春秋が倒れた場所から程近い場所に、小さな山小屋が建っていた。
所有者が誰かはわからぬものの、鍵が開いていたこともあってそこは飛鳥たちの秘密基地となっていた。
「また寝てたのか、飛鳥」
「ん、おぉ春秋。来てたのか」
「集合って声かけたのはお前だろ。ほら、もうすぐ遊真もアクターも来るぞ」
花咲遊真と、芥川翔太。小さな二人の、飛鳥の弟のような存在。
幼いなりにしっかりした遊真と、子供らしく無邪気な翔太。その二人が来れば、飛鳥も急に子供のように振舞う。
「ほれ、菓子とジュース。冷やしておけ」
「サンキュー! 春秋がいてくれて助かるぜっ!」
無邪気に破顔する飛鳥を見て、春秋も思わず笑い出す。とにかく飛鳥はよく笑う。
出会ったばかりのころに、どうしてこんな山の中まで遊びに来るのか聞いたことがある。
家の中に居場所がないと、飛鳥はつまらなそうに、少し寂しそうに言った。
それ以上の詮索はせずに、春秋は毎日のように飛鳥たちと遊んでいる。
飛鳥も普段はバイトと学生生活に精を出しており、ここで遊ぶ時以外はほとんど出会わない。
春秋は、此処に集合するとき以外は街を散策している。この世界に来てまだ日が浅いが、紬がいた世界での経験が活きているのかこの世界の心の欠片の手がかりをすでに掴んでいた。
「っと。俺はちょっと出てくるが、二人の面倒頼むぞ?」
「任せろって。俺様がびしっとばしっと華麗に兄貴してやるぜ」
逆に遊真に指摘されそうだな、と突っ込んでおいて春秋は一旦山小屋を後にする。
今日は飛鳥の伝手で用意してもらった仮住まいの大家に頼まれた仕事が幾つかある。春秋ならば一時間とかからない。
それを終えてから、飛鳥たちと再集合すると決めていた。
「……しっかし、どう回収するかなぁ」
春秋が求める心の欠片。それは、不知火飛鳥が持っている。恐らく本人も気付いていない。
だが、家にいても満たされないものがこんな山奥で、小さな子供たちと遊ぶ―――自分が持っていなかったものを求め、欲している。
あくまで予想だが、あの時の獣のような危険なことにはならないだろう。あと数日も遊べば、自然と飛鳥は満たされ欠片が回収できる。
「……あぁ、畜生」
紬に、会いたい。事故のような形でこの世界に来てしまい、ついでに欠片を回収してしまおうと判断したのは自分自身なのに、やけに不安になる。
それほどまでに、紬の存在は、春秋の中で大きい。紬がいれば、いれば。紬の笑顔を思い出せば、すぐに心が満たされる。幸せな気持ちになれる。
もう少しだ、と意気込んで、春秋は山道を降りていく。途中、やけに険しい表情の男性がすれ違ったが、あちらも春秋のことは眼中になかったのか怒り心頭といった表情で大またで山道を登っていった。
「と、仕事仕事」
少し小走りに、街へ。今日は何をして遊ぼうか、春秋のここ数日の楽しみである。
*
「物語の管理者は歩き出す。それは小さな運命の分岐点。もう時は動き出す」
空に浮かび、歩いていく春秋を目で追う白き少女。
短く揃えられ、二つ纏められたお団子で、雪のように白い髪。サファイアブルーの瞳。白き肌はまるで人形のようで。
「彼が、この空間に残っていれば、運命は変わったのかもしれない」
白き少女に並び立ち、春秋を目で追う黒き少女。
黒い、黒い、どこまでも黒い髪をポニーテールに纏めた、エメラルドグリーンの瞳。ゴシックメイド。まるでヒトのような。
「「でも、それはあくまで可能性」」
少女たちは手を繋ぎ、指を絡め、去っていく春秋を見て。
そして、虚空を睨んだ。
「来る。来る。反逆者が、来る」
「時を指定。空間を指定。悟られるな、絶対に」
「さあ行こう。クロエ」
包帯の巻かれた柄。唾もない刀を持ち。
「さあ行こう。ハク」
両の手に握られる、少女の手に似つかわしくない無骨な殺傷兵器。
刀と機関銃を握り締めて、少女たちは虚空を睨み。
漆黒の雷が、少女たちを襲う。