暗い夜道。道端に倒れ、意識を失っている男性。
その傍に居る、ソレ。
何かを求め、うめき声をあげて。
その口を大きく開き、鋭利な牙を露出させて。
「ストップだ」
ソレを制止したのは、銀髪の青年、ディスト。
「それ以上やったら、ソイツは死ぬ。そこまで事を大きくするつもりはねえ」
その言葉を理解しているのか、ソレは静かに一歩ずつ後退する。
面倒くさそうに頭を掻きながら、ディストは男性を担ぐ。
「いいか。こいつを殺せばお前は願いを叶えられない。それを理解しろ」
「■■■■■■■」
「通じてんのかよ。っけ」
「大丈夫。通じてるよ、ディスト」
「あー……“フェルド"か?」
振り返ると、闇夜に紛れた少年が顔を出す。
ソレ、の頭に手を乗せて、ひとしきり撫でて。
「心を与えられたこの子はヒトの言葉も理解できるし、自分が本当に欲しい物だってわかっているよ。大丈夫だディスト」
笑顔を崩さぬ少年―――フェルドは、ディストが担いだ男性に目を向ける。
「殺す必要はないけど、助ける必要もないんだよ。ディスト」
「るさい。俺が殺したいのは管理者だけだ。それ以外は利用しても命を奪うつもりはねえ」
「甘いなぁ。助けることで君にメリットはないだろ?」
「放っておいてデメリットもねえぞ」
「………」
「………」
やれやれと、首を振ってフェルドは理解できないと示す。
ディスト・神楽坂は―――目の前の少年が、嫌いだ。
でも、仲間だ。同志だ。目的は同じ。管理者に復讐する同志。
「■■■■■■■」
「おっと、そうだったね。じゃあ計画を立てよう」
ソレ、の機嫌を伺うように、フェルドは笑顔で指を振る。
「
「■■■■?」
「大丈夫だよ。それはボクたちに任してくれれば。そうするだけで君は、その心の主に会える」
「■■■■~~~っ!」
感情が、沸き立つ。
フェルドの笑みに、ディストは嫌悪する。
フェルドの思惑を知っているから。だからこそ、趣味が悪いと。
方法はいくらでもあるはずなのに、フェルドならば、その悪意を気付かれぬまま事を成せるだろうに。
だが、フェルドはそれをしない。
何故か。わかっている。
「ほんとお前って、性格悪いよな」
「いやいや、ボクは物語を盛り上げてるだけだよ。英雄が全てを取り戻す長き旅路が少しでも盛り上がるようにね」
「……っけ」
二人は、物語の反逆者。
管理者を恨み、復讐する者。
フェルドの周囲を、色を得た風が、漆黒の風が二人と、彼と、ソレを纏めて移動させる。
フェルドは嗤う。そして、空を見上げて。
「これが最初の試練だよ、
………
……
…
『椎葉さんが倒れて、今病院に運ばれています。ご家族の方ですよね?』
その一報を受けて、春秋と分かれてから紬は全速力で病院に向かっていた。
容態も、状況も何も伝えてもらえなかったが、それでも自分の父親が危険な状態だということが理解できて。
タクシーに可能な限り速度をだしてもらって、まだかまだかと募る苛立ちを心に押さえ込んで。
危ない、と運転手の叫ぶ声と共に踏まれた急ブレーキに、紬は前の座席にぶつかってしまう。
状況を理解する前に、飛び出した運転手の怒声が響く。
「危ねえぞっ!!」
だが、運転手はその言葉を吐いたっきり、黙り込んでしまう。
死んだわけでは、ない。ただ突然意識を失い、ぶたりと力を失いその場に倒れる。
慌てて車外へ飛び出す。そこには。
「椎葉紬さん。つい最近まで魔女だった少女。そして、管理者に選ばれた少女」
笑顔を崩さぬ少年が。
不快な表情の銀髪の青年が。
黒きケモノが、いた。
そこで、紬の意識はブラックアウトする。