ラブライブ!~オタク女子と九人の女神の奮闘記~【完結】   作:鍵のすけ

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第十二話 まきりんぱな

「あ、おばさん。こんばんはー」

「あらいらっしゃい思穂ちゃん。穂乃果達なら上よ」

「お邪魔しま~す!」

 

 いつもの穂むらの階段を上がりながら、思穂は今日の放課後の事を考えていた。

 

(にこ先輩はやっぱりにこ先輩だったなぁ……)

 

 放課後、当然と言えば当然だが、思穂は無事に解放された。その去り際に言われた一言が思穂の心にチクリと刺さったのだ。

 ――あいつらはアイドルを汚しているわ。

 にこは確かにそう言った。前にも言っていたが、穂乃果達のファーストライブを見て、その気持ちが変わったかと思っていた思穂は自分の浅はかさに苦笑する。

 

(この調子じゃ、絵里先輩たちに“あの事”を突っ込まれた時、厳しいかもなぁ……)

 

 未だ部員が定数に達していない為、その事には触れられていないが、五人以上に達した直後、絵里はその切り札を切る確信が思穂にはあった。本来ならマネージャーとして、思穂はその対策に乗り出さなければならないが、にこの事も気になる為、今は様子見。

 

「まっ! そんなことは部員が集まったら考えれば良いよね! 穂乃果ちゃーん! お邪魔しまーす!」

 

 穂乃果の部屋にはいつものメンバーの他に、珍しい人物がいた。思穂はすぐさまその人物の元へ駆け寄る。

 

「ほわっちゃ!? え、何何何? ついに花陽ちゃん、我らがμ'sに参加表明!?」

「ひぇっ……!? か、片桐先輩!?」

「思穂! 小泉さんが怖がっているじゃないですか!」

 

 思穂は即刻海未に引きはがされ、正座させられてしまった。しかし、これもしょうがない。と思穂は自分に言い聞かせる。何せ、花陽に久しぶりに会えたのだ、これでテンションが上がらない方が珍しい。

 

「思穂ちゃん、待ってたんだよ。今、ちょうどあの動画見つけたところだったし」

「あの動画?」

 

 思穂はことりのノートパソコンの方へ近づき、その画面を覗き込んだ。そこには理事長室で見せられた例の動画があった。昼に見た時より、再生数が遥かに増えている。

 

「これ……」

「一体、誰が撮ってくれたんだろうね?」

 

 穂乃果の言葉に、思穂は一人の人物の顔が浮かんだが、確信を持てなかったため、それを口にすることはなかった。色んな条件を冷静にクリアしていけば、たった一人に辿りつくが、本人は絶対に否定するだろう。

 

「あ、ここ! 綺麗に出来たよね!」

「何度も練習してたところだったから、決まった瞬間ガッツポーズしそうになっちゃってたよ!」

「あ、今のところは穂乃果が一番苦戦していた所ですね」

 

 穂乃果やことり、海未がそれぞれファーストライブの時を思い出し、あれやこれやとプチ反省会をしているのを横目に、思穂は花陽の顔を覗き込む。

 花陽の瞳は一言で言うのなら、とてもキラキラとしていた。憧れや感動、そして自分との投影。色んな感情が含まれている。思穂の視線にも気づかず、花陽は動画を食い入るように見つめていた。

 

「はーなーよーちゃん! この思穂ちゃんとお話ししよーよー!」

「っ! す、すいません。集中していて気づきませんでした……」

「だってさ、穂乃果ちゃん!」

 

 思穂の言いたいことに気づいたのか、穂乃果が一度頷き、花陽の方へ顔を向ける。

 

「スクールアイドル、本気でやってみない?」

「そうそう。花陽ちゃんにティンと来たんだよ!」

 

 思穂と穂乃果がそう言うと、花陽は徐々に顔を紅くしていき、目を逸らした。

 

「でも私……向いてないですから」

「それ言うなら、この園田海未っていう娘っこは人前に出るの無理なんだよ! この前も――」

 

 それを言う前に、思穂は海未に口を塞がれてしまった。素振りすら見せず、一瞬で思穂の口へ手をやる海未の動作は流石というべきか。これが刃物だったら既に思穂の目の前は真っ暗になっていただろう。

 

「ですがまあ、私も人前に出るのは苦手です。向いているとはとてもではないが思えません」

「私もたまに歌詞忘れちゃったりするし、運動も苦手なんだ~」

「で、でも……」

 

 海未とことりの言葉を受け、すこしだけ揺らいだ花陽。そんな花陽へ、思穂は更に後押しをしてみる。

 

「プロのアイドルだったら、ちょっと厳しいかもしれないけど、これはスクールアイドル。友情、努力、勝利があれば既に私達はスクールアイドルだよ!」

「思穂ちゃんの言うとおりだよ! やりたいって思ったらやってみよーよ!」

「もっとも。練習は厳しいですが」

 

 その後、珍しく穂乃果から叱責される海未の姿が。確かに言って良いことと悪いことがある。これで逃げられたら堪ったものでは無い。

 

「ゆっくり考えて、答え聞かせて?」

 

 穂乃果の言葉に、ことりが続く。

 

「私達はいつでも待っているから!」

 

 その言葉に花陽が何を思ったのか。少しでも考えるキッカケになってくれれば良いな、と思穂は思い、再び動画へと目を落とす――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「よーし! 今日も寝なかったよ!」

 

 今日も何とか居眠りすることなく昼休みまで辿りつけた思穂は気分転換に中庭まで歩いていた。今日は練習が無かったのもあり、見事に手持無沙汰となってしまったからだ。というのも、穂乃果が五時限目の宿題を見事に忘れてしまったようで、今海未とことりがそのサポートに全力を注いでいる最中。

 穂乃果に全力で助けを求められてしまったが、海未とことりによってそれは却下され、海未メインことりサブで穂乃果の宿題を見ていた。どうも思穂は穂乃果にヒントを出し過ぎてしまうきらいがあるようだ。

 

「お、あれは……」

 

 中庭の樹の下で、花陽が座っていた。俯いて、何か考え事をしているように見える。

 

「花陽ちゃん、やほー」

「片桐先輩……」

 

 さりげなく隣に座った思穂は花陽の方へと顔を向ける。あえて思穂は風下へと位置取った理由としては、花陽の微かな良い匂いを全力で堪能するためだ。

 

(あぁ~……花陽ちゃんの良い匂いでご飯が食べられるぅ~……)

 

 この香りを閉じ込める袋は無いかと周りを見渡すが、生憎手持ちにはコンビニ袋しかない。しょうがないので、思穂はそのコンビニ袋を動かし、すぐさま口を縛った。

 

「な、何を……?」

「あ、気にしないで。ちょっとアロマに凝っててさ。その材料をゲットしただけだから!」

 

 顔は笑っているが、その目は全く笑っていない思穂を見て、花陽はこれ以上何も聞くことは出来なかった。花陽は本能で分かっていた。これ以上突っ込むと、何か余計なものを掘り起こすという確信があったのだ。

 

「それよりもさ。どう? あれから?」

 

 その質問の意味を理解していた花陽は、即答せず青空を見上げた。

 

「正直……私、まだ……」

「……そっかそっか」

「片桐先輩は、どうしてスクールアイドルに?」

「あ、私スクールアイドルじゃないよ?」

「へっ……!?」

 

 穂乃果達と一緒にいることが多いから、勘違いされていたようだ。思穂は一度も自分をスクールアイドルだと思ったことはなかった。いわば自分は黒子だ、輝かしいスクールアイドルの影に潜む。

 

「正確に言えば、私マネージャーもどきなんだ。メインは文化研究部で、いわゆる副業ってやつ?」

 

 花陽が目を丸くしている中、思穂は言葉を続ける。

 

「それに、さ。私じゃ駄目なんだよ。穂乃果ちゃん達のような高い情熱は持てなかった」

「どういう……ことなんですか?」

「要は穂乃果ちゃん達みたいに死ぬ気で廃校を阻止するために動けなかったんだよね。だから私はそんな穂乃果ちゃん達を全力でサポートしたいんだ」

 

 穂乃果達の前で絶対に言えないことであった。思穂には穂乃果達はあまりにも眩しかった。そんな穂乃果達と“対等”になるため、思穂はマネージャーと言う黒子に徹したかった。

 

「まあ、私の事はどうでも良いんだよ! 花陽ちゃんだよ花陽ちゃん!」

「私ですかっ!?」

 

 花陽の肩に両手を乗せ、思穂は珍しく真面目な表情で言った。

 

「良い? 人生は一回きりだよ! ちょっとした迷いで残りの人生後悔するより、思いっきり突っ走って恥ずかしくなって死にたくなった方が全っ然良いよ!」

 

 そして思穂は立ち上がった。とある赤毛が遠目に見えたからだ。明らかに花陽へ話し掛けたそうなオーラが出ているのに、それを邪魔するほど思穂は無粋では無い。

 

「じゃ、私そろそろ行くね! 花陽ちゃん、清水の舞台から飛び降りてね!」

「死ぬ覚悟!?」

 

 合っているようで微妙にあっていない言葉を言い残し、思穂は走り出す。チラリとみると、とある赤毛が花陽の元へ歩いていくのが見えた。

 

(これは何だか風が吹いて来たかも!)

 

 もちろん思穂には二人がどんな話をするのかは見当も付かない。だが、きっと花陽にとって、実りのある話になると信じて、思穂は穂乃果達の元へ戻っていく――。

 この後、思穂は六時限目の宿題もやっていなかったという穂乃果に泣きつかれ、手伝ってあげたのはまた違う話である。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「よぅし! 三人とも、この前よりいい感じになっているね!」

 

 今日の放課後はファーストライブで披露した曲『START:DASH!!』の復習だった。昨日の夜に行われたプチ反省会を元に、悪かった部分や良かった部分を重点的に直していった。その中には思穂が個人的に直した方が良いな、と感じた部分も含まれている。

 そうして今日も今日とてみっちり練習したμ'sの前に、“彼女達”は現れた。

 

「皆さん、ちょっと良いですか?」

 

 第一声は真姫だった。しかし、思穂の視線は真姫と凛の間にいる花陽の存在である。二人にがっちりと腕を組まれた花陽は何だか某二人の黒服と宇宙人を思い出させた。

 

「あのっ! かよちんは歌も上手だし、可愛いし、スクールアイドルに向いていると思うんです!」

「いきなりすぎ。あの、小泉さんはμ'sに興味があるみたいなんです」

 

 凛の言葉を真姫が切り捨て、花陽を穂乃果達の前に差し出す。そのやり取りを見ていたことりが凛と真姫の言いたいことを理解したのか、少しだけ期待に満ち溢れた表情へと変わった。

 

「もしかして……メンバーになるってこと?」

「おおう! ついにメンバー大量加入の風が吹いた!」

 

 ことりの質問に頷いた凛が再び花陽をプッシュしだす。

 

「かよちんはずっとずっと前から、アイドルやりたいって思ってたんです!」

「そんなことはどうでも良くて! この子、結構歌唱力あるんです。皆にも負けないぐらいに」

「そんなことってどう言うこと!?」

「言葉通りの意味よ」

 

 真姫と凛の言い合いがヒートアップしていく中、真ん中の花陽が遠慮がちに言葉を発する。

 

「あ、あの……私、まだ……」

 

 ここまで来てまだ消極的な事を言う花陽に、とうとう凛が痺れを切らした。

 

「もう! いつまで迷ってるの!? 絶対やった方が良いのー!」

「それには私も賛成。やってみたい気持ちが少しでもあるんならやった方が良いわ」

 

 花陽を解放した真姫が、彼女の両肩へ手をやり、顔を近づける。言い含めるように、言い聞かせるように。

 

「さっきも言ったでしょ? 声を出すなんて簡単よ。貴方だったら……絶対出来るわ!」

 

 直後、花陽を奪い取るように自分の方に向かせた凛がありったけの気持ちを彼女にぶつけた。

 

「凛、知ってるよ? かよちんがずっとずーっとアイドルになりたいって思ってたこと!」

「凛ちゃん……西木野さん……」

 

 それから花陽は“その言葉”を言おうとした。だが、まだ声が小さく、意志の証明にはならない。

 だが、思穂はあえてそのことに対して背中を押すようなことはしなかった。理由は単純だ。

 

「凛たちが」

「応援するから」

 

 何せ凛と真姫が花陽の背中を押すから。ふわりとそして優しく背中を押された花陽が一歩前へと踏み出した。その瞳と表情にはもはや“迷い”という雲は微塵もない。

 感情が高ぶり、うっすらと涙を浮かべながら、花陽はついに――“その言葉”を口にした。

 

「私、小泉花陽と言います! 一年生で、背も小さくて、声も小さくて、人見知りで得意なものは何も無いです。……でも、アイドルへの想いは誰にも負けないつもりです! だから――μ'sのメンバーにしてください!!」

 

 思穂は思わずガッツポーズをしていた。ついにメンバーが増えたことではない。あの小泉花陽が自分の殻を破り、新たなステージへと上がったことに対する高揚だった。

 穂乃果達の、そんな花陽に対する返事はもう聞かなくても分かっていた。

 

「こちらこそ……よろしく!」

 

 穂乃果と花陽の固く交わされた握手が、それを証明していた。思穂も何だか泣きそうになったが、我慢し、花陽の後ろで泣いている凛と真姫の元へと駆け寄った。

 二人は二人で感極まったようで、互いが互いのことを茶化しながらも、涙を浮かべていた。思穂はそんな二人の後ろに回り込み、二人をがっちりとホールドした。

 

「で? まだ二人の入部宣言を聞いてないんだけど?」

「……入部?」

「……宣言? って言うか、いつの間に私の後ろに!?」

 

 思穂は威厳たっぷりに答えた。

 

「知らなかったの? 片桐思穂からは逃げられないんだよ! ていうか私、大量加入って言ったじゃん!」

 

 そんな二人の前に、ことりと海未が歩いてきた。そして、にこやかに手を差しだした。

 

「メンバーはまだまだ募集中ですよ?」

「うん!」

 

 最重要課題が消化された瞬間を確かに視た思穂は、ひとまず内心安堵していた。そしてまたまた降りかかってくるであろう難問を前に、思穂は穂乃果をただ見つめるだけ。

 

(穂乃果ちゃん。多分、次が正念場だよ?)

 

 だが、今は喜ぼう。気持ちを共に、更なる高みへと登ろうしていく仲間が“六人”になったことに――。

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