もしドラ~もしもドライグが早く目覚めていたら~   作:ショウゴ

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連続投稿第1弾です。お楽しみください。


02 初めてのデート

俺、兵藤一誠に彼女が出来て約1週間が経過した日曜日。今日は初めてのデートであり、駅前で彼女の夕麻ちゃんが来るのを待っていた。

 

この1週間はそれなりの波乱に満ちていたが、それも仕方の無いことだろう。

 

駒王学園内で最も悪名高い俺に彼女が出来ていた事は下級生から上級生の先輩方を驚かせるのに十分だったらしく、放課後に俺と夕麻ちゃんが一緒になって下校する姿を見た他の生徒たちが俺達に向ける驚愕の視線は簡単には忘れられそうにない。

 

当然その中には松田と元浜の姿もあり、翌日の朝にどういった事情で付き合う事になったのか詰め寄られたので付き合う事になった経緯をありのまま話したのだが、何故か理不尽だと言われた。

 

(まあ、あいつらからのやっかみはいつものことだし、気にしないでおくか)

 

それよりも今は初めてのデートを成功させる事に専念しよう。

 

(プランとしてはベタだけど、夕麻ちゃんが天使や堕天使だからって変に気をてらうよりはいいだろ……多分)

 

天使や堕天使・悪魔の人達は人間よりも遥かに長生きらしいが、夕麻ちゃんが長く生きている確証もないし、何よりこの日のためになけなしの小遣いを使って色々と準備してきたのだ。成功させないと意味がないだろう。

 

「お願いしまーす」

 

そうして内心意気込んでいると、何かのチラシが配られたので反射的に受け取ってしまう。

 

(……つい受け取ってしまった。何が書かれてるんだ?)

 

受け取ったチラシを見てみると中央に魔法陣らしきものが描かれており、その上下にわたって『あなたの願いを叶えます』と書かれていた。

 

《ほう、召喚用の魔方陣。しかも家紋はグレモリーの物か。願いを込めれば即座に悪魔を召喚できるようになっているな》

(マジかよ? これを使えばリアス先輩かそれに近しい人が来るって事か?)

 

チラシを見たドライグがどういった物か説明してくれたが、この周囲で『人間ではないグレモリーの名を持つ人物』となると、どうしてもリアス先輩を連想してしまう。

 

《その可能性は高いだろうな。だが、呼び出すには相応の代価が必要となる。むやみに使わぬ方が身のためだ》

(了解)

 

ドライグからの忠告を聞き、俺はチラシを畳んでジーンズの尻ポケットの中にしまい込む。

 

その直後に夕麻ちゃんがやってきたので、チラシの事などあっという間に頭の中から消えてしまった。

 

夕麻ちゃんとのデートは楽しかった。服屋に行ってお互いの服を選び、小物を売っている店で他愛ない物を選んでプレゼントし、昼食時になれば二人で適当なファミレスに入って食事もした。

 

それからもゲーセンに行って二人で出来るゲームを楽しんだり、先ほどとは別の店でアクセサリーを買ったりしている内にあっという間に夕方となった。

 

何故か夕麻ちゃんは町外れにある公園へ行く事を希望したのでそれを了承し、二人で手を繋いで公園の敷地内へ入る。

 

(ここって殆ど人が来ないんだよな。……まさか、ソッチ系のお誘いか?)

 

全くと言っていいほど人の気配のない公園内ということもあり、内心では一気に童貞卒業まで行けるのかと期待してしまう。

 

公園内の噴水近くまで移動すると、夕麻ちゃんは俺の手を離して一人で噴水に近づき、ある程度距離を取ると俺のいる方を向いてこう言った。

 

「今日は楽しかったね」

 

そう言ってもらえるなら俺としても本望だ。

 

「ねえ、イッセー君」

「なんだい、夕麻ちゃん」

「私たちの記念すべき初デートって事で、ひとつ、私のお願い聞いてくれる?」

 

優しげな笑みを浮かべたままの夕麻ちゃん。

 

「そりゃ、俺にできることなら聞いてあげるけど……どうして欲しいんだ?」

 

彼氏として叶えることが可能な範囲ならなんでも受けるつもりで言った一言だが、夕麻ちゃんの『お願い』は予想外のものだった。

 

「死んでくれないかな?」

 

………………はい?

 

「……ゴメン、もう一度言ってもらっていいか?」

 

聞き間違いの可能性もあったのでもう一度訊いてみると、夕麻ちゃんはゆっくりと俺に近づき耳元で小さく呟いた。

 

「死んでくれないかな?」

 

今まで聞いたこともない冷たさを含んだ妖艶な声色。彼女に視線を向ければ冷笑を浮かべており、害意があることは明白だった。

 

「っっ!!」

 

その顔を見て中学時代に行なっていた喧嘩の経験から身の危険を感じたので、お互いの距離を少しでも離す為に夕麻ちゃんを突き飛ばす。

 

夕麻ちゃんは突き飛ばされた勢いに乗って後方へ移動したが、それと同時に彼女の服装が一変する。

 

それまで纏っていた服が弾け飛び、胸や股間といった必要最低限の部分のみを隠すレザーボンデージの様な服装に変わると同時に、肩甲骨のあたりから一対の黒い翼を生やしていた。

 

「その衣装に黒い翼……堕天使ってところか?」

 

鳥類の中でも(カラス)のような黒い翼に扇情的な衣装。どう考えても真っ当な天使とは思えないので堕天使と判断し、確認を取りながら夕麻ちゃんの一挙手一投足を警戒する。

 

あらかじめドライグから夕麻ちゃんが人間でない事を聞いていたとはいえ、初めて目にする害意を持った人外の存在に対して警戒するなという方が無理な注文だ。

 

「あら、知っていたの?……まあいいわ。あなたと過ごしたわずかな日々、初々しい子供のままごとに付き合えた感じで楽しかったわ」

 

 

ブゥン

 

 

ブラウン管のテレビを起動させる時よりも低い音が空気を揺らし、彼女の手に光の槍が出現する。

 

「子供のままごと、ね。……どうして俺を狙ったか、教えてくれると助かるんだけどな?」

 

必死になって練ったデートプランをそう言われるとヘコむが、人間よりも圧倒的に長生きの堕天使からすればそんな物なのだろう。

 

「いいわ。どうせここで死ぬのだし、教えてあげる。あなたの存在その物が私たちにとって危険因子の可能性が高いから、排除しに来たの。恨むなら、その身に神器(セイクリッド・ギア)を宿させた神を恨んでちょうだいね」

 

どうやら彼女の目的は赤龍帝である俺を始末しに来たようだ。

 

「わざわざご苦労な事で。……まあ、少しくらい抵抗させてもらうぞ!!」

 

こんなところで死にたくないので、相槌をうちながら『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を展開する。

 

時間を稼げればそれだけ身体能力を強化できるので、まずは女堕天使から距離を取る。

 

「遅いわ」

 

だが、人間以上の身体能力を持つ堕天使という種族から見れば俺の行動はあまりに遅かったらしく、現在位置目掛けて光の槍が放たれる。

 

《避けろ、相棒!!》

(言われなくてもわかってる!! クソっ、間に合え!!)

 

ドライグから言われるまでもなく攻撃を回避するために敢えて自分からバランスを崩すことで地面に転がり込み、光の槍を避けにかかる。

 

 

ザシュッ!!

 

 

「があっ!!」

 

だが、無強化状態の俺の身体能力はどこにでもいる高校生でしかないため光の槍を完全に回避する事は出来ず、左足の甲に深々と光の槍が刺さりその場に縫い付けられてしまう。

 

 

『Boost!!』

 

 

そこでやっと1段階目の強化ができる事を知らせる声が響く。いつもならここでパワーアップをかけるところだが、相手は堕天使。人間より遥かに丈夫なのは目に見えているので、まだ溜める必要があるだろう。

 

少しでも動くために左足に刺さる光の槍を無理矢理引き抜くと、貫かれた部分から血が噴出する。

 

(だけど、この出血でいつまでもつ? 相手の強さはどれ位だ!? くそっ、わかんねぇ!!)

 

対人戦の経験ならばそれなりにあるものの、全て赤龍帝の籠手の恩恵で怪我らしい怪我を負うこともなく一方的に倒してきたため、『身体にどれくらいのダメージを負うと危険か』、『相手と自分の強さにどれくらいの開きがあるのか』を知る機会は皆無だった事もあり、俺のほうが不利なのは目に見えていた。

 

「よそ見をしていていいのかしら?」

「ちっ!!」

 

堕天使の手には先ほどと同じ光の槍が握られており、こちらの怪我もお構いなしにもう一度槍を投げてくるのでパワーアップを敢行する。

 

 

『Explosion!!』

 

 

反射神経を含めた身体能力全てを倍加させ、強化された力を使って回避行動をとる。

 

 

ヒュン!!

 

 

左の脇腹を光の槍が通り過ぎ、その衝撃で服が大きく裂けて血が滲むが、足に比べればダメージは微々たるものだ。

 

「今度は、こっちから行くぞ!!」

 

動こうとするたびに光の槍で貫かれた左足が痛むものの、ここで女堕天使を退けなければどちらにしろ命はない。少しでも生存の確率を上げるため、痛みを我慢して堕天使に近づく。

 

「オラァ!!」

 

剥き出しになっている堕天使のみぞおち目掛けて拳を振るう。人間の姿をしている以上、ある程度は急所も同じ場所にあるはずだ。

 

「甘いわね」

 

だが俺の攻撃はあっさりといなされ、無防備な背中をさらす事になる。

 

(しまった!!)

「さようなら、イッセー君」

 

 

ドスっ!! ドスっ!!

 

 

堕天使のその言葉とともに肺のあたりを刺される。しかも念の入ったことに両肺を刺され、そのダメージで血を吐きながらその場に倒れこんでしまう。

 

「素敵な思い出を、ありがとう」

 

堕天使は地面に倒れこんだ俺を見下ろしながらそう言うと、どこかに飛び去っていく。

 

彼女に向けて何か言葉を発しようと息を吸おうとしても、体がいう事を聞かずにひゅーひゅーと空気が抜ける音しかせず、血が足りないのか頭がクラクラして少しずつ意識を保つのも難しくなってくる。

 

《相棒、しっかりしろ!! 相棒!!》

(悪い、ドライグ。助かりそうもねえわ、コレ)

 

ドライグが励ましの言葉をかけてくるが、肺にでかい穴が空いている以上助かる見込みはかなり少ない。

 

《バカ者!! 簡単に諦めてどうする!! あれほど女を抱きたいと言っていただろう!! 欲望すら果たせず、お前のような歳で死ぬなどおかしいではないか!!》

(そりゃ俺だって死にたくねえさ。童貞だって捨ててないし、出来る事なら女の子と色んな場所に行きたいと思ってる。けど、これはマズイって)

 

何か溺れてるような気分になってきたし、だんだん視界もボヤけてきた。このままだと間違いなく死ぬだろう。

 

(あーくそっ、なんでやりたくもない喧嘩ばっかして、彼女が出来たと思ったらその女に殺されて、ろくな事がありゃしない)

 

どうせ死ぬならリアス先輩クラスの超絶美少女相手に童貞を捨てて、その子の腹の下で死にたかった。…………生まれ変われるなら、俺は……。

 

「あなたね、私を呼んだのは?」

 

そんな事を考えているとどこかで聞いた覚えのある声が聞こえてきたが、顔を動かす気力もわかず、頭がまともに働かないせいで声の主が誰か思い出す事ができない。

 

『リアス・グレモリー!! 相棒を眷属にしたいなら早くしろ!! 相棒の心臓が止まったら、俺もまた別の者の元へ行くことになる!! そうなれば――』

 

本格的にヤバイ証なのか耳と精神の両方でドライグの怒鳴り声が聞こえるが、それも段々と聞こえなくなってくる。

 

(りあす?……誰、だっけ?……でも、綺麗な人なら、誰でもいいや)

 

意識が途切れる寸前に視界に紅の髪が映るが、それが誰なのか思い出す事ができなかった。

 

 

 

 

 

―○●○―

 

 

 

 

 

PIPIPIPI!! PIPIPIPI!! PIPIPIPI!!

 

 

突然枕元で鳴りだした目覚まし時計を鬱陶しく思いながら目を覚ますが、起きた途端にいつも以上のだるさが襲いかかってくる。

 

(あ゛~……すっげーだりぃ。どうなってんだ、コレ?)

 

初めて感じる凄まじい倦怠感に驚きを隠せないが、何かを忘れている気がする。

 

(あれ? そういや昨日っていつ帰ってきたっけ? たしか、夕麻ちゃんとデートをして……)

 

夕方に町外れの公園に二人で行き、そこで――。

 

(っ!! そうだ!! 俺、殺されたんじゃなかったのか!? 一体何がどうなってんだ!?)

 

慌てて身体中を触るが、光の槍で貫かれた左足と左の脇腹には傷らしい傷は何一つない。息苦しさも全くないので、致命傷となった背中の傷もなくなっているのだろう。

 

ただ、目覚まし時計に表示されている日付は1日しか経過しておらず、致命傷を受けたにしてはあまりに早い回復だった。

 

《おお、目が覚めたか、相棒!!》

(ドライグ!? 俺が死んだら別の宿主のところに行くって話だったろ!? 一体何がどうなってるんだ!?)

 

ドライグからは初めてコンタクトを取った時に『俺が死ぬまでの付き合い』というのを予め聞かされていたので、何事もなくこうしてドライグと話をしている事すら信じられず、混乱は酷くなる一方だった。

 

《落ち着けと言っても無理だろうから、まずは深呼吸をしろ。相棒の体がどうなったのか今説明してやる》

 

いつものドライグらしい冷静な声色で諭され、俺は何度か深呼吸をして少しでも息を整える。

 

そうしている内に話を聞くくらいには落ち着いてきたので、ドライグに現状の説明を求める。

 

(……それで、あの堕天使に殺されかけた俺はどうなったんだ?)

《相棒が死ぬ寸前に願った事を引き金として、ポケットに入れていた悪魔召喚用のチラシが反応したのだ。そして、その願いを叶える為にリアス・グレモリーが召喚された》

(リアス先輩が? でも、先輩の召喚と今こうして生きている事に何の因果関係があるんだよ?)

《……正直に言おう。今の相棒は人間ではない、悪魔だ》

 

物事をはっきりと口にするドライグとしては珍しく、俺からの質問に対して僅かに間をおくと、意を決した声色でそう言ってきた。

 

(…………は? 今の俺が、悪魔?)

 

ドライグから伝えられた言葉は俺の想像の埒外にあったため、半ば呆然としながら問い返す。

 

《そうだ。お前のような相棒を失いたくない俺の意志と強い眷属を欲していたリアス・グレモリーの思惑が一致した結果、相棒をリアス・グレモリーの眷属悪魔として転生させる事で生き長らえさせたのだ。……つまり、人間としての相棒は昨日死んだ事になる)

(……人間としての俺が死んだって事は、その身体はどうなったんだよ?)

 

今の身体は激しいだるさもあるが、感覚や意識もしっかりとしている。

 

だが、ドライグの言葉通りならばこの身体は既に悪魔となっているため、『人間としての俺の身体』がどうなったのか嫌でも気になってしまう。

 

《心配せずとも今の相棒の身体は人間の時のモノだ。あの堕天使に貫かれた肺も完全に修復されているし、他の内臓も正常に動いている。悪魔になった事で肉体的な強度も上昇し、老化も極端に遅くなった。ただ、日光を含めた『光』には弱くなったから慣れるまでは大変かもしれんが、総合的に見ればプラスと見ていいだろう》

(……つまり、致命傷を受けた身体を人間と比較して強靭な身体を持つ悪魔に文字通り生まれ変わらせる事で俺を生き長らえさせたって認識すればいいのか?)

《その通りだ。……だが、俺の独断で相棒の運命を変えてしまったのだ。どう謝ればいいか皆目見当もつかん》

 

落ち込んだ声でドライグはそう言ってきた。まあ、死にかけていたとはいえ無断で人の体を弄りまわしたのだから落ち込むのもわからないではない。

 

(ドライグは俺の事を思ってそうしてくれたんだろ? それなら文句は無いさ。これからもよろしく頼むぜ、相棒)

 

ドライグがいなかったらこうして話をする事すらできなかった可能性もあるのだ。感謝すれども恨む気はない。

 

《おう……これからもよろしく頼む、イッセー》

 

赤龍帝の籠手を発現させてから初めて聞くドライグの涙声。昨日俺が意識を失ってから今までドライグなりに色々と考えていたのだろう。

 

「ちょっと、いつまで寝てるのイッセー!! 起きないと遅刻するわよ!!」

 

階下から母さんの怒鳴り声が聞こえてくるので時間を確認すると、かなりギリギリの時間になっていた。

 

「すぐ行くよ!!」

 

急いで制服に着替えて朝食を食べ、通学路を走る。幸いいつもどおり予鈴前に教室に着く事はできたものの、倦怠感が抜ける気配はなかった。

 

(しかし、日光でこのだるさって事は昨日の堕天使が使ってた光の槍なんて握ったら死ぬんじゃないか?)

《そこまではわからんが、悪魔と光は相性が悪い。かなりのダメージを受けるのは確実だろうな》

 

体中を襲うだるさに抗えず机に突っ伏していると、ドライグからも聞きたくない言葉を聞かされてしまう。

 

(放課後にオカルト研究部へ行こう。松田か元浜に聞けば、オカルト研究部の部室がどこにあるかもわかるだろうしな)

 

リアス先輩に助けてくれたお礼も言いたいし、悪魔に関する基本的な事情も教えてもらっておいた方がいいはずだ。

 

《そうしておけ。俺も悪魔の生態に関してまでは詳しくないからな》

 

ドライグとの話し合いをしている間に本鈴が鳴っていたらしく、いつの間にか担任が教壇に立って出席をとっていた。

 

(だりぃけど、頑張りますかね)

 

だるさの抜けきらない体に喝を入れて背筋を伸ばし、表面上は普段通りの生活を心がける。

 

2時間もすると倦怠感もだいぶ和らいできたので授業を受けるのも苦にならなくなり、昼を過ぎた頃になってようやく授業に集中できるようになった。

 

全ての授業が終わればSHRで担任からの連絡事項を受けて放課後となる。

 

(さて、旧校舎に行ってリアス先輩から色々話を聞くとするか)

 

最悪門前払いされる可能性もあるが、事情を話せばリアス先輩でなくてもわかってくれると思いたい。

 

そんな事を思いながら旧校舎へ向かう。休み時間に松田や元浜から聞いた話によれば、オカルト研究部の部室は旧校舎にあるということなので、教室を出て旧校舎へ向かう。

 

 

ガチャガチャ

 

 

だが、タイミングとしては(いささ)か早かったらしく、旧校舎の入口の鍵は閉まっていた。

 

(ありゃ、鍵かかってら。……まあ、ここを利用してるのはオカルト研究部だけっぽいし、部員の人が来るまで待つとするか)

 

邪魔にならないよう入口から少し離れた場所へ移動し、オカルト研究部の部員さんが到着するのを待つ。

 

「あら? 2年生の兵藤くん、よね? 何か用事かしら?」

 

5分ほどそこで待っていると上級生の先輩であり、学園の二大お姉さまと呼ばれているもう一人の女子生徒、姫島朱乃先輩がやって来た。

 

「ええ。実は昨日グレモリー先輩に危ないところを助けられたので、そのお礼を言いにきたんです。中で待たせてもらっても大丈夫でしょうか?」

 

ドライグが言うにはオカルト研究部に所属している生徒は全員悪魔らしいので姫島先輩も悪魔のはずだが、『堕天使に殺されかけたところを悪魔にされて助けられました』と言っても信じてもらえない可能性があるので、できる限り普通の言い回しをしておく。

 

「あらあら、わざわざご丁寧に。リアスから話は聞いているわ。もう少ししたらこちらに来ると思うから、少し待っていてもらえるかしら?」

 

姫島先輩はそう言いながら制服のポケットから旧校舎の鍵らしき物を取り出して扉を開ける。

 

「ありがとうございます、姫島先輩」

「これから苦楽を共にするのだし、朱乃でいいわ。兵藤くん」

「はぁ……。わかりました、朱乃さん」

 

姫島先輩がファーストネームで呼ぶように言ってきたのでその通りにすると、朱乃さんは笑みを浮かべたまま旧校舎の中へ入っていくのでそれに続く。

 

旧校舎に入ってすぐの階段を上り、2階の奥へ進んでいく。

 

(旧校舎ってわりにはしっかり整備されてるんだな)

 

木造二階建ての旧校舎の中は『旧校舎』という触れ込みの割に清掃が行き届いており、蜘蛛の巣や積もった埃などは微塵も見当たらなかった。

 

「こちらの部屋で待っていてもらっていいかしら?」

 

案内された場所は旧校舎二階にある一番奥の部屋で、扉のプレートには『オカルト研究部』とだけ記されていた。

 

「わかりました、失礼します」

「あまり(かしこ)まらなくていいわ。今お茶を用意しますね」

 

そう言って朱乃さんは部屋の奥へと移動していったので、部屋の中を見回してみる。

 

未だに使われていると思しき燭台と蝋燭(ろうそく)が元は教室として使われていた室内の至る所に配置されており、光が集中するであろう部屋の中央に大きめのソファが2つあり、それ以外にもソファがいくつか配置されている。

 

(ほとん)どの窓には暗幕がかけられている状態だった。日光が差し込んでいる唯一の窓ですら必要最低限の明り取りといった感じでいつでも室内を暗くできるように暗幕が取り付けられており、室内は薄暗いにも拘らず部屋の隅まで楽々と見渡せる状態だった。

 

(ここまで夜目は良くなかったはずだけど……悪魔化の影響か?)

 

自分の身体に起こった変化で直結する可能性があるとすれば、それが一番高いだろう。

 

(後でリアス先輩に詳しく訊いておいた方が無難だな)

 

どのような経緯であれ、俺が生きている事を知ったら天野夕麻と名乗っていたあの女堕天使が再度排除しに来る可能性もある。そうなった場合、戦うにしろ逃げるにしろ『今の自分に出来る事』をしっかりと把握しておくべきだろう。

 

(まあ、リアス先輩が来るまではゆっくりさせてもらうか)

 

今後の方針が決まったところでソファに腰掛け、お茶を()れてくれているであろう朱乃さんを待つことにする。

 

「粗茶ですが」

 

5分もせずに朱乃さんはお茶の準備を終えて戻ってきたので、早速いただく事にする。

 

「ありがとうございます。いただきます」

 

熱すぎず、かと言ってぬるすぎない絶妙な温度で淹れられたお茶は美味しく、自然と気分が落ち着いてくる。

 

「美味しいです。お茶、淹れるの上手なんですね」

「あら、ありがとう」

 

思ったことを素直に伝えると、朱乃さんもほほ笑みを浮かべたままお礼を言ってきた。

 

 

コンコンコン

 

 

「朱乃、いるかしら?」

 

その直後にノックの音が響き、扉越しにリアス先輩の声がしてくる。

 

「ええ。おりますわ、部長。兵藤くんも一緒です」

「そう。彼、もう来たの」

 

僅かながら驚きの含まれた声を室内に響かせながら扉が開き、リアス先輩が入室してくる。

 

「1週間ぶり、と言った方がいいかしら、兵藤君?」

「そうしてもらえると助かります。昨日会った時は本当の意味で死にかけてましたから、ほとんど覚えてないんです」

 

言外に昨日の事を覚えているか訊かれたので、正直に答えておく。

 

「確かに昨日の事を『会った』というのはおかしいわね。……ここに来たという事は、自分の身体の変化に気づいているという事でいいかしら?」

「ええ。それにリアス先輩側の大凡(おおよそ)の経緯も相棒から聞いています。……まずはお礼を言わせてください。どのような形であれ俺の命を救っていただき、ありがとうございました」

 

軽く微笑んだリアス先輩が真面目な表情で質問をしてくるのでそれに答え、同時にお礼を言って頭を下げる。

 

「そこまで(かしこ)まらなくていいわ。あなたの相棒と私の利害が一致したから助かった、それくらいに思っておいて」

「……わかりました。そういう事にしておきます」

「あの、部長。質問してもいいかしら? 兵藤くんの相棒と言いましたが、誰かいるのですか?」

 

俺とリアス先輩の話が一段落つくと、朱乃さんがリアス先輩に質問をする。

 

「そういえば朱乃達には『新しく眷属にした子がいる』としか言っていなかったわね。彼、神器保有者よ。聞こえているんでしょう、ドライグ?」

 

朱乃さんの言葉を聞くとリアス先輩は俺の左手のあたりに視線を向け、そこにいる存在に声をかける。

 

『無論だ。昨日は世話になったな、リアス・グレモリー』

 

自動的に赤龍帝の籠手が展開され、いつもなら俺にしか聞こえない声を周囲に響かせながらドライグはリアス先輩にお礼を言う。

 

「それほどでもないわ。そもそも兵藤君が何かしらの神器を宿しているのは入学当初から分かっていた事よ。あの時あなたから言われるまでもなく、私は彼を眷属にした可能性は高いわ」

『それでも助けられたのは俺達だ。礼の一つくらいは言わせてもらおうか』

「伝説に謡われる二天龍とは思えないくらい律儀なのね、あなた」

「…………リアス、少し待ってくれない? 今、凄い事を聞いた気がするのだけど」

 

ドライグとリアス先輩が話をしていると、驚愕を多分に含んだ声色で朱乃さんが話に割り込んでくる。

 

「私自身今だに信じきれていない部分があるくらいだし、朱乃が驚くのも無理はないわ。赤い龍の帝王(ウェルシュ・ドラゴン)を封じた神滅具(ロンギヌス)、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』。悪魔の間でも伝説になっている『赤龍帝』がこんな身近にいたのだから、世間って狭いわね」

「え……ええええっ!!」

 

つい先ほどまでニコニコと微笑んでいた朱乃さんの表情が驚愕に染まる。悪魔の皆さんの間でどういった伝説になっているかは知らないが、赤龍帝のネームバリューは相当でかいようだ。

 

「えっと……当代の赤龍帝、兵藤一誠です。悪魔になったばかりの新参者なので、色々と教えてもらえると助かります」

『姫島朱乃といったか。赤い龍の帝王(ウェルシュ・ドラゴン)のドライグだ。このような姿だが、相棒共々よろしく頼む』

「小猫と祐斗もそのうち来るでしょうし、全員揃ったらもう一度紹介するわね。あなたが知りたい事もその時に教えてあげるわ、兵藤君。……いえ、イッセーと呼んだ方がいいのかしら?」

「そうしてもらえると助かります」

 

驚愕の表情で固まってしまった朱乃さんを放置したままリアス先輩が微笑んで愛称を呼んだ方がいいのか問いかけてくるので、肯定しておく。

 

これが悪魔として生まれ変わった俺の一日目の出来事の約半分であり、いつも微笑みを浮かべている朱乃さんが表情を崩した数少ない出来事の一つだった。




そんなわけで、今回はここまで。

第1話のあとがき通りストックが尽きるまでは毎日更新を続けますが、それが尽きたら更新頻度はガタ落ちになると思います。

感想も随時受け付けていますので、お気軽にどうぞ。
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