ヲ。
ヲ。ヲ。ヲ。ヲ。ヲ。
其処は、底。
暗き海の底。
―――我らは、来たる。
深き暗い世界から。
深き、深き、水底から。
―――何を求め、何を欲し、何のために生まれたか。
名乗る名は無く。
語る言葉を持たず。
その意思すら希薄。
唯、深淵より来たる。
故に、“深海棲艦”
「なんで俺はこんな薄気味悪くてじめじめした場所にいなきゃならねえんだよ、フェルド」
「まあまあそう言わずに。此処こそが春秋が求める欠片の場所にして、彼女たち艦娘と戦う深海棲艦―――僕たちの協力者の拠点なのだから」
そこは、深海だというのに空気が存在する、深海棲艦たちが暮らす世界。
空を見上げれば、微かに見える太陽の光。
周囲を見れば、珊瑚や海草などの海生生物。
ヲ。
「ええ。基本は貴方たちに任せますよ。戦いの時も何もかも」
ヲ?
「はい。でも『龍』が覚醒したその時はボクたちに協力してもらいます」
ヲ。
「理解が早くて助かります」
杖を持ち、頭に異形を乗せた深海棲艦―――『空母』ヲ級がフェルドと言葉を交わす。
だがその会話の中身は両者にしかわからず、ディストはフェルドの言葉で推測しか出来ない。
微かに青いオーラを纏ったヲ級は、少しだけ嗤う。
そして、自らの背に存在する、巨大な、巨大な『何か』を見上げて。
ヲ。
話を終えたヲ級は去っていく。人型ですらない深海棲艦が客人二人をもてなそうとしてるのか、コップのようなものに液体を注いで持ってくる。
簡単に、深海棲艦たちを人払いする。するとディストは感心したように。
「よく話が出来るな、お前」
「いえいえ。この程度ボクの力なら大丈夫ですよ。何しろ言語など関係ないのですから」
「……それが、お前の『管理者』としての力か」
「ええ。実に使い勝手の悪い、『物語の管理者』の一端です。ディスト、貴方のような力のほうが好みだった」
「っけ。嘘を吐くのが下手糞だなぁ。俺のカミナリなんて心底使いたくないって顔して」
「……あらら、しっかり笑顔だったはずですが」
「笑顔だよ。ああ良い笑顔だよ。人を見下す感情の篭ってない笑顔だよ」
ディストは、退屈そうに空を見上げる。
日の光のほとんど届かない水底で、何を思うのか。
「こんな世界、クソだな」
呟いた言葉を、フェルドは繋げる。
「ええ。ボクたちのいた世界にソックリです」
それは、深海棲艦たちへの同情か、それとも。
「でも、此処は外に干渉できる」
「ええ。非常に羨ましい世界です」
だから、と二人は言葉を続ける。
『こいつらでは、春秋を苦しめることすら出来ない』
彼らは春秋を憎む。
「んでよぉ、『覚醒』まで何もしなくていいのか?」
「ええ。まだボクたちが戦う時ではありません。以前の世界で貴方を妨げた二人も気になりますし」
「……っけ。あいつら気に食わん。次あったときは絶対殺す」
「まあいいじゃないですか。この世界でボクたちと同じ
「っけ。あんな奴がいなくても、俺一人で―――」
「貴方が一人でやるとなると、この世界で殺してしまう可能性があるでしょう? 駄目ですよ。苦しめて、苦しめて、苦しめて。力を取り戻そうが、届かないと。何も守れないと、心の底から絶望させて、そして殺すんです。殺すんだよ、殺すんだよッ!!!!」
表情が、一変する。怒りが、憎しみが込められた表情へ。
その怒りの矛先は、全て春秋に。
「……フェルド、落ち着けよ。崩れてるぞ」
「……ああいや、申し訳ないですね。つい」
「……ッハハ。お前の笑顔が崩れるのを見るのは楽しい」
「最悪ですね……。最悪」
物語の反逆者たちは、暗い水底から復讐を誓う。
「物語に反逆を」
「管理者に復讐を」
「だからこそ、僕たちは此処にいる」
「だからこそ、俺たちは此処にいる」
反逆を。復讐を。物語に興味はない。世界に興味なんてない。
ただ、ただ、ただ。
「