1-心を失った少年
痛い。
傷だらけの身体。自分がどうしてこの状況になったのか、何も思い出せない。
―――取り戻せ。
声が、聞こえる。
痛い。
ぼろぼろの心。とても大切なモノを失ったような、喪失。
―――集めるんだ、それが。
混濁した意識の中で、『俺』はその言葉だけ、鮮明に聞こえた。
痛い。
動かない体躯に力を込めても、その願いは何も叶えてくれやしない。
―――お前が、お前であるために。
闇の先に、誰かがいた。
それは、決意のこもった眼差しで、俺を見つめる―――俺自身、だった。
光。満点の星空のように、闇の世界に輝く光。幾つもの光は赤、青、黄の三つに光り輝き、天に昇ってそして散る。
集めるんだ。あの光を。
それが、俺が俺であるために必要なことだって、理解した。
取り戻すんだ。あの光を。
俺が、俺に戻るために。
薄れていく意識の中で、俺は、自分が何をすべきかだけを理解して。
そしてゆっくりと、意識を手放した。
―――
――
―
「ああそうだ。厄介な拾い物をしたんだ」
「厄介、ですか?」
喫茶店シュバルツ・カッツェの店主、相馬七緒は店を訪れていた知人である椎葉紬に声をかける。
どうしたものか、と困った表情を見せる七緒。紬はそれを咄嗟に、自分たち『魔女』に関係することだと理解した。
「行き倒れかと思ったんだが、心を失った人間なんだ」
そういって七緒は店の奥に紬を案内し、うつろな瞳の少年を紹介する。
「心、が……?」
「ああ。普通の病院に連れて行こうとも考えたんだが」
それは、どうすることもできないだろう。
心を失ったというのは、精神的に追い込まれているとか、そういった類の物ではない。
だから七緒も困り果てているのだろう。現実的に考えれば、心を完全に失った人間というものに出会ったことがない。
こちらの言葉に反応もせず、どこの誰かもわからない。そんな存在をどうすればいいのか。
だが心を失っているということは『魔法』に少なからず関わっていることになる。故に、人間の世界にそのまま返すということも難しい。
七緒は紬に答えを求めてはいなかった。ただ、困り果てて愚痴を聞いてもらいたくて、少年を見せたのだろう。
「…………」
少年は、何かに惹かれるように、紬の方を向いた。
え、と紬が驚くと同時に―――紬のポケットが、光る。
光は急速に拡大し、誰かが動き出すよりも早く四散し。
部屋中が、光に満ち溢れた。光はやがて羽のようになり、そして。
「わ、わ―――!?」
「そんな……!?」
少年の身体へ、吸い込まれるように消えていく。いや、溶け込んでいく。
光の全てが、少年に集う。うつろな瞳に光が灯り、がば、と少年は勢いよく立ち上がり。
「かけらを、あつめないと」
「かけ、ら……?」
「あ、れ……俺は……?」
つぶやいて、紬の言葉にハッっと意識を取り戻す。
目覚めてすぐさま、視界に入る二人の少女と女性。何処かの学園生か、男子の制服を着用している少女。そして、見目麗しい女性。
「……なるほど。そういうことか」
女性は、目覚めた少年の戸惑いを察し、そして答えを見出す。
「とりあえず落ち着いたらどうだい。私たちも君に聞きたいことがある。そうだな、君の名前は?」
女性の問いかけに、少年は少し逡巡し、何かを搾り出すように。
「……春秋。四ノ月春秋」
そう答えて、少しだけ笑った。
簡単ですがキャラ設定を。
主人公。四ノ月春秋。
記憶と心と力を失った少年。
自らの力の使い方と名前、そして自らの『欠片』を求めて旅をしていることだけを覚えている。
茶髪を肩口まで伸ばしており、見る人が必ず振り返るほどの美少年。
気さくで誰とでも仲良くなれ、またマイペースに人を巻き込む人物であるが、時折表情に影を落とす。
達観した価値観を持っており、ときには合理的だが残酷な判断をする人物である。
ただ、本人自らが「人に依存するタイプ」と自覚している。
要するに、上っ面だけ仲良くして本心を悟らせないタイプ。そして他の追従を許さない能力を持っている模様。