もしドラ~もしもドライグが早く目覚めていたら~ 作:ショウゴ
シスター・アーシアと最悪の再会をした翌日、俺は学校を休んで彼女を教会へ案内する時に通りがかった児童公園に来ていた。
学校を休んだ理由はフリードから攻撃を受けた左足のダメージが思いのほか重傷だったからだ。
部室に帰還した後に部長からの魔力供給による治療を受けはしたものの、祓魔弾に込められていた堕天使の光力が高かったので供給された魔力の殆どは光の毒性除去に費やされてしまった為、傷を完治させることが出来なかったのだ。
足の傷が完治しなかったので部長からは大事を見て今日一日学校を休むように言われてしまったし、この足では営業活動に支障が出るので夜の仕事も数日は休むように言われている。
魔力供給による治療を受ける前に部長へシスターの救出を進言する事も考えたが、日頃の悪魔講座で悪魔と堕天使の確執は理解していたので言い出す事ができなかった。
傷の完治を考えれば家で安静にしていた方がいいのは理解しているが、安静にしているとどうしても部室に帰還する直前のシスター・アーシアの姿を思い出してしまうし、その事を思い出せば自分の力のなさを痛感させられて気が気ではいられなかったため、気分転換に散歩をしているところだった。
(……ドライグ、少しいいか?)
散歩をしている最中に足が痛くなってきたので、休憩がてら公園のベンチで痛みが収まるのを待つ傍らでドライグに話しかける。
《なんだ、相棒》
(かなり前に代価を差し出せば無理矢理『至らせる』事も出来るって言ってたよな。あれ、今でも有効か?)
駒王学園入学直後は俺もドライグも部長を含めた悪魔の皆をかなり警戒して気を張った生活を送っていたため、いざという時の最終手段を教えられていた。
それは体の一部をドライグに差し出すことによってブーステッド・ギアの力を強制的に引き出し、僅かな時間ではあるが無理矢理
何故なら
当然その条件をクリア出来る環境は限定されてしまうため、
俺の持つ神器、
しかも『至った』保有者はかなりの短期間――早ければ神器を発現させて数時間、遅くとも1ヶ月以内には『至って』いたらしい――でブーステッド・ギアの
これは歴代保有者の中でも異例の遅さであり、覚醒当初はドライグからは俺が『鎧』へ至らない事を大いに嘆かれたし、『赤龍帝としての才能だけを見れば、間違いなく歴代最低だ』と嫌な太鼓判を押された――才能のなさは悪魔に転生する時に消費した8つの駒の内訳をみるとより顕著に現れており、ドライグ曰くブーステッド・ギアを除いた俺個人の資質だけなら駒一つの半分を満たせるかどうかといったレベルで、残りは全てドライグの魂を受け止める事に消費されているのだから己の才能のなさを痛感させられる。ただ、才能があったらあったで悪魔に転生できなかった可能性がある事を考えると良し悪しだ――のだが、俺の内側で普段の生活を観察し続けた結果考えを改めたようだ。
ドライグの考えだと、俺がいつまで経っても
歴代所有者の人達が赤龍帝の籠手を発現させたのは大抵何かの戦乱や騒乱の最中であり、それをブーステッド・ギアの力でくぐり抜けた結果力に呑まれ、その劇的な精神変化が
《……有効ではあるが、推奨はせんぞ。大方あのシスターの事を考えた結果なのだろうが、あの方法は割に合わん。前にも言ったが、相棒は切っ掛けがないだけだ。それさえ得れば『至る』事ができるのだから、無理に『至ろう』とするな》
そういった理由から、代価を差し出した強制
(でも、裏を返せば切っ掛けがない限り永遠に至れないって事だろ? いざという時は頼むぜ、相棒)
《……わかった。『鎧』の力が必要になったら言え。差し出した代価に応じた長さで『鎧』を纏わせてやる。……そうならない事を祈るがな》
当然これは最終手段の裏技なので、他の手段も考える必要がある。
(正攻法で行くなら、営業前に朱乃さん達から教えてもらってる訓練の内容を厳しくするのが無難なところかな?)
少なくとも対人の喧嘩しか経験のない今の俺より3人の方が強いので、夜の営業を始める前に少しだけ時間をもらって朱乃さんから魔力の運用技術を、小猫ちゃんから各種体術を、木場からは剣の扱いをローテーションで教えてもらっているのだが、その訓練内容を厳しめにしてもらって一歩ずつ前に進むしかない。
シスター・アーシアが今の環境をどう思っているかは知る由もないが、最低でも彼女を襲おうとしていたフリード・セルゼンとかいうクソ野郎は叩き潰したいところだ。
(当面の目標としてはこんなとこだな。……何にしても怪我を治さんことには始まらんけど)
目的も定まったし、一時的ながら足の痛みも治まってきたので一刻も早い完治のために帰宅しようと腰を上げたところ、視界の端に金髪の少女の姿が映りこむ。
つい気になってそちらに顔を向けてみると、アーシア本人が俺の方を見て驚きの表情を浮かべていた。
「……イッセーさん?」
「………アーシア」
この児童公園に来たのも彼女の住む教会の近くであるが故に彼女が通りがかる可能性を期待していた部分もあるが、こうまで早く会えるとは思っていなかったので俺も驚きを隠す事ができなかった。
ぐーっ
二人して呆然としていると、朝から何も食べていなかったので腹がなってしまい、その音で強制的に現実へ引き戻されてしまった。
「……ふふっ。お腹、減ってるんですか?」
「恥ずかしながらな。時間もちょうどいいし、一緒に食事でもするかい?」
「はい。私からもお願いしますね、イッセーさん」
時間的に昼も近くなっていたのでダメ元で食事に誘ってみるとあっさりとOKされたので、俺はアーシアと共に繁華街の方へ向かうことにした。
―○●○―
移動中に適当な雑談をしながらアーシアに何か食べたい物のリクエストがあるか聞くと、彼女はハンバーガーが食べたいと言ったのでリクエストに応えてハンバーガーショップへ向かったのだが、よくよく考えてみると問題があった。
「あぅぅ……」
入店前は『一人でなんとかしてみせる』と胸を張っていたのだが、いざ注文しようと店員さんに話しかけた結果あまりに
どうやら彼女はこの手の店に入るのは初めてらしく、注文する時も四苦八苦していたし、俺の後ろでは他のお客さんも何人か待っているのでフォローを入れる事にする。
「アーシア、どれがいいんだ?」
「あ、イッセーさん。えっと…これがいいんですけど」
メニューをいくつか指差してくれたので、俺は店員さんに話しかける。
「すいません。彼女の分はこれでお願いします」
「あ……かしこまりました。少々お待ちください」
彼女の注文分の金額を渡すと、アーシアは少し落ち込みながらこう言った。
「あぅぅ、なさけないです。ハンバーガーひとつ買えないなんて」
「まあ、まずは日本語になれるところから始めていけばいいさ」
落ち込むアーシアを励ましている間に注文した物が到着したので空いている席に向かうが、その最中にほとんどの男性客が彼女の姿を目で追っていた。
(まあこんな所にシスターがいるって事と、彼女の可愛さが原因だろうな)
俺もその姿を見たら目で追う自信があるので、その気持ちは大いに理解できた。
お互い対面に座ってからこの手のジャンクフードを食べ慣れていないのが容易に想像できるアーシアに食べ方を説明し、その後食事を始める。
「お、美味しいです!! ハンバーガーって美味しいんですね!!」
「気に入ってもらえたなら幸いだ。参考までに教えて欲しいんだけど、普段教会ではどういったものを食べてるんだ?」
シスターの食生活が想像できないので、質問してみる。
「パンとスープが主です。お野菜やパスタの料理も食べますよ」
「なるほど、この手の食べ物とは無縁の生活ってわけか。そういうことならゆっくり味わうといい」
「はい。美味しくいただきます」
そう言ってアーシアは嬉しそうな表情でハンバーガーをぱくつき始め、俺も同じようにハンバーガーを頬張ることにするが、少しばかり気にかかることがあった。
(どうして児童公園に来たんだ? 俺との関係は既に彼女に加護を与えている堕天使にもバレてるはずだ。その彼女を昨日の今日で外出なんて、普通ならまず許さないだろ)
ここへ来るまでに聞いた話だと休み時間なので外出したと言っていたが、俺の姿を見た瞬間に気が抜けたように安心していた姿を見るととても信じられなかった。
(……もしかしてアーシアは…)
頭の中でひとつの可能性が浮かび上がる。それについて詳しく訊きたいところだが、お互いの立場が立場なので気軽に悩みを聞くことができないのがつらいところだった。
(もどかしいが、彼女から話してくれるのを待つか)
嬉しそうな表情で食事をしている今の彼女を
「アーシア」
「は、はい。どうしました? イッセーさん」
「食べ終わったらゲーセン行こう」
シスターに言う事ではないのは自覚しているが、幸い? 立場としては敵対関係にあるのでアーシアも『悪魔に誘惑された』という言い訳は立つだろう。
「え?」
「日本のいろいろな遊びを教えてあげるよ」
「よ、よろしくお願いします」
そうして今後の予定を告げた後でそれなりに時間をかけて食事を終え、微妙に緊張しているアーシアを連れて俺はゲーセンに移動。色々なゲームをして遊ぶことにした。
主にアーシアは俺のプレイを見ていることが多かったが、彼女が一番興味を示したのはクレーンゲームだった。
世界的に人気があるマスコットキャラクターのぬいぐるみがあったので、多少苦労してそのぬいぐるみをゲットしてプレゼントするとアーシアはかなり喜んでくれた。
その後も人ごみに紛れていろいろな店に行ったが、幸運なことに警察官や補導員と会うこともなくかなりの時間を遊ぶ事が出来た。
―○●○―
「こんな楽しかったのは、生まれて初めてです」
クレーンゲームで取ったぬいぐるみを大事そうに抱きかかえながら、アーシアは嬉しそうにそう言ってくる。
「そう言ってもらえたなら誘った甲斐があるけど、アーシアはいちいち大げさだって。そういうの疲れないか?」
「実は…少しだけ」
そう言って顔を赤くするアーシアに苦笑しながら歩道を歩く。
「なら、そこの公園で休憩するか。休める場所くらいあるだろ」
「あ、ありがとうございます。イッセーさん」
ちょうど良く公園の入口が見えたのでアーシアに提案すると、彼女も了承してくれたので公園の中に入っていく。
(それにしても、初デート用に仕入れておいた知識がこんな形で役立つとは思ってもみなかったな。)
人生わからないものだとつくづく思う。
(…場所としてはちょいとやばいが、最悪の場合はドライグと取引をして速攻で潰すしかないな)
ハンバーガーショップでの懸念が外れていることを祈るが、俺に宿っている
「っと」
そんな事を考えていると足に違和感を感じてよろけてしまい、躓きかける。
「ってぇ…」
同時に痛みも感じたため、顔をしかめてしまう。
「あの時のケガですね。治療をしますから、座ってください」
それを見たアーシアが表情を曇らせながらそう言った。
「あ、ああ……」
嫌なことを思い出させてしまった自分に嫌気がさすが、こうなってしまった以上は仕方ないだろう。近くにあったベンチに座る。
「ケガの場所を教えて下さい」
「左のふくらはぎだよ。痕もしっかり残ってる」
アーシアは真剣な表情で質問してくるので、ズボンを少しだけ上げて包帯に包まれた患部を見せる。
「…すぐに治しますね」
そう言うと子供のケガを治した時と同じように緑色の光と共に彼女の両手の中指に一組の指輪が現れ、時間を巻き戻すように銃創が消えていき、それと同時に痛みが引いていく。
「これでどうでしょうか?」
銃創がキレイさっぱり消え失せるとアーシアが足を動かすように促すので言われたとおりにしてみると、ケガの痛みは微塵も感じなかった。
「治ってる。助かったよ、アーシア」
お礼を言うとアーシアも嬉しそうに微笑んだ。
「……初めて見た時から思ってたけど、これって治癒能力を持つ
「はい、そうです」
「やっぱり。俺も神器持ちだから、似た者同士だな」
「イッセーさんも?……もしかして、あの赤い籠手のことですか?」
俺がそう言うと、アーシアは昨日の戦闘で見た俺の姿で該当しそうなモノであるかを確認してくる。
「正解。機能としては身体能力の増幅が主だから、そこまで特別ってわけじゃないけどな。世間への貢献度って意味ならアーシアの神器の方がよっぽど高い。悪魔の俺を癒せるってことは、他種族を癒すことができるんだろ? 怪我や病気で困った人を助けられる力ってのは憧れるよ」
平和利用という点ではブーステッド・ギアよりよっぽと使い勝手が良い神器だろう。
だが、俺の言葉を聞いたアーシアは複雑そうな表情を浮かべたあとで少しだけ俯き、教会にいた『聖女』として祀られた少女の末路を唐突に語りだした。
全ては今から15年ほど前にイタリアのとあるカトリック系の教会前に生まれたばかりの女の子が置き去りにされていた事から始まる。
幸い置き去りにされていた教会は孤児院も兼ねていたため教会はその子を保護し、ほかの孤児と共に育てられる事になった。
教会兼任の孤児院だったこともあってその女の子は信心深く優しい子に育っていき、8つの時に『ある力』に目覚めた。
孤児院内に偶然ケガをした子犬が迷い込み、その子犬を発見した女の子は生来の優しさから『この子犬を助ける力』を欲したところ、不思議な力が働いてみるみるうちにその子犬のケガはなくなり、元気を取り戻したらしい。
奇しくもその日はヴァチカンの本部から高位の聖職者が視察に訪れており、彼女が子犬を癒す姿を偶然見られていたようだ。
それから程なくして彼女はその高位聖職者の口利きによってカトリック教会の本部であるヴァチカンに連れて行かれ、治癒の力を宿した『聖女』として担ぎ出された。
本部を訪れた信者に加護と称して体の悪いところを治療していった彼女の事が噂に上がるのにさして時間はかからず、少女の意思とは関係なく多くの信者から『聖女』として
教会関係者はよくしてくれるし、他者のケガを治すこと自体は嫌いではなかった。むしろ自分の力が役に立っている事が自覚できるので精力的に信者の治療にあたり、治癒の力をさずけてくれた神への感謝を忘れる事もなかったが、本部に連れて来られて何年経っても心を許せる友人が一人もできない事だけが寂しかった。
彼らが裏で自分の存在を『人間を治療できる生物』として異質な目で見ている事も時間が経つにつれて理解していったが、その度に自分を励まして負傷者の治療にあたった。
そんなある日、転機が訪れる。少女の近くに目深にフードを被った人物が突然現れた。
少女はその人物の背中から生える蝙蝠のような形状をした翼からすぐに悪魔だと気づいたが、それ以上に多くの信者を治療してきた経験からその悪魔が怪我をしている事にも気がついた。
悪魔であろうとケガをしていた存在を見捨てられなかった彼女は本部内に待機している
それは生来の優しさからの行動だったが、治療を施した場所が悪すぎた。
そこは多数の教会関係者が通る道のど真ん中であり、教会関係者の一人に『聖女』が悪魔を治療する姿を見られていたのだ。
それが彼女の人生を反転させる事になった。
『聖女』が悪魔を治療する姿は教会の内部に報告され、報告を聞いた司祭達はその事実に驚愕したという。
なにせ治癒の力を持つ者は少女以外にも世界中の支部にいたが、彼女達が癒す事ができるのは人間だけで悪魔や堕天使には効果がない事は実証されていた為、『治癒の力は悪しき者には通じない』と教会内で認知されていた。
そして少女のように『悪魔も癒すことができる力』を持つ者は『魔女』として異端の烙印を押され、放逐された事例が過去に数件存在していたのだ。
当然司祭達は過去の慣例に従って少女を異端視するようになった。
長年『聖女』として崇められていた少女は悪魔を治療できるというだけであっという間に『魔女』として恐れられ、異端の烙印を押されて呆気なくカトリックから捨てられたのだ。長年過ごしていた教会から捨てられた事は少女にショックを与えたが、一番ショックだったのは教会内で少女を庇ってくれる味方と呼べる人物が一人もいなかった事だ。
『異端』の烙印を押された為に行き場をなくした少女だったが、幼少期から教会で育てられただけあって信仰心を捨て去る事はできなかった。
各地をさまよう覚悟をした頃、いかなる偶然か極東にある『はぐれ悪魔祓い』の組織に声をかけられて拾われ、それ以降堕天使の加護を受ける事になった。
そうして『はぐれ悪魔祓い』の一員となった少女だったが、異端の烙印を押される以前と同じように神への祈りと感謝を忘れた事はなく、間違った事もしていない。だが、神の助けは一度たりとも訪れる事はなかったという。
まるで自分の身に起こった出来事を無理矢理第三者の視点で話す姿を見て、俺は話の中に出てきた少女が誰であるか理解できてしまった。
「アーシア、ゴメン。嫌な事を思い出させた。……泣きたい時に泣けないってのは
アーシアの表情は今にも泣き出しそうで、自分の事を語っていたのは嫌でもわかってしまう。わざと彼女に背中を向けると、程なくして衝撃と共にくぐもった泣き声が聞こえてくるが、彼女の話を聞いて怒りを感じていたため泣き声は耳に入ってこなかった。
(ふざけんじゃねぇぞ。ここまでの仕打ちをしておいて、何の手も差し伸べないってのはどういう了見だ? カミサマよぉ!! 誰よりも敬意を払い、救いを求めている女の子がここにいるってのに、何もしないのが神の慈悲ってやつなのか? だったらあんたは悪魔よりもよっぽど残酷だぜ、おい!!)
心の中で天界にいるであろう神に対して悪態をつくが、天罰がやってくる気配もない。
(……それがアンタの答えか。それならコッチで勝手にやらせてもらうよ)
何の音沙汰もない事に苛立ちを感じながらアーシアが泣き止むのを待つ。
「……ごめんなさい、イッセーさん。変なところを見せてしまいましたね」
しばらくすると、ひとしきり泣いてスッキリしたアーシアがそう言ってくる。
「気にしなくていい。友達が泣いてるならなんとかしてやりたいと思うのは当たり前だろ?」
アーシアは先ほどまで泣いていたので目元が赤くなっているが、俺の言葉を聞いて目を見開く。
「友達、ですか?」
「違うのか? 一緒にゲーセン行って、いろんな店冷やかして回るってのはある程度仲良くないと出来ないと思うぞ。そこに天使だ悪魔だって野暮な事を挟む必要もない。俺とアーシアはもう友達だと思ってたんだけど、俺の勘違いだったか?」
「私なんかが、友達でいいんですか? イッセーさんに色々とご迷惑をかけるかもしれませんよ?」
「むしろどんと来いさ。これに関しては悪魔の契約とかの面倒なことは関係ないし、代価を取るようなこともしない。話したい時に話して、遊びたい時に遊ぶ。それが友達だろ?」
我ながら色気のない話し方だが、そこは諦めてもらうしかない。
「本当に……私と友達になってくれるんですか?」
「ああ。これからもよろしくな、アーシア」
俺の言葉を聞いたアーシアは嬉し涙を流しながら何度も頷いてくれた。
クサい言い回しをしている自覚はあるし、後でこの事を思い出してベッドの上でのたうちまわる姿も容易に想像できるが、彼女が笑ってくれるなら安いものだ。
俺が悪魔であろうと関係ない。出来る範囲で彼女を傷つけようとするモノから守ろう。
「それは無理ね」
決意を固めたところで俺の背後から否定の声がかかるので振り向くと、そこにはよく知った顔があった。
必要最低限の部分だけを隠したボンデージを纏った黒髪の女堕天使。俺を騙して殺しに来た人物に間違いなかった。
「…レイナーレ様……」
その女堕天使はどうやらレイナーレという名前らしく、ここに来たことを考えるとアーシアに光の加護を与えている堕天使だと判断するのが無難だろう。
未だに日が登っている時間帯なので身体能力は優秀な高校生レベルでしかない。念の為、いつ戦闘に入ってもいいようにブーステッド・ギアを展開して力の増幅を始めておく。
「悪魔に成り下がって無様に生きてるというのは本当だったのね。最悪じゃない」
俺の姿を見て意外そうな顔をしたレイナーレが嘲笑してくる。
「随分と傲慢な物言いだな。そっちが殺しにこなければそうはならなかったってのは理解してるか?」
「汚らしい下級悪魔が、気安く私へ話しかけないでちょうだいな」
おまけにこちらの皮肉を聞かずに侮蔑の目を向けてきた。どうやら本来の性格はかなり傲慢なようだ。
「アーシア、あなたの
「……嫌です!! 人を殺めるようなところへ戻れません!!……ごめんなさい。本当は私、あの教会から逃げ出して…」
「そんな事だろうと思ったよ。アーシアがあのクソ神父みたいなろくでもない連中と一緒にいるってだけで違和感があるのに、本性見せられて逃げようとしないってのもおかしな話だ。さっきの話を聞いたら余計にそう思う」
アーシアは俺の背中に隠れながら謝罪をしてくるが、ハンバーガーショップで食事をしていた時から予想していたのであまりショックはなかった。
もっとも、迎えに来た堕天使が顔見知りだった事だけは予想外だが。
「邪魔をするなら、今度は完全に消滅させるわよ?」
レイナーレは光槍を作り出すと、その切っ先をこちらに向けてくる。
「出来るものならやってみろよ。今度はあの時のようにはいかないぜ?」
『Explosion!!』
溜めた力を体に行き渡らせ、いつでも光槍を迎撃できるようにしておく。
「またそれ?…いいことを教えてあげる。あなたの
レイナーレは嘲笑を浮かべながら神器の機能を説明してくるが、説明内容は
「そう思うんならとっとと攻撃してこいよ。てめえが馬鹿にしている神器の力、見せてやる」
「……死になさい」
敵の勘違いをわざわざ正す必要もないので軽く挑発すると案の定急所である腹をめがけて光槍が襲いかかってくるので、籠手に包まれているおかげで光のダメージが最小限で済む左手で光槍を叩き落とす。
軌道を変えられた槍はそのまま地面に突き刺さり、攻撃を終えた事で霧散していく。
「っ、なんですって!?」
レイナーレの表情が驚愕に染まる。おそらく今の一撃で致命傷を負わせられると踏んでいたのだろう。だが、今の俺は反射神経や反応速度を含めた全ての身体能力が平時の64倍――段階で言えば6段階の強化だ――になっている。あれくらいの速さの光槍ならばタイミングを合わせる事ができれば
「どうした、そんなに驚いて? まさか槍一本避ける事ができないとでも思っていたのか?」
ただ、レイナーレからすればありえない結果だろう。容易に倒せるはずの下級悪魔が抵抗している時点で目の前の女の目論見はある程度外させる事ができたと思いたい。
「……どうやら油断していたみたいね。これで確実に殺してあげるわ」
だが、レイナーレは逃走することなく本気で俺を殺すために成人男性の胴回りほどの太さを持つ光槍を作り出してくる。確かにこれでは叩き落すのは容易にはできず、当たれば確実に消滅する。おまけに回避をした場合は後方にいるアーシアに当たってしまうので、対処方法が限定されていた。
(ちっ、まだ稚拙だからあんまり使いたくなかったけど、しょうがないか)
朱乃さんから教えてもらった魔力球の生成を開始し、レイナーレの光槍を破壊する準備を行う。
「アーシア。その悪魔を殺されたくなかったら、私と共に戻りなさい。――」
「行く必要はないぜ。どうせアーシアにろくでもない事しようとしてるのは目に見えてる。付いていったら不幸になるだけだ。それに、あれくらいならまだ何とかなる。信じてくれ」
レイナーレが俺の命をダシにアーシアを従わせようとするが、その言葉を遮ってアーシアを引き止める。
「――。うるさい悪魔ね、死になさい」
自分の言葉を遮られて頭にきたレイナーレは自分の側に控えていた光槍を発射してくるので、こちらも右手に作った魔力球にドラゴン波のイメージを送って遠距離攻撃を行う。
魔力球の元の大きさは2.5センチとかなり小さいものだが、ブーステッド・ギアの力によって瞬時に増幅された結果1.5メートルほどの大きさとなって光槍を飲み込み、多少勢いを落としながらレイナーレに襲いかかる。
「くっ!!」
そのわずかな減衰はタイミング的にぎりぎりとはいえ、レイナーレに回避行動をとらせてしまった。
「ここまでやるのは予想外だけど、詰めが甘いのよ!! ミッテルト!!」
(援軍!? だが、どこから来る!?)
「イッセーさん、避けてぇ!!」
レイナーレが仲間と思しき人物の名前を呟いたので即座に警戒しようとするが、その前にアーシアの大声が聞こえてくる。
次の瞬間に左脇腹に痛みがはしり、続けて光の攻撃をくらった時独特の痛みが襲い掛かってくる。
「ごふっ!?」
慌ててそちらの方向を見ると、ゴスロリ風の衣装を着た金髪の少女が俺の脇腹に光の剣を突き立てていた。
「ちょっとレイナーレ。人払いの結界張ってるだけでいいって言ってたのに、なんで下級悪魔なんかに苦戦してるんすか?」
(人払いの……結界? くそっ、そういうことか!!)
周囲を見渡してみると、俺達以外の人間の姿はどこにもない。どうやら気づかぬ間に人払いの結界を張られていたようだった。
どうやらこのゴスロリ女が結界を張ったようだ。そして、レイナーレの言葉を受けた瞬間に俺の死角に入り込み、攻撃を加えてきたのだろう。
「この悪魔に手こずらされたのよ。でも、助かったわミッテルト。さて、アーシア。ミッテルトにそこの下級悪魔を殺されたくなければ私たちの下に戻ってきなさい。さもなくば……」
「わかりました。……ただ、イッセーさんの治療だけはさせてください」
再び俺の命をダシにレイナーレが脅迫を行い、アーシアはそれを受け入れてしまった。
「好きにしなさい。あなたが戻ってきさえすれば、そこの悪魔がどうなろうと構わないわ。…ミッテルト」
「はいはーい。そんじゃ、先に戻ってるっす」
そう言って俺に攻撃していた金髪堕天使が転移していく。アーシアは今まで抱いていたぬいぐるみを放り投げ、慌てた様子で俺に近づき治療を始める。
「行くんじゃない、アーシア。……こんな事を、する奴らだ。どうなるか、わかんねえぞ」
治療を受けながらアーシアを説得する。ここまで外道な真似をする奴らにアーシアを任せたら、確実に彼女が不幸になってしまう。
「イッセーさん、今日は一日ありがとうございました。本当に楽しかったです」
満面の笑みを浮かべながらアーシアはそう言ってくる。
彼女の俺を助けたいという想いに応えた神器が俺の傷を癒していき、脇腹の傷は痕も残さずに消え去る。
治療が終わった事を確認したアーシアは、レイナーレの元へ歩んでいく。
「行くんじゃない!! 最悪死んじまうぞ!!」
アーシアはその言葉で一瞬足を止めるが、すぐに歩みを再開する。
そうしてレイナーレのもとへ着くと、俺の方を見ながらこう言った。
「私なんかと友達になってくれた上に、心配していただいて本当にありがとうございます」
「いい子ね、アーシア。それでいいのよ。でも安心しなさい。今夜の儀式であなたは悩みと苦しみから解放されるわ」
レイナーレは自身の翼でアーシアの体を隠すようにすると、転移の準備に入る。
「……さようなら、イッセーさん」
その言葉を残してアーシアはレイナーレと共に消え去り、公園には俺一人が残される形となった。
「くそっ!!」
足の力が抜けて
アーシアはああ言っていたが、友達を見捨てるなんて真っ平御免だ。絶対に助け出す。
連れ去られた先は、十中八九あの廃教会だろう。
《やめておけ相棒。大方あの教会へ向かおうと思っているのだろうが、一人では死ににいくようなものだ》
救出行動に移ろうとしたが、すぐにドライグから静止がかかった。
「じゃあどうしろっつーんだよ!! 早く助けないとアーシアが!!」
《その娘を助けるためにお前が死んでどうする!! 一度冷静になり、堕天使共の言葉を思い出して奴らの目的を探り、
その言葉に異論を挟むとドラゴンの持つ強大なプレッシャーと共に怒鳴り声が響き、強制的に頭を冷やさせられた。
(……すまん、ドライグ。頭に血が登りすぎてた)
《分かればいい。とにかく一度学園へ向かうぞ》
ドライグのアドバイスに従って堕天使達がアーシアに何をしようとしているのかを考えながら、俺は一度学園に向かう事にした。
そんなわけで、今回はここまで。
今回の展開を不思議に思う方もいると思うので、補足説明を入れておきます。
本文中にも書きましたが、拙作のイッセー君は現段階で禁手の下地ができています。
その事を不自然に思う方もいるかもしれませんが、原作でもイッセー以前の赤龍帝達は短期間で禁手に至っているので、禁手化のきっかけを除けば肉体的な敷居値は低い物と解釈しています。
そして、拙作のイッセーは籠手を発現させて2年が経っているので、籠手を発現させた後の自然成長と喧嘩の経験によってかろうじてその敷居値をクリアしていると解釈してください。
次回も明日の同じ時間に更新します。