ラブライブ!~オタク女子と九人の女神の奮闘記~【完結】   作:鍵のすけ

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第十四話 避けられない事

「それでは! 新生スクールアイドルμ'sの練習を始めたいと思います!」

「いえーい! ぱふぱふー!」

 

 穂乃果と思穂の盛り上がりに水を差したのはやはりといって良いのか、海未だった。

 

「いつまで言っているんですか? それはもう二週間も前の事ですよ?」

「だって嬉しいんだもん!!」

 

 そう言い、居住まいを改める穂乃果は、珍しくキリッとした表情で残りメンバーを見回した。

 

「なので、いつも恒例の……一!」

 

 するとことり、次に海未、真姫、凛、そして最後に花陽の順番で点呼をしていった。流石に毎日のようにやっていたらもはや慣れたもの。おぼつかなかった最初が懐かしい。となればこれもやはり、ということで。

 穂乃果が思穂の方を向き、少しだけ口を尖らせる。

 

「もう! そろそろ思穂ちゃんもやってよ~!」

「いやいやいや。私、正確に言えばμ'sじゃないしさ~。あっはっは」

「だから私達は、そんなこと気にしてなんかいませんよ?」

 

 海未の言うことが全てであり、気にしているのは思穂のみだった。だが、それだけは譲れない思穂でもある。μ'sは六人でμ's足りえるのだ。その中に、思穂の入る余地は微塵もない。

 

「とにかく! これで六人だよ、穂乃果ちゃん!」

「そうだね! このメンバーが後には神シックスだとか、仏シックスだとか言われるかもだよ!」

「あるある! その他にシックス英雄だとかシックス神将とかって言われるかもしれないよ!?」

 

 そんな穂乃果と思穂を見ていた凛は物凄く感心したように頷いた。

 

「毎日同じことで感動できるなんて羨ましいにゃ~」

「仏シックスだと死んじゃってるみたいだね……」

 

 花陽は花陽で違う着眼点を見出したようで、困ったように笑っていた。そんな皆を差し置いて、穂乃果は嬉々として指折り数えはじめた。

 

「私、賑やかなの大好きでしょ? それに、沢山いれば歌が下手でも目立たないし、ダンスだって――」

「穂乃果?」

「冗談冗談!」

 

 海未に睨まれてしまったのは当然予想出来た結果である。そんな穂乃果へ、ことりは珍しく真剣な表情で(たしな)めた。

 

「そうだよ? ちゃんとやらないと、今朝言われたみたいに怒られちゃうよ?」

「ん? 今朝? 何かあったの?」

「あ、思穂ちゃんに言ってなかったっけ? 今日朝練習してたらね、サングラス掛けたツインテールの子に『解散しなさい!』って言われちゃったんだ」

 

 穂乃果の言葉を聞いた瞬間から、思穂の背中から冷や汗が吹き出し始めた。そんな事を面と言ってのける性格、それにそんな分かりやすい特徴を持った人物なんて思穂の知る限り、たったの一人しかいなかった。

 

「でも、それだけ有名になったってことだよね?」

「凛ちゃんの言うとおりだと思うよ~……? ほら、手のかかる程可愛いって言うか、メンドクサイ子程可愛いって言うか~……」

「それより、練習。どんどん時間なくなるわよ?」

 

 凛と思穂の言葉をバッサリ切って、そう言う真姫。何だかんだで現状、一番やる気があるであろう彼女へ、凛が抱き着いた。

 

「おお~! 真姫ちゃん、やる気満々!」

「べ、別に! 私は早くやってさっさと帰りたいだけなの!」

「まったまた~! 凛、知ってるよ~? お昼休み、一人でこっそり練習してたの~」

「あ、あれはただ! この前のステップが恰好悪かったから、変えようとしてたのよ! あまりにも酷過ぎるから!」

 

 二週間前から変わったことがある。真姫を始めとする一年生組が互いに名前で呼び合うようになったことだ。凛と花陽は昔からの友達だったようなのでそれは当然だが、真姫が二人と名前で呼び合うくらい親しくなった。

 少しだけ棘々していたあの頃の雰囲気はもう無く、物凄く仲が良さそうだ。その経緯は思穂には良く分からなかったが、それはとても良いことだ。そう締め括れたらどんなに良かったことだろう。

 ……真姫の近くで物凄い顔をしている人を見なかったら、それが叶った物を。

 

「……そうです、か。あのステップ、私が考えたのですが……」

 

 髪を弄りながら、視線を宙に彷徨わせ、まるでゾンビか何かのようなすごい顔をしながら海未はいじけていた。そうなのだ。真姫が言っていたその酷いステップは何を隠そう海未が考えたものだったのだ。

 すると、凛が唐突に階段を駆け上がりだした。

 

「気にすること無いにゃ~。真姫ちゃんは照れくさいだけなんだよね~」

 

 そんな凛の声を遮るように、“それ”は鳴り響いた。外は曇天、鳴り響くは雨音。季節を考えるのならば、もう梅雨入りの真っ只中であった。

 凛に続くように、μ'sメンバーが屋上の扉まで上がっていくのを見届けながら、思穂は物陰の方へ顔を向ける。

 

「希せんぱーい。穂乃果ちゃんら行ったから、もう隠れないで良いですよ~?」

「思穂ちゃんエスパーか何か? すごいやん」

「一瞬だけ希先輩の美しいおさげが見えたもので……。これがパンツか何かだったら私は確実に飛び込んでいたでしょうね」

 

 くすくす笑いながら出てきたのは、希だった。μ'sあるところに希アリというのが、最近の思穂の考えだ。

 

「部員数はクリアしました。ってことは次に切られる札はアレですよね?」

「……あの子らには言うたの?」

「いいえ。ていうか何か言うタイミング無くて、しかも何か微妙な後ろめたさを……」

 

 思穂の言葉にピンと来たのか、希は突然タロットカードを見せてきた。それは天秤と剣を持った女王の絵だった。それはつまりタロットで言う『正義』を意味し、その正義が逆さまになっているということは……。その意味を理解した思穂は肩を落とした。

 

「あぁ~……やっぱり正直に言わないと駄目ってことなんですね……“どっちにも”」

「カードのお告げ通りならね。でも思穂ちゃんなら問題ないと思うけどなぁ?」

「買い被り過ぎですよ。私はどっちつかずの馬鹿野郎ですし。いや馬鹿女郎(めろう)?」

 

 逆位置の『正義』、その意味とは不正や不均衡。オブラートに包まず単純かつ明瞭に言えば、『そのうち全部バレて、板挟みに遭っちゃう! 大変だ!』と言うことだ。

 しかも厄介なことに、希によるタロット占いは大体当たる。ちなみにそのことに対する思穂の対策は抗うことでは無い、流れに巻き込まれない程度に“歩き続ける”こと。

 

「……思穂、希」

「……どうやらあの子達、止めるつもりはないようやで、にこっち?」

「ふん」

「にこ先輩、今日も相変わらず小さくて可愛いですね!」

「喧嘩売ってんなら買うわよ?」

 

 それは勘弁、と思穂は両手で降参の意を示す。

 

「今日もアイドル研究部で活動ですか?」

「……あんたには関係ないでしょ?」

「なら、にこっちはこれからどこ行くん?」

「あんたにも関係ないわよ、希」

 

 そうしてにこは歩き去って行った。その小さな背中を見ながら、思穂は希に言う。

 

「にこ先輩も中々不器用ですよね~……どこかの生徒会長と違って」

「そうやね~どこかの生徒会長と違って」

 

 思穂と希の間で不思議な“和み”が生まれたが、それにいつまでも浸っているほど思穂は優しくはない。むしろ――思穂は希の方をチラリと見る。

 

「どこかの副会長も他人事じゃないですよね~……」

「おお、言うやん。どっかのマネージャーも他人の事言えんと思うけどな~」

 

 すると、階段の上から思穂を呼ぶ声が聞こえた。返事を待たずに駆け下りて来たのは穂乃果であった。

 

「思穂ちゃん! 雨すごいよ~!!」

「うおっ!? 何でびしょ濡れなの!? ていうか凛ちゃんもびしょ濡れだ!!」

 

 穂乃果に続いてびしょ濡れの凛が下りて来た。その他が濡れていなかったのは流石の思穂も胸を撫で下ろした。そんな思穂へ、まるで堪えていない穂乃果が名案を思い付いたかのように指を立てた。

 

「ねえ! 今日は練習中止にしたからハンバーガー食べに行かない? 作戦会議しよう!」

「あ、ごめんね。なら今日はちょっと別件片づけちゃたいんだけど、良い?」

「別件? 私達に手伝えることなら手伝いますよ?」

 

 海未の提案は魅力的だったが、思穂は両手を振り、やんわりとそれを断った。

 

「ううん。大丈夫大丈夫! ほらほら花陽ちゃんのお腹の音が聞こえてくるよ?」

「ええっ!?」

 

 バッとお腹を押さえ顔を真っ赤にする花陽の姿たるや、まさに歯車的萌えの小宇宙。とりあえずにこやかにポンポンと花陽のお腹を触り、さらに撫でまわした思穂は海未にどつかれる前に、μ'sの元から走り出す。

 

「花陽ちゃん! 良い触り心地だったよ! じゃ!」

「っ! 待ちなさい思穂ー!」

 

 海未にとっ捕まったらそれこそ再起不能コースだ。脇目も振らず、思穂はその場を離れた――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 翌朝。穂乃果達二年生組に連れられ、思穂は生徒会室前まで来ていた。昨日、ハンバーガーを食べている時に、ようやく部員が五人以上集まったことに気づいたようで、部活の申請をしに行くらしい。

 大方、部員が集まったから安心してそこで試合終了、とでもなっていたに違いないというのが思穂の見解である。

 

「失礼します!」

「貴方達、また来たの?」

 

 絵里が相も変わらず不機嫌そうに出迎えてくれた。だが、今日の穂乃果は動じず、ただ絵里にこの前突き返された部の申請書を差し出した。

 

「……部員は揃えてきたみたいね。でも」

 

 そこで思穂は目を細める。ついに絵里があの切り札を切るのだと、直感したから。

 

「この学校には既にアイドル研究部と言うものが存在します」

「アイドル研究部……?」

「アイドルに関する部だよ。すごく広く言えば、穂乃果ちゃん達が設立しようとしているアイドル部とそっくりそのまま被っちゃっている部」

「……思穂?」

 

 穂乃果の問いに懇切丁寧に答えた思穂は、少しだけ居心地が悪くなり、天井へと視線をやっていた。そんな思穂へ、海未とことりは首を傾げるだけ。あとで追及があるか、そんなことにビクビクしていると、希が口を開いた。

 

「まあ、今は一人だけの部やけどね」

「でも、この前部活には五人以上って……」

「……実は設立するには五人以上必要だけど、一回設立してしまえば、後は何人になっても良いっていう最初良ければ全て良し! な規則なんですよね、絵里先輩?」

 

 思穂の言葉に間違っているところはないようで、絵里は静かに頷いた。

 

「生徒の数が限られている中、いたずらに部を増やすことはしたくないんです。……アイドル研究部がある以上、貴方達の申請を受け付ける訳にはいきません」

 

 その言葉で穂乃果達はたちまち表情を曇らせていく。それもそうだろう。

 

(折角部員集めたのに、どこぞの円卓騎士の嘲笑う者みたいに“徒労”だと言われちゃえばそうなるよね~……)

 

 言いたいことはそれだけだ、とばかりに絵里は目を閉じて、結論を言う。

 

「以上です。この話はこれで終わり――」

「――になりたくなければ、アイドル研究部とちゃんと話を付けてくることやな」

「希……!」

 

 やはりここで希が助け舟を出してきた。それは思穂にも分かっていたし、このタイミングでそれを切り出してくる理由も分かっていた。思穂は、あえておどけたようにそれを言った。

 

「二つの部が一つになることぐらいどうってことないですよね~? ましてや、それがほぼ同じ内容なら尚更ですよね?」

「片桐さん、貴方も……!」

「ということで思穂ちゃん。“頑張ってね”」

 

 笑顔でそう言う希の言葉の裏を理解した思穂は、とうとう観念する時が来たのか、と雨降りの外を見やる。逆位置の『正義』の意味。それはあろうことに、その担い手によってもたらされた……押し付けられたという方が正しいのかもしれない。

 希と思穂のやり取りを理解していない穂乃果達は疑問符を浮かべるのみ。そんな三人の元へ、思穂は振り返り、あくまで笑顔を貫き通した。

 

「それじゃあ。行こっか。アイドル研究部へ!」

 

 ――突撃の時間は、放課後となった。

 その方が話しやすいし、逃げられ辛い。そう判断した思穂を先頭に、μ'sメンバーは今、アイドル研究部へと向かっていた。

 そんな思穂へ、海未が問いかけた。

 

「思穂、貴方アイドル研究部の事を知っていたんですか?」

「……うん、ごめんね。言いそびれちゃった」

「何か理由があるん……だよね?」

「それはまあ……きっと先方が教えてくれるよ」

 

 そうやってことりの問いを濁すことしか、思穂にはできなかった。そして、ことりへの返しになんら嘘は無い。きっと、嫌でも皆察するだろう。

 

「……やっぱりこの時間に来るよね」

 

 ちょうど部室の扉を開けようとしているにこが見えたので、思穂は声を出して、彼女を呼び止める。

 

「おーい! にこせんぱーい!」

「……ん? なっ……!?」

 

 にこはあからさまに驚いていた。μ'sが来たこともあるが、それ以上に“思穂がそのμ'sと一緒にいた”ことにだ。

 そしてにこが口を開こうとした刹那、穂乃果が前に出てきた。

 

「あーっ!! じゃ、じゃあ……もしかして貴方が、アイドル研究部の部長!?」

「あんた達……。それに――」

 

 思穂は思わずにこから目を逸らしてしまっていた。思穂へと視線を送るにこの瞳には困惑や動揺、そして“孤独”の色があったのだから――。

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