ラブライブ!~オタク女子と九人の女神の奮闘記~【完結】   作:鍵のすけ

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第五話 今まで思いつかなかったけど

「う~ん……」

 

 放課後、思穂は教室で一人頭を悩ませていた。悩みの種は主にライブのセットリストである。セットリストの組み方を調べ、にわか知識で曲の順番をあれやこれやと書いては消しての作業を繰り返していた。

 そんな思穂へ、穂乃果がやってきた。

 

「何してるの思穂ちゃん?」

「ん? ライブの曲順決めてたんだよ」

「おお! 今回、何か本格的だね!」

 

 今回の思穂のモチベーションは最高潮である。麻歩を感動させるための曲……はもちろんμ'sに頑張ってもらうしかないのだが、それをよりよく見せるための工夫は出来る。

 盛り上がる曲や落ち着いた曲。谷あり山ありといった感じだ。下がるから盛り上がる、上がるから盛り下がれる。ただ何も考えずにやる曲順としっかり考えた曲順は全然違う、と思穂は信じ、ただひたすら頭を働かせる。

 

「そうだね。これも全てμ'sの知名度アップの為!」

「と、麻歩ちゃんの為だよね!」

「……私はね。麻歩の為だけにこのセトリを組んでいる訳じゃないよ?」

 

 麻歩の為と言うのもある。だが、メインはμ'sを見に来てくれたお客様全てだ。

 

「まずは穂乃果ちゃん達が楽しめるように、そして思いっきり歌えるように、私は頭を絞るんだよ? だから、頑張ってね!」

「思穂ちゃん……、うん! 分かった! それじゃ私、練習行ってくるね!!」

 

 思穂の言葉に何かを感じ取ったのか、穂乃果がやる気を漲らせて教室を飛び出していった。その後ろ姿を見送りながら、思穂は曲のリストに目を落とす。

 

「とは言ったものの……」

 

 現在思穂の頭を悩ませているものにして求めているもの。それは“目新しさ”である。今の所、全ての曲は九人で歌って踊っている。

 クオリティはもちろん文句なし。だが、それだけではお客さんは正直言って飽きてしまうのかもしれないのもまた事実。

 それに当たり、思穂には一つ二つ考えがあった。

 

「だけどそれにはあの二人の協力が不可欠……だね」

 

 思穂の考えを実現させるためのキーパーソンが二名。意義は大いにある。

 思穂は席を立った。目的地はその二人の元である。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「あ、思穂ちゃん!」

 

 屋上へ行くと、いつものように皆が練習していた。いの一番に気付いたのはことりである。ことりが手を振ったお蔭で、皆が思穂へ視線を集中させた。

 

「はろー。で、早速なんだけど真姫ちゃんに海未ちゃん。ちょっと良い?」

「私と真姫ですか?」

「何なのよ一体?」

 

 二者二様の反応を見せ、海未と真姫は思穂の所へやって来た。早速思穂は他の七人が見守っている中、手短に用件を告げることにした。

 簡潔明瞭かつ丁寧に説明を終えた思穂を待っていたのは海と真姫の絶妙に微妙な表情である。

 

「……本気、なのですか?」

「良く見なさいよ海未。思穂のこの顔が冗談に見える?」

「あはは……。と言うことで引き受けてもらえる?」

 

 思穂の問いに対する答えは至極シンプルなものである。

 

「無理!」

「思穂、それは少しばかり時間が……」

「う~ん……やっぱり無理? 新曲を作るのは?」

 

 思穂の考えとは“九人じゃないμ'sの曲”をライブで披露することだった。

 そもそもの話、もっと早くこの事に気づくべきであった。九人と言う数はプロのアイドル活動的に考えても、素人のアイドル活動的に考えても、無限の可能性を秘めた数である。

 コンビ、トリオにカルテット。ちょっと組み合わせを考えるだけでも九人ならば相当な数が出来上がる。

 だが、いきなり新しいことをやり始めても失敗するのは火を見るより明らか。これからの事も見据え、まずは試験が必要不可欠である。

 

「思穂、ライブまでもう時間はあまりないのよ? いきなり新曲をやるにしても九人で合わせる時間が……」

「今回の新曲はね、九人じゃないんだ」

 

 その言葉に皆が首を傾げ、疑問符を浮かべた。九人じゃ無ければ何人なのだ。無言の問いかけに、思穂はとある二人を指さした。

 

「凛ちゃんに穂乃果ちゃん。ライブには二人のコンビ曲を組み込むよ!」

「凛と?」

「私?」

 

 指さしたのは他の誰でもない、高坂穂乃果と星空凛である。思穂のμ's新アプローチの第一弾は凛と穂乃果によるコンビ結成だった。

 じっくり考えれば沢山組み合わせが思いつくのだが、真っ先に思いついたのがこのコンビだ。天真爛漫の凛と元気いっぱいの穂乃果。合わない訳が無い。

 

「そう。μ'sには九人でこそ出来る表現がある。だけど、ただそれだけじゃいつまでたっても次のステージへ進めないと思うんだ」

「分かります! 人数が多いとそういう試みが出来るんだよね!」

 

 花陽が真っ先に喰い付いてきた。にこも満更では無さそうである。アイドルというジャンルに精通したこの二人の反応の良さはそのまま思穂の自信に繋がる。

 

「で、まずはその試み第一弾、ということなんだよね! 凛ちゃん、穂乃果ちゃん、どうかな?」

「面白そうー!! 凛ちゃん、よろしくね!」

「凛も穂乃果ちゃんと歌えるなんて楽しみだにゃー!」

 

 凛と穂乃果は快諾も快諾。むしろ望むところといった所。だが、その二人に待ったをかける者が二人いた。

 

「穂乃果! ちょっと待ってください! まだ私と真姫は何も返事していませんよ!」

「そうよ。凛、気が早すぎ」

 

 勢いで押し切れると思っていた思穂はやはり見積もりが甘かったと苦笑する。歌う方が良くても、作る方が難色を示しては始まるものも始まらない。

 

「……そっか、海未ちゃんはともかく真姫ちゃんは急に作曲なんてやっぱり無理だよね」

「……はぁ?」

 

 ピクリと、真姫の形の整った眉が動いた。何が、とは言わないが手応えを感じた思穂は更に続ける。

 

「いや、ごめんね真姫ちゃん無理な事を言っちゃって。あの真姫ちゃんだったら二曲……は流石に無理だろうけど、一曲なら! って思っちゃった私が悪いんだよね……」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ……」

「うん、分かった! 私の考えが甘かったんだよ! だからこの話は――」

「待ちなさいってば!」

 

 真姫が大きな声を出して、思穂の言葉を遮った。そんな真姫を見て、思穂は勝ちを確信する。

 

「誰が作れないって言ったのよ!?」

「え? でも無理って……」

「出来るわよ! 一曲くらい今から作り始めれば余裕よ余裕!」

「ま、真姫! 駄目です思穂の口車に乗せられては!」

 

 付き合いが長い海未は思穂の考えを察知していた。押してダメなら引いてみろ、ということである。

 あの真姫が、押せ押せからいきなり露骨に引きの姿勢を見せられて、それを素直に受け取る訳が無い。まさに、一度でも思穂の言葉を聞いた時点で、真姫の負けは決まっていたのだ。

 

「海未ちゃんは別に無理しなくても良いんだよ?」

「ど、どういう意味ですか!?」

 

 続いての思穂のターゲットは海未である。彼女に対しては、既に一撃必殺の術を編み出しているので、それほど苦労は感じない。

 

「海未ちゃんはほら、あの中学のアレをいい感じに再現すれば良いから私でも出来ると思うし、海未ちゃんのアレを世間に広める良い機会――」

「わ・た・し・が・や・り・ま・し・ょ・う」

「ありがとござーっす!」

 

 一分にも満たない時間で海未への説得を終えられた。アレとはアレの事である。厳選された言の葉の塊だ。

 

「ということでさ! 関係各所の“快諾”は得られたし! 絵里ちゃんどうかな?」

「……四人とも、本当に大丈夫なの?」

 

 四人は首を縦に振った。真姫と海未の表情が微妙だったが、絵里の判断を決めるには十分すぎるモノだった。

 

「ええ、本人たちが言うのなら、私も何も言わないわ」

「よっし! ありがとう絵里ちゃん!」

「それで? どういう曲を考えていたの?」

 

 早速真姫がやる気を見せてくれたことに感動しつつ、思穂は一言で説明する。

 

「ずばり夏っぽい曲だね!」

「……夏っぽい?」

「そうそう。ほら、凛ちゃんと穂乃果ちゃんを見てごらん?」

 

 思穂の言葉で、凛と穂乃果以外のメンバーが視線を向ける。

 

「夏っぽい二人じゃない?」

「いやいやいや。どんだけ適当な理由よあんた」

 

 いの一番に突っ込みを入れたのはにこであった。だが、思穂は軽く聞き流しつつ、もう少し説明を入れる。

 

「まあ、それは冗談にしても。凛ちゃんと穂乃果ちゃんの声質とか、パッションとか、そういう要素を持ち合わせている二人に合う曲と言ったらそういうのかなって思って」

「確かに、凛ちゃんと穂乃果ちゃんは元気いっぱい! って感じの曲が合いそうやね」

「うん。それにさ、今皆が練習している曲も夏っぽいしさ。夏ラッシュだよ夏ラッシュ!」

 

 概ね皆の空気は前向きなものに変わって来たところで、思穂はトドメに入る。

 

「ということでさ! 皆、頑張ろうよ! 特にコンビの方は私が言い出しっぺだし私も全力で手伝うからさ!」

「……まあ、そこまで言うのなら」

「ちゃんと手伝いなさいよー」

 

 海未と真姫ももう何も文句を言うつもりはないようで、早速頭を捻り始めたようだ。

 それでこの話は一区切りとなった。絵里の仕切りで、皆が練習の準備をし始めたのを見て、思穂は水の準備を始めるべく、クーラーボックスの元まで歩き出す。

 

「ん?」

 

 スマートフォンが鳴動し、メールの着信を知らせた。タッチ画面を何回か触り、文章を呼び出した思穂は送信主を見て、冷や汗が吹き出し始める。

 

「『今日、私オフなのよね! だから夕方ちょっと会わない?』……って、ファンにしてみたらなんて嬉しいデートのお誘いなんだ……!」

 

 だが、思穂にとったら何か嫌な予感がすごくするお誘いでしか無く。送信主――綺羅ツバサが画面の向こうで笑っているような、そんな錯覚をしてしまった。

 これを断ったら色々と面倒なことになるのは目に見えてしまっている。思穂の返答はたったの一つしかない。

 手早く返信をし、スマートフォンをしまった思穂は、少しだけ発想を逆転させることにした。

 

(そうだ、これから更にμ'sを盛り上げるためにはやっぱり頂点を勉強することが一番だよね)

 

 更に向上するため、思穂はあえて戦場へと踏み込む決意を固めた――。

 

(あ、また美味しい食べ物屋さんに連れて行ってくれないかな!)

 

 早速、本来の目的を忘れそうになってしまったのはご愛嬌。

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