物語の管理者:欠片集めのストラテジー   作:瑠川Abel

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 その気持ちを自覚してから、紬の一挙手一投足が気になって仕方が無い。

 彼女が大きく振り上げたハンマーが勢いよく振り下ろされ、少年が意識を失って倒れるのを、春秋が支える。

 途端に、少年からあふれ出た光の羽が、紬が持つ小瓶に集まっていく。

 春秋は少年を椅子に座らせ、回収を終えた紬の合図に笑顔で返す。

 

「大分回収できたな」

 

「それもこれも皆が協力してくれたからだよ」

 

「今、どれくらいだ?」

 

「うーんと……四ノ月くんと出会う前、半分くらいにはなったかな?」

 

「じゃあ、あと少しってことだな」

 

 それは、春秋が欠片を全部返せてたとしての話である。

 魔女の衣装から普段の学生服に戻った紬は、回収が順調に進んでいる事がよっぽど嬉しいのか上機嫌でにこにこしている。

 そんな紬を見ていて春秋も心が躍る。可愛いと、普段なら真っ先に口から出てる言葉。だがそれを意識すれば意識するほど春秋は今まで気軽に吐いてた言葉が出てこない。

 ずっと紬を意識している。彼女の動作を、仕草を。

 目を覚ました少年がオカ研の部室を後にすると、いよいよハロウィンパーティーの準備になる。

 

 ………

 ……

 …

 

「ほい、仕上がり」

 

「「「はえーよ四ノ月!?」」」

 

「うっさいお前らの効率が悪いだけだ」

 

 ハロウィンパーティー当日のとある教室にて、生徒会役員二名と柊史、そして春秋はパーティーで使う飾りのカボチャを仕上げていた。

 中身をくりぬき、目と口になる部分を貫通させて出来上がるジャック・オー・ランタン。一人四個のノルマをいち早く仕上げた春秋は後ろから聞こえてくる協力の呼び声を無視してくりぬいた中身を持って一人教室を後にする。くりぬかれた中身は調理実習室で下ごしらえをしている女子に渡す手筈となっている。捨てるのも勿体無いので、カボチャのクッキーやプリンを作るそうだ。

 女子が作ったクッキー。それだけで男子が盛大に喜ぶくらいの付加価値は付くだろう。

 

「あ、四ノ月くん」

 

「これ、カボチャの追加な」

 

「ありがとーっ」

 

 廊下でばったり出会った紬にカボチャの中身を渡すと、満面の笑みを見せてくれる。どうやらカボチャ部隊の様子を見に来たようで、春秋とあえてちょうどよかったようだ。

 コスプレをして本番に望めない分、紬は裏方での作業を誰よりも率先して引き受けていた。春秋はそんな紬を全力でサポートしている。

 

「調理班の様子は?」

 

「順調だよ。因幡さんがお菓子作りすっごく上手くて、もうびっくり」

 

「ほー。そりゃ意外だな。で、椎葉は?」

 

「え、ワタシ?」

 

「おう。椎葉も一緒に作ってるんだろ?」

 

「……うー。作ってはいるけど、因幡さんとか他の人のと比べると、ね」

 

「そうなのか? 俺は椎葉が作ったのが食べたいけど」

 

「……~~~っ!?」

 

 春秋の言葉に、紬は顔を真っ赤にして春秋を叩いてくる。小突く程度で痛みはないが、律儀に痛がって見せる。

 

「も、もう四ノ月くんはまたそうやって人をからかって……。わ、ワタシはもういくからっ」

 

 茹蛸のように顔を真っ赤にしたまま、カボチャを持って行ってしまう。

 失言だったかな、と考えつつも、それは春秋の本心である。

 紬のじゃなきゃ、食べたいと思わないと考えるほどに。

 

「四ノ月っ!」

 

 物思いに耽っていると、突然後ろから声をかけられる。振り向いた先には―――海道と仮屋。息を切らしている海道と、少し咳き込んでいる仮屋を見て、春秋は嫌な予感しかしなかった。

 

 ………

 ……

 …

 

「厄日だ。絶対に厄日だ……っ」

 

「すまねえ、春秋」

 

「……本当にごめん、四ノ月」

 

「いいよ。困ってるなら協力するしないと」

 

 体育館のステージ裏。控え室として用意されているそこに、春秋、海道、仮屋、そして柊史が集まっていた。

 仮屋が風邪を引いた。もう完治はしたが、喉をやられて声が上手くだせなくなっている。

 この三人のバンドは、仮屋がボーカルギターとして構成されているだけに大問題となっている。そして、たまたま通りがかった春秋が海道に捕まったという流れだ。

 

「歌うくらいなら春秋なら大丈夫だし、ルックス的にも受けがいいだろうしなっ!」

 

「お前、俺がガラスの心の持ち主だったらどうしてたんだよ」

 

「あっはっは。春秋がガラスの心だったら今頃柊史が胃痛で死んでるよっ」

 

「それは間違いないな……」

 

 ステージに、ボーカルとして立つ。

 立ちたかったか訳ではない。立てるほど実力があると思っていない。ただ、海道たちが練習している曲の歌詞が、まるで誰かに思いを届けたいラブソングのように感じ取れて、春秋は引き受けた。

 聞いたことはある。この街に来て色々散策している間に店内でよく流されていた曲だ。

 

「四ノ月くん」

 

「ああ、椎葉か」

 

 事情を聞いた紬と、寧々たちが訪れる。それぞれが仮屋の容態を気にしており、本当にバンドができるかを心配している。

 いくらなんでも行き当りばったりすぎる。誰もがそう考えている。

 

「……四ノ月くんは、大丈夫なの? また発作とかいきなり起きちゃったら―――」

 

 春秋の、心が不安定になる発作に規則性はない。

 もしそれが歌っている途中にでも訪れてしまったら、ステージは失敗した、どころの騒ぎではない。

 リスクはある。それでも、春秋は覚悟を決める。仮屋を中心とした輪から離れて、小声で。

 

「椎葉紬さん」

 

「は、はい」

 

「手を」

 

 差し出された手を、ぎゅっと握る。愛しい人の温もりを。そして、心配そうに見上げてくる彼女に、春秋は微笑む。

 

「晴れ姿ってほどじゃないが……頑張りたい理由があるから、絶対にステージで聞いててくれ」

 

「……う、うん。わかった」

 

「……時間だな」

 

 寧々たちが控え室を後にして、いよいよ本番の時間が来る。

 

『続きまして、有志によるバンド演奏です。準備はいいですか?』

 

 司会を務める憧子の掛け声と共に、垂れ幕が上がっていく。春秋を中心にして、仮屋と海道、そして反対側に柊史が配置されている。

 

「いいか柊史。別に失敗したっていいんだ。こういうのは楽しんだもん勝ちだからな」

 

「ごめんね四ノ月、私のせいで……」

 

「いいんだよ仮屋。それに、ちょうどいい」

 

「?」

 

 不思議そうに首を傾げる一同に、いたずらをする子供のように、笑う春秋。

 ステージが観客の好機の視線にさらされる。緊張が走る中、いよいよ始まろうとする直前に。

 

「これを聞いてくれる皆さんこんにちは。四ノ月春秋です」

 

 春秋は、少しだけ無茶をする―――。

 

「まず先にお詫びを。本来このバンドは俺を除いた三人によって行われるものでしたが、直前になって乱入させてもらいました。三人で必死になって練習してきてたグループに、俺のような人間を受け入れてくれた海道、保科、仮屋には何度礼を言っても足りないくらいです。でも、俺は……どうしても此処に立ちたかった。立って、この歌を歌いたかった。だって」

 

 会場を見守るように、一番遠くの壁からステージを見ている彼女を―――紬を見つけて、誰を指しているかはぐらかしながら、指を刺す。

 視線が、集まる。プレッシャーは関係ない。だって。だって。

 

「俺が歌うこの歌は、とある人に感謝と好意を伝える歌です。彼女がいなければ、俺は此処にいなかった。彼女に、想いを届けたくて、俺は今、此処にいる―――ッ」

 

 春秋の言葉に会場が静まり返り、春秋の言葉の真意に気付いた人は―――観客に気付かれないように、微笑みながら、紬を見て。

 絶好のチャンスだと判断したのか、海道と柊史が頷き合い、演奏が始まる。

 春秋はただただ、歌いだす直前まで―――紬へ視線を向けていた。

 

(さあ、絶好の機会だ。伝えよう、この想いを。椎葉紬。俺は、貴女が、大好きだ―――っ!)

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