物語の管理者:欠片集めのストラテジー   作:瑠川Abel

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9-1 鶴と鳳

 艦載機が水面に着弾し、爆音と共に水柱が何本も上がる。

 水飛沫は勢いを失い雨のように降る。多少視界を奪われるが、対峙する二人にとってその程度なんら障害にはならない。

 大鳳と、翔鶴型一番艦・翔鶴。二人による戦闘を模した訓練。

 お互いが空母という艦首だからこそ、やらねばならぬ訓練。

 今のところ、優勢なのは大鳳の方だ。装甲空母として用意された、艦載機発進用のボウガン型の射出機は数を利に翔鶴を攻める。

 だが翔鶴も負けていない。正規空母共通の弓術式射出機の利点である正確さと飛距離を以って戦局を抑えている。

 搭載している艦載機の種類は、両者共に共通。違いが出るとすれば、搭載数と、お互いの射出機、そして練度。

 

「流星、一斉掃射!」

 

「艦載機、全機発艦っ! 迎撃をっ!」

 

 互いの矢が艦載機へと顕現し、正確に激突し合い爆発する。

 その間に大鳳は翔鶴へ肉薄する。弓術式では決して入られてしまってはならない距離。

 至近距離に潜られてこそ、春秋によって鍛えられているこの鎮守府の艦娘の真価が問われる。

 咄嗟に振り上げた足は大鳳の顎を正確に捉え、だが大鳳もそれを見切り僅かに身体をそらすことで回避する。

 大鳳の身体が一瞬だが硬直する。だがその手に握られたボウガンの銃口は翔鶴へ向けられており。

 翔鶴も気付いていた。この艦隊の旗艦である大鳳が、その手を読んでいない訳がない。

 一手先を、二手先を読み合って、三手先を。

 放たれた艦載機を、翔鶴は『素手』で掴んで―――そのまま、大鳳へ、投げつける。

 

「っ!」

 

 勢いを失っていない流星は、大鳳へ一気に接近し―――、大鳳は水上を滑る。身を屈め、その体躯の僅か上を流星が飛び去っていく。後退の勢いは水面を抉り少しずつ弱まっていく。

 次いで、距離をとったことにより翔鶴から繰り出される連撃を、冷静に数を見て判断する。

 お互いに、残された火力を持った艦載機の数は少ない。だから、どれかは偽り。

 瞬時にそれを見抜き、大鳳はベルトから艦載機ではない、普通の、平凡の鋼鉄の鏃を指の間に四本、両の手で八本の鏃を投擲する。

 爆発と閃光と、そして聞こえてくる終了の合図。

 煙が晴れると、無傷の翔鶴が微笑んでいる。一矢報いた、といった表情だ。

 

「四十八敗一引き分けですね、大鳳」

 

「そうですね。思った以上に対応されました」

 

「ふふ。きちんと提督に教えてもらっていただいてますから」

 

「それで仕事をしてくれれば文句はないんですけどね」

 

 ため息を吐く大鳳と、そんな彼女に含みを持って微笑む翔鶴。

 それに気付いたのか、彼女をジト目で睨む。それにも微笑みで返す。

 

「なんですか、その表情は」

 

「ふふふ。何でもありませんよ。ただ」

 

「……ただ、何ですか?」

 

「あまり提督に厳しくしすぎると嫌われちゃいますよー、と」

 

「大丈夫ですよ。あの提督に限って」

 

「あら、ふふ」

 

「翔鶴もわかっているでしょう。あの提督が、私のこんな態度で接する態度を変えるわけがないってことくらい」

 

「ええ。そうね。私たち艦娘を『兵器』ではなく『人間』として扱ってくれるあの方だからこそ」

 

 何処か、遠くを見る。それは、僅か二週間と少し前の彼女たちと春秋の出会い。

 それは、少しおかしな提督が着任したあの日。

 

 ………

 ……

 …

 

『お前たちの今までの提督は更迭された。これからしばらくは俺が―――四ノ月春秋がお前たちの提督を勤めさせてもらう』

 

『春秋君のつ、妻です。椎葉紬です』

 

 いきなり集められて、見知らぬ少年と少女にそう言われた。兵器として扱われ、心を閉ざすことでそれを受け入れていた彼女たちは、突然の出来事にも、心を閉ざしていた。

 どうせ、変わらないと。目の前の少年も、自分たちを兵器として扱うだろう。それでもいい。自分たちは深海棲艦と戦うために生まれた存在。

 だから心なんていらない。そう考えていた。

 

『そうだな。交流の前に』

 

 少年は、一歩を踏み出す。並んだ艦娘たちの前に。

 

『お前たちは、俺にどう扱われたい?』

 

 その言葉に、一瞬だが思考が止まる。

 

『人か、兵器か』

 

 その言葉に、心が締め付けられる。

 少年は―――春秋は真剣な表情で、艦娘一人一人の顔を見る。

 そして、詰め寄る。顔を覗き込み、怒気を少しだけ含んだ声。

 

『お前たちは人であり兵器だ。そしてその力を持つことを許された存在だ。だから、お前たちは誰かに自分の全てを託すことは許されない。自らの力に責任を持て』

 

 それは、今まで誰も言わなかった。でも、当たり前のこと。

 

『お前たちが兵器だと言うのであれば、人である生活も必要ない。人を模す必要がない。その力の責任から逃げたいのならば、それでいい』

 

『だが、お前たちが今でも人として生きたいと望むのであれば、お前たちの命は俺が預かる。お前たちの誇りは俺が守る。お前たちの尊厳は、矜持はお前たちが守れ』

 

 最初に一歩を踏み出したのは、阿武隈と大鳳だった。

 閉ざされていた心を少しだけ開いて、まるで叫ぶように。

 

「アタシたちは、艦娘です。ヒトです。兵器じゃ、ないですっ!」

 

「この目で見て、感じて、生きている存在です。戦うことに誇りを持っています」

 

「わ、私だって! 負けたくない人がいる!」

 

「……Ja(ヤー)。私たちは、『人であり』兵器です。そうですね。私たちも、甘えていたのかも知れません」

 

「そうです。こんな私、姉さまたちに見せられないっ」

 

「……『提督』。私たち艦娘一同は、貴方を提督として、歓迎します。だから」

 

『ああ、任せろ』

 

 そう言って、彼は子供のように笑った―――。

 

 

 

   *

 

 

 

「ほんと、子供みたい」

 

「でも、奥様を大事にしてるし、私たちにもあれからしっかり人として接してくれます」

 

「そうね。……そうね」

 

 少しだけ悲しそうに、大鳳は呟いて。

 そんな彼女を見て、楽しそうに笑って。

 

「大鳳、貴方は最高練度でしたよね?」

 

「ええまあ。いつも旗艦を任されたおかげで」

 

「だったら、いっそのこと貴方から『ケッコン』でも迫ってみたら?」

 

「っ?!!?!? な、ななななな何を言い出すんですか!?」

 

「顔が真っ赤よ、大鳳?」

 

「~~~~っ! し、知りませんっ! だいいち『ケッコンカッコカリ』システムは提督は知らないですし、私は提督のことなんてなんとも思ってませんし!」

 

「そうかしら?」

 

「そうです!」

 

「でもふとした時に提督に撫でられてる貴女の表情、すっごく蕩けてるけど―――」

 

「なぁっ! み、見てたんですかっ!?」

 

「いえ、見てませんけど」

 

「あっ」

 

「ふふっ」

 

「も、もう翔鶴なんて知りませんっ。補給に行きます!」

 

 顔を真っ赤にしながら先行する大鳳と、そんな彼女を微笑ましく見つめる翔鶴。

 

「……まあ、あれだけ優しくされたら好きになってもおかしくないですよね。もう、奥様が羨ましいですよ」

 

「……ええ。ほんとに」

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