ラブライブ!~オタク女子と九人の女神の奮闘記~【完結】   作:鍵のすけ

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しばらく更新してなかったですね、お久しぶりです。


第十九話 決めたこと!

「やあみんな! 待たせたね!」

「何でそんな悪びれていないのですか!?」

「あれー!?」

 

 やって来るなり海未に一喝されてしまった思穂は驚きを隠しきれず、そうコメントをしてしまった。たったの三十分しか遅れていないのに、彼女は全く意味が分からないでいた。

 すると、穂乃果が彼女へ困り顔のつもりの、可愛らしい顔を向けてきた。うっかり撫で回したくなる。

 

「あれ? みんな暑くないの?」

 

 みんな寒さ対策万全の中、彼女だけが秋服のような中途半端な厚さの服を着ていた。正直、半袖短パンのセットでも歩き回れる彼女である。

 日頃パジャマ一枚で凍えるような寒い部屋や灼熱地獄のような暑い部屋でゲームをしている彼女にとって、こんな気温なんてただのポカポカ陽気に過ぎない。

 そんな彼女を見る皆は正直に言って、ドン引いていた。そんな視線に当然気づいていたが、あえて受け入れた彼女。彼女が穂乃果の元へ駆け寄ると、彼女は仕切り直したように腕を突き上げた。

 

「よ~し! 遊ぶぞ~!!」

「そう、それよ。いきなり日曜に呼びつけてどうしたの?」

 

 すかさず絵里が突っ込むと、にこと希がうんうん頷いた。

 思穂はちらりと周りを見ると、一年生組、二年生組がすぐに穂乃果の援護射撃を開始した。彼女には特段、違和感を感じることはなかった。

 ――そうではなくては、ならないからだ。

 

(あー皆も考えは纏まっているんだねぇ……)

 

 思穂は唐突極まりない穂乃果の『遊びの提案』の裏を知っていた。

 ――話はつい先日に遡る。

 雪穂と亜里沙が音ノ木坂に合格した。穂乃果達と思穂の戦いが実を結んだ確かな証拠といえるこのめでたい出来事。……同時に、避けては通れない出来事も思穂達μ'sにはやって来た訳で。

 新一年生が入ってくる、ということはそのまま今の三年生が巣立つということ。

 ――ならば、このμ'sはどうなる?

 ラブライブ本選を前に、とうとう皆はこの見て見ぬふりをしてきた事実にようやく向き合い始めた。いや、向きあう覚悟を決めたといったほうが正しかったのかもしれない。

 

「はぁ……まあ、分かったわ。それで、どこへ行くの穂乃果?」

「皆の行きたいところに行こうよ! それで、今日は思いっきり遊ぼう!」

 

 そんな穂乃果の提案に呆れながらも乗り気になってきたにこを見て、思穂はその勢いに便乗する。

 

「遊び倒すよ! ぶっ倒れるくらい遊ぼう! それで本選へのやる気を高めようぜい!」

 

 『しゅっぱーつ!』と穂乃果と肩を組んで出発の発声をした。三年生組も徐々に乗り気になってきたのか、その表情は柔らかいものになっていた。

 

(あぁ、やっぱり最後に何かが待ち受けているものほどチクりとくるものはないなぁ……)

 

 皆と最初の目的地へ移動しながら、思穂はそんなことを考えていた。

 これは言わば思穂にとって、いやもしかしたらμ'sにとってのデスマーチと比喩して何ら差し支えないのかもしれない。だけど、思穂はそれを態度にも、言葉にも出さずただ歩くことを選択した。

 既に選択肢は決まっていて、皆にその選択肢を変える気はさらさら無いときた。ならば、最後まで笑って過ごすのが、このメンバーである。

 そんな気持ちを察せられるのが嫌で、思穂は少しだけ皆を押して目的地へと急がせた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「さあ、まずは割と誰かが言うと思っていたゲームセンターからだよ!」

「ここは以前、にこがμ'sに入ってすぐにセンターを決めるために来たことがありますね」

 

 海未が少しばかり懐かしげに頬を緩めたのを見て、首を傾げる希。

 

「そうなん? って、にこっちが入りたてやからウチやエリちが知らないのも当然か……」

「なんで希が寂しそうな顔してんのよ」

「だって三年生でにこっちだけにしからない思い出があるってちょっと悲しくない?」

「分かったから! 分かったからくっつかない!」

 

 希がにこにひっついているのを眺めて本気で羨ましい、むしろあの間に入りたいと思いながら、思穂は早速絵里の手を掴んだ。

 

「へっ!? どうしたの思穂?」

「見るからにゲームセンター初心者であろう絵里ちゃんに色々伝授しようと思ってね!」

「おお! 思穂ちゃん、凛にも教えて欲しいにゃー!」

「よっしゃ! このゲームセンターしほが凛ちゃんと絵里ちゃんにゲーセンの何たるかを叩き込んであげるよー!」

 

 ある意味、思穂の心の故郷であるゲームセンター。彼女は非常に生き生きとした表情で絵里を連れ、太鼓を叩くゲーム『太鼓の神様』の元までやってきた。文字通りリズムに合わせて太鼓を叩いてハイスコアを叩き出すゲームだ。

 まごつく絵里にバチを握らせ、彼女の後ろに回る。

 

「え? え? 思穂、これどうすれば良いの!?」

「えっとね、そこの丸に赤い丸が来たら面を叩いて、青い丸が来たら縁を叩くの! 簡単でしょ!?」

「こ、こう?」

 

 おっかなびっくりと言った様子だが、持ち前のリズム感で危なげなく太鼓を叩いていく絵里の姿に、思穂は天才の姿を見てしまい、正直嫉妬してしまったぐらいだ。

 才能って本当にあるんだ、そんなことを考えながら、彼女は絵里が一曲を終えるまで眺めていた。

 

「ふう……やってみると、中々面白いわね。しかも、太鼓を叩くのってなんだか良いストレス発散になりそうね」

「でしょうでしょう? いやぁやっぱり絵里ちゃんは可能性の獣だったね! ワンプレイで完全に慣れちゃってまあまあまあ!」

 

 そこからの絵里は見ていて非常に微笑ましかった。近くで観戦していた凛を巻き込んで二人プレイを始めたのだ。凛は凛で初めてプレイするようで四苦八苦していたが、それでも中盤あたりになると、μ'sの活動で鍛えらえれたリズム感で何の問題もなく叩き切ったのは素直に称賛できた。

 二人とも白熱したのか、額にうっすらと汗を浮かべていた。

 

「しっほちゃーん! 絵里ちゃん、凛ちゃーん! エアホッケーやろうよ!」

 

 そう言いながら穂乃果が三人を呼んだ。既に海未やことり達が台の近くに集まっていた。エアホッケー、その言葉を聞いた瞬間、思穂は決戦が来たことを察した。さながら心境は桶狭間の戦い、といったところ。

 ……正直、彼女は自分で何を言っているのか分からなかった。

 

「ほわっちゃ! ならまず私は希ちゃんを対戦相手に指名したいね!」

「え、ウチ?」

「そうだよ! 忘れたとは言わせないよ! 希ちゃんにはここで私のプライドをズタズタにしたんだからね!」

「そんなこと……ああ~……」

 

 そこで希は思い出した。同時にとある単語が脳裏をよぎる。その名は『マルオカート』。豪運を発揮し、思穂を地獄へと叩きこんだ悪魔のゲームである。

 

「思い出したね! なら勝負だ! 有無は言わさないよー!」

「なら私は希の方に付こうかしら」

「おお、絵里ちがいてくれたら百人力や!」

「じゃあ、思穂にはこのにこにーが付いてあげるわ」

「げ、にこちゃんか」

「どういう意味よ!」

 

 こうして思穂とにこ、希と絵里によるエアホッケー対決が始まることとなった。この勝負は反射神経と動体視力が全て。

 これならば勝機は十二分にある、と思穂は確固たる称賛を持っていた。彼女は必勝の意思を込め、とりあえずにこの頭を撫でておいた、叩かれた。痛む背中に耐えつつ、思穂はマレットに手を添える。

 

「にこちゃん、大丈夫だよね? 私、信じてるからね?」

「ふっふーん、任せなさい。たまにこころ達とやってるから得意なんだから」

「よっしゃ、信用してるよにこちゃん!」

 

 パックは思穂側。一打一点を目標とし、思穂は初打を放つ。カコン、と小気味いい音を発しながら、パックは壁に当たり、希サイドへ滑っていく。なんの危なげもなく返したパックが今度はにこの方へ。まだまだ余裕とばかりににこはさらりと打ち返した。

 

「絵里ち!」

「追えてるわ大丈夫!」

 

 絵里が返したパックは鋭角に反射し、再び思穂たちへ向かってくる。フェイントを織り交ぜつつ、すぐさま思穂は打ち返す。その軌道は絵里と希の間を縫うように。

 

「あっ」

 

 テニスのダブルスでもそうだが、ふいに真ん中へ打たれると、互いがお見合いをしてしまう。取り決めでもしていればまだ対応できるが、いきなりの試合にその事前準備をしておけという方が難しいといえよう。

 まずは思穂チームの一点先取。この差を維持しつつ、タイムアップまで戦えれば勝利は間違いない。思穂はにこの方を見る。プレイ経験があるらしい彼女の動きは安心してみられる。これならば、行ける。

 

「へえ、やるもんね四人とも」

「真姫ちゃんはやったことある? エアホッケー」

 

 四人のプレイを眺めていた真姫に花陽がそう聞いた。そうね、と彼女は答える。

 

「ないわね、ていうかそもそもこういう所にあんまり来ないし」

 

 μ'sの活動をしていなかったらもしかしたらこの先も来ることはなかったのかもしれない、と口にはしなかったが彼女はそう思えた。未知なる世界、未知なる出来事、改めて思うと、今の自分はだいぶ変わったのだと彼女は自分をそう分析する。

 そんなことを考えていると、彼女の肩へ凛がしがみついてきた。

 

「じゃあじゃあ~思穂ちゃん達が終わったら次は凛とやろ~!」

「な、なら私も……」

 

 凛の提案に花陽も乗ってくる。花陽も花陽で、ちょっとだけエアホッケーをやってみたかったのだ。

 右肩には凛、左には花陽。両手に花状態の真姫はわずかに顔を赤くしながらも、それを悟られぬよう少しだけ語気を強めた。

 

「わ、分かったわよ! やってやろうじゃない! やるからには私が勝つんだから!」

 

 そんな和気あいあいとしている一年生組を優しく見守っていたのは海未とことりである。

 

「海未ちゃんはここに来たの久しぶり?」

「はい。真姫ではありませんが、私も穂乃果に引っ張られない限りはこういう所に来ることはまずないので……」

「楽しいよね、皆で遊ぶのって」

「ええ……本当に。だからこそ、私は……いいえ、私たちは話し合いました」

 

 海未の言葉に、僅かに表情を曇らせることり。彼女も海未と同じである。この時間が楽しい、この九人で何かをやる時間がとても、だ。だからこそ、皆は――。

 そこまで思ったところで、海未は試合が終わり、泣き崩れる思穂へと視線を向けた。

 

「どうしたんですか思穂? 何を泣いて――」

「だって! おかしいって! 希ちゃんが打つときだけありえないぐらいエグイ反射かかってるんだけど! こんなの絶対おかしいよ! スピリチュアルってるってほんと! うわああああん!!」

「いつまで泣いてんのよあんた……」

 

 号泣している思穂に冷ややかな視線を送るのはにこである。彼女としては良い勝負以上の良い勝負をしたと思っているので特に不満もなかった。むしろよくこれほどハイレベルな試合が出来たと感動し、清々しい気持ちになっているほどだ。

 そんな思穂に対していたたまれない気持ちを抱いているのは希も同じであった。

 

「あ、あの~思穂ちゃ――」

「何、希ちゃん!? 勝者の余裕!? うわあああん!! 希ちゃんに勝負を仕掛けたのがそもそもの間違いだったのかぁ! えっぐいよぉ! そりゃないよー! うわあああん!!」

「ダメや、思穂ちゃんはあまりのショックで壊れてしまってる……!」

 

 勝負には常に真剣に。それが思穂にとっての正義であり全て。そのうえでここまでボロボロにされたのが彼女は悔しいという言葉以外にどう表現したらいいか分からなかった。

 結局、凛たちが試合を終え、次の場所に行くまで思穂が希に勝負を持ちかけてはコテンパンにされ続けるという負の連鎖が続いてしまったのはまた別の話。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「おぉ……また良い眺めだこりゃあ」

 

 色んなところを練り歩いた。美術館や遊園地、はたまたアヒルボートに乗ったりなど、穂乃果が言った通り、本当に皆の行きたいところへ行って、たくさん遊んだのだ。

 時刻は夕方に差し掛かる。あとは言い出しっぺである穂乃果の行きたいところへ行ったら、全員の行きたいところへ行ったことになる。

 そんな大トリの穂乃果が選択したのは――誰もいない、海が見えるところ。誰もいない、自分たちだけしかいない景色が見たいと、彼女は言った。

 その発言で三年生以外が全てを察することとなる。

 電車で向かう道中、思穂は穂乃果へこう聞いた。『迷いはない?』、思穂の質問に悲しげに、だけど迷いがないといった面持ちで彼女はしっかりと首を縦に振った。そんな彼女を見て、思穂はただ微笑むだけであった。

 

「……私はね、穂乃果ちゃん」

 

 皆が波打ち際で戯れているのを眺めている穂乃果の隣に立ち、思穂は独り言のように呟く。他の皆にはちょっとだけ話しづらい、そんな心情の吐露。

 

「マネージャーとはいえ、ステージに上がったことのない私にとって、本当の意味でステージを共にする皆と気持ちを一緒にすることはできないと思うの」

「そんなこと……」

「ううん。私は皆と練習を一緒にしたことはないから百パーセント苦楽を分かち合えないの。そういう物なんだ」

 

 でも、と彼女は穂乃果へ微笑みかける。それは電車で見せた笑みと一緒だった。

 

「私はこの時間が本当に楽しいし、大事だと思えている。だからこそ穂乃果ちゃん――よろしくお願いします」

「――うん!」

 

 思穂と穂乃果の周りに自然と皆が集まって、これまた自然に手を繋いだ。合宿の時を思わせる、だけど今度はまた違う感情が込められていて。ならばこそ、皆が握り合う手にどこか力強さを感じさせるのもまた必然と言えよう。

 

「……あのね」

 

 穂乃果が一瞬だけ言葉を詰まらせる。だが彼女はすぐに二の次を紡ぐ。

 

「あのね、私たち話したの。あれから、七人で集まって色々と。絵里ちゃんや希ちゃん、にこちゃんが卒業したらμ'sをどうするか」

「穂乃果……」

 

 絵里が小さく穂乃果の名を呼んだ。これからどんな言葉が出てくるのか、察したような声色であった。

 

「一人一人で答えを出したの。そしたらね、皆一緒だった同じ答えだった! ……だからそうしようって、決めたの」

 

 そうして穂乃果が言葉にしようと口を開くが、心の中で感情が高ぶり、それを上手く発音できず、一旦顔をそむけてしまった。思穂は穂乃果の手を握る手に一層の力を込める。勇気をあげられるように。

 思いが通じたのか、穂乃果――穂乃果“達”は今度こそ、その言葉を口にする。

 

 

 ――大会が終わったら、μ'sはおしまいにします!

 

 

 静寂が、訪れた。波打つ音だけが十人の鼓膜に響く。この言葉を、決意を何度も何度も反芻するように。

 やがて、絵里がそれを受け入れたように頷く、希もだ。彼女達を見て、にこは思わず二人の名を呼んだ。認めたくない、受け入れたくないと、そんな縋るような気持ちで。

 皆はこう言った。このメンバーじゃなきゃ駄目と、このメンバーが良いと。誰かがいなくなって、誰かが入ってきたらそれはもう、自分達がかけがえのない想いと共に駆け抜けた『μ's』じゃなくなってしまうのだと。

 ――そんなの、当たり前のことだった。

 

「分かってるわよ! そんなこと! でも、だけど、だって!」

 

 にこが一歩前に出て、自分の気持ちをありのままぶちまける。

 

「私がどんな思いでスクールアイドルをやってきたか、分かるでしょ? 三年生になって、諦めかけていたとき、こんな奇跡に巡り合えたのよ!? こんな素晴らしいアイドルに、“仲間”に巡り合えたのよ!? それを――」

「だからアイドルは続けるわよ!!」

 

 真姫が彼女の前へ飛び出した。

 

「何があっても続けるわよ! でも、μ'sは! μ'sだけは自分達だけのものにしていきたいのよ! ――にこちゃん達がいないμ'sなんて嫌なの、私が嫌なのっ!!」

 

 そこで、彼女はとうとう我慢の限界を超えてしまった。止めようと思っても、彼女の眼からはどんどん涙が溢れ出してしまう。そんな彼女を見て、花陽が、凛が、堪え切れなくなってしまう。

 

「――ほわっちゃー!!」

 

 あえて思穂はピエロとなった。大きな声を出し、大げさに時計を見て、こう告げる。

 

「あー! 時間だ! もう時間だ! 電車が出る時間だよ! みんな早く行こっ! もう行かなきゃ間に合わないなーこれは!!」

 

 ぐいぐいと、皆を押しながら思穂はそう言う。この瞬間だけは世界中の誰からも疎まれても喜んでそれを受け入れる。

 やらざるを得なかった。何せ――。

 

(穂乃果ちゃん、頑張ったしね)

 

 穂乃果と目が合った時には既に彼女は瞳に涙が滲んでいたのだから。ここまで頑張らせておいて、その努力をなかったことになんて、誰が出来ようか。少なくとも、思穂だけはそんな彼女の努力を最後までサポートしたかった。

 皆を押して、思穂たちは電車乗り場までやってくると、絵里が“そのこと”に気付いた。

 

「これ、まだまだ先じゃない」

「あーこれはやっちゃったー間違えちゃったなー。ごめんね、穂乃果ちゃん。まだ、居たかったでしょ?」

 

 そう問うと、穂乃果はゆっくりと首を横に振った。

 

「ううん! あのままいると、皆泣いちゃいそうだったし、ありがとう思穂ちゃん!」

「……うん!」

 

 途端、穂乃果が何かを思いついたように手を叩いた。

 

「そうだ! 記念に写真撮ろうよ!」

「写真、ですか?」

「そうだよ海未ちゃん! 私達だけの写真、撮ろうよ!」

 

 そう言って穂乃果が写真を撮る機械として選んだのはあろうことに証明写真撮影用の機械であった。まさか、と思ったが、彼女はそのまさかを押し通す。

 

「うわーこれは中々乙なものがあるなぁ~……!」

 

 筐体の中にはすし詰めにされた九人と思穂がいた。何度も言うが、現在使用しようとしているのは証明写真撮影用の機械である。当然それは一人での撮影を大前提としており、まさか機械自身も自らがこんな使われ方をするなんて夢にも思わなかっただろう。

 窮屈な空間ながらも思穂は少しばかり嬉しかった。残り少ない時間の中で沢山の思い出を。

 

「……私はさ、やっぱりマネージャーで、それで皆と一緒にステージに立てないから羨ましいなぁって思うことがあるんだ」

 

 誰かが何か喋ろうとしたが、思穂はそれを遮るように少しだけ声を大きくした。

 

「でもね、私は私の立場だからこそ、こうして皆とここにいるんだなぁってそう思えるんだ」

 

 だから彼女はシャッターが切られる直前、ありったけの笑顔でこう言った。

 

 

「だから――皆が大好きだ私は!」

 

 

 これから始まるのは彼女たちの最後の舞台。夢を追いかけ続けてきた彼女たちの総決算。その先に“終わり”が提示されてもなお、彼女たちは全力の疾走を続けるであろう。

 思穂は最後の最後まで目を離すつもりはなかった。これだけが彼女に許された贅沢といっても過言ではないのだから。

 

 ――終わりの時間が肩を叩く。

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