ラブライブ!~オタク女子と九人の女神の奮闘記~【完結】 作:鍵のすけ
講堂には全校生徒が集まっていた。
隣で話をしている者、少しだけ寝ている者、ただステージへ視線を向けている者。そんなざわついた雰囲気も、やがて司会の進行が始まるにつれ、徐々に収束していく。
全校集会が始まりを迎え、まずは檀上に理事長が上がった。
「音ノ木坂学院は、入学希望者が予想を上回る結果となったため、来年も生徒を募集することとなりました――」
そんな前置きから、始まる理事長の挨拶。三年生には残りの学園生活を悔いの無いよう過ごす事、一年生、二年生にはこれから入学してくる後輩達の善き手本となる様に促した。簡潔ながら、色々と考えさせられる挨拶をした後、理事長は壇上を下りた。
降壇を見届けると、進行役であり、穂乃果の友達でもある短髪の女生徒ヒデコが次へと会を進める。
「続きまして、生徒会長の挨拶。生徒会長、お願いします」
その言葉を受け、観客席から絵里が立ち上がった。だが、絵里は壇上へと上がらず、ただ小さな拍手をする。それはまるで、他の誰かを待つように。
やがてその誰かさんが舞台袖から姿を見せる。一歩進めるごとに、サイドポニーが小さく揺れた。
徐々に生徒達から黄色い悲鳴が上がっていく。その声を一身に受け、その者は壇上のマイクまでやってくる。
「――皆さん、こんにちは! この度、新生徒会長となりました、スクールアイドルでお馴染み!」
そこで言葉を区切り、その者はいきなりマイクを掴み、高く高く放り投げた。
「ほわっちゃ……!?」
その瞬間を観客席から見ていた片桐思穂は思わず腰を浮かしてしまったが、つつがなくキャッチできたことに胸を撫で下ろす。あのマイク、割と良い物を使っているのだ。壊れでもしたら堪ったものではない。
そんな小さな心配を全く知らない彼女は、マイク片手に演壇から身を乗り出した。
「――高坂穂乃果と申します!!」
誰が見ても、完璧な掴み。彼女を知る者が見れば、驚きで目を見開くこと間違いなしと、そう言っても何ら差支えない出だしである。これは相当に期待できる、そう高坂穂乃果は皆に思わせた。
「……あ~……え~……」
……その後、数秒間固まったかと思えば、突然パンの話やμ'sの練習が辛い等と奇天烈な事を話し出すのもまた、高坂穂乃果が高坂穂乃果たるゆえんなのだろうと、思穂は遠くで頭を抱えている絵里を見て、とりあえず合掌した。
◆ ◆ ◆
「あぁ~疲れたぁ~!」
「お疲れ様、穂乃果ちゃんっ!」
「いやぁファンタスティックな挨拶だったよ穂乃果ちゃん!」
生徒会室に着くや否や、穂乃果は机に突っ伏して呻いた。
ことりと一緒に労いの言葉を掛けた思穂はお茶でも入れてあげようと、席を立つ。
――あの祭り以降、話は劇的な展開を迎えた。
その一つ目が高坂穂乃果の生徒会長就任であった。祭りが終わった翌日、二年生組と思穂は絵里に呼び出された。その時に告げられた一言が『穂乃果、貴方生徒会長をやってみる気はない?』である。穂乃果達は全く信じられないと言った様子であったが、思穂としてはとうとうこの瞬間が来たかと、どこか納得したような表情を浮かべていた。
絵里たちの“時間”を考えれば、もうそろそろ世代交代の時期。そうなると必然、メンバー構成が二年生を主体としたものになる。――そして、絵里が後任に推薦する相手も決まってくるだろう。
――思穂も生徒会に入ってくれないかしら?
そんな風に、絵里から言われるのも必然。そして、思穂が『あ、オタクライフ最優先なんで』。と断るのもまた必然。ただし、役員未満のお手伝いとして全力を尽くすとフォローはした。
二つ目は、麻歩が海外に戻ったということだ。向こうのテレビ局から麻歩の取材をしたいというオファーがあったと、麻歩が通っている学校から連絡があったようで、つい一週間前に日本を発った。
すぐに戻ってくると言うが、思穂的にはぐーたら出来る時間が増えるので『ゆっくりしてきな!』という優しい言葉を掛けてあげた。
「全然良いあいさつではありません! ……色々、言いたいことはありますが、よいしょ」
そう言った海未が穂乃果の前に書類の束を乗せた。エベレストを想起させる量であった。
「今日はこれをすべて処理して帰ってください!」
「え、ええっ!? もう! 少しくらい手伝ってくれてもいいんじゃない!? 海未ちゃん、副会長なんだし!」
穂乃果が生徒会長になったということは、海未が副会長と言う役職に就くのは最早必然。ことりは役員だ。
海未は穂乃果の助けをバッサリと切り捨てた。何せ他にも仕事はある。その事を懇切丁寧に教えると、穂乃果の次の標的はことりであった。もちろん、ことりもそのつもりでいたが、海未がそれをさせない。まるで子煩悩の母親と、それを許さない父親のような構図であった。
そんな穂乃果の最終標的は、座って漫画を読んでいる思穂となった。
「思穂ちゃーん! 助けてよー!」
「え~……? 今、私に振る~……?」
結論から言えば、出来てしまう。その辺にある書類の山も、あの辺にある書類の山も、この辺に積まれている書類も全て鼻歌混じりに一時間半ほどで処理できる確信がある。
ノートパソコン二台に、アニメ視聴用のスマートフォンがあれば作業効率は二倍。右手で一台、左手にも一台、真ん中にスマートフォンを置けば、アニメを見ながら作業が出来てしまう。思穂は両利きである。
だが、思穂は心を鬼にした。――正確には海未が物凄い笑顔で思穂を威圧してくるからだ。これに逆らったら明日はない。
「あ、あはは……本当に処理出来なそうだったら私も手伝うから」
「穂乃果。思穂はいわば最終手段として認識しておいてくださいね。……間違いなく思穂は新生徒会の中では一番に仕事内容を把握しているでしょう。ですが、思穂は役員では無い上に、おんぶに抱っこでは私達に成長はありません。だから生徒会業務は極力新生徒会役員だけでこなしていきます!」
穂乃果にとってはまさに死刑宣告と言っても、言い過ぎではないだろう。海未の気持ちも、穂乃果の気持ちも理解している思穂は中間の位置に立つことを改めて考えた。
「ふえぇ~……生徒会長って大変なんだねぇ……」
「分かってくれたかしら?」
「ふっふっふ。頑張っているかね、君達~?」
そう言って入って来たのは絵里と希であった。二人ともからかい混じりの笑みを浮かべている。
「大丈夫~? 挨拶、だいぶ拙い感じだったわよ?」
「ううぅ……ごべんなざい~……! それで、今日は?」
「特に何かあるって訳じゃないけど、私が推薦した手前、どうしているか心配で」
何だかんだでお節介な絵里に、思穂は含み笑いを漏らした。それが見られてしまい、絵里が少しだけ眉を逆八の字にする。
「思穂~何かしら今の笑みは?」
「ほわっちゃ!? え、何の事でしょうかね~っはっは!」
「この中では思穂ちゃんが一番生徒会の事を知っているから、ウチらがフォロー出来ないときはしてあげてね」
「あ、あ~……可能な限り頑張りま~す……。…………怒られない程度に」
絵里が割とお節介焼きならば、希はとてもお節介焼きだと、そう言っても良いだろう。何せ、タロットカードを見せて、穂乃果達に『これから大変になるから頑張ってね~』とエールを送るほど。
明日からμ'sの練習も始まる。それまでにちゃんと業務が出来るように、穂乃果達も気合いを入れなくてはならない。
あと、オタクライフもより一層気合いを入れて、満喫しなければならない、と思穂はむしろそっち方面に気合いを入れた――。
◆ ◆ ◆
「だ~れ~も~い~な~い、部室で~やる~ネットサーフィンは~最っ高だなぁ~はっはっは!」
アイドル研究部の部室で思穂は物凄い速さでタイピングとマウス操作をしていた。この時間は誰も居ないし、今日は練習もない。電気代を掛けずにパソコンを弄られる何と幸福な事か。
生徒会業務も一区切り付き、各々自由な時間を過ごしていた。穂乃果が寝てしまい海未が彼女を怒ったり、書類の記入欄を一つ間違えて海未に怒られたり、書類の山を崩して海未が怒ったり……穂乃果は実に良く怒られていた。
海未にバレないように雑件を片付けていくのは何とも骨が折れる作業であった。もちろん重要な書類は穂乃果に任せている。海未の言うとおり、こういうのまでやってしまったら彼女に成長はないからだ。
そんな事を思いながら、思穂は次のサイトへのリンクをクリック――。
「思穂ー!!!」
「ほわっちゃー!?」
突然のアクシデント。しかし思穂は神掛かった超反応でウィンドウを閉じた。まさに神速のインパルス。
途端、雪崩れ込むようにμ'sメンバーが入ってきた。皆、等しく焦りの表情を浮かべていた。……否、穂乃果以外だ。
「思穂! あるのよ! また、あるのよ!」
「ちょ、にこちゃん落ち着いて! え、というか皆どうしたの!? 何があったの!?」
「思穂ちゃん! ちょっとパソコン貸して!!」
花陽の異様な剣幕に圧され、即刻思穂は席を譲った。すぐに席に座るや否や、思穂をも超えんばかりの速度でとあるキーワードでの検索を実行した。
そのキーワードを見て、思穂は目を丸くした。
「え……?」
「もう一度――ラブライブがあるんだよ思穂ちゃん!!」
その言葉に、皆が興奮冷めやらぬと言った様子で頷いた。その後、全員がテーブルに着くと、花陽が説明を始める。
要約すると、こうである。A-RISEと大会の成功で終えたラブライブの第二回大会が早くも決まった。しかも前回を上回る規模で、今回はネット配信やライブビューイングまであるとのこと。更に、今回はランキング制ではなく各地で予選が行われ各地区の代表になったチームが本選へ進めるこという事。
これが意味する所とはつまり――。
「へえ、つまり歯を食いしばれよ
「何を言っているか分からないけど、これはまさにアイドル戦国時代! 下剋上!! 予選のパフォーマンス次第では本大会に出場できるんです!!」
その花陽の言葉に、皆の士気が一気に高まった。以前の人気投票でのランキング形式では不利感が否めなかったが、今回はあくまで自分達のパフォーマンスが全て。恨みつらみの無い良い方式だと、思穂は思った。
――だが、そうなるということはつまり、絶対に越えねばならない壁が出現したということで。
「でも、待って……地区予選があるっていう事は……私達、A-RISEとぶつかるってことじゃない……?」
「あ、絵里ちゃん気づいたんだね」
その言葉で一気に盛り下がってしまったメンバー。スクールアイドルの頂点と真っ向対決しなければならないという絶望に打ちひしがれてしまったようだ。
凛にいたっては全員の別地区転校を提案する始末。もちろん海未に一刀両断されてしまったが。
「確かにA-RISEとぶつかるのは苦しいですが、だからと言って諦めるの早いと思います」
「そうね、やる前から諦めていたら何も始められないわ」
「絵里ちゃんの言うとおりだと思うよ~。エントリーは自由だし、さい――。もしかしたら、もしかするかもしれないしさ! やってみようよ!」
絵里の後押しをするように続いた思穂の言葉に、皆の士気が再び回復してきた。
ラブライブ出場、盛りに盛り上がった空気の中、一人だけ雰囲気が違う者がいた。
「ぷはぁ~」
その者は呑気に茶を啜り、ほっこりしている。そんな彼女へ皆からの視線が集中する。一拍間を置き、彼女は言い放つ。
「――出なくても、良いんじゃない?」
そう言って笑う穂乃果。一瞬何を言っているのか分からない皆。飲み込み、理解して――どよめいた。まるで違う誰かを見ているような、そんな感じである。
代表して、海未がもう一度訪ねると、穂乃果も再び同じことを口にする。
「ラブライブ、出なくても良いと思う!」
皆が呆気に取られる中――思穂だけが目を細めて、穂乃果をジッと見つめていた――。
◆ ◆ ◆
「ふぅむ……」
翌日、思穂は考え事をしながら生徒会室へ向かっていた。
――ラブライブ、出なくても良いんじゃない?
そう、言ってから後が大変だったのだ。にこが振り付けの確認に使う姿見を持ち出して、他のメンバーが穂乃果を囲み、鏡の中の自分に問いかけさせてみた事もある。はたまた穂乃果がいきなり寄り道していこうと提案してみたり、なんていうこともあった。
中でも一番驚きが絵里がプリクラの存在を知らなかったことにある。絵里が随分と『ハラショー』と言ったものだ。ハラショーのバーゲンセールである。
その夜は穂乃果以外のメンバーと通話のやり取りと来た。色々話した結果、やっぱりラブライブに出たいという結論で片付いた。その会話の中で、思穂は一言二言しか意見を出さなかった。――皆には悪いが、思穂だけは穂乃果の心の奥底に燻っているモノに気づいていた。
当然、その中で口には出さなかった。穂乃果にとって、これはそう簡単に拭い去れないものであったから。
「うんしょ……うんしょ……」
「あ、穂乃果ちゃん」
「思穂ちゃん、やっほ~」
「重そうだね、どれどれ私が手伝うよ」
キングサイズのファイルの束を抱え、穂乃果が歩いて来た。すぐに思穂は半ばひったくるようにそのファイルを持った。体力お化けの思穂にとって、この程度の量は片手でも十分に持てるものであった。
「あ、ありがとう思穂ちゃん……」
「昨日からお悩みだよね~」
思穂は穂乃果と並んで歩くなり、そんな事を言った。穂乃果は予想していたように、表情を曇らせる。
「あはは……。やっぱり、思穂ちゃんも出た方が良いと思う?」
「――ううん。私は穂乃果ちゃんの納得いく方で良いと思ってる。出ても、出なくても」
その言葉は意外だったのか、穂乃果が思穂へと顔を向けた。
「どうして……?」
「あっはっは。私は全てを知る者、思穂ちゃんだよ。……とまあ、そんな冗談は置いておいて」
思穂は続けた。
「……でも、これだけは覚えておいて?」
「なぁに?」
「やりたいことをやりたいと言っても、皆の迷惑になんか絶対ならないから。皆が協力する、私も――今度こそは本当に協力するから。だからさ、穂乃果ちゃんは思うままを思うように決めてね!」
「思穂、ちゃん……」
「私もまあ、穂乃果ちゃんに近いことをやったクチだから、分かってるよ。私が分かるなら当然海未ちゃんやことりちゃんも……ね?」
穂乃果が返す前に、にこが走り寄ってきた。
「穂乃果……勝負よ!」
有無を言わせぬ迫力で、にこは穂乃果へ勝負を申し込んだ。近いうちこうなることを予想していた思穂は、自分の想像以上であったにこの行動力に改めて感服することとなった――。
「良い! これから二人でこの石段を競争よ!」
ジャージ姿になった穂乃果とにこ、その勝負を見守りに来た他のメンバーと思穂は神田明神へ来ていた。
下では穂乃果とにこが並んで、それぞれストレッチをしている。
「思穂、これは……」
「避けられない戦いがあるってことだね! う~ん……まさにロック!」
「……随分と面白がっているのね思穂」
妙に棘っとした言葉が真姫から投げかけられたが、思穂にとって、これはそんなふざけた勝負で無いことは誰よりも理解していた。
「……ううん。にこちゃん達三年生のこれからを左右する戦いだよ? 面白い訳ないよ。ただ、こうでもしないと怖い顔になっちゃいそうで」
その言葉で、色々と勘付いた真姫が小さく謝罪の言葉を口にした。
そう、これは比喩表現抜きで三年生の一生の後悔となるかならないかの分岐点であったのだ。
穂乃果とにこがスタートの姿勢を取る。クラウチングスタートの姿勢だ。
「良い? 行くわよ?」
「うん……」
にこがスタートの合図を発声するようだ。……思穂に、一抹の不安が過ぎった。まさか、いやこんな真面目な勝負で……。そんなドロッとした不安だ。
「よ~い――ドン!」
「え、ええっ!?」
思穂の不安はまさか的中してしまった。今時、小学生でも使わないスタートの早出しを高校生にもなって何のためらいも無く使うにこの面の皮の厚さに、思穂は別の意味で尊敬し直した。……マイナスの意味で。
スタートダッシュの差か、にこが先頭をキープしていた。穂乃果がその差を埋めるように、懸命に手足を振るう。
ゴールももう目前。あともうちょっとで、と言うところでアクシデントは起きた。
「っ……!?」
にこが石段に足を引っ掛けて転倒してしまった。すぐさま思穂が向かおうとすると、穂乃果が平手を突き出してそれを遮った。どうやらバランスを崩しただけで、全くの無事のようだ。
にこがゆっくりと立ち上がる。
「もう、ズルするからだよ~」
「……うるさいわね。ズルでも何でも良いのよ。ラブライブに出られればね!」
彼女の心の涙、とでも例えればいいのだろうか。ぽつぽつと雨が降り始めてきた。
勝負は中止。穂乃果たちは一時、雨宿りをするために避難することにした。穂乃果とにこが制服に着替え終えると、絵里が“話”をし出した。
三月になったら卒業すること、あと一緒にいられるのは半年、スクールアイドルでもいられるのも在学中、九人でラブライブに出られるのは――今回が最後になること。
絵里の口から出るのはどれも、避けられない事実、避けようもない事実であった。
「やっぱり、皆……」
「私達もそう。例え、予選で落ちちゃったとしても、私達が頑張った足跡を残したい!」
花陽の言葉が一年生の総意であったようで、凛と真姫が賛同した。
続けて、ことりが穂乃果の意思に従う旨を表明した。どこまでも穂乃果に付いて行こうとすることりらしい言葉である。
「また自分のせいで、また皆に迷惑を掛けてしまうと、心配しているんでしょう?」
やはり、と思穂は内心小さな笑みを浮かべた。海未だからこそ、と言った方が良いのかもしれない。
彼女が言ったことはそのまま思穂が思っていたことで。
「ラブライブに夢中になって、周りが見えなくなって、生徒会長として学校の皆に迷惑を掛けるようなことがあってはならないと」
「……あはは、全部お見通しなんだね」
そう言って、穂乃果は胸の内を吐露する。
スクールアイドルを始めたばかりは何も考えずに突っ走ることが出来た、しかし今は何をやったらいいのか分からなくなる時がある。そして、一度は夢見た舞台だからやっぱり出たい、と言うことも。
「生徒会長やりながらだから、また皆に迷惑掛けちゃうかもだけど、ほんとは物凄く出たいよ!」
ようやく聞けた穂乃果の“本音”。
それを受けた皆の言葉は、既に決まっていた。そして、その返答の代わりに、皆は歌を紡ぐ。
それは始まりの歌、自らの持つ可能性を信じ、決して後ろを振り向くことをしない者へのエールの歌。その歌を噛み締め、穂乃果は雨空の下へ走り出した。
思いっきり深呼吸した後、穂乃果は叫んだ。
「雨、止めー!!!」
すると、何と摩訶不思議か。雨の勢いが徐々に失せ、やがて――雲間に太陽の光が差し込んだ。
穂乃果は天候を操る能力者だったのか、なんていう二次元的な妄想をしながらもその光を一身に浴びている彼女から目を離せない。
「本当に止んだ! 人間その気になれば何だって出来るよ! ラブライブに出るだけじゃもったいない! この皆で出せる最高の結果――優勝を目指そう!!」
その言葉に皆は戸惑い半分、ワクワク半分と言った様子だ。あの自信満々なにこを以てして『大きく出たわね』と言わせる始末。
もちろん思穂にとっては――ワクワク十割であった。
「ラブライブのあの大きな会場で精いっぱい歌って、私達……一番になろう!!!」
ちょっとした紆余曲折があった。些細なぶつかり合いもあった。だが、今の穂乃果は――穂乃果達にはもう何も遮るものはない。
夢の階段は再び姿を見せ、彼女達を待ち構えている。険しいだろう、楽ではないだろう、だがそれでも彼女達は笑って駆け上がる。
彼女達の姿を見た思穂には、そんな確信があった――。