ラブライブ!~オタク女子と九人の女神の奮闘記~【完結】   作:鍵のすけ

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第四話 火消しのオタク

「私の名はカタギリ・ナル・シホ・アスカ。オトノキは狙われている……!!」

「誰にですか」

 

 海未にバッサリと切られ、思穂は倒れるように机へ伏せった。今日の思穂は幼馴染三人組よりも早く学校に来ていた。もちろん勉強したい、とか早寝早起きは基本だね、なんて奇特な理由では無く、そもそもほとんど寝ずに夜を明かしてしまったからだ。

 

「いやー昨日寝ずに観たロボットアニメがもう最高でさー! グイングイン動く迫力はやっぱりCGに勝るね!」

「また夜更かしをしたのですか。あれほど止めなさいと言っているのに……」

「……それはそうとさ、穂乃果ちゃん」

「うん、何ー? 思穂ちゃん?」

 

 いつもなら遅刻ギリギリだが、早く登校した理由はただ一つ。昨日の件を詳しく聞くためである。

 

「昨日の事、説明しよう。ね?」

「し、思穂ちゃん、笑顔が怖いよ~!」

「何で私の名前がアイドル部に入っていたのかな~?」

「思穂ちゃんなら後で言えばオッケーかなって!」

 

 その評価に喜ぶべきか叱るべきか悩むところであったが、思穂はとりあえずそれで納得する。納得しなくては先へ進めない。むしろ、思穂以上に喰い付いてくるのが一人いた。

 

「穂乃果、貴方……思穂には何も言っていなかったのですか!?」

「う、うん……」

「私……てっきり思穂ちゃんにはちゃんと了解をもらってると思ってたよ~……」

 

 流石のことりも苦笑を隠しきれていなかった。思穂はこの時点でどれだけ穂乃果が後先を考えないノーガード戦法で突っ走っているのかを理解する。それと同時に、やっぱり穂乃果らしいと思った。こういうことは常に穂乃果が先頭に立って走っているのだ。

 そして穂乃果は立ち上がり、思穂の方へと向いた。

 

「――思穂ちゃん、スクールアイドルやりませんか?」

 

 ニッコリ笑顔でそう言う穂乃果を見て、思穂は少々困ってしまった。穂乃果の頼みならいくらでも聞いてあげたいのは紛れもない本音である。

 

「う~ん、ごめんね。そのお願いはちょっと聞けないかな……?」

 

 しかし、思穂にはそれが出来ない理由があった。まさか断られるとは思っていなかった穂乃果の表情が段々曇っていく。その表情を見れば、申し訳なさで一杯になっていくが、これだけは譲れなかった。

 

「ど、どうして!? 思穂ちゃんなら絶対スクールアイドルになれるよ!」

「いやぁ誰かは言えないけど、前にも似たようなお願い断っちゃってるからね~あはは。それに文化研究部もあるし」

「思穂ちゃん、前にもスクールアイドルに誘われたことあるの?」

 

 ことりからの質問に頷くことで答える思穂。厳密に言えば違うのだが、深く言うことでもないため、そこで思穂は話題を終わらせにかかる。

 

「ま、まあそれはそれとして。スクールアイドルは出来ないけど、アイドル部なら入っても良いよ。人数が足りないようだし、名前ぐらいなら貸してあげる」

「良いの!?」

「うんうん。他でもない穂乃果ちゃんの頼みだしね!」

「ありがと思穂ちゃん!」

 

 そう言うなり、机の中から穂乃果は紙を取り出した。『講堂使用許可申請書』、そう書かれた紙を机の上に置き、穂乃果はペンを動かし始める。使用予定日と時間を見た思穂は何となくだが、穂乃果達が何をやろうとしているのか予想出来てしまった。

 

「新入生歓迎会の放課後ってことは……もしかしてアイドルらしくライブ!?」

「うん! 昨日海未ちゃんとことりちゃんと話して決めたんだ!」

「勘違いしないでください穂乃果。あくまで、ただの案ということで終わったじゃありませんか。……まだ出来るかどうか分かったものではありませんよ」

 

 この行動力はぜひ見習いたいものだと思穂は思った。そうすると、越えなければならない壁が一つある。

 

「そういうのを悩むために、まずは会長様へ申請書を提出しなくちゃならないね。この時間帯なら生徒会室で仕事してるんじゃないかな?」

「じゃあ善は急げ! ってことで、海未ちゃん、ことりちゃん、思穂ちゃん、行こう!」

「今から!? だ、大丈夫かなぁ……」

 

 不安になっていることりの手は既に穂乃果にがっしりと掴まれており、付いて行くしか選択肢が無かった。海未に至っては腕に絡みつかれてしまっている始末。

 始業まではまだ時間があるので、今から行って戻ってくれば丁度いい時間だろう。穂乃果と引っ張られていく二人の後に続き、思穂は教室を出た――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「失礼します!」

 

 生徒会室へ入った穂乃果は先手必勝とばかりに絵里へ申請書を差し出した。受け取り、紙面を一瞥した絵里はあからさまに不機嫌そうな表情を浮かべる。

 

「……朝から何? もうそろそろ授業よ」

「講堂の使用許可を頂きたいと思いまして! 申請書を提出しに来ました!」

「講堂は部活動関係なく皆のモノ! って生徒手帳にかいてありましたよー」

「使用は新入生歓迎会の放課後……何をするつもり?」

 

 絵里の眉間にシワが寄り始めた。早朝から生徒会の仕事をしていた絵里にとって、この時間は一番スムーズに仕事が出来る至福の時間なのだ。そんな時間に穂乃果達(やっかいごと)がやってきては堪ったものではない。

 しかし、それを承知で思穂はこの情報を穂乃果達へ持ち出した。それが必ず吉になると信じて。

 

「スクールアイドルを結成したので、その初ライブです!」

「まだ出来るかどうか分からないよ、穂乃果ちゃん……」

「えーやるよー! やるもーん!」

「先ほども言いましたが、まだただの案でしょう! やると言った訳では……!」

 

 本格的に言い争いに発展しそうになったところで、絵里が四人へ疑問の視線を送る。絵里にしてみたら朝いきなりやってきて、あまつさえこんな茶番を見せられては良い気分になるはずがない。

 

「……今の状態で出来るの? 新入生歓迎会は遊びではないのよ?」

「三人はただ講堂の使用許可を取りに来たんやろ? 部活でもないのに、生徒会がとやかく言う権利はないはずや」

 

 希の言葉にすかさず思穂は差し込んだ。

 

「そうですよそうですよー。それは流石に生徒会の権限を越えていると思うんですがねぇ」

 

 思穂を見た絵里はますます不機嫌顔になってしまう。片桐思穂という人物は、絵里の中のブラックリストに入っている最上級の問題児なのだ。

 

「片桐さん、貴方……アイドル部に入ったのね」

「名前だけですけどね。ですが私にもコードネームを頂きたいと思っていたところです。……さしずめ、火消しのオタク、アイドル部のマネージャーとでも名乗らせて頂きましょうか」

「文化研究部と掛け持ちするんやね」

「はい。影ながら穂乃果ちゃん達のサポートをします」

 

 思穂の見間違いだろうか。それを聞いた希がフッと緩んだ顔を見せたような気がした。本来なら絵里の味方をするべきであろう副会長の考えが、思穂には全く読めなかった。

 それ以前に、どうも希はこのアイドル部への助言が多く思えた。公平な立場で物事を見ている、と言えばそれまでだが、どうもそれだけじゃないと思穂は睨んでいた。

 だが、今はそれは重要では無く、求めているのは結論である。

 

「それで? 絵里先輩、申請書は受理してくれるんですか? それとも、べらぼーめぇ出直して来い! ですか?」

 

 却下理由はどこにもない。あるはずがないのだ。よほど常識を逸した理由でない限り、何でもやらせるのがこの音ノ木坂学院である。

 絵里が渋々頷いたことにより、穂乃果達は無事、講堂の使用許可を勝ち取ることに成功した。生徒会室を出た辺りで丁度予鈴が鳴ったので、四人は教室へと急いだ。そこからの思穂はいつも通りである。特に今日は早起きどころか寝ていないので、眠りの世界に入るのは恐ろしく早かった。ちなみに今日の夢は飛行機になって空を飛びまわるものだった。

 

「……ところでさ、穂乃果ちゃん」

「ふぁに?」

「またパンですか? 太りますよ」

「家、和菓子屋だからさーパンが珍しいのは知ってるでしょ? ん~今日もパンがウマいっ!」

 

 そう言って好物のランチパックを一齧りする穂乃果。穂乃果の実家は『穂むら』という和菓子屋である。看板商品は穂むら饅頭略して『ほむまん』。思穂も良くゲームショップ帰りに買っていくことが多い由緒ある店だ。チョコレートが好物の思穂だったが、穂むらの饅頭だけは同じくらい大好きだ。

 

「ライブやるってことは集客をしなくちゃならないってことだけど、ポスターか何かはもう作ったの?」

「うん! もう校内の掲示板に貼って回ったよ!」

「な、何ですって!?」

 

 その瞬間、海未が走り出したので、穂乃果と思穂はそれを追い掛ける羽目になってしまった。恐らくことりが手を貸したのだろう。そうでなくてはこんなに早く完成も出来ないし、貼っても回れない。

 

「穂乃果は色々甘すぎます!」

 

 廊下をやや早歩きしながら、海未は小言を言い始める。そんな海未の後を追いながら、穂乃果が子犬のようにシュンとしだす。

 

「だ、だってぇ~……」

「ライブまで後一か月しかないんですよ!? まだ何も決まっていないのに……見通しが甘すぎます! 勝手すぎます!」

「おぉ~……海未ちゃんのコンボが凄いや。良く舌噛まないね」

 

 その一言が余計だった。海未が立ち止まり、ギロリと思穂を睨み付けた。最近睨まれてばっかりだな、と思ったが、良く考えれば自業自得だったと気づき、何も言えなくなった思穂である。

 そこまで考えたところで、思穂はとあることを思い出す。

 

(そういえば授業中、ことりちゃんが何かスケッチブックに描いてたみたいだけど、もしかしなくてもスクールアイドル関係だよね。あとで聞いてみよーと)

 

 だが、それは思穂が聞かなくてもことり自身から発表された。教室でずっと何かを描いていたことりだったが、丁度それが終わったようで、思穂達にスケッチブックを見せてくれた。

 

「おーすごい! 可愛いなぁ!」

 

 それはピンクのワンピースのような衣裳を着た女の子のイラストであった。……どことなく穂乃果に似ているような気がするのは恐らく気のせいだろう。

 

「本当!? 初ライブの衣装を考えてみたんだ。ちょっとだけ難しい所があるけど、頑張って作ってみようかなって」

「ことりちゃんすごい! 何だか本当にアイドルみたいだね!」

「穂乃果ちゃんもありがとう! 海未ちゃんはどう?」

 

 絵を見た海未は固まってしまった。何を思っているのか思穂には手に取るように分かった。大和撫子を地で行く海未にとって、これは明らかに露出度が高いのだろう。それはドンピシャだったようで、海未が震えながら、絵の下半身辺りを指さす。そこは何も履いていない部分、要は生脚である。

 

「……これは、このスゥッと伸びている二本のこれは何ですか?」

「脚よ?」

 

 当然の如く即答だった。これが脚でなかったら何なのだろうというレベルだ。ようやく海未もそれを理解したようで、何故か自分の足へと視線を落とす。

 

「……いやぁ海未ちゃんの脚は滑らかですっべすべですねぇ……これは犯罪的ですわぁ」

 

 瞬間、思穂は海未の細くてすらっとした両脚を撫でまわし始めた。むしろことりの絵を見た時から海未の行動が予想出来ていたので、いつ脚に目をやるか待っていたのだ。だが、海未の生脚を堪能できたのは一分にも満たない時間。二撫でした辺りで、海未からチョップをもらってしまった。それはそれはとても良い一撃で、一瞬意識が飛びそうになった。

 

「いったぁい!」

「当然です!! いきなり人の脚を撫でまわす人がいますか!」

「大丈夫だよ海未ちゃん! 海未ちゃん、そんなに脚太くないよ!」

「他人の事を言えるのですか穂乃果!?」

 

 途端、穂乃果は自分の下半身をペタペタと触りだす。何度か確認し、やがて一度頷くと、ガッツポーズを作った。

 

「よぅし! ダイエットだ!」

「二人とも、大丈夫だと思うけど……」

「ことりちゃんの言うとおりだよ! 海未ちゃんに至っては私が保証するよ!」

「そんな保証、必要ありません!」

「あっはは。……そういえばさ、このグループって名前あるの?」

 

 途端、固まる三人。あろうことか穂乃果すら固まってしまうという事態だ。それを見た思穂は皆に聞こえないようにそっと呟いた。

 

(あれ? 海未ちゃんがいるのにこのグループ、心配になって来たぞ……?)

 

 能天気を自負する思穂でさえ、少しばかりヒヤッとしてしまったのは内緒である。そこから緊急会議が開かれるのは早かった。議題は当然、グループ名のことだ――。

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