ラブライブ!~オタク女子と九人の女神の奮闘記~【完結】   作:鍵のすけ

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第十七話 心、そして音楽

「う~ん……たまにゲームをせずに早く寝るとこうだもんなぁ」

 

 実に目覚めが良かった、良すぎた。

 何せ――今日はラブライブ最終予選。気合いが入って思わず目覚めてしまうのも必然と言えた。そしてもう一つ、学校説明会という大事なイベントがあった。

 

「思穂ちゃーん!!」

「あ、穂乃果ちゃん! おっはー!」

 

 窓から外を見下ろすと、穂乃果と海未、そしてことりが手を振っていた。わざわざ迎えに来てくれたことに胸を熱くしながら、思穂は全力で着替えを済ませ、シソの葉を一齧りして、外へ飛び出した。

 三人の間に入れてもらい、しばらく歩き続けると思穂はとりあえず鉄板の話題で仕掛けることにした。

 

「いやぁ寒いねぇ! 海未ちゃんの脚か、ことりちゃんのふくよかな胸であったまりたいきぶ――。痛っ! 海未ちゃん痛いんですけど!」

「私だけならともかくことりまで巻き込むのは止めなさい!」

「アレ思穂ちゃん!? 私は!?」

「穂乃果ちゃん? んー……」

 

 思穂は穂乃果の上から下までねぶるように見やった。そして思穂はゆっくりと首を横に振った。それはもう、手遅れの患者に事実を伝えるような厳かさで。

 

「来世頑張ろっ?」

「ひどい! 海未ちゃん、今思穂ちゃん私に酷いこと言ったよ!?」

「だ、だって……ねぇ? 海未ちゃんのように足が抜群に魅力的でも無ければ、ことりちゃんのようにふくよかでもないし……ねぇ? あ、中途半端に良いとこどりって考えればそれはそれで良いかも!」

「うわぁ~ん!! 今日の挨拶サボりたくなってきたよー!!」

 

 海未にしがみつき、おいおいと咽び泣く穂乃果。だが、思穂は静かに合唱をするだけで済ます。一切の妥協を許さない女、思穂はこと自分に嘘を吐くことなど有り得ない。

 だが、穂乃果にもちゃんと良い所はある。そのお尻だ。慰め程度にお尻を一撫ですると、また海未に一撃貰った。

 

「ったぁ!?」

「だからセクハラを止めなさいって私言いましたよね!?」

「う、海未ちぁゃん……? 暴力は~……」

 

 やはり、そこで仲裁してくれることりは天使。思穂は改めてそう思い、とりあえず万感の思いを込めて頭を下げておいた。ことりの困り顔が最近、とてもグッと来ている。そんな思穂であった。

 

「思穂、事前にお願いしていましたが、今日は――」

「うん。ちゃんと絵里ちゃん達の面倒は見るから!」

 

 思穂は今回、学校説明会の手伝いはしない。それ以上にやるべきことを与えられたから。

 

「それよりもさ、まあ確率は低いと思うけど、今日吹雪くみたいだねー」

「ええっ!? だ、大丈夫かなぁ……?」

「大丈夫だよことりちゃん、だって思穂ちゃんがいるし!」

「ほわっちゃ? 私?」

 

 穂乃果の言葉に海未も同意したかのように頷いた。

 まるでその意味が分からず、思穂が聞き返すと、穂乃果が笑顔と共に言った。

 

「だって思穂ちゃん、私達が困っていると必ず来てくれるからね!」

「……な、ななな!? 何それー!? 意味わかんないよー穂乃果ちゃん!」

 

 その言葉がとても、嬉しくて。思わず顔がニヤケそうになったので、皆から顔を背けて、思穂は赤くなった顔をひた隠す。

 ――だけど、言うことは言っておいた。

 

「約束するよ! 私、穂乃果ちゃん達がどこで困っていても、必ず駆けつけるから! だって私は友達だからね!」

 

 それは誓いの言葉。貧弱な語彙だが、その分強靭な、思穂なりの最上級の“約束”だった――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「――はい、ということでこちらがラブライブ最終予選会場となります」

「こ、ここが……!」

 

 思穂の後に付いて来ていたメンバー達がその会場を目の当たりにし、驚いたのか誰も口を開くことはなかった。

 皆の反応は予測済みだった。というより、自分も最初は目を疑った。何故ならば今まで経験したことの無いほどの大きなステージであったのだ。

 何を隠そう、ここはラブライブ最終予選のステージ。

 雪の結晶を思わせる装飾で構成され、何重にも設置されたアーチ。ところどころに照明が設置されている所を見る辺り、開始時間に点灯した時の美しさは語るまでも無いだろう。

 ――完全に呑まれているか。そう不安に思いながらも思穂はあえておちゃらけた。

 

「いやぁ~気合入るねぇ」

「……ら、ラブライブの最終予選なんだから、気合いが入らない方がおかしいわよ……!」

「にこちゃん足震えてるよー」

「うっさい!」

 

 絵里の方を見てみると、耳に携帯を当てていた。恐らく穂乃果に電話でもしているのだろう。これは事前にしておいた方が呑まれなくて済むかもしれない。

 凄い人の数になりそうだ、と思った。それだけこの最終予選の重要度がハッキリ伝わってきて。

 

「ところで思穂、本当に良いの?」

「うん。穂乃果ちゃん達が大丈夫って言ったんだから大丈夫だよ」

 

 会場の隣にある建物の中を案内しながら、思穂はそう言った。元より手伝うつもりでいたが、穂乃果に『絵里ちゃん達と居てあげて!』と言われてしまっては居ない訳にはいかない。

 既に穂乃果達は自分が手を出さなくても十分に生徒会業務を遂行できている。過度な手出しはもうしないつもりでいる思穂は穂乃果の言葉に甘えた。

 

「――こんにちはμ'sの皆さん、そして思穂」

 

 曲がり角からA-RISEが現れた。にこが脊髄反射的に居住まいを正そうとするも、真姫に叱責された。そうだ、すでにA-RISEとμ'sは“ライバル”なのだ。ヘコヘコする道理はない。

 英玲奈が皆を一瞥し、首をかしげた。

 

「高坂穂乃果、園田海未、そして南ことりがいないようだが……?」

「少しばかり野暮用で遅れています。ですが、必ず来ますよ穂乃果ちゃん達は」

 

 思穂の言葉に、頷いたツバサは満足したようにμ'sを横切った。去り際に一言。

 

「穂乃果さん達に伝えておいて。互いにベストを尽くしましょうって」

「当然。そうじゃなければ確実に勝てませんから」

「楽しみにしてるわ。そして、私達は……絶対に負けない」

 

 互いに譲れないものがある。それは見る者が見れば『そんな将来に関係ない事で……』とせせら笑うのかもしれないそんな意地。だけど、それに命を懸けている者達もいる。

 そんな三人と真っ向からぶつかるためにはやはり九人いなければ意味がなく。

 

(穂乃果ちゃん達……早く来てよ~?)

 

 ――だが、事態は思わぬ方向に転がることとなった。主に、悪い方向でだ。

 

「――天気予報見て何となく嫌な予感はしていたけどさ……!」

 

 吹雪。天気予報は芳しくなかったのは知っていたが、荒れる確率は低かったので、特に気にしていなかった結果がこれである。

 ざっと調べてみたら交通機関は一時的に麻痺してしまい、恐らく穂乃果達は身動きを取れないはず。――いや、今穂乃果と連絡を取っていた絵里が首を横に振った。恐らく、完全に交通手段が断たれてしまったのだろう。

 後の選択肢は『走ってくる』。これだけだ。

 

「……良し」

 

 しかし、そんな選択肢を選ばせる思穂では無い。

 

「思穂ちゃん、どうするつもりなんや!?」

「迎えに行く」

 

 すると、真姫と花陽と凛が思穂の前に立ち塞がった。その目は酷く不安げで。

 

「迎えに行くって、どうするつもりなのよ?」

「あ、危ないよ……」

「そうにゃ! こんなに天気悪くなって来たんだよ? 収まるまで待とう?」

 

 皆が何も意地悪で言っているのではないことは良く理解していた。確かに風も雪も強くなり、出歩くのは危険と言えるのは明白。

 ――そんなこと、百も承知だ。

 

「うん……だからこそ、行くよ。ただぼんやりと間に合う“かも”を待つより、私は間に“合わせる”を選ぶ。……こんなこともあろうかと準備はしているしね」

 

 そう言って、思穂は皆を引き連れ、駐輪所までやって来た。そこには自転車とリアカーが組み合わされた思穂専用機が停められていた。

 こんなこともあろうかと、思穂があらかじめ用意しておいたものである。“万が一”を考慮しておいて、本当に良かったと思いながら、思穂はサドルにまたがり、ハンドルを握る。

 ペダルに足を掛けたところで、思穂は更に言った。

 

「絵里ちゃん達、約束するよ。必ず穂乃果ちゃん達を連れてくる!」

 

 思穂は満面の笑みで言い切った。約束し、言い聞かせるように。

 

「――だって、私はμ'sのスーパーマネージャーだからね!」

 

 風となった。脇目もふらず、全力でペダルを回す思穂。自転車道に入り、更にスピードを上げる思穂。トロトロ走っている車は瞬きしている間に遥か彼方へ置き去る。

 吐息が凍りそうだ。ゲームがゲームならこれで全体攻撃が出来るだろう。しかし、今の思穂はそんなゲームキャラでは無い。

 ――韋駄天。

 全ての景色がスローモーションに見える。自分だけが動いているようなそんな時が止まった世界。今、思穂は世界で一番速かった。

 

「……ん?」

 

 違和感を感じた。道が、綺麗すぎるのだ。まるで、誰かが雪かきしているような。

 

「――思穂ちゃーん!!」

「ヒデコちゃん!? それにフミコちゃんにミカちゃんまで……!?」

 

 遠くから、穂乃果の友達であるヒデコ、フミコ、ミカの三人が手を振っていた。それだけではない、辺りを見回すと、どれも知った顔ばかり。

 

「思穂ちゃんなら絶対穂乃果ちゃん達を迎えに来ると思ったから! 雪かいておいたよー!!」

「ありがとうミカちゃん!」

 

 優しさが。

 

「まだ時間はあるから! 気を付けろー!」

「フミコちゃんも風邪引かないでね!」

 

 思いやりが。

 

「気を付けて全速力だ思穂ー!!」

「言ってること矛盾しているけど承った!!」

 

 頑張れが、思穂に降り注ぐ。

 見ると、オトノキの生徒達が一丸となってウイニングロードを作っていたのだ。誰一人辛そうな顔を見せず、ただ一生懸命に雪をかいてくれていた。

 胸が、熱くなる。思わず思穂は内ポケットに仕込んでいたカイロを投げ捨てていた。こんなものがあれば余計に遅くなる。

 

 ――第一、こんな最高のエールを受けて間に合わない馬鹿がどこにいる!?

 

 

「イナーシャルなんちゃらー!!!」

 

 必着の絶意を示すように、思穂は次の曲がり角を睨み付け、アクションを起こす。

 バイクレースで選手がカーブをするときのように、思穂は自転車を限界まで地面に傾け、ドリフトをかましたのだ。後ろのリアカーが吹き飛びそうになるが、思穂の天才的なバランス感覚でその衝撃を見事に抑え込む。

 今の思穂に怖いものはない。そして、ゴールが見えた。だが、次の瞬間には一気に吹雪が強まり、視界が真っ白に。これは三人とも出て来れないのではないか。そう思っていた思穂だったが、それは杞憂だったと思い知らされる。

 ――それでも、声が聞こえたのだ。

 

「――あきらめちゃ、駄目!」

「――そう、です! やりたいんです! 私も、誰よりも! ラブライブに出たい! 九人で、最高の結果を出したいのです!!」

「うん……行こう! ラブライブに出るために……!!」

 

 ことりが、海未が、穂乃果が、まだ微塵も諦めていないのだ。来て良かったと、心の底から思穂はそう思えたのだ。

 自転車を止め、思穂は三人の前に降り立った。その姿を確認するなり、穂乃果達の顔が緩んだ。

 

「思穂……ちゃん?」

「どうして思穂ちゃんここに……?」

「そ、そうです! それにその自転車、まさかここまで……」

 

 言葉が溢れだしそうになる三人を手で制す思穂。その先を言われたら思穂は恥ずかしさで死にたくなるすらある。何せ、こんなことは自己満足だ。

 だから、三人に言ってほしい言葉はたったの一つ。思穂は親指でリアカーを指しながら、問いかけた。

 

「奇遇だね、ちょっとドライブしてたら三人に会っちゃった。でもまあ、丁度いいや! ――乗っていくかい?」

 

 顔を見合わせ、三人は少し笑っていた。何か馬鹿にされている気がして思穂は唇を尖らせるが、それでも三人は笑顔でこう言った――。

 

『よろしくお願いします!!』

 

 片桐自転車便は全力で疾走した。その道中、オトノキの全校生徒が穂乃果達へ激励を送り、三人とも涙をにじませながら皆へ手を振り返していた。

 そんな中、思穂は全力で自転車を漕いでいた。警察に見つかったらアウトもアウト。その時点で全てが終わる。念のため、穂乃果達が吹き飛ばない様にロープで固定をしたりなど安全面には最上の配慮を配っているが、それでも客観的に見たらアウト。

 冬ならではの寒さなのか、冷や汗なのか、どちらともつかないまま、思穂は無心でペダルを漕ぎ続けた――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 九人がステージの上に立つと、声援が皆に向けられる。誰か一人では無く、全員に。その想いを一身に受け、そして穂乃果が言った。

 

「みなさんこんにちは! これから歌う曲はこの日に向けて、新しく作った曲です! 沢山の“ありがとう”を込めて、曲にしました! だからこれは――皆で作った歌です!!」

 

 そんな様子を、思穂は観客席の良く見える所から見守っていた。全力を出し過ぎて足がパンパンである。筋肉痛不可避な状況でもなお、思穂は目の前の九人から決して目を離さない。

 応援してくれた人、助けてくれた人、様々な人が頑張ってくれたから、μ'sはここにいた。誰か一人がいなくなってもダメなのだ。ここまでくる過程で関わって来た人たち一人が欠けたら、今こうして彼女達はステージに立つことはなかったのかもしれない。

 

「――聞いてください!!」

 

 思穂は良く見える位置で腕を組み、ただ彼女達を見据えていた。

 

(泣いても笑っても良い。ただ……やりきって!)

 

 学校が大好きで、音楽が大好きで、アイドルが大好きで、踊るのが大好きで、メンバーが大好きで、この毎日が大好きで、頑張るのが大好きで、歌うことが大好きで、μ'sが――大好きだから。

 ――『Snow halation』。

 

(歌えば良いんだよ穂乃果ちゃん達。勝ちも負けも引き分けも無い、ただその喉から迸る感情をただ形にすれば良いんだ。そうすればきっと……!)

 

 始まる。全ての人達の想いを形にした歌が。ありがとう、それだけを言うためだけに作られた至高のラブソングが。

 その結果を、思穂は最後まで見届ける――。

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