物語の管理者:欠片集めのストラテジー   作:瑠川Abel

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「で、でででででデートなんて無理だよっ!」

 

 すぐさま飛んできた紬の拒絶に、心が痛む。

 少しは近づいたと思ったのだが、そこまで拒絶されるほどだったか、と嘆息する。

 だが紬はさらに慌てて春秋に向き直り、必死に頭を下げる。

 

「ち、違うのっ。四ノ月くんとデートしたくないとか、そういうのじゃなくてっ! できればしたいけどっ! ああもう違くてっ!」

 

「お、落ち着いてください椎葉さん。四ノ月くんも困ってますよ」

 

「あ、あうあうあう……」

 

 顔を真っ赤にして、今にも煙を噴出しそうな紬に思わず笑みが零れる。

 

「あ、あのね。四ノ月くんにはまだ話してなかったよね」

 

 そして紬の口から語られた事実に、春秋は少し面食らった。

 紬たち魔女は、アルプと呼ばれる人外の存在と契約して魔女になる。

 願いを携えて、その願いを叶えるために人々の心の欠片を集め、それはやがて魔力という純粋なエネルギーとなり、アルプたちの願いを叶える力となる。

 魔女たちの願いは、アルプたちの願いを叶える経緯で発生する、副産物のようなものだ。アルプと呼ばれる者たちは、人間になるために人の心を理解しようとしているらしい。

 だから、魔女たちに心の欠片を集めてもらっている。魔女たちは、願いを叶えるために、アルプたちは、人を理解するために。両者の利害が一致しての契約らしい。

 それを聞いて、紬のアルプが誰なのかが気になったが、それは大事ではないと判断し、紬の言葉を待つ。

 魔女の契約には、代償が求められる。

 それは、心の欠片を集めてくることだけではなく、魔女自身の感情の一部をアルプへ渡さなければならない。

 もっと細かく言えば、それぞれの魔女の一部の感情が高まったとき、それは心の欠片とは別の純粋なエネルギーとしてアルプへ伝わるらしい。

 それが、代償。そして、その感情が高められるために、魔女にはさまざまな制約が課せられる。

 

「私の代償はね、『女の子としての人生』なの」

 

「……は? 椎葉はしっかりと女の子だろ。ちょっと男子の制服着るのが趣味なだけで」

 

 そう、一切触れてこなかったが、紬は普段から『女の子』というより中性的な服装をしていた。

 春秋としては人の趣味にとやかくいうつもりはなかったので放置していたが、まさかそれが魔女の契約だとは思いもしなかった。

 

「私だって、普通に可愛い服やアクセサリーは大好きだよ。でもね、たとえば普通の女の子の格好をしちゃうと、途端に私の身体はそれを拒絶するようになってるの」

 

「……」

 

「だから制服は男子のだし、普段着もパーカーとか、色合いも可愛いのよりかは普通のだったり男の子の好みを中心にしたりしてるの」

 

「……ちなみにそれは、女の子のような行動をしても、か?」

 

「……うん」

 

「だったらあれは―――」

 

 あれとは、間違いなく昨日の、倒れた春秋を介抱するために、膝枕をしてゆったりとした時間を過ごしたことだ。

 自分を助けるために、もし自分を苦しめているというのなら、それこそ春秋は自分を許せない。これ以上の迷惑はかけたくない。

 

「あ、あの時は……す、少し」

 

「……ごめん。辛い思いさせた」

 

「い、いいのっ。それよりも四ノ月くんのほうが危なかったんだからっ」

 

「でも」

 

「そ、それに私の代償はポイント制みたいな傾向があってね。例えば男の子の格好をしておけば多少は女の子みたいな行動しても大丈夫なんだよ」

 

 紬の言葉をどこまで信じればいいのか。きっと彼女は、小さなところでばれても問題ないくらいの小さい嘘を混ぜたりする。

 でも春秋はそれを信じるしかない。だって、紬が信じてもらいたがっているのだから。

 話が落ち着いたと思ったのか、紬は居住まいを正して。

 

「だから、デートなんて『これぞ女の子』って行動は、できないの。ごめんなさい」

 

 本当に、心の底から申し訳なさそうな表情をする。

 そうか、としか返せない。それ以上に、何を言えば良いのだろうか。

 なら、と思いついたように提案する。

 

「全部が無理でも、そのプランの幾つかで俺に付き合ってくれ。『友達と遊びに行く』って意味で」

 

「え……」

 

「椎葉にはずっと世話になってるし、少しでも楽しんでもらいたいんだ。それじゃあ、駄目か?」

 

「そうですね。私としても少しだけでも試してもらえると、先方に上手く誤魔化せると思います」

 

 春秋は紬の代償を、紬の意識の問題だと判断した。

 つまり、デートではなく友達と遊びに行く。異性と買い物に行くのがデートだという認識を、誤魔化す。

 もちろん遊んでいる最中に紬の体調が崩れたら即刻中止にしたっていい。でも春秋は、紬を少しでも労いたい、楽しませたいと考えていた。

 だから、と強く念押しする。

 

「椎葉、俺と明日、遊びに行こう」

 

「……はい」

 

 春秋の強い提案を、紬は微笑んで受け入れた―――。

 

 

 

 

 

「そういえば不機嫌だったのはどうしたんだ?」

 

「……もてもてだよね、春秋くんって」

 

「あー……椎葉、もしかしてヤキモチ?」

 

「なっ!? ななななななな何言ってるのっ!?」

 

「あはは。大丈夫。誰とも付き合ったりするつもりなんてないよ。俺には椎葉がいるし、俺みたいな奴すぐに飽きられるさ」

 

「……うー」

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