ラブライブ!~オタク女子と九人の女神の奮闘記~【完結】 作:鍵のすけ
三分、されど三分!
何て事の無いある日。思穂は何気なく呟いた。
「三分間って割と長いよね」
「分かる! 凛はカップラーメンを食べるときにそう思うよ!」
部室では思穂と凛の二人きりであった。まだ誰も来ない部室で、思穂が呟いた一言でこの話は始まりを迎える。
「大体、何でラーメンを食べるのに三分も待たなきゃならないのかが分からないよ! 凛はすぐにラーメンを食べたいのに!」
「うんうん分かる分かる! 私もフリーゲームをダウンロードする時に強くそう思うよ! 何でこんなダウンロード遅いんや! って感じでさ! これは西の名探偵もご立腹だよ!」
「……凛はたまに思穂ちゃんが何を言っているのかが良く分からなくなる時があるにゃ」
いまいちピンとこない様子であった。思穂はその内、凛にもこの果てしのないオタク道に引きずり込まなければと再び決意を新たにする。
そう言えば、と思穂は凛をじっと見る。思えば、凛とこうして二人きりになる時間は今までになかった。
「とまあ若干小馬鹿にされてしまっているだろうから、ここで私が一つ! その三分間の理由を教えてあげよう!」
「えっ本当!?」
「もちっ! ということでまずはこのカップラーメンを見て頂こうかな」
そう言って思穂は鞄からカップラーメンを取り出した。ふたを開けてお湯を注いで、三分間待つだけのオーソドックスな代物だ。それを思穂は机の上にそっと置く。
「……え、どうして思穂ちゃんカップ麺持ってるの?」
「ん? 今日のラッキーアイテムがカップ麺だったからだよ? もしかして星座占いとか信じないタイプ?」
「じゃあお昼ご飯って何食べたの? お弁当?」
「シソの葉だよ。最近は塩漬けで細々と食べるのが乙な食べ方だと気づかされたね」
「え……それを変だと思う凛がおかしいの? 何か凛が悪者みたいで嫌だよー!」
逆にどうしてラッキーアイテムを食すのかが思穂には理解できなかった。それにシソの葉も中々悪くはない。食べれば口の中がスッキリする。
「まあ、凛ちゃんもお年頃だからね。そういう些細なことに気を取られるのも良く分かるから! だから、ね? 難しく考えない方が良いよ?」
「って、それじゃ益々凛がおかしいみたいだから! 思穂ちゃん、その優しい目は止めて!」
「全く……凛ちゃんはたまにはしゃぎすぎることがあるから思穂ちゃん困っちゃうよー!」
凛の抗議をさらりと受け流し、思穂はカップラーメンを指さした。
「それでね、どうして三分間待たなきゃならないかっていう話に戻るんだけど……。あれ、凛ちゃんどうしたの?」
「……凛、思穂ちゃんの事嫌いになりそうだにゃ」
「ええっ!? ご、ごめん! それだけは嫌だよー! ドゥアメドゥアメドゥアメー!」
「最後何でにこちゃんの声真似をしたのか分からないよ……。むー……もう、良いよ。それで何でカップ麺は三分も待たなきゃならないの?」
その問いに答えるため、思穂は鞄から電波時計を取り出し、机の上に置いた。この時計はいつも勉強に使っている愛用の時計だ。それを置き、思穂はタイマーをセットした。時間は三分。
続いて、思穂は保温ボトルを取り出し、蓋を開けたカップ麺へお湯を注いだ。まだあっつあっつである。
「さて、凛ちゃん。凛ちゃんはカップラーメンにお湯を入れた時、どうして時間を過ごしてる?」
「凛? 凛はう~ん……テレビとか観たり、漫画を読んで時間を潰すかな?」
「お、凛ちゃんもか。私もそう言う感じだよ! 美少女フィギュアを眺めているとあっという間に時間経っちゃっているんだよね!」
「美少女フィギュア……って何? 可愛い女の子のフィギュアってこと?」
頷き、思穂はスマートフォンに保存している自分のコレクションの画像を見せてあげた。瞬間、凛は顔を真っ赤にし、手をぶんぶんと思穂の前で振った。
「しっ……思穂ちゃんこれ何っ!? な、何かすごくえっちな感じなんだけど!?」
「いやぁ最近のフィギュアはすごいよ。造形と言い、衣装の露出具合と言い、全てが職人の心意気を感じるよね!」
「そ、そんな心意気嫌だにゃー!!」
「ちなみにこのフィギュア凄いんだよ、ほらここ。背中からお尻のラインが……」
「にゃああああ!! これ後ろほとんど裸だよぉー!!」
フィギュアの後姿を見せると、そのあまりの際どさに凛は完全にショートしてしまった。やり過ぎたと、思穂はそそくさとスマートフォンをポケットにしまった。
「う~ん……やっぱりこの宇宙一の殺し屋と呼ばれる身体の一部を自由な形に変えられる能力を持つ金髪美少女のフィギュアは見せない方が良かったのかな……。しかもこれ、覚醒バージョンだから衣装際どいし」
純情な凛には刺激が強すぎたらしい。今も顔が真っ赤である。思穂はチラリと時計を見る。残り、一分切った。
「思穂ちゃん……結構そういうの持ってるの?」
恐る恐ると言った様子で凛は聞いてきた。しかもチラチラと視線を外したり合わせたりと物凄い“乙女”をしていた。いつもならば、ここで思穂は更にセクハラ発言に精を出すのだが、今回はここまでで止めた。
(お、思った以上に純情だ凛ちゃん……! このままじゃ私、ただのセクハラ野郎……いや女郎じゃないか!)
なるべく穏便に、そして当たり障りのない言葉で思穂はフォローに入る。本当に嫌そうな反応をする者に、いつまでも嫌な話をするほど、片桐思穂は落ちぶれてはいなかった。
「それはすごいよ。もうすごいよ。凛ちゃんドン引くくらい持っているよ!」
「し……思穂ちゃんを見る目が変わりそうだにゃ……」
「げぇっ!? 墓穴!? ちょ、ごめ、それ嘘! 嘘だから!」
その瞬間、ポーンとタイマー音が鳴った。ここでようやく三分が経ったのだ。思穂はポケットから割り箸を取り出すと、カップラーメンごと凛へ差し出した。
「え? 思穂ちゃんは食べないの?」
「うん、凛ちゃんに食べて欲しくてね!」
「わぁ! ありがとう思穂ちゃん! 話していたら三分なんてあっという間なんだね!」
いそいそと割り箸を割り、手に持った凛へ、思穂は言った。
「そういうことなんだよ」
「……へ?」
ゆったりとした動作で、思穂は人差し指を立てた。
「一分なら短すぎるんだよ。何をするにも、ね。例えばちょっとお手洗いに行きたくなっても一分だったら良い具合に伸びて美味しくないでしょ? 漫画を読むのだってそう。たった数ページめくって終わり」
凛の反応を待たず、思穂は更に中指と薬指を立て、“三”を表した。
「だけど三分なら? 漫画も良い具合に読めるし、テレビもちょっと良い感じに見れる。そして、気の合う人がいれば程よくお話が出来る。一分ならあまりにもあっけないんだよ。かといって五分は長すぎる。――だから、その丁度良い時間が設定されたんだよ」
「確かに……。かよちんとカップ麺出来るの待っている時、いっつも丁度いい所でお話が終わるんだよね!」
「そういう事なんだよ。良く出来てるよね、ほんと。世界は本当に良く出来ている」
凛はその時、僅かに時間が止まったような気がした。窓の外を見て、そう言う思穂が何だかいつもより大人っぽいと、そう感じたのだ。……いや、違った。もっと近い存在――そう。
「思穂ちゃんって、何だかお姉ちゃんみたいだにゃー」
「ん? そう? そっか……そういうのも需要があるのか……。メモしなきゃ!」
「台無しだよー……」
いつもふざけているところを見すぎたせいなのだろう、と凛はそう結論付けた。だが、それで良いと思えた。たまにみるカッコいい思穂が、凛は割と好きなのだ。
「ほら凛ちゃん食べて食べて! 今日はピリ辛豚骨味だよ!」
「おおおー! 凛が大好きな豚骨味!? いっただきまーす!!」
「――すいません、遅れました。皆はもう揃って……」
その後の展開としては、極めて理不尽なモノだった。ラーメンに手を付けた瞬間、運悪く海未が入ってきてしまい、『練習前に何て物を食べているのですか!?』と大激怒。
凛が言い訳するよりも前に、思穂が部室を逃げ出したので、海未がそれを追い掛けて出て行ってしまった。
「思穂ちゃん、もしかしてワザと……」
一人になった部室の中で、凛は呟いた。明らかに、自分から気を逸らすために行動を起こしたのだ。空気を読んでいるのか、素なのか、海未もまず思穂を追いかけて行ったのが何よりの証拠。
「――いただきますっ!」
そんな面白い“お姉ちゃん”と今目の前に置かれているカップラーメンへ、凛は心の底からの“いただきます”を唱え、麺を啜り始める。味は当然――最高だった。