ラブライブ!~オタク女子と九人の女神の奮闘記~【完結】   作:鍵のすけ

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第二十二話 意外と庶民派?

 正直、希がサポートに入ってくれて、思穂は本気でホッとしていた。おかげでにこにばかり気を回さなくて済むのだから。

 

「……とはいえ、これは何ともしがたい……」

 

 早速勉強会が始まったのは良い。だが、穂乃果、凛、にこのやる気の無さは思穂の想像を遥かに超えていた。それぞれ解説が子守唄と化してしまっている。もちろん海未たちの解説が分かりづらい訳では無い。むしろ分かりやすい。

 ハッキリ言って、思穂の出る幕は無かった。

 

「思穂ちゃ~ん、これ分かんないよ~!」

「ん? どれどれ?」

 

 そう言って問題を見た思穂は固まった。今穂乃果がやっている数学の問題は初歩中の初歩であった。ことりが懇切丁寧に教えているにも関わらず、理解していないとは思穂もまいってしまった。

 

「……今のことりちゃんの説明を更に分かりやすくしたら、それはもう答えになってしまうんだけど……」

「し、思穂ちゃん。私これ以上穂乃果ちゃんに上手に説明する自信が……」

 

 ことりの今までの苦労が手に取るように分かる疲れ切った笑顔であった。むしろここまで分かりやすく説明することりはきっと先生に向いているだろう。……とりあえず穂乃果は様子見をすることにして、思穂は凛の方へと視線を向けた。

 

「はい凛、この英文の意味は?」

「わ、私リケ? が大好きです……? 何故なら、シャーベットだから?」

 

 瞬間、真姫の鋭い視線が凛を射抜いた。

 

「違う! 『私はご飯が好物です、何故なら甘いからです』よ!」

「分かんないよー!」

「り、凛ちゃん。頑張って……!」

「かよちん助けてよ~! 凛、英語なんて無理だよぉ!」

 

 凛は凛で大分重症のようだ。この分なら中学生レベルの英語も怪しいと見える。涙目の凛が、思穂の方へ向いた。

 

「思穂先輩ー! 凛に分かりやすく説明してください!」

「……よーし分かった! 英語で外国人と口喧嘩出来るレベルまでにしてあげるよ!」

 

 実際、思穂はオンラインゲームで一度外国人プレイヤーと三十分間に渡る口喧嘩をした経験があった。FPSのゲームで立て籠もっていたスナイパーを倒した時、ボイスチャットで文句が来たのだ。そこからは激しい言葉の応酬。……最終的には意気投合出来たのは自分でも驚きである。

 そんな思穂が教えたのは例文であった。下手に英単語の書き取り等をさせるより、例文をガッチリと覚えてしまえば、後はその形に英単語を当てはめていけば良いので、闇雲に勉強するよりは点数アップに繋がる。

 思穂が重視したのは口に出しての書き取りによる記憶である。ただぶつぶつ口に出して覚えるよりはよっぽど覚えやすい。

 

「頭が……パンクする、にゃ……」

 

 しかし集中力がそこまで持続しなかったようで、凛の頭から湯気が見える。その瞬間、机に伏してしまった。すぐに真姫がチョップで叩き起こし、花陽がそれを心配するという飴と鞭が出来上がるが、それにほのぼのしている余裕は微塵も無かった。

 

「……希先輩、にこ先輩はどうですか?」

「に……にっこにっこにー!」

「あ、駄目なんですね」

「駄目やね」

 

 にこの隣から教科書を覗き見た思穂は、スッと指さした。

 

「にこ先輩、多分考え方が違っていますよ。ここはそうじゃなくて……」

 

 そして思穂による解説が始まった。ここは思穂も苦戦した箇所である。だが、考え方を変えたらすぐに飲み込めた所でもあった。そんな思穂に、にこが逆ギレをする。

 

「って! 何で二年の思穂がにこより分かってんのよ!」

「と言われましても……一年生の後半で勉強した所だったからとしか……」

「さっき外から話を聞いてたけど、思穂ちゃんが勉強できるって本当やったんやね」

「勉強できるって言うか、勉強しなくても良いようにしたというか……」

 

 希が感心するが、思穂には生憎それを素直に受け取ることが出来なかった。オタクライフを円滑にするためだけのことなので、特に褒められる要素はなかったのだ。

 

「これは……ラブライブ出場が本格的に危ぶまれるなぁ……」

 

 ここで海未が弓道部に行くと言って退室した。海未と言うストッパーが居なくなった穂乃果が本格的にだらけだし、ことりが困ってしまっていた。

 しかし、思穂もどうやら時間切れのようだ。

 

「あ、じゃあ私もそろそろ抜けるね!」

 

 すごく勉強を見なくてはならない事態に陥っているが、これだけは譲れなかった。何故なら今日は予約していたゲームの受取日だったのだ。ロボット物のアクションゲームである。自由なカスタマイズと深い設定、そしてコントローラー全てを使う操作の複雑さは思穂の心を掴んで離さない。

 皆を残していくのは酷く心残りだが、それでも思穂は自分優先で動く人間である。心を鬼にして、思穂は部室を飛び出した――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「――あら、片桐さん。お久しぶりね」

「…………あ、ども」

 

 思穂は酷く冷や汗が止まらなかった。音ノ木坂学院を飛び出してきたまでは良い、何の事故も無くゲームショップ近くまで来れたのも良い。だが、バッタリ出くわしてしまった綺羅ツバサの笑顔を見て、思穂は今日の一日の終わりを確信した。

 

「つ、ツバサさんやツバサさん。どうして貴方がこんな所に……? 伊達眼鏡まで掛けて……」

 

 今日のツバサは伊達眼鏡を掛け、帽子を被ってと、じっくり見なければ本人だと分からない変装をしていた。そのオーラまでは隠しきれていないが。

 

「今日は練習が無い日なのよ。だから散歩していたの。常に新しい情報に身を置き、自分を高める。……とまでは言わないけど、アンテナはいつも高くしておかなければスクールアイドルは務まらないわ」

「それは立派な心がけですね! じゃあ私はこの辺で――」

 

 ツバサを横切り、ゲームショップに入ろうとした思穂。だが、店の中へ入る寸前、ツバサによって腕を掴まれた。

 

「ね? 時間あるかしら? ちょっとお話ししていかない?」

「……あんじゅさんや英玲奈さんは何処(いずこ)へ?」

「散歩に誘ったんだけど、二人とも用事があるって断られちゃった」

 

 舌をペロリと出してウィンクまで付けてくるとは流石スクールアイドルの頂点、といった所だろう。不覚にもドキドキしてしまったが思穂は直ぐに思考を切り替え、如何に断ろうかと思考を巡らせる。

 A-RISEのセンター直々に遊びに誘われるなんて経験、普通なら絶対に有り得ないが、思穂にはそんなの関係なかった。当然、にこや花陽にこの事が知られれば首を絞められてしまうかもしれない。

 

「ね、行きましょ? 私、もちろんμ'sにも興味あるけど、貴方にも興味があるのよ?」

「……私ですか?」

「そう。一度貴方と一対一でお話ししてみたかったの」

「う~ん……まあ、そこまで言うのなら……」

 

 思穂が思ったことは、A-RISEのセンターと遊べて嬉しい、等では断じて無い。ゲームを取りに行くのは明日以降になってしまう、ただそれだけであった。

 

「じゃあ、どこ行きましょうか? あ、私、女の子向けの店あまり知りませんので悪しからず」

「それじゃあいつもどこへ行っているの?」

「アニメ専門店、ゲームショップ、本屋等などですね。服屋なんてことりちゃんに連れて行かれる所しか知りませんし」

 

 とても花の女子高生とは思えない行動範囲であった。実際、見かねたことりによって“いかにも”なお店に連れ回されたのは記憶に新しい。あわよくばドン引きしてくれるのではないか、そう思っていた思穂は次のツバサのリアクションによって、それが間違いだったと気づかされる。

 

「それじゃあ貴方の行くところに付いて行って良いかしら? 興味が出て来たわ」

「……本気で言ってます?」

「もちろん。あの天才片桐思穂がいつもどうやって放課後を過ごしているのか気になるし」

「……天才かどうかは置いておくとして、ツバサさんって結構物怖じしないタイプですよね」

「ありがとう! 良く言われるわ」

 

 ある意味穂乃果と似ているな、と思いつつ思穂はツバサのリクエスト通りにすることにした。となればまず行くところは決まっていた。

 

「へー色々あるのね」

「ツバサさん、こういう所初めてですか?」

「ええ。歌とかダンスの練習であまりこういうのに触れる機会無かったから、新鮮ね」

 

 むしろ『私、滅茶苦茶やるのよ?』と言われても反応に困るからそれはそれで驚きはしなかった。とりあえず思穂は目的の物を入手するべく店員の元まで歩いていく。

 

「それが貴方の欲しかった物?」

「はい、そうです。この重厚感溢れるロボットが私の心を掴んで離さないんですよ!」

「ロボット……ん? もう一つは何?」

「これですか? ざっくり言えば女の子を口説いて彼女にするゲームです」

 

 ギャルゲーです、とはとてもじゃないが言えなかった。ツバサの純粋な瞳が思穂の心に突き刺さる。

 

「このパッケージの女の子達と仲良くなっていくのね。……面白いの?」

「もちろんです! 人の気持ちを掴む、と言う点ではツバサさん達スクールアイドルに通じるモノがあると思いますよ?」

「……なるほど。楽しみながら人の心を掴む術を学んでいる、ということね。流石は片桐さん。こういう考え方もあったのか……」

 

 すごく真面目に聞いて、真面目に頷いているだけに思穂は何だか申し訳ない気持ちで一杯になる。それと同時に、ツバサは意外に天然なのかと邪推してしまった。恐らく根が真面目なのだろうと結論付けた思穂は、ツバサと共に店を出る。

 

「それで? 次はどこへ連れて行ってくれるのかしら?」

「そうですねぇ……。本屋でも良いですか?」

「本屋ね、分かったわ」

 

 快諾してくれたツバサを連れ、思穂は馴染みの本屋へと移動した。小さいながらも漫画の新刊が出るのが早く、また品揃えも良い。下手に大きな書店へ行くより、新刊が手に入る確率が高いここは思穂御用達のお店である。

 

「片桐さんは何を買うつもりなの?」

「漫画です。ツバサさんは何かファッション雑誌とか熟読してそうですよね」

「そう見える? 料理の本とか健康関係の本とか色々読んでいるわよ?」

「へ~何か庶民的な感じですね」

 

 その言葉にツバサは立ち止まり、くすくすと笑い出した。

 

「ふふ。まさかそんなこと言われるとは思わなかったわ!」

「あれ? おかしかったですか?」

「いいえ。おかしくなんてないわ! ……と、これが貴方の目当ての物?」

「あ、はい。これ、超ハイスペックな執事さんと超お金持ちなお嬢様とのラブコメなんですよ。割と長寿な作品として有名ですね」

 

 ハイスペックと言うよりは、もはや人間という枠を超えた執事さんである。車に引かれても死なないというのは一体どこの機動戦士だろう。

 

「へえ……。あ、この漫画まだ続いていたんだ……」

「お、これ知ってます?」

 

 ツバサが手に取ったのは、妖怪が見える少年がとあるきっかけで自称用心棒となった妖怪と共に、妖怪の名前を返していく物語の漫画である。

 思穂もこの漫画は全巻持っており、新刊を待っている最中だ。

 

「ええ。昔、ちょっと立ち読みしたら割と面白くてね。目に付いたらたまに目を通すぐらいには気に入っているわ」

 

 そう言いながら、その漫画をパラパラとめくり始めたツバサ。パラパラとは言っても、けっこうしっかりと読んでいるようだ。口元が緩んだり、笑いを堪えたり、時には泣きそうになったりと、表情がコロコロ変わるのは見ていて楽しい。

 そんな思穂の視線に気づいたのか、ツバサがパタンと漫画を閉じ、元の場所へと戻した。その頬は少し赤い。

 

「ご、ごめんなさい。ちょっと集中しちゃってたわ……」

「いえいえ私は良いんですよ。まだ読んでいて良いですよ?」

「そ……そう? ならもうちょっとだけ良いかしら? あと少しで読み終わるから……」

「ごゆっくり~」

 

 そしてまた読みだしたツバサを横目に、思穂は読み終わるまで適当な本を読んで時間を潰そうと決めた。手に取った漫画をめくり、思穂は物語の世界は没入する――。

 

「ふう……面白かったわ。片桐さん?」

「……はっ! つい読み込んでしまっていた! 私にも守護してくれる卵が現れないかと妄想してしまっていました!」

「ふふっやっぱり貴方って面白いわね!」

 

 ツバサの無邪気な笑顔に、つい思穂は照れてしまった。顔が紅くなっていないか気にしつつ、思穂はツバサの手を掴む。

 

「は……恥ずかしい……。さ、ささっ! 読み終わったのなら出ましょうか!」

「ええ。時間も時間だし、最後は私のお気に入りの店に貴方を連れて行きたいんだけど……良いかしら?」

「ええ、もうこの際どこまでもお供しましょう!」

「じゃあ行きましょうか。割と近いのよ?」

 

 ツバサの言葉には全くの嘘はなかった。実際歩いて五分もするところに、その店はあった。

 

「ここのショートケーキが最高なのよ。絶対気に入ると思うわ」

「わー楽しみですー」

 

 見た感じ、お洒落なスイーツ店だと思っていたが、中はもっとお洒落だった。クラシック音楽が流れ、照明もほんのり暗くされている。……この時点で、思穂は財布の中身を確認した。

 

(ど、どうしよう。ショートケーキ税込うん千円とかだったら……!)

 

 ツバサと向かい合うように席に着いた思穂は、冷や汗が止まらない。呼び鈴を鳴らし、やって来た店員へ二人分のショートケーキとコーヒーをオーダーするツバサの何と頼もしいことか。

 

「ち、ちなみにツバサさん。ここっておいくら千円するのですか……?」

「ここ? えっとね……」

 

 そして聞いたショートケーキの値段を聞き、思穂は目を丸くした。値段が高いという話では無い、むしろとてもリーズナブルな値段に驚いたのだ。

 

「……やっぱりツバサさんって、庶民派なスクールアイドルですよね」

「そろそろ呼び捨てでも良いわよ? その代わり私も思穂って呼ばせてもらって良いかしら?」

「それはもちろん構いませんが……う~ん……」

「どうしたの思穂?」

「いや……私って結構ファンに嫉妬されるんじゃないかと思って」

 

 冷静に考えれば、ここまでA-RISEのセンターを独り占めしているなんてファンに知られたら、最悪刺されるんじゃないかと、思穂は段々脂汗を掻き始めてきた。

 しかし、当の本人はそんなこと気にもしていないようだ。

 

「ファンとの戦い、頑張ってね?」

「頑張れる気がしませんね~……その時は助けてくださいね? えっと……ツバサ」

 

 本人からの許可を貰っているにも関わらず何だか少し呼び捨てに緊張してしまった思穂である。

 

「ねえ思穂? 貴方、A-RISEにマネージャーに来る気は無いの?」

「無いですね」

「あら、ハッキリ言うのね」

「そりゃあ天下のA-RISEのマネージャーなんて畏れ多いですよ」

 

 冗談なら面白い、がもしそれが本音なら思穂は全力で断る心づもりであった。思穂が全力を尽くす相手は、とっくに決まっているのだから。

 

「私は……思穂ならA-RISEをもっと高みに押し上げてくれると思っているわ」

「――買い被り過ぎですよ。私はほんのり遠目から眺めているぐらいが丁度良いです」

「そういう謙虚な姿勢は大事にしたいわね。まあ、気が向いたらいつでも言って。他校の生徒でも何とかマネージャーに捻じ込んでみせるから!」

「本当、冗談か本気か分かりませんよねツバサって」

「私はいつでも本気よ? あ、ショートケーキ来たみたい」

 

 二人の目の前にショートケーキと香ばしい匂いのコーヒーが置かれた。この組み合わせはやはり鉄板だな、と思いつつ、思穂はフォークを手に取った。

 

「私もいつでも本気です。だから、A-RISEを超えるというのも冗談では無いですからね」

「ええ。楽しみにしているわ。だけど今日はそういうのは忘れて、ショートケーキ食べましょ?」

「はい! 頂きましょう!」

 

 世間は自分が思ったよりも狭い。今日はその事が良く分かった日であった。そして自分の綺羅ツバサに対するイメージが事実とは掠りもしていなかったことにも気づかされた。

 今日の収穫は二つ。一つは綺羅ツバサと思ったより仲良くなれたこと。そしてもう一つは――。

 

「おお! 美味しーい!!」

 

 ――ショートケーキが自分の想像以上に美味だったことだ。

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