物語の管理者:欠片集めのストラテジー   作:瑠川Abel

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 耳を済ませて、自らの内から聞こえてくる声を感じる。

 それは喜び、悲しみ、妬み、恨みといった様々な感情―――心の欠片。

 走る。ひたすらに。目的地もゴールも定めずに、ただひたすらに。

 先日の一件で―――どういうわけか、少しだけだが春秋から紬へ心の欠片が戻ったのが確認された。

 本人たちに自覚がない程度の少量だが、寧々の判断は「春秋が満足した」とのことだ。

 春秋としては、確かに紬と遊びに行けたこと、楽しめたことに満足し、最後に紬の代償を抑えるために役立てたことがようやく自分に価値を見出せた。

 それからというもの、春秋は―――身体を動かしくて仕方がなかった。

 落ち着かないとか、そういう情緒不安定な行動ではない。

 ただ、身体を動かすのが好きだということを思い出したのだ。

 

「よっ、と」

 

 ちょうど家の近くまで戻ってこれたので、ランニングを止める。紬が迎えに来るまでまだ余裕があり、シャワーも朝食も済ませられそうだ。

 あの日、川上とめぐるを帰してから紬と寧々、柊史に事情を簡単に説明した。

 紬の代償を、自らが生成した魔力で代替したこと。理屈は無茶苦茶だが、成功したことに変わりはない。

 それから自分の目的と自分の力をかいつまんで説明して、心の欠片が戻ってきていることに気付いて解散して。

 

「俺が満足すれば、か」

 

 わかりやすく言えば、春秋自身が幸福になることが一番近道だと寧々は言っていた。

 だがそれを聞いても、春秋は今の現状に不満は抱いていない。紬に迷惑をかけてないか、くらいは常に気にしているが、概ね順調に学生生活を楽しんでいると思える。

 何が足りないのだろうか。

 

「おはよー、四ノ月くん」

 

「ああ、おはよう。椎葉」

 

 悩んでいても仕方ない。準備を済ませて紬を迎えて、一緒に学園に向かう。

 

「あ、それ」

 

「……えへへ。付けてみました」

 

「うん、似合ってる。嬉しいぞ」

 

「私もね、付けててなんか、楽しいっ」

 

 二人で微笑み合って、ゆっくりと歩幅を合わせて。

 紬の首には、先日春秋がプレゼントしたチョーカー。

 こうしてゆったりと歩いているだけで、自然と頬がほころぶ。

 これがどんな感情かは、春秋は、覚えているようで、思い出せない。だが思い出せなくても、心地よさは感じていた。

 もう少しこのままでいたい。暖かい感情に、春秋の心は確実に癒されていた。

 

 ………

 ……

 …

 

「それでは川上くんにきてもらい、椎葉さんに欠片を回収してもらいますが、よろしいでしょうか」

 

「あ、私は大丈夫だよ」

 

「……そういや、椎葉がそうやって心の欠片を回収するってところ見るの初めてだな」

 

 そうだっけ、と紬が首をかしげて、柊史も寧々も苦笑する。まるで長い間一緒にいるような空気なのに、二人が出会ってからまだ一ヶ月も経っていないのだ。

 川上は柊史が呼びに行っている。その間に紬に準備を済ませておいて欲しいというのだが。

 紬の周囲の空気が、変わる。張り詰めた空気と共に紬が光に包まれ―――。

 

「可愛い」

 

「い、いきなり何言い出すのっ!?」

 

「いやだっていきなり椎葉が魔法少女ばりに変身したと思ったら可愛いコスプレしてたら誰だってそう感じるだろ」

 

「こ、コスプレじゃないもんっ!」

 

 普段の、男装とはかけ離れた、『女の子』な衣装に身を包んだ紬。桜色のマントにスカート、とウサギの耳のような帽子に、対極な色合いの黒地の衣装がアンバランスながら双方を際立たせる。

 そして一際目を引くのが、その手に握られた、ハンマー。

 

「寧々、四ノ月。川上くんを連れてきたけど」

 

「ありがとうございます、柊史くん」

 

「先輩方、先日はありがとうございました。おかげで前川さんとも上手く行きましたっ!!!」

 

 満面の笑みを見せる川上。どうやら春秋と紬のデートに思うところがあったらしく、それを実践したところ、本人が思った以上に効果があったようで二人とも満足のいくデートができたらしい。

 それだからか、川上自身から浮かれているようなオーラを感じる。幸せ絶好調といったところか。

 なるほど、これが欠片を回収できる状態か。と春秋は判断する。確かにこのような幸せに偏りすぎていると、何かの拍子で落ち込んだら目も当てられないだろう。

 そして気付く。今の紬―――『魔女』状態の紬の今の姿は、川上に視認されていない。それは魔法的な技術なのかどうかはさておき、紬は気付かれないように川上の背後に回りこみ。振り上げたハンマーを、勢いよく振り下ろした。

 

「あっ―――」

 

 部屋中に四散する、光の羽―――心の欠片。

 それは川上の身体から溢れると同時に、紬が掲げた小瓶の中に吸い込まれていく。

 そうか、ああやって欠片を集めていたのか。納得した春秋は、今回で集まった欠片の量を見て、同時に自分が奪ってしまった欠片を思い出して、心苦しくなる。それはもちろん、紬に悟られないように。

 気を失った川上を椅子に座らせ、寧々も柊史も安堵のため息を吐く。

 普段の制服姿に戻った紬も、満足のいく回収を行えたのか少し嬉しそうに微笑んでいる。

 

「椎葉」

 

「どうしたの、四ノ月くん?」

 

「俺、決めたよ。全力で椎葉の心の欠片を集めるのに協力する」

 

 それは贖罪か、はたまた。




 心の欠片を回収を手伝うと決めてからの春秋の行動は、回収に慣れている紬も驚くほど手際が良かった。
 二人で集めて、そして春秋のケアも少しずつ進んでいく中、生徒会長からオカ研に一つの依頼が舞い込んで来る。
 そして、春秋は自分の想いに気付く。

 次回4話『秋の終わりに』
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