物語の管理者:欠片集めのストラテジー   作:瑠川Abel

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 ホシイ。

 

 暗い夜道を、歩くソレ。

 

 タリナイ。

 

 飢えているのか、口からは涎を垂らし、ふらふらと、足並みも覚束無い。

 

 欲しくて、足りなくて、モトメテ、ホシクテホシクテホシクテ。

 ホシクテホシクテホシクテホシクテホシクテホシクテホシクテ。

 荒い呼吸、血走った瞳、今にも暴れだしそうな、追い詰められた、表情。

 

『よう』

 

 そんな存在の前に、現れる青年。

 銀の髪。唇や耳に点在するピアス。はだけたスーツ、そして、腰に携えられた、刀。

 

『欲しいんだろ? 心が』

 

 ソレはケモノ。

 今にも青年に飛びつかんとするソレを、青年は諭すように落ち着いた声で語りかける。

 

『わかってるわかってる。お前がしたいことも何もかも。だから今はじっくり待って、そしてよぉ』

 

 青年の口が、歪む。

 

『奪えよ。お前が奪っちまえ。奴を、物語の管理者から、全部』

 

 嗤う。嗤う。嗤う。

 まるで人の皮を被った邪悪。

 それは本当に人の笑みか、否。

 

『記憶も心も力もないだぁ? ちょうどいい。復讐には物足りないが、盛大に邪魔をしてやるぜぇ……!』

 

 ケモノの咆哮が、夜空に木霊する。

 

 ………

 ……

 …

 

「もー、四ノ月くんまたごっそり買ってきて」

 

「悪い悪い。新刊出たばかりで興味を隠し切れなかった」

 

「本読むの好きだよねぇ。それに早いし」

 

 いつもの部室、誰よりも早く到着した春秋はこれ幸いにと鞄の中から大量の本を取り出し読み耽っていた。

 それは小難しい小説に始まり漫画にライトノベル週刊誌月刊誌と、とにかく物語が記載されている物ばかり。

 重なった本は山のようになっているが、これでも厳選した方だと春秋は断言する。

 手にとって、あらすじを読んで心惹かれたものを選んでいる。それでもこの量である。

 

「んー本を読むのが好きって言うより」

 

「え、違うの?」

 

「物語を知るのが楽しいんだ。登場人物に感情移入して、次の展開を夢見て心躍らせる。次の展開を待ちわびさせることができる作者は本当に凄いと思う」

 

 適当に取った漫画を開き、巻の最後のページを見せて、楽しそうに笑う。

 

「だからアニメもドラマもよく見てるよ。まあ面白いと思わなかったら見なくなるけど」

 

 苦笑する紬に、春秋は楽しそうに語る。

 

「例えばこれ。人語を話せるフェレットと出会った少女がメカメカしい魔法武器を手にとって別の魔法少女と出会う話なんだけど」

 

 語る、語る。次の言葉があらかじめ用意されているかのように、春秋の口からは流暢に作品の説明がなされていく。

 そんな楽しそうな春秋を見て紬は微笑みながら話を聞く。二人だけの憩いの時間は、三十分ほど経って寧々たちが来るまで続いていた。

 

「で、オカ研としては企画と運営って言ってたけど、具体的には何をするんだ?」

 

「あ、はい。コスプレコンテスト、です」

 

「……よくアニメや漫画にあるミスコンみたいな解釈でいいのか?」

 

「ええ。ハロウィンにちなんだコスプレをしてもらい、参加した人全員に『誰がよかったか』を投票してもらおうと思います。形式ばったコンテストではなく、自由参加のコスプ

 

レを見て投票してもらおうと思います」

 

「なるほどな」

 

「あと、椎葉さんを除いてオカ研の皆さんはコスプレ必須です。必須になりました……」

 

 困り果てた表情をする寧々。おそらく誰かに押し切られたのだろうと春秋は判断する。

 そして紬が免除されているのは―――魔女の代償があるからだろう。寧々はそれを知っていてそれだけは通したのだろう。

 

「しかしコスプレかぁ……」

 

「明日、戸隠先輩が裁縫部の方と一緒に衣装合わせをしてくれるそうですが」

 

 説明を一通り終えると、大きな箱を抱えて柊史がやってくる。前年から裁縫部に保管されていた貸衣装のようで、それでとりあえず何のコスプレをしたいか決めておいてほしいそうだ。

 紬も興味津々と衣装を広げて目を輝かせては名残惜しそうに元に戻していく。

 寧々は予め決めていたのか、フクロウのような羽や髪飾りが目立つ衣装を手に取っていた。

 柊史も当たり障りのない、ドラキュラのマントや付け牙といった小物まで手に取っていた。

 何かいいものは無いか、と色々広げて見た結果。

 

「お、これいいな」

 

 全身を覆い隠すほどの、漆黒のローブ。そして髑髏を意識した仮面。

 死神だ。これで鎌でもあれば完璧だろう。

 

「どうだ?」

 

 ひとまず仮面は付けずに、纏ったローブを翻し、ポーズを決める。

 

「似合う似合う。仮面とか付けるのがもったいないくらいだよっ」

 

「ははは、仮面付けないと死神っぽくないだろ」

 

「んー、でもやっぱり死神って言うなら」

 

「鎌とか欲しいよなぁ」

 

 よし、と意気込むと、春秋は小さな本を呼び出す。

 管理者の力を行使して、思い描いたイメージを現実に。

 本から飛び出した文字が中空を彷徨う。それらはやがて春秋の手に集い―――光に包まれ、そして。

 

「レプリカだけどどうかな……」

 

 金と黒を貴重とした、機械的な鎌。

 春秋はレプリカ、として具現化したために、本来あるべき光の収束された刃は似た色合いのプラスチックに。

 

「ってこれ今さっき四ノ月くんが読んでた漫画のだよねっ!?」

 

「おう、バルディッシュって金髪ツインテの女の子が使ってる奴」

 

「に、似合うんだけどなんか複雑……」

 

 学生服の上にローブを纏い、顔を隠せる程度にフードを被り、金と黒の鎌―――バルディッシュを担ぐように、構えるように、いくつかのポーズを決める。

 変形できないのが残念だが、と。心底残念そうに呟く春秋を見て紬は苦笑するしかなかった。

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