もしドラ~もしもドライグが早く目覚めていたら~   作:ショウゴ

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お待たせしました。最新話が出来たので投稿させてもらいます。

ひとまず、本編をどうぞ。


16 リアスの夢

グレモリー家所有の別荘で俺達がライザー・フェニックスとのレーティングゲームに向けた合宿を開始して、一週間が経過した。

 

初日の移動に使っていた時間は人間界の『裏側』である戦闘系の悪魔祓いについての説明や、悪魔、堕天使を問わず冥界と天界の重要人物や一般常識に関する復習を行うか、部長や朱乃さんが確保してきた相手チームであるライザーとその眷属達の公式ゲームにおける映像記録を見て相手チームの戦力を把握したり、ゲーム中に想定される連携や攻防バリエーションの確認を行うなど、座学を中心に活動を進め、それがひと段落ついたら外に出て様々な内容のトレーニングを行うのが日課と化している。

 

座学中にアーシアが今までの癖で神への祈りを捧げてしまい、ダメージを受けてしまうどちらかと言えば微笑ましい光景が見れる事もあったが、基本的には皆真面目な表情で修業をこなしている。

 

それは俺も例外ではなく、仮称・洋服崩壊(ドレス・ブレイク)系の修行を行う時を除いてふざけた真似は一切行わない。

 

洋服崩壊と共に考えた武器破壊もこの一週間の間に木場の魔剣鍛造で多数の魔剣を造り出してもらって試してみたが、正直上手くいっていない。

 

なにせ洋服破壊と同様のプロセスで魔力を発動させる為には武器を対象にエロい事を考えながら魔力を発動させる必要があるので、どんな妄想をすればいいのかさっぱりわからん。

 

だが、それ以外の修行については順調と言ってよく、木場との実戦形式の訓練を通じて剣士への対処法も少しずつだが掴めてきたし、洋服崩壊でイメージの勘を掴む事が出来たからか、マッチ程度の火や人差し指の指先サイズの水球、指の間程度のごく狭い範囲から電気を起こす位なら魔力のロスなしで出来るようになった。

 

それ以外にも小猫ちゃんと模擬戦を繰り返す事で殴り合いの勘も戻ったし、夜毎に行っている多対一の模擬戦も効果が出ており、鎧の維持時間も僅かだが伸び、鎧の修復を複数回行った場合でもなんとか15分は保つ事ができるようになった。

 

後は譲渡の力による戦術支援の方法も模索している。

 

その理由は単純で、今度のゲームはそれぞれのチームの(キング)を含めても6対16と俺達のチームの方が駒数が少ないので、譲渡の力で1騎あたりの能力を上昇させて対抗する事が座学中に行った大まかな戦略会議で決まったからだ。

 

ひとまず合宿参加メンバーが何段階までの強化に耐えられるか、強化の持続時間はどれくらい保つ事が出来るかを調査した。

 

その結果、能力全般が高いレベルでまとまっている部長は13段階まで、魔力・スピード・攻防力全てが上昇する女王(クイーン)の駒を与えられている朱乃さんは10段階まで、小柄ながら物理的攻防力の上がる戦車(ルーク)を与えられている小猫ちゃんは8段階まで、木場は駒特性がスピードに特化している騎士(ナイト)だからか、肉体的な頑強度は前述の3人より低いため5段階まで、アーシアは魔力運用特化の僧侶(ビショップ)な事もあり3段階まで耐えられる事がわかった。

 

持続時間に関しては回復のオーラを手元に留めて運用しているアーシアが最も長い20分、原則的には肉弾戦で魔力を殆ど使わない小猫ちゃんが15分、木場も小猫ちゃんと同じく15分は保つが、神器を利用した広域攻撃を使うと10分程度にまで縮み、部長と朱乃さんは共に魔力攻撃をメインにしている為、8分前後で譲渡した力を撃ち尽くしてしまうようだ。

 

後は実際のゲームフィールドの地形と戦況変化によって、適宜能力を上昇させる事が決まっている。

 

そんな風に短期的な修行としてはかなりの結果を残す事に成功し、ゲームで使用する戦略も固まりかけている状態だが、1週間程度の修行では俺個人の基礎能力を劇的に高められるはずもなく、禁手化を限界まで使った後の戦闘能力には未だに不安を抱えているのが現状だった。

 

ゲーム開催までに残された修業期間は3日しかない為、日が経つにつれて早々に禁手化を使わざるを得ない状態に追い込まれた結果、実力を発揮できずに体力を消耗しつくしたところを攻められて退場してしまうのではないかという不安が強くなり、修行を終えて体力を消耗しつくしたとしてもその不安で眠るに眠れない状態だった。

 

《相棒。不安になるのは理解できるが、明日も修行があるんだ。眠れなかろうと横になっていろ。でなければ、(つら)くなるのはお前だぞ》

 

既に今日の分の修行も終えて現在時刻も日付が変わる直前となっているのでドライグが心配して声をかけてくるが、疲れているのに眼が冴えてしまって全く寝る気になれなかった。

 

隣で寝ている木場は不安の類とは無縁らしく、すやすやと寝息を立ててよく眠れているようだ。

 

(水分だけでも補給しておくか)

 

意識がはっきりしていると喉の渇きも感じやすいので一度寝床から起きてキッチンへ向かい、水を飲む事にする。

 

「あら。こんな時間にどうしたの、イッセー?」

 

水分を補給して部屋に戻る途中でリビングルームの扉が開いている事に気付いたので扉を閉めようとしたところ、室内から部長が声をかけてきた。

 

「こんばんは、部長。喉が渇いたんで、水分補給ですよ」

「そう。修行で疲れているところ申し訳ないのだけど、少し話し相手になってくれるかしら?」

 

そう言って提案してきた部長の表情は、かなり真面目な物だった。

 

「ええ、構いません」

 

その表情を見るだけで何か重要な案件である事は理解できたので、了承しながらリビングの中へ入る。

 

「ありがとう、イッセー」

 

お礼を言ってくる部長のすぐ近くにはティーライトキャンドルが置かれ、淡い灯をともしていた。

 

もとより夜目が利く悪魔にとっては月光だけで十分な明かりとなり、平然と本を読む事すら可能である点を考慮すると、キャンドルはあくまでも雰囲気作りの一環なのだろう。

 

テーブルを挟んで部長の対面の席に腰を下ろしたところで、部長の装いが普段とは全く違う事に気付いた。

 

就寝前なのでネグリジェ姿な上に、普段は下ろしている紅の長髪を1本に束ね、眼鏡をかけていた。

 

「部長、視力が悪いんですか?」

「この眼鏡は伊達よ。考え事をしている時に眼鏡をかけていると頭が回るの。人間界暮らしが長い証拠ね」

 

普段とは全く異なる様子だったので思わず問いかけたところ、予想外の返答をされた。

 

部長はクスクスと小さな笑い声をあげており、その姿は外見年齢相応の少女らしさに溢れていた。

 

テーブル上には地図らしき物と一緒にフォーメーションのような線が描かれた紙が置かれていた。

 

どうやら部長は一人で作戦を練っていたようだが、テーブルの上には地図以外にもページが開かれた状態であろうと分厚い事がわかる本が置かれていた。

 

「こうしてマニュアルを読んでいるだけだと、気休めにしかならないのよね」

 

その分厚い辞書の様な本のページをめくりながら、部長はため息まじりに呟いた。

 

「それは俺達の相手が不死性を持つと言われるフェニックスだから、ですか?」

「その通り。他の御家の悪魔が相手なら、このマニュアルを読むだけである程度は戦う事が出来ると思うわ。でも、今度の相手は聖獣と称されるフェニックスとほぼ同一の能力を持つフェニックス家の者。当然ライザーも家系最大の特色である不死性を備えているわ。……それが一番の問題なのよ」

 

部長は俺からの質問を肯定しながら詳しい事情を説明してくれるが、その表情は苦虫を噛み潰したような忌々しげな物だった。

 

「『不死身の相手への対処法』を何の経験もないビギナーに考えさせるって時点でかなりの無茶ですからね。人間界のゲームでそんな展開があったら、間違いなくクソゲーの烙印を押されると思いますよ」

「対処法その物はこの本にも記載されているのよ。ただ、その方法がどちらもゲーム初心者には達成不可能に近いモノなの。具体的な事を言うと圧倒的な力で押し通すか、起き上がるたびに何度も何度も倒して相手の精神を潰すなんて、初心者が達成するには厳しすぎだと思わない?」

 

部長の気を紛らわせるために冗談めかして人間界のゲームに例えてみたところ、かなり具体的なプランが返ってきた。

 

「あー……確かに真っ当な初心者だったら不可能に近いですけど、こと俺達のチームに限ればどっちのプランだろうとワンチャンくらいはあるんじゃないですか? 手前味噌になりますけど、体力を温存しながら生き残る事さえ出来れば、赤龍帝のパワーを使って一撃必殺で潰すにしろ殴打合戦の果てに潰すにしろライザーを疲弊させる事は可能だと思うんですが」

 

自惚れでなければ赤龍帝のパワーは相当なモノだ。如何に不死性を持つフェニックスであろうと、赤龍帝の攻撃を何度も受けて平然とした態度を保ち続けられるとは考えづらい。

 

「そうね。イッセーが禁手化を使わずにライザーと戦う場面まで生き残る事が出来れば、禁手(バランス・ブレイカー)を使って不死身のフェニックスを打倒する事も出来るでしょう。それにこの1週間、イッセーは常に必死になって修行をしてくれているから、体力の残量を計算に入れなければゲームの最後まで生き残る事も不可能ではないと思うわ。でも、ライザーと戦う前に敵の眷属に囲まれてイッセーが倒されてしまったら? たとえ包囲網を抜けて生き残ったとしても、禁手化を行うほどの体力が残されていなかったら? イッセーの事は信じているのだけど、ゲームの展開としてそうなってしまった場合の事を考えると、どうしても不安を感じてしまうの」

 

その点に関しては部長も同意を示してくれたが、戦況を判断して逐一指示を出さなければならない(キング)としての役割からか不安を拭い去る事が出来ないようだ。

 

「そもそも、ライザーが婚約者として選ばれた時から嫌な予感がしていたの。今思えばこうなる事を見越して、お父様達は最初から仕組んでいたんだわ。私が否応なしに結婚するようにライザーを当てた。こうして身内同士のゲームになったとしても、ライザーが、もっと言えばフェニックスが相手なら勝てるはずがないと踏んでいたんでしょうね。チェスで言うハメ手。スウィンドルね」

 

まだ俺が眷属になっていない頃の事を思い出しながら、部長は憤慨した様子でそう言った。

 

眷属入りしてさほど時間が経っていない俺の目の前で部長の事情を説明してくれた以上、ある程度は信頼してくれたと解釈していいだろう。

 

その信頼に応える為にも、この一戦の間だけは『禁じ手の中の禁じ手』すら手段の一つとして数えるとしよう。

 

「――部長、一つ訊かせてください。大きな犠牲が発生する事が目に見えている手段を使ったり、小さくない代償を支払ったとしても今度のゲームに勝ちたいですか? みんなの前では伝えませんでしたが、周辺への被害を考えなければ不死身のフェニックスですら高確率で殺せる手段が赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)にはあります。それを使えば、かなり高い確率で部長を勝たせる事が出来るはずです」

「ちょっと待って、イッセー。フェニックスを倒すのではなく、殺す(・・)の?」

 

不死身の存在を殺すという矛盾じみた発言が気になったからか、部長が困惑した声色で確認をしてきた。

 

「ええ。使った事がないので確約はできませんが、初めて禁手(バランス・ブレイカー)へ至った日の夜にドライグから説明を受けた時に『この手段を用いている間は神をも凌駕する力を発揮できるようになる』と言われたので、文字通りの一撃必殺で不死鳥の命を消し飛ばす事も不可能ではないと思います。ただ、この手段を使用した場合、ゲーム終了後の生活については一切保証できません。もしかしたら、それを使ったが故にご両親から叱責を受けるかもしれませんし、最悪の場合は次期頭首としての地位を失っててしまう可能性すらあります。無論、多大な犠牲と代償を払って確実に目先の勝負に勝つか、犠牲と代償を支払わずに賭けに出るかは部長の判断にお任せしますよ。どうしますか?」

『おい、相棒!! あれは使う気がないと言っていたではないか!! 止めさせろ、リアス・グレモリー!!』

 

部長への言葉を聞いてドライグは俺が覇龍(ジャガーノート・ドライブ)の使用も選択肢に入れた事を察したらしく、籠手を展開しながら部長に制止の声をかけた。

 

「黙れ、ドライグ。確かに『アレ』を自分から使う気はないが、部長が使えというなら喜んで使うさ。今回のゲームは部長の一生を左右するモノだから、後悔だけはしてほしくないんだよ。負けるつもりも結婚を許す気も毛頭ないが、万が一ゲームに負けて結婚をしてからコイツの存在を教えて、あとで批難されるのだけは真っ平御免だからな。部長には俺が使えるカードを全部知っておいてほしいんだよ」

「その気持ちは凄くうれしいわ。ありがとう、イッセー。でも、あなたの言う手段の詳細な仕様と差し出す『犠牲と代償』の内容がどの様な物かを教えてもらえない限り、判断ができないわ。今までの説明とドライグの慌てようを見る限りだと、相当無茶な代物である事だけは確かなようだしね。ひとまず、どんな手段なのかを詳しく教えてもらえるかしら?」

 

生粋の悪魔だけあって部長はリスクとリターンをきっちりと計算するつもりらしく、隠し札の詳細を求めてきた。

 

「了解です、部長。今から説明を始めますが、質問や言いたい事は最後にまとめて言ってください。――ライザーを高確率で殺せる手段の内容を簡単に説明するなら、『意図的にブーステッド・ギアを暴走させる』んです。赤龍帝の籠手の中には俺以前の歴代所有者の負の想念が残留思念として残っているんですが、特定の呪文を唱える事でドライグの神器としてのリミッターを強制的に外すと同時に残留思念達の負の想念と同調する事で、一時的に禁手(バランス・ブレイカー)以上の出力を出す事が可能になるみたいです。ただし、負の想念に同調している関係上制御の類は一切利きませんから、敵味方の判別は付きませんし戦闘終了と共に停止する可能性も低いです。おまけにこれを使用している間は生命力を凄まじい勢いで消費するようなので、そのまま命を落とす可能性も否定できません。ただ、使えば確実にライザー本人とその眷属数名は葬る事が可能でしょう。仕様の説明としては、以上になります」

「…………ドライグに確認をしたいのだけど、今イッセーの説明した『神器の意図的な暴走』は本当に制御する事が出来ないの? 仮に制御できなかったとしても、『暴走時の力のみを引き出す事を可能とした所有者』や『暴走時の機能を限定的に発現させた所有者』はいなかったのかしら?」

 

俺が知る限りの《覇龍》に関する仕様を説明し終えると、部長は神妙な面持ちでドライグに質問を投げかけた。

 

『ああ、残念ながら今挙げた3つの構想を一つでも達成した歴代所有者は誰一人として存在しない。先程相棒が説明した『意図的な暴走』を覇龍(ジャガーノート・ドライブ)と言うのだが、大抵の所有者は白いの……要は俺の対存在の白龍皇だな。あいつと戦っている最中に自分から発動させるか、白いのの発動に引きずられる形で自分も発動させてそのまま生命力を消耗しつくすのが常だし、そうでない輩も目の前で自分の伴侶や大切な者を喪ったショックから歴代所有者達の負の想念に引きずられて発動させ、仇敵を殺した後でも仇を討った事が認識できないまま暴れまわっている内に命を削りきってポックリ逝っちまう事が殆どだ。そういう意味だと相棒も堕天使の策略でアーシア・アルジェントを喪った時に発動させてもおかしくなかったが、あの時は相棒が至っていなかった事が幸いし、初めて鎧を纏った事で相手を完全に凌駕したが故に歴代の奴らも相棒と接触しただけで満足したようだ。ただ、次に似たような状況になったらアウトだろうな。残留思念に促されるままに神器を暴走させ、そのまま命を落とす事になっても何らおかしくない』

「……つまり、どの様な経緯であれその《覇龍》を発動させた時点でイッセーの寿命は大幅に削れ、最悪の場合そのまま命を落としてしまう危険性が高いのね?」

 

補足説明を聞いた部長は、引き続き神妙な面持ちのままドライグに『俺が覇龍を使った場合に起こりうる事態』に関する質問をした。

 

『そうだ。それ故に相棒も覇龍の説明を行った時点では使う気がないと言っていたので俺も安心していたのだが、突然意見を覆したのでな。肝が冷えたぞ』

「それなら安心していいわ、ドライグ。あなた達二人の話を聞いて私が出した結論は、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)の使用禁止だから」

 

ドライグからの返答を聞いた部長は、それまでの神妙な面持ちから表情を一変させて普段通りの柔和な表情を浮かべながらそう断言した。

 

「確かに今度のゲームは私の一生を左右する物だから全力で挑むつもりよ。だからといって、下僕の皆に過度の負担を強いるつもりは全くないの。(あるじ)の都合で下僕を傷つけるマネをさせたとあっては、グレモリーの名に泥を塗る事になるもの。そういう訳だから、寿命を縮めてしまうような危険な技はもっての外よ。使用は許可できないわ」

「その選択によって確実な勝利を手放す事になったとしても、ですか?」

「ええ。そういった使用する度に寿命を削る技や使い手が使用をためらう技の発動を強要させるのって、一番嫌いなの。そんな事をするくらいなら潔く負けを選ぶわ」

 

部長はそこで一度言葉を区切ると、その表情をどこか自慢げに変化させながら言葉を続けた。

 

「そもそも今までの修行を見ていれば、イッセーが自分から未来を使い潰すような手段を取らなくてもライザー達のチームに大打撃を与えてくれると信じられるもの。そんな手段を用いる提案をされること自体、予想していなかったわ」

 

発言の最後で苦笑を浮かべた部長はそう言って言葉を締めくくったが、その言葉は現時点で俺の戦闘能力に相当な信頼を寄せてくれているのと同義だった。

 

その事を微塵も考えていなかった俺は、こめかみのあたりを勢いよくぶん殴られたような衝撃を受けた。

 

《殺し文句だな。ここまで言われた以上、命の安売りはできんぞ、相棒。覇龍なしでの戦略を考えておく必要がありそうだな?》

 

その事を察したドライグがからかい交じりの声で心の中からそう言ってくるが、受けたショックの大きさで返す言葉が思い浮かばない。

 

「どうしたの、イッセー? 私、変な事を言ったかしら?」

「少し驚いただけなので気にしないでください、部長。……でも、そういう考えを持っていたのなら先ほどの提案その物が無意味でしたね。差し出がましいマネをして、申し訳ありませんでした」

 

知らなかったとはいえ部長を侮辱するに等しい行動をしてしまったので、素直に謝罪しておく。

 

「構わないわ。むしろ、最悪の事態に陥ろうとも私を勝たせようとしている意思を見せてくれた事を感謝したいくらいだから謝らないで、イッセー」

 

そう言って部長は普段通りの優しげな表情で許してくれたので、話を続けるついでに座学で復習をした時に感じた疑問も訊いてみる事にしよう。

 

「わかりました、部長。――話は替わりますけど、何故今回の縁談を拒否しているのか理由を訊いても大丈夫でしょうか? 無論、話したくなければそう言ってくれればいいんですけど、座学で聞いた限りだと部長のお(うち)が『旧七十二柱』に属している点を考慮すると無下に断れないと思うんですが?」

 

座学で復習した《悪魔の一般常識》によれば、『旧七十二柱』と呼ばれる古来からの上級悪魔の家系は既に半数以上、具体的な数字で表せば54%の家系が断絶状態となっている為、現在も存続している『旧七十二柱』に属する家系にとっては後継者の存在は何より望むべきものらしい。

 

部室でライザーと舌戦に発展した時の部長の発言を思い出す限りだと部長も結婚する意志その物はあるようだが、何故縁談を拒否しているのだろうか?

 

「気遣ってくれてありがとう、イッセー。あなたなりに私を勝たせようとした意思を見せてくれたお礼には足りないかもしれないけど、質問に答えさせてもらうわね」

 

前置きとしてそう告げた後、部長は遠い目をしながら今回の縁談に関する独白を始めた。

 

「……私はあくまでもグレモリー家の人間で、どこまでいってもその名前が付き纏うわ。グレモリーの名は誇りに感じているのだけど、同時に私個人を殺している物でもある。冥界に住む人々は誰しも私を『グレモリー家の令嬢・リアス』と認識しているから、リアス個人として認識してもらえない。その事が寂しいの」

 

どこか遠くを見つめながら淡々とそう告げる部長の瞳には寂しさが乗せられており、泣き出してしまうのではないかと思えるほどだ。

 

その寂しさの原因も、俺には想像がつかない。自分の名について特別な何かを感じた事など、悪魔に転生する前だろうと転生後だろうと一度たりとて感じた事など無いからだ。

 

後ろ指を指されるような悪名高さはあるが、それもベクトルの正負こそ違えど『俺個人を認める物』であり、部長の寂しさを理解するには間逆の物なので判断材料にはならない。

 

「だからかしら? 私はグレモリーを抜きとして、私を、リアス個人を愛してくれるヒトと一緒になりたいっていう小さな夢があるの。そして残念ながら、ライザーは私の事をグレモリーのリアスとして見て、グレモリーのリアスとして愛してくれている。それが嫌なの。でも、グレモリーとして(つちか)ってきた誇りを大切にしたいという思いもある。矛盾しているけど、この小さな夢を叶えながらグレモリーとして生きていきたいと考えているわ。……今回の縁談を拒否している理由は、そんなところね」

 

つまり、部長は『お家の誇りを尊重しながらも部長個人を愛してくれる』異性を求めているのだが、ライザーはその条件に合っていないが故に縁談を拒否しているわけか。

 

「俺は部長の事、部長として好きですよ。それに、死にかけていたところを悪魔に転生させてもらった事を除いたとしても感謝してます」

 

これは偽らざる俺の本心だ。

 

「そもそも俺は冥界に行った事がないので、『悪魔社会から見たグレモリー家』がどんなものかは知りませんから人間界で過ごしてきた部長しか知りません。――部長が自覚していないかもしれませんけど、転生する前に話しかけてきた時っていつも気負った様子がありませんでしたよね。あれ、かなりうれしかったんですよ? 中学の時にブーステッド・ギアを発現させた大事件を起こしてからは、母親を除けば異性から話しかけられる時って例外なく話し相手にびくつかれてたんですけど、部長は日直で早く出るたびに気安く話しかけてきてくれたんで、誇張された噂に惑わされない良い人だって思ってたんです」

 

実際は昨今珍しいくらいに腕っ節が強い事が保証されていたので眷属への勧誘も兼ねていたのだろうが、ああして部長が気安く話しかけてきてくれた事そのものが嬉しかった。

 

「だから部長の事は好きですし、一人だけでも異性に怖がられていないって事がわかっただけで俺にとっては朗報だったんで、感謝もしてるんです」

 

そこまで言って再び部長に注目してみると、何故か部長は頬を真っ赤に染めていた。

 

「部長? 俺、何か変な事言いました?」

「な、なんでもないわ!? 気にしないで、イッセー」

 

部長は慌てた様子で(かぶり)を振りながらそう言った。

 

気にならないと言えば嘘になるが、この慌てようを見る限りだと触れない方がよさそうなので、赤くなった理由については訊かないでおく。

 

「でも、部長の小さな夢を知りながらそれを無視した婚約者を宛がってるんですから、部長のご両親もひとが悪いですよね」

「両親には私の夢については一言も教えてないのだから、無視されても仕方ないわ。それにこの夢自体がかなり我儘な代物だから、事前に教えていたとしても考慮の内に入れてくれたとは思えないしね」

 

部長の夢を知ってしまったが故に、その夢への理解の無いご両親への悪口が出てしまったが、それに対する部長の反応は看過できない物だった。

 

「部長、そういう重要な事はちゃんと伝えておかないと駄目ですよ? 人間界では手垢がつくほどに言われている事ですけど、自分の気持ちは言葉にしない限り他人に伝わらないんですから。ひとまず、なんとかして3日後のゲームに勝ちましょう。ライザーの奴、部室で部長に『自分に勝ったら好きにするといい』って言ってましたから、勝った時の権利で堂々と縁談を破談させた後、ご両親に自分の意思を伝えましょう。諦めずに誠心誠意言葉を尽くせば、部長の意思をご両親に理解してもらえるはずです」

「……そう、よね。人間の異能者じゃないんだから、自分の気持ちは言葉にしないと伝わらないわよね。――ありがとう、イッセー。おかげで目が覚めたわ」

 

顔を赤くしていた部長だが、お礼を言ってきた時には普段の凛々しさが戻ってきていた。

 

「お役に立てたのなら幸いです。――部長。3日後のゲームですが、俺は意地でも最後まで生き残って、覇龍なしでライザーをボコります。それで奴の精神を出来る限り疲弊させるので、たとえ俺がリタイヤしたとしても構わず攻撃を続けて奴にトドメをさしてください」

「ちょっと、死亡フラグ染みた事を言わないで……なんて茶化せる気配じゃなさそうね。わかったわ、イッセー。ちゃんと生き残って、私のところまで来てね」

「はい」

 

お互いに軽口を叩きながら、約束を交わしあう。

 

「明日も修行があるから、そろそろ休みましょうか?」

「そうですね」

 

話しこんでいたら時間も結構経っていたので部長の提案を受け入れ、二人で地図やハウトゥ本を片づけてからリビングを後にする。

 

「おやすみなさい、部長」

「ええ。おやすみ、イッセー」

 

そうして女子部屋と男子部屋への岐路に立ったところでお互いに挨拶を交わし、部屋に戻ってベッドに潜り込む。

 

自分でも単純極まりないが部長と話している間に不安も解消されており、あっさりと寝入る事が出来た。

 

そうして決意を新たにしたからか、その後も修行は順調に進み、問題らしい問題が起きる事無く終わりを告げ、決戦当日を迎える事となった。




そんなわけで、今回はここまで。

次回からはゲームの実戦エピソードに入っていきますが、戦闘描写を考えるのに時間がかかる可能性もあるので再びお待たせしてしまうかもしれません。

そうなった場合、申し訳ないのですが気長にお待ちいただけると助かります。
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