「ふう。やっと一息ついた」
「……はい。ジュースだよ」
「……ありがとう」
バンドを終えて。歌いきった瞬間観客から一斉に出てきたアンコールを残念そうに断ってから、春秋は逃げるように空き教室に来ていた。
そして、そんな春秋が来る場所がわかっていたのか、紬が待っていた。待っていて、くれた。
バンド演奏の後の、コスプレコンテストの授与式の歓声が遠くから聞こえてくるのを尻目に、隣り合って座った二人は、静かな空気に身を委ねていた。
顔を真っ赤にした紬と、紬の挙動に不安になる春秋。
どちらが声を出すべきか、ずっと悩んでいる。お互いに、言葉を待っている。
「歌、凄かったよ」
「……ああ、ありがとう。全力だった」
歌を歌うだけで、大汗をかいて。必死だった。想いが届くように、伝わるように、ありったけの想いを込めて歌ったから。
「……あの、さ」
紬の言葉を、春秋は待つ。
「自惚れちゃって、いいのかな。あの歌が、四ノ月くんのあの歌が、ワタシに向けられたものだって―――」
きっとそれは、本人だから不安になる。卑屈か謙虚の表れか。
不安で、でも、嬉しそうな表情を、頬を朱に染めて、紬は声を絞り出す。
春秋は、隣で震えている少女の手を、そっと握る。
「ああ」
ビクン、と紬の身体が一瞬だけ痙攣し、そしてゆっくりと顔をあげて春秋を見つめる。
頬は、赤いまま。
「俺は―――四ノ月春秋は、椎葉紬、貴女のことが大好きです」
「あ――――」
「紬はいつでもあったかくて、嬉しい時も、怒っている時も本気で。俺が紬を巻き込んだって言うのに、それでも俺を気遣ってくれて、いつも俺を支えてくれた」
言葉を口にしてみると、思った以上の言葉が出てくる。
感情が言葉という形を得て、溢れ出てくる。
「紬が。紬だったから。あそこまで心が安らいだ。俺を理解してくれて、俺を心配してくれて、俺を救ってくれた。俺の心を、救ってくれた」
「俺は、ずっと紬と一緒にいたい。俺の心を守ってくれた君を、今度は俺が守りたい」
それは、春秋の力とかそういうのは一切関係なく。
春秋は、彼女に永遠を誓う。受け入れられようと、拒まれようとも。
「きっと俺は、君と出会うためにこの世界に来たんだ」
それは、自らの心の欠片を探す旅すら霞むほどに。
「紬、好きだ」
「……ワタシも。ワタシも、男の子の格好しかできなくて、これが終わるまで恋愛なんてできないって思ってて。でも、春秋くんはそんなワタシを誰よりも女の子扱いしてくれて。憧れだったんだ。大好きになった人に、お姫様のように、扱われるの」
二人の顔が、近づいていく。どちらからともなく、まるで吸い寄せられるように。
「ワタシも、春秋くんのことが、好きです」
紬の頬に手を添えて、空いた左手を彼女の背中に回して、ゆっくりと彼女を抱き寄せて。
二人の距離が、ゼロになる―――。
「春秋くん。好き、好き、大好きだよ……っ」
「紬。俺も、大好きだ。愛してる」
強く抱きしめあい、何度も唇を重ね、お互いの温もりを共有して。
満たされて、満たされて、満たされていく。
―――そして、暗くなった教室が一際明るくなった。
教室中に舞う、光の羽。それが何なのか一瞬で理解して。
「紬。回収、してくれるか?」
「うんっ」
魔女へと変身した紬が、優しく春秋の胸をその手に握られたハンマーで叩く。
すると先ほどよりさらに光の羽が舞い散り、そして小瓶の中へ吸い込まれていく。
意識が薄れていく中で、春秋は、紬が持っていた小瓶がさらに強く光り輝く光景を垣間見た。
「み、見て春秋くんっ。心の欠片が全部集まったよっ!」