もしドラ~もしもドライグが早く目覚めていたら~   作:ショウゴ

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連続更新第8弾です。お楽しみください。


09 堕天使殲滅

そこは、見た事もない場所だった。

 

真っ白な空間に白いテーブルと椅子のセットがいくつも置かれおり、そのテーブルセット一つにつき、俺と同じくらいの年代から40代位の人たちが男女を問わずに一人ずつ座っていた。

 

《おめでとう、当代。かなり時間がかかったが、これでようやく君も戦う資格を得た》

 

俺がいる場所から遠くにいる女の人がそう呟く。その表情は怨嗟に彩られていたが、どういうわけか共感できると思ってしまった。

 

《敵を屠り、喰らい尽くす『覇』の『力』。それがこの神器本来の『力』だ》

 

笑顔と言うにはあまりに暗い表情を浮かべ、一番近くにいた同年代の男がそう言った。

 

《さあ、まずは(あつら)え向きの堕天使を屠ろう。今の貴殿の力をもってすれば、この程度の相手は我らが力を貸すまでもないだろう》

 

また別の男性の声が聞こえてくると、上空に初めて見る赤い鎧とレイナーレの姿が見えたと思った。

 

その瞬間、眠りから覚める時のような感覚と共に体が浮き上がる。

 

当然そうなればテーブルに座っている人達を俯瞰する形になる。

 

テーブルについている人は誰も彼もが暗い表情を浮かべる中で、一人だけテーブルに着く事無く憐憫の表情を浮かべている人が見えた気がするのと同時に、俺の意識は完全覚醒するのだった。

 

 

 

 

 

―○●○―

 

 

 

 

 

意識を取り戻して最初に目にしたのは、俺から僅かに距離を開けてアーシアを殺した女堕天使のレイナーレが明らかな驚愕を(あら)わにしている姿だった。

 

「な……なんなのよ、その鎧は……。まるで、伝説の赤龍帝じゃない……」

 

その言葉を受けて視線をわずかに下げてみると、左手に装着されていた篭手とデザインを合わせたような全身鎧が俺の体を被っていた。

 

その事を認識した瞬間に赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)禁手化(バランス・ブレイク)したこの鎧、『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』の使い方が頭の中に流れ込んでくる。

 

それによると禁手化(バランス・ブレイク)状態は鎧を纏った瞬間からある程度の自己強化が行われ、力の強化や譲渡も瞬間的に任意の能力を大きく増幅する事が可能なようだ。

 

おまけに今までその存在に気づく事すらなかった自分の身体の奥底にある『蓋』が外れ、そこから大量の力が噴きあがりながら全身に馴染んでいくような感覚もしている。

 

慣れ親しんだ赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)による強化の感覚は別の場所から流れてくる力を受けとめる形に近いので多少なりとも抵抗があるのだが、この力に関しては抵抗の類を一切感じず、いくらでも取り込めそうな気すらしてくる。

 

《……至ったのだな、相棒》

 

そんな身体の底から湧きあがる力を粗方受け止め、鎧の能力を把握したところでドライグが話しかけてくるが、何かを憂うような声色だった。

 

(ああ。この『力』があればアーシアの(かたき)を討てる)

 

心優しいアーシアが敵討ちなんて望まない事は誰かに言われるまでもなく理解しているが、目の前の堕天使を殺さないと俺の気が収まりそうになかった。

 

(ドライグ、今の俺だとどれくらいこの鎧を維持できる? どうせ通常の自己強化と同じで制限時間付きだろ?)

 

歴代最低の資質を持つ俺が無制限で禁手(バランス・ブレイカー)の力を扱えるとは思えないので、ドライグに確認をとっておく。

 

《…今の相棒の実力で鎧を維持するだけならば1時間といったところだ。最大強化や譲渡で3分消費すると思え》

 

最大強化を20回使ったらガス欠って事は、19回が限度って事か。まあ、増幅率を調節すればなんとかなるだろう。

 

(了解。……わかってると思うが、止めんなよ? こいつだけは殺さないと気がすまない)

《……好きにしろ》

 

付き合いが長いのでドライグの声色から何か言いたい事があるのはわかっているが、今は聞き入れる気が起きなかった。

 

「まるでも何も、赤龍帝そのものだからな。誰のダチに手を出したか後悔しながら死ね」

 

レイナーレに向かって死刑宣告を行なってから背中にある魔力噴射口から魔力を噴かせ、一瞬で懐に飛び込む。

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 

同時に打撃力のみを最大まで増幅し、その表情を恐怖に染めたレイナーレの腹部へ右のボディブローを撃ち込む。

 

 

ズドン!!

 

 

「がはっ!!」

 

拳は深々とレイナーレの腹部へ突き刺さり、体がくの字に曲がる。

 

そのまま拳をねじり込むと、ごぼりと音を立ててレイナーレの口から血と胃の内容物が混ざり合ったものが吐き出される。……この反応からすると、間違いなくこの女の内臓にはかなりのダメージが入っているはずだ。

 

それを実感すると自然と口元が緩み、黒い充実感が体中を駆け巡る。

 

「オラァ!!」

 

その黒い充実感に浸りきる前に腹から拳を引き抜き、体をくの字に曲げた事で思い切り位置の下がった顎に膝蹴りを叩き込む。

 

「ごっ!?」

 

人間の姿を模している以上、耐久力の違いを除けば急所の位置は人体と同じ場所にあるはずだ。

 

当然顎に衝撃を受ければまず間違いなく脳震盪かそれに近い状態になっているのが予想できるが、一切構うことなく追撃の心臓打ち(ハートブレイクショット)を打ち込みながら思い切り拳を振り上げてレイナーレの体を上空へ吹き飛ばす。

 

「まだ終わんねえぞ!!」

 

脳震盪を起こしながら打撃の攻撃力によって無防備に高度を上げているレイナーレ目掛けて飛び上がりながら背部魔力噴射口から魔力を噴かせ、攻撃が届く高度まで追いついたところで全身のひねりを加えた右足を奴の左のアバラ付近に打ち込む。

 

 

ベキッ、ズシャッ!!

 

 

脚甲越しに仇敵の肋骨を砕き、砕けた骨が内臓に刺さる心地よい感触を感じると共に打撃によって推進方向を変えられたレイナーレが再び地面に落ちていくので、軌道を予測してもう一度背部から魔力を噴射、騎士(ナイト)への昇格(プロモーション)による速度上昇と合わせてレイナーレの落下速度以上のスピードで落下予想地点へ移動し、タイミングを見計らってパンチで右の肋骨を砕く。

 

 

バキバキっ、ズダン!!

 

 

今度は拳に骨を砕く感触が伝わり、勢いよく地面に叩きつけられたレイナーレの身体は大きく回転しながらバスケットボールのように弾む。

 

「おまけだ!!」

 

レイナーレの翼が地面と平行になるのを見計らって右足を掴んでそれ以上高度が上がらないようにしながら思い切り地面に叩きつけ、そのまま関節の可動範囲を考慮せずに手元へ引き寄せる。

 

そうなれば本来曲がるはずのない方向に足を曲げ続けることになり、完全に手元へ引き寄せた時点で膝の関節が砕ける。

 

 

ミシッ、ベキャッ!!

 

 

既に痛みが許容量を超えているのか死んでいるからかは知らないが叫び声一つ上がることがなくなったので、その状態からもう一度上空に放り投げてトドメを指すことにする。

 

「欠片も残さず消え失せろ!!」

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

『Transfer!!』

 

 

左手に魔力球を生成し、増幅した『力』を譲渡。いつもはドラゴン波のイメージを用いるが、今回だけはそのまま魔力球を解き放つ。

 

撃ち出された魔力球は手のひら程度の大きさだったが射出直後からその大きさを増大させていき、着弾直前には翼を含めた全身を呑み込む大きさとなって物言わぬレイナーレへ襲いかかる。

 

抵抗らしい抵抗の様子を見せず、赤い魔力球に包まれたレイナーレは翼の一枚すら残さずにこの世から消え去った。

 

「ハッ、ハハッ……ハハハハハっ!!」

 

命乞いの一言すら発せずに消え去った『自称至高の堕天使』の姿がやけに滑稽で、自然と笑いがこみ上げてくる。

 

衝動に従ったまま上を向いて笑っていると、上空から淡い緑色の光がゆっくりと降りてきたのが見えた。

 

何かと思って目を凝らしてみると、アーシアの神器だった。どうやらクソ堕天使を跡形もなく消し飛ばしたことで神器も解放されたらしい。

 

(アーシアに、返さないとな。……ドライグ、鎧を解除したいんだがどうすればいい?)

《基本的にはいつもと同じだ。左手だけでなく、全身の鎧を格納するイメージを送ればいい》

 

鎧を纏ったままだと何かのはずみで神器を壊してしまいそうなので、鎧の解除方法をドライグに訊くと簡潔な返答がくる。

 

いつも通りブーステッド・ギアを解除する時のイメージを全身に広めると少しずつ鎧が解けていき、ペアリングを手にする直前に鎧の解除が終わったのでゆっくりとその神器を受け止める。

 

(あとは、これをアーシアに返して埋葬するだけだな)

 

悪魔の俺達ではろくな方法で葬る事が出来ないが、このまま放置して亡骸を腐乱させるよりはよっぽどいい。アーシアに近づいて両手の中指にペアリングを一つずつはめて両手をお腹の上の当たりで重ね、どうやってアーシアを葬るべきかを考え始める。

 

「イッセー、終わったようね」

 

すると背後から声をかけられたので振り返ってみると、聖堂に壊れた十字架が配置されていた祭壇に背中を預けるようにしていた部長から声がかかる。

 

地下祭儀場への入り口付近には木場と小猫ちゃんに加えて部長に同行していた朱乃さんもおり、グレモリー眷属全員が揃っていた。

 

「ええ、終わりました。あのクソ堕天使も完全に消し飛ばしましたよ」

 

部長達を心配させないように無理やり微笑みながらそう言っておく。

 

「外にいた堕天使も地下の悪魔祓い(エクソシスト)達も全員倒したから、ここにいるのは私たちだけ。無理に笑わなくていいわよ、イッセー」

 

だが部長には見透かされていたらしく、アーシアを生かして助けることができなかった無力感が再び襲いかかってくる。

 

それと同時に自然と涙が溢れ、アーシアの亡骸にはまっているペアリングの存在が『アーシアを助けることができなかった証明』のように思えて仕方がなかった。

 

「……すみません、部長。木場達のサポートを受けながら、アーシアを助ける事ができませんでした」

「いいのよ、あなたには悪魔としての経験が足りなかっただけ。誰もあなたを咎めはしないわ」

「咎めますよ!! 自分で自分を許せない!! 俺にもっと力があれば、アーシアは神器を奪われて死ぬ事もなかった!!」

 

部長が慰めの言葉をかけてくれるが、聞き入れることができなかった。

 

「イッセー、確かに大きな力があれば色々なことができる。それは認めるわ。……でも個人で出来ることはそこまで多くないし、力を求めすぎても待っているのは自己の破滅だけよ。あなたが消し飛ばした堕天使も自らの『力』を強くするためにシスターの力を奪い、結果としてあなたというより大きな『力』に負けた。高めすぎた『個の力』は何かのはずみで自身を傷つける。そうなった時に負う傷は致命的なものよ。自分が何の為にどういった『力』を欲するか、よく考えてみなさい。……それにこのシスターの事も何とかできるかもしれないわ」

「え? どういう、ことですか?」

 

俺のことを諭すと同時に死んでしまったアーシアを何とかできるという部長の言葉は、とてもではないが信じられなかった。

 

『なるほど。この娘を眷属に迎え入れるつもりか』

 

だが、俺の疑問はドライグの言葉で氷解する。

 

「その通りよ、ドライグ。シスターといえども人間だから、駒を与えれば悪魔として転生できる可能性がある。もっとも教会関係者の転生に成功した事例を私は聞いた事がないから、この子を転生させるかはイッセーに一任するわ。どうする、イッセー?」

 

部長の言う通りアーシアは肉体的には人間なので、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を与えれば悪魔に生まれ変わり、表面上はどこにでもいる女の子らしい生活を送る事ができるかもしれない。

 

敬虔な信徒であるアーシアからすれば悪魔への転生は受け入れられない可能性が高いが、そうなったら俺が恨まれ役になればいいだけなので拒否する理由はどこにもない。

 

「お願いします、部長。アーシアに駒を与えてください」

「わかったわ。少し離れていてちょうだい」

 

部長の指示に従ってアーシアから少し距離を取る。

 

部長はスカートのポケットに入れていた紅の駒をひとつ取り出すと、アーシアの胸元にその駒を置いて魔力を発生させる。

 

「我、リアス・グレモリーの名において命ず。(なんじ)、アーシア・アルジェントよ。今再び我の下僕となるため、この地へ魂を帰還させ悪魔と成れ。汝、我『僧侶』として新たな生に歓喜せよ!!」

 

部長の詠唱と共に紅の駒がアーシアの胸に吸い込まれていき、同時に指にはめていた神器(セイクリッド・ギア)も淡い緑色の光を発しながら少しずつ体に吸い込まれていく。

 

駒と神器が完全に姿を消した頃、部長は魔力を発するのを止めて一息つく。

 

転生の儀式が成功したのか気になってアーシアに近づくと、僅かな間をあけて彼女の(まぶた)がゆっくり開いていく。

 

その姿を見て俺はこみ上げてくるものを止められなかった。

 

「あれ?」

 

二度と聞くことができないと思った声が聞こえてきたことに喜びを隠しきれず、上半身を起こしたばかりのアーシアに抱きついてしまう。

 

「イッセーさん? えっと……どうしたんですか?」

「ゴメン、アーシア。…少しだけ、こうさせてくれ」

 

たとえ悪魔になってしまったとしても、彼女が生きてくれていることが嬉しかった。

 

「悪魔をも回復させるその子の力が欲しかったからこそ、私は転生させたの。今度はしっかりと守ってあげなさい、イッセー」

 

こうして一度しか使えない裏技を使い、結果だけを見ればアーシアの救出に成功した。

 

新たに眷属となったアーシアを含めて朱乃さんが本拠地である駒王学園の部室へ帰還するために空間転移の準備を行なっている間、俺はアーシア自身が悪魔に転生した事を筆頭にした悪魔の基本的な事柄を教えておく。

 

アーシアも説明を聞いた直後はかなり驚いていたが、『友達の俺と一緒にいることが出来るならそれでいい』と言って、一応の納得を見せてくれた。

 

部室へ帰還した頃には日付変更ギリギリの時間となっていたし、戦闘での疲れもあって俺は家に帰ることにした。

 

 

 

 

 

―○●○―

 

 

 

 

 

家に着いた時には日付も変わっていたが、悪魔として動いていたこともあって両親から咎められなかったのは幸いだった。

 

《相棒、今日の事で真面目な話がある》

 

風呂に入ってさっぱりした後、いざ寝ようとしたところで突然ドライグから話しかけられる。

 

(どうした、禁手(バランス・ブレイカー)の詳しい制約についての説明か?)

《それもあるが、相棒が『至った』時の詳しい話を聞いておきたい。あの時の相棒は意識がなかったように思えたからな》

 

確かに禁手(バランス・ブレイカー)へ至る直前に意識を失ったし、その時に見た夢?の事は話しておいた方がいいだろう。

 

(ああ、確かに禁手(バランス・ブレイカー)になる直前に意識が飛んだし、変な夢も見た)

《夢、か。一体どういったものだ?》

 

ドライグとはある程度意識を共有しているので俺が見た夢の内容次第では不意にドライグが出てくる事もあるが、あの夢はどう考えても普通ではない気がする。

 

(真っ白な空間に白いテーブルが置かれてて、そのテーブルに男女を問わず色々な年代の人達が座ってたんだ。――)

 

ドライグならば何か知っていると思い、あの時に見た事・聞いた事を思い出しながら一部始終を説明する。

 

(――。それで目が覚めたらあの鎧を纏ってたんだが、どういう事だと思う?)

《……それは夢ではない。相棒、お前は禁手(バランス・ブレイカー)へ至った瞬間、神器の深奥にその精神を引きずりこまれたのだ》

(神器の、深奥? どういうことだ?)

《順を追って説明してやる。まず始めに、相棒があのシスターを目の前で喪った結果自身の無力を嘆き、強大な『力』を求めた事が引き金となって精神へ劇的な変化が訪れ、禁手(バランス・ブレイカー)へ至った。ここまではいいな》

 

ああ。それは以前から聞いた禁手化(バランス・ブレイク)の条件だから問題ない。

 

《だが、相棒が『力』を求める意思はよほど強かったのだろうな。禁手(バランス・ブレイカー)へ至り、その時の衝撃で封印されていた兵士(ポーン)の力を完全に解き放ってなお力を求めた結果、神器の深奥にいる歴代所有者達の残留思念にまでその想いが届いた。そして、その想いを果たす為に相棒の精神は神器の深奥に引きずり込まれたのだろう》

(ちょっと待て。兵士(ポーン)の力が封印されていたってどういう事だ? それにより強い力を求めた事がどうして神器の深奥に精神を引きずりこまれる事に繋がるんだよ)

 

淡々とした口調でドライグからとんでもない事を告げられたので、初めて聞くそれらの事柄についての説明を求める。

 

《そういえば言っていなかったな。リアス・グレモリーが相棒を悪魔に転生させる際、悪魔としての力の源である兵士の駒に封印を施す事で相棒が自らの力によって自滅するのを防止しておいたのさ。転生前に俺の力を使い続けていたおかげで多少の土台は出来ていたが、兵士(ポーン)8つ分の力を受け止めるには力不足だったからな。相棒が扱いきれないと判断された分の駒の力は封印する事になったわけだ。リアス・グレモリーは相棒の成長に合わせて適宜封印を解いていくつもりだったのだろうが、禁手(バランス・ブレイカー)へ至った時にその封印が力ずくでぶっ壊されて、相棒に流れ込んでいったんだよ》

 

そこまで聞いて、ようやく禁手化(バランス・ブレイク)した時に感じた力の感覚に得心がいった。

 

つまり、あの時の感覚は封印されていた兵士(ポーン)の力が身体に浸透していく物だったわけだ。

 

(参考までに聞いておきたいんだが、封印が解かれる前に俺に流れ込んでいた兵士の力って何個分だったんだ?)

禁手(バランス・ブレイカー)に至る前の相棒に流れていた力は、兵士2個分が精々だな。至った今なら鎧を纏えば何とか8個分全ての力を受け止められるが、平時では4個分が限界だ。後の力は毒にしかならんから、俺の方で塞き止めておくぞ》

(ああ。そうしてくれると助かる、ドライグ)

 

身に余る力を受け取っても自滅するのが目に見えているので、ドライグの提案は非常にありがたかった。

 

(話を戻すぞ。自覚していなかったとはいえ兵士の力を完全に解き放ってもなお力を求めた事が、どうして神器の深奥に意識を引きずりこまれる原因になったんだ?)

《そちらについても説明する。今まで至る事のなかった相棒には言っていなかったが、ブーステッド・ギアには莫大な代価を支払う事で瞬間的に禁手(バランス・ブレイカー)以上の出力を発揮する方法が存在する。その名を『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』。俺に施されている神器としてのリミッターを強制的に解除し、一時的に神をも凌駕する力を発揮する方法だ。だが、コイツを使うためには神器の深奥にいる歴代所有者達の残留思念と同調し、負の感情に身を任せる必要がある。当然正規の使用方法ではないから、よほど高い資質がない限り使えばまず間違いなく命を落とす。悪魔となった今の相棒ならば寿命を減らすだけで済むかもしれんが、どちらにしても使っている間は破壊衝動に従って敵味方を問わずに襲いかかろうとする暴走に近い。今回は兵士(ポーン)の力の完全開放と禁手化(バランス・ブレイク)の相乗効果によってあの女堕天使を完全に凌駕していたおかげで使わずに済んだようだが、今日ような事が何度も起きるとは考えがたい。使わぬ方が身のためだ》

 

ドライグの言うとおりだった。敵だけを葬る力ならいいが、味方を巻き込む暴走では意味がない。俺が欲しいのはアーシアのような事を二度と起こさず、それでいて敵対者を滅ぼす『力』なので、仲間を傷つけてしまう可能性がある時点で論外だった。

 

(心配すんな。今の説明を聞いただけで使う気が失せたから)

《それならいい。あとは禁手(バランス・ブレイカー)の詳しい制約についてだったな。――》

 

俺の言葉を聞いてドライグは安心した声色でそう言うと、現状の禁手(バランス・ブレイカー)について説明をしてくれた。

 

今のところ禁手化(バランス・ブレイク)は24時間に1度だけ。鎧を纏う為の力のチャージに30秒必要で、その間は自己強化も譲渡も不可能らしい。

 

レイナーレを潰す時に聞いた通り鎧を纏うだけなら今でも1時間は維持できるようだが、最大倍率で強化するとそれだけで維持できる時間が3分短くなるので、戦闘中に使用する増幅率を調整したとしても実際に鎧を纏っていられる時間は15分程度が関の山だろう。時間としては短いと判断するしかない。

 

(……なんていうか、微妙だな)

《まあ、あくまでも今現在の制約にすぎん。今後の訓練や情動で改善される可能性はいくらでもある》

 

今日のような事を二度と起こさないように早朝から訓練をしようと思っていたので、禁手化(バランス・ブレイク)可能時間を同時に伸ばす事が出来るのはちょうどいいだろう。

 

(まあ、しばらくの間は地道に訓練していくか。……他には何かあるか?)

《俺から言っておきたいのはこれだけだ。ゆっくり休むといい、イッセー》

(そうするよ。お休み)

 

まだ何か話しておく事があるか確認するとちょうどいいところでキリになったので一言挨拶をして眠ることにする。

 

戦闘で思いきり体力を消費したこともあり、目覚ましをセットした後ベットに潜り込んですぐに眠気が訪れたので俺は泥のように眠るのだった。

 

 

 

 

 

―○●○―

 

 

 

 

 

翌日。昨日の戦闘終了後に帰宅する直前に部長からアーシアの歓迎会を行うので予鈴の1時間前に部室に来るように言われたので、いつもより圧倒的に早い時間に家を出た。

 

「おはようございまーす」

「おはよう、イッセー。その様子だとケガとかはなさそうね」

 

部室に入って挨拶をすると、部長が紅茶を飲みながら俺の方を向いて挨拶をしてくる。

 

「教会へ侵入する前に騎士(ナイト)でスピードを上げておきましたし、堕天使には何もさせずに一方的に叩きのめしましたからね。怪我がある場所を探す方が難しいくらいです」

 

部長の対面に座りながら返事をする。

 

「確かにあの子の治癒能力は便利だけど、ケガは少ない方がいいわね」

「俺もそう思います。昨日の件は実質的に救出失敗みたいなものですから、実力不足を痛感させられましたよ。今後は自主訓練を積むつもりです。基礎能力が上がれば上がるほどブーステッド・ギアの自己強化も効率がよくなりますからね」

 

今日は歓迎会があるのでやめておいたが、どうすれば効率が良い訓練ができるかを調べてなるべく早く訓練を始めたいところだ。なにせ大元の数字がデカければ少しの強化でもかなりの強さになれるので、訓練を積むに越したことはない。

 

「そういう事なら私の方で訓練メニューを考えておくわ。……強くなりなさい、イッセー」

「よろしくお願いします、部長。要望としては、最低でも昨日の二の舞を防ぐ事が出来る位の実力をつけられるようにして欲しいです」

「わかったわ。どういった経緯であれ、向上心が高いのはいい事よ。…さて、あまりあなたと話しすぎてると新人の子に嫉妬されちゃうわね。アーシア、入ってきなさい」

「はっ、はい!!」

 

部長が部屋の外に声をかけると元気の良い返事と共にアーシアが部室に入ってくる。

 

「アーシア……それ、うちの学校の制服だよな? 編入するのか?」

 

どういうわけか、アーシアは俺も通っている駒王学園の女子用制服を着ていた。

 

「えっと……似合いますか?」

「ああ、十分似合ってるよ」

 

恥ずかしそうに制服姿を見た感想を訊いてくるので自分の気持ちを素直に伝えると、アーシアは嬉しそうな表情でこう言った。

 

「本当ですか!? ありがとうございます、イッセーさん。これからよろしくお願いしますね」

「アーシアもこの学園に通ってもらうことにしたわ。あなたと同い年だし、知り合いがいないとさみしいと思ってイッセーと同じクラスにしておいたから。今日が転校初日ということになっているから、彼女のフォローをしてあげて」

「わかりました。……アーシア、後で俺の悪友も紹介するよ」

「はい、楽しみにしています」

 

松田と元浜がアーシアにセクハラ発言をしないか気になるが、同じクラスで一定以上に仲がいいのがあの二人しかいないので何とかしたいところだ。

 

そんな俺の心配をよそに初めて学校に通うアーシアは非常に嬉しそうにしている。

 

「おはようございます。部長、イッセー君、アーシアさん」

「……おはようございます。部長、イッセー先輩、アーシア先輩」

「ごきげんよう、部長、イッセーくん、アーシアちゃん」

 

その姿を見て和んでいると木場、小猫ちゃん、朱乃さんの3人もやってきて俺たちに挨拶をしてくる。

 

「さて、全員揃ったところでささやかなパーティを始めましょうか」

 

封印されているというもう一人の僧侶(ビショップ)を除いた眷属全員が集まったところで部長が指を鳴らし、テーブルの上に大きなケーキを転移させてきた。

 

始業までのわずかな時間だったが、全員で部長お手製のケーキを食べながらのパーティタイムとなった。

 

途中でアーシアはあまりの嬉しさから神への感謝を捧げてしまい、俺たち全員から『悪魔が神に祈ったらダメージを受ける』(むね)を聞いてショックを受けていたりしたが、基本的に楽しい時間を過ごすことができた。

 

それから授業が始まり、朝のSHRでアーシアは転校生として俺のクラスに編入してきた。

 

対外的にアーシアはイタリアからの留学生ということになっており、学年・男女を問わず一目アーシアの姿を見ようと多くの生徒が俺達のクラスにやって来たのが印象的だった。

 

その日は一日中アーシアのフォローにまわっていたので普段以上に疲れたが、心地よい疲れだったのでぐっすりと眠ることができた。それが俺が悪魔として初めて解決した事件の終わりの出来事であり、アーシアの悪魔としての人生の最初の一日だった。




そんなわけで、今回はここまで。

お察しの通り、前回の引きはイッセー君の禁手化でした。

おまけに残留思念と接触してしまったので、やろうと思えば覇龍もいけちゃいます。

レイナーレファンの皆様には申し訳ありませんが、容赦なく殲滅しました。

これで原作1巻のエピソードは終了となり、原作の時系列で言えば8間の契約取りに絡むエピソードとなるのですが、原作からの変更点が0なので、誠に勝手ながらスキップさせていただきます。

明日の更新からは原作2巻のエピソードに入ります。
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