もしドラ~もしもドライグが早く目覚めていたら~   作:ショウゴ

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お待たせしました、今回は修行エピソードその2となります。

まずは本編をお楽しみください。


14 修行開始 中編

昼食を食べ終えて一休みし終えた俺達は、再び修業を再開する。

 

午後の修行の一つ目は格闘能力の向上と実戦の空気を感じ取る為に、小猫ちゃんとの組手を行う事になった。

 

「よろしくお願いします、先輩」

「ああ。よろしく、小猫ちゃん。――ルールはどうする?」

「ゲームまで10日しかありませんから、基本的には実戦と同じ条件で行きます。私かイッセー先輩のどちらかが戦闘不能と判断できる状態になるまで、ひたすら殴り合いです」

「魔力の使用は?」

「実戦形式なので、使える物があるなら使ってもらって構いません」

 

魔力もアリなら一休みしている間に魔力を暴発させない方法も考えておいたし、実戦で発動させられるかの練習も兼ねて午前中に考えた魔力を使わせてもらうとしよう。

 

「了解。午前中から練習してる魔力が一つあるから、実戦でも使えるか試させてもらうよ」

「一応、どんな魔力か聞かせてもらえますか? 危険すぎる魔力なら、別途練習時間を取った方がいいと思うので」

 

危機管理を考慮して小猫ちゃんはそう言っているのだろうが、魔力の内容が内容なので女の子の小猫ちゃんに伝えていいものか迷ってしまう。

 

「あー……物理的な危険はないよ。それは約束できる」

「そういう言い回しをするって事は、物理以外の面で危険があるんですよね? そこを教えてもらわない事には、判断ができません」

 

小猫ちゃんは極めて冷静な表情でそう言った。こうなってしまっては、正直に言うほかないだろう。

 

「……わかった、正直に言うよ。練習中の魔力っていうのは、戦闘中に触った女性の服、ないしは相手の武器を問答無用で破壊する力だよ」

 

一度発動対象に接触する必要があるので、発動条件が厳しくなった代わりに暴発の危険性はなくなったと思いたい。

 

意を決して魔力の内容を伝えると、それまで無表情気味だった小猫ちゃんの表情が一気に引いた物に変わる。

 

「先輩、言わせてもらっていいですか?」

「我ながら自分の欲望丸出しのスケベな魔力だっつー自覚はあるよ。ただ、ライザーの眷属達には100パーセント通じる有効な魔力だろ?」

 

武器破壊は試していないので未知数だが、洋服破壊は女性に対して抜群の効果を発揮する。

 

突然裸にされれば驚きでしばらくは動けないはずだし、全裸で戦うには相当の覚悟がいるはずなので、この魔力をくらった相手は実質的に無効化できる。

 

眷属全員が女性で揃えられているライザーのチームに対しては、かなり効くはずだ。

 

「それでも言わせてください。イッセー先輩のドスケベ」

 

まったくもってその通りだ。反論のしようもない。

 

「おう。ただでさえ悪名高くて嫌われてるのに自分から嫌われる要素を増やすのも馬鹿らしいから普段は隠してるだけで、素はかなりスケベだよ、俺は」

「開き直らないでください」

 

せっかくなので素の性格をカミングアウトしたのだが、ばっさり切り捨てられた。

 

「それで、この魔力は使わせてもらってもいいかな?」

「……別に構いません。要は先輩の攻撃に当たらなければいいだけですから」

 

小猫ちゃんは僅かに黙考した後、魔力の使用を許可してくれた。

 

「ありがとう。改めてよろしく頼むよ、小猫ちゃん」

 

純粋な殴り合いになったらある意味では俺の方が不利なので、それを覆す手段を許可してくれた小猫ちゃんにお礼を言っておく。

 

小柄な体格というのは体重が軽いので自然と身軽になり、結果として小回りも利きやすくなるし、身体の表面積が狭いので攻撃が当たりづらいメリットがあるものの、筋肉の絶対量が少ないので単純な打撃力はどうしても低くなりがちになり、一撃あたりのダメージ量も低くなるデメリットも存在する。

 

だが、それらのデメリットを補うように小猫ちゃんには攻撃力と防御力を上昇させる戦車(ルーク)の駒が与えられている為、冷静に考えるとかなり厄介だ。

 

おまけに俺と小猫ちゃんの間には30センチ近い身長差があるので懐に潜り込まれる機会も多くなる事が予想され、深刻なダメージを受ける可能性が高い。相性だけを考えるなら、相当悪い部類だろう。

 

いつもの感覚で戦うと、間違いなく俺の方が不利だ。

 

ただ、ライザーの眷属にはそういった見た目ちっちゃな女の子が数名いたので、小猫ちゃんとの組手はそういった小柄な人物への対策を練るにはちょうどいいはずだ。

 

そういった意味でも、感謝の念は絶えない。

 

「…………行きます」

 

僅かな羞恥と多分の呆れが込められた声色で模擬戦開始の合図をされると同時に、小柄な体躯故の俊敏性を活かして小猫ちゃんが突っ込んでくる。

 

小猫ちゃんに勢いがつくのを少しでも防ぐために俺もダッシュして、彼我の距離を少しでも詰める。

 

「えい」

 

そうしてお互いの拳が届くほどの至近距離に達すると、小さな掛け声とともに小猫ちゃんはみぞおち目掛けて右のボディブローを打ちこんでくる。

 

急所を鍛えるのは難しいので迎撃せざるを得ないし、体格差を活かして急所を狙ってくるのは読めていたので拳を払うために左手を振るうが、小猫ちゃんはすぐに右拳を引っ込めて左拳で俺の脇腹を狙ってくる。予想通り、ボディブローはフェイントだった。

 

脇腹に一撃を貰うと色々な意味で苦しくなるので身体を右にひねって少しでも打点をずらし、腹筋を締めて拳の威力に備える。

 

 

ドゴッ!!

 

 

小柄な体格からは予想も出来ない重い音を立てて腹に拳がめり込み、その威力で1メートル近く吹き飛ばされる。

 

「まだです」

 

そう言いながら小猫ちゃんは追撃のために再度駆け出してくる。

 

「いや……、これで終わりだよ。崩壊(ブレイク)!!」

 

(うずくま)りたくなる衝動を必死に押し殺しながら小猫ちゃんの纏っている体操服とブルマが一瞬にして破れ、裸体になる姿を想像しながら魔力を発動させる。

 

 

ビリィッ!!

 

 

上手くイメージできているか心配だったが何とか発動してくれたらしく、布の裂ける音と共に小猫ちゃんの纏っていた服が一瞬で破れていく。

 

「え? …………きゃあっ!?」

 

いきなり服が破れてしまった事に呆然としていた小猫ちゃんだが、裸にされた事を認識すると自分の身体を抱いて大事なところを隠しながら、その場にしゃがみこんだ。

 

「えーっと……その姿じゃ戦闘続行は無理だろうから、俺の勝ちって事でいい?」

「……それで構いませんから、もう一度言わせてください。先輩のドスケベ、ド変態」

「うん、自分で発動させておいてなんだけど、この魔力は味方に向けるべき物じゃない事は理解できたよ」

 

味方に使うと、罪悪感で相当ヘコむ。

 

「ごめん、小猫ちゃん。とりあえず、これ羽織ってて。朱乃さんか部長に頼んで、着替えを用意してもらって持ってくるから」

 

小猫ちゃんに近づきながらジャージの上着を脱ぎ、彼女に渡す。

 

「その前に訊かせてください。先輩はどうやって魔力を発動させたんですか? さっき言った条件だと、戦闘中に異性に触れなければいけないはずです」

 

蹲ったまま渡したジャージを羽織りながら、小猫ちゃんは恨めし気な表情でそう問いかけてくる。

 

「ああ、それ? 俺自身できるかどうかは半信半疑だったから挑戦してみたんだけど、仮称・洋服崩壊(ドレスブレイク)は『俺が異性に触れた』と認識するのが発動の前提条件だから、戦闘中に殴られたり蹴られたりした時にも『異性に触れた』って認識できるか、ダメージを受けた状態でも魔力を発動させられるか試してみたんだ」

 

特に後者は戦闘中に痛みに耐えながらエロい事を考えなければいけないので上手くイメージできるか心配だったのだが、自分でもびっくりするくらいスムーズにイメージできてしまった。

 

「……つまり、先輩は私からの攻撃を受けた時に『私に触れた』と認識する事で前提条件を満たし、魔力を発動させたわけですか」

「言葉にするとそうなるね」

「女性で前線に立っている悪魔にとっては、防ぎようがないじゃないですか。先輩を殴ったり蹴ったりするだけで裸にされる下準備が整うとしたら、(たま)ったものじゃありません」

「うぐっ。ディスられるって事は、使われると不快なんだよね?……やっぱ、一般的な魔力で適性がある物を探した方が良かったかな?」

 

魔力方面は才能がないのでこれ以外の魔力を使おうとすると相当なロスが出るし、そもそも他に使える魔力があるかは疑問が残るのだが、拒否されている事を考えると他の道を探した方が良いように思えてしまう。

 

『せっかく考えた魔力なんだ、存分に利用すればいいじゃないか、相棒。過去が過去故に世間体を気にするのは理解できないわけじゃないが、それを気にしてばかりで己の意見を容易く曲げるのは愚かでしかないぞ。今の相棒は悪魔として動いているんだ、人間社会でのしがらみなど忘れてしまえ。己の欲を否定する悪魔など、失笑すら浮かばん』

 

ドライグなりに考えがあるからかブーステッド・ギアを自動的に展開して小猫ちゃんにも聞こえるようにそう言うと、小猫ちゃんは蹲ったまま数秒間黙考した後で口を開く。

 

「悪魔は欲を持ち、欲を(かな)え、欲を与え、欲を望む者。――イッセー先輩はこの言葉を聞いた事がありますか?」

「いや、初耳だけど。誰の言葉?」

 

語感を聞く限りだと人間界の偉人の言葉ではなさそうだから、冥界の(ことわざ)だろうか?

 

「私が悪魔へ転生した時に、部長から聞かされた言葉です。この後に、好きに生きてみなさいとも言われました。その言葉通り、私は悪魔として動いている時は自分が感じた事、思った事を素直に表現しています。先ほどまでの言葉も先輩が思った以上にスケベだと感じたからだし、使われた魔力も厄介極まりなかったからああ言ったんです。それ以上の意味は込めていなかったんですが、否定されているように感じてしまったなら謝ります。ごめんなさい、イッセー先輩」

「俺が勝手に穿(うが)った解釈をしただけなんだから気にしなくていいよ、小猫ちゃん。――ひとまず話をするのはここまでにしてもらっていいかな? 着替えを用意してもらわないと、修行どころじゃないだろうしね」

「お願いします、先輩」

 

小猫ちゃんからの了承も得られたので、ブーステッド・ギアの展開を解除してから一度別荘へ戻る。

 

「イッセー? 小猫と修行中のはずよね、一人でどうしたの?」

 

その途中で僅かに汗をかいた部長と遭遇した。どうやら部長も自主トレの最中だったようだ。

 

「実は修行中に小猫ちゃんの服を盛大に破っちゃったんで、着替えを取りに戻る所なんです。トレーニング中のところ申し訳ないんですが、男の俺が女子部屋に入るわけにもいかないので部長に持ってきてもらいたいんですが、大丈夫でしょうか?」

「それ位は構わないわ。ただ、どうしてそうなったかを移動しながら聞かせてもらえるかしら? 修業期間は限られているのだから、原因次第では対策を考えておく必要があるわ」

「あ゛~~……、わかりました。前後の経緯を含めて説明します。――」

 

修業を始める前の小猫ちゃんと似たような理由で部長にも説明を求められてしまったので、別荘に戻りながら午前中に行った魔力修行の解説も含めた一部始終を部長に話す。

 

「――。そんなわけで、小猫ちゃんの着替えを取りに戻ってきたわけです」

「また凄い魔力を考えたわね、イッセー。……念の為に確認しておくけど、破ってしまった服以外の被害は出していないのね?」

「ええ。小猫ちゃんも朱乃さんも服を破ってしまった後の動きに不自然なところはありませんでしたから、怪我らしい怪我は負っていないはずです」

「それならいいわ。……ただ、今後は模擬戦の最中に使用するのは出来る限り自粛してちょうだい。有効な場面は多いとは思うけど、修業期間の限られている合宿中に使われるとそれだけで後始末に時間を取られる事になるわ。専用の練習時間を別途用意するから、あなたの新しい魔力はその時に練習して。いいわね?」

「あ、はい。わかりました」

 

苦情の一つくらいは言われて当然だと思っていたので報告を終えた後は内心気構えをしていたが、告げられた苦情は後始末に関するものであり、魔力その物は拍子抜けするレベルであっさりと認められてしまった。

 

「釈然としない顔をしているけど、どうしたの、イッセー?」

「え、えっと……。考えた俺が言うのもおかしいかもしれませんが、魔力の内容が結構スケベなんで、苦情の一つも言われる物だと思っていたんですが……」

「そうかしら? 私はかわいいモノだと思うわ。……ただ、公式のレーティングゲームにデビューした後は使用を自粛した方がいいでしょうね。純血の悪魔はさほど気にしないでしょうけど、今の悪魔社会は人間からの転生悪魔も多いから批判の元になりかねないし、イッセーがそういった魔力を使える事が大々的に報じられたら対戦してくれる相手がいなくなってしまう可能性も否定できないわ」

 

悩ましげな表情でそう告げてくる部長の様子を見る限り、一定の有用性は認めてくれているものの、扱いに困っている部分もあるようだ。

 

「将来的にはともかく、今度のゲームで使う分には問題はないんですよね?」

「ええ。幸いといっていいのかはわからないけど、今度のゲームは非公式な物だから細かなルールが設定される可能性は低いはずよ」

「わかりました。そういう事なら、ひとまず合宿中にこの魔力を100%発動できるようになっておきます」

 

いずれ使えなくなるのは痛いが、それまでは存分に利用させてもらうとしよう。

 

「頑張りなさい、イッセー。私は小猫の服を取ってくるから、ここで少し待っていて」

「お願いします、部長」

 

話をしている間に別荘の玄関に着いていたのでそのまま部長を見送り、小猫ちゃんの着替えを持ってきてくれるのを待つ。

 

「お待たせ。このバックの中に必要な物は一通り詰めておいたから、小猫に渡してあげて」

「わかりました。準備をしてもらってありがとうございます、部長」

 

5分ほどで部長は小さなバックを片手に戻ってきたので、それを受け取ってお礼を言っておく。

 

「構わないわ。小猫にも修行を頑張るように伝えてちょうだい。用事も済んだ事だし、私も自分の修行に戻らせてもらうわね」

 

部長はそう言って小猫ちゃんに向けた励ましの言葉を投げかけてから自身のトレーニングに戻っていったので、俺も急いで小猫ちゃんの元へ戻る。

 

「お待たせ、小猫ちゃん。着替えはここに置いておくから、終わったら声をかけてくれ。俺はこっちの林の奥の方にいるから」

「わかりました」

 

相変わらず蹲っていた小猫ちゃんの目の前にバックを置いて彼女の返事を確認した後、林の奥へ向かう。

 

「お待たせしました、先輩」

「服を破ったのは俺だから気にしなくていいよ。後は時間が許す限り殴り合おう」

「それは構いませんが、条件の変更をさせてください。魔力の使用はなしで、純粋な格闘のみで戦いましょう。先程の様な魔力の使われ方をすると、また着替えを取りに行かないといけませんから」

「それは着替えを取りに戻る時の付き添いをしてもらった部長からも言われたから、元よりそのつもりだよ」

 

部長と話をしただけで小猫ちゃんには伝えていなかったので、この修行中に魔力を使う気がない事を言っておく。

 

「それならいいです。――服を破ってくれた恨み、晴らさせてもらいます」

 

若干冷めた声色で小猫ちゃんはそう告げたのをきっかけに、二度目の模擬戦を開始する。

 

お互いに相手を殴り、その返礼として蹴り返すような殴打戦を繰り広げながら宣告通り訓練時間ぎりぎりまで小猫ちゃんと模擬戦を続けたのだが、戦績を見てみると4対6で俺の分が悪かった。

 

それでも中学時代に行っていた喧嘩の経験をダイレクトに活かす事ができたので、午前中に木場と行った剣術訓練に比べれば善戦できた為、明日以降も同様の形式で模擬戦を続けていく事になった。

 

 

 

 

 

―○●○―

 

 

 

 

 

日が暮れ始めた時間に小猫ちゃんとの修行を終えた俺は、そのまま部長の元へ向かう。

 

部長とは基礎体力と身体能力の向上を目指した高負荷トレーニングを行う事になっている。

 

俺に与えられた駒は『兵士(ポーン)』なので、まず間違いなく戦場を駆け回った上で戦闘を行う事になる。

 

必然的に体力が求められるので、この合宿中に鍛えて少しでも体力量を増やすのが目的の一つだ。

 

それに体力が増えればその分だけ『鎧』を纏える時間を延ばす事ができるし、大本の身体能力が高ければ自己強化の効率もよくなるので、普段は出来ない高負荷トレーニングを行って成長を促す事も目的としている。

 

そういった理由から結構ハードなトレーニングになるのは予想していたが、少しばかり見通しが甘かったようだ。

 

「それじゃあイッセー、トレーニングを始める前にこの岩に背中を預けてちょうだい。魔力を使ってロープで固定するから」

 

合流直後に部長がそう言って指差したのは俺の身長の2倍はありそうな巨大な岩塊であり、悪魔としての身体能力が本格的に発揮されてくるこの時間帯でなければ動く事すらままならないのは容易に想像できた。

 

「……わかりました」

 

普段行っている早朝トレーニングで部長が鍛錬の際には妥協しない事は承知していたが、ここまでデカイ物を背負う事になるのは予想外だった。

 

これを拒否したらしたでハードなメニューを課されるのは目に見えているので、覚悟を決めて岩塊に背を預けると、ロープがひとりでに浮遊して俺の体に岩塊を巻き付けていく。

 

「それじゃあ、この状態で麓の近くまで一往復行きましょう。道は岩の上から私が指示するから、その通りに走ってね」

 

部長はそう告げると、悪魔の翼を展開して岩塊の上へ飛んでいった。

 

「了解です。ナビゲーションよろしくお願いします、部長」

「ええ。頑張りなさい、イッセー」

 

部長からの応援を聞きながら身体全体に力を入れて岩塊を持ちあげた後、麓に向けて走り出す。

 

舗装されていない山道を重量物を背負って走るのは精神・体力の両面から見てもかなりキツかったが、一度止まったら再び走り出すのにも精神力を使うのが目に見えていたので、部長のナビに従って無心で山道を走る。

 

往復し終えた時にはすっかり日も暮れて悪魔としての能力を完全に発揮できるようになってはいたが、足が震えるくらいには体に負担がきていたので、上半身の筋トレをしてその日の基礎体力作りはお開きとなった。

 

 

 

 

 

―○●○―

 

 

 

 

 

部長とのトレーニングが終わった頃には他のメンバーによって夕食の準備が済んでいたので、そのまま夕食となった。

 

体力・精神力共に消耗したので食欲は殆どないのだが、この後も修行を行う予定なので食べないわけにもいかず、ひたすら箸を動かす。

 

「あの、イッセーさん。そのスープは私が作ってみたんですが、お味はどうですか?」

 

そうしているとアーシアが飲んでいたオニオンスープの味を訊いてきた。

 

「そうなのか。ありがとな、アーシア。味の方は……美味いけど、細かい部分は疲れててよくわかんねーや。合宿が終わって家に戻ったら、また作ってくれないか? その時はじっくり味あわせてもらうからさ」

 

せっかくのアーシアお手製スープなので味わってみようと思ったのだが、修行の疲れでスープの細かな味がわからなかったので、正直にその事を伝えておく。

 

「わ、わかりました、イッセーさん。お家に戻ったら、また作らせてもらいますね」

 

返事としてはあまり褒められた物ではないはずだが、アーシアは若干顔を赤くして安堵の表情を浮かべながらそう言ってくれた。

 

「さて、イッセー。今日一日修行してみて何を感じたかしら?」

 

そうして俺とアーシアの話がひと段落すると部長が修行の感想を訊いてきたので一度箸を置き、今日一日を振り返りながら正直な感想を口にする。

 

「一番感じたのは、ブーステッド・ギアのありがたみですね。自身の身体能力を好きなだけ増やせるのが戦闘においてどれほど有利かが良く理解できました。それと、現時点での自分の地力の低さも心の底から理解させられましたよ。神器を抜いた俺個人の力だけだと、修行中の皆についていくので精一杯です」

 

しかも皆についていけているのも中学時代に極低倍率でドライグの力を使い続けながら喧嘩に明け暮れていた経験があってこそなので、それがなかったらもっと悲惨な事になっていた可能性は否定できない。

 

「最後に感じたのは、経験の重要さでしょうか? 小猫ちゃんとの模擬戦を行っていた時に痛感したんですが、中学時代の喧嘩の経験がなかったらまず間違いなく一方的に殴り倒されていたと思います」

 

小猫ちゃんに食い下がる事ができたのも中学時代に『誰かを殴る事に対する気構え』が予め出来ており、『実際に喧嘩をして自分と相手の急所の位置を把握する経験があったから』こそ戦えたのだと思うくらいには殴られまくったので、経験の重要性も理解できた。

 

「今日の修行で痛感したのは、その3つですね」

「一日でそれだけ掴めているのなら十分ね」

 

俺の返事を聞いた部長はそう言って安堵の表情を浮かべるが、すぐに表情を引き締めて言葉を続ける。

 

「イッセーの事だから言わなくても理解しているでしょうけど、前哨戦に勝った事で相手チームはあなたの存在を無視できなくなっているはずよ。当然、ゲームでは優先的に撃破を狙ってくる可能性が高いわ。不利だと悟ったら、迷わず逃げて態勢を立て直してちょうだい」

「その時の状況によりますが、不利だと判断したらそうさせてもらいます」

「これはアーシアにも言えるわ」

「私にも、ですか?」

 

突然会話の矢面に立たされたアーシアは、首をかしげながらそう呟く。

 

「ええ。アーシアが所有している聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)の様な他種族の治癒を可能とする神器は、かなり希少なの。ゲームの最中に仲間の治療を行えるのは、それだけでアドバンテージになるわ。相手からすれば真っ先に倒しておきたいはずよ。つまり、アーシアはゲームフィールドにいるだけで狙われやすい存在ともいえるの」

「っ!?」

 

部長の言葉を聞いてアーシアの表情が驚きに染まるが、無理もない。

 

基本的に平和な状況で過ごしていたアーシアからすれば、自身の治癒能力がもとで攻撃を受ける事になるのは想像の埒外にあって然るべき物だ。

 

「脅すような格好になってしまった事は謝るわ。ごめんなさい、アーシア。――でも、あなたにも理解しておいてほしかったの。今後私達が行うゲームでは、あなたの存在は文字通りの生命線となるわ。当然あなたの事は全力で守るつもりだけど、状況によってはあなた一人で逃げてもらう事になる可能性は否定できないわ。そうなった時のためにも、相手から逃げられるだけの実力はつけておいてほしいの」

「すいません、部長さん。根本的な質問になってしまうのですが、逃げるってそんなに難しいんですか?」

 

戦闘に関するノウハウを知らないが故に、アーシアは困惑気味の表情で部長にそう問いかけた。

 

「アーシアは今まで平和な生活をしていたからわかりづらいでしょうけど、相手に背を向けて逃げるというのは、実はかなり難しい事なの。実力的に拮抗している相手ならともかく、実力差のある強敵に背を向けて逃げ出すというのは、殺してくださいと言っているようなものよ。幸い、レーティングゲームでは一定以上の怪我を負った者は戦闘不能とみなされて医療ルームに強制転送される仕組みになっているから眷属が死亡する危険性は低いけれど、戦闘中に重傷を負う事は変わらないわ。そういった相手から無事逃げられるというのも、実力の一つなの。アーシアには戦う術以外にも、そういった『逃げ時』を合宿中に覚えてほしいの。お願いできるかしら?」

 

そう言ってアーシアに戦闘中の逃走に関する事柄を説明する部長の姿を見ながら、俺は決意を新たにする。

 

部長の言葉は裏を返すと、『遅かれ早かれアーシアは戦いに巻き込まれる事になっていた』と言っているのと同義であり、部長にアーシアの転生を嘆願したのは他でもない俺自身だ。

 

それならば、戦いに巻き込んでしまった責任を少しでも果たす意味でも俺が盾役となって戦場に立つアーシアを守らなければならない。

 

「……一つ聞かせてください。私がその『逃げ時』を理解していれば、私を守ろうとする人の負担を減らせますか?」

 

アーシアは顔を僅かに動かして俺を一瞥した後、憂いを帯びた表情でそう部長に問いかけた。

 

「戦況にもよるから確約はできないけれど、あなたが逃げ時を知っていれば護衛役との連携も取りやすくなるから、結果的に護衛役の負担は減るはずよ」

「わかりました。そういう事なら、私にも『逃げ時』を教えてください」

 

部長からの返答を聞いたアーシアは、そう言って提案を受け入れた。

 

「ありがとう、アーシア。食事を終えたら一休みして、皆で今日最後の修行にかかりましょう」

 

部長の感謝の言葉を最後に話がひと段落ついたので皆食事を再開し、この後の修行に備え始めた。




そんなわけで、今回はここまで。

前後編で終わらせるつもりだったのですが、思った以上に長くなったので3編構成で行きます。

次回は修行の後編となります。

またある程度時間が空いてしまうと思いますが、お待ちいただければ幸いです。
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