ラブライブ!~オタク女子と九人の女神の奮闘記~【完結】   作:鍵のすけ

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第二十七話 山場を越えて

 ステージ上では九人の女神が踊りを見せていた。二週間全ての努力を発揮するように、そして何よりも観に来てくれたお客さん全員に来て良かった、とそう思わせるように。それこそ、廃校の事は二の次だったと考えさせられる程度には、表情が輝いていた。

 ビシリと、最後の決めポーズを取った辺りで、思穂はビデオカメラを一時停止させた。

 

「いやぁ……良いね。九人揃ったら何だか輝きが増したって感じがするなぁ」

 

 部室の中で一人、そう呟く思穂。今日は一番乗りだったので誰とも話す相手がいなかった思穂はとりあえず暇つぶしに昨日撮影したビデオを見返していた。

 『僕らのLIVE 君とのLIFE』という名の新曲は、九人が揃って初めての曲だっただけに、思穂の目には未だ新鮮味が抜けきらない。

 

「さて、と。残りをちょちょーいって片付けますか」

 

 一番乗りした理由は他でもない。隣の空き教室が昨日、正式にアイドル研究部の部室の一部として使用していいことが認められたので、掃除をするために来たのだ。前から目を付けていたところなだけに、これはかなり嬉しかった。九人に増えたことにより、大所帯になることからも、いずれはどうにかしなければならない問題だっただけにこの知らせは正に天からの恵み。

 思穂は三角巾とマスクを装着し、早速掃除道具を手にする。

 

「まあ、絵里先輩と希先輩が力を貸してくれたからっていうのもあるよね」

 

 はたきで埃を落とし、チリトリと箒でささっとゴミを集めていく思穂の手際は中々のものだった。自分の部屋は自分でしっかりと掃除しているだけに、にこ程ではないが特にまごつくことなく掃除をこなせた。

 空き教室の使用許可を取るのにそれほど面倒な手続きはいらなかった。様式通りに書いたら即オッケーというこの適当さ。

 

「あ、思穂先輩。お疲れ様です!」

「お疲れ様です」

「凛ちゃんに花陽ちゃん、早いね」

 

 手をプラプラとさせ、二人を迎え入れた思穂は三角巾とマスクを外した。丁度思穂も一区切りついたのだ。その姿を見た花陽が申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「すいません、思穂先輩にだけ掃除をやらせてしまいました……」

「ううん、大丈夫大丈夫。割と綺麗だったからすぐに終わったよ。真姫ちゃんは?」

「真姫ちゃんは掃除があるから凛たち先に来ちゃいました」

「なーる。あ、そう言えば聞いた?」

 

 思穂の問いに二人は満面の笑みで頷いた。それはオープンキャンパスのアンケートの結果である。部室に来る前に職員室で聞いてきた思穂はずっと誰かに話したくてうずうずしていたのだ。

 思穂が口を開く前に、丁度いいタイミングで穂乃果達二年生組が入ってきた。

 

「思穂ちゃーん! ビッグニュース!!」

「噂をすれば来たね穂乃果ちゃん!」

「ねね? 聞いた!?」

「うん、今花陽ちゃんと凛ちゃんとでその話をしていたんだ」

「オープンキャンパスのアンケートの結果、廃校の決定はもう少し先になったそうです……!」

 

 つまり、中学生たちがこの音ノ木坂学院に少なからず興味を持ってくれたということだ。これはそのままμ'sの“勝利”に直結した。九人の努力は、無駄では無かったのだ。

 

「見に来てくれた子達が興味を持ってくれたってことだよね!」

「ことりちゃんの言うとおり! でも、私としては……これだ!」

 

 言いながら、思穂は開放された空き教室への扉を開けた。そうすると、よほど上機嫌なのか、穂乃果がくるくると回りながら入室した。

 

「あー思穂ちゃん、それ私が言いたい! ほら、部室が広くなりましたー! いやー、良かった良かった!」

 

 決めポーズもそこそこに早速穂乃果は、思穂が拭いた長椅子の上へと腰を下ろし、ぐでーっとし始めた。海未が注意をする前に、もう一人の凛とした声が穂乃果を諌める。

 

「安心している場合じゃないわよ。とりあえず今は廃校が先延ばしになっただけで、生徒が沢山入ってこない限りはまだ廃校の可能性が付き纏うのよ?」

 

 今まで穂乃果の手綱をしっかり握れるのが海未しかいなかったのだが、絢瀬絵里と言う強力な牽引役が加わったことにより、海未の負担はかなり減った。その証と言ってはしょうもないが、時折、感動したような表情を絵里に見せては彼女を引かせていた。

 

「う、嬉しいです! まともなことを言ってくれる人がようやく増えました!!」

「わっほい! 海未ちゃん、それほとんどの人達まともじゃないって言ってるの気づいてる!?」

「まるで凛達がまともじゃないみたい……」

 

 近くに居た凛も同じような事を考えていたようで、すごく複雑そうな表情を浮かべていた。

 

「にこっちもそろそろ来る頃だろうし、揃い次第練習始めようか」

「希先輩、益々気合い入ってますねー」

「何たってμ'sの中ではウチとエリちが新参者やからね。気合い入れて行かなきゃ」

 

 練習への士気も高まって来たところで、ことりが恐る恐る小さく手を挙げた。

 

「あ、あの~……今日は私、ちょっと……ごめんなさいっ」

 

 そう言い、ことりはそのまま部室を出て行ってしまった。その後ろ姿を見送りつつ、思穂は最近“忙しい”んだなとしみじみ同情する。

 南ことりはメイドカフェでバイトしている伝説のメイド“ミナリンスキー”だ。オープンキャンパス前は最低限のシフト数で調整してもらっていたのだろうが、それが終わってツケが回ってきた、と考えるのが自然だろう。

 

「ことりちゃん、最近どうしたんだろう?」

「さぁ……思穂は何か聞いていますか?」

「う~ん……何なんだろうねぇ」

 

 穂乃果と海未の問いをはぐらかすので精いっぱいだった。下手な事を言えば、海未に勘付かれてしまう。

 

(言うのは簡単だけど……なぁ)

 

 ことりは言っていた。『自分を変えたい』と。誰の手も借りず、一人で頑張ってみたいからこそ、今まで誰にも言わなかったのだと考えると、この件はことり自身が喋る以外に筋が通らない。

 そう考えていたからこそ、思穂はのらりくらりとやり過ごす、という方針を固めていた。

 

「さっきことりが走って行ったけど、今日も休み?」

 

 部室に入ってくるなり、にこがそう言った。その後に真姫が入って来たところから恐らく一緒に来たのだろう。思穂が答える前に、希が答えた。

 

「ことりちゃんは今日、用事があるんやって。だから、今日は八人で練習やね」

「よーし! じゃあ練習行こう! ……って、そう言えば思穂ちゃんも今日はこのまま帰るんだっけ?」

「ごめんなさい! ほんっとごめんなさい!」

「思穂、あんたも最近練習来ないわよね?」

 

 そう言って、にこが半目で睨んできた。とりあえず思穂は、無言でにこの頭をポンポンと撫でて、それから謝意を示すために両手を合わせた。

 

「すいません! マネとして最低限の事はやっているのでそれで許してください!」

「っていうかその前に気安くにこの頭を撫でるな! 突然頭撫でられたから何事かと思ったわよ!」

 

 とりあえずマネージャーもどきとしての自覚はあるので、必要最低限の事をやってから、自分の事をやらせてもらっている。そう言った理由もあるので、思穂は部室に一番乗りしていたのだ。

 

「まあまあ、にっこにっこにー!」

「使い方が雑なのよ、あんたは! 人の持ちネタを使うならちゃんとリスペクトの気持ちを持ってやりなさい!」

「リスペクトの精神しかないんですがねぇ……」

「……それがリスペクトなら馬鹿にされた時はもっとイライラするんでしょうね。はぁ……もう良いわ、さっさと行きなさい」

 

 ぶっきらぼうなのは相変わらず、と言った様子だ。にこ自身、別に練習休むことに対してそこまで恨み節を言わないので非常にありがたかった。

 今日だけは本当に外せない用事があったのだ。思穂が前々から目を付けていたゲームと漫画、特にアニメのブルーレイボックスの発売日が重なってしまっていたのだ。最優先がブルーレイボックス。初回限定版にはドラマCDに描き下ろしポスター等などのグッズが付いてくるので、売り切れ必至のデスゲームと化している。

 早速思穂は準備を整え、戦場たる秋葉原へ赴く。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「……ふ、ふふ。ふふふふ……」

 

 愛用の大型リュックには夢が詰まっていた。入った店に置かれていたブルーレイボックスは残り一つ。最後の一個を掠め取れたのは正に幸運と言っても過言では無い。他にも狙っていたゲームや漫画を買えたし、漫画に至っては全二十七巻にも及ぶシリーズを大人買いしてしまった。

 ホクホク顔で家へと歩いていた思穂は、目撃してしまった。

 

「……え、っと」

 

 赤い縁のサングラス、顔下半分を覆い隠すマスク、何故着けているか分からないピンクのマフラーに、厚手のコート。それが八人も。これを不審者集団と言わずして、一体何を不審者集団と言えば良いのか分からないというレベルであった。

 

(……周り、薄着なんだけどなぁ)

 

 皆の事は大好きだが、今の彼女達は話が別である。とにかく周りの人から“仲間”と思われるのを避けるため、思穂はなるべく目を合わせないように家へと――。

 

「あ! おーい思穂ちゃーん!」

「ああああぁ~……」

 

 即刻見つかってしまった。サングラスや眼鏡を外した穂乃果が駆け寄ってきた。

 

「……あ、初めまして。私、片桐思穂って言います……」

「知ってるよ!? え、どうしたの思穂ちゃん!? 何で私と目合わせてくれないの!?」

「いや……不審者と転売屋と違法アップローダーにだけは心を許すなって死んだおじいちゃんからの遺言でさ……」

 

 すると、穂乃果が自分の恰好に気づいたのか、慌てて手を振った。

 

「違うよ! これ着たくて着た訳じゃないんだよ!」

「まあ、あの妙に似合っているちっこい先輩だろうなぁとは思ったけどさ」

 

 穂乃果と思穂の会話を見ていた他のメンバーが歩いて来た。女性だからまだ良いものの、男性なら恐らく警察を呼ばれるレベルで、彼女達は“怪しかった”。

 口元や頬を触り、引き攣った表情を浮かべていないか不安になりながら、彼女達を迎えた。

 

「ま、またそのおっきなリュックなんだね……」

「ね、思穂ちゃん、それってそんなに重いん?」

 

 希が思穂のリュックを指さした。何も言っていないが、絵里は非常に困惑していたように見て取れた。思えば、絵里にリュックを見せたのはこれが初めてだったはず。

 思穂はリュックを下ろし、希に背負ってみるように促した。

 

「面白半分で持たないでくださいね。やるなら真剣に持ってください」

「う、うん……分かった」

 

 そう言うなり希はリュックを掴み、持ち上げようとしたが……リュックが少し浮き上がるだけで希の顔が真っ赤になっていた。

 

「っはぁ! 何これ!? 重すぎやん!」

「今日は割と軽い方なんですよね」

 

 ひょいと持ち上げ、背負う思穂。その言葉に嘘はなく、今日はまだ詰め込んでいない方だった。一時期はリュックがはみ出るくらい物を買ってしまって、持てなくなったことがあるぐらいだ。

 

「いつもどれくらい買っているのよ……?」

「おお! 絵里先輩、興味あります!? といってもこれくらいですが……」

 

 ポソポソと絵里に耳打ちすると、彼女は口を開いたまま、茫然としていた。思った以上の額に、絵里は感嘆の気持ちを意味するロシア語を呟いた。

 

「ハラショー……」

「……あれ? そういえば凛ちゃんと花陽ちゃんはどこ行ったんですか? さっき見た限りだとちゃんと九人いたと思うんですが」

 

 すると、にこが親指でアイドル専門ショップを指した。思穂の記憶が正しければ、最近出来た店だったはずだ。

 

「あそこよ。凛が花陽に引っ張られて行った、て言った方が良いのかしらね?」

 

 タイミングが良いことに、店の入り口辺りで凛が手招きをしていた。何だかすごい物を発見したようで、そのモーションが凄く大きい。

 もうここまで来たら帰るのも気が引けたので、穂乃果達に続いて店の中に入っていく。流石新しめの店だけあり、所狭しとアイドルグッズが並べられている。

 

「ねえ見て見て! この缶バッジの子可愛いー! かよちんみたい!」

 

 凛が見せてきたのは……明らかに花陽本人の缶バッジであった。穂乃果がそれを指摘すると、ようやく凛も気づいたのか、ただひたすら驚いていた。そんな凛に連れられたのは、何とμ'sのコーナーであった。

 

「おお……『人気爆発中』とはまた嬉しいことを……」

 

 それぞれが顔を寄せ合い、様々な感想を漏らしている中、人一番テンションが高いにこが思穂含めμ'sメンバーを押しのけて最前列へと喰い込んだ。

 

「どっどきなさーい! あれっ!? 何でにこのグッズが無いの!? あ、あった! 何で穂乃果に隠れてんのよ!」

 

 そしてせっせと自分のグッズを並べだした。記念撮影でもするのだろうか。その目は爛々と光っていた。

 

「あれ……?」

「どうしたの、穂乃果ちゃん?」

 

 穂乃果が何かの写真を見ているようだった。見せてもらった瞬間、思穂は固まった。

 

「これ、ことりちゃん……だよね?」

「い、いやぁ分からないよ~……? 可能性が九十九パーセントなだけで、まだことりちゃんって決まった訳じゃない、よ?」

 

 他のメンバーがそれぞれの気持ちを言い合っているの横目に、穂乃果と思穂の視線はことりの写真に釘づけになっていた。

 

「――あの! すいません!」

 

 店頭から聞こえてきた甘い声を聞いて、思わず思穂は顔を手で覆ってしまった。この微妙なタイミングで、最悪の人物がやって来たのだ。少しだけ顔を向けると、そこには先日見たクラシカルなタイプのメイド服を身に纏った――ことりがいた。

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