もしドラ~もしもドライグが早く目覚めていたら~   作:ショウゴ

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連続更新第4弾です。お楽しみください。


05 数奇な出会いと討伐任務

俺がオカルト研究部に入部し、悪魔として働くようになってから10日が経過した。

 

最初の8日間はひたすら自転車を漕ぎ、冥界製GPSのような物を利用して悪魔を召喚するだけの欲を持った人達の家に召喚用魔方陣を添付したチラシを投函し続けた。

 

この作業は本来部長の使い魔が昼夜を問わずに行なっていた事だが、悪魔の仕事がどういったものか経験するために夜間のみ俺が代行した。

 

悪魔の仕事なので夜遅くに家を出ていって深夜に帰宅するため両親から何か言われないか戦々恐々としていたが、部長は初めて俺の家に泊まって両親に暗示をかけた時にこの契約取りに関連する事柄についても誤魔化しておいたらしく、深夜の外出について両親から質問されるような事もない。

 

8日間のチラシ配りを終えて契約の下積みでこういった作業がある事を理解したところで本格的な契約取りを行うようになり、まずは1日1件のペースで依頼者の元へ魔方陣で転移して契約を取っていく事になった。

 

初めて魔方陣で転移する時は上手くいくか心配だったが、俺の場合は人間に転生する前から極低倍率ながら赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を使い続けていたおかげで一般的な下級悪魔程度の魔力量はあったので、特に問題らしい問題もなく依頼者の元へ転移し、依頼をこなす事になった。

 

この日は小猫ちゃんのヘルプという形で依頼者のもとへ向かう形になり、最初は依頼者の方から小猫ちゃんでない事に対する不満を言われてしまった。

 

だが、こちらも召喚された以上は望みをかなえないといけないので『同性だから依頼できる事』を聞き出して望みをかなえようとしたものの、依頼者の方が望むモノと代価の釣り合いが取れず話し合いは長時間に渡ったが、最終的には釣り合いが取れた為、なんとか契約を取る事ができた。

 

次の日の依頼者は色々な意味で忘れられない人だ。

 

なにせ一目見ただけで鍛えている事がわかる筋骨隆々の男性? が明らかにサイズの合っていないゴスロリ衣装を纏い、頭にコスプレ用のネコミミをつけた状態で出迎えられた時はあまりのインパクトで放心してしまった程だ。

 

双眸から凄まじい威圧感を向けられた事で意識を取り戻したが、その人の瞳は純粋無垢な輝きを放っており、その状態で『ミルたんを魔法少女にしてほしいにょ』と言われた時には依頼のハードルの高さに加えて色々なギャップで頭がおかしくなりそうだった。

 

契約そのものは俺の力不足ゆえに破談となってしまったが、彼(それとも彼女?)から参考資料として見せてもらった魔法少女アニメを見ながら色々と話し込んでいる内に気に入られてしまい、契約後に書いてもらうアンケートには最大級の賛辞が書かれていてかなり驚かされた。

 

帰還前にケータイのカメラで自称ミルたんの写真を撮らせてもらい、部室に帰還後部長含めたオカルト研究部一同に撮影したデータ見せて依頼内容を話してこの日の契約の難易度を計算してもらったところ、転生直後の眷属悪魔がこなすには凄まじく難しい依頼だった事が判明、逆に部長達に謝られてしまった。

 

(今日の依頼者さんはまともな人でありますように……)

 

そんな事を思いながらオカルト研究部の表向きの部活動を終えた後、夕食と悪魔の仕事を始めるまでの休憩を含めて一度帰宅するために帰路についていた。

 

「はわう!!」

 

 

ドタン!!

 

 

その途中で大きな音を立てて何かが倒れこむような音が後方からしたので振り返ってみると、手を大きく広げて顔面から路面へ突っ伏すシスター風の服を着た女性がいた。

 

(教会関係者? 接触するのはまずいけど見捨てるのも後味悪いし、声かけるか)

 

教会は天使の管轄らしいので手助けすると色々と問題になる可能性はあるが、彼らの本拠地である教会に近づかなければ大丈夫だろう。

 

「えっと……大丈夫?」

 

内心で自己弁護をしながらそのシスターさんに近寄り、起き上がれるように手を差し出す。

 

「あうぅ。なんでころんでしまうんでしょうか?……ああ、すみません。ありがとうございます」

(声が若いな。同年代か?)

 

声色で大体の年代を予想しながら手を引いて起き上がらせる。

 

 

ふわっ

 

 

それと同時に軽く風が吹き、シスターさんのヴェールが飛んでいく。

 

するとヴェールの中に束ねられていた金色の長髪がこぼれて(あらわ)になり、ストレートのブロンドが夕日に照らされてキラキラと光る。

 

自然とシスターさんの素顔に視線が移動し、一瞬で心を奪われそうになる。

 

金髪翠眼の美少女で思わず見入ってしまいそうになるが、彼女の胸元に架けられているロザリオが教会関係者であることを証明しており、うかつな接触はしない方がいいのは明白だった。

 

「日本に旅行?」

 

近くに漂着していたヴェールを拾いつつ視界に映る旅行鞄から一番簡単な目的を考えて質問してみる。

 

「いえ、違うんです。実はこの町の教会に今日赴任する事になりまして……あなたもこの町の方なのですね。これからよろしくお願いします」

 

そう言ってシスターさんは一礼してくる。

 

(この町の教会に? あそこって俺がガキの頃に潰れた場所だよな? おかしくないか?)

 

この町には教会が1件存在するが俺が小学校に入学する少し前に潰れてしまい、それ以降人の出入りはなくなったはずだ。

 

「この町に来てから困っていたんです。その……私って、日本語うまくしゃべれないので。道に迷ってしまったんですけど、道行く人皆さんに言葉が通じなくて……」

 

困惑顔でシスターさんがそう言ってくる。

 

「それは大変だったね。教会なら場所を知っているから、案内しようか?」

 

あそこはガキの頃近所に住んでたやつと一緒になって頻繁に向かっていたし、潰れてからも基本的に人気がないので人知れず喧嘩するにはもってこいの場所だった為、中学時代はよく足を運んでいた事もあり、記憶に残っている。

 

悪魔化した今では簡単に近づけない場所になってしまったが、意外なところで役に立つものだ。

 

「ほ、本当ですか!? あ、ありがとうございますぅぅ!! これも主のお導きのおかげですね!!」

 

涙を浮かべながら微笑むシスターさん。これで俺が悪魔だと知ったらどう思うのだろうか?

 

「案内するよ、付いてきて」

「はい!!」

 

こうして俺はシスターさんを案内するために一路教会へ向かう事にした。

 

その途中でドーナシークを消し飛ばした児童公園を横切ることになったのだが、子供の泣き声が聞こえるとシスターさんはそちらに向かっていってしまった。

 

「大丈夫? 男の子ならこのくらいで泣いてはダメですよ」

 

そう言いながらシスターさんは子供の頭を撫でてあげた後、おもむろに自分の掌を子供の擦りむいた膝に当てると彼女の掌から淡い緑色の光が発せられ、光に照らされた膝の傷が見る見る内に消えていく。

 

「っ!?」

《ほぉ、回復系の神器保有者か。治癒速度を考えると神滅具を除いた神器の中ではかなりの上物ではないか?》

 

普通ならまず起こらない事態に驚いていると、ドライグからシスターさんがかなり高位の神器保有者であることを告げてくる。

 

10秒ほどで治療は完了し、ケガの痕すら残っていなかった。

 

「はい、傷はなくなりましたよ。もう大丈夫」

 

シスターさんはそう言って子供の頭を一撫ですると、俺の方に顔を向けてくる。

 

「すみません。つい」

 

彼女は小さく舌を出しながら軽く笑ってくるので、俺は苦笑を返すしかなかった。

 

「ありがとう!! お姉ちゃん!!」

 

子供はシスターに向かってそう言うと、元気に駆け出していった。

 

「ありがとう、お姉ちゃん。だとさ」

 

去っていった子供の方向を見ながら何を言っていたか話すと、彼女は嬉しそうに微笑んでいた。

 

「なあ、その力……」

「はい。治癒の力です。神様からいただいた素敵なものなんですよ」

 

俺の問いかけに対して治癒の力であることを告げるシスターさんだったが、その表情は先ほどの微笑みから一転して寂しげなものになっており、神器の影響で何かしらの不都合を被った経験があるのは明白だった。

 

「そっか。……すごい力なんだな」

 

俺も神器保有者である事を言おうか迷ったが、無難な感想を述べるだけにしておく。

 

同じ神器保有者だとしても、俺は元人間の悪魔で彼女はシスター。立場としては相反するものであり、表面上は仲良くなる事が出来たとしても何かのはずみで俺が悪魔であることを知られた場合、共通項を持つ人物が敵対者であることを知った時に彼女の受ける精神的ダメージは計り知れない。その事を考えれば『どこにでもいる高校生』を装っておいた方がいいだろう。

 

(身分や境遇を超えた恋……なんて話もあるが、部長の話を聞く限りだとそんな生易しいものじゃなさそうだしな)

 

俺は悪魔としては駆け出しもいいところなので、表向きの部活動の時間を利用して部長を含めたオカルト研究部メンバーから悪魔として過ごす上での基礎知識を教えてもらっている。

 

当然その中には天使や堕天使に関するものもあり、彼らとは数百年前に行われた三勢力戦争以前から敵対していただけあってお互いにいい感情を持っていない。何が原因となって戦争やそれに準ずる状態になるかわからないので、心苦しくはあるが彼女とも親しくしない方がいいのだろう。

 

「……そう。……素晴らしい、力なんです」

 

シスターさんも寂しげな表情のままそう呟き、それきり会話が途切れてしまう。

 

何か話そうにも共通の話題が一切ないためお互いに黙ったまま教会への道を歩いていくしかない。

 

児童公園を出てしばらく住宅街の中を歩いていると、坂の上にこの町唯一の教会が見えてくる。

 

「あ、あそこですね?」

「ああ。……この町の教会って言うとあそこだけだ。あとは道なりに進めばいい」

「よかったぁ……。本当に助かりました」

 

目的地が見えたことで安堵の声を漏らすシスターさんだったが、こちらはそれどころではなかった。

 

教会の建物を視界に入れた状態で『教会があの場所にある』と認識した途端、今まで感じたことがない強烈な悪寒が体中を駆け巡る。

 

(おいおい、教会を視界に入れただけでこれかよ)

 

この十日間で日光を浴びる事にも慣れて朝の倦怠感も感じなくなったので教会や神社に近づくことのダメージもどこか楽観視していたが、認識を改める必要があるようだ。

 

『天使達の建物』を視界の中に入れただけでドーナシークと名乗っていた堕天使と戦う時と同じか、それ以上に体が緊張しているし、万が一の確率で建物の中に入ったら間違いなく死ぬか重傷を負うのが本能的に理解できてしまい、一刻も早くこの場から立ち去りたかった。

 

「ぜひお礼をしたいので、ご一緒に来ていただけませんか?」

「……すまないが遠慮させてもらうよ。俺の家、門限が厳しいからあまり寄り道できないんだ」

 

両親から『学校が終わったらなるべく早く帰って来い』と言われているのは事実なので、それを利用してシスターさんのお誘いを丁重に断っておく。

 

「そうですか……。私はアーシア・アルジェントと申します。アーシアと呼んでください」

「俺は兵藤一誠。イッセーでいいよ」

「わかりました、イッセーさん。ぜひともお時間がある時に教会までおいでください。約束ですよ?」

 

にこやかな笑顔と共にそう言ってくるアーシア。彼女の話し方を聞く限り、俺が悪魔である事には気づかれていないようだ。

 

「ああ、わかった。時間ができたらそうさせてもらうよ。……それじゃあ、また」

「はい。またお会いしましょう」

 

別れの挨拶をして、俺は自宅への帰路につく。最後に背中越しに彼女の姿を見てみると嬉しそうな笑顔と共に手を振ってきたため、根が優しいいい子だというのがよく理解できた。

 

そして、これが俺と彼女の数奇な運命の出会いでもあった。

 

 

 

 

 

―○●○―

 

 

 

 

 

「二度と教会に近づいちゃダメよ。――」

 

その日の夜。悪魔の仕事の為に部室に向かい、アーシアとの一件を部長に報告するといつになく険しい表情でそう言われ、同時に今回の行動がどれほど危険だったのか、悪魔が悪魔祓い(エクソシスト)やシスターといった教会関係者に関わるとどうなるかを実例を含めて懇切丁寧に説明してくれた。

 

「――。わかった、イッセー?」

「ええ、自分が知らない間にどれだけ危険な橋を渡ろうとしていたかよく理解できました」

 

シスター・アーシアのお誘いを断ったのは結果的に正解だったようで、一通りの説明を受けるとどれだけ自分が間抜けな事をしていたか否応なく理解できてしまった。

 

「わかってくれたならいいわ。とにかく、今後は気をつけてちょうだい」

「了解しました。……けど、潰れたはずの教会であの悪寒って事は、潰れていない場所ならもっと危険なんですよね?」

「潰れたはずの教会? イッセー、あの教会について詳しく話してちょうだい」

 

部長からの話が一段落し、今日の行動の危険性の確認を含めた質問をすると部長の表情が怪訝なものに変わり、あの教会についての説明を求めてくる。

 

「? 別に構いませんが、俺個人が知ってる範囲だとあの教会に関する話はこんなものですよ? ――」

 

駒王学園周辺は部長が管轄する領土であり、この領土内が俺を含めた眷属悪魔たちが営業活動を行える範囲でもある。

 

そして営業可能範囲を実際の地図に当てはめてみると前述の神と悪魔の権利問題に抵触する可能性があるからか、教会周辺だけは部長の領土になっていなかった事を思い出す。

 

自身の領土になっていない影響からかあの教会が約十年前に潰れている事、少なくとも俺が駒王学園に入学するまでの間は教会が完全に無人化している事を話すと部長はかなり驚いていた。

 

「……あの教会は十年ほど前に潰れ、少なくとも去年の今頃までは完全に無人だったのね?」

「ええ。管理人やそれに近い人もいませんでした」

 

念を押すように部長がそう問いかけてくるのでそれを肯定すると、怪訝な表情で何かを考えているようだった。

 

「あらあら、お説教は終わりました?」

「おわっ!?」

 

いつの間にか朱乃さんがいつものニコニコ顔で背後に立っており、突然声をかけられて驚かされてしまう。

 

「朱乃、どうかしたの?」

 

だが、部長の問いかけを受けると朱乃さんはニコニコ顔から緊張感を含んだ真剣なものに変えてこう告げた。

 

「先ほど大公から連絡がありました」

「大公から? 内容は?」

「この町で『はぐれ悪魔』が見つかったそうですわ」

 

その報告を聞いた瞬間に部長の表情も緊張したものになる。

 

(はぐれ悪魔って、たしか(あるじ)を裏切った悪魔のことだよな? 部長に話が飛んだってことは、領土内に『はぐれ』が見つかったってことか)

 

朱乃さんの言葉を聞き、部長からの悪魔講座で教えてもらった事を思い出す。はぐれ悪魔を簡単に説明すると、俺のように他種族から悪魔に転生した者が主を裏切るか殺害して野に放たれ、悪魔の力を私利私欲に使って暴れまわるようになった者の総称だ。

 

こういった輩は放っておくと何をしでかすかわからないため、見つけ次第『はぐれ』になる前の主か逃げ込んだ先の領土に住まう悪魔へ上層部から討伐依頼が出されることになっている。

 

その危険度は冥界で普通に生活している悪魔のみなさんとは比べ物にならないらしく、『はぐれ』の中には莫大な懸賞金がかけられるほどに強大な力を持つ者もいるらしい。

 

そしてこのはぐれ悪魔討伐は領土内の治安維持活動の一環となっているため、普段の営業活動よりも優先される。

 

(まあ、放っておいて何も知らない一般人から被害者を出すのも後味悪いし、頑張りますかね)

 

譲渡の力を使えば他のメンバーの支援も可能なので、比較的短時間で済ませる事も不可能ではないはずだ。

 

「イッセー、今日の営業は中止よ。すぐに『はぐれ』の討伐に向かうから準備をして」

「わかりました、部長。……今の内に確認しておきたいんですが、俺は強化の力を使って前線で戦った方がいいですか? それとも、後方で皆に力を譲渡するサポートに回るべきですか?」

 

先日は独力で堕天使を退ける事に成功したものの、俺は人外の存在との戦闘に関しては素人なので戦況に合わせて臨機応変に対応するのは難しいため、現場へ向かう前に部長の指示を仰いでおく。

 

「そういえば、ブーステッド・ギアは持ち主の力を倍加した上で何かに譲渡する事が可能だと言われていたわね。……イッセーも倍加と譲渡、両方の力が使えるの?」

「ええ。倍加も譲渡も使えますが、一度の譲渡で強化できる対象は二つまで、複数に譲渡する時の増幅率は対象を一つに絞った時の8割程度になります。おまけに譲渡は使いこなせているわけではないので、譲渡対象の全能力を強化するのが精一杯です」

 

譲渡の力を使いこなす事が出来るようになれば対象の特定能力のみを増幅する事も可能なのだろうが、現状ではそういった細かな調整はできないので、今の俺に出来る事を正直に伝えておく。

 

「味方の強化ができるだけで十分よ。…………イッセーは悪魔になって間もないし、今日は譲渡の力でみんなを支援しながら悪魔の戦いがどういった物かよく見ておきなさい」

「了解しました」

「それじゃあ、イッセーも準備を始めてちょうだい。お客様への連絡も忘れないようにね」

「わかりました」

 

ポジションも決まったので、部長の指示に従って今日召喚を予約してくれたお客さんに対する謝罪の連絡と木場・小猫ちゃん・朱乃さんに譲渡の力についての説明をした後、眷属一同ではぐれ悪魔の潜伏先とされる場所へ転移する。

 

「ここが、『はぐれ』の潜伏先……」

 

廃屋の周囲には家屋内から溢れる敵意や殺意が漏れており、その手の気配を嫌というほど向けられた経験がなければ震えてしまったかもしれない。

 

「突入前に、再度陣形の確認をしておきましょう。前衛は祐斗と小猫。大丈夫だとは思うけど、直接『はぐれ』と戦う事になるから気をつけて」

「はい」

「わかりました」

 

木場も小猫ちゃんも『はぐれ』の討伐は慣れているらしく、気負った様子もなく部長に返事をする。

 

「朱乃とイッセーは私と一緒に後衛。朱乃はいつも通り魔力で祐斗達をサポート。イッセーは譲渡の力で皆をサポートしながら、悪魔の戦いがどういった物かよく見ておきなさい」

「かしこまりましたわ、部長」

「り、了解です」

 

朱乃さんはかなりリラックスした声色で返事をするが、俺は人外の存在との2度目の戦いという事もあり、緊張気味の声色で返事をしてしまう。

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ、イッセー君」

「落ち着いてください、イッセー先輩」

「今回の討伐対象はそこまで強力ではありませんから、落ち着いてくださいな、イッセー君」

 

自分で思っている以上に緊張が表情に出ているからか、木場達が一言ずつ声をかけてくれた。

 

「あっ、ああ。……すぅ……はぁ……」

 

『心配されっぱなしで討伐に失敗しました』なんて冗談にもならないので、返事をしてから深呼吸をする。

 

「――よし、落ち着いた。部長、お待たせしました」

 

そうしていると自然と緊張もほぐれてきたので、ブーステッド・ギアを展開してから部長に声をかける。

 

「構わないわ。イッセーは実質的にこの戦いが悪魔としての初めての戦闘だもの。――それじゃあ皆、行くわよ」

「「「「はい!!」」」」

 

部長の一声で俺達は『はぐれ』の潜む廃屋内に入ると敵意や殺意が一層強くなる。どうやら討伐対象に俺達が来た事を察知されたようだ。

 

不味(まず)そうな(にお)いがするぞ? でも美味(うま)そうな臭いもするぞ? 甘いのかな? 苦いのかな?」

 

不穏な気配が強くなった直後に地の底から響くような声音が屋敷中に響く。発音こそ人間の声に酷似しているが、悪魔化の影響で日本語に聞こえているだけなのが直感的に理解できるほど不気味な声だった。

 

「はぐれ悪魔バイサー。あなたを消滅させに来たわ」

 

部長は場慣れしているのか一切臆することなく、討伐対象のはぐれ悪魔・バイサーに戦意がある事を告げる。

 

 

ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタ……。

 

 

部長の言葉が終わると、わずかな間を開けて乾いた木を連続してぶつけあった音を甲高くしたような笑い声があたりに響く。

 

(どう考えても普通の人間に発声できるものじゃない。どんな姿なんだ?)

 

その異様な声色を聞くだけでまともな姿をしていない事が容易に予想できてしまう。

 

「部長、念のために増幅を始めます。何かあってからじゃ遅いですから」

「ええ。頼むわ、イッセー」

「ブーストスタート」

 

 

『Boost!!』

 

 

増幅には相応の時間がかかるので、部長に一声かけてから力のチャージを開始しておく。

 

 

ぬぅ……。

 

 

その直後に暗がり――悪魔化してかなり夜目が利くようになったものの、あまりに離れすぎた場所は暗くて見えないこともある――の中から上半身裸の女性がゆっくりと現れるが、女性の体は不自然なまでに宙に浮いているように見えた。

 

(ん? どうなってんだ?)

 

そのことを(いぶか)しんでいる内に全体像が見えたため、俺の疑問はあっという間に氷解する事になった。

 

 

ずんっ!!

 

 

重たげな足音を響かせながら、巨大なバケモノの下半身が(あらわ)になる。

 

(いや、これはどう考えても下半身だけで一個のモンスター扱いしてもいいんじゃねーか?)

 

バイサーの下半身はRPGなどに出てきそうな大型モンスターの形をしており、その首の部分に人間の股関節から上の部分を無理やり融合させたようなとんでもない姿をしていた。

 

「主のもとを逃げ、己の欲求を満たすためだけに暴れるのは万死に値するわ。グレモリー公爵の名において、あなたを消し飛ばしてあげる」

 

部長の宣戦布告と同時に展開して力のチャージを行なっていたブーステッド・ギアの手の甲にセットされている宝玉が点滅し、何かを知らせているようだった。

 

《相棒、木場祐斗と塔城小猫に力を譲渡しろ。同時譲渡は多少効率が悪くなるが、それでもあの程度の悪魔なら既に倒せるだけの『力』が溜まっている。宝玉の点滅は『力』の蓄積が十分な事を知らせているようだ》

 

どうやらドーナシークを消し飛ばした時に願った『どの程度力を増幅させれば敵との実力差を埋められるか』を知らせる機能が発現してくれたらしい。

 

(了解。それじゃあ早速いきますか)

 

木場と小猫ちゃんに駆け寄り、二人の肩に手を置きながら声をかける。

 

「今から力を譲渡する。慣れてないから二人の全能力を底上げする方向でいくぞ」

「わかったよ」

「お願いします」

 

木場と小猫ちゃんの了承を得たので、一度深呼吸をしてから神器(セイクリッド・ギア)を発動させる。

 

「いくぞ、ブーステッド・ギア・ギフト!!」

 

 

『Transfer!!』

 

 

溜まった力が俺の体を通して木場と小猫ちゃんに行き渡っていく。

 

同時譲渡は増幅率が多少落ちてしまうのだが、どうやら気にする必要はないようだ。

 

なにせ一目見ただけで二人の纏うオーラの力強さが増しているし、当の本人達も増幅された自分の力に驚いている有様だった。

 

「……すごいな。自分でも信じられないくらい力が増しているのがわかるよ」

「これなら、負けない」

 

手を何度か握ったり開いたりして増幅された自分の力の感覚を確かめながらそう言う二人の表情は驚きと歓喜が半々といった感じだった。

 

「祐斗、小猫。やっちゃいなさい」

 

部長から攻撃開始の掛け声が木場と小猫ちゃんにかかる。

 

「「はい!!」」

 

二人が掛け声に返事をすると木場の姿が一瞬だけ消えて部長の近くに現れ、小猫ちゃんが悪魔化して上昇した身体能力をもってしてもとんでもない速さで駆け出す。

 

次の瞬間にはバイサーの下半身にある四肢がひとりでに細切れに変わりながら崩れ落ち、僅かに遅れて小猫ちゃんがバイサーの懐に飛び込んで巨大なバケモノの体に殴りかかる。

 

 

メキッ、ブチブチっ!!

 

 

骨が砕け肉が引き裂かれる音が周囲に響くと同時にバイサーが吹き飛ぶ。

 

その吹き飛んでいった方向に小猫ちゃんが先回りして待ち構えていて再度攻撃して吹き飛ばし、同じように吹き飛ばされた場所に先回りして攻撃を行うバイサーの巨体を用いたひとりお手玉が開始される。

 

(……えっと、ドラグ・ソボールの空孫悟(そらまごさとる)?)

 

あまりに場違いな感想かもしれないが、目の前の光景はそう形容するしかないように思えた。

 

(このまま小猫ちゃんに任せておけばいいんじゃねーか?)

「あらあら、すごいわね。イッセーくん、私の力も底上げしてくれないかしら?」

「へ?……えーっと…」

 

半ば呆然としている最中に朱乃さんから笑顔でブーストの要請がきたので、一瞬なにかの冗談かと思ってしまった。

 

《……相棒、今の姫島朱乃には逆らうな。ここは素直に従っておけ》

「わ、わかりました。今から力を溜めるんで、少し待っていてください。ブーストスタート」

 

いつものドライグらしくない若干焦りの混じった声色でそう言われたので若干慌てながら力のチャージを再開したのだが、30秒と比較的短い時間で宝玉が点滅し始めた。

 

「えっと……もう十分溜まったみたいなので、力を送りますね」

「よろしくお願いしますわ」

 

木場達に譲渡した時と同じ様に朱乃さんの肩に手を当てて、溜まっていた『力』を譲渡する。

 

 

『Transfer!!』

 

 

先程と同じように溜まった力が俺の体を通して朱乃さんに行き渡っていくのを感じ取るが、小猫ちゃんの攻撃を何度も受けてボロボロになったバイサーに朱乃さんが追撃を行うのはどう考えてもオーバーキルな気がする。

 

「うふふふふ、すごい力。…小猫ちゃん、それをこちらに渡してもらえますか?」

 

そう言っている朱乃さんの表情はいつも通りの笑顔だったが、何かに陶酔しているようにも思えた。

 

「わかりました」

 

朱乃さんからの要請を受けた小猫ちゃんが朱乃さんのいる位置に向けてバイサーの体をサッカーボールを蹴るような気安さで蹴り飛ばす。

 

既にその体は小猫ちゃんの攻撃によって人間の上半身だろうとバケモノの下半身だろうと構わず全身ボコボコに打ちのめされている。今の状態でも虫の息だというのに、これ以上何をするのだろうか?

 

「あまり元気がなさそうだけど、これで元気が出るかしら?」

 

笑顔で相手を気遣うような言葉を呟く朱乃さんの両手の間にバチバチと電流が(ほとばし)る。その状態で両手を頭上に掲げると(いきお)いよく雷が撃ち出され、自身に向かって飛んできたバイサーの体をその雷で地面に叩き落とした。

 

「ぎああああぁぁぁっ!!」

 

電撃を受けたことでバイサーは叫び声を上げながら体を痙攣させる。

 

「あらあら、まだまだ元気じゃない。しっかり私も楽しませてね?」

 

電撃を受けて生理的な反応を返す様を『元気』と形容し、赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)によって威力を増幅された雷を遠慮なしに撃ち込む今の朱乃さんの姿を見ていると、チェスの『女王(クイーン)』ではなくSM的な意味での『女王様』を思い浮かべてしまうのは俺だけなのだろうか?

 

「そういえばイッセーは知らなかったわね。朱乃は普段は優しいけれど、一度戦闘となれば相手が敗北を認めても自分の興奮が収まるまで決して手を止める事がない究極のSよ」

《……あの笑顔を見た時にそうではないかと思ったが、やはり(・・・)姫島朱乃はサディストだったか》

 

内心でドン引きしていると部長がサラリと朱乃さんの性癖を告白し、ドライグはその説明を聞いて妙に納得した声を出す。

 

(やはりってなんだよ、やはりって!! ドライグは朱乃さんがSだとわかってたんかい!!)

 

そんなドライグにツッコミを入れてしまったとしてもしかたのない事だと思いたい。

 

《相棒より前の宿主の中にはそういった嗜好を持っていた者もいたというだけだ。それに姫島朱乃がサディストだと気づいたのは相棒に譲渡の力を使うように言った時だから伝える暇がなかったのだ。許せ》

 

いつもと同じ冷静な声色で俺のツッコミに返事をしてくるドライグだが、同時に知りたくもない事を知ってしまった気がする。

 

「怯えなくても大丈夫よ、イッセー。朱乃は味方にはとても優しい人だから問題ないわ。あなたの事もかなり気に入っているようだから、今度甘えてあげなさい。きっと優しく抱きしめてくれるわよ」

 

部長は俺を慰めるためにそう言ってくるが、目の前で俺たちに背を向けて女王様のような高笑いしながら問答無用で雷撃を筆頭にした各種魔力攻撃をぶちかます姿を見せられている状態では説得力が欠片も存在しなかった。

 

朱乃さんのバイサーに対する拷問――もうこう呼んでいい気がする――はそれから数分間続き、彼女が満足する頃にはバイサーのバケモノ然としていた下半身は完全に炭化し、裸の女性のようだった上半身も血まみれになっている上にかなりの数の水ぶくれが大量にできていて、生きているのが不思議なほどだった。

 

「朱乃、それくらいにしておきなさい」

「もうおしまいなんて……ちょっと残念ですわね」

 

部長の制止を聞いて魔力攻撃を中断した朱乃さんが俺たちの方に向き直ると、非常に満足気な微笑みを浮かべていた。

 

(朱乃さん、あれだけ攻撃したあとで微笑まれても怖いだけっす)

 

内心でそう呟き、朱乃さんには絶対に逆らわないようにしようと思ったとしても仕方がない事だろう。

 

「最後に言い残すことはあるかしら?」

 

完全に戦意を失い、地面に突っ伏して虫の息になっているバイサーに近づいて手を(かざ)しながら部長が訊く。

 

「う゛……あ゛あ゛…っ」

 

だが朱乃さんの手によってさんざん痛めつけられたバイサーにまともな言葉を発するだけの余力は残っておらず、小さく呻くのが精一杯だった。

 

「もう喋る余裕も残っていないようね。……消し飛びなさい」

 

死刑宣告として放たれた言葉は普段の部長らしくない低く冷徹な声色で、その冷たさに思わず全身が震えてしまった。

 

 

ドンッ!!

 

 

その直後に部長の掌からバイサーの全身を余裕で覆い尽くす大きさを持つ漆黒の魔力塊が撃ち出され、それに包まれたバイサーは文字通り跡形もなく消し飛ばされた。

 

「終わりね。みんな、ご苦労さま」

 

部長が俺たちの方に向き直りながらそう言い、この日のはぐれ悪魔討伐任務が終了する。

 

「それにしても、イッセーくんの力はすごいものですわ。少し疲れましたが、それでも魔力の威力が段違いに上がっていたのが自分でも実感できましたわ」

「確かに。早く動くのはあまり得意じゃなかったけど、自分でもびっくりするくらいのスピードが出た」

「僕もスピードには自信があったけど、イッセー君の強化でいつも以上に早く動けたよ。譲渡の力を使った経験は殆どないって言っていたけど、とても信じられない」

 

それと同時に和気藹々とした雰囲気で木場たちが譲渡の力を受けた感想を言ってくる。

 

「気に入ってもらえたなら嬉しいけど、過度の期待はしないでくれよ? 自己強化と一緒で力を溜めるのに相応の時間がかかるし、その間は溜めた力が不安定になるのを防止する為に俺からの攻撃ができない。そうなるとこっちができることは防御と回避だけだから、強敵と戦う時には前衛の支援が必要不可欠だと思っておいてくれ」

 

幸い今日の敵はそこまで強くなかったので問題はなかったが、俺の力も万能ではないので忠告しておく。

 

「でも、その点をクリアしてしまえば強力な力であることに変わりはないわ。弱点を把握しているならそれを突かれないようにすればいいだけでしょ、イッセー」

「あまり悲観的になりすぎてもいけませんよ、イッセーくん」

「強化の時間くらいは稼ぎますから安心してください、イッセー先輩」

「それとも、僕たちが信用できないのかい、イッセー君?」

 

部長を含めた仲間達から矢継ぎ早にそう言われてしまうと、俺としても反論できなくなってしまう。

 

「……俺の負けです。ただ、さっき言ったことは覚えておいてくださいね」

「当たり前よ。…それじゃあ本拠地へ帰りましょうか」

 

部長の一言で朱乃さんが転移の準備に入り、程なくして俺達は本拠地である駒王学園旧校舎に帰還するのだった。




そんなわけで、今回はここまで。

にじファン・シルフェニア版では2話使っていた部分を添削し、一つのエピソードにまとめました。

次回も同じ時間に更新します。
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