もしドラ~もしもドライグが早く目覚めていたら~   作:ショウゴ

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1ヶ月半近くお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。

ようやく最新話が書きあがったので、投稿させていただきます。

それでは、本編をどうぞ。


15 修行開始 後編

夕食を終えて一休みした後、俺達は再び外に出て修業を再開する。

 

「それじゃあ今日最後の修行を始めたいのだけど、本当にこの修行は皆の成長に繋がるのね、ドライグ?」

 

だが、今から行う修行の内容が内容だけに部長は疑問を感じているようだ。

 

『無論だ。相棒だけではなく、他のメンバーにとっても実戦経験を積む良い機会になる』

 

今から行う修行の提案者であるドライグは、皆に聞こえるようにブーステッド・ギアを展開しながらそう言って太鼓判を押す。

 

これから行おうとしている修行というのは、『合宿参加メンバー全員が自らの使用できる力を全て使った実戦形式の模擬戦』だ。

 

ただしチームの構成は意図的に偏らせており、俺一人VSそれ以外の合宿参加メンバー全員という俺の方が圧倒的に不利な条件だ。

 

その不利を補う意味でも、俺はこの修行中に限って神器と禁手(バランス・ブレイカー)の使用を許可されている。

 

おまけにより実戦に近付ける意味で手加減の(たぐい)は必要最小限に抑えるのがルールとして設定されているので、まともに考えれば俺が一方的に打ちのめされ、少なくない怪我を負うのは目に見えている。

 

「私は、そうは思えないわ。確かに眷属全員に実戦経験を積ませるなら模擬戦は最適よ。でも、ここまで偏った条件だと一人で戦う事になるイッセーの負うリスクが高すぎるわ。これまでの修行と違って神器の能力と禁手(バランス・ブレイカー)の使用を許可するとはいえ、イッセー一人で実戦装備の私達全員と戦わせるなんて無謀すぎよ。修行を続けられないほどの怪我を負ったらどうするつもりなの?」

 

それ故に部長は俺一人だけが大怪我を負って修行を続けられなくなる事を危惧しているようだ。

 

『本当に無謀だったら、俺もこんな事は言わん。相棒が赤龍帝としての力の使い方を覚えれば、一人でもお前達全員を相手にしたとしても充分戦えると踏んでいるから提案をさせたのだ。それに、お前の危惧する負傷に関しても治療体制は整っている。大前提として、四肢欠損などの重体になる危険性のある技は使用しなければいいだけだ。それ以外の負傷に関しては、戦闘終了後に治癒の専門家であるアーシア・アルジェントが全力で相棒を治療すれば問題ない。仮に治癒しきれなかった物があったとしても、主であるお前の魔力を利用した自己治癒能力の促進を行えば明日以降も修行は続行可能だ。赤龍帝としての今の相棒に必要なのは、1秒でも長く鎧を纏う事のみ。その為には相棒を窮地に陥らせて生存本能を揺さぶり、無理矢理だろうと神器をパワーアップさせるのが一番手っ取り早いんだよ。――割り切れ、リアス・グレモリー。眷属に対して情愛深いのは一向に構わんが、過保護になりすぎて成長の芽をつぶすのは愚策以外の何物でもない。その甘さと紙一重の精神を鍛え直す意味でも、今から行う修行は必要だな』

 

そんな心配をする部長をよそに、ドライグはこの修行の必要性を説いていく。

 

本人の申告通り、ドライグは宿主の俺ができないと感じたものを口に出す事はない。こう言っている以上、赤龍帝としての力の使い方を覚えられればこの修行もこなす事ができるのだろうが、まだドライグとの付き合いが短く、相互理解の進んでいない部長にそこまで察しろというのも無理な話だ。

 

『それに、先ほどお前も言っていただろう。こちらが前哨戦を制した事で、不死鳥どもは相棒の存在を無視できん。数の有利がある向こうのチームは、対策として多少の犠牲を払ってでも相棒を孤立させた上で潰しにかかってくるのが簡単に予想できる。こちらの人数が少ない以上、孤立した相棒の救援に戦力を割く事は難しいからな。必然的に相棒は1対多の戦闘となる可能性が高い。それに慣れておく意味でも、この修行は行っておいた方がいいんだよ』

 

続けてドライグが口にした言葉は、正鵠を射るものだ。

 

倒されたらそこまでの(キング)である部長と回復役(ヒーラー)のアーシアを除くと、こちらの戦闘要員は俺・木場・小猫ちゃん・朱乃さんの4名しかいないにも拘らず、ライザー側は眷属15名全員が戦闘要員だ。

 

おまけに(キング)のライザーが不死性を持っているのである程度は戦闘要員としても動く事ができる為、極論を言えば、あちらのチームは単純に半数の8名を犠牲にして俺を撃破しても残った8名でゲームを続行できるが、こちらは1人でも戦闘要員を倒されるとゲームの続行すら怪しくなる程度には潜在的に不利な状況となっている。

 

「それはそうだけど……。イッセーはこの修行をどう思っているの? もし気乗りがしないのなら、無理にやらなくてもいいのではなくて?」

 

部長もその事は言われるまでもなく理解しているようだが、今日行った修行の中では俺が重傷を負うリスクが最も高いので二の足を踏んでいるらしく、意見を求めてきた。

 

「気遣ってくれてありがとうございます、部長。でも、この修行はやるべきだと俺も思っているんです。そもそも俺は禁手(バランス・ブレイカー)へ至ったばかりなので、禁手化(バランス・ブレイク)に大きな制限が三つあるんです。第一に鎧を纏う為には今のところ30秒間力のチャージが必要で、その間は強化も譲渡も使えないんです。第二に、現状だと禁手の鎧を纏える時間が短いんです。具体的には禁手化した後、何もしない状態でも1時間で限界を迎えます。第三に一度キャパシティ限界まで増幅させれば、維持可能時間は3分減ります。そんな状態なので、戦闘中に増幅率を調整したとしても15分程度の維持が関の山だと思います。この三つの制限がある関係上、ゲーム中に禁手化(バランス・ブレイク)して戦況を覆そうにも時間が足りなくなるかもしれないし、負傷状態で禁手化の為の力を溜めている間に攻撃を喰らいすぎて戦闘不能になってしまう可能性も否定できません。ドライグが提案した修行を行う事でそれらの懸念を少しでも払拭できるのなら、積極的に行うべきだと思うんです」

 

部長にお礼を言いつつ、禁手化の制限に関する説明を交えながら自分の考えを正直に話す。

 

確かに部長の危惧する通り、今から行おうとしている修行は俺が負傷する可能性は高い。

 

これからも地道に修行を行っていけば、いずれはこれらの制限も解除できるのだろうが、ゲーム開催までの時間的猶予はそれほど残されていないので、制限解除の為には多少のリスクは負って然るべきだろう。

 

「やる気、なのね。――わかったわ、イッセーがそこまで言うのなら、相手になるわ。みんな、(つら)いかもしれないけど、手加減は最小限、イッセーを重体にしなければあとは何をしてもいいわ。……それでいいのね、ドライグ、イッセー?」

 

部長も俺が本気である事を悟ってくれたらしく、一度ため息をついた後でそう言った。

 

『ああ。むしろ、下手に手心を加えれば負けると思え。赤龍帝の力、その身をもって味あわせてやる。行くぞ、相棒』

「おう。よろしくお願いします、部長。そんなわけだから、みんなも手加減は最小限で頼む。アーシアも、この模擬戦が終わったら治療してくれると助かる」

「わかりました、精一杯治療させてもらいますね。――でも、イッセーさんもなるべく怪我をしないように気をつけてください」

 

そう言ってアーシアは治療を快諾してくれたものの、半ば怪我を負う事が前提になっているからか、表情には若干の陰りが見えた。

 

「イッセー先輩が大怪我しないように注意しますから安心してください、アーシア先輩」

「小猫ちゃんの言う通りよ、アーシアちゃん。少なくとも明日以降の修行に差し障りがないレベルに抑えておきますから、安心してくださいな。……それはそれとして、神器を使った状態のイッセーくんがどのくらい強いか、少し楽しみですわ」

 

小猫ちゃんに続いてアーシアを励ます朱乃さんだが、模擬戦が始まる期待からか(サド)スイッチが入りかけているらしく、いつものニコニコ顔に嫌な迫力があった。

 

「僕も二人と似たようなものかな。噂に名高い赤龍帝の力、試させてもらうよ。イッセー君」

 

木場も木場で地味にプレッシャーをかけてきたので、もう後には引けない。とにかく今の俺に出来る最善を尽くすとしよう。

 

《その意気だ、相棒。今のうちに力の使い方についても教えておこう。ヤバいと思ったら、鎧の防御力を増幅させろ。相応のスタミナは消費するが、ダメージを抑える事ができる。後は、自分の周りにある物を活用していけ。譲渡で強化を施すだけで役に立つ物は意外と多い》

(なるほど。防御を上げてダメージを抑えれば確実な戦闘続行が可能になるし、周りの草とかに譲渡して急速成長させれば即席の盾や目くらましになるってわけか)

《そうだ。後は残すと面倒な相手から倒していくように心掛けろ。そう言った輩は体力を消耗した状態で相手をしようとすると思いの外てこずるからな。動き回れる余裕がある内に潰しておけ》

(了解)

 

そういう事なら、手の内がわかっているメンバーの中で一番ヤバい朱乃さんの撃破を優先的に狙っていくとしよう。

 

なにせ朱乃さんは様々な魔力攻撃を得意としており、それらの中でも雷撃を受けてしまった場合、こちらの運動機能を強制的に麻痺させられる危険がある。

 

そうなったら戦況的にはかなり厳しくなるので、早めに撃破しておきたいところだ。

 

朱乃さん以外のメンバーを脅威度で順位付けするならキングの部長は最後に回せばいいので最も脅威度が低く、汎用性のある神器を所持した上で機動力の高い木場と駒の能力でキングである部長と場所の入れ替えを行える可能性のある小猫ちゃんは同じくらいの脅威度だが、可能性を考慮すると小猫ちゃんを先に倒しておいた方が良いだろう。

 

(朱乃さんを倒したら、小猫ちゃん、木場、部長の順で戦うとするか)

 

全員倒せるとは限らないが、順番だけは考えておく。

 

(そうだ、ドライグ。確認しておきたいんだが、鎧を壊された場合、修復や再構成ってできるのか?)

《可能ではあるが、鎧の維持限界を早める事になるぞ。修復や再構成を行う面積の大きさにもよるが、全身丸ごと再生するなら10分程度は消費すると思っておけ》

(つまり、鎧を砕かれたらそれだけ継戦能力が落ちると考えておいた方が無難って事か)

《そうだ。それ故に防御力の上昇は慎重に行えよ? 下手に防御時に力を使いすぎれば、あっという間に体力が底をつく。そうなったら、最後に待っているのは自身の敗北だけだ》

(了解)

 

鎧の防御力上昇と再構成についての詳しい体力消費については、模擬戦の最中に確認するとしよう。

 

「私達の準備は終わったのだけど、あなたの方は大丈夫、イッセー?」

「ええ。いつでもOKです」

 

内面に潜ってドライグと話しながら大まかな戦術を考えている間に部長達も準備を終えたらしく、返事をした時には部長チームの戦闘要員全員が臨戦態勢に入っていた。

 

「わかったわ。――開始の合図はアーシアにかけてもらいましょう。合図をした後は、私の傍で皆の戦いをしっかり見ているのよ、アーシア」

「わかり、ました。みなさん、気をつけてくださいね。…………始めてください!!」

 

意を決して開始の合図をかけたアーシアの声が聞こえると同時に、木場と小猫ちゃんが突っ込んでくる。

 

自己強化にしろ禁手化にしろ発動までに相応の時間がかかる事はばらしてしまったので、こちらの能力が増幅する前に少しでもダメージを与えておくつもりなのだろう。

 

(二人の実力を超えられるまで力を溜めるのはキツそうだし、使うしかないか)

 

できる事なら禁手化は切り札として温存しておきたいところだが、温存しすぎた結果負けてしまっては元も子もないし、禁手化可能時間を延ばすのも目的の一つなので、最初から飛ばすとしよう。

 

「カウントスタート」

 

 

『Count Down!!』

 

 

システムボイスと共に手の甲に設置されている宝玉に数字が浮かび上がり、それが少しずつ減っていく。

 

この数字がゼロになれば鎧を纏う事ができるのだが、それまでの30秒間は倍加も譲渡も使えないので、自前の力だけで生き残らなければならない。

 

「はっ!!」

「えい」

 

掛け声とともに木場が左からの切り上げを放ち、その死角を補うように小猫ちゃんが右側からミドルキックを放ってきたので、次に来るであろう攻撃に備えてわざと体勢を崩しながらバックステップでその攻撃を回避する。

 

「うふふ、しっかり耐えてくださいね、イッセーくん」

 

後方から悦に入った声色で朱乃さんがそう言ってきたので崩れかけた体制から地面に手をつき、ハンドスプリングでさらに後ろに下がった直後、下がる前に俺がいた場所へ極太の雷撃が落ちた。

 

案の定、木場と小猫ちゃんの攻撃は俺をその場に留める為の囮だったようだ。

 

「詰めが甘いわよ、イッセー」

「うぉっ、とぉ!!」

 

おまけに着地の瞬間を狙って部長が上空から魔力で固めたと思しき氷を投げてきたが、反動を殺しきれていなかったおかげで僅かに後ずさる事が出来た為、間一髪で回避に成功した。

 

「あっぶねー。……容赦ないっすね、部長」

「私が本来使用する消滅魔力は文字通り触れたモノを問答無用で消し飛ばしてしまうから、これでも加減してるのよ?」

 

つまり、部長が本気だったら今の一撃で少なくない怪我を負っていた可能性が高いわけだ。

 

「それは怖いっすね。――お返しって事で、こっちからも攻めさせてもらいますよ!!」

 

宝玉に表示されている残りのカウントは1秒を切っているので、今度はこちらから木場達に向かって突っ込む。

 

 

『Welsh Dragon Balance breaker!!』

 

 

その最中にカウントが0となり、赤く輝く特大のオーラが俺を包み込み、鎧に変化していく。

 

同時に溢れんばかりの力が湧きあがり、自覚できるレベルで突撃のスピードも上がる。

 

「部長達の元へは行かせないよ、イッセー君!!」

 

もっとも、駒特性上スピードに特化している木場からすれば追いつける範疇にあるらしく、後衛の部長や朱乃さんの間に割り込んで斬りかかってくる。

 

「上等だ、押し通る!!」

 

鎧の基本的な防御力を把握しておく必要があるので敢えて防御力は上昇させず、右籠手の肘についている宝玉のあたりで斬撃を受け止める。

 

 

ガギッ!!

 

 

どうやら今の俺の鎧の防御力と木場の魔剣の切れ味だと魔剣の切れ味の方が僅かに上らしく、魔剣の刃が僅かに宝玉に食い込んでいた。

 

「お返しだ!!」

 

そのまま籠手を斬られたら堪ったものではないので、木場が剣を引く前に掌を返して刀身を掴みながら一歩踏み込んで剣が振れない懐に入り込み、ボディブローを放つ。

 

「くっ!!」

 

危機を察した木場は魔剣を手放しながら全速力で後方に大きく飛び退き、こちらの攻撃を回避する。

 

「その隙、いただきますわ!!」

 

しかも木場への対処で手一杯になっていた間に朱乃さんは雷撃の再充填を完了させていたらしく、木場が退避した直後に彼女の両手から上空に向かって雷が迸った。

 

(直撃だけは避ける!!)

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 

最大強化を使って鎧の防御力を限界まで高めながら背部魔力噴射口から魔力を噴かせると同時に歯を食いしばり、襲い掛かってくるであろう雷撃から僅かでも距離を離して少しでもダメージを減らす。

 

 

ドォォォオオオンッッ!!

 

 

だが、そんな小細工が通用しないレベルの太さの雷撃が頭上から降り注ぎ、そのショックで意識を飛ばされそうになるが、予め歯を食いしばっていたので何とか繋ぎ止める事が出来たし、鎧の防御力を限界まで高めたおかげで全身の感覚もなんとか残っているので、ダメージはあるものの戦闘続行は可能なレベルだ。

 

なのでそのまま魔力の噴射を続け、攻撃直後で隙だらけの朱乃さんに肉薄する。

 

「あの一撃に耐えられますの!?」

「さっきの言葉、そのまま返させてもらいます!!」

 

 

『BoostBoost!!』

 

 

特大の一撃に耐えられたショックからか朱乃さんは俺が懐に入り込んでも防御の姿勢を一切見せなかったので、そのままがら空きのボディに向けて打撃力を僅かに強化した掌底を叩き込む。

 

 

ドンッ!!

 

 

「ぐぅっ!!」

 

ダメージとしてはそれなりに与えられたらしく、朱乃さんはお腹を押さえながらその場に崩れ落ちた。

 

(最高脅威対象排除完了、次!!)

 

一時的なものかもしれないが最も厄介だと考えた人物の排除を終えたので、当初の予定とは違うがすぐ近くにいる木場へ殴りかかる。

 

「赤龍帝の力、甘く見すぎていたよ。こんなに早く朱乃さんが倒されるなんて、正直予想外だ」

 

放った拳を回避しながら、普段通りの冷静な声色で木場がそう呟いた。

 

「はっ、それならそのまま見くびって、早々に倒されてくれると楽なんだがな!!」

「それはできない相談だね。朱乃さんの敵討ちも兼ねて倒させてもらうよ、イッセー君!!」

「祐斗、援護するわ。小猫も合流して!!」

 

そう言いながら木場は神器を発動させて新たに二振りの魔剣を造り出して二刀流でこちらに反撃してきたし、部長も小猫ちゃんに指示を出しながら魔力で木場の援護を開始する。

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 

前衛が二人になったらまた不利になってしまうので跳躍力を強化しながらバックステップを行い、襲い掛かってくるであろう木場どころか背後にいるであろう小猫ちゃんすら一度に飛び越す。

 

「合流なんてさせませんよ!! 悪いが小猫ちゃん、もう一回裸になってもらうぞ!!」

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 

着地と同時に背部魔力噴射口の出力を上げて一瞬で小猫ちゃんに肉薄して背中に触り、小猫ちゃんの裸を思い浮かべながら魔力を発動させる。

 

 

ビリィっ!!

 

 

日中に行った訓練の時と同じく、服が裂ける音と共に小猫ちゃんの体操服が一瞬で弾ける。

 

「きゃあっ!? またこれですか!!」

 

そう言って小猫ちゃんは日中訓練と同じ様に身体の大事なところを抱えながら、その場にしゃがみこんだ。

 

その様子を横目で確認しながら再度魔力噴射口から魔力を噴かせ、再び木場に肉薄しながら殴りかかる。

 

「君のオリジナル魔力は、発動対象になった女の子に与える精神的ダメージが大きすぎだと思うのは僕の気のせいかな、イッセー君!!」

 

俺の魔力が色々な意味で予想外だったらしく、拳を回避した木場は袈裟斬りを放ちながらそう言ってきた。

 

「気のせいじゃないだろうな。――ともあれ、これで残るのはお前と部長だけ、とっとと倒させてもらうぞ!!」

 

斬撃の軌道を読んで籠手で剣を弾きながら言い返し、木場との近接戦に移行する。

 

鎧を纏っている間は部長に与えられた兵士の駒8つの力をフルに発揮できるので基礎スペックも自然と上がり、動体視力や反射神経も鋭敏化してくれるおかげで木場が放ってくる連続攻撃もなんとか視認出来ているので攻撃が途切れる僅かな瞬間を突いて強引に反撃に移る事もできるのだが、木場も鎧を纏っている俺と生身の自分では防御力に差がある事を理解している為、こちらが反撃に出ると二刀流本来の剣の使い方――片方を攻撃に使用し、片方を防御に使用するのが真っ当な二刀流の使い方だ――に切り替える事で攻撃をいなしつつ細かな反撃を繰り返してくる。

 

その際に木場は鎧の関節部や装甲の継ぎ目などの比較的脆弱な部分を狙ってくる上に、部長も木場を巻きこまないように細心の注意を払いながら俺が回避行動を取ろうとした瞬間に様々な威力の魔力攻撃を四方八方から断続的に放ってくるので、回避行動そのものが取りづらい。

 

おまけに斬撃や魔力の威力次第では自己強化によって鎧の防御力を強化しなければならなくなるので嫌でも体力を消耗させられるし、場合によっては防御の強化が間に合わず直撃を貰って鎧を貫かれたり砕かれたりして少なくないダメージを負ってしまい、結果として鎧の修復を行わざるを得ず、体力消費を加速させられるケースもあるので、それらの疲労によって攻撃速度と精度を落とされていく。

 

そうなれば自然と隙も増えるので、木場はこちらの攻撃速度と精度がある程度落ちたタイミングを見計らって再び二刀を共に攻撃に利用して手数で押し返してきた。

 

「やる事が、(こす)いんだよ。とっとと落ちろ!!」

 

鎧は外見こそ新品同然だが、体力が底をつきそうなのでこれ以上の修復や再構成は行えないし、体力が尽きかけてきた頃から纏っている鎧が滑って脱げ落ちそうになるような感覚が何度も襲い掛かってきており、その度に鎧の留め金を締め直すイメージを送る事で何とか鎧を維持し続ける。

 

その感覚は体力の残量が少なくなっていく度に襲い掛かってくる間隔が狭まっているし、今までのやりとりで生身の部分に受けた怪我も常に痛みを発してくるので正直言えば攻撃するのも一苦労なのだが、泣き言を言っている暇はないのでその痛みに耐えながら右拳を放つ。

 

「それは、僕が言いたい台詞だよ。……あれだけ攻撃したのにまだ倒れないなんてね。君のタフさには呆れるよ、イッセー君」

 

木場も俺とひたすら攻防を続けていた事で息が上がりかけているらしく、若干大振りになった一撃を右の魔剣の腹で受け流し、左の魔剣でこちらに反撃しながらそう呟いた。

 

これまでの攻防で木場が放ってくる斬撃の軌道は多少なりとも覚える事が出来たので振り返りながら後ろに下がり、襲い掛かってくるであろう斬撃の軌道上から退避を始めた瞬間、何度目かの鎧が脱げ落ちそうになる感覚が襲いかかってくるので留め金を締め直すイメージを送るが、それでも鎧が滑って脱げ落ちていく感覚を抑え込む事ができず、かろうじて木場の斬撃を回避するのと同時に禁手化していない状態でも展開している左の籠手を除き、身体を包んでいる鎧の感覚が完全に消失する。

 

(まだこれからだってのに、もう限界かよ)

《相棒、戦闘の真っ最中だが基礎能力の上昇に使っていた駒の力は抑えさせてもらったぞ。前にも言ったが、鎧の補助がない状態では駒8個分の負担に身体が耐えられんからな》

 

申し訳なさそうな声色でそう告げてきたドライグの言葉と共に身体中の痛みが一気に増して腕や足に力が入らなくなり、このまま気を抜いたらそのまま倒れてしまう予感がしてきた。

 

(それだけは、避けないとな。部長やアーシアを、心配させちまう)

 

ここで盛大にぶっ倒れたら少なくとも部長は今回の合宿中は二度とこの修行を行ってくれなさそうなので、気合を入れ直して構える。

 

「……まだやる気かい? 無理をしているように見えるよ、イッセー君」

「はっ。……ダメージ慣れしておいた方が良いっつったのは、どこの誰だよ」

 

木場の指摘どおり、やせ我慢を続けるだけで精一杯だが、午前中に言われた『ダメージを負った状態での戦闘』に少しでも慣れておきたいので、ふらつく足で前に出る。

 

「ブースト、スタート」

 

不利な事はわかりきっているので少しでも差を詰めるべく自己強化の溜めを始める為にボイスコマンドを送るが、いつもの増幅音声が全く聞こえてこなかった。

 

不思議に思って籠手を見てみると、常に緑色に輝いていた手の甲の宝玉が力を使い果たしたと言わんばかりに真っ黒に染まっていた。

 

《どうやら、相棒は鎧が解除されるとしばらく通常の力も使えなくなるクチのようだな。歴代の半分は鎧を解除しても通常の倍加と譲渡は使える奴らだったが、もう半分は相棒と同じで鎧を解除すると一定時間は宝玉が黒く染まって通常の倍加や譲渡すらままならなくなる。これに関しては俺にも制御ができん領域で、一度鎧を限界まで使わんと判別も出来ん。……運が悪いな、相棒》

(つまり、宝玉の色が戻らない限りは倍加も譲渡もお預けって事か)

《加えて言えば、宝玉に力が戻るまでの具体的な時間は個人の資質によって変わってくる。鎧を解除した後も戦闘を継続するつもりなら、今後も鍛えて素の状態だろうと戦闘に耐えられるようにするんだな》

 

それ以外に方法はないか。

 

「イッセー、ブーステッド・ギアを使わないの?――それとも、使えないの?」

 

部長も赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の不調に気づいたらしく、確信をもって問いかけてきた。

 

「……後者、ですね。今ドライグから説明を受けたんですが、俺の場合は鎧を一度解除すると籠手の宝玉が元に戻るまで通常の倍加と譲渡も使えなくなるみたいです」

「なら、ここまでにしておきましょう。これ以上続けると明日以降の修行にも支障をきたすわ。アーシア、イッセーを治療してあげて。私は小猫の着替えを取ってくるわ」

「わかりました」

 

誤魔化せそうもないので正直に答えると、終了の宣言と共にアーシアが駆け寄ってくる。

 

「イッセーさん、大丈夫ですか?」

「正直、立ってるのもキツイ。……けど、いろんな意味で良い経験になったよ。特に、鎧を解除した後のデメリットがわかったのはデカイな」

 

神器を展開して治癒を開始しながらアーシアが問いかけてくるので、今日の模擬戦で感じた事を話す。

 

「怪我をしたら、すぐに教えてくださいね? できる限り、早く治しますから」

「ああ、そうさせてもらうよ。でも、アーシアも気をつけるんだぞ? 夕飯の時に部長も言ってたけど、アーシアは能力的にゲームで狙われやすいんだからな」

 

ゲームであろうとアーシアが傷つく姿など見たくないので、注意を促しておく。

 

「実感はないんですが、気をつけますね。イッセーさん」

「そうしてくれ」

 

そのままアーシアの治療を受け続け、数分後には全身の治療が終わる。

 

「目立った怪我は全部治癒したつもりですが、どこか痛いところはありますか?」

「んー……、大丈夫だな。特に痛いところとかはないよ。俺はもう大丈夫だから、木場と朱乃さんも治療してやってくれ」

 

全身を動かして痛みが残っている場所を確認したが、怪我が残っている場所はないので相手をしていた木場と朱乃さんの元へ向かってもらう。

 

「わかりました」

 

アーシアも俺の様子を間近で見て問題ないと悟ったので、安心した様子で木場や朱乃さんの元へ向かっていった。

 

「そういえばドライグ、さっきの模擬戦ではどれくらいの間鎧を維持できてたんだ?」

《維持時間は14分30秒だな。鎧の修復と再構成を複数回使ったにしては、長く持った方だ》

 

長く持ったとしても15分すら超えられず、か。戦闘中に見直すべき点は多そうだ。

 

《確かにそうだが、それを考えるのは後にしろ。これで今日の修行は終わりなんだ。何も考えず、とっとと休め。肉体は既にアーシア・アルジェントによって癒されているが、精神も疲弊しているだろう》

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

模擬戦はこれで終わりだが、その後の予定は聞いていないので部長が戻ってくるのを待つとしよう。

 

 

 

 

 

―○●○―

 

 

 

 

 

「みんな、模擬戦お疲れ様。明日も模擬戦は行うつもりだから、それぞれ自分のどこが悪かったかをちゃんと考えて、同じ轍を踏まないように注意しなさい。いいわね?」

 

小猫ちゃんの着替えをもってきた部長は彼女にそれを渡して着替え終わるのを待った後、そう言って模擬戦を締めくくった。

 

「これで予定していた今日の修行はおしまい。みんな疲れているでしょうから、自主練も禁止よ。お風呂に入って、明日に備えましょう。ここは温泉だから素敵なのよ?」

 

風呂、か。…………頼むだけ頼んでみるかね。

 

「部長、一つ倫理上問題がありそうなお願いをしてもいいですか?」

「随分と重たそうな前置きだけど、何かしら?」

「さっきの模擬戦でも小猫ちゃんに使った魔力の精度を少しでも上げたいんで、俺も女子風呂に入れさせてもらえませんか? あの魔力は女性の裸が明確にイメージできればそれだけ発動させやすくなるので、実際の裸を見て少しでもイメージの足しにしたいんです」

 

エロ雑誌を見るのも精度上げになりそうだが、生の裸を見て女性の体つきを少しでも覚えたいので、ダメもとで提案してみる。

 

「嫌です、却下です、不許可です、絶対許しません。あの技の精度をこれ以上上げられたら、合宿中に私が着る服がなくなります。……だから、私は反対です」

 

普段の冷静なキャラからは考えられないほどの早口で、俺の提案を却下してきた。

 

「あらあら、小猫ちゃん。イッセー君の魔力がそんなに嫌なのかしら? 私もイッセーくんが暴発させた時に受けてしまったけれど、そこまで不快には思いませんでしたよ?」

「朱乃さんは、後衛からの魔力支援が主だからそう言えるんです。イッセー先輩のあれは私から攻撃しても発動条件を満たすので、今の私には対処法がないんです。ただでさえ無理矢理恥ずかしい恰好にさせられるから厄介なのに、これ以上発動精度を上げられたら堪ったものじゃありません」

「それを言われてしまうと厳しいですわね。私はイッセーくんとお風呂に入っても構わなかったのですが、難しそうですわ」

「そうみたいね。――イッセー、そういうわけだから、断らせてもらうわね。ごめんなさい」

 

小猫ちゃんの嫌がりようを見て、申し訳なさそうな声色で部長はそう言った。

 

「いえ、気にしないでください。今のところは小猫ちゃんにしか使ってないのは事実なので、嫌がられても仕方ないと思いますし。大人しく男湯を使いますよ」

 

ダメもとで言った事なので、そこまで気にもしていない。

 

「それじゃあ、別荘に戻りましょうか」

 

部長の先導で別荘に戻り男湯と女湯の場所を聞いた後、入浴準備をする為に部屋へ向かう。

 

「悪い、木場。先に風呂入っててくれ。さっき思いっきり動いて喉乾いたから、俺はキッチンで水分補給してから行くわ」

「わかったよ、イッセー君」

 

その途中で猛烈に喉が渇いた事に気付き、一人キッチンスペースへ向かう。

 

「あー、生き返った」

 

コップ数杯の水を飲んで喉を潤した後、一人で入浴準備を済ませて浴場へ向かい、脱衣所で服を脱いでから腰にタオルを巻く。

 

「悪いな、木場。待た……せ……」

 

扉を開けて先に入浴しているであろう木場に一声かけようとしたが、予想外の人物がいた事で声を途切れさせてしまう。

 

「お…………お待ちしてました、イッセーさん」

 

先に入浴しているはずの木場の姿は影も形も見えず、その代わりに本来ならば女湯にいるはずのアーシアが身体にタオルも巻かず、男湯で俺の事を待っていた。

 

「アー……シア。……いったい、どうしたんだ?」

「えっと…………先程イッセーさんが実際の女性の裸を見れば魔力のイメージしやすくなると言ってましたから、私の貧相な身体でよければ見せてあげたいと思って待っていたんですが。……ご迷惑、でしたか?」

 

アーシアは羞恥心で顔を真っ赤に染めて両手を体の後ろに回して身体をモジモジと悶えさせながら、かろうじて聞こえる小声でそう呟いた。

 

自身の身体を『貧相』と形容したアーシアだが、それはあくまでも部長と朱乃さんの二人と比較した場合に限ったもので、こうして意を決して見せに来てくれたアーシアの身体は決して二人に見劣りするものではないと思った。

 

確かにアーシアのおっぱいは部長と朱乃さんの二人と比べれば小さいが、それは比較対象が平均を余裕で超えたサイズをしているからであって、アーシアも世間一般からすれば並サイズはあると思う。

 

それに、おっぱいのサイズ以外は見劣りしているとは思えず、もっと自信を持ってほしいくらいだ。

 

「迷惑だなんて、思わないよ。……むしろ、俺が催促したみたいで申し訳ないくらいさ。こっちに来る事、部長達には言ってあるんだよな?」

「はい。木場さんにも事情を説明してあるので、しばらくは二人っきりです」

「……わかった。二人で入るか」

 

本来ならば女湯へ戻ってもらうように説得するのが筋なのだろうが、それは羞恥心を我慢して献身してくれているアーシアの厚意をないがしろにする物なので、俺も腹をくくってアーシアと一緒に風呂へ入る事にする。

 

アーシアの身体は学校の保健室で見た部長の身体や、魔力を暴発させてしまった時に目にした朱乃さんの身体、修行中に服を弾き飛ばして目にした小猫ちゃんの身体とも違い、女性らしいふくよかさとなだらかさが自然にまとまり、いい意味で平均的な体つきだった。

 

ただ、お互いに多分の羞恥心があったので入浴時間はそれほど長くなく、湯船に浸かっている間も会話らしい会話はほとんどしなかった。

 

「俺、先に上がるな。アーシアはゆっくりしてってくれ。身体、見せてくれてありがとう」

 

着替えまで一緒にしていたら恥かしさと興奮で頭がおかしくなりそうなので、お礼を言ってから浴場を後にする。

 

「いえ、こちらこそ突然押し掛けて申し訳ありませんでした。湯冷めしないように気をつけてくださいね、イッセーさん」

「ああ」

 

背後から声をかけてくるアーシアに返事をしてから扉を開け、身体を拭いてから就寝用のジャージに着替えて宛がわれた部屋に戻り、悶々とした気持ちのままベッドに入ると精神的にも肉体的にもかなり疲れていたので、さほど時間をおかずに泥のように眠りこけてしまった。




そんなわけで、今回はここまで。

読者の方々をお待たせして申し訳ありません。

戦闘描写で色々と考えていたらあっという間に時間が経ってしまい、間が空いてしまいました。

今後もこのような事が頻発するかと思いますが、なにとぞご容赦いただきたく思います。
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