ラブライブ!~オタク女子と九人の女神の奮闘記~【完結】   作:鍵のすけ

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名前はまだ無い♪さんの作品「巻き込まれた図書委員」とのコラボ回第二弾です。


コラボ回 図書委員とオタク女子~その後~

「おじゃまします」

「お、おじゃま、します」

 

 この日、友実は友香を連れて片桐宅へやって来ていた。初めて訪ねることになる片桐宅を前にして、深呼吸を一つしてから、友実はインターホンを鳴らした。

 

「はい。……どちら様ですか?」

 

 出てきたのは思穂と瓜二つの女の子であった。口をへの字にしており、何だか近寄りがたい雰囲気である。

 だが友実は負けずに、用件を口にする。

 

「こ、こんにちは。えーと、思穂ちゃんいるかな?」

「姉さんですか? 失礼ですがお名前を教えて頂けますか?」

 

 ――姉?

 そんな小さな疑問を抱きつつ、友実は早速名乗った。

 

「あ、これは失礼。音ノ木坂学院三年生の東野友実です」

「わ、私は妹の友香です! 中学三年生です!」

 

 リラックスした様子の友実と、緊張した様子の友香を一瞥し、思穂にそっくりな女の子は用件を了承した。

 

「東野友実先輩と、東野友香さんですね。分かりました、今姉さんを――」

「その声を聞いた私が来ないとでも!?」

 

 ――の前に、思穂はやって来た。それはもう迅速に。どこぞの風の魔装機神を彷彿とさせる素早さであった。

 

「あ、思穂ちゃん久し振り~」

「お姉ちゃん! 変な人が階段の上から!」

「何か謂れのない暴言を受けた気がする!?」

「止めて姉さん、恥ずかしいわ」

「友香落ち着いて、大丈夫だから。確かに脚を眺める癖はあるけど、それを除けば良い人だから」

「う、うん……て脚!?」

 

 思わず飛び出た単語に驚く友香である。そんな彼女のリアクションを見た思穂は友香を指さした。

 

「良い脚は顔を見るだけで分かるものなんですよ。まあ、いずれ君にも分かる時が来るよ妹っぽい妹ちゃん! あ、こっちは片桐麻歩って言うからね! 私の従妹だよ」

「片桐麻歩です。姉さんがいつもお世話になっています」

 

 そうして思穂にそっくりな女の子――麻歩が頭を下げた。

 

「麻歩ちゃんね。オッケー覚えたよ」

「ど、どうも!妹の友香です! あの、麻歩さん。間違っていたら失礼なんですけど、以前『世界の難関校』って番組に出ていませんでしたか?」

「『世界の難関校』……。確かインタビューを受けた記憶があるような」

 

 あまりにも記憶が薄すぎて言われて思い出せたレベルである。余りにも平凡な事しか受け答えしていなかったような気がするのは内緒だ。

 

「すごいよねー麻歩。やっぱり私よりも出来が良いから」

「あのもし良かったら握手……いえ、サイン下さい!」

 

 そう言って友香は色紙をずいっと突きだした。

 

「ちょ、友香!? いつの間に色紙なんて用意したのさ!? それと思穂ちゃん人の事言えないからね!?」

「サイン……これでいいのかしら? あと、握手も? 変わっているわね貴方」

 

 色紙を受け取るなり、麻歩はさらっとサインを書き、そのまま友香と握手を交わした。

 麻歩的には何故自分ごときに、と疑問符で頭が一杯である。

 

「いえいえ! 私はずっと麻歩の方が凄いと思っていますから!」

「……姉さんの方がすごいのに」

 

 ボソリと呟いた一言。だがそれが思穂に届くことはないのを知っていた麻歩はひたすらもやっとする。

 

「あ、ありがとうございます!」

「……どっちもどっちみたいね。ほら、友香もいつまでもほうけてないの」

「あ、うん。てそうじゃなくて、お姉ちゃんはなんとも思わないの? 有名人だよ! 有名人!」

「友香が騒がしくてごめんね…」

 

 思穂はそれを笑って飛ばした。何より、全く気にしていないのだから。

 

「良いよ良いよ! でも有名人かぁ……その気持ち分かるよ友香ちゃん! 私だって声優さんの握手会行ったらめちゃくちゃ緊張するもん!」

「分かります!そうなんですよね! 緊張しちゃって、何か言おうにも頭が真っ白になっちゃって!」

「おお話せるね友香ちゃん! ほら、やっぱり麻歩もアニメ見るべきなんだよ!」

 

 いきなり話を振られ、麻歩は困惑しながらも顔をフイッと背け、玄関を指さした。

 

「……私は、良いわよ。それよりも、二人とも上がってください立ち話もなんですから」

「あ、どうもすいません。ほら友香も靴脱いで」

「うぅ…お姉ちゃんもやっぱりアニメを見るべきなんだぁ」

「いや、私もそれなりに見てる方でしょうに…」

「ほうら! やっぱり麻歩だけだよ見てないの!」

「良いでしょ、別に……。勉強で忙しいの」

「麻歩ちゃんって一日どのくらい勉強してるの?」

 

 何気なく友実がそう質問をすると、麻歩はしばし黙考した後に答えた。

 

「三時間ほど……ですね」

「さ、三時間……」

「友香も見習わないとね。今年受験生なんだから」

「お姉ちゃんだって受験生じゃん!」

「友香さんと友実先輩を笑っているけど姉さん? 姉さんはもっと勉強時間増やした方が良いと思う」

「オタクライフ最優先!!」

「だよね~。やっぱり勉強よりも趣味取っちゃうよね」

「お姉ちゃんの場合は特に酷いんだよ。家に帰っても基本読書じゃん!」

 

 そこで気になるのは友実の勉強時間である。思穂が手を挙げたあと、その事に触れた。

 

「友実先輩はどれくらい勉強するんですか?」

「んーと、試験前は二時間前後。平日は三~四十分?」

「に、二時間!? 死んでしまいますよそんなの!!」

「思穂ちゃんの場合は周りに被害が行くでしょうに!」

「周りに被害が出る勉強って一体……」

「姉さんは集中しすぎるから……。あ、どうぞ紅茶です」

 

 こうして駄弁っている間にも、麻歩は既に紅茶の準備を整えていた。人数分のカップを用意し、麻歩はそれぞれにそれを配った。

 

「あ、どうもありがとうございます」

「あ、ありがとうございます」

「さ、ゲーム――」

 

 思穂の言葉を麻歩は即刻遮った。

 

「先輩が来ているのにそれはないわよ姉さん」

「ゲ、ゲーム」

 

 同じくウズウズしている友香を友実は窘める。

 

「はいはい友香もやりたがらないの。迷惑でしょ」

「とりあえず勉強――」

「も、無いと思うよ私は!」

 

 この姉にしてこの妹アリと言わんばかりの発言である。思穂は早速麻歩の提案を取り下げさせた。

 

「普通にお喋りとかで良いんじゃない?この前みたいに、さ」

「えーただ話すだけー?」

「友香? 礼儀や遠慮ってものをそろそろ覚えようか」

 

 ニコリとそう笑う友実。その隣では麻歩も思穂へ釘を刺していた。

 

「姉さんもゲームしようだなんて言い出さないでね?」

「うっそぉ!?」

「見事に麻歩ちゃんに考え見抜かれてるね」

「ち、ちなみにその、ゲームは一体何をお持ちで……?」

 

 そんな友香の問いにたちまちテンションを挙げる思穂。まるで水を得た魚のようである。

 

「良くぞ聞いてくれたね! 皆で出来るやつなら、ス○ッシュ○ラザーズとかマリ○テニスとか、ゴールデンア○等など! 色んなの持っているよ!」

「もうこれはやるしかないですね!むしろ神様がやれと言っているようなものです!」

 

 思穂と友香が盛り上がっているのを他所に、麻歩は友実の方へ視線を向ける。

 

「……友実さんはどうですか?」

「どうしようね? まぁ、ああなった友香は止めるのに時間かかるから放置って手もありなんだよね」

 

 苦笑とともに口にした言葉は諦めに近い感情が込められていた。それを肯定と取った麻歩は小さく呟いた。

 

「私は……やっても良いわ、姉さん」

「うっそ! どういう風の吹き回し!?」

「お客の要望には出来うる限りこたえたいだけよ」

 

 そうなると友香も友実を説得しに掛かった。目をキラキラさせて。

 

「お姉ちゃんもやろう!」

「まぁ、迷惑にならないなら……」

「そう思ってもう準備は完了していたり!」

「こういう時は本当に早いのよね姉さん」

「私の方も既に準備は万端だよ!」

「……ねぇ麻歩ちゃん。もしかしてこの二人って結構似てる?」

 

 麻歩に近寄るなりそんなことを口にする友実。直ぐに麻歩はその言葉に頷いた。……ため息と共に。

 

「かなり似ていると思います。姉さんが二人いるような感じです」

「前に私も似てるって言われた事あるけど、こんな状態だったんだ……すまんよ海未」

「さぁさ!麻歩に友実先輩もコントローラーを持って! まずはス○ブラだよ!」

「お姉ちゃん早く早く!」

 

 二人して騒ぐあたり、本当に良く似ている。そう思いながら、友実は麻歩の方へ顔を向ける。

 

「はいはい。麻歩ちゃん取り敢えず行こっか」

「ええ。……久しぶりにやるわね」

「麻歩の言うとおりだね! ちなみに、お二人はどれくらいやるんですか?」

「私は最初のヤツから3Dのヤツまでコンプしてますよ!」

 

 そうなると相当やり込んでいるな、と思穂は思い、内心闘志を燃やす。そんな燃えている思穂に麻歩はチョップをかます。

 

「私はその横で偶に友香の相手をしてるくらい」

「その癖勝率は姉の方が上なんですよね……」

「結構やっているんですね……」

「私は麻歩と勝っては負けてだよね!」

 

 と言っても、相当な接戦である。しかも勝敗が決まる瞬間はいつも場外のタッチの差。

 そんな事を喋りながら、友実と友香は既にキャラを選び終えた。思穂はそのキャラを見て、二人の実力を垣間見る。

 

「じゃあ私はいつも使ってるこの黄色いネズミでやろっと」

「お姉ちゃんがそれを使うなら私はこの青い鳥で行くよ! 思穂さんと麻歩さんは何を使いますか?」

「私はもちろん超能力少年だよ!」

「私は……この長い剣を使う王子様にしておくわ」

 

 超能力少年、そのフレーズを聞いて、友香は震えた。何故ならあまり使うキャラは居ないのだから。言葉を悪くすればマニア向けである。

 

「ちょ、超能力少年だって……!?」

「そんなに凄いの?」

「凄いって言うか、あれは場外からの復活方法が難しいんだよ。まさかこんな所で使い手に会えるとは」

「……ダメだ話について行けない…」

「空中戦の決定力には未だ定評があるんだよ! やっていたゲームなんて大ファンだしね!」

「姉さんずっとそれ使っているものね」

 

 『母』。そのゲームは未だ思穂の心を掴んで離さない。そのゲームへの愛だけでこの少年を使い続けていると言っても過言ではないのだ。あと、空中戦が強い。

 

「しかし遠距離攻撃をリフレクターで跳ね返せるこの鳥なら!」

「そのリフレクター物理攻撃には効かないじゃない」

「ちなみに二人はどれくらい出来るの?」

「私と姉さんはネットでやっていたことがあるから退屈はさせません」

「私もネットではそれなりに勝ってはいますよ」

 

 友香も実はネットでならしていた一人である。電子の海を泳ぎ、幾多もの対戦相手としのぎを削って来た修羅の一人。

 そんな姉はまた違う方向で能力を見せていた。

 

「無限組手でそれなりの数は更新してるよ」

「お姉ちゃん。記録が四桁はそれなりじゃないと思うよ……」

「ネットやってたんだ! 私はsihosihoで、麻歩はmahomahoでやっていたからもしかしたら戦っていたかもしれないね!」

「sihosihoにmahomaho、ですか……むー多分戦った事ないと思うんですよね……あ、ちなみに私はyu-kaです」

 

 その名前を聞いて、麻歩はピンときた。その名前に記憶はある。余りにもチープすぎて麻歩の記憶の網に一発で引っかかった。

 

「……私、戦ったことあるかもしれない。それっぽい名前に、妙に腕の立つのがいた気がするわ」

「あーほらあの時のじゃない?」

「あの時って?」

 

 友香が首をかしげると、友実が更に続ける。

 

「友香少し前に通信した後清々しい表情した事あったじゃん」

「確かにそんな事あったけど……え! 私そんな表情してた!?」

「私はなーい! 羨ましーい!」

「これから戦うから良いじゃない……」

「そうだよ思穂ちゃん。そんな事言ったら私だって友香以外とやった事ないんだから」

「それはお姉ちゃんがネット対戦しないからでしょ」

 

 段々と会話の量が増えてきた。これではいつまでたっても始まらないので、思穂はさっさとスタートをすることにした。

 むしろいきなり不意打ちでもしてみようと思ったが、麻歩に殺されかねないのでただ思うだけ。

 

「ええい! とりあえずやってみよう! ほら、ゲームスタート!!」

「よっし、ここはもう戦場。上下関係は無しで行きますよ!」

「一人で勝手に行ってなよ」

「えい! この超能力少年のPSI、受けてみるが良い!」

「二人がどれくらいなのか……」

「甘いですよ! 思穂さん!」

「だから後ろガラ空きじゃない」

 

 リフレクターや頭突きなど、様々な必殺技や攻撃を織り交ぜながらも乱戦を続ける四人。その中でもやはり友実を除く三人の動きは熟練したソレである。

 

「お姉ちゃんひどーい!」

「丁寧に立ち回り、確実に剣先で捉える……」

「こっからは定石通りのSJからの空中前で稼ぐよ!」

「ふぉー! 炎を纏って生き返れぇ!」

「私はヒットアンドウェイで確実性を取って行くよ」

「流石友香さん、やるわね」

「このプレイスタイル……確かに前に一度戦った事ありますね。しかし負けませんよ!」

「あっはっはっは! 弱体化しているけど私の腕前ならー!」

「なんだろう。この、一人だけアウェイな空気は……違いはやり込み度なのかな?」

「友実さんもすごいですね。私が攻めあぐねている」

「麻歩さんスキあ、て、あー! 思穂さん不意打ちぃー!」

「次作ではリュカちゃんが来るけど私は変わらず超能力少年を使い続けるこの愛ー!」

「このネズミのアニメは珍しく初期から見てるんだ。愛で負けて堪るかー!」

「リーチと剣先の威力が高いから使いやすいのよね……」

「こっちは遠近それなりに使い分けられる上に、最近のはリフレクターを飛ばせますからね。負ける気はこれっぽっちも無いですよ!」

「と言ってる間にロケット頭突き!」

「このほかにはドクターなマ○オとか得意だけど、関係あるかー!」

「わ、私だってキツネも得意ですし!」

「こいつは何を張り合ってんだか……」

「私は、あとはオーソドックスなマ○オが得意ですね」

「私は作品繋がりで火のトカゲやピンク風船を使うくらいかな。でもやっぱりネズミが一番だね」

「お姉ちゃんだって張り合ってんじゃん!」

 

 対戦すること数分。そこにはさまざまなドラマがあり、そのドラマを乗り越えた先の結果は――全員が思いもよらない結果となった。

 

「やたー! 一位取ったどー!」

「うわああ! 負けた!」

「……まさか姉さんの空後と私のスマッシュがかち合うとは……」

「まぁ私がビリなのはプレイ時間からして順当って所かな」

「でもまあ、流石は友香ちゃんってところだね!」

「いやぁそれ程でもありますよ!」

「はいはいそうやってすぐ調子に乗るんだから」

「敗者の戯言かなって、痛い痛いお姉ちゃんごめんなさい!」

 

 友実が友香の頭をぐりぐりとする思穂にとって、実に微笑ましい光景である。麻歩に近づいたらチョップをされてしまった痛い。

 

「良い試合だったわ。流石は友香さん」

「ほ、ほらお姉ちゃん。二人とも褒めてくれてるんだから、少しは調子に乗っても良いんだよ!」

 

 涙目でそう言ってくる友香だが、姉としてここはしっかり言っておこう。そんな事を思いながら友実は口を開く。

 

「友香の場合は少しじゃないからこうして怒って止めてるんでしょうに」

「まほー!! のど乾いたよー!」

「はいはい。今お茶持ってくるわ」

「なんか麻歩ちゃんの方が姉みたいだね」

「う、うん。なんか穂乃果お姉ちゃんと雪穂の構図を思い出すよ」

「麻歩はすごいよー本当に一家に一人は欲しいよね」

「家電じゃないわ姉さん」

「一家に一人……」

 

 冷静に言い返す麻歩の近くでは自分の家に彼女がいる事を想像している友香がいた。

 そんな友香へ友実は現実に戻ってくるよう声を掛ける。

 

「友香も本気にしないの」

「ほんと何でもやってくれるからすごいよ麻歩はー」

「ん? 今何でもって?」

「なんだろう、激しい既視感が……」

「何でもはやらないです友実先輩、やれることだけです」

「え……て事は思穂ちゃんのセクハラにも耐えてるの?」

「それはすぐに叩きます」

 

 それは絶対に許さない麻歩である。今まで何度叩いて来たか分からない。

 

「あ、お仕置きまで決まってるんだ……」

「お姉ちゃんそれよりもセクハラって……?」

「ち、違うでしょ! スキンシップ! スキンシップだよー!」

 

 思穂の言い分を、友実は冷静に噛み砕き、そして思穂にとって答え辛いことを言い返す。

 

「あれをスキンシップと言うなら希のわしわしもスキンシップに入るんだけど」

「ねぇお姉ちゃん。さっきから何の話してるの?」

「友香さんは知らなくても良い世界よ」

「そ、そう……なんですか?」

「友香、私の知らない間に遠くに行っちゃダメよ」

「い、行かないよ!」

「姉さん、いつも学校でもそうなの?」

「思穂ちゃん……正直に言おっか……」

「す、スキンシップだよ!」

「ほ、本当ですか?」

「そ、そう、だよ……!?」

 

 友香の純粋な視線にいよいよ直視すること出来なくなり、目をそらしてしまう思穂である。これ以上見られたらハッキリ言って死にたくなる。

 

「どもるところが怪しいと思うんだけど、どう思う? 麻歩ちゃん」

「完全にアウトですね。にこさんに聞いたことがありますよ友実先輩」

「にこェ……」

「あの、具体的にはどのような事を……?」

「前はことりちゃんの練習着のスカートからパンツを覗こうと……」

 

 そうして思穂は白状した。それはいつぞやかの練習での一コマである。あの時の無念は今でも忘れられない。

 

「あ、吐いた」

「これは酷いですね」

「そう言うのは女子高だとよくある事なんですか?」

「常識的な女子高ならないわ」

 

 さらりと麻歩は切った。思穂の援護をする気は一切ないのである。

 

「ま、まぁ音ノ木坂は少し特殊な人多いから……生徒会副会長しかり、文化研究部長しかり、図書委員長しかり……」

「友実先輩、何だか私が入っているのは納得できないんですよねー」

「むしろμ'sに聞いたら十中八九賛成の意を得られそうだけどね」

「そんなぁ!?」

「そんなに酷いの!?」

「確か…初めて会った時も脚を見られた上に告白されたな……」

「姉さん、それは……引くわ」

「私よりもお姉ちゃんのほうが遠くに行っちゃってる気がするよ……」

 

 妹達は二者二様の感想を口にする。だが、少しばかり距離を置きたくなったと言うのは共通の意見である。

 

「な、何てことだ……!?」

「思穂ちゃん……強く生きるんだよ」

「友実先輩がフォローしてくれたらなぁ!」

「むしろ思穂ちゃんはマネージャーなんだからフォローする側でしょ」

「それはそうなんだけど!! 麻歩助けて!」

「私はフォローできないわ姉さん」

 

 付き合っていられないとばかりに、麻歩は顔を背けた。

 

「えっと、私は……」

「さすがの思穂ちゃんもそれは……ねぇ?」

「まあまあ友実先輩。友香ちゃん、友香ちゃんにもいつか分かる時が来るよ!」

「友香を変な道に引き摺り込むなぁ!」

「変な道なの!?」

 

 友実の言葉にもお構いなしに、思穂は更にプッシュする。ここで退くと言う選択肢はない。

 

「欲望を解放するんだよ友香ちゃん! もう我慢することはない! 思うがままに精神を解放するんだ!」

「え、嫌ですよ。そんなの。は、恥ずかしい」

「まあまあ。そんなことを言わずに!」

「思穂ちゃん?」

 

 ニコリとそう笑う友実を見て、思穂は直ぐに“いつもの用意”をする。

 

「ふぁっほーい! 急に土下座したくなってきたぁ!」

「またなの?」

「またって事は何回も見てるんだ。麻歩ちゃんは」

「お姉ちゃん。私、ここまで綺麗な土下座初めて見た……」

 

 そう呟く友香に、麻歩は言った。

 

「姉さんの得意技は土下座だからね」

「これまたおおっぴらには言えない特技だ事で……」

「え、そう? 割と慣れたけどなぁ」

 

 数えるのも馬鹿らしくなるほど思穂は土下座をしてきた。今更何を思うことはない。土下座をしろと言われたらすぐに出来てしまう。

 

「それは慣れちゃいけないと思いますよ……。ちなみに土下座にオススメの場所とかあるんですか!?」

「もちろん! 土とかオススメだよ友香ちゃん!」

「そう言えば生徒会室でもしてたね。土下座」

「あそこ結構やりやすくて良いです!スカートも汚れづらいし」

「まぁ生徒会室は頻繁に掃除してるしね。綺麗なのは当たり前だよ」

「だからこそ安心して土下座出来るんですよね!」

「土下座する為に綺麗にしてる訳じゃないからね!?」

「なら何のために綺麗にしているんですか!?」

 

 むしろそれが分からない思穂である。そんな思穂へ麻歩と友実は心の底からの言葉をぶつける。

 

「まずは土下座しない様に努力して姉さん」

「普通に衛生上の関係で綺麗にしてるんだよ!」

 

 そうツッコミである。思穂は崩れ落ちた。

 

「お姉ちゃんって綺麗好きだもんね」

「姉さんも割と綺麗よね」

「かもね。部屋は完璧!」

 

 すかさず友香が言った。

 

「土下座する為にですか?」

「いやいくら何でもそれはない……んじゃないかな?」

「友香ちゃんと友実先輩の期待を裏切ってすいませんが……単純にゲームとか漫画のありかが分からなくなるんですよね……」

「漫画を棚から抜き取る為だけに筋トレしているんだっけ?」

「そうそう! 指立て伏せね! 今だと片手人差し指で五十回はイケるね!」

「ち、ちょっと腕触らせて貰っても良いですか?」

「ん? 友香ちゃんの頼みなら! はいどうぞ!」

「……あ、思った程硬くない…」

 

 ふにふにと友香は思穂の腕を触ってみた。特段鍛えてるという感触はしない。首をかしげる友香へ麻歩は呆れ気味に言った。

 

「そうなのよ。それで登山用の大きなリュックを満タンにしてスキップして帰ってくるからすごいのよ……」

「山頂アタックでもするつもりなの?」

「見た目より質を重視した結果ですね! 山頂アタックはたまに体力づくりがてら行きます!」

「行くんだ!?」

「まあね。普通に行ったら物足りないからその時は腕と足に重り付けて行きます!」

「お姉ちゃん。私って貧弱なのかな……」

「大丈夫。友香で貧弱だったら私も貧弱の部類に入るから」

 

 ドンビキ、まではいかないがそれに近い感想を持った姉妹である。そしてその感想は思穂の妹も抱いていた。

 

「姉さんは体力おばけですから……」

 

 一体どういう鍛え方をすればそんな体力を獲得できるのか、割と本気で気になる麻歩である。

 

「おばけ……絵里が怖がりそうだね」

「そのうち、また行こうかな! 友実先輩も行きます!? 重り貸しますよ!?」

「いや、遠慮しとくよ。さすがに読書の時間を削ってまで運動したくないし」

「友実先輩にフラれた!? なら麻歩は!? 友香ちゃんは!?」

「私は嫌よ」

「私もちょっと……」

 

 まさに全滅である。ならば、と思穂は話題を変えるためと自分のステージに持ち込む意味を込めて、自分の趣味をさらけ出すことにした。

 

「じゃ、じゃあ皆でアニメ見ようよーなんてのはどうかな……?」

「どんなのがあるの? 思穂ちゃんなら一通り揃えてそうだけど……」

「ふっふっふ! 友実先輩のおっしゃる通りです。そして紹介するのはずばり、この科学と魔術が交差したりしなかったりするこの作品だぁ!!」

 

 思穂の見せつけたアニメに友実が反応した。

 

「あ、それなら原作全三十七巻全部持ってるよ!」

「すばらっ! ならばこのアニメ版もきっと楽しめるはずですね!!」

「私もアニメと原作両方見ましたけど、第四巻に出て来た犯罪者がアニメに出て来なかったのがちょっと残念でした」

「おお! 友香ちゃん相当に詳しかった!」

「友香さんは分かるの?」

「もちろん分かりますよ。あの人気ランキングでなぜか上位に食い込んだキャラ!」

「あれは組織票を感じたね」

「そうそ! 正直票数が異常だと思いました! そんなおかしなキャラに想いを馳せながらさあ、観ましょう!」

 

 黙って視聴すること約三十分。第一話を視聴し終えるなり、友香が不満を爆発させる。

 

「って第一話じゃ出てこないじゃないですかー!」

「姉さん、何だかんだ言って一話からじゃない……」

「まあまあ!最初のインちゃんの可愛さを改めて再確認しようよ!」

 

 思穂の感想に、友実は少しばかり遠い目をして、小さく漏らした。

 

「あの子ってただのヒ――いや、なんでもないや」

「お姉ちゃん今何を言いかけたの!?」

「あれー!?何か聞こえかけたんだけど!?」

「ごめん姉さん、私もそう思っているわ」

「やっぱりそう思う人はいるんだね」

「わ、私はあの子好きだよ! 語尾に『訳よ』って言う子!」

「ちっがうよー!それ上下半分にされる系女子じゃーん!」

 

 まさかの発言に思穂の怒りはマックスである。間違え方が酷過ぎる。あろうことにだいぶ悲惨な目に遭うキャラを出されたことに思穂の精神的テンションは下落中。

 

「姉さん、落ち着いて……」

「やめてー! 間にスラッシュ入れないで下さい!」

「最近の原作でもチョロチョロ出て来てるしね~」

「インちゃんに噛まれたいよ私ー!」

「私が叩いてあげることはできるわよ?」

 

 麻歩が割とおっかない表情でそう言ってくるのでその瞬間に諸手を挙げて降伏の意を示す。

 そんな思穂を見ながら、友実が友香へこんなことを言った。

 

「友香噛んでみたら? 頭良くなるかもよ?」

「え!? さ、さすがにそれはちょっと……」

「むしろ友香ちゃんに噛まれるならそれはそれで良い!! 噛んでー!」

「そ、それじゃあ……」

「おお~何だか頭がスッキリしてきた気がするー!」

 

 カプリと腕を噛まれる思穂はその瞬間から、興奮したように頭を振る。

 女の子に噛まれていると言うだけでテンションが上がる思穂。今なら何でも出来る気がする。そんな思穂であった。

 

「これで思穂ちゃんもYウィルスに感染したか……」

「バイオハザー」

「それ以上はいけないよ麻歩!いやーそれにしても友香ちゃんノリイイねえ!」

ふぉふふぇふぁ(そうですか)?」

「友香、まさか亜里沙ちゃんや雪穂にもそれやってないでしょうね?」

「さすがにしてないよ! ちゃんとした友達の関係だよ!」

 

 友実だけでは無く、思穂と麻歩もホッとしていた。これでやっていたら大分アブナイ関係である。

 友香が口を離すと、思穂が少しばかり残念そうに声を漏らす。

 

「あ、噛むの止めちゃった……!」

「残念そうね、姉さん」

「どうだった?」

「なんか、うん。美味しくなかった」

 

 友実の問いにそう返す友香。これで食人に目覚められても困る。実に無難な答えであった。

 

「それは、まぁ……うん」

「うん、まあ……知ってた」

「これで美味しいと言われても困るわよ」

 

 何だかいたたまれない空気。そんな雰囲気を切り裂くように、友実がテレビへ顔を向けた。

 

「そんな事より、私達普通にアニメ見てないね」

「あ、今レールガン撃ったぁ!」

「おお!電撃姫かっこいい!!」

「やはり戦うお姉様は良いわね」

 

 この作品が割と好きな麻歩である。

 

「お姉ちゃんと思穂さんも戦ってみたら?」

「別にかっこよさは求められてないよ!?」

「……腕相撲?」

 

 思穂が呟いた言葉に、麻歩がいち早く反応した。

 

「姉さん、馬鹿な真似は止めて。家に救急車は呼びたくないわ」

「救急車……入院……つまりは合法で授業をサボれる……ハッ! 本読み放題!」

「お姉ちゃん。それはダメだと思うよ」

 

 友香がビシリとそう言うと、友実は少しばかり肩を落とした。

 そんな友実へ麻歩は問いかける。

 

「……友実先輩は腕力に自信がありますか?」

「ない」

 

 即答でそう答える友実。その答えを聞いた麻歩は割と真面目な表情でその勝負に待ったを掛けた。

 

「じゃあ姉さん、腕相撲は止めましょうね。冗談抜きで友実先輩の腕折りかねないから」

「麻歩さんと思穂さんがやったらどうなるんですか?」

「脱臼……」

 

 端的にそう答える麻歩。思穂が異常なだけで自分は年相応の身体能力しかないのだ。

 

「友香がやったら骨折で済むのかな。下手したら再起不能、とか?」

「再起不能!?」

「私、そんなに力ある……?」

「この間、リンゴ片手で潰していたじゃない」

 

 テレビなどで良く見るリンゴを片手で潰す行為。割と筋肉ムキムキな人しかやらない印象しかない。

 それはつまりそのまま思穂の握力を邪推してしまうことに繋がった――。

 

「片手でリンゴ……握力幾つなんだよ思穂ちゃん……」

「……ねぇそう言えばさ。お姉ちゃんと思穂さんって仲良いみたいだけど、呼び捨てで呼ばないの?」

「…………あ」

 

 友香の指摘に、思穂が気づいたように声を上げた。否、とっくの昔に気づいていたあえて避けていたのだ。そういう距離感がどうか掴みかねていたから。

 

「思穂さんは『友実先輩』って呼んでるし、お姉ちゃんは穂乃果さん達を呼び捨ててるじゃん」

「それは……うん。そうだね」

「あーそれは確かに不公平感がすごいですよ!友実先輩!これはもう呼び捨てするパターンですね!!」

「さぁお姉ちゃん!」

 

 友香に促されるまま、とうとう友実はその言葉を口にした。それは割と思穂が待ち望んでいた言葉で。

 

「うぅ…………思、穂……?」

「お、おお~……これはこれは中々良い感じがする……!」

「流れで麻歩さんの事も! さぁ!」

「……麻…歩……」

「はい。よろしくお願いします、友実先輩」

 

 何だか全てどうでもよくなってしまった友実。とうとう友実のタガが外れ、こんなことを提案した。

 

「クソー! こうなったら二人とも『先輩』を外して私と同じ目にあえばいいんだー!」

「分かりました、なら友実さん。……姉さん?」

 

 思穂の方を見て、麻歩は納得した。そして思い出した。

 従姉は、こういう他人との距離を縮めるのは苦手だということに。

 

「ゆ、ゆ……ゆ、……」

「もしかして姉さん、照れてるの?」

「そ、そんなことないよ!」

 

 ならば、と友香と友実が思穂を促す。

 

「さぁ思穂さん!」

「思穂!」

「ゆ……、ゆ……、み、ちゃん」

 

 じれったくなり、とうとう麻歩が背中を押した。

 

「声が小さいわ、姉さん」

「ゆ……友実、ちゃん!」

 

 とうとう言えたその一言。だが、いつぞやの時のように顔を真っ赤にしてしまう思穂に、いつもの明るさは見られなかった。

 そんな思穂へ追撃するのが友香であった。

 

「思穂さん可愛いです!」

「友香、先輩をそう簡単に弄らないの。脚触られても知らないよ」

 

 ここぞとばかりに思穂はテンションを上げた。それが照れ隠しだと言うことを知っているのは麻歩だけである。

 相変わらず不器用な姉である。

 

「そ、そうだよ!私の手捌きはすごいんだから!」

「やったら麻歩にお仕置きして貰うからね。思穂」

「ふぁっほー! まさか、そんなことする訳ないじゃないですかー!」

「じゃあその下向きになってる手はなんなのよ……?」

 

 友実に指摘され、手持無沙汰となる思穂。思わず手をワキワキさせてみるぐらいには余裕が無かったのだ。

 

「い、嫌だな~。幻覚ですよ~!」

「姉さん言い訳になってないわ」

「取り敢えず土下座……?」

「やだこの子。知らない内に黒くなってる……」

 

 友香のぽろっと出た発言に顔を青くする友実。

 

「これは友実ちゃんもびっくりの黒さだね!」

「ええ。やはり姉妹なのね」

 

 麻歩は何となく所々垣間見えていたのは分かっていたが、これで得心いっていた。やはり姉妹なのだ。良く分かる。

 

「ちょっと待って麻歩! 私そこまで黒くないよ!?」

「そ、そうです! 思穂さんは特技が土下座って言ってたので、大丈夫です!」

 

 全然隠しきれていない友香である。ジトーッとした視線を向けながら麻歩は思穂の方を見ると、何も気にした様子無く笑っていた。

 

「まあ、それもそうか!私の百八の特技の一つですからね!」

「煩悩じゃない」

 

 バッサリと切る麻歩。そんな麻歩に友実は一言。

 

「毎年浄化されての今か……麻歩も苦労してるんだね」

「ええ……まあ。それよりも、さっき凛からメールが入ったわ。今何してるのって」

「思穂をいじってあそ……思穂の家で楽しくおしゃべりって感じかな?」

 

 友実の呟きをあえて聞かないようにした思穂は場の流れを変える意味を込めて、こんな提案をしてみた。

 

「よーし、こうなったら皆呼んでゲーム大会でもする!?」

 

 それに乗ったのは当然ともいうべきか、友香である。こうなったら思穂はもう止まらない。

 

「良いですね! ゲームは大勢で楽しくやるのが一番です!」

「よーし、麻歩、さっそく皆を呼んでー! パーティーだ!!」

「はいはい、分かったわ……」

 

 そう言い、麻歩は早速携帯を取り出した。友実と友香もそれに合わせて動き出す。

 

「あ、麻歩。私も何か手伝うよ」

「私はゲームの準備を手伝います!」

 

 その様子を満足げに見ていた思穂は右手を突き上げた。

 

「よーし! じゃあ、終わらないパーティー始めようか!!」

 

 この楽しい祭りはまだ終わらない――。




前書きにもありましたが、名前はまだ無い♪さんの作品「巻き込まれた図書委員」とのコラボ回第二弾でした。

コラボ先の作品も面白いのでぜひ読んでみてください!!
名無しさん本当にありがとうございました!!
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