物語の管理者:欠片集めのストラテジー   作:瑠川Abel

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Sortie、水平線の向こうへ
8-着任、たった六人を指揮する提督


『―――結果が出ました。特別艦隊、た、大破6により強制終了……』

 

 大本営にて定期的に行われる合同軍事演習。

 暗き海の底より来たる謎の勢力―――深海棲艦に対抗すべく誕生した『艦娘(かんむす)』を率いる各鎮守府の提督たちが、日々信頼の置ける艦娘たちと共に日頃の成果を見せ付けるための舞台。その場で起きた異常事態(イレギュラー)

 設立されてまだ二年も経たない鎮守府が。艦娘を道具のように扱う提督が率いていた鎮守府が。この演習で一度も勝利したことのない部隊が。

 新任の提督が着任して、他の追随を許さぬ戦果を上げた。

 それは、空母四隻を躊躇い無く投入した機動部隊。

 

『四ノ月春秋提督の部隊“火ノ鳥”の勝利です!』

 

 ほどなくして、揺れんばかりに会場に響く大歓声。

 帰投した四隻の空母と二隻の軽巡洋艦と駆逐艦―――六人は水上を軽やかに滑り、提督―――春秋が待つ司令部の前で整列する。

 一歩前に出て、旗艦である装甲空母・大鳳が敬礼と共に戦果の報告に入る。

 

「作戦終了。艦載機の損害以外、各員損傷ゼロです」

 

「ご苦労。お疲れ様。皆、補給と休憩をとってくれ」

 

 補給という単語に空母の艦娘たちの目の色が変わる。軽巡洋艦・阿武隈と駆逐艦・Z3-マックス・シュルツは再度春秋へ一礼して大鳳たちに続く。

 報告を受けた春秋は肩の荷が下りたのか、大きくため息をついて勢いよく椅子に座る。そんな彼を労わろうと後ろから彼の肩を優しく掴んだのは、他ならぬ彼の最愛の人である椎葉紬だ。

 

「お疲れ様」

 

「あぁー作戦通りに事が運んでよかったよかった」

 

「大鳳さんも皆も、春秋くんの指示通りに動いてくれたからね」

 

「ああいや、瑞鶴と葛城が少し隊列が乱れてた。経験の浅さから来るものだろうけど特に瑞鶴にはしっかりしてもらわないと」

 

 労ってもらいながらも、先ほどの演習の反省点をすぐさま見つけていく。補給を受けている艦娘たちには申し訳ないが、春秋は補給が済み次第集合を呼びかけるつもりだ。

 

「ごめんな紬。忙しくてあんまり相手できなくて」

 

「ううん、大丈夫だよ。こうして傍にいさせてくれるし、それに」

 

「それに?」

 

「……春秋くんの提督姿とか、指揮してる横顔とか、かっこいいし……~~~っ」

 

「ああもう紬は可愛いなぁっ!!!!」

 

 顔を真っ赤にした紬をたまらず抱きしめる。誰に見られようとも構わない。むしろ見せ付けるつもりで紬と抱擁を交わす。

 

「ご苦労様だ四ノ月。さすが私の見込んだ男だけはあるな」

 

 そう言って二人の世界を邪魔したのは、金髪の女性。とても提督とは思えないずさんな姿に、春秋は思わず苦笑する。

 適当に揃えられた金色の髪と、胸元が大きく開かれた軍服。紬すら小さく見えんばかりの溢れんばかりの乳房は周囲の男性が思わず振り返るほど。短めのスカートに咥え煙草と何処から突っ込みを入れればいいかわからないほどの人物。

 それが、この世界で春秋が出会った最初の人間にして、海軍の中でも片手で数えるくらいしかいない『元帥』。

 時貞楓(ときさだかえで)元帥。

 超弩級戦艦大和を旗艦とした、大艦巨砲主義の立役者。

 

「しかし戦艦ではなく空母を同時に四隻も運用するなど、連合艦隊くらいなものだが」

 

「だからこそだ。ここ最近の艦隊は戦艦を主軸に制空権を取れればいい、程度の編成が目立っている。索敵もそうだ。だからこそそれらの攻撃が届く前から制圧することを念頭に編成した」

 

「ふむ。確かに面白い趣向ではある。だが」

 

「深海棲艦相手には意味が無い、とか言いたいのか?」

 

「ああすまん。そこまで言うつもりは無い。だが戦艦たちの主砲に比べれば空母たちはやや火力不足が目立つ」

 

「俺としては戦艦の命中の悪さが不安要素でな……」

 

「当たればいいのだ。当たれば」

 

 この『物語』に、この世界に来た春秋を待ち受けていたのは正体不明の深海棲艦と戦う日本帝国海軍の姿だった。

 少女であり兵器である存在、艦娘を率いる提督と、彼らが着任する幾つもの鎮守府。

 春秋がそこで出会ったのは、『物語の管理者』を知る時貞楓とその秘書艦、大和だった。

 事情を知った楓は春秋に協力的で、つい先日提督が更迭され提督がいない鎮守府を任されることになった。

 楓曰く、春秋にはその才能が有ると。

 

「あのー提督、少しいいですか?」

 

「おう、どうした阿武隈」

 

 補給に行ったはずの阿武隈が、春秋を訪ねてくる。普段の制服をアレンジし、大胆に黒に染まった衣装に身を包んだ彼女は、春秋の提案を受けて臨んだ改修によって、甲標的を搭載できるようになった異例の軽巡洋艦。その存在はこの演習によって大々的に他の鎮守府にアピールされた。

 彼女はちらりと紬と楓を見てから、胸の前で人差し指同士を突きながら、頬を朱に染めつつ春秋を見上げる。

 

「いえあのー……」

 

 少し言い難そうに、もじもじとしながら、意を決したように。

 

「ご、ご褒美ください……っ!」

 

「ああ、そういう約束してたな」

 

「はいっ」

 

 演習前に約束していた、阿武隈との約束。圧倒的勝利が出来たら、春秋の思想によって生まれた今の阿武隈が活躍できたら、褒美が欲しいとの約束。

 

「いいぞ。何が欲しい? 物資でも何でも俺に出来ることだったら何でもいいぞ」

 

「……何でも? 春秋くん?」

 

 後ろの紬がジト目で春秋を見てくるが、春秋は一切気付かない。

 楓は盛大に破顔している。傍から見れば修羅場のような光景に、でもどこか穏やかな光景に笑っている。

 

「じゃ、じゃあ私とデ―――」

 

「提督。阿武隈も此処にいたんですか」

 

「た、たたたたた大鳳さんっ!?」

 

「おう大鳳。補給終わったか」

 

「はい。いつでも出撃できます」

 

 報告書を纏めた大鳳は阿武隈と春秋の間に割って入り、微笑みながら報告書を渡す。

 だがその微笑みに感情が乗ってない事に気付いたのは、春秋以外の女性陣。

 

「それで阿武隈。貴女の報告書『だけ』上がってないんだけれど」

 

「あっ」

 

「それで提督に構ってもらおうとしてるんですか? 最低限のことも出来ずに?」

 

「い、今すぐ書いてきまーす!!!!!」

 

 腰に手を当てて、やれやれといった表情で大鳳は去っていった阿武隈を見送る。

 秘書艦として、そして春秋が決めた機動部隊の旗艦として、冷静に、そして愚直とも言えるほど真面目に。

 

「それで提督」

 

「お、おう」

 

「私が、MVP取ったんですよ?」

 

「おう、そうだな。流石大鳳だ」

 

「で、ですからね」

 

「……お、そうか」

 

 少し俯いた大鳳の頭を、春秋は優しく撫でる。出撃を終えて補給を済ませたばかりだというのに、まるで今整えたと思わんばかりに、手触りが良い。

 

「むぅ、春秋くんは皆に優しすぎるよ」

 

 後ろで紬が、少しだけつまらなそうにしていた。

 この後めちゃくちゃ愛でた。

 

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