物語の管理者:欠片集めのストラテジー   作:瑠川Abel

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「はい、ブレンドとオレンジパフェ」

 

「ありがとうございます」

 

 帰り道にふと寧々の提案でシュバルツ・カッツェへ寄った春秋たちは、七緒が用意したコーヒーや甘味で一息吐く。

 ハロウィンパーティーまでそんなに時間はない。ノウハウを知っている戸隠憧子の協力もあって運営に関しては何も問題はないだろう。

 特に懸念することもない。そんな中、柊史だけ少し慌しく一人先に店を出る。

 事情を聞くと、なるほどハロウィンパーティーを盛り上げるためにクラスメイトとバンドを組む、ということだ。

 

「しかし素人の付け焼刃でどうにかなるのか?」

 

「大丈夫ですよ。柊史くんの必死な思いは、技術の練度よりもしっかりと観客の皆さんに届きますから」

 

「おーおー恋人自慢に揺るぎが無い。こりゃ保科は幸せものだな」

 

「そうだよね。綾地さんと保科君を見てると理想のカップルー、って思えるよね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 照れた寧々も、自然と隣り合って座っている春秋と紬を見て微笑み返す。二人はそんな寧々の思惑に気付かず微笑む寧々に首を傾げる。

 コーヒーを啜り、ゆっくりとした時間を過ごす。おもむろに鞄からまだ読んでいない小説を手にとって、ぺらぺらとページを捲っていく。

 紬もそんな春秋を見てか、パフェを食べる速度を少しだけ遅くする。思いだしたかのように、七緒が口を開く。

 

「そういえば四ノ月くん、君の心の欠片は見つかったのかい?」

 

「あー……それがぜんっぜん」

 

「そもそも、君の心の欠片というのは形をちゃんと保っているのかい?」

 

「……多分、純粋な光の結晶体見たくなってると思う」

 

 言われて初めて、春秋も考えた。

 自分が捜し求めているものがどういうものか、春秋自身覚えていない。

 ならば、どう探せばいいのだろうか。答えは、簡単だった。

 『本』を取り出し、指を走らせる。白紙のページに刻まれていく<心の欠片>についての検索。

 結果として言えば、春秋の推測通り純粋な結晶体になっている、という情報まではわかった。

 だが、この世界のどこにあるのか、まではわからない。

 

「まあ、俺が目覚めたのがこの街なんだ。この街にあることは間違いないだろう」

 

「ふむ……あと椎葉さん、四ノ月くんから欠片は戻ってきているかい?」

 

「あ、はい。少しずつですが」

 

「ほう。じゃあ少しは四ノ月くんも現状に満足してきているということだね」

 

「そうだな。……そうかもな」

 

 少し含んだ言い方で、微笑む。

 

「それじゃあ一つアドバイスをしよう。もし君が心の欠片を返せたことを覚えているなら、その状況を思い出して、似たようなことをするといい」

 

「似たようなこと、ねえ」

 

 その言葉を聞いて、春秋よりも紬が顔を赤くする。

 七緒は紬のその反応を見逃さなかったが、あえて何も語らない。彼女は、二人の問題だと見当をつけていたようだ。

 

「……似たこと、ねえ」

 

 シュバルツ・カッツェを後にして、寧々と別れた二人は岐路に着く。いつもどおりに、春秋が紬を送って行く帰り道。

 頬を紅潮させたままの紬は、窺うように春秋をちらちらと見ては、頬をさらに赤らめて俯く。

 何の気なしに、春秋は俯いていた紬の手を取った。

 強く握って、離さないように。

 

「し、ししし四ノ月くんっ!?」

 

「ごめん。嫌か?」

 

「そ、その言い方はずるいよ……」

 

 りんごのように顔を真っ赤にして。

 でも、紬から離れるようなことはしなかった。

 じんわりと、心があったまっていくのがわかる。掌から感じる温もりに、心の底から安堵していることを理解する。

 また少し、きっと欠片は戻った。春秋には、そんな自覚があった。

 紬の方をちらりと見ると、紬をこちらを見ていたのか、目と目が合い、思わずお互いに顔を逸らす。

 

「……えへへ」

 

 かすかに聞こえた、紬の嬉しそうな声。きっと満面の笑みを浮かべているのだろう。

 笑顔。そう、笑顔だ。

 

「あー……なんとなく、わかった」

 

「え、な、何が?」

 

「……秘密」

 

 自分が、どうすれば満たされるのか。

 少しだけ握る力を強くして、紬に歩幅を合わせて、帰り道をゆっくり歩く。

 恥ずかしそうに、でも、嬉しそうに。

 

「じゃあ、また明日」

 

「本当に晩御飯、作りにいかなくていいの?」

 

「ああ、今日は適当に済ませるよ」

 

 食事なんか必要ないくらい、今、自分が満たされている。

 心の底から、見たいと思った。紬の笑顔を。

 きっと、この感情は。読み耽った物語によく記されていた。

 

 

 

 『好き』。という感情。

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