物語の管理者:欠片集めのストラテジー   作:瑠川Abel

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 大切な愛する少女の想いが、膨れ上がる。

 命の炎は、換える力。増幅して、換える力。今までは生命エネルギーを攻撃のための力にして、その力を生命エネルギーに換えていた。

 先ほど春秋の傷が癒えたのも、その副産物だ。致命傷といえど、今の春秋はそうそう死なない。

 命ではなく、想いを力に。そして膨れ上がった力を再び想いに換えて、無限のサイクルを完成させる。

 想い重ねて、力へと。想い重ねて、命へと。

 それこそが、命の炎の第二ステージ。命の炎の所有者に心を捧げる人がいてこそ完成する、爆発的な友愛の印

 想いが力を呼び起こし、そしてそれは形を得る。

 桃色のマントと、春秋の身長ほどある鋼鉄のハンマー。その形状には覚えがある。

 紬が使っていた、武器だ。心の欠片を打ち出すために用いていた、装具だ。マントもそう、出来る限り春秋が身に纏っても違和感が薄いくらいの、装備。

 炎によって創られた。想いが形となった証。

 

「……行ける」

 

「あの、提督。私は―――」

 

「ああ、足の艤装が壊れてるんだろう? 大丈夫だ。お前に降りかかる火の粉は全部俺が払うから、だから、行くぞ」

 

「っ……はいっ!」

 

 マントを翻し、身体の一部であるかのようにハンマーを軽やかに振り回し、春秋は大鳳を抱き寄せて一気に水上を滑る。

 並大抵の艦娘ですら出せない速度を平然と出し、今まさに翔鶴たちが奮戦してくれている戦場へと。

 

「……提督っ!」

 

「大鳳さんっ!」

 

「お待ちしてました!」

 

「提督、いつでも雷撃準備できてますよ!!」

 

「こちらも援護、いつでもできるわ」

 

「応とも、待たせたらお前ら。さっさとこいつぶっ倒して美味いもんでも食いに行くぞっ!」

 

 掛け声と共に大鳳を翔鶴に任せ、春秋は跳躍してヲ級へ肉薄する。

 

性懲りもなく来たか(ヲ ヲ ヲ ヲ ヲ ヲ )!』

 

「生憎だな―――気力十分愛十二分ッ! お前に負ける気がしねえっ!」

 

 同時に放たれた六つの艦載機を、ハンマーで一薙ぎしその風圧だけで全てを無力化する。

 次いで放たれる、先ほど春秋の腹を抉った閃光。だが春秋はそれをハンマーで受け止める。

 

バカか()? できるわけないだろう(ヲ ヲ ヲ ヲ ヲ ヲ ヲ ヲ )!』

 

「阿呆かお前は。俺と紬の絆を舐めるなッ!!!!!」

 

な……にぃっ(ヲ ヲ ヲ)!?』

 

 想いで創られたそのハンマーは、破壊の意思しか含まぬ光線如きに遅れを取らない。

 光線を、破砕する。

 自身のソレに絶対の自信を持っていたヲ級が、揺らぐ。その一瞬の隙を突いて、春秋はヲ級の胸元へ潜り込み、思いっきり、全力で、ハンマーを横薙ぎに振りぬく。

 ヲ級の身体がくの字に曲がり、体勢を崩す。金色の炎が春秋の左手に集い、ヲ級頭部の異形の口へと突っ込まれる。

 炎が口内で爆発する。噴煙を上げる頭部、よろけ、ふらつき、吐血するヲ級。

 

き……さまぁっ(ヲ ヲ ヲ ヲ)!』

 

「艦載機、全機発艦せよ―――目標、敵空母ヲ級!!」

 

『ッ!!』

 

「任せて!」

 

「お待ちしてました!」

 

「追撃かぁ……深追いは禁物なんだけど今は。よし、いっけーッ!」

 

「……いい風ね。烈風、流星、今こそっ!!」

 

 春秋が手を振り下ろすと同時に、横一列で並んだ自慢の空母たちが一斉に艦載機を発艦させる。

 発艦部が破壊されたヲ級ではもう、防ぐ手立てが無い。一斉の爆撃による水柱と噴煙。

 

な、めるなぁぁぁぁぁぁぁ(ヲ ヲ ヲ ヲ ヲ)!!!!』

 

 噴煙の中から、春秋目掛けて飛び出してくるヲ級。その手に握られた先端が鋭く尖った杖が、春秋を狙う。

 だが春秋はそれすら見越していたのか、すでにハンマーを振りかぶっており、ヲ級はただただ無作為に突撃してしまう形となってしまった。

 

「終わり、だ―――!?」

 

「提督に、近づかないでぇっ!」

 

『ッ!?』

 

 完全にヲ級を捉え、振り下ろそうとした瞬間、横から飛んできた阿武隈の魚雷がヲ級の足元で爆発を起こす。

 咄嗟に気付けた春秋は数歩下がることで爆発から逃れることは出来たが、その手でヲ級を葬ることは叶わなかった。

 

が、アア……あ、ガ……(ヲ ヲ ヲ ヲ)

 

 左足が完全に失われている。立っているのもやっとの状態で、ヲ級は憎しみの篭った瞳で春秋を見つめている。

 此処で墜とす。春秋は判断した。眼前の敵は後々厄介な障害になる。そう、春秋の本能が告げている。

 阿武隈の咄嗟の援護は春秋を思ってのことだ。咎めることは出来ない。だが。

 

「マックス、阿武隈、一気に決めるぞ」

 

ja(ヤー)!」

 

「わ、わかりましたぁっ!」

 

「―――させると思ってるんですか?」

 

「っ! 緊急回避!!!」

 

 困惑する阿武隈とマックスを強引に下がらせ、『ソレ』は巨大な口を開きヲ級を飲み込みながら海中から飛び出してくる。

 それは、まるで巨大な蛇。ヒトを簡単に飲み込んでしまいそうなほど巨大な頭部を持った、龍のような蛇。その頭部に立ちながら、春秋を見下ろすように睨む存在。

 フェルド・久遠。

 

「……やっぱり、お前らがいるんだな」

 

「そりゃいますよ。貴方を苦しめるために」

 

「悪趣味なことで」

 

「今回は勇み足なヲ級の回収と『これ』のご挨拶がてらに―――」

 

 ちらり、と春秋の後ろに連なる艦娘たちに視線を向ける。大鳳、翔鶴、瑞鶴、葛城、マックス、そして阿武隈。

 龍のような異形の口が、大きく開く。そこにはもうヲ級の姿は無い。その中に収束する光。一目見てわかる。あれはヲ級が放ったソレより圧倒的にやばいものだと。

 間に合うか、どうか。

 

「貴方の自慢の艦隊が無残に散る姿を見せてもらおうかなと!!!」

 

 破壊の光が、放たれる。

 

「やら、せるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 命の炎を、出来る限り放出して。槌部分を中心に部下たちを守るバリアフィールドを形成し、受け止める。

 とはいえその威力は絶大。かろうじて受け止めることは出来るものの、炎によるバリアフィールドと破壊の光の競り合いになる。

 

(コア)が無い状態ですが、出力はとりあえず安定。……ふむ。ですがあの守りを突破することは難しそうですね」

 

 ピタリ、と光線が止まる。唸り声をあげる龍とにらみ合う春秋とフェルド。

 光線を弾ききると同時にマントとハンマーが光の粒子となって弾き飛び、胸元の小瓶へ収束される。

 春秋の方も疲れが出始めてるのか、乱れた呼吸を悟られまいと必死に取り繕う。

 そんな春秋を庇うように、翔鶴と瑞鶴が前に出て、大鳳が春秋の傍らに寄り添う。

 

「……ふむ。この場は引いておいて差し上げます。その命と力、次の決戦までに備えておくのですね」

 

 顎に手を当てて、一考。龍は少しずつその体躯を海中に沈めていく。

 逃すわけにはいかないと、春秋が詰め寄ろうと身体を動かすも限界を超えていた身体はその意思に応えてくれない。

 気遣うように、大鳳が春秋の身体を支える。龍が、フェルドが去り、海上を波の音だけが支配する。

 誰かが呟いた、帰ろうと。後味悪い終わり方だが、全員無事であることに変わりはないのだから。

 

「……あー、早く紬で癒されたい」

 

「ちょ、提督さん私たちの安否が先じゃないんですかっ!?」

 

「……はっはっは。皆無事でよかったよかった」

 

「今すっごい誤魔化そうとしてますよね」

 

「独断専行したのは提督さんなのにね」

 

「そうね。……とても、心配しました」

 

「そうですよっ。無事だったからいいもののっ!」

 

「……提督」

 

 誰もが春秋を見つめてくる。心から、心配したと言う気持ちが伝わってくる。見上げてくる大鳳の頭を撫で、小さく謝る。

 

「そうだな。勝手が過ぎたな。でも、全員無事だった」

 

 優しい微笑みに、緊張した空気はたちどころに弛緩する。呆れた表情をする瑞鶴に、苦笑いをする葛城。優しく見守る翔鶴と、安心した表情を見せるマックス。

 大鳳を見て羨ましそうにしてる阿武隈の頭を撫でてやると、途端に花が咲いたような笑顔を見せる。するとマックスも春秋の腕にしがみついてくる。

 航行機能に不備を生じた大鳳を案じて、彼女の身体を春秋が抱きかかえる。阿武隈の驚愕の悲鳴と顔を真っ赤にして暴れだす大鳳。そして誰からか笑いだす。

 痛みは無く、ただただ不意に春秋の頭を過ぎる映像。それは恐らく過去の映像。きっと昔も、こうやって、誰かたちと笑いながら過ごしてきた。

 部下の命を預かる自分と、そんな自分を信頼してくれる人たち。その人たちにいつかまた出会えると信じて、春秋たちは岐路に着く。

 

「さて、明日からまた通常営業だな。演習に出撃、頼むぞ。俺の自慢の家族たち」

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