物語の管理者:欠片集めのストラテジー   作:瑠川Abel

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5-管理者の物語/春秋の心

「それでは、ハロウィンパーティーの無事終了と」

 

「紬の魔女卒業を祝って―――」

 

「「「「「乾杯っ!」」」」」

 

 シュバルツ・カッツェにグラスを鳴らす音が響く。

 紬が魔女として心の欠片を集めきったことと、ハロウィンパーティーを無事終わらせられたことを祝う席である。

 もちろん、パーティーを祝う席は別に用意し、そこで魔女の事情を知らない人たちとの打ち上げは終わらせてある。

 だからこれは、紬のためのパーティーである。

 寧々も、柊史も、七緒も喜んで協力し、祝われる立場の紬は感激からか瞳に少しだけ涙を浮かべている。

 

「いやしかし、椎葉さんの欠片の回収がここまで早く終わるとは思わなかったよ」

 

「えへへ。春秋くんがたくさん手伝ってくれたおかげです。もちろん相馬さんも、綾地さんも、保科くんも」

 

「四ノ月くんからの欠片の返却を含めても、ずいぶん頑張ったようだしね。椎葉さんのアルプであるあいつもさっさと別の街へ行ってしまったし」

 

「そうなんですよ。ワタシ、もっと仲良くなりたかったのに……」

 

 紬が契約したアルプは、紬からの心の欠片を受け取り次第旅に出てしまった。おそらく次の魔女となりえる存在を求めて。

 きっと、いつかまた会えると信じて涙は見せなかった。でも寂しいと感じてしまうのは、それだけ紬とそのアルプが一緒に過ごしてきたから。

 春秋は、紬のアルプとは面識がなかった。だからその存在が紬の中でどれほど大きかったかはわからない。

 だからその分、春秋は紬のそばに居続ける。ヤキモチとか嫉妬とかそういう感情も含めて。

 

「まあ紬にはもう俺がいるから。もう俺しか見えないくらいにするから」

 

「も、もう……元から春秋くんしか見えてないよ……っ」

 

「紬……」

 

 グラスを置いて正面から抱きしめる。愛しい。愛しくてたまらない。まだ男子の制服姿の紬だが、週明けには女子の制服に着替えるらしい。

 ならば今の姿も見納めだと思ったところで、抱きしめる腕にさらに力を込める。

 

「綾地さん、あれだろ。こういうのをバカップルというんだろ? 君と保科くんみたいな」

 

「な、何を言い出すんですかっ!?」

 

「そうですよ相馬さん。俺たちはこんなに―――」

 

「学校をサボったと聞いたことがあるが?」

 

「「うっ」」

 

「全くそうだぞ。俺だって一日中紬を抱きしめていたいのを我慢してこうしてパーティーなんぞに参加してるくらいなのだから」

 

 いつの間にか紬から離れた春秋が追い討ちをかける。柊史はお前には言われたくない、と言った表情で春秋を睨むが春秋はこれといって気にしていない。

 

「四ノ月くんは本当に、椎葉さんと一緒にいると幸せそうですね」

 

「そうだな。幸せすぎてやばいくらいだ」

 

 寧々の言葉に満面の笑みで返す。紬も春秋のその言葉に嬉しそうに微笑み、思わず彼の腕に抱きつく。

 ぎゅっ、と力を込め、離れないように。離れたくないという気持ちを精一杯込めて。

 

「しかし四ノ月くん、疑問が一つあるのだが」

 

「ああ、どうした?」

 

「欠けていた君の心の欠片は、椎葉さんの協力によって修復された。だが、失われた君の心の欠片の方はどうなるんだい?」

 

 言われてみて、失念していた。紬との交際にばかり気をとられていたが、春秋の心は完全ではない。

 元から、この世界に来た時点で春秋は心の大半を失っていた。そして、この世界でその残されたかすかな心が砕けた。

 言うなれば、今の春秋の心は全快の十分の一程度だろう。それでも人並みの生活を送り、人並みの感情を得ているのはひとえに紬の功労だろう。

 自覚して、今の自分を見つめなおして、確かに完全ではないと春秋は自覚する。だがこれ以上はおそらく自覚症状はない。

 ならば、このままでいいのではないか。人として、このまま紬の傍に居れば心が壊れる心配もない。

 でも、それは春秋が許さない。欠けた心を取り戻せと、本能が告げている。

 

「それはそろそろ本格的に捜索を始めようと思っているさ」

 

 ピピピ、と誰かの電話が鳴る。電話を取り出しのは七緒。

 電話に出て、首をかしげて、通話を終えて。

 

「四ノ月くん。君にお客さんらしい。外に出てきてほしいと、一人で。クオンと名乗っていたが、君の知り合いかい?」

 

「は? 誰それ」

 

 怪訝な表情のまま、春秋は言われた通り一人シュバルツ・カッツェの外へ。

 

 

 

「っは。本当に出てきやがった。すんげー馬鹿」

 

 そして感じる。

 殺意。

 

「っ」

 

 空気が一瞬で切り替わる。

 目の前の青年が、自らの敵だと、瞬時に理解して。

 何か武器は?

 パーティーで創り出した、形だけのバルディッシュ。そこに魔力を通して、一時的だが武装として。

 

「……っけ。つまらねえ」

 

 銀の髪。

 唇や耳に点在するピアス。

 胸元が肌蹴たスーツ。

 そして、携えられた刀。

 

「お前は」

 

「ディスト。ディスト・神楽坂」

 

 『黒き雷』を身体中から放出させて、春秋を見つめるように、彼は名乗る。

 

「物語の反逆者だ。管理者さんよぉっ!」

 

 ディストが駆け出す/咄嗟にバルディッシュを正面に構えて。

 だがディストはそんな春秋を意に介さず、そのまま跳躍する。高く、高く。シュバルツ・カッツェの屋根へと飛び移る。

 

「教えてやるよ、物語の管理者ァッ!」

 

 春秋を指差して、怒りに染まった表情を、見せて。

 

「てめーは必ず俺たちが殺す。力を取り戻して死ね。記憶を取り戻して死ね。心を取り戻して―――死ね」

 

 宣戦布告だけして、ディスト・神楽坂は闇夜に消える。

 まるで一瞬だけ光る稲光のように。

 

「……俺を、知っている人物か」

 

 残された春秋は、心配で飛び出してきた紬を抱きしめて、大丈夫だと、虚勢で嘘を吐く。

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