ラブライブ!~オタク女子と九人の女神の奮闘記~【完結】   作:鍵のすけ

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第十六話 繋いで紡いだモノ

「――新曲?」

「そう、新曲よ!!」

 

 ラブライブの最終予選に向けて、μ'sにはそんな気運が高まっていた。来たるべきA-RISEとの決戦に何を歌うか。切り出したのは絵里からだった。

 

「歌える曲は一曲だから、大事に決めたいわね」

「あーなるほど、それで新曲……か。予選でも新曲のみ! って厳しい条件だったし、ここでも新曲でやると中々インパクトがあると思うかも!」

 

 事情を理解した思穂は“新曲を作る”という選択肢を推すことにした。控え目に見ても、これだけポンポンと新曲を作れるグループはそうはない。これは確実に大きな武器となるし、また、この九人の表現力を考えるならばもっと色々なジャンルに手を出せるはずである。

 ――そんな時、希が口にした言葉でμ'sの流れが変わった。

 

「例えばやけど……このメンバーでラブソングを歌ってみたらどうやろ?」

 

 ――ラブソング。その言葉にいち早く反応したのは花陽であった。そして始まる花陽の演説。久しぶりに見た花陽の“熱さ”に少しばかり面食らいながらも思穂はうんうんと相槌を打つ。

 ひとしきり花陽が語ったところで、穂乃果が首をかしげた。その浮かんだ疑問符の内容は、恐らく思穂と同じ意見だろう。

 

「そういえば……どうして、今までラブソングは無かったんだろう?」

「それは~……」

 

 ことりの視線がとある人物へ向いた。作詞、作曲、振り付け。曲を作るにはこの三つの要素が欠かせない。その中の一つが致命的に欠如していたのだ。

 思穂は何気なしに呟いた。

 

「作詞って重要だよね」

「……私ですか!?」

 

 海未は海未で自覚が無かったようで、その驚きは思穂の目から見て笑いを漏らしてしまうレベルであった。そんな海未へ希がほんの少しだけからかったように言う。

 

「だって海未ちゃん、恋愛経験ないんやろ?」

 

 まさにそれであった。ラブソングとは恋愛の歌。何はともあれ歌詞は恋をする者の目線に立って書かなければラブソング足りえない。

 ――そんないじらしい経験、海未にはあるはずがなく。

 

「な、なんで決めつけるのですか!?」

「あるの!?」

「あるのっ!?」

「ほわっちゃー!?」

 

 穂乃果、ことり、そして思穂も海未を囲い込んだ。彼女の答え次第では思穂は全力を尽くさなければならない。あの園田海未に恋愛経験があるということはつまり、片桐思穂がゲームを一時間しかやらないというくらい有り得なくて。

 三人が海未を問い詰め、更に他のメンバーも海未を問い詰めだした頃。先に折れたのは海未であった。がっくりと膝をつき、目じりにはうっすらと涙を浮かべて、実に悔しげに認めた。

 

「――ありません」

 

 海未の言葉にホッと一息を吐く一同。皆も似た様なものではないか、と自分含めそう思いながらも思穂はそっと海未の側にしゃがみ込み、肩に手を置いた。穂乃果は逆側にしゃがみ込んでいた。

 

「まあ生きていれば良い事あるよ」

「し、思穂も穂乃果も何なんですか!? 大体、皆も同じでしょう!!」

「ぎゃ、ギャルゲーでキュンキュンはしているんだけど……な!」

「……にしても、今から新曲なんて無理じゃない?」

 

 決して真姫が意地悪を言っているのではないと言う事は皆分かっていた。現実的な思考でモノを言える真姫がそう言うということは割とその提案に懐疑的な感情を抱いているのだろう。

 普通ならばそのままお流れになるか、それに近い雰囲気になる空気。その空気を切り裂いたのは意外にも絵里であった。

 

「でも、諦めるのはまだ早いんじゃない?」

 

 思穂は思わず絵里を見てしまった。むしろ絵里ならば真姫の言うとおりだと肯定する方だと思っていただけに、その発言は本気で意外であった。

 ――何かある。そう察した思穂はとりあえず絵里の発言を後押しすることを選択した。

 

「そうだよ! 作詞は妄想だよ! 海未ちゃん得意でしょもうそっ!? 痛っ!!」

 

 全てを言う前に海未からの鉄拳制裁を頭のてっぺんにもらっていた。細身の腕からは信じられない程の痛み。トンカチで思い切り殴りつけられたような感覚である。

 

「し……思穂がいけないんです!」

「最近海未ちゃん段々攻撃が鋭くなっているよね……」

「でも妄想って言っても海未ちゃんだけだったら限界があるんじゃないかにゃ?」

 

 良く聞けば相当酷いことを言っているが、凛の愛嬌がそれを見事に打ち消していた。言っている人間が人間なら拳を交えての死闘を繰り広げていただろう。

 しかし、このまま手をこまねいていても時間を無駄にするだけ。その膠着状態から脱却するべく、皆は話し合いをし、一つの策を打ち出した。。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「――好きだ! 愛してる! ……あ~ん! こんなんじゃないよね~!」

 

 部屋で穂乃果の棒読み感がだいぶ来ている“台詞”を聞きながら、思穂は“資料”をいくつか漁っていた。今現在、μ'sメンバーは思穂の家に来ていた。ここならばいくら騒いでも誰にも迷惑にならない。

 そんな空間で、今皆は恋愛の何たるかを知るための勉強会を開始していた。ひとまず穂乃果が思いつきで告白の演技をしてみることにしたらしい。結果はご覧の通り、全く参考にならない。

 

「ラブソングは結局好きって気持ちをどう表現するか、だから素直な穂乃果にはちょっとね……」

「だったら恋愛映画でも見てみない?」

「お、ことりちゃんナイスアイディア! ……の前に、手刀!」

「ラブアロッ!?」

 

 後々の展開が見えていた思穂は、すぐさま海未を気絶させ、椅子に座らせ、グルグルと縄で身体を固定する。その異様な光景につい花陽が何でそんなことをするのか聞いてしまった。

 

「これ? 多分、海未ちゃん絶対そういうシーンあったらテレビ消そうとするからね~あっはっはっ」

「最近思穂ちゃんが暴力に訴え過ぎな気がするにゃ」

 

 聞き流しつつ、思穂は準備を終え、ことりが持ってきた恋愛映画を再生した。内容は良くあるものだった。

 だが、感動するものは感動するので、皆は既にハンカチをしっかり握りしめていた。

 

「はっ……!? 私は、何を……? ってこれは何ですかー!? 思穂ー!! 貴方ですねー!?」

 

 海未が目覚め、バタバタと手足を動かすもロープワークの達人たる思穂が本気で結べば彼女でも解くのは容易では無い。

 

「あ、海未ちゃんシーっ!! 今、良いとこだから!」

「良いとこ……? はっ!」

 

 そう、恋愛映画と言えばラブでキュンなシーンである。そしてそれは現在流れているこの映画にも当てはまるところで。

 今は男と女が向き合っているシーンである。互いが顔に熱を帯び、女の方はそっと目を閉じた。男はそれを見ると、徐々に顔を近づけていく。

 

「ひ……ひぃ~……!!」

 

 その光景をまざまざと見せつけられていた海未の顔がもう発火するのではないかというレベルで赤くなり、目も焦点が合ってない。

 皆は皆でそのシーンに黄色い声を上げており、心もとなそうに肩を寄せ合っている。穂乃果と凛に至っては完全に熟睡してしまっているが、思穂にはこの純粋な二人を起こす覚悟は無かった。

 そうしている間にもとうとうそのシーンが終わり、皆がドギマギとしているのを尻目に、思穂は海未の方へ視線をやった。さっきから一言も喋っていないのだ。もしかしたら怒りに打ち震えているのかもしれない。

 だが、とっくの昔に気絶している海未を見て、ある意味ホッとしたのは未来永劫誰にも話すことはないだろう――。

 

「――もう諦めた方が良いんじゃない!?」

 

 中々上手くいかない現状に絵里がもう一度案を考えてみようと提案した話題に対しての真姫の反応である。真姫は言った。これ以上は時間が勿体ないと。振り付けも作曲も諸々、このままだとただ完成度が低くなるばかりだと。

 その言葉に海未も同調した。ラブソングにも頼らなくても自分達には自分達の歌があると。

 

「で、でも――」

「確かに皆の言う通りや。今までの曲に全力を注いで頑張ろっ!」

「でも希……」

「ええんや。一番大切なのはμ'sやろ?」

 

 違和感を――覚えた。これを見逃すのは何故だかとてもいけないことのような気がして。以前のことりの一件に通ずるような感覚を受けた思穂は誰にも気づかれない様に表情を引き締めていた。

 そんなやり取りがあった後、すぐにこの作戦会議はお開きとなった。

 希と絵里が並んで帰っていくのを眺めていた思穂はほんの少しためらないながらも、一歩前へ出た。

 

「希ちゃん、絵里ちゃん!」

「ん? どうしたん思穂ちゃん?」

「今日、さ。一緒に帰っても良い? ……じゃ、ないね」

 

 首を振って、思穂は言葉を引っ込めた。そんな遠回りな言葉、思穂には似合わない。やるなら直球勝負。

 

「そろそろ、隠さないで話してくれると嬉しいだけどな」

 

 あの合宿の早朝。砂浜で結成したのだ『めんどくさい同盟』を。そして、それにはもう一人含まれていて。思穂は後ろを向かずにその者の名を呼んだ。

 

「ね、真姫ちゃんもそう思わない?」

「……何で、分かったのよ」

「勘って奴だね。それはともかく、真姫ちゃんも言いたい事、あるんでしょ?」

 

 そう思穂に促された真姫は、一度頷き、希の方を向いた。

 

「前に私に言ったわよね? めんどくさい人間って。――自分の方がよっぽどめんどくさいじゃない!」

 

 一刀両断であった。それと同時に、真姫が今回の件で相当に本気だと言うことが今の一言で窺えた。これほど真っ直ぐに相手と向き合おうとする真姫の真剣な表情を見て、隣に立っていた絵里が肩をすくめた。

 

「気が合うわね。同意見よ」

「エリチ……」

「ねえ希、ちょっと家へお邪魔して良いかしら?」

 

 思穂が、真姫が、絵里が、希から拒否権を奪う。これ以上はもう逃がさないと、そういう意思が込められた目である。

 その視線たちを一身に受け、希はとうとう――観念した。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「はろー希ちゃんの家」

 

 希の後に続いて、絵里と真姫、そして思穂が奥へ入った。一人暮らしの割にはこまめに掃除をしているようで、どこを見ても埃一つ見当たらない。

 早速希がお茶を入れるための湯を沸かし始めた。

 その後ろ姿へ真姫は問いかけた。

 

「一人暮らし……なの?」

「うん」

 

 そう前置き、希は語り始めた。以前、二人で買い物に行ったときに少しだけしか聞いていなかったので、思穂も彼女の言葉に耳を澄ませる。

 ――東條希とはずっと一人ぼっちだったのだ。

 小学生のころから両親の仕事の都合で転校ばかりで友達がいなかった希。最初は頑張った。精一杯仲良くして、それでどこの学校に行っても友達が出来るんだという自信を付けたかった。だけど――その意志の強さは年相応にか弱かった。

 いつももう少し、という所で転校が決まって友達に“なりかけ”の子達に何となく見送られる日々。子供心ながらに希は疲れてしまっていたのだ。――そして傷ついていた。

 こんな思いをするなら、友達なんていらない。むしろ、その思いすら摩耗していった。道路に引きずられる土袋のように、引きずれば引きずる程、中の土が零れ、そして軽くなっていく。そう、東條希は擦り切れて行ったのだ。

 

「そこで出会ったのがエリちなんよ」

 

 分かり合える相手なんて夢想するだけ時間の無駄。そんな時に出会えたのだ。

 自分を大切にするあまり、周りと距離を置いて、上手く溶け込めない。――自分にズルが出来ない。まるで自分と同じような人に。思いは人一倍強く、不器用な分、周りとぶつかる。そんな相手に。

 

「その後は色んな子に出会えたんよ」

 

 同じ思いを持つ人がいるのにどうしても手を取り合えなくて、真姫のように熱い思いを持て余す子がいたり、どうつながっていいのかが分からない。そんな子達が沢山。そんな時、現れたのだ。――大きな力で繋いでくれる存在が。

 残したかったのだ。思いを同じくする者がいて、繋げてくれる者がいる。必ず形にしたかったのだ。

 

「そして思穂ちゃんにも出会えた」

「私も……?」

「うん。初めて見た時はウチと真逆の子やと思ってた。やけど、色々思穂ちゃんと触れ合ってきて、実はウチと似ているんだってことに気づけた。そんな思穂ちゃんに、このμ'sを更に輝かせてもらいたかったの」

 

 そこで、絵里が言った。心底呆れたように、心底優しく。

 

「そんな希の夢だったのよ。九人皆で曲を作りたいって。ラブソングが作りたいんじゃないの。一人一人の言葉を紡いで、想いを紡いで、全員で作り上げた曲、そんな曲でラブライブに出たい。それが――」

「――そうか、だから希ちゃんと絵里ちゃんは……」

「ええ。上手く、行かなかったけどね」

「……夢なんて大それたものやないの。ただ……曲じゃなくても良い、十人が集まって力を合わせて何かを生み出さればそれでよかったんよ。だって――」

 

 この十人は奇跡で、一番の夢はとっくに――。

 

「……だからこの話はお終い。それでええやろ?」

「……っはあぁ」

 

 思わず思穂は大きくため息をついてしまった。ついシミ一つ無い真っ白な天井を見上げて、というオマケつき。正直、思穂は少しばかり怒っていた。どうしてこんなことを今まで黙っていたのだろうか。

 ブーメランだ、とは自覚しているがそれでも言わざるを得ない。達観した精神と、年相応の心。これが奇跡的なバランスで積み上がったのが東條希と言う人間の本質なのだ。

 

(――ああ、そうだよね。こんな表情を見せられて奇跡を体感させない訳には――いかないよね)

 

 その奇跡は既に思穂自身が体感しているところである。なれば、その奇跡を紡ぐのも思穂以外に他ならない。

 それにはたった今、目が合い、微笑み合った絵里と真姫の協力も絶対必要であり。

 

「さーこの話をオシマイにしたい人は手を挙げてー」

 

 互いが互いに含み笑いを投げかける。それでもう回答は示された。あとのやることは決まっている。

 それぞれ何も言うでもなく携帯を取り出すと、希がぎょっとした。これから三人がやろうとしていることを察したようなそんな表情だ。

「まさか、皆をここに集めるの?」

「え、他に何をすると思ったのさ希ちゃん!」

「良いでしょ。一度くらい皆を招待しても。――友達、なんだから」

 

 

 珍しく素直なその真姫の微笑に思穂は少しばかりほっこりしてしまったのはここだけの秘密――。

 

「ええ!? やっぱり作るの!?」

「もち! 私達にはやっぱりラブソングしかありえないよ!」

「思穂の言う通りよ。皆で作るのよ」

 

 これはちょっとしたプレゼントなのだ。μ'sからμ'sを作ってくれた女神様へ。真姫と絵里と、そして思穂はその方法を説明した。

 

「皆で言葉を出し合って……かぁ」

「まあ、一人一単語ならすんなり行くでしょって感じだね!」

 

 すると、花陽が何かに気づいたようだ。思穂もそちらの方へ向くと、丁度それが見えた。皆で映っている集合写真だ。皆、とても楽しそうな表情で写真に収まっていた。

 だが、希によって写真が一瞬で掠め取られ、胸に抱えられた。それを見たにこがからかった。

 

「そういうの飾ってるなんて意外ね」

「べ、別にいいでしょっ。……友達、なんやから」

 

 ドッキュンと、それはハートのど真ん中を希に射抜かれてしまった。ほんの少しだけ頬を朱に染めながら言うのだから更に思穂はトキメいてしまった。

 それは思穂だけの感想ではなく。皆もその希の愛らしさについ飛びついてしまっていた。

 

「もう! 笑わないでよ!」

「おお~希ちゃんの珍しい標準語だぁー!!!」

「し、思穂ちゃんうるさい!!」

 

 あまりにも唐突な事態だったので、希がつい“標準語”を使ったという超激レアな瞬間。脊髄反射で携帯の録音機能を起動していた思穂は有能と自信を褒め称えた。

 次の瞬間、穂乃果が何かに気づいたようで外を指さした。

 

「あ! 見てー!! 雪だー!」

 

 外に出ると、そこは粉雪が舞い落ちていた。初雪だ。それはまるで天が示し合せたかのように、彼女達を待っていたようにも見える。

 皆が輪になっている所を思穂が遠巻きに見つめる。別に遠慮とかそう言う水臭いものではない。ただ――それが一番絵になるからだ。

 そんな九人の元に雪が一欠け舞い落ちる。すると、穂乃果達の口からまるで心の奥底から引っ張り出されたように、己の深層に眠っていたであろう言葉が形になる。

 

 ――『想い』、『メロディ』、『予感』、『不思議』、『未来』、『ときめき』、『空』、『気持ち』、そして『好き』。

 

 九人が雪と月明かりに照らされてキラキラと輝いていた。その光はどこまでも思穂の目に眩しく焼き付き、九人の残影がまぶたの裏にこびり付く。そんな九人を見て、思穂も自ずと言葉が出ていた。

 個々の持つ光を一つの束にし、更なる大きな光へと変わっていく様を端的に、そして己の語彙力で表現するのならこの言葉しかなかった。

 

「――Halation」

 

 写真の像で、強い光の当たった部分の周囲が白くぼやける現象、異なる表現をするのなら光暈。思穂は心底眩しそうに目を細めた。

 ああ、彼女達は何て眩しいのだ、眩しくて――眩暈を起こしそうだった。 

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