんが魔力で段ボールを浮かせながら部屋に戻ってくる。

 

「その段ボールの中身が練習用の物ですか?」

「ええ。出来る限り魔力を使って処理してくださいな」

 

そう言いながら朱乃さんは俺の目の前に段ボール箱を置くので中を覗いてみると、じゃがいも・人参・玉ねぎといったカレーの具材一式が入っていた。

 

「なるほど、昼の仕込みも兼ねてるって事ですか」

「大変だとは思いますが、頑張ってくださいね。私はアーシアちゃんの様子を見てきます」

 

朱乃さんとそんなやり取りをした後、俺は思い浮かんだ魔力を発現できるようにイメージしながら野菜の仕込みに取り掛かる。

 

要は野菜の皮を相手の服に見立てて、皮だけを破るようなイメージを行えばいいのだ。

 

箱の一番上に置いてあったじゃがいもを手に取り、目をつぶってイメージを開始する。

 

さすがに仲間をイメージの対象にするのは気が引けるので、ライザー眷属の中でもある程度の布面積がありながらも地味に露出度が高く、ボディラインがわかりやすかったチャイナドレスのおねーさんを思い浮かべる。

 

(服を着た女の人……勢い良く破れる服……素っ裸の女の人……)

 

あの地味に露出度が高いチャイナドレスが一瞬にして破れ、おねーさんが素っ裸になる姿をイメージする。

 

 

ビリィッ!!

 

 

至近距離で何かが破れる音がしたので目を開けると、綺麗に皮だけが破れたじゃがいもの姿があった。

 

「おお、上手くいった」

 

発生させたい現象をしっかりイメージできていたからかロスの類は一切起こっておらず、疲れは殆どない。

 

今の感覚を忘れたくないので、早速次の野菜を手にとってイメージを再開する。

 

(服が……破れて……素っ裸……。服が……破れて……素っ裸……)

 

 

ビリっ、ビリィっ!!

 

 

一心不乱に野菜を手にとってイメージを続け、皮むきと言う名の洋服破壊訓練を続けていく。

 

「イッセーくん。もう充分な量が出来ていますから、皮むきをしなくてもだいじょうぶですよ」

「……へ? 朱乃さん、何か言いました?」

 

肩を軽く揺さぶられながら話しかけられたので、イメージを続けたまま朱乃さんの言葉に反応する。

 

 

ビリビリぃっ!!

 

 

「……あら?」

 

意識を朱乃さんに移しながら魔力を発動させてしまったため、手に持っていた野菜の皮ではなく下着を含めた朱乃さんの着ていた服全てを勢いよく引き裂いてしまった。

 

「あ……ご、ごめんなさい!! 暴発させちゃいました!!」

「あらあら。気にしなくても大丈夫よ、イッセーくん。予め魔力の詳細を聞いていたのに不用意に話しかけた私も悪かったのですから。着替えてくるので、少し待っていてくださいな」

 

とっさに謝るが朱乃さんは気にした様子もなく、いつもの笑顔のままそう言うと着替えの為に部屋を出ていった。

 

「お待たせしましたわ。先ほどの状況を顧みてみたのですが、修行は上手くいっているようですね」

「……はい。それと、服を破ってしまってすいませんでした、朱乃さん」

 

5分ほどで戻ってきた朱乃さんの言葉に対して、肯定しつつももう一度謝っておく。

 

「もう一度言いますが、イッセーくんが気にする必要はありませんよ。それどころか、練習とはいえ自身の思い描いたイメージを魔力として早期に発現させた事を誇りに思うべきですわ。後は戦闘中にも練習中に行っていたイメージを想像する事ができれば実戦投入が可能になるのですから、今のペースで修業を積めば10日後のレーティングゲームにも十分間に合うでしょう。頑張ってくださいな、イッセーくん」

 

いつもと変わらない声色でそう言う朱乃さんの態度を見る限り、本当に怒っていないのだろう。

 

それなら、いつまでも気負っている方が失礼だ。暴発防止策を含めて、一刻も早く魔力を完成させるとしよう。

 

「時間もちょうど良いですから、魔力の訓練はここまでにしてお昼の準備を進めてしまいましょう。イッセーくんも手伝ってくださいね」

「わかりました」

 

部屋に備え付けの時計を見てみると確かに昼が近くなっていたので、魔力の訓練はそこまでにして組み手を行っていた木場と小猫ちゃん、二人の監督役を務めていた部長と合流し、部員全員で昼食の準備に取り掛かった。




そんなわけで、今回はここまで。

同時に、連続更新もこれで終了となります。

以降は本文が書きあがってから随時更新になるのでかなりお待たせする事になると思いますが、ご容赦いただけると幸いです。
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