物語の管理者:欠片集めのストラテジー   作:瑠川Abel

20 / 36
6-煌き輝く命の灯火

「……お前も、奪うのか。俺から、紬を」

 

「話を聞いて、春秋」

 

「黙れっ!!!」

 

「ッ」

 

 女性の声は届かない。春秋の全身を隠すようにあふれ出た闇の炎は、全てを飲み込まんと猛り狂う。

 それはもはや炎と言っていいものなのだろうか。それとも、闇、と言うべきか。

 

「駄目よ春秋。まだまにあ―――」

 

「消え失せろ」

 

 炎が巨大な大蛇のように、大きく口を開いて女性を飲み込む。

 やった。邪魔者は消えたと嗤い声が零れる。

 これで。

 これで?

 

「―――甘いわよ」

 

 炎が、裂かれる。天を指すように、振り上げられた手と、その手に連動して、女性の前で刃を春秋に向ける、巨大な剣。

 

「リヴァイアス、モード『ディバイン』。シュートッ!」

 

 まるで指揮者のように、女性の手が踊る。それに合わせて巨大な剣が飛翔する。

 闇の炎を裂き、一直線に春秋へと。春秋が振り払うと同時に炎も春秋を守るように正面で燃え盛り、突進してくる剣を受け止める。

 一撃は弾いた。そして、春秋の背後から二撃目が。

 

「その炎だけは、認めないわよっ!」

 

「く、そがぁっ!」

 

 冷静な思考力を失っている春秋は、見知らぬ女性が繰り出す連撃に炎を以って対応する。

 まるでその炎は自分であるかのように、春秋の思い通りに動く。

 そして、春秋は自分の激情が冷めていく。そのことに、春秋自身は気付いていない。

 舞う。舞う。舞う。

 春秋は炎を背に。そして空へ。

 女性もまた、新たに剣を生み出す。それはまるで一枚の羽のような剣。それを背に。空へ。

 女性の手の動きに、意思に応じて縦横無尽に襲い掛かる二振りの巨大な剣を、春秋は寸でのところでかわし続ける。

 冷静に、冷淡に、隙を探す。世界がゆっくりと、スローモーションのように感じる。

 声は、何も届かない。

 わかることは一つ。

 この炎は、全てを破壊する。

 集約させる。炎を。己の掌に。

 わかる。わかる。わかる。わかってしまう。楽しくなってくる。まるで自分の身体の一部のように、この闇の炎は、春秋の思い通りに、春秋の思考を実行してくれる。

 迫り来る剣を、薄皮一枚が切れるぎりぎりでかわし、その刀身に炎が集った掌を、重ねる。

 

「―――」

 

 轟音と、爆発と、闇の閃光。

 刀身に罅を入れて、剣が女性の元に戻ってくる。

 満天の星空の下で、春秋と女性は向き合う。

 春秋は、自らの大切な者を奪わんとする仇敵として。闇の炎を剣として握り締め、二振りの炎を生み出す。

 女性は、女性は。

 

「……わかったわ春秋。そうよね。元からそのつもりだったのだから、手加減する必要はないわよね。ああ、本当に嫌だわ。こうでもしないと、今の私は貴方を止められない」

 

「ごちゃごちゃと、煩い」

 

「そうね。闇の炎に心を食われている貴方には、私の声は届かないでしょう。だから」

 

 ゆっくりと、女性はさらに空へ昇る。そして女性の胸元の、真紅の宝玉から、桃色の光が、あふれ出す。

 それは女性の衣装を変える。

 漆黒の衣装を、純白の衣装へと。赤き装飾を、青の装飾へ。

 ロングスカートを翻し、下ろしていた髪を二房に分けて。

 その姿を、春秋は、何処かで見た。

 それは、その姿は。

 

「リヴァイアス、今一度、真実を映し出せ」

 

『yesマスター。御心のままに』

 

 真紅の宝玉が応え、剣は消えうせ、機械的なロッドへと展開し、そして槍の形状へと変形していく。

 

「これだけは、使いたくなかったわ。だってこれは」

 

 ―――魔力が、集中する。

 大気に拡散されていた魔力が、女性の下に集う。

 それは、散ったはずの春秋の炎すら。

 それは、消えうせたディストの漆黒の雷すら。

 それは、移動する際にほんの少しだけ洩れた、漆黒の風すら。

 それは、この世界に満ちる、人々の少しの少しの心の欠片すら。

 

 

 

 『収束』

 

 

 

 させる。

 

 

 

「『私』が最も忌み嫌う魔導師の切り札なのだから」

 

 ―――魔力が、集う。

 槍と化した女性の装具から、音を立てて何かが弾き出される。

 それは、薬莢のような。

 

 

 

 冷静に、冷徹に、心を欠いた春秋すら、理解できた。

 これは、不味いと。撃たせては、ならないと。

 闇の炎を再び纏い、一直線に女性の下へ。

 そこで春秋は二つ間違いを犯す。

 止めたいのであれば、先ほど紬を取り返したように『物語の管理者』の力を使うべきだった。

 そして。

 今、春秋がそれを回避する、という行動を取れば。

 その一撃は確実に―――春秋の眼下にいる、紬に、当たる。

 それに気付いた春秋は、咄嗟に炎を防御の炎陣へと転用させる。

 

「集え、星の光よ。砕け、闇の復讐者を。今此処にて、貴方の過ちを『否定』する!!!!」

 

「やぁぁぁめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

「スターライトォ――――」

 

 その単語を、春秋は知っている。

 それは、この世界で買い漁った漫画の中にあった、一つの、巨大な、魔法の名前。

 そして、その単語を、春秋は『覚えている』。

 その人たちを、春秋は知っているはずだった。だからふと、あの作品を手に取ったのかもしれない。

 

「―――ブレイカァァァァァァァァァァァッ!!!!!!」

 

 声が、聞こえた、気がした。

 二つの、声。

 一つは、かすかに届いた、紬の、声。

 春秋を心配するような、声。

 そして。一つの世界を幻視して。

 知っているはずの少女が、膝を抱えて泣いていた。

 

 

 

 『私は、あの世界で生きるはずだった。でも、少し、少しオリジナルと違うからといって拒絶された。私は、私だって、生きているのに……!』




(タグにこっそり追加しました)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。