もしドラ~もしもドライグが早く目覚めていたら~   作:ショウゴ

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連続更新第7弾です。お楽しみください。


08 救出作戦

公園でアーシアを守ることができなかった俺は部長の協力を得るために学園へ向かう傍ら、ドライグのアドバイスに従って堕天使達の目的を考えていた。

 

(レイナーレの言葉から考えると堕天使達が欲しているのはアーシアの持つ回復系神器だし、その神器に関係した『何か』をアーシアに施すのは今夜なのも間違いないだろう。気になる点は『儀式』が終わったらアーシアが悩みと苦しみから解放されるっていう言い回しだよな)

 

考えられる可能性としてはアーシアに洗脳や暗示を施すことだが、方法としてはあまりよくないだろう。

 

何故なら神器(セイクリッド・ギア)は所有者の想いを糧にして動く。洗脳や暗示の(たぐい)を所有者に施して従わせた場合、施した術の影響で神器の機能に何かしらの不都合が起こる事も考えられるからだ。

 

(そうなると所有者から神器を引っこ抜いて使う方法が思い浮かぶけど、そんな事可能なのか?)

《それについては俺も知らんが、仮に実現できたとしたらあのシスターは最悪死ぬぞ》

(っ!? どういうことだ!!)

 

俺の思考を読んでドライグが発した一言は、焦りとアーシアの危機をより一層強くさせた。

 

《神器は保有者がこの世に生を受けた時にランダムに宿る代物だ。霊的な臓器の一部と言い換えてもいいだろう。それを適切な処置を施さずに無理矢理奪おうとすれば、奪われた側に重大な障害が発生する可能性は高い》

 

ドライグの言うことはもっともだった。

 

(死ねば思考能力もなくなり、悩みと苦しみからも解放される。……レイナーレの目的はそれか!!)

 

仮定の段階ではあるが、可能性としては一番高い。こうなると一刻も早くアーシアを救出する必要がある。

 

ただ、悪魔と堕天使の仲の悪さや政治的な問題を考慮するとオカルト研究部メンバー全員で教会に乗り込むのはやめておいた方が無難なので、部長から昇格(プロモーション)の許可を貰うだけにしておいた方がいいだろう。

 

(プロモーションで基礎能力を強化してブーステッド・ギアで増幅。その状態でアーシアのいる場所まで向かって、彼女を助けた後とっととトンズラするか)

 

出来る事なら教会内にいる神父や堕天使を全て倒して『悪魔が教会に襲撃してきた』事の目撃者をすべて消したいところだが、そこまでの余裕はないだろう。

 

《だが、プロモーションの許可を貰えなかった場合はどうするつもりだ?》

(その時はプロモーション絡みのところを強制禁手化(バランス・ブレイク)に変える。今のうちに訊いておくが、片腕を代価にした場合どれくらい鎧を纏える?)

《今の相棒の状態だと戦闘なしなら30分、戦闘を行うならば10分といったところだな》

 

随分と幅のある制限時間だが、逃げに徹すれば最低限の目的は達成できる可能性はあると思いたい。

 

作戦プランというのもおこがましい稚拙なものだが、やるべき事をはっきりさせてあるだけマシだと思っておこう。

 

《相棒、最後にひとつ訊きたい。リアス・グレモリーが教会に向かうことも許さないと言ったらどうするつもりだ?》

 

ドライグのその一言を聞いて、俺はその選択肢を無意識の内に除外していた事に気づいた。部長は眷属に対して優しいのでそう言われる可能性もないわけではないが、その場合でもやる事に変わりはない。

 

(その時か? はぐれになってでもアーシアを助けて、彼女を助けたら木場あたりに討たれる事にするさ)

 

命を拾ってもらった恩を仇で返す形になってしまうが、友達を助けられないでいる後悔を抱えて日々を過ごすよりはよっぽどいい。部長には諦めてもらうしかないだろう。

 

《そうか。……まあ、どうなろうと最後まで付き合ってやるさ》

 

ドライグは呆れたようにそう言った。

 

腕時計を見るといつ夕暮れになってもおかしくない時間帯になっており、アーシアが『儀式』を受けるまであまり時間が残されていないように思えた。

 

(ゆっくりしてる暇はない。急ぎますかね!!)

 

少しでもアーシアの救出に時間を割くため、俺はさらに走るスピードを上げることにした。

 

 

 

 

 

―○●○―

 

 

 

 

 

「却下よ。『昇格(プロモーション)』の許可も与えられないし、教会へ向かうことも許さないわ。あのシスターのことは諦めなさい、イッセー」

 

息を切らせながら部室に到着。部長に一連の出来事を考察と一緒に報告し、アーシアを救出するために教会へ向かう事を提案した後に下された決定がそれだった。

 

「……決定の理由はアーシアが神側の関係者であるシスターだったからですか? それとも、悪魔が堕天使の領域に突撃する事で再び戦争の秒読みになる可能性があるからですか?」

「理由を上げるとするなら両方ね。加えて言うなら、あなたの行動で私や他の部員にも多大な影響を及ぼすからよ」

 

当然俺個人としては受け入れられるはずもなく、部長が言いそうな理由を言ってみると冷淡な声色で部長は俺の考えを認めた上で理由を付け足してきた。

 

「わかりました。では俺の事は以降はぐれ悪魔として扱ってください。転生させてもらった上に様々な期待をかけてもらった恩を仇で返す形になってしまいますが、めぐり合わせが悪かったと思って諦めてください。今までありがとうございました」

 

これ以上ここにいても埒が明かないので、決別の言葉と共に一礼をしてアーシアの救出に向かう事にする。

 

「いい加減にしなさい!!」

 

 

パンッ!!

 

 

だが、部長としては気に入らないらしく思い切り頬を叩かれてしまった。

 

「あなたは本当にバカなの? 行けば確実に殺される事くらいわかっているでしょう!! 当然生き返ることなんてできない、それを理解しているの!?」

 

俺の両肩を掴んでその場から動けないようにした状態で大声を上げながらまくし立ててくる。

 

「十分に理解してますよ!! でも、友達を見捨てるなんて俺にはできません!! 少しでも救出できる可能性があるなら、俺はそれに賭ける!! ここでアーシアの事を諦めて友達を助けられず、あまつさえ見捨てた後悔を抱えて数え切れないくらいの年月を過ごすくらいなら、一人で敵地に突撃した方が精神衛生上よっぽど楽なんですよ!!」

「……それはご立派ね。そういう事を面と向かって言えるのはすごいと思うわ。でも、それとこれとは話が別よ。あなたが考えている以上に悪魔と堕天使は睨みあってきた。少しでも隙を見せれば殺されるわ。彼らは敵なのだから」

「講座で『敵を消し飛ばすのがグレモリー』と言っていた割には臆病なんですね。あと、アーシアが敵じゃないのは保証しますよ。ヴァチカンの教会本部ど真ん中で素性を知らない悪魔を癒そうとするくらい優しい彼女が、誰かを殺そうとするなんてありえない」

 

売り言葉に買い言葉で口論を始めてしまったが、こうしている暇はない。両肩を掴んでいる手を体を振って振り払い、部室の入口に向かおうとすると扉が開いて今までどこかに出かけていたらしい朱乃さんが入室してくる。

 

「あらあら、旧校舎の外にも聞こえていましたよイッセーくん。時間も遅くなっているのだし、もう少し静かにしないと。それと部長、調査の結果あの教会を根城にしている堕天使達は上層部に内緒で動いでいるようです。私たち全員で向かっても小競り合いで済ませられますわ」

 

朱乃さんが大声を上げていた俺を(たしな)めると同時にレイナーレ達に関する報告を俺にも聞こえるように言うと、部長の顔がわずかに赤くなる。

 

「あ、朱乃!!」

「あら? こうした方がいいと思ったのですが。あのままだとイッセーくんが本当に一人で教会へ向かっていきそうな雰囲気でしたから、彼にも聞こえるようにしたのですが。……まずかったかしら?」

「えっと……どういうことですか、朱乃さん?」

「以前イッセーくんが一人で堕天使を退けた時から、その堕天使の身辺調査を命じられていたの。羽が1枚でもあれば堕天使個人を照会することも可能ですから。そうしたらその堕天使は何かしらの計画に関わっていたのよ。それで、その計画についても調べてみましたの。それが堕天使全体の計画だったら悪魔の私たちが介入するのは危険ですが、一部の堕天使たちが独自に考えた計画だったら私たちが介入しても『いち悪魔といち堕天使の野良試合的な小競り合い』で済ませることも可能なの。まさか調査結果が出る前にイッセーくんが独自に動こうとするなんて部長も予想外だったんじゃないかしら?」

「そう……なんですか、部長?」

 

朱乃さんの説明を聞いて呆然としながら部長に視線を送ると、部長はわずかに顔を赤くしながらこう言った。

 

「そうよ。大事な下僕をむざむざ死地に送り出すような事、するわけないじゃない。下僕が動こうとするならそれを察して準備を整えておくのが(あるじ)でしょう?……まあ、今回は私にも非があるから謝っておくわ。ごめんなさい、イッセー。危うくあなたを一人で死地へ赴かせるところだったわ」

「いえ。俺のほうこそ部長がここまで考えてくれていたとは思わず、無礼を働きました。許してください」

 

部長が謝ってきたが、この件に関しては思い切り先走った俺にも責任があるので謝罪をしておく。

 

「この件は両成敗ということにしておきましょうか」

「そうですね。……それで、もう一度聞きます。アーシアを助けるために『昇格(プロモーション)』を許可してください」

「いいけど条件があるわ。祐斗と小猫も連れて行く事と、誰ひとり欠けることなくここに戻ってくる事、それが条件よ」

 

要は死なずに戻ってこいってことか。実戦経験のない俺にはかなり厳しい条件だが、一人で突撃するよりはよっぽど成功率が高いだろう。

 

「後者については確約できませんが、最大限努力します」

「それでいいわ。私と朱乃は先に教会へ行って堕天使たちの注意を引いておくから、あなた達3人はその隙に教会内に侵入しなさい。それとイッセー、あなたはまだ悪魔になって日が浅いから『女王(クイーン)』へのプロモーションは体に負担がかかるわ。他の3つのどれかにしておきなさい。……朱乃、行くわよ」

「わかりましたわ。イッセーくん達も頑張ってくださいね」

 

部長は俺たちに指示を出すと朱乃さんと一緒に転移魔方陣を展開してジャンプしていった。

 

「イッセー君、ひとつ聞いていいかい?」

 

部長たちを見送ると、牙が俺に質問をしてきた。

 

「どうした、木場?」

「もし朱乃さんが来なかったら、その時はどうするつもりだったんだい? 君の持つ神器は文句なしに強力だけど、神器の力だけで勝てるほど実戦は甘くない。あのまま行ったら間違いなく死んでいたよ?」

 

木場の言うことはもっともだった。強制禁手化(バランス・ブレイク)という奥の手があったとしても、俺一人ではアーシアの救出に失敗する可能性は高かっただろう。

 

「言っただろ? ダチを助けられず、見捨てるくらいなら一人で突撃した方が精神的に楽だって。アーシアの救出に失敗して死ぬんなら、見捨てて暗澹(あんたん)と過ごすよりよっぽどマシだ」

「いい覚悟。と言いたいけど、やっぱり無謀だよ。……まあ、部長の許しが出た以上は関係ないけどね」

「私も祐斗先輩と同じ意見です。一人で教会に向かうなんて死ににいくようなものですよ、イッセー先輩」

 

小猫ちゃんからも苦言を漏らされてしまった。

 

「今後はできる限り自重するさ。……今のうちに言っておくけど、二人の強化に力を回す余裕はない。自力でなんとかしてもらう形になると思う」

 

譲渡の力は未だに使い慣れていないし、二人に譲る事が出来る力の限界も把握していない。それなら最初から使わない方が無難だろう。

 

「その事かい? 確かにあの力はあれば便利だけど、必須というわけじゃないから大丈夫だよ。それに個人的な事情で堕天使や神父は好きじゃないんだ。憎んでいると言ってもいい」

 

今まで見た事もない暗い表情と冷たい声色でそう呟く木場の姿を見る限り、何らかの事情があるのだろう。

 

「私も祐斗先輩と同じです。あれば色々と便利ですが、絶対に必要というわけでもないので。今日はイッセー先輩自身の強化に使ってください」

「わかった。それじゃあ、とっとと行こうぜ」

 

こうして俺達はアーシアを助けるために廃教会に向かって動き出すことにした。

 

 

 

 

 

―○●○―

 

 

 

 

 

俺達が教会に到着した頃には日はすっかり落ちており、あたりは暗くなっていた。

 

「木場、本当に聖堂目掛けて突撃すりゃいいのか?」

「うん。はぐれ悪魔祓いが何かしらの儀式を行うとすれば聖堂の地下だ。理由はここに来るまでに説明したとおりだよ」

 

どういう訳か『はぐれ悪魔祓い』に詳しい木場が言うには、『今まで敬っていた聖なる場所で神を否定する行為をすることで自己満足と神への冒涜に陶酔し、神から捨てられた憎悪を込めてわざと聖堂の地下で邪悪な(まじな)いを行う』事が圧倒的に多いらしい。

 

「入口から聖堂は目と鼻の位置だから一気に行けると思うけど、問題は聖堂に入ってから地下への入口を探すことができるか、待ち構えている刺客を倒せるかどうかだ」

「速攻で決めて地下の入口がある場所を吐かせりゃいいんだろ? もうマックスギリギリまで溜めてあるからいつでもいけるさ」

 

ここに到着する前にブーステッド・ギアを展開して力の増幅を開始しておいたので、あと10秒で強化限界になりそうだった。

 

「準備がいいね。それじゃあ行こうか」

 

木場は一言そう言うと聖堂の入口めがけて駆け出すので、それに続けて俺、小猫ちゃんの順番で走り出す。

 

「おう。プロモーション、『騎士(ナイト)』!!」

 

今回はアーシアの救出が第一なので、即座に移動速度の上がる『騎士(ナイト)』へプロモーションする。

 

赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)』による自己強化の時と違って体の奥から力が湧き上がり、その力が全身を駆け巡る。

 

初めてのプロモーションなのでまだ勝手がわからないが、感覚的にいつも以上のスピードで動けそうだった。

 

 

『Explosion!!』

 

 

それと同時に溜めた力を体に行き渡らせ、身体能力全てを上昇させる。

 

増幅状態の『騎士(ナイト)』のスピードは凄まじいもので、入口から聖堂まで木場以上のスピードで走り抜ける事ができた。

 

悪魔が教会内に侵入すればすぐに察知されてしまうらしいので、既に後戻りできない状態と言っていい。

 

聖堂への扉を蹴破って中に足を踏み入れると、見知った白髪が待ち構えていた。

 

「やあやあやあ。再会だねぇ、感動的ですねぇ」

「てめえかよ、フリード」

 

そこにいたのはアーシアを襲おうとしたクソ神父のフリードで、相変わらずイカレた表情をしていた。

 

「そうですよ? フリード神父ですよ? 俺としては二度会う悪魔なんていないと――」

 

ベラベラと何かを喋ろうとしているが、時間稼ぎに付き合うつもりはないので増幅された『騎士(ナイト)』のスピードに任せてフリードの目の前まで移動し、左手で奴の首を掴む。

 

「――っ!?」

 

フリードが驚愕の表情を浮かべる。どうやら俺の動きを捉える事が出来なかったらしい。

 

「うるさいから黙れ。――アーシアはどこにいる? 首を吹き飛ばされて死にたくなかったら、とっとと話せ」

 

左手に魔力の充填を開始し、ブラフではないことを伝える。

 

「……OK、祭壇の下に地下への階段が隠されてございます。そこから儀式が行われている祭儀場へ行けますぞ」

「本当だろうな? 確認させてもらうぞ。少しでも動いたら、そのまま吹き飛ばす」

 

フリードの首から手を離し、やつに視線と魔力を貯めた左手を向けたまま祭壇に向かう。

 

「ここか?」

 

右手で祭壇を殴り飛ばして下を向くと、確かに地下への階段が存在した。

 

「木場、悪いがそいつの相手をしていてもらっていいか? 上から挟み撃ちにされるのもシャクに触る。倒したら合流しよう。下にも神父がいる可能性があるから、小猫ちゃんは俺についてきてくれ」

「わかりました」

「……わかったよ、イッセー君。この神父を倒したらすぐに合流する」

 

小猫ちゃんは木場の後ろを通るようにしながら俺と合流してくれたので、フリードの相手を木場に任せて二人で地下へ向かった。

 

 

 

 

 

―○●○―

 

 

 

 

 

イッセー君と小猫ちゃんが地下へ向かった事を確認した僕は、俯きながら体を震わせている神父・フリードに神経を集中させる。

 

それにしても、イッセー君も詰めが甘い。情報を聞きだした後に問答無用でこの神父の首を吹き飛ばしてしまえば危惧していた挟み撃ちの可能性はほぼなくなるというのに。

 

まあ、悪魔に転生してからさほど日が経っていない彼にそこまで求めるのは酷でしかないか。

 

「この俺が、気圧された? ……たかが悪魔ごときに?――そんな事許しておけるわきゃねえ、っつーか許しちゃダメっしょ? 早急に追いかけて半殺しにした後、クソ悪魔がご執心のアーシアちゃんブチ犯して、目の前であのクソ悪魔を絶望させた上でぶっ殺さねえと気が済まねえわ。よし、決定。っつーわけでイケメンの色男さん、あんたの相手してる暇ねえわ」

 

フリードは小声でそう呟いた後、地下への階段に早足で向かおうとしたので、立ちはだからせてもらう。

 

「行かせないよ」

 

ここでこの男を素通りさせてしまったら、僕が残った意味がない。早急に倒して合流させてもらうとしよう。 

 

「OKOK、色男さん。あんたそんなに死にたいわけね。仲間の為なのか自分の為なのかは理解したくもないんで言わなくていいけど、とっととぶっ殺させてもらうんで、そこんとこ夜露死苦ぅ!!」

 

そう言ってフリードは光剣を振りかざしながら突撃してくるので、僕も魔剣で光剣を受け止める。

 

 

ギィン!!

 

 

どうやらこの神父に力を与えている堕天使の光力はそれなりに強いようで、受け止めた光剣は思った以上の硬度があった。

 

「今すぐ下の神殿行って、俺の人生設計滅茶苦茶にしてくれたあのクソ悪魔をぶっ殺さなきゃなんねえんだ!! 邪魔すんじゃねえよ!!」

 

フリードはそう言って激昂しながらも悪魔祓い(エクソシスト)用の拳銃と光剣を交えて攻撃してくるが、光力が込められた銃弾は持ち前のスピードを利用して回避し、光剣による斬撃は避けられる物は避け、当たりそうな物は魔剣で受け止める。

 

「神父の邪魔を出来るというなら、なおさら通すわけにはいかないね。――喰らえ」

 

遊んでいるわけにもいかないので、鍔迫り合いになった瞬間に神器の力を発動させて魔剣の属性を切り替える。

 

魔剣の刀身に闇の力を纏わせる事で鍔迫り合いをしている神父の光剣に宿る光力を侵食し、刃を消していく。

 

「なっ、んだよ、こりゃ!?」

 

どうやら自分の武器があっさりと消されていく様子に驚きを隠せないようだ。

 

光喰剣(ホーリー・イレイザー)、光を喰らう闇の剣さ」

「ちっ、テメエも神器持ちか!!」

 

実質的に武器を無効化された事で神父は不利を悟ったらしく、距離を取り始めた。

 

「逃がさないよ?」

「悪霊退治できないのは心残りだが、このまま退散させてもらうさね!! お前さんもそうだが、あのクソ悪魔もいずれはぶっ殺す!! 覚えとけや!!」

 

距離を詰めようとしたところで神父はそう言いながら懐から丸い物体を取り出し、それを床に叩きつけた。

 

 

カッ!!

 

 

次の瞬間に大量の閃光が溢れるが、怯まずに神父のいた場所まで走って剣を振るう。

 

だが、何かを斬った時の感触は一切しなかった為、まんまと逃げられてしまったようだ。

 

「逃がした、か。僕もイッセー君の事を笑えないな」

 

あれだけ狂った様子を見せていたのだから多少の不利でも戦闘を続行すると思っていたのだが、読みを外してしまった。

 

それから視力と視界の回復を待っていたのだが、その頃にはあの神父の姿は影も形もなく、聖堂内は静けさを取り戻していた。

 

ただ、あの口ぶりなら神父がここに戻ってくる可能性は低いはずなので、挟み撃ちになる可能性はなくなったと判断していいだろう。

 

念の為に聖堂内を一瞥して敵の気配がないか確認した後、僕も階段を下りて地下聖堂へ向かった。

 

 

 

 

 

―○●○―

 

 

 

 

 

 

「――――っ!! ――」

 

上から何か叫び声が聞こえてくるが、間違いなくフリードが何か叫んでいるのだろう。木場の事が気にならないと言えば嘘になるが、少なくとも素の状態の俺より強いので無事に合流できる事を祈るしかない。

 

「先輩、多分シスターさんはこの奥です」

 

地下室への扉らしきものが多数ある道を進むと一層大きな扉が現れ、小猫ちゃんがこの奥にアーシアがいることを教えてくれる。

 

「多分堕天使と神父が大量にいると思うけど、覚悟はいい?」

「先輩こそ、目的をしっかり果たしてください」

「わかってるよ。……じゃあ、いくぞ!!」

 

目の前の扉に蹴りを入れて強制的に開け放つと下着姿で十字架に(はりつけ)にされた状態で俯くアーシアとレイナーレが部屋の奥にある祭壇上におり、祭壇に向かう階段を守るように大量の神父が光剣を手にして待ち構えていた。

 

「アーシア、助けにきたぞ!!」

「イッセー…さん?」

 

俺の声を聞いたアーシアが顔を上げるが、神器の強制剥離を受けているからか声にいつもの張りがなかった。

 

「くっ、あと少しだというのに!? あなたたち、何としてでも止めなさい!!」

 

レイナーレが指示と共に俺達がいる場所に光槍を飛ばすと同時に、祭壇の下にいた神父の集団が俺達に向かって押し寄せてくる。俺はフリードへの脅しに使って充填させたままだった左手の魔力を光槍に向けて、ドラゴン波のイメージと共に解き放つ。

 

「このっ!!」

 

強化されたドラゴン波もどきは光槍を消し飛ばすが、神父の集団が俺たちに接近する時間を稼ぐのが目的だったようだ。

 

「邪魔すんな、神父共!!」

 

手近な場所にいた神父を殴り飛ばし、何人かまとめて吹き飛ばす。

 

「行かせん!!」

 

だが、すぐに別の神父が道を塞ぎにかかる。

 

「邪魔しないでください」

 

小猫ちゃんも俺と一緒になって神父共を殴り飛ばすが、強化された身体能力を使って殴り飛ばして気を失った神父の数より意識をはっきりさせている神父の数の方が圧倒的に多いこともあって数の差を覆しきることができず、さして時間をおかずにアーシアが磔にされている黒い十字架全てに緑色のラインが浮かび上がる。

 

「残念だったわねイッセーくん。儀式は今終わる。つまり、私の勝ちよ」

 

神父達を殴り飛ばし続けていると、頭上からレイナーレの勝利宣言が聞こえてくる。

 

「なんだと!?」

「…………あぁあ、いやぁぁぁぁぁっ!!」

 

それから僅かに間をおいてアーシアの苦しげな絶叫が祭儀場内に響き渡る。

 

「アーシア!!」

 

未だに意識のある神父の殆どがアーシアに駆け寄ろうとする俺を囲んでくる。

 

「邪魔はさせん!!」

「悪魔め、滅してくれる!!」

「どきやがれクソ神父共!! てめえらに構ってる暇はねえんだよ!!」

「イッセー君、行って!!」

 

そこでフリードを倒したらしい木場が合流し、持っていた剣で俺の行く手を阻んでいた神父を斬り捨てる。

 

「先輩、早く!!」

 

小猫ちゃんも俺の近くにいた神父を殴り飛ばして道を開けてくれたので、急いでアーシアのもとへ駆け出す。

 

「すまん木場、小猫ちゃん。あとは頼む!!」

「いやぁぁぁ……」

 

神父達を木場達に任せて走り出した瞬間にアーシアの胸元から大きな光が飛び出す。今飛び出した光がアーシアの神器と判断して間違いないはずだ。

 

「渡すかよ!!」

 

騎士(ナイト)』のスピードで祭壇を駆け上がるが、間に合うかどうかは微妙なところだ。

 

「もうこれは私のものよ。今更何をしても、遅いのよ!!」

 

レイナーレが翼をはためかせて光を掴み、狂喜に彩られた表情で掴んだ光を抱きしめた途端、緑色の光が祭儀場を包み込む。

 

「くそっ!!」

 

あまりの眩しさに足を止めてしまい、その光が止んだ頃にはアーシアが治癒を施す時と同じ緑色の光を纏った堕天使がそこにいた。

 

「アハハハハハ!! ついに手に入れた!! 至高の力!! これで、これで私は至高の堕天使となれる!! 私をバカにしてきた者たちを見返すことができるわ!!」

 

狂笑を浮かべるレイナーレが何かを言っているが、どうでもよかった。

 

俺は祭壇の頂上へ上がり、磔にされているアーシアの拘束具を破壊して彼女を抱きかかえる。

 

「アーシア、迎えにきたぞ、しっかりしろ!!」

「い、イッセー…さん」

 

俺の声に反応したアーシアだがその声はかなり小さく、体はぐったりとしていて明らかに生気が足りていなかった。

 

「イッセー君!! ここでその子を庇いながらじゃ形勢が不利だ!! 一度上に上がってくれ!! 時間は僕たちが稼ぐ!!」

 

祭壇の下から木場が聖堂に向かうように指示が出る。

 

「……レイナーレ、てめえだけは絶対に殺す」

 

小さくそれだけ呟くと、アーシアにショックを与えないように細心の注意を払ってその場から駆け出す。

 

「小猫ちゃん、イッセー君の逃げ道を作るよ!!」

「……了解」

「二人とも、すまん」

 

俺とアーシアのために退路を確保してくれた木場と小猫ちゃんに礼を言って地下の廊下を走る。

 

神器を失ったアーシアの体から1秒ごとに生気が失われていくのが否応なく分かってしまうが、それでも一縷の望みを賭けて声をかけ続ける。

 

「アーシアしっかりしろ!! すぐに神器を取り戻してくるから、それまで頑張ってくれ!! そうすれば、いつでも誰とでも遊べるようになる!!」

 

赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)で生命力を増幅することも考えたが、生気が失われている以上気休め以下の効果しかないだろう。

 

穴の開いた風船に空気を入れようとするのと同じで、入れていった端から増幅した生命力が失われていってしまうのがなんとなくわかってしまう。

 

騎士(ナイト)のスピードの恩恵ですぐに聖堂に到着し、近くにあった長椅子に彼女を横にする。

 

アーシアは俺の言葉を聞いて微笑み、俺の手を取った。彼女の手からは生気を感じず、体温も失われつつあった。

 

「……私、少しの間だけでも……友達が出来て……幸せでした…」

「過去形でしゃべんな!! すぐにレイナーレ倒して神器取り戻してくるから、それまで頑張れ!!」

 

自分でもアーシアに無理を強いていることは理解しているが、そう願わずにはいられなかった。

 

頭の冷静な部分ではあと少しで彼女が死んでしまうことは理解できているのに、感情がそれを拒む。

 

「……もし、生まれ変わったら……また、友達になってくれますか?」

「……友達でも、彼氏でも、何でもなってやるよ!! だから、死なないでくれ!!」

 

自然と涙が溢れた。アーシアを救う事ができず、あまつさえ死にそうな彼女に気遣われている無力な自分が許せなかった。

 

「……私のために、泣いてくれる……もう、何も…」

 

アーシアはそう言って俺の頬を撫でるが、その手は静かにゆっくりと落ちていく。

 

「死なないでくれ、アーシア……」

「……ありがとう……」

 

最期に精一杯の微笑みを俺に向けて、アーシアは逝った。

 

「…………ふざけんな」

 

自然と悪態をつくが、その対象は自分自身だった。

 

「女の子一人助けられず……何自惚れてたんだよ、俺は!! 目の前で泣いてる女の子ひとり救えず、何が赤龍帝だ!!」

 

悔しかった。もっと実戦経験を積んでいれば公園でレイナーレだけじゃなくてもう一人の堕天使の存在にも気付き、2人を同時に倒すこともできたかもしれないし、それに成功していればこうしてアーシアを死なせることなく彼女に別の道を示すことができたかもしれない。

 

後悔してもすでに遅く、アーシアは二度と微笑まない事は重々承知しているが、それでも『力』が欲しかった。誰でもいい、俺に力をくれ。代償はいくらでも払う。魂をよこせというのなら、それすら譲り渡そう。

 

アーシアの(かたき)を討てるだけの『力』。二度とこんな事態を起こさない絶対的な、敵対するもの全てを滅ぼす『力』を俺にくれ。

 

彼女の敵を討てるだけの力が手に入るんだったら、その結果として破滅しても構わない。あの女堕天使を殺す『力』を得る事、それだけが今の俺の望みだった。

 

 

パキッ

 

 

自分の中で何かが割れる音がしたと思った瞬間、無理矢理何かに引き寄せられる感覚と共に意識を失った。




そんなわけで、今回はここまで。

にじファン並びにシルフェニア版では省いた木場とフリードのエピソードを挿入しておきました。

イッセーに何が起こったかは大抵の人は予想がつくと思いますが、明日の更新をお待ちください。

次回も明日の同じ時間に更新します。
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